ハイドロゲル注入が椎間板変性による慢性腰痛を緩和

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/12

 

 実験的な配合のハイドロゲルを椎間板に注入することで、椎間板変性により生じた慢性腰痛を安全かつ有効に緩和できる可能性が新たな研究で示された。米Clinical Radiology of Oklahoma放射線科チーフのDouglas Beall氏らが実施したこの研究の結果は、インターベンショナルラジオロジー学会(SIR 2022、6月11〜16日、米ボストン)で発表された。

 背骨は24個の椎骨から成り、椎骨と椎骨の間は軟骨の椎間板で区切られている。椎間板は水分を多く含んだ衝撃吸収材として機能し、椎骨同士がこすれることなく、曲げたりねじったりする動作を可能にしている。しかし、椎間板は、加齢に伴い含まれる水分が徐々に減少して弾力性を失い、すり減ったり、日常生活動作でも亀裂が入ったりして、慢性腰痛の原因となる。

 今回の研究は、椎間板変性による慢性腰痛を持つ20人の患者(22〜69歳)を対象にしたもの。NRS(Numerical Rating Scale、0〜10点)で評価した対象患者の腰痛の強さは4点以上だった(平均7.1点)。Beall氏らは、対象患者の摩耗した椎間板に、X線による透視下でHydrafilと呼ばれるハイドロゲルを注射で注入した。注入されたゲルは、椎間板の中心部と外郭に付着し、亀裂を埋めるのだという。なお、本研究で使われたHydrafilは、ReGelTec社が開発した第二世代のハイドロゲルで、2020年に米食品医薬品局(FDA)のブレイクスルーデバイス指定(重篤な疾患に対する現在の治療選択肢よりも有効な治療となり得る実験的な医療デバイスに対して与えられる)を受けている。

 治療から6カ月後、20人の患者全てが腰痛の軽減を報告し、腰痛のNRS平均スコアは7.1点から2.0点へと有意に低下していた(P<0.001)。また、オズウェストリー腰痛障害質問票(ODI)で評価した、腰痛による日常生活動作への影響についても、平均スコアが48点から6点に低下し、有意に改善したことが確認された。治療に伴う有害反応が確認された患者はいなかった。

 Beall氏は、「これらの知見がさらなる研究で確認された場合、この治療法は、慢性腰痛による疼痛が従来の治療では十分に緩和されなかった患者にとって、非常に有望な治療選択肢になる可能性がある。このゲルは投与が簡単で、開腹手術も必要ないため、患者にとっても負担の少ない処置だ」と語る。

 この研究結果について米エモリー大学医学部のJ. David Prologo氏は、「この研究が持つ影響力は、誇張してもし過ぎることはない。椎間板変性に苦しむ患者は世界中に何億人もいるが、現状では、費用もリスクもかかる大手術以外に決定的な治療法はない。Beall氏らによる最先端の治療法は、針と画像ガイダンスのみを用いて、椎間板に液体代替物を注入して椎間板を元の状態に戻そうとするものだ。治療を受けた患者は注射部位に絆創膏を貼るだけで帰宅できる」と話す。

 ただし、この治療法には重要な疑問が残っている。それは、「修復された椎間板でハイドロゲルがどのくらい持続するのか」というものであり、この点を本格的な臨床試験で検討する必要がある。Beall氏は、「Hydrafilは、90年間にわたる応力とひずみをシミュレートする、反復応力シミュレーションでテストされている。そのため、Hydrafilによる修復は永続する可能性がある」との見方を示している。

 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

[2022年6月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら