睡眠不足は人を利己的にする?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/26

 

 睡眠不足が健康に与えるリスクは、心疾患からうつ病までさまざまなものが知られているが、睡眠不足は人を利己的にする可能性もあることが、新たな研究で明らかになった。睡眠不足は人間の社会意識にも悪影響を及ぼし、他人を助けたいという欲求や意欲をなくさせることが示されたという。米カリフォルニア大学バークレー校人間睡眠科学センターのMatthew Walker氏らが実施したこの研究結果は、「PLOS Biology」に8月23日掲載された。

 Walker氏らは今回、3つの試験により、睡眠不足が人々の他人を助けたいという意欲に及ぼす影響を調べた。1つ目の試験では、24人の健康な参加者を対象に、8時間の睡眠を取った後と一晩徹夜した後の脳を機能的MRI(fMRI)でスキャンして調べた。その結果、人が他人に共感したり、他人の欲求やニーズを理解しようとするときに関与する、「心の理論」ネットワークを形成する脳の領域の活動が、徹夜した後では低下することが示された。

 研究論文の筆頭著者である同大学のBen Simon氏はこの結果について、「人が他人のことを考えるときには、心の理論のネットワークが働き、それによりわれわれは他人が何を必要としているのかを理解できる。しかし、このネットワークの働きは睡眠不足のときには著しく障害される。あたかも睡眠不足のときに他の人と交流しようとしても、脳のこの領域が反応しないかのようだ」と話す。

 2つ目の試験では、136人の参加者を対象に、4日間の睡眠の様子をオンラインで追跡し、睡眠の質(睡眠時間、中途覚醒の回数など)を調べた。その上で、例えば、「他の人のためにエレベーターのドアを手で押さえておく」「通りで怪我をした見知らぬ人を助ける」などの他人を助ける行為に対する意欲に関する質問への回答を評価した。その結果、睡眠の質が低下した翌日には誰かを助けたいという気持ちも有意に低下することが明らかになった。

 3つ目の試験では、2001年から2016年の間に行われた慈善寄付300万件以上のデータを用いて、サマータイムの開始により1時間の睡眠不足が生じた後の寄付額の変化について調べた。その結果、サマータイム開始後に寄付額が約10%低下していたことが判明した。この寄付額の変化は、サマータイム制を導入していない地域では認められなかった。

 Walker氏は、「サマータイムの開始により睡眠時間がわずか1時間少なくなっただけでも、人々の寛大さに測定可能なレベルの影響が確認された。これは、人々が相互につながった社会の一員としてわれわれがどう機能するかにも影響を及ぼす」と話す。

 なお、Walker氏とSimon氏は過去の研究で、睡眠不足が人々の孤独感を増大させ、人々を孤立させ、他人と交流したときには孤独感をその人に伝播させることを見出している。Walker氏は、「広い視野に立つと、睡眠不足の人は非常に非社会的で、扶助の観点からは反社会的な個人になり、社会的な生活を営む動物であるヒトの共同生活にさまざまな影響を与えることが明らかになりつつある」と話す。なお、先進国では、半数以上の人が十分な睡眠を取っていないことが報告されている。

 一方Simon氏は、「この不和の時代に社交性を促す強力な潤滑剤が今こそ必要であり、睡眠がその役割を果たすかもしれない」と述べている。

[2022年8月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら