糖尿病黄斑浮腫への抗VEGF治療が血糖管理改善の糸口に

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/22

 

 糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬による治療が、患者の血糖コントロールのモチベーション向上につながる可能性が報告された。福井大学医学部眼科学教室の高村佳弘氏らが行った、国内多施設共同研究の結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に8月9日掲載された。

 糖尿病黄斑浮腫は、糖尿病による目の合併症の一つで、網膜の中でも視力にとって重要な「黄斑」に浮腫(むくみ)が生じ、視力が低下したり、物がゆがんで見えたりする病気。かつては有効な治療法が少なかったが現在は、血管から血液が漏れ出すのを抑えたり、新生血管を退縮させる「抗VEGF薬」が第一選択薬として使われ、視力を回復・維持できることが増えている。

 ただし、抗VEGF薬は高額であり、治療効果を維持するために注射を継続する必要があるため、患者の経済的、心理的負担が大きいと考えられている。また糖尿病黄斑浮腫による視力低下は比較的急な経過をたどり、両眼性であることにより、生活に支障を来す視覚障害に陥るのではないかという不安もつきまとう。高村氏らは、こうしたストレスに対して、患者がそれを克服しようと、むしろ食事療法や運動療法といった血糖コントロールに積極的になる可能性を想定し、以下の検討を行った。

 この研究は、国内5カ所の大学病院が参加する多施設共同の後方視的研究として実施された。対象は、2015~2021年に黄斑浮腫に対して抗VEGF療法が施行された成人2型糖尿病患者112人。治療後2年間の視力や中心網膜厚(CRT)の変化を追うとともに、2年経過時点に実施したアンケートから治療モチベーションを把握した。アンケートの質問内容は、「抗VEGF療法を受けてから食事・運動療法を積極的に行うようになったか?」、「抗VEGF薬は高価と感じるか?」などの4項目。

 黄斑浮腫はCRT300μm以上と定義。初回治療後にCRTが350μmを超えた場合、抗VEGF薬の再投与が検討された。なお、眼内炎併発、糖尿病以外の原因による網膜疾患、制御されていない緑内障、半年以内に網膜光凝固が施行されている患者、角膜疾患や白内障などによりOCT検査を施行できない患者、脳卒中既往者などは対象から除外した。

 解析対象112人は、平均年齢67±10.3歳、男性71.4%、HbA1c7.4±1.08%であり、2年間の抗VEGF薬平均投与回数は6.4±4.5回(うち2年目が2.5±2.5回)だった。2年間の観察期間中、CRTは有意に減少し、矯正視力は有意に改善していた。

 HbA1cは、ベースライン値が7.4%と、高齢者の多い集団として比較的良好なこともあり、観察期間を通じて全体では有意な変化がなかった。ただし、ベースラインのHbA1cの中央値で二分した高値群(平均HbA1c8.23±0.85%)では、治療後3カ月、12カ月、18カ月時点のHbA1cが治療前より有意に低値だった。なお、観察期間中に血糖降下薬による治療が強化されていたのは7人(6.25%)のみであり、薬物治療によるHbA1cへの影響は全体ではわずかであるため、観察されたHbA1cの低下は患者の食事・運動療法の効果によるものと考えられた。

 一方、観察期間中に矯正視力が低下した患者が19人存在した。これらの患者では、HbA1cの上昇と矯正視力の低下が有意に相関していた(R2=0.299、P=0.0155)。

 アンケートの回答との関連を見ると、「抗VEGF療法を受けてから食事・運動療法を積極的に行うようになったか?」に「はい」と答えた群(59.8%)は「いいえ」の群に比較し、治療後6カ月、12カ月、18カ月時点のHbA1cが有意に低値だった。また、「抗VEGF薬は高価と感じるか?」に「はい」と答えた群(67.9%)は「いいえ」の群に比較し、治療後18カ月時点のHbA1cが有意に低値だった。

 著者らは、これら一連の結果を総括して、「糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法が、患者の血糖管理のモチベーションを高める機会となることがあり、それがHbA1cを改善する可能性も想定される」と結論付けている。また、「従って抗VEGF治療を行う眼科医は患者に対して、そのような変化につながるような心理的なケアを行うことを考慮する必要があるのではないか」と付言している。

[2022年10月31日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら