ハイテク靴下で高リスク患者の転倒を予防

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/22

 

 米国では年間70万~100万人の患者が入院中に転倒を経験する。転倒はさらなる健康悪化のきっかけとなることが多い。しかし、これまで転倒減少につながる有効な方法はほとんどなかった。こうした中、入院患者がベッドから起き上がろうとすると、ソックスに内蔵された圧力センサーが反応してアラートを送信する「スマートソックス」が入院患者の転倒防止に有効である可能性を示した新たな研究結果が報告された。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのTammy Moore氏らによるこの研究結果は、「Journal of Nursing Care Quality」に8月19日掲載された。

 この研究では、転倒リスクの高い入院患者569人がスマートソックスを履いて過ごした。スマートソックス以外の転倒予防システムは使用されなかった。スマートソックスは、内蔵されたセンサーが患者の立ち上がろうとする動きを検知して、最も近い位置にいる3人の看護師にウェアラブル型のスマートバッジを介してアラーム音で警告するというシステムだ。バッジを付けた看護師が患者の部屋に入ると、アラームは自動的に解除される。警告を受けた看護師が1分以内に一人も対応しなかった場合には、次に近い場所にいる3人の看護師に警告が伝えられる。それでも90秒以内に誰も対応しなければ、スマートバッジを装着している全ての看護師に警告が発信される。

 13カ月間にわたる研究期間中に、スマートソックスによるアラーム音が合計5,010回鳴った。このうちの11回は誤検知例であったことから、立ち上がろうとする患者の行動を正確に検知して看護師に送信されたアラーム音の割合は99.8%に上ることが分かった。この期間中に、スマートソックスを履いていた入院患者で転倒した人はいなかった。スマートソックスを履いた場合の転倒の発生率は1,000患者日当たり0であり、これは、通常の入院患者における転倒の発生率(1,000患者日当たり4)よりも低かった。

 スマートソックスから送信された警告を受けてから看護師が対応するまでにかかった時間は平均24秒で、最短で1秒、最長で約10分だった。なお、従来の転倒防止策である、ベッドや椅子の圧力センサーを用いた場合に看護師が対応するまでにかかる時間については、情報がなかったため比較できなかったという。

 Moore氏は、「さらなる研究が必要ではあるが、スマートソックスを病院の入院患者や介護施設、リハビリ施設の患者に使用できる可能性はあると考えている」と述べる。なお、この研究はPalarum's PUP (Patient is Up) Smart Socksの資金提供を受けて実施されたが、Moore氏らの研究チームと同社の間に金銭的関係はない。

 米ラッシュ大学医療センターのMegan Dunning氏は、今回のMoore氏らの研究結果を受けて、「研究期間中、スマートソックスを使用したユニットでは転倒が生じなかったという点で、この論文で示されたエビデンスの価値はかなり大きい。また、看護師は偽陽性の可能性が低いと分かっていたため、アラーム音が鳴ってから対応するまでの時間が短かったという点にも期待が持てる」と話す。その一方で、病院がこの種のシステムの導入を検討する際には費用が問題となる可能性のあることを指摘。さらに、「これまでに転倒を確実に減らせることが示されている方法の1つは歩き回ることだ」と付け加えている。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の老年医学の専門医であるCatherine Sarkisian氏もまた、患者に起床や歩行を促すことは極めて重要だと話す。その上で、スマートソックスが患者をベッドから動かないようにしてしまう可能性があると指摘。「ベッドに居続けることは、入院中の高齢患者に新たな障害をもたらす要因となる。スマートソックスは、院内での転倒を防ぐかもしれないが、より多くの障害やフレイルの原因になるかもしれない。そうなると、患者はより弱った状態で退院することになるため、自宅での転倒の危険性が増す」としている。それでも同氏は、入院中に転倒する患者は極めて多く、毎年、転倒によって負傷するだけでなく命を落とす患者もいることを指摘。Moore氏らの研究は、「この大きな問題に取り組んだものだ」と評価している。

[2022年8月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら