クリトリスの秘密の科学的解明へ前進

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/23

 

 人間のクリトリス(陰核)の組織の一部を用いて神経線維の数を測定したところ、これまで推定されていた数よりも約20%多い、1万本以上の神経線維が存在していたとする研究結果を、米オレゴン健康科学大学トランスジェンダー・ヘルス・プログラムの形成外科医であるBlair Peters氏が報告した。この研究の詳細は、北米性機能学会と国際性機能学会が合同で開催した年次学術集会(SMSNA/ISSM 2022、10月27~30日、米マイアミ)で発表された。

 クリトリスの役割は性的興奮に特化されている。クリトリスの外側には極めて敏感な陰核亀頭と呼ばれる部分があるが、クリトリスの大部分は体内にある。その内側で快感を支配する主な神経が陰核背神経である。

 Peters氏らは、7人のトランスマスキュリン(出生時の性別は女性だが、自認する性別は女性ではない)の人たちが性別適合手術を受ける際に、片側の陰核背神経の組織の一部を採取した。通常、陰茎形成術では同組織が少しだけ切除されるという。同氏らは、採取した組織を染色し、顕微鏡で1,000倍に拡大した上で、画像解析ソフトを使って神経線維の数を測定した。その結果、組織検体の陰核背神経に含まれる神経線維数は片側だけで平均5,140本に上り、両側を合計すると平均1万281本もの神経線維が存在していると推定された。

 Peters氏は、「陰核背神経の奥にはより小さな神経が存在しているため、実際にクリトリスに含まれる全体的な神経線維数はもっと多い」と説明している。同氏は、「クリトリスのような小さな器官に1万本以上の神経線維があるとは驚きだ。人間の手はクリトリスよりも何倍も大きいが、(手のひらの感覚を支配する)正中神経でも約1万8,000本の神経線維しかなく、手よりもずっと小さなクリトリスに含まれている神経線維の2倍にも満たない」と驚きを表す。

 Peters氏によると、男性の外陰部に関しては広範な研究が進められているが、女性の外陰部について判明していることはわずかであるという。同氏は、この男女間のセクシュアルヘルスの分野における知識の格差が、この研究結果によって一定程度、埋められるものと期待している。同氏は現在、クリトリスの神経の研究を通じて陰茎形成術を受けた患者の転帰を改善させることに興味を持っているという。

 またPeters氏は、トランスフェミニン(出生時の性別は男性だが、自認する性別は男性ではない)の人たちに対する性別適合手術においてクリトリスを形成する技術を改善することも視野に入れ、陰茎の先端(亀頭)の神経線維数を測定したいとの考えも示している。その数を明らかにすることは、2つの快感を司る器官のそれぞれの神経構造についての理解を深めることにもつながる可能性がある。

 Peters氏らの目標は、今回得られた知見を、患者たちの感覚の向上や、損傷した神経を修復する新たな外科的技術の開発に役立てることだとしている。Peters氏は、「クリトリスに関する理解を深めることは、自認するジェンダーにかかわらず、全ての人にとって有用である。しかし、性別適合手術を受ける人や、トランスジェンダーの人がいなければ、今回の研究は実施できなかったという点を認識しておくことが重要だ」と指摘。その上で、「以前と比べてジェンダーアファーミング・ケア(トランスジェンダーの人が自認する性を尊重する医療)が当たり前になりつつあることは、他のヘルスケア分野にも良い影響を与えている。このことには深い意味がある。上げ潮は全ての船を持ち上げる。トランスジェンダーの人のヘルスケアを虐げたり、制限したりすることは、あらゆる人にとって害となる」と話している。

 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

[2022年11月1日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら