CLEAR!ジャーナル四天王|page:55

抗凝固薬の中和薬:マッチポンプと言われないためには…(解説:後藤 信哉 氏)-715

手術などの侵襲的介入時におけるヘパリンの抗凝固効果はプロタミンにより中和可能であり、経口抗凝固薬は外来通院中の症例が使用しているので、ワルファリンの抗凝固効果は新鮮凍結血漿により即座に、ビタミンKの追加により緩除に中和できることを知っていても、中和薬の必要性を強く感じる場合は少なかった。止血と血栓は裏腹の関係にあるので、急性期の血栓、止血の両者を管理する必要のある症例の多くは入院症例であり、その多くは調節可能な経静脈的抗凝固療法を受けていた。

日本人の健康寿命を延伸し健康格差を是正していくために期待されること(有馬久富氏)-714

Global Burden of Disease Study 2015の一環として、1990年から2015年における日本の健康指標の変化を都道府県別に検討した成績がLancet誌に掲載された。過去25年間における健康指標の変化および地域間の健康格差を包括的に検討した貴重な成績であり、今後の健康施策に生かされるものと期待される。

臨床試験は結果を共有するだけでなく、生データについても共有する時代になった(解説:折笠 秀樹 氏)-716

臨床試験の結果や生データの共有化あるいは透明性について、製薬企業の方針(Policy)に関する調査結果である。研究デザインはStructured auditとあったので、企業へ聞き取り調査でもしたかと思ったが、そうではなかった。グーグル検索により企業方針を調査した研究である。

遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-712

インフルエンザの流行の抑制を期待されているワクチンの1つが、遺伝子組み換えワクチンである。遺伝子組み換え法は、ベクターを用いてウイルスの遺伝子を特殊な細胞に挿入し、ウイルスの抗原性に関わる蛋白を細胞に作らせ精製する方法である。この方法では、卵の蛋白成分、ホルムアルデヒド、抗菌薬、防腐剤を含まないワクチンを製造することができる。また、鶏卵培養法では6ヵ月間かかる製造期間が、6~8週間に短縮できることが大きな利点となる。

グラルギンU100使用中の1型糖尿病患者は低血糖を回避するためにデグルデクにSWITCHすべきか?(解説:住谷 哲 氏)-711

DCCTおよびその後の延長試験であるEDICにおいて、厳格な血糖管理が1型糖尿病患者の細小血管障害および長期的には動脈硬化性心血管病(ASCVD)さらには総死亡を減少させることが明らかにされた。つまり1型糖尿病患者においては可能な限り正常血糖を目指す厳格なコントロールが望ましいといえる。しかし厳格な血糖管理は低血糖とのtrade-offであり、現実には可能な限り低血糖(とくに第三者の介助を必要とする重症低血糖 severe hypoglycemia)を生ずることなく血糖をコントロールすることが目標となる。将来的にclosed-loop insulin delivery systemまたは膵β細胞の再生が現実となればこの問題は解決するであろうが、当面は基礎インスリン(basal insulin)と食事インスリン(bolus insulin)からなるbasal-bolus therapy(BBT)を用いて、インスリン量を患者に応じて調節していくことになる。

BRCA1/2変異保有者における乳がん、卵巣がんおよび対側乳がん発症リスクに関する大規模研究(解説:矢形 寛 氏)-710

本研究は欧米の3つのコンソーシアムに登録されているBRCA1/2変異保有者における前向き観察研究であり、遺伝カウンセリングを行ううえで非常に参考になるものである。今まではメタ分析あるいは英国の前向き研究の結果を用いていたが、今後はより規模が大きく精度の高い本研究の結果を活用したい。

血中カルシウム濃度に関連する遺伝子多型が冠動脈疾患・心筋梗塞発症に関与するか(解説:今井 靖 氏)-708

カルシウム濃度あるいはカルシウム経口補充に伴うカルシウム血中濃度上昇が、冠動脈疾患・心筋梗塞に関連するとするいくつかの疫学研究がある。しかし、ヒトの長い生涯におけるカルシウム濃度上昇が、冠動脈イベント発症に関連するか否かについては明らかではない。

ペルツズマブはHER2陽性乳がんの再発を有意に減少させる(解説:下村 昭彦 氏)-706

HER2陽性乳がんに対する術後薬物療法としてのトラスツズマブの有用性については広く知られており、実臨床で必須の標準治療となっている。また、ペルツズマブの上乗せはHER2陽性転移再発乳がんの1次治療として、ドセタキセル+トラスツズマブに対して有意に予後を改善させることが広く知られている。

