皮膚に貼る「超音波パッチ」の開発が前進

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/08/31

 

 将来、超音波検査は皮膚に貼り付けたシール型の「超音波パッチ」で行えるようになるかもしれない。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループは、高解像度のライブ像を得ることのできる切手サイズの超音波デバイスの開発が前進したことを、「Science」に7月28日発表した。この小さなパッチが、従来の大型超音波検査装置の代替になる可能性を秘めているという。MITの機械工学部および土木・環境工学部教授のXuanhe Zhao氏は、「われわれはウェアラブルデバイスを用いた画像検査の新時代を切り開いた。体にいくつかパッチを貼るだけで、48時間にわたって持続的に内臓の超音波画像を取得できた」と説明する。

 従来の専門的な超音波検査装置は、ジェルを塗布した上でプローブによって超音波を体内へ送る。体内に送られた超音波は、大きな血管や心臓、肺、胃などの臓器で跳ね返り、それを基に高解像度の画像を得ることができるという仕組みだ。ただ、こうした装置は大型であり、病院や診療所でしか使えない。一部の病院では既に長時間の画像を取得できるロボットアームに取り付けられたプローブも使用されているが、時間の経過とともに超音波検査用ジェルが乾いてしまうという欠点がある。

 論文の筆頭著者であるChonghe Wang氏は、「臨床診断の将来において、ウェアラブル超音波画像ツールには大きなポテンシャルがある。しかし、既存の超音波パッチは、解像度が比較的低く、画像化できる時間も短い。また、深部の臓器の画像を得ることはできない」と話す。

 こうした中、今回MITのグループが報告した新たな超音波パッチでは、伸縮性のある接着剤層と硬い変換器アレイを組み合わせることで、より解像度の高い画像の生成を可能にした。中央の硬いハイドロゲルは音波を送り、接着剤層は2層の薄いエラストマー(弾性のある高分子の素材・材料)でできている。エラストマー層はハイドロゲルの脱水を防止するという。論文の共同著者であるXiaoyu Chen氏は、「音波を効率的に送り、内臓の高解像度画像を得るには、ハイドロゲルに十分な水分が含まれていなくてはならない」と説明する。パッチの大きさは2cm2で、厚みは3mm程度だ。

 本研究では、このパッチを健康なボランティアの首や胸部、腹部、腕など体のさまざまな場所に貼り付けた。その結果、最長で48時間にわたって大血管の直径が変化する様子など、身体内部の構造が分かる明瞭な画像を得ることができた。また、運動時に心臓の形が変化する様子や、ボランティアが飲み物を飲んで膨らんだ胃が、時間の経過とともに元の大きさに縮む様子も確認できた。ボランティアがウェートリフティングをした際には、筋肉に生じる一時的な微小な損傷の兆候も検出できたという。Chen氏は、「このような画像化によって、ワークアウトをやり過ぎる前にそれを把握し、筋肉の痛みを感じる前にそれを中止できるようになる可能性がある」と期待を示している。

 現時点での設計でも、このデバイスは長時間にわたって技師がプローブを当て続ける必要性をなくしたものの、今のところ、別の装置に接続する必要がある。このため研究グループは、ワイヤレスで操作する方法について検討中だという。Chen氏は、「われわれが想定しているのは、いくつかのパッチを体のさまざまな部位に貼ると、パッチが携帯電話と通信し、必要に応じて人工知能(AI)のアルゴリズムによる画像の解析が行われる、という活用法だ」と話す。もしこれが実現すれば、患者が自宅で超音波パッチを貼り付けたり、ドラッグストアで超音波パッチを購入することも可能になるという。

 また、ワイヤレスの超音波パッチに加え、研究グループは超音波画像の読影を助けるAIのソフトウェア・アルゴリズムを開発中だ。Zhao氏は、「いつの日か患者が超音波パッチを購入し、がんの進行や胎児の成長のモニタリングなどに使用できるようになるかもしれない」との展望を述べている。

[2022年7月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら