末梢動脈疾患患者の歩行運動は痛みを覚えるまでやるべき?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/08/25

 

 末梢動脈疾患(PAD)患者には「痛みなくして得るものなし(no pain, no gain)」というフレーズがそのまま当てはまりそうだ。米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部教授のMary McDermott氏らの研究から、PAD患者が歩行運動療法を行う場合、足に不快感や痛みを感じるペースで歩行した方が、歩行機能の改善につながりやすいことが明らかになった。この研究結果は、「Journal of the American Heart Association」で7月27日発表された。

 McDermott氏は、「足の痛みをもたらす運動は、困難ではあるが有益だ。われわれは現在、PAD患者のために、高強度の運動療法の有益性を保ちつつより簡単にできるような介入方法の特定に取り組んでいるところだ」と話す。

 PADは、心臓から全身に血液を運ぶ動脈が狭くなって血液と酸素の流れが悪くなることで生じる。PADの症状としては、歩行時の足のしびれや脱力、疲れ、痛みなどが挙げられる。こうした症状は約10分間休むと消失する。研究者らの間では、トレッドミルでのウォーキングによってPAD患者の歩行が改善し、歩行距離も延長することが知られていた。しかし、歩行ペースによる影響については明らかにされていなかった。

 McDermott氏らは今回、Low-Intensity Exercise Intervention in PAD(LITE)と呼ばれるランダム化比較試験において米国内の4つの大学でランダム化が行われたPAD患者305人のうち、264人(平均年齢69±9歳、女性48%)を対象に、事後解析を実施した。同試験で対象者は12カ月間にわたって週に5日、1)自宅で無理のない快適なペースで歩行運動を行う群(低強度歩行群)、2)自宅で足の痛みなどの症状が引き起こされるペースで歩行運動を行う群(高強度歩行群)、3)歩行運動を行わない群(対照群)の3群にランダムに割り付けられた。歩行運動を行った2群では、デバイスを装着して歩行の強度と時間を測定した。高強度の歩行と低強度の歩行の基準は、歩行運動を行う参加者ごとに判定された。参加者は運動の頻度、強度、時間に関するデータを研究用のウェブサイトにアップロードした。

 参加者は試験開始時、試験開始から6カ月後と12カ月後に下肢機能検査を受けた。この検査では、4mの距離を通常のペースで歩いたときと、できるだけ速く歩いたときにかかった時間を測定し、歩行速度を評価した。また、4mの歩行テストや立位でのバランステスト、椅子からの立ち上がりテストで構成されるShort Physical Performance Battery (SPPB)と呼ばれる評価法を用いた身体機能の検査も実施した。

 その結果、高強度歩行群では、低強度歩行群と比べて歩行速度が6カ月後の時点で0.056m/秒、12カ月後の時点では0.084m/秒改善していた。対照群と比べた場合では、歩行速度が6カ月後の時点で0.066m/秒改善していたが、12カ月後の時点では有意差は認められなかった。さらに、高強度歩行群では、低強度歩行群と比べて12カ月後のSPPBにおける3種類の足の機能テストの合計点(0〜12点)が1ポイント近く高かった。一方、低強度歩行群では対照群と比べて、6カ月後および12カ月後の両時点で、歩行速度の改善は示されなかった。

 McDermott氏は、「PAD患者では、足の痛みが生じるペースでの歩行運動は、足の筋肉へのダメージに関連していると考えられてきたため、今回の研究結果は、われわれにとって予想外だった」と驚きを表す。そして、「これらの結果を踏まえ、医師は患者に痛みが出ることのない快適なペースで歩くのではなく、足の苦痛を伴うペースで歩行運動を行うよう助言すべきだ」との見解を示している。

 ただしMcDermott氏らは、得られた知見を今後の研究で確認しなくてはならないとの認識を示す。また、本研究は、自宅での歩行運動療法について検討した研究結果であるため、専門家の監督下でトレッドミルによる歩行運動療法を行った場合の結果とは異なる可能性があるとしている。

[2022年7月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら