ミトコンドリア超複合体の「見える化」で筋力を高める薬物を発見

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/03/20

 

 筋肉でエネルギーを産生する際に重要な「ミトコンドリア超複合体」の可視・定量化(見える化)に成功したとする、東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏らの論文が、「Nature Communications」に1月25日掲載された。ミトコンドリア超複合体を増やして筋肉の持久力を高める薬剤も見つかったという。

 筋肉は運動のために大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギーは細胞内小器官であるミトコンドリアによって作られている。ミトコンドリアの内部では「複合体」と呼ばれるタンパク質同士が結合して、さらに大きな「ミトコンドリア超複合体」という集合体を作ることで、より多くのエネルギーを産生している。ただ、これまでは生きた細胞(生体内)のミトコンドリア超複合体を観察することができず、研究の足かせとなっていた。そこで井上氏らは、まず、ミトコンドリア超複合体の可視化に取り組んだ。

 ミトコンドリア超複合体の構成因子であるIとIVという複合体に、それぞれ緑色と赤色の蛍光タンパク質を連結したマウス由来の筋肉細胞を作製。この細胞は、IとIVが距離的に離れているときには単色で光るが、ミトコンドリア超複合体を形成して両者が近接すると、蛍光タンパク質同士も近づくためにエネルギーの移行が起こり、緑色で蛍光刺激すると赤色に光るという現象が生じる。この現象を、レーザー顕微鏡で観察することにより、生体内ミトコンドリア超複合体を定量的に観察すること、いわゆる「見える化」に成功した。

 次に、マウスの筋肉細胞を見える化し、ミトコンドリア超複合体を増やす薬物を探索。1,000種類を超える薬物で実験を繰り返した結果、リン酸化酵素阻害薬(SYK阻害薬)という薬物が、ミトコンドリア超複合体の量を増やし、エネルギー代謝を高める可能性のあることが明らかになった。

 続いて、SYK阻害薬をマウスの腹腔内に週2回投与。5週間後、生理食塩水を同様に投与したマウス(対照群)と比べると、筋肉のミトコンドリア超複合体の量が多く、筋持久力(懸垂持続時間、走行距離、走行速度)が高いという有意差が確認された。なお、SYK阻害薬を投与したマウスに、体重減少を含む悪影響は観察されなかった。また、筋肉量は対照群と有意差がなかったことから、筋持久力アップは筋肉の質が向上したことによるものと推察された。

 近年、加齢や疾患に伴い筋肉量や筋力の低下した状態である「サルコペニア」が、生活の質(QOL)低下や死亡リスク上昇の一因として問題になっている。著者らは、「本研究の成果は、加齢に伴う筋力の低下や筋疾患のメカニズムの解明と、その診断・治療薬開発の応用につながるばかりでなく、運動能力の向上に伴う健康増進、スポーツパフォーマンスの向上にも役立つと考えられる」と述べている。

[2023年2月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら