サイト内検索

検索結果 合計:123件 表示位置:1 - 20

1.

snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用する【国試のトリセツ】第32回

§2 診断推論snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用するQuestion〈110I52〉62歳の男性。発熱を主訴に来院した。統合失調症のため30歳ころから精神科病院に入退院をくり返し、ハロペリドール、ゾテピンおよびニトラゼパムを服用している。昨日から40℃の発熱と高度の発汗があり心配した家族に付き添われて受診した。家族によれば普段より反応が鈍いという。持参した昨年の健康診断の結果でクレアチニンは0.7mg/dLであった。来院時、意識レベルはJCSII-10。身長168cm、体重61kg。体温39.0℃。脈拍112/分、整。血圧150/82mmHg。咽頭粘膜に発赤はなく、胸部に異常を認めない。腸雑音は低下している。筋強剛が強くみられる。尿所見蛋白1+、潜血2+、沈渣に赤血球1~ 4個/1視野。血液所見赤血球304万、Hb9.5g/dL、Ht27%、白血球8,800、血小板13万。血液生化学所見総蛋白6.5g/dL、アルブミン3.6g/dL、AST225IU/L、ALT129IU/L、LD848IU/L(基準176~353)、CK35,000IU/L(基準30~140)、尿素窒素53mg/dL、クレアチニン2.5mg/dL、Na135mEq/L、K5.3 mEq/L、Cl106mEq/L。適切な対応はどれか。(a)免疫グロブリン製剤投与(b)ステロイドパルス療法(c)抗精神病薬の継続(d)赤血球輸血(e)大量輸液

2.

第204回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(前編) アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の1つは、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためだと考えられます。そこで、今回と次回はこの記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)アドレナリンは“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い――この記事が多くの読者に読まれた理由について、先生はどうお考えですか。海老澤タイトルにあるように、「エピペンを打てない、打たない医師」は実際に少なくなく、そうした方が読んだということが1つ考えられます。また、ワクチンの集団接種会場ということで、医師会などから依頼されて医師等が接種を行うわけですが、アナフィラキシーなど、万が一のことが起こった場合に、その場ですぐに全身管理ができるような体制は多くの会場で整っていなかったと考えられます。そういった意味で、「自分にも起こり得た事件だった」と捉えた方も多かったのかもしれません。――「エピペン」こと、アドレナリンを「打てない、打たない医師」はまだ結構いるのでしょうか。海老澤アドレナリンの筋肉注射については、僕らの世代から上の医師だと、”心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い印象です。最近は、医師国家試験でもアナフィラキシーの時のアドレナリン筋注は第一選択だということが設問になるくらいで、若い医師たちには十分浸透していることだと思います。しかし、一方で少し世代が上になると、「まずアドレナリン筋注」とは考えない医師は存在します。使った経験がない人だと躊躇してしまうことはある――今回のコロナワクチンのアナフィラキシーに最初に対応した医師は、事故報告書によれば「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっていました。海老澤比較的若い医師だったのですね。今回のケースに当てはまるかどうかはわかりませんが、アナフィラキシーの患者にこれまで遭遇したことがある医師は、アナフィラキシーの患者を目の前にして、すぐに筋注しても問題はないと理解していると思うのですが、使った経験がない人だと躊躇してしまうことはあると思います。これまでにアナフィラキシーの患者さんを1人も診たことがなく、対処法に慣れていない医師は全国で少なくないと思います。仮に病院での治療中に起きたアナフィラキシーだったら、筋注後すぐにICUに運びルートを取り、アドレナリンを希釈して投与することも可能です。酸素投与もできます。また、手術中であればすでにルートが取れているので、即時対応が可能です。しかし、アナフィラキシーの初期対応としてアドレナリン筋注(0.1%アドレナリンの筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤〈エピペン0.3mg製剤の投与〉)が第一選択だというのは基本中の基本です。もちろん、糖尿病や高血圧、動脈硬化など基礎疾患があるような方だと、アドレナリンを打って血圧が急上昇して脳出血を起こしたりするリスクは全くゼロではありません。そうしたリスクとベネフィットを考えて投与するわけですが、打って害になることは少ないと思います。アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい――報告書によれば、看護師の1人は、アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン1mgプレフィールドシリンジに22ゲージ針を付け、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をしていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。海老澤なるほど。ただ、そこは医師の判断ですから難しいですね。あともう1つ考えられるのは、アナフィラキシーの症状が典型的なパターンではなく、それが見逃しにつながった可能性です。――報告書では、「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外した」と書かれています。海老澤アナフィラキシーが呼吸器系の症状や、血圧低下などの循環器症状が単独で起こった場合は、判断が難しいというのは確かにあります。2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」1)では、診断基準が2つに集約されました。1つは、「皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、瘙痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間)で発症した場合」。もう1つが「典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が高いものに曝露された後、血圧低下または気管支痙攣または咽頭症状が急速に(数分〜数時間)で発症した場合」となっています。この2番目は、循環器症状と呼吸器症状の単独の場合を言っているわけです。アナフィラキシーの基本は皮膚症状なのですが、典型的な皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面で、血圧低下または気管支攣縮、咽頭症状などの呼吸器症状があればアドレナリンを打つ、というのが2022年改訂の大きなポイントです。ワクチンもそうですが、薬剤等の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早く時間的余裕もないので、そこはとくに注意が必要です。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともある――今回の事故で「打たなかった」背景にはいろいろな原因が考えられるわけですね。海老澤今回の事例に直接当てはまるかどうかは軽々に言えませんが、「アナフィラキシーの典型的な症状ではなく判断が難しかった」「アナフィラキシーに対する医療者の経験値、慣れが足りなかった」「何か起こった場合に対応する医療体制が乏しかった」ことなどが教訓として挙げられると思います。ただ、症状の進行はものすごく速かったと考えられるので、アドレナリンの1回の筋注で軽快していたかどうかはわかりません。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともあります。それでもダメな場合は、ルートを取って輸液したり、酸素を投与したりと全身管理が必要になってきます。救命できるかどうかは、そういった一連の流れの中で決まってきます。(この項続く)(2024年1月23日収録)【事故の概要】2022年11月、愛知県愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡しました。愛西市がまとめた報告書2)によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と解釈していました。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだ」という看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など「アナフィラキシーで典型的な症状」がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外してしまいました。女性は接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されました。報告書で愛西市医療事故調査委員会は、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」とし、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。参考1)アナフィラキシーガイドライン2022/日本アレルギー学会2)事例調査報告書/愛西市

3.

救急部の静脈ルート:18G vs.20Gガチンコ対決【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第253回

【第253回】救急部の静脈ルート:18G vs.20Gガチンコ対決看護roo!より使用末梢静脈ルートは、救急医療だけでなく入院医療でも必須の処置の1つです。私は研修医の頃、太いルートを入れるのは苦手だったのですが、ベテラン看護師に集中特訓してもらう期間があって、それ以降わりと上手になりました。さて、三次救急の場合、18ゲージのような太いルートと、20ゲージのような細めのルートのどちらがよいでしょうか。当然、太い18ゲージのほうが大量輸液ができるわけで、こちらのほうが挿入難易度が高くなります。また、患者さんにとっても太い穿刺針は強い痛みを伴います。Mitra TP, et al. Spiced RCT: Success and Pain Associated with Intravenous Cannulation in the Emergency Department Randomized Controlled Trial.J Emerg Med. 2024 Feb;66(2):57-63.これは、三次救急の現場において、18ゲージと20ゲージの静脈ルート確保によって、患者が感じる疼痛や、手技の困難さを比較するために行われた単施設研究です。被験者は、18ゲージ群または20ゲージ群のいずれかにランダム化割り付けされました。評価項目は、患者が経験した挿入時の疼痛と、医療従事者が感じた手技上の困難さの2つで、10cmのVAS(Visual Analogue Scale)で評価されました。178例の患者が解析に含まれ、それぞれ89人ずつにランダム化されました。平均疼痛スコア(差0.23、95%信頼区間[CI]:0.56~1.02、p=0.5662)と平均手技難易度スコア(差0.12、95%CI:0.66~0.93、p=0.7396)の間に、統計学的または臨床的に有意差は確認されませんでした。また、18ゲージ群と20ゲージ群の間で、初回のルート確保成功率(89人中75人vs.89人中73人、p=0.1288)、および合併症(89人中1人vs.89人中2人)にも差は確認されませんでした。というわけで、18ゲージでも20ゲージでもそんなに変わりませんよ、というのが今回の研究の結論になります。しかし、個人的にはやはり18ゲージのほうが難しい気がするんですが…。うーむ。そうか、自信を持てということか!

4.

がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

5.

緩和ケアでもよく経験する高カルシウム血症【非専門医のための緩和ケアTips】第70回

第70回 緩和ケアでもよく経験する高カルシウム血症緩和ケアでは、急性期ほど頻繁に検査は行いませんが、そうした中でも検査がカギとなる疾患もあります。そのうちの1つが高カルシウム血症です。どのようなときに、この疾患を疑うべきなのでしょうか?今日の質問訪問診療で担当する終末期の肺がん患者さん。1週間ほどでどんどん意識状態が悪化し、経過が速いことを心配して採血をしたところ、カルシウム値がかなり上昇していました。基幹病院に搬送したところ、回復して食事摂取も可能となりました。こうしたことは、よくあるのでしょうか?今回のご質問は、がん患者の高カルシウム血症についてです。私もこうした状況はよく経験します。文献にもよりますが、がん患者の10〜20%に高カルシウム血症が生じるという報告もあります。高カルシウム血症を疑う症状としては、倦怠感や口渇、多飲、便秘などがあります。可逆性も期待できる病態ですが、重症になるとせん妄や意識障害を引き起こすことがあります。がん患者に生じやすい電解質異常だと知ったうえで、これらの症状に注意して診療することが重要です。臨床的に問題になるのは、進行したがん患者には、そもそもの病状進行やオピオイドの使用などによって傾眠をはじめ、さまざまな症状が生じることです。こうした要素がある分、高カルシウム血症を疑うタイミングが遅れてしまうことがよくあります。今回の質問者はファインプレーをした、という見方もできるでしょう。がん患者の高カルシウム血症の治療は、ビスホスホネートの投与と脱水の補正が中心となります。私が研修医の頃は、まだビスホスホネートがなかったので、大量に輸液をしていました。最近は脱水の補正ができれば十分、という推奨が増えています。ここまで、がん患者における高カルシウム血症を中心にお話ししましたが、非がん患者でもこの病態が問題になることがあります。さて、ここからは私の失敗談です。患者は80歳代の女性。頸部骨折の手術後にリハビリ入院をした際に、私の担当となりました。入院からしばらくして、それまで元気だったのに、突然意識障害が進行しました。採血するとカルシウム値が非常に高くなっています。原因は、手術前から継続していたビタミンDでした。入院後に軟便で脱水になったタイミングがありましたが、その際も内服を継続しました。脱水傾向が出ているにもかかわらず内服を継続したことでカルシウム値が上昇し、さらに脱水が悪化する、という悪循環が生じていたのです。身体状況の変化で調整が必要になった薬剤に気付かず、高カルシウム血症を生じさせてしまった……。この苦い経験を通じて、緩和ケアに限らず、高齢者の診療では高カルシウム血症の可能性を忘れないようにしよう、と誓いました。今回は私の失敗談も含めてお話ししました。皆さまの参考になれば幸いです。今日のTips今日のTipsがん患者、とくに高齢患者では、高カルシウム血症を常に疑う。

6.

腎臓がん患者でのニボルマブの皮下注は点滴静注に劣らず

 治療歴を有する腎細胞がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)の皮下注は、点滴静注と比べて薬物動態と奏効率について非劣性であることが、米ロズウェルパーク総合がんセンターのSaby George氏らが実施した臨床試験で示された。研究グループは、「この結果は、がん患者の時間と医療費の削減につながる可能性がある」と述べている。この研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿器がんシンポジウム(1月25~27日、米サンフランシスコ)で発表された。 George氏は、「ニボルマブの点滴静注は患者にとって大きな負担となる。ニボルマブを皮下注で投与できるのであれば、点滴椅子に1時間座っての治療が所要時間5分の注射で済むため、患者の治療体験は大幅に改善されるはずだ」と話す。 今回の試験では、ロズウェルパークを含む17カ国73カ所のがん治療センターで標準的な治療を受けた進行または転移性淡明細胞型腎細胞がん患者495人を、ヒトヒアルロニダーゼ配合のニボルマブを点滴静注で投与する群(247人、年齢中央値66歳)と皮下注で投与する群(248人、年齢中央値64歳)にランダムに割り付け、転帰を比較した。対象者は1〜2種類の標準的な化学療法をすでに受けていたが、免疫療法薬の使用は初めてだった。 その結果、ニボルマブの初回投与から28日目までの同薬の平均血中濃度と定常状態での同薬の最低血中濃度について、皮下注群は点滴静注群に対して非劣性であることが確認された(平均血中濃度:幾何平均比2.098、90%信頼区間2.001〜2.200、最低血中濃度:同1.774、1.633〜1.927)。また、盲検下独立中央判定委員会(BICR)が評価する客観的奏効率(ORR)は、皮下注群で24.2%、点滴静注群で18.2%であり、無増悪生存期間は前者で7.23カ月、後者で5.65カ月であった。 研究グループは、「ニボルマブは複数のがん種にわたって米食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。そのため、今回、腎細胞がん患者に対して示された同薬の有効性は、他のがん治療にも適用できる可能性を示唆するものだ」との見方を示す。 一方George氏は、「これは患者にとっても医師にとっても画期的な成果だ。患者がニボルマブによる治療を容易に受けられるようになることは間違いない」とロズウェルパークのニュースリリースで述べている。同氏は、「ニボルマブの皮下注が可能になれば、クリニックでのニボルマブ投与が可能になり、患者を輸液センターに送る必要がなくなる。そうなれば、患者に薬剤が投与されるまでの時間も短縮されるだろう」と話す。また、クリニックでの投与が可能になれば、治療へのアクセスの問題も緩和されるため、都市部と地方のがん患者間の格差も縮小する可能性があると指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

7.

2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

8.

脳梗塞急性期の尿酸値低下が転帰不良に関連―福岡脳卒中データベース研究

 脳梗塞急性期に尿酸値が大きく低下するほど、短期転帰が不良であることを表すデータが報告された。九州大学大学院医学研究院病態機能内科学の中村晋之氏、松尾龍氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月29日掲載された。この関連は交絡因子調整後にも有意であり、かつ年齢や性別、入院時の尿酸値、脳梗塞の重症度にかかわらず、一貫して認められるという。 高尿酸血症は脳梗塞を含む心血管疾患発症のリスクマーカーであることは明らかになっており、独立したリスクファクターである可能性も示唆されている。その一方で尿酸には強力な抗酸化作用があり、尿酸値高値と健康関連指標の一部が良好であることとの関連を示した報告も散見される。ただし、脳梗塞急性期の尿酸値の変動と予後との関連は、ほとんど研究されていない。中村氏、松尾氏らはこの点について、福岡県内の急性期病院7施設が参加している「福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry:FSR)」(研究代表者:北園孝成氏)のデータを解析して検討した。 2007年6月~2019年9月に脳梗塞発症後1週間以内に入院した患者1万5,569人から、発症以前に生活機能障害のあった患者、追跡期間が発症後3カ月未満の患者、入院中に尿酸値が入院初日を含め2回以上測定されていなかった患者などを除外し、4,621人(平均年齢70.1±12.2歳、男性64.4%)を解析対象とした。主要評価項目は、脳梗塞発症3カ月時点の転帰不良〔修正ランキンスケール(mRS)が3~6点〕と、機能的依存〔mRSが3~5点(転帰不良から死亡を除外)〕とし、副次的に入院中の神経学的改善〔米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)が4点以上低下または退院時に0点〕、神経学的悪化(NIHSSが1点以上上昇)などを評価した。 入院時の尿酸値は、男性が平均6.01±1.61mg/dL、女性は5.11±1.65mg/dLであり、男性・女性ともに入院1~3日目、4~6日目、7~10日目に測定されていた値は、入院初日より有意に低値だった。入院中の尿酸値の低下幅(入院初日と入院期間中に記録された最低値)の四分位で4群に分けて比較すると、低下幅の大きい群ほど高齢で女性の割合が高く、BMIが低値であり腎機能(eGFR)が低く、再灌流量療法施行率が高くNIHSSスコアが高値であり、入院期間が長いという有意な傾向が認められた。 解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、eGFR、発症前mRSスコア、入院時尿酸値、NIHSSスコア、入院期間、喫煙・飲酒習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動の既往、脳梗塞病型(心原性/非心原性)、再灌流療法の施行など〕を統計学的に調整後、入院中の尿酸値の低下幅と主要評価項目との間に有意な関連が見られた。具体的には、尿酸値低下幅の第1四分位群を基準として第3四分位群は転帰不良のオッズ比(OR)が1.51(95%信頼区間1.16~1.96)、第4四分位群はOR2.66(2.05~3.44)であり、機能的依存については同順にOR1.48(1.13~1.95)、OR2.61(2.00~3.42)だった(ともに傾向性P<0.001)。 副次的評価項目の神経学的改善は入院中の尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が低く、反対に神経学的悪化は尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が高かった(ともに傾向性P<0.001)。 続いて、年齢(75歳未満/以上)、性別、脳梗塞病型、神経学的重症度(NIHSSスコア5点未満/以上)、慢性腎臓病の有無、入院時の尿酸値(男性は5.9mg/dL、女性は4.9mg/dLで二分)で層別化したサブグループ解析を実施。その結果、いずれの群においても、入院中の尿酸値の低下幅が大きいほど、転帰不良のオッズ比が高いという有意な傾向性が示された。 以上を基に著者らは、「脳梗塞急性期の尿酸値の低下は好ましくない短期転帰と独立して関連していることが明らかになった」と結論付けている。なお、「本研究が観察研究であるため因果関係は不明」と述べた上で、脳梗塞急性期に尿酸値が変化するメカニズムとしては、輸液などによる体液量の変化や栄養素摂取量の低下などの影響を考察として記している。また、尿酸値低下と転帰不良との関連のメカニズムに関しては、尿酸が酸化ストレス抑制を介して脳神経細胞や血管内皮細胞に対して保護的に働く可能性があり、その作用の減弱によるものではないかとしている。

9.

ヒドロコルチゾン単体では敗血症性ショックによる死亡リスクは低下せず

 敗血症性ショックの患者に副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)のヒドロコルチゾンを単独投与しても死亡リスクを低下させることはできないが、他のステロイドと併用することで生存率が向上し、昇圧薬を使用せずに済む可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の麻酔科教授であるRomain Pirracchio氏らが実施したこの研究結果は、「NEJM Evidence」に5月22日掲載された。 敗血症とは、感染に対して全身が極端な反応を示し、心臓や肺などの体の重要な臓器に障害が生じる病態をいう。毎年、世界中で約5500万人が敗血症を発症し、1100万人が死亡している。敗血症では早期に気付くことが重要であり、治療としては、感染源のコントロール、抗菌薬の投与、輸液、昇圧薬(血圧を上昇させる働きを持つ薬剤)の投与などが行われる。敗血症のうち、輸液負荷を行っても血圧が危険なレベルに低下した状態が続き、血中乳酸値が高いままの病態を敗血症性ショックと呼ぶ。 敗血症性ショックに対する治療では、ステロイドが50年以上前から使用されているが、それが患者の死亡に与える影響については不明な点が多い。今回、Pirracchio氏をメンバーに含む国際共同研究チームは、敗血症性ショックの成人患者の管理におけるヒドロコルチゾンの静脈内投与の効果について、メタ解析で検討した。最大400mg/日のヒドロコルチゾンの静脈内投与を72時間以上受けた敗血症または敗血症性ショックの成人患者の群と、プラセボか通常のケア、または別のレジメンでヒドロコルチゾンの投与を受けた対照群を比較したランダム化比較試験を検索し、計24件の臨床試験(対象者の総計8,528人)を選出した。このうち17件の研究(同7,882人)には個々の患者データが、また7件の研究(同5,929人)には90日間での死亡率に関するデータがそろっていた。主要評価項目は90日間での全死亡、副次評価項目は、28日および180日時点での集中治療室での全死亡または退院、昇圧薬や人工呼吸器離脱までの時間、昇圧薬や人工呼吸器の使用・臓器不全が認められない日数とした。 その結果、ヒドロコルチゾン群では対照群と比べて90日間での死亡率の有意な低下は認められなかった(相対リスク0.93、95%信頼区間0.82〜1.04、P=0.22)。ただし、二次解析では、ヒドロコルチゾンに加え、同じくステロイドのフルドロコルチゾンを併用した場合には、対照群に比べて90日間での死亡率に有意な低下が認められた(同0.86、0.79〜0.92)。副次評価項目に関しては、昇圧薬の使用についてのみ、対照群との間に有意な差が認められ、ヒドロコルチゾン群では昇圧薬を必要としない日数が平均1.24日多かった。 Pirracchio氏は、「本研究は、敗血症性ショック患者に対するヒドロコルチゾン投与の効果を、これまでに報告された主なランダム化比較試験の個々のデータの分析により初めて検討したものだ」と述べる。そして、「本研究により、敗血症性ショックによる死亡に対するヒドロコルチゾン投与の効果はわずかではあるが、投与することで患者への昇圧薬の使用を控えることができ、その結果、合併症を予防できる可能性のあることが明らかになった。また、ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用は、死亡率の点では大きなベネフィットをもたらす可能性も示唆された」と話している。

10.

がん患者の遠隔診療に対する満足度は対面診療よりも高い

 ビデオや電話による遠隔診療の利用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの間に飛躍的に拡大した。特にがんの治療では、免疫力が低下している患者の感染を極力抑える必要があることから、利用の伸び幅は大きかった。こうした中、がん患者の遠隔診療の経験に関する大規模調査データを分析した結果、患者の満足度は対面診療よりも高いことが明らかになった。米モフィットがんセンターのKrupal Patel氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Comprehensive Cancer Network」5月号に掲載された。 米政府は5月11日、新型コロナウイルスに関する公衆衛生上の緊急事態宣言を解除した。これを受けて、COVID-19パンデミック中に認められた、遠隔診療を広範に利用するための柔軟な措置も撤廃される可能性がある。この点についてPatel氏は、「もしそうなれば残念なことだ。遠隔診療は、適正な実施条件のもとで適切な患者に提供されれば、対面診療に代わる貴重な選択肢となり得る」と話す。同氏によると、遠隔診療では、スケジュールのより柔軟な設定、診察室や病院への交通費削減や移動時間の短縮が可能になるため、がん患者にとってのベネフィットは非常に大きいのだという。 今回の研究では、モフィットがんセンターで2020年4月1日から2021年6月30日の間に治療を受け、調査に回答した患者3万3,318人のデータを分析した。対象患者のほとんど(3万3,318人)は対面診療を、残りの5,950人は遠隔診療を受けていた。 その結果、診療へのアクセスについて高い満足度を示した患者の割合は、遠隔診療を受けた患者で75.8%、対面診療を受けた患者で62.5%であり、遠隔診療を受けた患者の満足度の方が有意に高いことが明らかになった(P<0.001)。また、医師の対応や心配りに高い満足度を示した患者の割合は、遠隔診療を受けた患者で90.7%、対面診療を受けた患者で84.2%であり、やはり遠隔診療を受けた患者の満足度の方が有意に高かった(P<0.001)。この結果は調査期間を通して維持され、また年齢や保険加入状況など、遠隔診療の印象に影響を与える可能性のある因子を考慮しても変わらなかった。 こうした結果が判明したとはいえ、Patel氏は、「遠隔診療が常に適切とは限らない。われわれのがんセンターでは、まずトリアージを行い、対面診療の必要性の有無を判断する。遠隔診療は決してオンデマンドのサービスではない」と話す。 この研究には関与していない、米シティ・オブ・ホープの最高医療情報責任者であるPaul Fu氏もPatel氏に同意を示し、「がん専門医が提供するケアの多くは、バーチャルでは提供できない」と話す。Fu氏は、「当センターでも同じ期間中に遠隔診療が増加したものの、われわれが独自に行った評価では、一貫して遠隔診療よりも対面診療の方が良い成績を残していることが示された」と説明する。同氏は、「それらの診療の多くは、がん治療では避けられない複雑さと個別化の必要性に関係している」と指摘する。 一方、米ノースウェルヘルスがん研究所の副医長兼腫瘍内科部長を務めるRichard Carvajal氏は、「遠隔診療は、医師とがん患者にとって非常に素晴らしい経験となった」と振り返る。同氏は、「当初は、有害事象の増加や懸念事項の見落としなどが生じる可能性が心配されたが、それが実際に起こったという証拠はない」と述べ、「われわれが思っていた以上に遠隔診療でできることは多い。輸液が必要だったり、深刻な合併症が生じる可能性がある場合には対面での診療が必要だが、がんに対する薬物療法や長期的な治療を受けている人の毒性チェックは、遠隔診療で高頻度に実施することができる」と話している。

11.

加速する医療のタスク・シフト、今後はどう変わる? 【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第111回

薬局で薬剤師として働いている方は、薬剤師業務を行う中で「もうちょっとやれることが広がったらな」と一度は思ったことがあるのではないでしょうか。小さな話ですが、私は薬局で薬剤師が患者さんに湿布を貼ってあげてもよいのか、それは医療行為にあたるのか、と薬局で話し合ったことがあります。医療行為のタスク・シフト/シェアに動きがありそうです。政府の規制改革推進会議は6月1日、今後取り組む263項目の答申をまとめた。人手不足対策として、医師の業務を看護師に移すなどの「タスク・シフト」を明記したほか、人工知能(AI)を使った医療機器の開発促進などを盛り込んだ。政府は6月半ばに実施計画を閣議決定する。(中略)タスク・シフトについては、国の研修を受けた看護師が一部の医療行為を担える制度の普及が進んでいない。この研修を2024年度中に受けやすくするほか、看護師が担える業務を明確にし、業務範囲を広げることも検討する。(2023年6月1日付 朝日新聞デジタル)看護師は主に医師の診察・治療の補助を行いますが、医師の指示の下で一定の医療行為はできるとされています。さらに難易度の高い特定の医療行為については、国の研修を受講した看護師が担える制度が2015年に始まりました。しかし、研修が長時間に及ぶなどの理由で普及が想定どおりに進みませんでした。現在、医師が看護師に医療行為を指示する場合、日時や薬剤名を指定する「具体的指示」と、患者の状態変化を予測して一定範囲の行為を示す「包括的指示」があります。近くに医師がいる病院勤務の看護師と異なり、訪問看護師は医師と連絡がつかない場合などに患者への迅速な処置ができない事例があったことを踏まえ、上記の答申案では包括的指示で実施できる行為を2023年度中に明確にするよう求めました。包括的指示の範囲拡大の例として、「一定以上の発熱の場合は検査や投薬を実施する」などが挙げられています。これらにより、医師の不在時に訪問看護師が投薬の必要性などを判断することになるかもしれません。あくまでも個人的な印象ですが、少し前までは看護師の業務拡大などと聞くと、「看護師に負けない!」という薬剤師の声が聞こえましたが、ここ最近は聞かなくなったなという印象があります。在宅医療に携わる薬剤師が増えてきて、勝ち負けではなく、他の専門職といかに協働していくか、その現場でいかにその専門性を発揮するかという点にフォーカスされるようになってきたのではないでしょうか。また、答申では、訪問看護師が薬剤をすぐに入手できるよう24時間対応薬局の普及に向けた輪番制導入も促すとしています。現在、訪問看護ステーションに配置できる薬剤は限られているため、脱水症状で医師から点滴の指示が出ても、看護師が輸液を取りに行くのに往復で数時間かかるといったケースもあるようです。これとともに、配置できる薬剤の対象を拡充できないかという検討も規制改革推進会議で進められています。2024年4月から時間外労働の上限規制が医師にも適用されるため、医療現場は大きく変わろうとしています。また、高齢化や人材不足などさまざまな問題もある中、現場でそれぞれの職種が協力し、質・効率ともによい医療が提供されることが望まれています。

12.

分娩後異常出血、ドレープによる早期検出と一連の初期治療が有効/NEJM

 分娩後異常出血について、目盛り付き採血ドレープによる早期検出と、子宮マッサージ、オキシトシンやトラネキサム酸投与などによる一連の初期治療により、重度分娩後異常出血や出血による開腹手術または母体死亡の複合リスクの低下に結び付くことが示された。世界保健機関(WHO)のIoannis Gallos氏らが、ケニア、ナイジェリアなど80の病院を対象に行った国際クラスター無作為化比較試験の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2023年5月9日号掲載の報告。重度分娩後異常出血、出血による開腹手術や母体死亡の統合リスクを比較 研究グループは、経膣分娩を行った女性を対象に、分娩後異常出血に関する多種の介入を評価した。介入は、分娩後異常出血の早期検出を目的とした目盛り付き採血ドレープと、一連の初期治療(子宮マッサージ、オキシトシン、トラネキサム酸、静脈内輸液、検査、エスカレーション)で、介入群の病院に対しては実施戦略によるサポートを行った。対照群の病院では、通常ケアが行われた。 主要アウトカムは、重度分娩後異常出血(失血量1,000mL超)、出血による開腹手術、出血による母体死亡の複合だった。主要な副次アウトカムは、分娩後異常出血の検出、一連の治療順守だった。主要複合アウトカムの発生率、通常ケア群4.3%に対し介入群1.6% ケニア、ナイジェリア、南アフリカ共和国、タンザニアの2次レベルの病院、合計80ヵ所で、経膣分娩を行った21万132例を対象に試験を行った。 データの得られた病院および被験者において、主要アウトカムのイベント発生は、通常ケア群4.3%に対し、介入群は1.6%だった(リスク比:0.40、95%信頼区間[CI]:0.32~0.50、p

13.

第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 「看護師に処方権」「NP国家資格化」の行方は?

ジャニーズの性加害問題報道でNHKが「反省」の弁こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、メディアはG7広島サミットの話題に加え、ジャニーズ事務所の「謝罪」動画、歌舞伎役者の自殺未遂事件など社会部ネタが頻発し、バタバタだった模様です。ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待については、この連載の「第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)」でも簡単に触れたのですが、「謝罪」動画公開後の5月17日にNHKで放送された「クローズアップ現代」(クロ現)はなかなか興味深い内容でした。「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」と題されたこの回の「クロ現」では、元ジャニーズJr.の男性が実名で登場、自身が受けた性被害の詳細を語っていました。印象的だったのは、桑子 真帆キャスターが、「なぜこの問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」と反省の弁を述べ、番組の最後に「私たちは、これからも問題に向き合っていきます」と語ったことです。日本で長年に渡って起こっていた性被害事件にもかかわらず、日本のメディアで報道してきたのは週刊文春などごくわずかです。英国BBCのドキュメンタリーが放映されたので渋々動きました、というのではNHKも報道機関としての存在意義が問われても仕方ありません。今回、NHKの顔とも言えるキャスターが番組で反省の弁を述べたというのは、とても大きな意味があることだと思います。逆に言えば、ジャニーズ事務所に忖度し、BBCのドキュメンタリーや今回の「謝罪」動画に関しても、お茶を濁した報道しかしていない民放(「クロ現」ではジャーナリストの松谷 創一郎氏が「民放の人たち、テレビ朝日やフジテレビなんかはとくにそうですけれども」と名指しして批判していました)は、報道機関としては完全に“失格”と言えそうです。人口減少に対する、医療関係団体の希薄過ぎる危機感さて、今回も4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」に関連して、日本の医療に及ぼす影響について考察してみます。前回は、一向に進まない地域医療構想や、病院の役割分担の明確化や病床削減などへ取り組みの遅れなど、医療提供体制における問題点について書きました。今回は、急速に進む人口減少が招くであろう医療・介護人材難に対して、日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体の危機感が希薄過ぎる点について書きます。訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案に「断固反対」と日本薬剤師会会長5月12日付のメディファクス等の報道によれば、日本薬剤師会の山本 信夫会長は5月10日に開かれた三師会の会見で、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と述べたとのことです。この案は、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループで3月6日、医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団 悠翔会理事長)と弁護士の落合 孝文専門委員が提案したものです。佐々木氏は関東を中心に在宅医療専門のクリニックを複数ヵ所運営する医療法人を経営しています。佐々木氏らが提案したのは、訪問看護ステーションに配置する薬剤の種類を増やし、訪問看護師がある程度自由に使用できるようにするための新しいスキームです。現状では看護師が薬局で薬剤を入手してから患者宅に向かうか、看護師から連絡を受けた薬剤師が薬剤を配達しているのですが、このスキームによって患者への薬剤提供が効率化される、としています。このスキームでは、薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与します。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬します。なお、倉庫内に配置する薬剤としては、脱水症状に対する輸液、被覆剤、浣腸液、湿布、緩下剤、ステロイド軟膏、鎮痛剤などを想定しているとのことです。薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」現状、薬剤師法などで、調剤を行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて薬剤師に限られています。山本会長は、この改革案は医師の処方権、薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」と述べたそうです。その上で、在宅医療の提供について、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と述べたとのことです。他の医療・看護・介護拠点が薬局機能を代替して何が悪い?「薬局の遠隔倉庫」案と呼ばれるこの案、患者が薬剤を手に入れるまでの時間が短縮されるだけでなく、調剤をする薬局自体がない地域や、土日や夜間は営業しない薬局しかない地域では、とても便利で現実的な方策に見えます。「薬剤師の調剤権を侵害」「チーム医療が本来の姿」と山本会長は語っています。しかし、そもそも薬局薬剤師が機能しない地域や時間帯があるなら、ほかの医療・看護・介護拠点がその機能を代替して何が悪いというのでしょう。山本会長の発言は、薬剤師のことは考えているが、患者のことは考えていないように感じます。ちなみに、令和4年度の厚生労働白書によれば、2020年度において、無薬局町村は34都道府県で136町村あるそうです。「包括指示」の仕組みを活用、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」案も規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは先週、5月15日にも開かれ、佐々木氏は「薬局の遠隔倉庫」案をベースとした、もう一歩踏み込んだ改革案を提案しています。5月16日付のCBnewsマネジメントの報道によれば、佐々木氏は一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できる規制緩和策を検討すべきだと提案したとのことです。具体的には、医師に連絡がついたものの処方箋を発行できない場合、看護師は医師の指示に基づいて処方箋を発行できる医師と連絡がつかない場合、看護師は医師の包括的指示に基づいて処方箋を発行できる24時間対応を標榜する薬局がある場合、薬剤師は迅速・確実に患者宅に薬剤を届ける。24時間対応の薬局がなければ訪問看護事業所に薬剤を配備し、看護師がその備蓄から薬剤を使用することができる24時間対応する薬局の有無にかかわらず、訪問看護事業所内への輸液製剤の配備を可能とするなお、佐々木氏は、これらの対象となる薬剤(輸液製剤を含む)の範囲をあらかじめ指定しておくことも提案しています。医師から看護師への「包括指示」の仕組みを活用して、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」という大胆な提案です。日本薬剤師会が再び激怒しそうですが、働き方改革や人材難を背景に、タスクシフト/タスクシェア推進が叫ばれる中、とても理に適った提案ではないでしょうか。「NPを導入し、国家資格として新たに創設するというのは適切ではない、反対だ」と日本医師会政府の規制改革会議ですが、その議論や提案はいつもラジカルで、旧態依然とした医療関係団体を時折怒らせています。2月13日、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、医師と看護師のタスクシェア、とくにナース・プラクティショナー(NP)について日本医師会等にヒアリングを実施しました。NPとは、端的に言えば、医師と看護師の中間的な技量を有した医療専門資格です。現行の特定行為研修を修了した看護師ができる医療行為の範囲を超えて、“医師のように”自主的に医療行為が行える新しい国家資格(NP)をつくろうというのがNPの国家資格化のコンセプトです。米国においてNPは医師の指示・監督がなくても診察、診断、治療・処方のオーダーができる資格として確立しています。この回のワーキング・グループに日本医師会から参加した常任理事の釜萢 敏氏は「外国で行われているものを日本に導入すれば必ずうまくいくというものでは決してない。特定行為研修の修了者を増やしていくという方向に大きく踏み出したので、まずそれをしっかり実現することが喫緊の課題。NPという新たな職種を導入し、国家資格として新たに創設するというのは、現状において適切ではない、反対だ」と述べました。日本医師会などが慎重な姿勢を示してきたため業務範囲の拡大は遅々として進まず医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトを巡っては、これまで日本医師会などが慎重な姿勢を示してきました。そのため、実際の医療現場での業務範囲の拡大は遅々として進んでいません。2021年5月の医療法等改正においても、業務範囲が拡大されたのは診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士のみで、“本丸”とも言える看護師には踏み込んでいません(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)。政府の規制改革推進会議が昨年5月に決めた令和4年度の最終答申には「医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトの推進」は記述されていますが、より本格的な検討は今期の同会議の“宿題”となりました。その後、議論を進めてきた規制改革推進会議は、昨年12月に当面の改革テーマに関する中間答申をまとめました。そこには、医師や看護師が職種を超えて業務を分担する「タスクシェア」の推進が明記され、医師の業務の一部を看護師らに委ねる「タスクシフト」も進めると書かれました。それを踏まえ、看護師らが担える業務の対象拡大を主要テーマとして、医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが議論を進めてきた、というのがこれまでの流れです。6月にまとめられる規制改革推進会議の最終答申に注目それにしても、医師や薬剤師がタスクシェア・タスクシフトをこうも毛嫌いする理由はなんでしょう。自分たちの仕事が、「看護師ごときには対応できないほど高度なもの」とでも考えているのでしょうか。あるいは逆に、「意外に簡単で誰にでもできそうであることがバレるのが怖い」のでしょうか。確か、日本医師会は医師増(医学部新設)にも反対していましたから、単に自分たちの既得権を守りたいだけなのかもしれません。前回の冒頭で書いた青森の下北半島ではないですが、現状、医師確保にあえいでいる地域は全国にたくさんあります。人口減が今以上に進めば、無医町村も増えていくでしょう。そんな中、相応の資格を得た訪問看護ステーションなどの看護師が、処方を含む医療行為を自らの判断で行うことができるようになれば、地域医療に一定の安心感を与えるのではないでしょうか。また、老人保健施設や介護医療院は医師でなければ施設長になれませんが、高齢者医療を専門とするNPが施設長になることができれば、貴重な医師人材の節約にもつながります。今年6月にもまとめられる予定の令和5年度の規制改革推進会議の最終答申に、医師から看護師への包括指示の活用や、訪問看護師への処方権付与、NP国家資格化といった、ワーキング・グループで議論されてきた内容がどれくらい盛り込まれることになるか、注目されます。

14.

血友病B、AAV5ベクターを用いた遺伝子治療が有効/NEJM

 血友病Bの成人患者において、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬etranacogene dezaparvovecは、年間出血率に関して第IX因子定期補充療法に対する優越性が認められ、安全性プロファイルは良好であることが、米国・ミシガン大学のSteven W. Pipe氏らが実施した非盲検第III相試験「Health Outcomes with Padua Gene; Evaluation in Hemophilia B:HOPE-B試験」の結果、示された。中等症~重症の血友病Bに対しては、出血予防のため生涯にわたり血液凝固第IX因子を補充する治療を継続する。血友病Bの遺伝子治療は、第IX因子活性を維持することで、第IX因子の補充療法なしで出血を予防できる可能性があった。著者は、「遺伝子治療が血友病B患者の治療の負担を軽減し、QOLを改善する可能性がある」とまとめている。NEJM誌2023年2月23日号掲載の報告。血友病B患者54例に、etranacogene dezaparvovecを単回投与 研究グループは、血友病B(第IX因子活性≦正常値2%)の男性患者54例に、第IX因子定期補充療法の導入期間(≧6ヵ月)後に、第IX因子Padua変異を発現するAAV5ベクターであるetranacogene dezaparvovec(2×1013ゲノムコピー/kg体重)を、AAV5中和抗体の有無にかかわらず単回投与した。 主要エンドポイントは年間出血率で、etranacogene dezaparvovec投与後7~18ヵ月の出血率を導入期間の出血率と比較する非劣性解析を実施した。非劣性マージンは、年間出血率比の両側95%Wald信頼区間(CI)の上限が1.8未満と定義した。優越性、追加の有効性評価項目、安全性についても評価した。年間出血率、第IX因子定期補充療法に対して有意に減少 年間出血率は、導入期間4.19(95%CI:3.22~5.45)に対し、投与後7~18ヵ月は1.51(95%CI:0.81~2.82)に低下した。率比は0.36(95%Wald CI:0.20~0.64、p<0.001)で、95%Wald CIの上限(0.64)が非劣性マージン(1.8)より小さく、かつ1より小さいことから、etranacogene dezaparvovecの第IX因子定期補充療法に対する非劣性および優越性が認められた。 第IX因子活性のベースラインからの増加(最小二乗平均値)は、投与後6ヵ月時点36.2ポイント(95%CI:31.4~41.0、p<0.001)、18ヵ月時点34.3ポイント(29.5~39.1、p<0.001)であった。また、第IX因子濃縮製剤の使用量は、投与後7~18ヵ月の期間で導入期間より患者1例当たり年間で平均248.825 IU減少した(p<0.001)。 投与前のAAV5中和抗体価が700未満の患者において、有益性と安全性が確認された。 治療関連有害事象は37例(69%)に発現し、主なものはALT増加、頭痛、インフルエンザ様症状、AST増加などであった。重篤な治療関連有害事象は発生しなかった。輸液関連有害事象は7例(13%)に認められた。1例は投与後約15ヵ月で心原性ショックにより死亡したが、治験責任医師により治療と関連なしと判定された。

15.

1型糖尿病におけるオープンソースAID(自動インスリン送達)システムの効果(CREATE試験)(解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病の治療において、一般にインスリン頻回注射療法あるいはインスリンポンプ療法が用いられる。これまでCGM(持続血糖モニター)を用いたインスリンポンプ療法とオープンソースのAID(自動インスリン送達)システムの効果について比較した試験はなかった。今回ニュージーランドの施設において実施された、オープンソースAIDシステムとセンサー付きインスリンポンプ療法(SAPT)システムの安全性および有効性を比較する初の多施設ランダム化比較試験(CREATE試験)の結果が報告された1)。 AIDシステムとは、CGMを搭載したインスリンポンプ療法(SAPT)に、インスリン送達を自動的に調整して血糖値を目標範囲内に維持するアルゴリズムを組み合わせた方法である。そして企業が開発し非公開のアルゴリズムを用いる商用AIDシステムとは異なり、糖尿病患者らが開発・公開し修正を重ねてきたアルゴリズムを用いるシステムをオープンソースAIDシステムと呼んでいる。 CREATE試験は、7~70歳の1型糖尿病患者97例(7~15歳の小児患者48例と16~70歳の成人患者49例)を対象に、オープンソースAIDシステムの1つであるAnyDANA-loopの安全性と有効性を初めてRCTで検討した試験である。対象全例にインスリンポンプとCGMに慣れてもらい、その後ランダムにAID群(インスリンポンプ[DANA-i]+CGM[Dexcom G6]+オープンソース人工膵臓システム[APS]アルゴリズムAndroid APS)44例(小児21例、成人23例)とSAPT群(インスリンポンプ+CGM)53例(同27例、26例)の2群に割り付けた。主要評価項目は、24週間のRCT期間の最後2週間に血糖値が目標血糖値範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合(time in range:TIR)の群間差とした。 解析の結果、主要評価項目のTIRがAID群ではベースラインの61.2±12.3%から24週時に71.2±12.1%へ上昇したのに対し、SAPT群では57.7±14.3%から54.5±16.0%へ低下しており、有意な差が認められた(補正後平均群間差:14.0ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~18.8、p<0.001)。また、AID群では1日のTIRがSAPT群よりも3時間21分長かった。安全性については、重篤な低血糖および糖尿病性ケトアシドーシスは、RCT期間終了時までにAID群、SAPT群のいずれにも認められなかった。重篤な有害事象は、AID群で2件(輸液セットの不具合に起因する高血糖による入院と、糖尿病とは無関係の入院)、対照群で5件(インスリンポンプの不具合による高血糖が1件、糖尿病とは無関係のイベントが4件)認められた。 オープンソースAIDシステムは、糖尿病患者の負担を軽減するために糖尿病患者によって開発され、商品化されたAIDシステムが発売される前から世界中の1型糖尿病患者によって使用されてきた。現在複数のオープンソースAIDシステムが存在し、世界中で2,720人以上の糖尿病患者が利用しており、6,250万時間以上のリアルワールドデータが蓄積していると報告されている2)。オープンソースAIDシステムのメリットは商用AIDシステムより安価である点であるが、米国食品医薬品局(FDA)など規制当局の承認は受けておらず、通常のインスリンポンプ療法と比べて血糖コントロールが改善するか、あるいは有害事象が増加しないかといった点については不明であった。 著者らは「オープンAPSアルゴリズムを用いたオープンソースAIDシステムはSAPTシステムに比べ、1型糖尿病の小児および成人において安全で有効であることが示された」と結論付けているが、今回の試験の症例数は少なく、さらなる検討が必要である。また、オープンソースAIDシステムと商用AIDシステムを比較検討した試験はまだ報告されていない。日本ではようやく2022年から基礎インスリン注入量を自動調整する商用AIDシステムが使用できるようになったところである。今後これらのAIDシステムの有効性や安全性を比較検討する必要があるだろう。

16.

教育研修プログラムとして高く評価(解説:野間重孝氏)

 現在ヨード造影剤を用いた検査・治療手技は日常診療で欠かすことのできない存在となっている。その際問題になるのが造影剤による急性腎障害(CIN)であり、ヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5mg/dL以上、または前値より25%以上上昇した場合と定義される。CINは院内発症の急性腎障害(AKI)の10~13%に及ぶと考えられ、多くのAKIが不可逆的であるのと同様にCINもその多くが不可逆的であり、その後の治療の大きな障壁となる。検査・治療に当たる医師は最大限の注意を払うことが求められ、裏付けとなる十分な知識・経験と技術が求められるところとなる。 本研究は非緊急冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンションを施行する心臓専門医に対して教育、造影剤投与量および血行力学的に誘導された輸液目標に対するコンピュータによる臨床的意志決定支援、監査とフィードバックを行い、介入前後の成績を比較検討したものである。この一連の報告は、研究というより教育・研修プログラムの効果判定とその報告と考えるべきで、その意味から今回の試みは成功だったと評価されると考えられる。 一連のプログラムの実施と評価にStepped Wedge Cluster Randomized Trial方式を用いたことは的を射ているといえる。この方法にはあまりなじみのない方が多いのではないかと思うので解説させていただくと、地域や施設などの1つのまとまり(この場合はある医師の集団)をクラスターとして、介入時期をランダム化し、介入時期をずらして全クラスターで介入を実施する試験デザインをいう。この方法では介入前後の比較はできるが非介入群vs.介入群の無作為比較はできないため、一般的な比較対照試験というより一種のコホート研究と考えるのが適当である。本試験で重要な点は患者を対象とした無作為試験を行うことなく、参加した全医師が指導プログラムを受講し、受講の効果に対する評価を受けたことである。こうした評価方法は私たちも何か重要な研修プログラムを組んで実施する場合、大いに参考にすべき事例だと考えられよう。 繰り返しになることを恐れずに述べると、本研究をCIN発症予防法の検証と捉える読み方は適当ではない。CINに対しては予防が重要であるが、さまざまな臨床研究が行われているものの、現時点での有効な予防法は、造影剤使用量を最小限にすることと、適切な輸液のみだからである。有効な治療薬は見いだされておらず、緊急の透析も効果がないことが知られている。そうした状況の中、検査・治療前の患者のリスクと病態の把握、造影剤使用時に中止すべき薬剤に対する注意などが重要であることは言うまでもない。 このような講習を受けて検査・治療に当たるアンジオグラファーは何を考えるだろうか。輸液量はチームの計画の問題であるが(パスで決められている場合が多い)、造影剤の使用量は一に掛かって施行医の技量と判断能力に掛かっていることに気付くはずである。それが実際の数字として目の前に提示されるのである。必ず新たな向上心が醸成されるはずである。こうしたプログラムに基づいて自覚を新たにした若手医師たちが育ってくれるとするならば、こんなに頼もしいことはない。本研究を教育・研修プログラムとその報告として高く評価するものである。

17.

英語で「母乳と粉ミルク」は?【1分★医療英語】第48回

第48回 英語で「母乳と粉ミルク」は?How much do you breastfeed and formula feed?(母乳と人工乳の量はどのような感じですか?)Recently, I give my baby formula only.(最近は粉ミルクしか飲ませていません)《例文》医師Do you have any trouble breastfeeding?(何か母乳のトラブルなどの心配はありますか?)患者I feel like I do not produce enough breastmilk.(母乳の量が少ないような気がします)《解説》今回は小児患者さんにおける特有の表現をお伝えします。「母乳」と「人工乳(粉ミルク)」をそれぞれ“breastmilk”、“formula”というのですが、母乳、粉ミルクを与える行為のこと(母乳栄養/人工乳栄養)のことはそれぞれ“breastfeeding”、“formula feeding”と表現します。“breastfeeding”は一語ですが、“formula feeding”はなぜか2語です。“formula feeding”はほかにも“bottle-feeding”という言い方もあり、これは文字の通り「哺乳瓶」での“feeding”であり、「粉ミルクを与える行為一般」を指します。こちらに関してはなぜか“bottle”と“feeding”の間にハイフンを入れるのが一般的です(表記がそれぞれ違って混乱しますが、あまり気にしなくて大丈夫です)。“formula”という言葉はあまり日本人には馴染みがないので、とっさに言葉が出てこない際は“bottle-feeding”を使えば、問題なく患者さんに理解してもらえるかと思います。関連する用語として「授乳」は“lactation”で表現でき、《例文》 の「授乳に関して心配事はありますか?」であれば、“Do you have any concerns about breastfeeding / lactating?”と、両方の言い方が可能です。ちなみに米国では、一般に飲み物の量は“oz”(ounce)で表現します。日本で一般的な“ml”(milliliter)はあまり使われません。患者さんも“My baby drinks 3oz of formula every 2-3 hours.”「私の娘/息子は2~3時間ごとに粉ミルクを3オンス飲みます」といった言い方をしますので、“ml”に慣れている私は変換に困ることがよくあります。1ozはほぼ30mlですので、私はいつも頭の中で変換しながら会話しています。医療者の間では、輸液量の単位などでmlを使うので問題ありません。赤ちゃんのミルクに関する表現だけでも、さまざまなバリエーションがあって奥深いですね。講師紹介

18.

オープンソースの自動インスリン伝達システム、1型DM血糖コントロールを改善/NEJM

 7~70歳の1型糖尿病患者において、オープンソースの自動インスリン伝達(AID)システムはセンサー付きインスリンポンプと比較して、24週時に血糖値が目標範囲にある時間の割合が有意に高く、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間は3時間21分延長したとの研究結果が、ニュージーランド・オタゴ大学のMercedes J. Burnside氏らが実施した「CREATE試験」で示された。研究結果は、NEJM誌2022年9月8日号で報告された。ニュージーランドの無作為化対照比較試験 CREATE試験は、1型糖尿病患者におけるオープンソースAIDシステムの有効性と安全性のデータの収集を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2020年9月~2021年5月の期間に、ニュージーランドの4施設で参加者の登録が行われた(ニュージーランド保健研究会議[HRC]の支援を受けた)。 対象は、年齢7~70歳、1型糖尿病の診断を受けてから1年以上が経過し、インスリンポンプ療法を6ヵ月以上受け、糖化ヘモグロビンの平均値<10.5%(91mmol/mol)の患者であった。 被験者は、オープンソースAIDシステムまたはセンサー付きインスリンポンプ(対照)を使用する群に無作為に割り付けられた。また、年齢7~15歳が小児、16~70歳は成人と定義された。 AIDシステムは、AndroidAPS 2.8(標準的なOpenAPS 0.7.0アルゴリズムを使用)の修正版で、試作段階のDANA-iインスリンポンプとDexcom G6持続血糖モニター(CGM)を組み合わせて用いた。ユーザーインターフェースは、Androidスマートフォンアプリケーション(AnyDANA-Loop)だった。 主要アウトカムは、155~168日目(試験の最後の2週間[23~24週])に、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL[3.9~10.0mmol/L])にある時間の割合とされた。年齢による治療効果に差はない 97例が登録され、AID群に44例(小児21例[年齢中央値14.0歳、女児11例]、成人23例[40.0歳、15例])、対照群に53例(27例[11.0歳、13例]、26例[38.0歳、15例])が割り付けられた。ベースラインの平均糖化ヘモグロビン値は小児が7.5%、成人は7.7%だった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合の平均値(±SD)は、AID群がベースラインの61.2±12.3%から24週時には71.2±12.1%へ上昇し、これに対し対照群は57.7±14.3%から54.5±16.0%へと低下しており、有意な差が認められた(補正後平均群間差:14.0ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~18.8、p<0.001)。また、AID群は、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間が、対照群よりも3時間21分長かった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合が70%以上で、かつ範囲外(<70mg/dL)にある時間の割合が4%未満の患者は、AID群が52.0%であったのに対し、対照群は11.0%であった(補正後平均群間差:36.9ポイント、95%CI:25.9~48.5)。また、年齢による治療効果の差はみられなかった(p=0.56)。 小児では、AID開始から2週間以内には介入効果が認められ、24週の試験期間中も維持された。また、AID群は、夜間(午前0時~午前6時)の血糖値が目標範囲にある時間の割合が76.8±15.8%と、日中(午前6時~午後12時)の64.3±11.7%に比べて高かった。対照群は、それぞれ57.2±21.4%および50.9±17.4%であった。成人のAID群も小児と同様に、夜間が85.2±12.7%と高かったのに対し日中は70.9±12.7%であった。対照群は、それぞれ53.5±20.1%および57.5±14.4%であり、夜間と日中で同程度だった。 重度の低血糖および糖尿病性ケトアシドーシスは両群とも発現せず、インスリン投与のアルゴリズムおよび自動制御に関連した有害事象もみられなかった。また、重篤な有害事象は、AID群で2件(輸液セットの不具合に起因する高血糖による入院と、糖尿病とは無関係の入院)、対照群で5件(インスリンポンプの不具合による高血糖が1件、糖尿病とは無関係のイベントが4件)認められた(いずれも小児)。 著者は、「この試験の参加者は、多くの実臨床研究に比べ、より典型的な1型糖尿病であり、オープンソースAIDの使用経験がなかったことから、さまざまな1型糖尿病患者が、このシステムから利益を得る可能性があることが示唆される」としている。

