がん研有明病院、病床数を削減し、外来機能を拡充

提供元:ケアネット

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公開日:2025/11/12

 

 公益財団法人がん研究会 有明病院(東京都江東区、病床数644床)は、「病院機能・フロア見直しプロジェクト」の第1弾として、5階西病棟の42床を閉鎖し、外来治療センターを移転・拡充した。2025年9月に新センターが稼働を開始し、10月20日には報道向け説明会・見学会が行われた。

入院日、稼働率減の一方で、外来化学療法件数は増加

 説明会では渡邊 雅之副院長が登壇し、プロジェクトの背景を説明した。「診療報酬の伸び悩み、人件費・薬剤費の上昇などにより、2024年度は4分の3の病院が医業利益で赤字となっている。当院においてもコロナ禍から順調に収支を回復してきたものの、ここ数年の人件費、薬剤・材料費の高騰が大きく響き、2025年度は赤字の見込みとなっている」とした。

 同院においては、低侵襲手術の普及などにより平均在院日数は直近の10年間で13日から11日に短縮、病床稼働率も80%台前半まで低下した。一方、外来薬物療法の実施数は約3万件から3万7,000件へ増加、治験の受託件数も約2,800件(2019年)から4,300件(2023年)へと拡大している。渡邊氏は「今後も病床稼働率の改善は見込めない。外来薬物療法の強化を軸とした改革が不可避だ」とし、今回の外来治療センター改修はこの改革の中核施策に位置付けられるものだとした。

同フロアに調剤室を配置し、導線を改善

 新たな外来治療センターは、これまで1、2階に分散していた外来機能を5階に統合し、延床面積を約620m2から1,073m2へ拡張。リクライニングチェアとベッドの合計数を75床から83床に増やし、個室ブースも整備。患者が快適に過ごせるよう、ゆったりとした待合室と治療後に利用できるパウダーコーナーを新設した。調剤室を地下から同じフロアに移設することで、薬剤師、看護師を中心としたスタッフの動線が短縮し、投与前確認や副作用対応も迅速化したという。

 説明会で登壇した副院長・消化器化学療法科部長の山口 研成氏は「免疫チェックポイント阻害薬やADC(抗体薬物複合体)などの新薬が増え、患者の予後が改善される一方で、治療期間は長期化している。副作用対応や多職種連携を行うためには、外来の専用空間をより充実させることが不可欠になっている」と説明。外来化学療法部長の陳 勁松氏も「以前行った当院の調査では、患者さんの63%が外来治療を希望していた。今後も多くの診療科で外来治療件数の増加が予測されており、今回の新治療センターは患者と医療者双方のニーズに合致するものだ」と述べた。

2026年春には「トータルケアセンター」も集約

 プロジェクト第2弾として、2026年春には2階に「トータルケアセンター」が移設される予定だ。同センターは医療連携部と患者・家族支援部で構成され、地域連携室、がん相談支援センター、就労・サバイバー支援機能などをワンストップで提供し、がん患者の治療から社会復帰までを包括的に支援する体制を整える。

 渡邊氏は、「外来薬物療法の拡充は患者の希望にも合致するものだ。しかし、今の診療報酬体系では外来より入院に重きが置かれ、薬剤費の高騰の影響もあって外来診療の採算が見合っていない現状がある。この点は政府に改善を求めつつ、外来主体の医療モデルに転換し、限られた資源の中で持続可能ながん医療を提供していきたい」と述べた。

(ケアネット 杉崎 真名)