安定狭心症の治療に手術は必ずしも必要ではない?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/12/08

 

 安定狭心症の治療では、それぞれの患者にとって適切な治療法を選ぶという、ある程度柔軟な対応が可能なようだ。安定狭心症に対する侵襲的な手術による治療戦略と、薬物治療と生活習慣の是正を中心とした侵襲性の低い保存的な治療戦略を比較した臨床試験(ISCHEMIA試験)のデータを解析した結果、どちらの治療を受けても全体的な死亡リスクは同程度であったことが明らかになった。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のJudith Hochman氏らが実施したこの研究の詳細は、「Circulation」に11月6日掲載されるとともに、米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)でも報告された。

 ISCHEMIA試験では、中等度から重度の安定狭心症があるが、それ以外の心臓に関連する疾患はない患者5,179人(年齢中央値65歳、女性23%)が、侵襲的な治療を行う群と保存的な治療を行う群のいずれかにランダムに割り付けられた。侵襲的治療群では、患者の状態に応じて血管形成術や開心術が施行された一方、保存的治療群では薬物治療と生活習慣の是正に向けた指導が行われた。

 中央値で5.7年にわたる追跡期間の間に557件の死亡が確認された。7年間での全死亡率を推定したところ、侵襲的治療群と保存的治療群の間で差は認められなかった(ハザード比1.00、95%信頼区間0.85〜1.18)。これに対して、心血管疾患による7年間での死亡率は侵襲的治療群の方が保存的治療群よりも低かった(6.4%対8.6%、ハザード比0.78、95%信頼区間0.63〜0.96)。しかし、心血管疾患以外の原因による死亡率に関しては、侵襲的治療群の方が保存的治療群よりも高かった(5.6%対4.4%、ハザード比1.44、95%信頼区間1.08〜1.91)。

 Hochman氏によると、ISCHEMIA試験の4年間の追跡データの解析でも同様の結果が示されていたという。同氏は、「7年後の時点でも、侵襲的な治療を受けた群と保存的な治療を受けた群の間で生存率に差はないと、われわれは以前よりも少し自信を持って言うことができる」と話し、「慢性冠動脈疾患患者の大部分を占めているこうした患者は、自分にとって最善の治療戦略について主治医と話し合う必要がある」との見解を示す。

 またHochman氏は、「心血管疾患以外の原因による死亡率が侵襲的治療群で高かった要因については、われわれも説明することができない。しかし、心血管疾患以外の原因による死亡率の上昇分と心血管疾患による死亡率の上昇分が相殺され、全死亡率は侵襲的治療群と保存的治療群で同程度であった」と説明している。ただし、ISCHEMIA試験は、中等度から重度の虚血を認める安定狭心症患者を対象にしたものであるため、より複雑な心疾患の患者にはこの解析結果をそのまま当てはめるべきではないと同氏は注意を促している。

 Hochman氏は、「もし薬物治療でコントロールできている軽症の狭心症患者が動脈の狭窄を手術で“修復”したいのであれば、それを選ぶのも極めて妥当である。それによって害を被り、寿命が短縮することにはならないからだ」と言う。その一方で、「保存的な治療戦略についても同じことが言える。侵襲的な治療を望まない患者は多くいる。自分の体内にステントを留置したくない、あるいは開心術は受けたくないからだ。そうした患者にも、『薬物治療を続けながら生活習慣を是正すれば、侵襲的な治療を受けた患者たちと生存期間は同じだということが明らかにされている』と説明しても問題ないだろう」としている。また、どちらの治療を選択するのかは、「生存率ではなく、QOLや疾患の管理の仕方に関する患者の希望に基づいて決めることになるのではないか」と同氏は話している。

 ISCHEMIA試験では、今後さらに3年間の追跡を行い、最終的に10年間の群間差を明らかにする予定だ。米国心臓病学会(ACC)バイスプレジデントのB. Hadley Wilson氏は、同試験の保存的治療群での心血管疾患による死亡率が侵襲的治療群と比べて徐々に上昇傾向にあることを指摘し、「追跡期間の延長をわれわれが望んでいるのはこのことが理由だ。より長期間、追跡することで、この差が開き続けるのかどうかが明らかになる」と話している。

[2022年11月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら