日本人高齢者は「高めの普通体重」が最適の可能性―説明可能なAIの分析

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2022/08/18

 

 「説明可能な人工知能(AI)」を用いた分析の結果、日本人高齢者では、body mass index (BMI)が標準体重の範囲内でやや高めの場合に、最も死亡リスクが低い可能性があるとする研究結果が報告された。日本女子大学家政学部食物学科臨床医学・代謝内科学研究室(研究時点の所属は神奈川県立保健福祉大学)の中島啓氏らの研究によるもので、詳細は「Geriatrics」に6月16日掲載された。

 一般的にはBMIが18.5~25.0kg/m2未満の「普通体重」が最も健康的とされているが近年、高齢者や慢性疾患患者では、BMI25kg/m2以上の肥満者の方がむしろ長寿であることを示唆する研究結果が報告されるようになった。このような「肥満パラドックス」とも呼ばれる現象のメカニズムはよく分かっていないが、それらの研究対象が健康な一般住民ではなく、何らかの疾患のある人を対象とした研究が多いことが、理由の一つと考えられている。そこで中島氏らは、神奈川県大和市の地域在住高齢者の健診データを用いて、BMIと死亡リスクとの関係を検討した。

 2011年度に同市で健診を受けた高齢者5,958人からデータ欠落者を除外した5,699人(平均年齢79歳、男性43.0%)を対象とし、分析には説明可能なAIシステムを用いた。説明可能なAIとは、従来のAIでは結論を導き出した過程を全く知ることができなかったが、その一部を理解できるようにしたAIのこと。例えば、多数の因子と寿命との関連の分析に際して、AIがどの因子をどの程度重視したかを知ることが可能(特徴量重要度という指標がその一つ)。本研究では、BMI以外の死亡リスクに関連し得る因子として、年齢、性別、喫煙習慣、身体活動量、飲酒量、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療、心血管疾患の既往を共変量として設定した。

 平均7.22年の追跡で1,413人(24.8%)が死亡。上記の共変量を考慮しないモデルでは、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが最も低いBMIは25.9~28.4kg/m2であり、肥満(欧米の基準では肥満の一歩手前の過体重)と死亡リスク低下との関連が認められた。全死亡リスクが最も高いBMIは12.8~18.7kg/m2だった。

 しかし、上記の共変量を調整したモデルで分析すると、全死亡のリスクが最も低いBMIは22.7~23.6kg/m2となり、肥満ではなく標準体重の範囲内でやや高めの体重が最適であることが示された。全死亡リスクが最も高いBMIは前記の分析と同様に12.8~18.7kg/m2だった。AIが何らかの因子を過大評価してしまう「過剰適合」を補正する「交差検定」を行うモデルで分析しても、この結果は変わらなかった。

 AIが死亡リスクの判定に際して最も重視していた因子は年齢であり、共変量を調整した交差検定モデルでも変わらなかった(特徴量重要度0.253)。2番目に重視していた因子は性別(男性)であった(特徴量重要度0.129)。年齢、性別に続いてBMIが3番目に重視されており(同0.099)、その中でもBMI22.7~23.6kg/m2が死亡リスクの負の因子として大きく関与しており(同0.046)、BMI12.8~18.7kg/m2は正の因子として大きく関与していた(同0.091)。4番目以降の因子は、喫煙習慣、身体活動量、心血管疾患の既往、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療、飲酒量の順だった。

 年齢層や性別に分析すると、80代まではBMIと死亡リスクの関連が負の線形、またはL字型となる傾向が見られた(いずれもBMI低値で死亡リスクが高いことを意味する)。一方、90歳以上の男性では、U字型の関係が見られた。

 以上を基に著者らは、「説明可能なAIを用いた分析の結果、日本人の地域在住高齢者では、低体重が全死亡リスクの高さに関連していることは明らかだ。ただし、過体重や肥満であることが死亡リスクの抑制に最適とは言えない可能性がある。年齢、性別、併存疾患によって異なるが、普通体重の範囲内でやや高めのBMIであることが最適ではないか」と結論を述べている。

 なお、本研究は、神奈川県大和市と神奈川県立保健福祉大学との「保健・医療・福祉事業の推進に関する連携協定」に基づく取り組みの一環として実施された。

[2022年7月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら