自分の脂肪を注入する治療法、手指の変形性関節症を改善

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/06/08

 

 患者の体から吸引した脂肪を使った治療が手指の変形性関節症に有用であることが、リューデンシャイト・クリニック(ドイツ)のMax Meyer-Marcotty氏らの研究で示唆された。吸引した脂肪を痛みのある手指の関節に注入する「自家脂肪注入」と呼ばれる治療を行ったところ、手の機能の有意かつ持続的な改善と痛みの緩和が認められたという。この研究結果は、「Plastic and Reconstructive Surgery」5月号に発表された。

 手指の変形性関節症は通常、加齢に伴い関節の軟骨がすり減ることで生じる。軟骨がすり減ると骨と骨が直接接触するようになり、痛みやこわばりが生じる。

 Meyer-Marcotty氏らは2014年から変形性関節症に対して自家脂肪注入を始めたという。自家脂肪注入は、患者の大腿や臀部から吸引した脂肪組織を遠心分離機にかけて水分や油分、血液を取り除き、得られた純度の高い脂肪を患者の関節の病変部位に注入するという治療法だ。同氏によると、自家脂肪注入は縫合が不要で、患部に絆創膏を貼り、スプリントで1週間固定しておく必要があるだけだという。固定から1週間後にスプリントを外せる状態かどうかを確認し、その後、2〜3週間は患部に力をかけないように注意しながら指を使う。治療から4週間後には、治療した指を通常通り動かせるようになる。

 今回の研究は、予備研究の一環として2014年12月から2015年5月までに自家脂肪注入が施行された患者18人の手指28関節の治療後の状態が報告された。それによると、患者は治療後に指の痛みが改善し、疼痛スコア(10点満点)の中央値は、治療前の6点から治療の3~4年後には0.5点まで有意に低下した(P<0.001)。また、握力(中央値で15.00kg→18.00kg、P=0.082)や指のピンチ力(中央値で2.00kg→4.30kg、P<0.001)などの手の機能にも有意な改善が認められたという。一方、この治療に伴う感染症などの合併症は発生しなかった。

 「痛みを軽減できるという点に関して、これは非常に注目すべき結果だといえる。治療から3〜4年が経過した後も、疼痛スコアが大幅に低下していたというのは、ある意味、驚異的だ」とMeyer-Marcotty氏は話す。

 ただし、Meyer-Marcotty氏らは、自家脂肪注入を受けた全ての患者で症状の緩和が得られたわけではないことも明らかにしている。同氏は、「治療後おおよそ1週間で効果が現れた患者もいたが、2~3カ月間は全く変化がないまま経過した後に改善し始めた患者もいた。また、全く改善しなかった患者もいた」と説明。さらに、治療効果がどの程度持続するのか、また再度治療が必要な場合はどの程度の頻度で行うべきなのかなど、現時点では明確になっていないこともあるという。なお、同氏は「現時点で再治療を行った患者はいるが、ほとんどが1回の治療で済んでいる」と話している。

 この治療が一部の患者に有効である理由についても、現時点では完全に明らかになってはいないが、Meyer-Marcotty氏はいくつかの仮説を立てている。その一つが、単純に、脂肪が関節の潤滑油の役割を果たすというものだ。また、脂肪組織に含まれる幹細胞の働きで、すり減った軟骨の修復や関節内の炎症の抑制が促される可能性にも同氏は言及している。

 米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスの整形外科学准教授であるJacques Hacquebord氏によると、関節の疾患に対する脂肪を用いた治療について研究を行っているのはMeyer-Marcotty氏らのグループだけではないという。実際、Hacquebord氏らも、テニス肘に対する脂肪注入の効果について研究を開始したという。ただし、同氏はこの治療について、高額で、保険も適用されない点を指摘。ステロイド注入や手術など現行の治療選択肢と比較検討した上で、この治療法を試すべきかどうかを検討すべきだとの見解を示している。

[2022年5月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら