地中海食による認知症予防に疑問符

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/23

 

 野菜、果物、魚、全粒穀物、オリーブ油などが豊富な地中海食が、身体的な健康の増進に役立つことは広く知られている。近年ではそれにとどまらず、認知症の予防にも良いと言われるようになった。しかし、後者の認知症予防効果について、疑問を投げかける研究結果が発表された。ルンド大学(スウェーデン)のIsabelle Glans氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に10月12日掲載された。同国の3万人近い一般成人を20年間追跡した観察研究で、有意な関連が見られなかったという。

 この結果について、米アルツハイマー協会のHeather Snyder氏は、「食事や栄養と認知症リスクとの関連についての決定的なエビデンスとはいえない。他の研究結果と併せて慎重に考察することが極めて重要」と指摘している。また、「観察研究では何らかの関係性を見つけ出すことは可能だが、その因果関係の証明にはならない。因果関係の立証には介入研究が必要だ。幸いにも現在、食事・栄養介入の影響を評価可能な研究が進行中だ」と述べている。

 Snyder氏によると、認知症予防に関するこれまでの研究から、そのリスクを抑制するには何か一つの因子のみを改善したのでは難しく、複数の因子を組み合わせて改善する必要性が示唆されているという。そこで同協会では、複数のリスク因子を標的とするライフスタイル介入によって、認知症リスクのある高齢者の認知機能を保護できるかを評価する、2年間の臨床試験(U.S. POINTER研究)を主導しているとのことだ。また同氏は「食事と認知症リスクとの関係は、生活様式の異なる複数の国や集団で調査する必要がある。調査対象が異なれば、別の結果を得られる可能性が考えられる」と付け加えている。

 Glans氏らの研究は、スウェーデンの一般住民の食習慣とがんリスクに関する前向き研究(MDCS)のデータを用いて行われた。MDCSでは1991~1996年にベースライン検査が行われており、その時点で認知症がなく食習慣に関するデータがそろっていた2万8,025人(平均年齢58.1±7.6歳、女性61%)を2014年まで追跡。中央値19.8年の追跡で、1,943人(6.9%)が認知症と診断された。

 地中海食の順守状況をスコア化して3群に分け、最低スコア群を基準として最高スコア群の認知症診断リスクを比較。すると、全認知症〔ハザード比(HR)0.93(95%信頼区間0.81~1.08)〕、アルツハイマー型認知症〔HR1.03(同0.85~1.23)〕、血管性認知症〔HR0.93(同0.69~1.26)〕のいずれも、有意なリスク低下は認められなかった。Glans氏は、「われわれの研究結果は、食事スタイルが認知症リスクに影響を及ぼす可能性を否定するものではない」としながらも、「これまでに行われた研究と比べて、観察期間が長く非高齢者を多く含んでいる。また、高齢になってから若年期の食習慣を思い出すのではなく、若年期の実際の食習慣の記録を解析に用いた」と、本研究の強みを述べている。

 Glans氏らの報告について、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのSamantha Heller氏は、「認知症リスクに対する食事の影響に関するエビデンスは一貫性が見られない。今回の研究の結果とは逆に、地中海食を順守することで認知機能低下のリスクが抑制されることを示した研究も存在する」とし、また「食習慣改善の影響は、ほかの生活習慣とともに総合的に評価することが重要」と指摘。健康的な生活習慣によって多くの疾患リスクを抑制可能であり、その中には、心臓病、2型糖尿病、脳卒中、高血圧、ある種のがん、腎臓病とともに、認知機能低下も含まれるという。

 Glans氏らの論文には付随論評が寄せられている。その著者の1人であるバーゼル大学病院(スイス)のNils Peters氏は、「食習慣は、それ単独では認知機能に十分な影響を与えない可能性がある。しかし、ほかの多くの因子と組み合わせて食習慣を改善した場合には、認知機能の変化に影響を与える可能性がある」と述べている。同氏によると、ほかの因子とは、習慣的な運動、心疾患リスク因子の治療、禁煙、節度のある飲酒などを指すとのことだ。

[2022年10月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら