がん治療薬が新型コロナ患者の命を救う可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/08/02

 

 実験段階のがん治療薬sabizabulinが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の中等症〜重症患者の死亡リスクを約55%低減する可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、「この効果は、これまでに承認された薬剤を上回るものだ」と話している。Sabizabulinの開発企業であるVeru社は、米食品医薬品局(FDA)に同薬の緊急使用許可(EUA)を申請しており、承認されれば入院患者の治療選択肢の増加につながる。Veru社のK. Gary Barnette氏らが実施したこの研究結果の詳細は、「NEJM Evidence」に7月6日掲載された。

 Sabizabulinは経口の微小管阻害薬で、細胞分裂の際に主要な役割を担う微小管を構成するタンパク質であるチューブリンに結合して、微小管形成を阻害することで効果を発揮する。もともとは、腫瘍細胞間のアクセスを遮断することにより腫瘍の増殖を遅らせるがん治療薬として、米テネシー大学の研究グループにより開発された。しかしこの薬剤が、生命に関わる肺の炎症を軽減させることによりCOVID-19患者にも効果を発揮する可能性があるのだという。

 今回の研究では、中等症〜重症のCOVID-19により入院し、酸素投与や人工呼吸器による治療を要する患者204人を、最長で21日間、sabizabulinを毎日9mg投与する群(134人)とプラセボを投与する群(70人)にランダムに割り付けて、60日後までの全死亡率を比較した。対象者は、喘息や重度の肥満、高血圧など、死亡リスクを高める他のリスク因子を有していた。

 両群の試験開始時の特徴は似通っていたが、60日後の全死亡率には、sabizabulin投与群で20.2%(19/94人)であったのに対して、プラセボ投与群では45.1%(23/51人)であり、sabizabulin投与群では死亡リスクに55.2%の相対的減少が認められた。

 米ミネソタ大学の感染症専門医であるDavid Boulware氏は、「この試験ではプラセボ群の死亡率が驚くほど高い」と指摘する。同氏によると、COVID-19に対する関節炎の治療薬の効果を検証する臨床試験でのプラセボ群の死亡率は8%未満であったという。なお、COVID-19患者の入院予防効果が認められている抗ウイルス薬は、パクスロビドなど少数あるが、発症初期の段階から投与しないと中等症〜重症の患者にはあまり効果がないと専門家たちは指摘している。

 一方、アルバータ大学(カナダ)の感染症専門医であるIlan Schwartz氏は、ニューヨークタイムズ紙に対し、「重症患者の死亡率を改善させる治療法はいくつかあるが、さらに効果の高い薬剤があるのなら大歓迎だ」と話す。しかし、今回の研究はサンプルサイズが比較的小さいため、さらに大規模な研究による裏づけが待たれると述べている。

 Veru社は、「sabizabulinの効果が極めて高いため、一部の患者にプラセボを投与し続けるのは倫理的に問題があるとの指摘により試験を早期に中止した」と説明している。しかし、Boulware氏は「早期に中止された試験は効果が過大評価されることが多い」と指摘し、「低減効果が55%という点について、私は懐疑的な見方をしている」と述べている。

[2022年7月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら