サイト内検索

検索結果 合計:627件 表示位置:1 - 20

1.

PREVENT計算式で心血管疾患リスクを推定可能に

 「心血管疾患(CVD)イベントのリスク予測(Predicting Risk of CVD EVENTs;PREVENT)」方程式は、心不全を含むCVDのリスクを正確に推定できることが、「Circulation」に11月10日掲載のmethods paperおよび付随する科学的声明により報告された。この結果は、米国心臓協会の年次学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)でも同時発表された。 CVDの絶対リスクを評価する多変量リスク予測方程式の使用は、複数の一次予防ガイドラインにおいて現在推奨されているが、課題も多く存在する。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のSadiya S. Khan氏らは、心血管・腎臓・代謝の3つの軸に関連する予測因子や、健康の社会的決定因子も考慮した新たな方程式が必要と考え、CVDの既往のない30~79歳の米国成人を対象としたPREVENT方程式を開発した。 主要アウトカムはCVD〔アテローム動脈硬化性CVD(ASCVD)および心不全(HF)〕で、予測因子は従来のリスク因子である喫煙、収縮期血圧、コレステロール、降圧薬・スタチン使用、糖尿病に加え、推算糸球体濾過量(eGFR)を用いた。モデルの導出は、コホート25件から得た個人レベルの対象者データ328万1,919人を対象とし、外部検証は、追加コホート21件の対象者333万85人を対象とした。モデルの開発では、年齢を尺度として使用し、非CVD死亡を競合リスクとして考慮した上で、男女別に予測因子とCVDとの関連を推定した。モデルの予測能はC統計量で評価し、較正は十分位数による観察リスクと予測リスクの傾きとして算出した。 対象者全体の平均年齢は53歳、女性56%で、平均4.8年間の追跡期間中に21万1,515件のCVD発症が確認された。外部検証の結果、PREVENTモデルはCVDリスク予測において、C統計量の中央値が女性で0.794、男性で0.757を達成した。較正曲線は女性で1.03、男性で0.94だった。ASCVDとHFを個別に予測するモデルにおいても、予測能と較正は同程度だった。選択可能な予測因子として、尿中アルブミン・クレアチニン比、HbA1c、社会的剥奪指数を追加したところ、モデルのCVD予測能はわずかながら有意に向上した(C統計量の差は女性で0.004、男性で0.005)。 Khan氏らは科学的声明の中で、PREVENT方程式の臨床的意義を説明している。この方程式を使用すれば、10年間および30年間におけるCVD(ASCVDとHF の複合)リスクを推定可能になることが重要という。方程式は男女別であり、予測因子としてeGFRを含み、人種を含んでいないことも特徴である。 Khan氏らは「PREVENT方程式は、CVDのリスク予測に心血管・腎臓・代謝に関わる健康因子と社会的因子を含めるための重要な第一歩である」と結論付けている。 なお、複数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

2.

CKDへの適応が追加されたエンパグリフロジンへの期待/ベーリンガーインゲルハイム・リリー

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)に、2024年2月、慢性腎臓病(CKD)の適応が追加された。この適応追加に関連して日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは、3月29日に都内でプレスセミナーを共同開催した。セミナーでは、CKDの概要、エンパグリフロジンのCKDに対するEMPA-KIDNEY試験の結果などについて講演が行われた。CKDの早期発見、早期介入で透析を回避 はじめに「慢性腎臓病のアンメットニーズと最新治療」をテーマに岡田 浩一氏(埼玉医科大学医学部腎臓内科 教授)が講演を行った。 腎炎、糖尿病、高血圧、加齢など腎疾患の原因はさまざまあるが、終末期では末期腎不全となり透析へと進展する。この腎臓疾患の原因となる病気の発症から終末期までを含めてCKDとするが、CKDの診療には次の定義がある。(1)尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか(とくに蛋白尿)(2)GFR<60mL/分/1.73m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続した場合にCKDと診断 また、重症度分類として18区分でヒートマップ化したものがあり、個々の患者の病態に応じ早期に治療介入することが必要だという。 最近の研究では、心血管死へのCKDの影響も解明されつつあり、厚生労働省の調査班の研究では、喫煙、糖尿病、高血圧、CKDが心血管死の主要因子とされ、とくにCKDの頻度は高血圧44.3%に次いで高く20.4%、人口寄与危険割合も高血圧26.5%に次いで10.4%と2番目に高いリスクであると説明した。また、わが国のCKD患者は、2005年時に推定1,328万人から2015年には推定1,480万人に増加しており、そのうち2022年時点で透析患者は約35万人、年間で約1.63兆円の医療費が推計されている。この対策に厚生労働省は、腎疾患対策検討会などを設置し、「2028年までに新規透析導入患者数を3万5千人以下に減少させる(10年で10%以上減少)」などの目標を示し、さまざまな調査と対策を打ち出している。 CKDの治療では、減塩や蛋白質制限などの食事療法、禁煙などの生活習慣改善のほか、RA系阻害薬を中心とした降圧療法、スタチンを用いた脂質異常症の治療など個々の患者の病態に合わせた多彩な治療が行われている。先述の対策委員会の中間報告では、診療ガイドラインの推奨6項目以上を達成すると予後が良好となりCKDの進展抑制が可能との報告もあり、「個別治療を1つでも多く達成することが重要」と岡田氏は指摘する。また、CKD患者への集学的治療は、患者のeGFRの低下を有意に遅らせる可能性があり、初期段階を含めて原疾患に関係なく有効である可能性があると示唆され、とくにステージ3〜5の患者には集学的治療が推奨されるという研究結果も説明した1)。 今後の課題として、わが国の新規透析導入患者は、2020年をピークに減少傾向にあるが、高齢男性では依然として増加傾向にあること、主な透析導入の原因として、第1位に糖尿病、第2位に高血圧・加齢、第3位に慢性腎炎が報告されている(日本透析医学会「わが国の慢性透療法の現況」[2022年12月31日現在])ことに触れ、第3位の慢性腎炎の疾患の1つである腎硬化症に焦点を当て解説を行った。腎硬化症は、蛋白尿を伴わず、進行も遅いためになかなか治療対象として認知されておらず、また、現在は根治療法がなく、診療エビデンスも少ないと今後解決すべきアンメットニーズであると説明した。 岡田氏は最後に「CKDは早期発見と介入が何よりも重要であり、eGFR>30である間に、かかりつけ医から専門医への紹介を推進することが大切」と語り講演を終えた。糖尿病の有無にかかわらずCKD患者の心血管死リスクを低下させる 次に「慢性腎臓病に対する新しい治療選択肢としてジャディアンスが登場した意義」をテーマに門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が、エンパグリフロジンのCKDへの適応追加の意義や臨床試験の内容について説明を行った。 糖尿病などの代謝性疾患、心血管疾患、CKDは相互に関連し、どこか1つのサイクルが壊れただけでも負のスパイラルとなり、身体にさまざまな障害を引き起こすことが知られている。 2014年に糖尿病治療薬として承認されたSGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、当初から心臓、腎臓への保護作用の可能性が期待され、2021年には慢性腎不全に追加承認が、本年にはCKDへ追加承認がされた。その追加承認のベースとなった臨床試験がEMPA-KIDNEY試験である。 EMPA-KIDNEY試験は、8ヵ国で行われた第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、目的は「CKD患者にエンパグリフロジンが腎疾患の進行または心血管死のリスクを減少させるかを検討すること」、対象範囲は糖尿病ではない患者、低蛋白尿を呈する患者を含む、腎疾患進行リスクを有する幅広いCKD患者である。 EMPA-KIDNEY試験の概要は以下の通り。〔試験デザインとアウトカムなど〕・腎疾患進行リスクのあるCKD患者6,609例(うち9%が日本人)を、エンパグリフロジン10mg/日+標準治療(3,304例)とプラセボ+標準治療(3,305例)に割り付けた。・主要評価項目:心血管死または腎疾患の進行・副次評価項目:心不全による初回入院または心血管死までの期間など・患者背景は糖尿病患者と非糖尿病患者が半々だった。・eGFR<30mL/分/1.73m2の低下例も組み入れたほか、微量アルブミン尿患者も組み入れた。〔主な結果〕・主要評価項目では2.5年の追跡期間で腎臓病進行または心血管死の初回発現について、エンパグリフロジン群で432例(13.1%)、プラセボ群で558例(16.9%)だった(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.64~0.82、p<0.001)ことから初回発現までの期間が有意に抑制された2)。・ベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープ(年間変化率)は、プラセボ群の-2.92に対してエンパグリフロジン群が-2.16で、その差は0.75だった。・2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープは、プラセボ群の-2.75に対してエンパグリフロジン群が-1.37で、その差は1.37だった。・安全性については、有害事象発現率はエンパグリフロジン群で43.9%、プラセボ群で46.1%であり、エンパグリフロジン群では骨折、急性腎障害、高カリウム血症などが報告されたが重篤なものはなかった。 門脇氏は、本試験の特徴について、「蛋白尿が正常な患者を初めて組み入れたCKDを対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験であること」、「幅広いeGFR値のCKD患者に対し、糖尿病罹患の有無にかかわらず、腎疾患の進行または心血管死の発現リスクの有意な低下を示したこと」、「有害事象発現率がプラセボよりも低かった」とまとめ、レクチャーを終えた。 今後、微量アルブミン尿患者などを含め、幅広く使用される可能性があり、CKDへの有効な治療手段となることが期待されている。

3.

日本人中年男性の飲酒量と糸球体過剰濾過の関係~関西ヘルスケアスタディ

 糸球体濾過量(GFR)は低値だけでなく、その数値が著しく高い糸球体過剰濾過についてもその後の腎機能低下や心血管疾患との関連が報告されている。大阪公立大学の柴田 幹子氏らは、健康な中年男性における飲酒パターンと糸球体過剰濾過リスクとの関連を評価した前向きコホート研究の結果を、Journal of Epidemiology誌2024年3月5日号に報告した。 本研究では、腎機能が正常で蛋白尿や糖尿病がなく、登録時に降圧薬使用のない日本人中年(40~55歳)男性8,640人を前向きに6年間追跡調査。飲酒量に関するデータはアンケートによって収集され、週当たりの飲酒頻度(1~3日、4~7日)および1日当たりの飲酒量(エタノール量0.1~23.0g、23.1~46.0g、46.1~69.0g、≧69.1g)で層別化された。糸球体過剰濾過は推定糸球体濾過量(eGFR)≧117mL/min/1.73m2と定義され、この値はコホート全体における上位2.5thパーセンタイル値に相当した。 主な結果は以下のとおり。・4万6,186人年の追跡期間中に、330人が糸球体過剰濾過に該当した。・多変量モデルにおける非飲酒者との比較で、週に1~3日飲酒する男性では、エタノール量≧69.1g/日(参考:アルコール度数5%のビール500mL缶のエタノール量が約20g)の摂取が糸球体過剰濾過のリスクと有意に関連していた(ハザード比[HR]:2.37、95%信頼区間[CI]:1.18~4.74、p=0.015)。・週に4~7日飲酒する男性では、飲酒日当たりの摂取エタノール量が多いほど、糸球体過剰濾過のリスクが高くなった(46.1~69.0g/日のHR:1.55[95%CI:1.01~2.38、p=0.046]、≧69.1g/日のHR:1.78[95%CI:1.02~3.12、p=0.042])。 著者らは、週に4~7日飲酒する中年男性においては1日当たりの飲酒量が多いほど糸球体過剰濾過のリスク増加と関連していたが、週に1~3日飲酒する中年男性では1日当たりの飲酒量が≧69.1gと非常に多い場合にのみ糸球体過剰濾過のリスク増加と関連していたと結論付けている。

4.

降圧薬治療による認知症リスク低下、超高齢やフレイルでも

 降圧薬治療で認知症リスクが低下するというエビデンスはあるが、これが一般集団の高齢者にも一般化できるかは不明である。今回、イタリア・University of Milano-BicoccaのFederico Rea氏らが、一般集団の高齢者において、新たに降圧薬の服用を開始した患者について検討したところ、降圧薬治療と認知症リスクの低下の関連が示唆された。また、この関連は超高齢(85歳以上)やフレイルの患者でも同様であったという。Journal of the American College of Cardiology誌2024年4月2日号に掲載。 本研究はネステッドケースコントロール研究で、2009~12年に降圧薬の服用を開始したイタリア・ロンバルディア州の65歳以上の21万5,547例のコホートで実施した。ケースは、追跡期間中(2019年まで)に認知症またはアルツハイマー病を発症した1万3,812例(年齢:77.5±6.6歳、男性:40%)で、各ケースに対して性、年齢、臨床状態をマッチさせたコントロールを5例ずつ選択した。降圧薬への曝露は、降圧薬服用が追跡期間に占める割合で評価した。また、条件付きロジスティック回帰を用いて降圧薬への曝露に関連する転帰リスクをモデル化した。 主な結果は以下のとおり。・降圧薬への曝露は認知症リスクと逆相関していた。・曝露が非常に少ない患者と比較して、曝露が少ない患者で2%(95%信頼区間:-4〜7%)、中間的な患者で12%(同:6〜17%)、多い患者で24%(同:19〜28%)のリスク低下がみられた。・これは、超高齢(85歳以上)やフレイル(「1年後の死亡リスクが高い」特徴を有する)の患者においても同様であった。

5.

日本人の降圧薬アドヒアランス、低い患者とは?

 日本では、血圧が140/90mmHg未満にコントロールされている患者はわずか30%程度で、降圧薬の服薬アドヒアランスが低いことがコントロール不良の原因であると考えられている。今回、九州大学の相良 空美氏らが日本人の大規模データベースを用いて降圧薬のアドヒアランスを調べたところ、降圧薬のアドヒアランス不良率は26.2%であり、若年、男性、単剤治療、利尿薬使用、がんの併存、病院での処方、中規模/地方都市居住が、アドヒアランス不良と関連することが示された。Journal of Hypertension誌2024年4月号に掲載。 本研究は、新規に高血圧症と診断された31~74歳の日本人11万2,506例を含むLIFE Study(自治体から地域住民の医療・介護・保健・行政データを収集・統合しコホート研究を実施)のデータベースを用いた。服薬アドヒアランスは、治療開始後1年間、PDC(proportion of days covered:処方日数カバー比率)法を用いて評価した(80%以下はアドヒアランス不良)。さらに服薬アドヒアランスの関連因子も評価した。 主な結果は以下のとおり。・高血圧症患者11万2,506例のうち、治療開始後1年間の降圧薬の服薬アドヒアランス不良率は26.2%であった。・アドヒアランス不良と関連する因子として、若年(71~74歳と比較した31~35歳のオッズ比[OR]:0.15、95%信頼区間[CI]:0.12~0.19]、男性、単剤治療、利尿薬使用(ARBと比較したOR:0.87、95%CI:0.82~0.91)、がんの併存(併存なしと比較したOR:0.84、95%CI:0.79~0.91)、病院での処方、中規模~地方都市居住が同定された。 著者らは「日本の保険請求データによる降圧薬のアドヒアランスの現状とその関連因子を示した今回の結果は、降圧薬のアドヒアランスと血圧コントロールの改善に役立つと思われる」とまとめた。

6.

禁煙後の体重増加は将来の高血圧発症と関連する可能性

 禁煙後の体重増加は血圧の上昇につながり、将来の高血圧発症と関連する可能性があることが、鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学の二宮雄一氏らの研究グループによる研究から明らかになった。日本人の一般集団を対象に分析した結果、禁煙した群では、喫煙を継続した群と比べて体重がより増加し、血圧値も上昇することが分かったという。詳細は「Hypertension Research」に1月5日掲載された。 禁煙は、慢性疾患リスクの低減や寿命の延伸、QOLの向上など健康面にさまざまなメリットをもたらす。一方で、禁煙後には体重や肥満度が増加することが知られており、禁煙意欲を低下させる要因の一つとなっている。また、禁煙後の体重増加が引き起こす健康への悪影響については、これまで心血管疾患や2型糖尿病に焦点を当てた研究が多く、高血圧との関連は明らかになっていない。そこで、二宮氏らは、禁煙後の体重増加とその後の高血圧発症の関連を検討するため、後ろ向き研究を実施した。 2005年から2019年の間に、鹿児島厚生連病院健康管理センターで年1回の健康診断を受診した成人男女23万4,596人のうち、禁煙6年後のデータを入手し得た856人を対象に分析した。禁煙後の体重増加と高血圧発症の関連以外にも、禁煙1年後および6年後の血圧値と降圧薬処方率の変化を評価。また、傾向スコアでマッチングした禁煙群(856人)と喫煙継続群(854人)の体重と血圧値を比較した。さらに、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)に影響を与える因子を特定するため、重回帰分析を行った。 禁煙1年後の体重増加の中央値(1.8kg)を基に、体重増加が1.8kg以上だった群(high weight gain:HWG群、428人)と1.8kg未満だった群(low weight gain:LWG群、428人)に分けて分析した(平均年齢:HWG群46.5歳、LWG群45.2歳、男性の割合:それぞれ93%、90%)。その結果、HWG群とLWG群のベースライン時の体重は同程度だったが、LWG群に比べてHWG群では禁煙1年後および6年後の体重が有意に増加した(ベースライン→禁煙1年後→6年後の平均体重:HWG群64.9±10.5kg→68.9±10.6kg→69.2±10.9kg、LWG群66.3±10.7kg→66.1±10.5kg→66.8±10.9kg)。 また、禁煙から6年後の降圧薬の処方率にはHWG群とLWG群で有意な差はなかったが、ベースラインから6年後のSBP値およびDBP値の変化には有意差が認められた(SBP:HWG群10.3±13.8mmHg、LWG群6.2±12.8mmHg、P<0.001、DBP:HWG群6.0±9.3mmHg、LWG群3.1±9.7mmHg、P<0.001)。重回帰分析の結果、SBP値の変化は年齢と大幅な体重増加の影響を受けたのに対し、DBP値の変化は大幅な体重増加の影響のみを受けていた。さらに、禁煙群と喫煙継続群の比較では、禁煙群の方が体重の増加幅が有意に大きく、6年間のSBP値とDBP値の変化も大きかった。 以上から、同氏らは「禁煙後の体重増加は、その後の血圧上昇をもたらす可能性があり、禁煙を希望する人には減量指導を行うことが有効だ」と結論。その上で、「禁煙を勧める際には、禁煙による健康へのベネフィットは、禁煙後の体重増加による悪影響を上回ることを強調すべきだ。また、診療ガイドラインでは、禁煙後の体重管理療法の時期や期間について言及する必要があるだろう」と述べている。

7.

低リスク高血圧患者、「血圧の下げすぎ」による心血管リスクは

 高リスクの高血圧患者において、治療中の収縮期血圧(SBP)が120mmHg未満および拡張期血圧(DBP)が70mmHg未満の場合は心血管リスクが増加することが報告され、欧州心臓病学会/欧州高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2018年版では高血圧患者全般に対してSBPを120mmHg以上に維持することを提案している。しかし、低リスク患者におけるデータは十分ではない。京都大学の森 雄一郎氏らの研究グループは、全国健康保険協会のデータベースを用いたコホート研究を実施。結果をHypertension Research誌オンライン版2024年2月14日号に報告した。 本研究は、3,000万人の生産年齢人口をカバーする全国健康保険協会のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて行われた。10年間の心血管リスクが10%未満で降圧薬を継続的に使用している患者が特定され、治療中のSBPとDBPによってカテゴリー分類された。主要アウトカムは心筋梗塞、脳卒中、心不全、末梢動脈疾患の新規発症の複合であった。 主な結果は以下のとおり。・92万533例の心血管低リスク患者が対象とされた(平均年齢:57.3歳、女性:48.3%、平均追跡期間:2.75年)。・SBPごとの主要アウトカムの調整後ハザード比(95%信頼区間)は、<110mmHg:1.05(0.99~1.12)110~119mmHg:0.97(0.93~1.02)120~129mmHg:1(参照)130~139mmHg:1.05(1.01~1.09)140~149mmHg:1.15(1.11~1.20)150~159mmHg:1.30(1.23~1.37)≧160mmHg:1.76(1.66~1.86)・DBPごとの主要アウトカムの調整後ハザード比は、<60mmHg:1.25(1.14~1.38)60~69mmHg:0.99(0.95~1.04)70~79mmHg:1(参照)80~89mmHg:1.00(0.96~1.03)90~99mmHg:1.13(1.09~1.18)≧100mmHg:1.66(1.58~1.76) 著者らは、「低リスクの高血圧患者において、治療中のDBPが60mmHg未満の場合に心血管イベント増加と関連していたが、治療中のSBPが110mmHg未満の場合には関連していなかった。高リスク患者を対象としたこれまでの研究結果と比較して、低リスク患者では、血圧を下げすぎることが有害となる可能性はそれほど顕著ではないことが明らかとなった」としている。

8.

肥満症治療薬のチルゼパチドで肥満者の血圧が低下

 肥満症治療薬のZepbound(ゼップバウンド、一般名チルゼパチド)の効果は、体重の減少や糖尿病コントロールの改善にとどまらないようだ。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター心臓病学部長のJames de Lemos氏らによる研究で、チルゼパチドを使用した肥満患者では収縮期血圧(上の血圧)が有意に低下し、同薬が肥満者の血圧コントロールにも有効である可能性が示唆されたのだ。チルゼパチドの製造販売元であるEli Lilly社の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「Hypertension」に2月5日掲載された。 この研究の背景情報によると、収縮期血圧は拡張期血圧(下の血圧)よりも心疾患に関連した死亡リスクとの関連の強いことが判明しているという。De Lemos氏は、「これまでの研究では、チルゼパチドの肥満症治療薬としての効果が検討されてきたが、今回の研究の参加者で確認された同薬による血圧の低下は印象的なものだった」と話す。 チルゼパチドは、体内でインスリンの分泌を促し食後のインスリン感受性を高める作用を持つ2種類のホルモンと同じように働く。同薬には消化のスピードを緩やかにして食欲を低下させ、血糖値の調節を助ける作用がある。なお、日本では、現時点でのチルゼパチドの適応症は糖尿病のみである。 今回の研究では、肥満の成人600人(平均年齢45.5歳、平均BMI 37.4、女性66.8%)をプラセボ投与群(155人)、またはチルゼパチドを5mg(145人)、10mg(152人)、15mg(148人)のいずれかの用量で皮下注射する群にランダムに割り付けた。 その結果、チルゼパチド群ではプラセボ群に比べて試験開始時から36週間目までの間に収縮期血圧が、チルゼパチド5mg投与で平均7.4mmHg、10mg投与で平均10.6mmHg、15mg投与で平均8mmHg低下したことが明らかになった。また、チルゼパチドの降圧効果は日中だけでなく夜間にも認められた。De Lemos氏らによると、日中よりも夜間の収縮期血圧の方が心疾患に関連する死亡リスクのより強い予測因子であるという。 De Lemos氏は、「血圧降下がチルゼパチドによるものなのか、あるいは研究参加者の体重減少によるものなのかは不明だが、チルゼパチドを使用した参加者で認められた血圧の低下度は、多くの降圧薬の使用による低下度に匹敵するものであった」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで説明している。 今回の研究には関与していない米ミシシッピ大学医療センターのMichael Hall氏は、「全体として、チルゼパチドのような新規の肥満症治療薬は、体重減少だけでなく肥満に伴う高血圧や2型糖尿病、脂質異常症などの心血管代謝系の合併症を大いに改善させることが示されており、励みになる結果だ」と話している。 Hall氏はまた、「これらの有益な効果はいずれも重要ではあるが、肥満に関連した合併症の多くは相乗的に心血管疾患リスクを高める。したがって、肥満に関連した複数の合併症を抑える戦略は、心血管イベントのリスク低下につながる可能性がある」との見方を示している。 ただしHall氏は、「心筋梗塞や心不全、その他の心臓に関連した健康上の問題に対するチルゼパチドの長期的な効果について明らかにするには、さらなる研究が必要だ」と指摘。また、「チルゼパチドのような薬剤を中止した場合に血圧がどのように変化するのか、例えば再び上昇するのか、あるいは低下が維持されるのかを明らかにするための研究も必要だ」と話している。

9.

陰性所見に注目する【国試のトリセツ】第30回

§1 アセスメント陰性所見に注目するQuestion〈110F19〉50歳の女性。頭痛を主訴に来院した。2日前の夕食中に突然の頭痛を自覚した。翌日も頭痛は続き、37.8℃の発熱もあったため、自宅近くの診療所を受診した。鎮痛薬を処方され内服したが、頭痛が改善しないため救急外来を受診した。意識は清明。身長156cm、体重57kg。体温36.8℃。脈拍84/分、整。血圧126/70mmHg。神経学的診察で脳神経に異常を認めない。項部硬直とKernig徴候とを認めない。四肢の運動系に異常を認めず、腱反射は正常でBabinski徴候を認めない。血液所見と血液生化学所見とに異常を認めない。頭部単純CTを次に示す。対応として適切なのはどれか。(a)経過観察(b)腰椎穿刺(c)止血薬静注(d)降圧薬内服(e)頭部CT 血管造影検査画像を拡大する

10.

非ウイルス性肝疾患による死亡リスクは女性の方が高い

 飲酒やメタボリックシンドローム(MetS)が関与して生じる肝臓の病気は、男性に比べて女性は少ないものの、それによる死亡率は男性よりも女性の方が高いことが報告された。青島大学医学院付属医院(中国)のHongwei Ji氏、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のSusan Cheng氏が、米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析した結果であり、「Journal of Hepatology」2月号にレターとして掲載された。 肝臓の病気の原因のうち、C型肝炎などのウイルスによるものは治療が進歩して患者数が減少している一方で、MetSなどの代謝性疾患に伴う脂肪性肝疾患「MASLD」やアルコール関連の肝疾患「ALD」、および代謝性疾患とアルコール双方の影響による肝疾患「MetALD」と呼ばれる肝疾患が増加している。Cheng氏は、それらの肝疾患の有病率と死亡率の実態を性別に検討した。 1988~1994年のNHANES参加者から、20歳未満および解析に必要なデータのない人を除外し、1万7人(平均年齢42±15歳、女性50.3%)を解析対象とした。各疾患の定義は、MASLDについては心臓代謝疾患のリスク因子があること、ALDは飲酒量がアルコール換算で男性420g/週超、女性350g/週超、MetALDは同順に210~420g/週、140~350g/週であり、画像検査で脂肪肝が確認されたものとした。 各疾患の患者数は、MASLDが1,461人、ALDが105人、MetALDが225人だった。これらの有病率を性別に見ると大きな性差が認められ、3タイプの疾患の全て、男性の有病率の方が高かった。具体的には、男性ではMASLD、ALD、MetALDの順に18.5%、1.7%、3.2%であるのに対し、女性は10.3%、0.3%、1.2%だった(すべてP<0.001)。一方、死亡リスクについては以下のように、女性の方が高い傾向にあった。 中央値26.7年の追跡で、2,495人の死亡が記録されており、年齢やBMI、人種、喫煙習慣、収縮期血圧、脂質異常症、糖尿病、降圧薬・血糖降下薬・脂質低下薬の処方、世帯収入などを調整後の死亡ハザード比を性別に検討。すると、MetALDに関しては女性でのみ有意なリスク上昇が確認された〔男性1.00(95%信頼区間0.79~1.28)、女性1.83(同1.29~2.57)。ALDは男性・女性ともに有意なリスク上昇が確認されたが〔男性1.89(1.42~2.51)、女性3.49(1.86~6.52)〕、女性のリスクの方が高い傾向にあった(P=0.080)。MASLDは男性・女性ともに有意なリスク上昇は観察されなかった。 MetALDの「Met」とは「代謝性の」という意味の「metabolic」の略であり、肝臓への脂肪の蓄積を引き起こす可能性がある代謝性の問題、つまり肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を指している。研究グループでは、「これらのリスク因子のいずれかが該当する女性は、飲酒には特に注意が必要」と述べ、その理由を「飲酒と代謝の問題が組み合わさると、肝臓に脂肪がより蓄積しやすくなるからだ」と解説している。 しかし、なぜ女性の肝臓がこれらの変化に対して、男性よりも脆弱であるのかはまだ明らかにされていない。Cheng氏らは現在、その理由の解明と、そのようなリスクの抑制につながる介入方法の確立に向けて、新たな研究を計画している。

11.

RNA干渉薬zilebesiran、年2or4回投与で有意な降圧効果/JAMA

 軽症~中等症の成人高血圧患者において、zilebesiranの3ヵ月または6ヵ月間隔での投与により、3ヵ月の時点での24時間自由行動下収縮期血圧(SBP)の平均値が有意に低下し、この効果は最長で6ヵ月間持続することが、米国・シカゴ大学医学大学院のGeorge L. Bakris氏らが実施した「KARDIA-1試験」で示された。zilebesiranは、アンジオテンシンペプチドの主要な前駆体であり、全身血圧の重要な調節因子であるアンジオテンシノーゲンの肝合成を標的とするRNA干渉治療薬。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年2月16日号で報告された。4ヵ国の無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験 KARDIA-1試験は、4ヵ国(カナダ、ウクライナ、英国、米国)の78施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験であり、2021年7月にスクリーニングを開始し、2023年6月に最後の患者が受診した(Alnylam Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 対象は、成人の軽症~中等症の高血圧患者(降圧薬ウォッシュアウト後の外来SBPの日中の平均値が135~160mmHgと定義)であった。被験者を、4種類の用量のzilebesiran(150mg、300mg、600mgを6ヵ月ごと、300mgを3ヵ月ごと)またはプラセボ(3ヵ月ごと)を皮下投与する群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、24時間自由行動下SBPのベースラインから3ヵ月後までの変化とした。全用量で有意な降圧効果 377例(平均年齢57[SD 11]歳、女性167例[44.3%]、黒人93例[24.7%])を最大の解析対象集団とした。zilebesiranの6ヵ月ごと150mg群が78例、同6ヵ月ごと300mg群が73例、同3ヵ月ごと300mg群75例、同6ヵ月ごと600mg群が76例、プラセボ群は75例であった。 3ヵ月の時点でのべースラインからの24時間自由行動下SBPの変化は、6ヵ月ごと150mg群が-7.3mmHg(95%信頼区間[CI]:-10.3~-4.4)、3ヵ月または6ヵ月ごと300mg群が-10.0mmHg(-12.0~-7.9)、6ヵ月ごと600mg群が-8.9mmHg(-11.9~-6.0)、プラセボ群は6.8mmHg(3.6~9.9)であった。 ベースラインから3ヵ月後までの変化におけるプラセボ群との最小二乗平均(LSM)差は、6ヵ月ごと150mg群が-14.1mmHg(95%CI:-19.2~-9.0、p<0.001)、3ヵ月または6ヵ月ごと300mg群が-16.7mmHg(-21.2~-12.3、p<0.001)、6ヵ月ごと600mg群は-15.7mmHg(-20.8~-10.6、p<0.001)だった。また、6ヵ月の時点でも、ほぼ同様の結果が得られた。重篤な有害事象は3.6% 6ヵ月の時点で、有害事象はzilebesiran群で60.9%、プラセボ群で50.7%に発現し、重篤な有害事象はそれぞれ3.6%および6.7%に認めた。重篤でない薬物関連有害事象は、zilebesiran群で16.9%(主に注射部位反応と軽度の高カリウム血症)、プラセボ群で8.0%に発生した。 著者は、「zilebesiranは、年4回または2回の投与で、有効な降圧薬として使用可能となると考えられる」とし、「これらのデータは、高血圧の治療戦略としてのzilebesiranの、さらなる検討を支持するものである」「今後は、単剤または他の降圧薬との併用における長期的な安全性プロファイルの評価が求められる」と指摘している。

12.

アルドステロン合成酵素阻害薬vs.鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎尿細管の鉱質コルチコイド受容体(MR)に作用して水・Na代謝を調節するが、その過剰は水・Na貯留を引き起こし、体液量増大を介して昇圧する。したがって、スピロノラクトンをはじめ、MR拮抗薬は降圧薬として用いられてきた。その一方で、降圧作用とは独立して、酸化ストレスの増加やMAPキナーゼの活性化を介して心臓や腎臓障害性に作用することが知られている。したがってMR拮抗薬は降圧薬であると同時に、臓器保護作用を期待して使用される。 アルドステロン合成酵素阻害薬も降圧薬(ジャーナル四天王「コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA」2023年9月27日配信)として注目されているが、このたびはCKDに対して尿アルブミンを強力に減少させ、SGLT2阻害薬との併用でも相加的に効果を現すことから、CKD治療薬としての期待を伺わせる報告がなされた。この2種類の薬剤の差別化は可能であろうか。これまでのMR拮抗薬の研究ではMRのリガンドは鉱質コルチコイドのみならず、糖質コルチコイドもリガンドであるが、体内でコルチゾールを速やかに非活性のコルチゾンに代謝する11β-水酸化ステロイド脱水酵素が十分に作用している状態では糖質コルチコイドによる作用はごく限られる。しかし、漢方薬に含まれるグリチルリチンはこの酵素の阻害作用があるため、糖質コルチコイドのMRを介した作用が起こりうる。また、低分子量G蛋白のRac1は、肥満、高血糖、食塩過剰でMR受容体を活性化する。 これらを考慮すると、MR拮抗薬のほうに分があるように見える。しかし、アルドステロンはMRを介した作用だけでなく、それを介さない非ゲノム作用の可能性も報告されており、そうであればアルドステロンの生成を抑えるほうに分がありそうである。この両薬剤の臨床効果の比較を待つことになろうか。

13.

妊娠によって明らかになった将来の健康ハイリスク女性に対する、効果的な産後介入の可能性(解説:三戸麻子氏)

 妊娠高血圧症候群に罹患した女性は、将来の生活習慣病や脳心血管病のハイリスクであることが知られている。しかし、現行の診療ガイドラインでは、産後にそのリスクを周知し、健康的なライフスタイル指導を推奨しているのみで、フォローアップの方法は確立していない。本研究では、産後の血圧自己モニタリングと医師による降圧薬調整の遠隔指導を行うことで、通常の産後管理と比較して、産後9ヵ月時の拡張期血圧が低下したことが示され、将来の疾病予防につながる可能性が示唆された。 評価時の介入群の状態は、降圧薬内服者の割合も従来群と比較して多く、BMIはベースライン(産後1~6日)からの増加がより抑えられていた。育児に慌ただしく、自身の健康管理が不十分になってしまいがちなハイリスク女性を、医師が伴走することにより管理できた結果であり、QOLスコアが両者で同等であったことも興味深い。本報告は単一施設での研究結果であり、同様の方法を均てん化させるためには、さまざまなハードルがあると考えられる。 しかし、妊娠・出産・育児という人生の転機を健康的に乗り切るためには、その管理を女性任せにするのではなく、医療者による支えが必要であり、またそれが効果的であることを示すエビデンスとなったのではないかと思う。

14.

若年期のテレビ視聴時間が45歳時のメタボリックシンドロームと関連

 小児期から青年期にかけてテレビの平均視聴時間が長い人は、45歳時点でメタボリックシンドローム(MS)を有している確率が高まるという研究結果が、「Pediatrics」8月1日号に掲載された。 オタゴ大学ダニーデン校医学部(ニュージーランド)のNathan MacDonell氏とRobert J. Hancox氏は、1972年および1973年に、ニュージーランドのダニーデンで生まれた住民ベースの出生コホートデータを用い、小児期から青年期のテレビ視聴時間と45歳時点のMSとの関連を調べた。対象者が5歳、7歳、9歳、11歳、13歳、15歳および32歳になった時点で、対象者の親または対象者自身から平日のテレビ視聴時間を尋ねた。 45歳の時点で、MSの有無を調べ、また、心肺機能を評価するため、運動をさせて心拍数を計測し、VO2max(最大運動時の酸素消費量)を推定した。MSは、HbA1cが5.7%以上、腹囲が男性102cm以上、女性88cm以上、中性脂肪が200mg/dL以上、HDL-コレステロールが男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満、血圧が130/85mmHg以上または降圧薬を服用、のうち3つ以上を満たすものと定義した。生存していた参加者997人のうち870人(87%)からテレビ視聴時間とMSに関するデータを収集した。分析にはロジスティック回帰モデルとt検定を用いた。 5歳から15歳までの平均テレビ視聴時間と45歳時点でのMSの関連を調べるため、まず、対象者を視聴時間で0~1時間、1~2時間、2~3時間、3時間以上の4つの群に分けたところ、視聴時間が長いほど、男女ともMSの割合が増加した。また、平均テレビ視聴時間が1時間増加した場合のオッズ比(OR)は、性別のみを調整すると1.33(95%信頼区間1.11~1.58、P=0.002)と有意な関連が見られ、次に、性別と社会経済的地位、5歳時点のBMIで調整しても1.30(同1.08~1.58、P=0.006)と有意であり続けた。 さらに、32歳時点のテレビ視聴時間を調整因子に加えたところ、ORは1.26(同1.03~1.54、P=0.026)と有意であった上に、VO2maxの低下(係数-0.70、95%信頼区間-1.20~-0.19、P=0.007)とBMIの上昇(同0.59、0.11~1.06、P=0.016)のいずれとも有意に関連していた。 以上から著者らは、「今回の研究結果から、小児期から青年期のテレビ視聴時間が長いと、中年期のMSリスクが上昇する可能性が示唆され、若年期のテレビ視聴は健康に長期的な悪影響を与えるという仮説が裏付けられた」とし、「小児期から青年期のスクリーンタイムを減らすための介入は、健康に対して長期にわたり良い影響を与えるだろう」と述べている。

15.

低Na血症、起こりやすい降圧薬と発症タイミング

 デンマーク国立血清研究所のNiklas Worm Andersson氏らが、サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症(以下、低Na血症)の累積発生率について、その他薬効クラスの降圧薬と比較・推定を行った。その結果、治療開始から最初の数ヵ月間において、サイアザイド系利尿薬では添付文書等で示されている1)よりも低Na血症のリスクが高かったことが明らかになった。Annals of Internal Medicine誌オンライン版2023年12月19日号掲載の報告。1.頻度不明/まれ/非常にまれ(10,000分の1~100分の1未満と定義)と記載されている。 本研究は2014年1月1日~2018年10月31日にデンマークで実施された人口登録ベースの観察研究を用いて、2つのtarget trial emulation2)を行った。主要評価項目は治療開始から2年以内の血中Na値130mmol/L未満の累積発生率。2.標的試験の模倣。観察研究データを用いて、仮想的なランダム化臨床試験を模倣すること。 対象者は直近で降圧薬が処方されておらず、低Na血症の既往歴のない40歳以上。1つ目のtarget trial emulationでは、bendroflumethiazide(BFZ、国内未承認)とカルシウム拮抗薬(CCB)の新規使用について比較し、2つ目のtarget trial emulationでは、ヒドロクロロチアジド・RA系阻害剤の配合剤とRA系阻害薬の新規使用について比較した。 主な結果は以下のとおり。・1つ目のtarget trial emulationではBFZ3万7,786例、CCB4万4,963例の新規処方患者を比較し、2つ目では配合剤1万1,943例とRA系阻害薬8万5,784例の新規処方患者を比較した。・2年間における低Na血症の累積発生率は、BFZで3.83%、配合剤で3.51%だった。リスク差は、BFZvs.CCBで1.35%(95%信頼区間:1.04~1.66)、配合剤vs.RA系阻害薬では1.38%(同:1.01~1.75)だった。・リスク差は、高齢、併存疾患の負荷が高いほど大きくなり、各ハザード比は、治療開始最初の30日間では3.56(同:2.76~4.60)および4.25(同:3.23~5.59)で、治療開始1年後のHRは1.26(同:1.09~1.46)および1.29(同:1.05~1.58)だった。 ただし、本研究の制限として、研究者らは「処方箋の記載と実際に使用された薬剤が同等という仮定に基づく交絡が残存する可能性が高い」としている。

16.

食塩摂取量はどこまで減らせばいいのだろうか?(解説:石川讓治氏)

 食塩摂取量がきわめて少ない民族においては高血圧の有病率が低いことが報告されてから、食塩摂取量の減少を試みる介入研究が幾つかされてきた。DASH研究において食塩6g/日以下にすることで有意に血圧低下が認められることが示され、現在の各国の高血圧治療ガイドラインにおいては食塩摂取量を1日6g以下にすることを推奨している。しかし、わが国の食塩摂取量は1日12~13g程度で、まだまだ目標レベルに程遠いのが現実である。本研究は、ナトリウム摂取量2,200mg(食塩として5.59g)/日の1週間継続、ナトリウム摂取量500mg(食塩として1.27g)/日の1週間継続をクロスオーバーデザインで行い、24時間平均自由行動下血圧の違いを評価した研究である。結果として、低ナトリウム食によって4mmHgの平均血圧低下が認められた。低ナトリウム食で73.4%の参加者で平均血圧が低下しており、食塩感受性が46%の参加者に認められている。低ナトリウム食の降圧効果は、対象者の年齢、性別、人種、高血圧の有無、ベースラインの血圧値、糖尿病、肥満度には影響を受けなかった。わずか1週間の減塩で血圧低下が起こることは非常に驚きであり、今後の患者指導で有用なデータであると考えられた。 本研究のナトリウム摂取量から換算した食塩摂取量は各群5.59g/日と1.27g/日である。日常臨床における高ナトリウム(食塩)摂取量ではなく、ガイドラインに沿った食塩摂取量と極端に少ない食塩摂取量の比較試験であることに注意が必要である。食塩摂取量の目標値6g/日以下も難しいわが国の現状で、この目標値を達成することは至難の業であると思われた。本研究の参加者の平均年齢は61歳であり、64%が黒人であった。本研究では両群に有害事象の有意差は認められなかったが、非高齢者を中心に行われた研究で、食塩感受性が高いとされる黒人を多く含む研究であったことにも注意が必要である。後期高齢者の動脈スティフネス亢進を背景とした高血圧患者において、1.27g/日の食塩摂取を安全に行うことができるのか今後の検討が必要であると思われた。

17.

RNA干渉治療薬パチシランはトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持したが全死因死亡や心血管イベントは低下しなかった(解説:原田和昌氏)

 ATTR心アミロイドーシスは、トランスサイレチンがアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。パチシランは、脂質ナノ粒子に封入されたsiRNAの静脈注射剤で、RNA干渉により肝臓におけるトランスサイレチンの産生を抑制する。2019年にパチシラン(商品名:オンパットロ)は、APOLLO試験の結果に基づき、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応を取得している。 米国・コロンビア大学アービング医療センターのMaurer氏らは国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(APOLLO-B試験)において、パチシランがATTR心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持すると報告した。360例がパチシラン群(181例)およびプラセボ群(179例)に無作為に割り付けられ、3週に1回12ヵ月間静脈内投与された。タファミジスのATTR-ACT試験ではNYHA III度の患者が30%以上含まれていたのに対して、本試験では8%程度で、NYHA II度が中心であった。ATTR-ACT試験の層別解析でNYHA III度の有効性が示されなかったことと、プラセボ群とタファミジス群の生存曲線の乖離が18ヵ月後以降であったことを踏まえ、早期診断による早期治療を目指した試験である。 ベースラインから12ヵ月時の6分間歩行距離における、プラセボ群とパチシラン群の変化量の差は14.69mで、KCCQ-OSスコアの最小二乗平均差は3.7ポイントであった。両群の治療効果の差は有意ではあったが、2指標ともあまり意味のある差ではなかった。KCCQ-OSスコアがパチシラン群ではベースラインから増加したというが、軽症例への早期投与であり、その後も効果が継続するかは明らかでない。また、全死因死亡、心血管イベントおよび6分間歩行距離の変化の複合は、両群間に有意差は認められなかった。有害事象は注入に伴う反応、関節痛および筋痙縮であった。 ATTR心アミロイドーシスの早期診断による、より早期の治療を目指した試験であり最短で有意差を出したが、結果を手放しで受け止めるのはまだ早いように思われる。RNA干渉治療は大手製薬企業が手を引いた後にバイオテクノロジー企業Alnylam(アルナイラム)が研究を進めたという経緯があり、こうした技術開発を応援する論文であるとも言えよう。ちなみにAlnylamはアンジオテンシノーゲンに対するRNA干渉による降圧治療薬の第II相試験にも成功している。

18.

長期服用でCVD死亡率を高める降圧薬は?~ALLHAT試験2次解析

 米国・テキサス大学ヒューストン健康科学センターのJose-Miguel Yamal氏らは降圧薬による長期試験後のリスクを判定するため、ALLHAT試験の2次解析を実施。その結果、心血管疾患(CVD)の死亡率は全3グループ(サイアザイド系利尿薬[以下、利尿薬]、カルシウムチャネル拮抗薬[CCB]、アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬)で同様であることが明らかになった。なお、ACE阻害薬は利尿薬と比較して脳卒中リスクを11%増加させた。JAMA Network Open誌12月1日号掲載の報告。 本研究は冠動脈疾患(CHD)の危険因子を持つ高血圧症の成人集団を利尿薬、CCB、ACE阻害薬のいずれか3グループに無作為に割り付けたランダム化比較試験のALLHAT試験を2次解析したもの。試験実施期間のうち1994年2月23日~2017年12月31日の最長23年間を追跡し、統計分析は2022年1月~2023年10月に行われた。1次エンドポイントはCVDによる死亡率。2次エンドポイントは全死因死亡、致死性/非致死性(罹患)CVDの複合、CHD、脳卒中、心不全、末期腎不全、がんによる死亡率や罹患率の複合。 主な結果は以下のとおり。 ・本調査は55歳以上の3万3,357例が対象となった。・全死因死亡は3万2,804例(平均年齢±SD:66.9±7.7歳、男性:1万7,411例[53.1%])を利尿薬(1万5,002例)、CCB(8,898例)、ACE阻害薬(8,904例)のいずれかにランダムに割り付けて調査した。・また、致死性/非致死性CVDは2万2,754例(平均年齢±SD:68.7±7.2歳、男性:9,982 例[43.9%])を利尿薬(1万414例)、CCB(6,191例)、ACE阻害薬(6,149例)に割り付けて調査した。・平均追跡期間±SDは13.7±6.7年で、最長は23.9年だった。・ランダム化23年後の100人当たりのCVD死亡率は、利尿薬群:23.7、CCB群:21.6、ACE阻害薬群:23.8であった(CCB vs.利尿薬の調整ハザード比[AHR]:0.97[95%信頼区間[CI]:0.89~1.05]、ACE阻害薬vs.利尿薬のAHR:1.06[95%CI:0.97~1.15])。・2次エンドポイントの長期リスクは3グループ間でほぼ同様で、利尿薬群と比較してACE阻害薬群では脳卒中死亡リスクが19%増加(AHR:1.19[95%CI:1.03~1.37]、致死的/非致死的脳卒中入院の複合リスクが11%増加した(AHR:1.11[95%CI:1.03~1.20])。

19.

仰臥位での血圧高値がCVDリスクと独立して関連

 座位で測定した血圧にかかわらず、仰臥位で測定した血圧が高い場合は心血管疾患(CVD)リスクが上昇することを示すデータが報告された。米ハーバード大学医学部のDuc M. Giao氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)の高血圧科学セッション2023(9月7~10日、ボストン)で結果が発表された。 血液は重力によって体の下方に溜まりやすいため、立位、座位、仰臥位などの状態に応じて自律神経系が働き、血圧を適切に維持している。Giao氏は、「座位の血圧のみが測定されているとしたら、仰臥位で血圧が上昇している場合のリスク上昇が見逃されている可能性がある」と述べている。 その可能性を検証するため同氏らは、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究(Atherosclerosis Risk in Communities Study)」のデータを用いた解析を行った。解析対象者は1万1,369人で、1987~1989年の研究参加登録時の平均年齢が54歳、女性が56%を占めていた。CVDの発症は、2011~2013年の第5回調査まで、25~28年追跡し把握した。 ARIC研究では参加登録時に、座位と仰臥位の血圧値が診察室内で測定されている。130/80mmHg以上を高血圧と定義すると、座位測定で高血圧と判定された人の74%が、仰臥位測定でも高血圧に該当した。一方、座位では高血圧に該当しない人の16%が、仰臥位では高血圧に該当していた。 座位および仰臥位ともに130/80mmHg未満の群を基準として、座位と仰臥位双方の測定結果が高血圧だった群は、座位での血圧値の影響を調整後、冠状動脈性心疾患(CHD)発症ハザード比(HR)が1.60であり、CHDによる死亡はHR2.18、脳卒中はHR1.86、心不全はHR1.83、全死亡はHR1.43だった。また、座位では高血圧に該当せず、仰臥位では高血圧と判定された群のCVDリスクは、座位と仰臥位の双方が高血圧判定基準を満たす群と同様にハイリスクだった。なお、降圧薬が処方されている場合の薬剤のタイプの違いは、これらのリスク上昇に影響を与えていなかった。 Giao氏は、「われわれの研究結果は、心臓病や脳卒中の既知のリスク因子を有する場合、座位のみでなく仰臥位でも血圧を測定してリスクを評価することが、将来的なメリットにつながる可能性のあることを示唆している」と述べている。また、「日常生活で血圧をコントロールする努力は、仰臥位で睡眠中の血圧を下げるのに役立つのではないか。今後の研究で、診察室で測定した仰臥位での血圧値と、夜間睡眠中の血圧値の乖離の有無を検討する必要があるだろう」と付け加えている。 なお、本研究の限界点として、「解析対象が中年期成人のみであるため、高齢者など他の年齢層も含めた解釈の一般化はできない可能性がある」としている。また、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

20.

若~中年での高血圧、大腸がん死亡リスクが増加~NIPPON DATA80

 高血圧とがんリスクとの関連についての報告は一貫していない。今回、岡山大学の久松 隆史氏らが、日本人の前向きコホートNIPPON DATA80において、高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査したところ、30~49歳における高血圧は、後年における大腸がん死亡リスクと独立して関連していることがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2023年11月22日号に掲載。 研究グループは、NIPPON DATA80(厚生労働省の循環器疾患基礎調査)において、ベースライン時に心血管系疾患や降圧薬服用のなかった8,088人(平均年齢48.2歳、女性56.0%)を2009年まで追跡。喫煙、飲酒、肥満、糖尿病などの交絡因子で調整したFine-Gray競合リスク回帰を用いて、血圧が10mmHg上昇した場合のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。逆の因果関係を考慮し、追跡開始後5年以内の死亡を除外して解析した。 主な結果は以下のとおり。・29年の追跡期間中に、胃がんで159人(2.0%)、肺がんで159人(2.0%)、大腸がんで89人(1.1%)、肝臓がんで86人(1.1%)、膵臓がんで68人(0.8%)が死亡した。・高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連を認めたが、他のがんによる死亡リスクとは関連を認めなかった。・収縮期および拡張期血圧と大腸がん死亡率の関連は30~49歳で明らかだった(収縮期血圧におけるHR:1.43、95%CI:1.22~1.67、拡張期血圧におけるHR:1.86、95%CI:1.32~2.62)が、50~59歳および60歳以上では認められなかった(収縮期および拡張期血圧における年齢交互作用のp<0.01)。・これらの関連は、喫煙、飲酒、肥満、糖尿病の有無で層別化した解析でも同様にみられた。

検索結果 合計:627件 表示位置:1 - 20