溶けて消えるステントを消しても良いのか?消さないためになすべきこと(中川義久 氏)-707

エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド(BVS)の現状を、5年前に予見できた者はいたであろうか? 希望に満ちあふれた新規デバイスとして、みんなの注目を集めて輝いていたね、スキャフォールドくん。学会会場でBVS関連の発表は聴衆であふれていたね、けれども今は……。

新たなエビデンスを生み続けるMAMS(解説:榎本 裕 氏)-704

STAMPEDE試験といえば、2016年のLancet誌に出た報告が記憶に新しい。未治療の進行前立腺がんに対し、標準的なADTにドセタキセル(DTX)化学療法を6コース追加することで全生存率の有意な改善を示したものである。前年に同様の結果を報告したCHAARTED試験とともに、未治療進行前立腺がんの治療を変容しつつある(本邦では保険適応の問題から、普及にはまだ遠いが)。

急性脳卒中後の頭位、仰臥位 vs.頭部挙上のアウトカムを検討(中川原 譲二 氏)-703

急性脳卒中後の頭位について、仰臥位は脳血流の改善に寄与するが、一方で誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、臨床現場ではさまざまな頭位がとられている。オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らは、急性虚血性脳卒中患者のアウトカムが、脳灌流を増加させる仰臥位(背部は水平で顔は上向き)にすることで改善するかどうかを検討したHead Positioning in Acute Stroke Trial(HeadPoST研究)の結果をNEJM誌2017年6月22日号で報告した。

転移性前立腺がんの初期治療の行方は?(解説:榎本 裕 氏)-702

1941年のHuggins and Hodgesの報告以来、転移性前立腺がん治療の中心はアンドロゲン除去療法(ADT)であった。近年、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する治療薬が次々に登場し、治療戦略が大きく変容しているが、転移性前立腺がんの初期治療に関しては70年以上にわたってほとんど進歩がなかった。第1世代の抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミドなど)を併用するMAB(maximum androgen blockade)療法が広く行われているが、OSに対するベネフィットを示す報告は少ない。

心不全の鉄補充治療において、経口剤ではフェリチンが上昇せず運動耐容能も改善しない(解説:原田 和昌 氏)-701

心不全はしばしば心臓外の臓器に合併症(併存症)を持つ。欧州心不全学会の急性、慢性心不全の診断と治療ガイドライン2012年版には、「ほとんどの併存症は心不全の状態が不良であることや予後不良因子と関係する。したがって貧血など一部の併存症はそれ自体が治療対象となる」と記載された。

敗血症に対する初期治療戦略完了までの時間と院内死亡率の関係(解説:小金丸 博 氏)-700

敗血症は迅速な診断、治療が求められる緊急度の高い感染症である。2013年に米国のニューヨーク州保健局は、敗血症の初期治療戦略として“3時間バンドル”プロトコールの実施を病院に義務付けた。“3時間バンドル”には、(1)1時間以内に広域抗菌薬を投与すること、(2)抗菌薬投与前に血液培養を採取すること、(3)3時間以内に血清乳酸値を測定すること、が含まれる。さらに収縮期血圧が90mmHg未満に低下していたり血清乳酸値が高値の場合は、“6時間バンドル”として急速輸液(30mL/kg)や昇圧剤の投与、血清乳酸値の再測定を求めている。これらの初期治療戦略が敗血症の予後を改善するかは、まだ議論のあるところだった。

アルツハイマー型認知症のセントラルドグマ(解説:岡村 毅 氏)-699

アミロイドが蓄積した無症候高齢者では、将来の認知機能低下が起きやすいことが報告された。将来MMSE得点は低下し、CDRのSum of Boxesは上昇し、ロジカルメモリも低下し、MCIへの進展も多く、FDG-PETでの代謝異常が進行し、海馬は萎縮し、脳室が拡大する。神経学の、そして人類の歴史において重要な論文である。

HER2陰性乳がん術前化学療法後のカペシタビン術後補助療法は生存率を改善する-CREATE-X(JBCRG-04)(解説:矢形 寛 氏)-698

これは、サン・アントニオ乳がんシンポジウム2015で報告された日韓合同第III相臨床試験の結果が論文化されたものである。本学会時には、あまり大きな話題として取り上げられなかったように思われる。それは過去のカペシタビン追加の臨床試験でその有効性が示されてこなかったことと、アジア人のみの報告だったからであろうか。今回正式に論文化されたことで、より注目を浴びてくる可能性はある。 そもそも過去の報告とは根本的に異なる試験であり、適格基準が異なる、トリプルネガティブ乳がんの割合が30%と高い、タキサンなどとの同時併用ではなく逐次投与である、カペシタビンの標準投与量が使われ、6から8サイクルと十分量の投与が行われている、といったことが挙げられる。この結果は今までの標準治療を変えるものである。