19.

冠動脈造影/PCI時、コンピュータ支援で急性腎障害軽減/JAMA

 非緊急冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行する心臓専門医に対し、教育プログラムや造影剤投与量などに関するコンピュータによる監査とフィードバックを伴う臨床意思決定支援の介入を行うことで、これら介入のない場合と比べて施術を受けた患者が急性腎障害(AKI)を発症する可能性は低く、時間調整後絶対リスクは2.3%低下した。また、造影剤の過剰投与について同リスクの低下は12.0%だった。カナダ・カルガリー大学のMatthew T. James氏らが、心臓専門医34人とその患者を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果で、JAMA誌2022年9月6日号で発表した。AKIは、冠動脈造影やPCIでは一般的な合併症で、高コストおよび有害長期アウトカムと関連する。今回の結果について著者は、「こうした介入が今回の試験以外の環境下でも有効性を示すかどうか、さらなる検討が必要である」と述べている。患者7,106人を対象にクラスター無作為化試験 研究グループは、カナダ・アルバータ州の心臓カテーテル検査室3ヵ所で侵襲的治療を行う心臓専門医全員を対象に、ステップウェッジ・クラスター無作為化試験を行った。無作為化の開始日は、2018年1月~2019年9月の間。適格患者は、非緊急冠動脈造影またはPCI、もしくはその両方を施行し、透析は行っておらず、AKIリスクが5%超と予測される18歳以上だった。34人の医師が選択基準を満たした患者7,106人に対して7,820件の処置を行った。被験者のフォローアップ終了は2020年11月だった。 介入期間中、心臓専門医は、教育支援プログラム、造影剤投与量や血行力学ガイド下静脈内輸液の目標値に関するコンピュータによる臨床意思決定支援、および監査・フィードバックを受けた。介入期間前(対照期間)は、心臓専門医は通常ケアを提供し、介入は受けなかった。 主要アウトカムはAKIの発生とした。副次アウトカムは12項目で、造影剤投与量、静脈内輸液量、および主要有害心血管・腎イベントなどだった。解析は、時間調整モデルを用いて行われた。AKI発生率、介入群7.2%、対照群8.6% 心臓専門医34人は診療グループや医療センターにより8集団に分けられた。このうち、介入群には医師31人、患者4,032人、4,327件の処置が含まれた(患者の平均年齢:70.3歳[SD 10.7]、女性32.0%)。対照群は医師34人、患者3,251人、3,493件の処置が含まれた(70.2歳[SD 10.8]、33.0%)。 AKI発生率は、介入期間中7.2%(4,327件中310イベント)、対照期間中8.6%(3,493件中299イベント)だった(群間差:-2.3%[95%信頼区間[CI]:-0.6~-4.1、オッズ比[OR]:0.72[95%CI:0.56~0.93]、p=0.01)。 12項目の副次アウトカムのうち、8項目は両群で有意差がみられなかった。造影剤投与量が過剰だった処置の割合は、対照期間中51.7%から介入期間中は38.1%に減少した(群間差:-12.0%[95%CI:-14.4~-9.4]、OR:0.77[95%CI:0.65~0.90]、p=0.002)。静脈内輸液投与が不十分だった処置の割合も、対照期間中の75.1%から介入期間中は60.8%に低下した(群間差:-15.8%[95%CI:-19.7~-12.0]、OR:0.68[95%CI:0.53~0.87]、p=0.002)。 主要有害心血管・腎臓イベントも、両群で有意差はなかった。

20.

輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?【知って得する!?医療略語】第17回

第17回 輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?輸血後、数日してから副作用が起きることがあるんですか?遅発性の副作用があり、今回はその1つであるDHTRを見てみましょう≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】DHTR【日本語】遅発性溶血性輸血副作用【英字】Delayed Hemolytic Transfusion Reaction【分野】輸血関連【診療科】全診療科【関連】急性溶血性輸血副作用AHTR(Acute Hemolytic Transfusion Reaction)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。貧血患者さんに赤血球輸血をしても、思うようにヘモグロビン濃度が上昇しないばかりか、むしろ低下する場合があります。こんな時、筆者は輸血の原因が出血疾患であれば、出血の持続、大量輸液による血液希釈、輸血量の相対的不足を考えがちです。しかし、輸血をしてもヘモグロビンが上昇しない、あるいは低下する時には、「遅発性溶血性輸血副作用(DHTR:delayed hemolytic transfusion reaction)」の可能性を想起する必要があります。DHTRは発熱や貧血、溶血所見を来すとされますが、輸血後24時間以降に発症するため、患者さんの症状や検査所見と輸血イベントの関連性に気が付き難い可能性があります。臨床現場では採血手技的に伴う「溶血」に遭遇することは多々あり、輸血を要する患者さんが感染症などを合併し、発熱することも日常茶飯事です。むしろ感染症や慢性炎症のために消耗性貧血を来し、赤血球輸血をすることも多々あります。このため、輸血して数日経ってから生じる「溶血」や「発熱」と聞いても、輸血副作用を連想することが難しいのではないかと想像します。そんな見逃されやすい要素を持つDHTRですが、2013年に前川氏が「輸血療法とその副作用―見逃されている臨床病態」として取り挙げていたので、共有したいと思います。遅発性溶血性輸血副作用DHTR : delayed hemolytic transfusion reaction【概略】輸血の遅発性副作用の1つ輸血後24時間以降に生じる輸血の溶血性副作用ほとんどは2度目以降の輸血で発症(初回輸血例は稀)【病態】過去に輸血や妊娠で赤血球に対する同種抗体を産生した既往(感作)がある場合、対応抗原陽性の赤血球が輸血されると、抗原刺激によりメモリーB細胞が数日で抗赤血球抗体を急速産生する(二次免疫反応)。この抗体と赤血球が反応し溶血反応が起きる。溶血は主に血管外溶血(まれに血管内溶血)。なお、一次免疫応答による溶血が起きるケースが稀にあり、この場合は輸血後10~20日に発症するとされる。【頻度】輸血5,000~1万回に1回【発症】輸血後24時間以降(典型例は輸血後3~14日)【症状】発熱・黄疸・悪寒・倦怠感・血尿(血色素尿)・掻痒感【検査】貧血(ヘモグロビン濃度低下)・球状赤血球・総ビリルビン上昇・LDH上昇【予後】軽度な溶血例~死亡例まであり【補足】過去の輸血や妊娠による同種抗体は、年月が経つと測定感度以下に低下することがあり、この場合は不規則抗体検査や交差適合試験では同種抗体は検出できないことがある。このためDHTRを完全防止するのは難しいとされる。1)前川 平. 日内会誌. 2013;102:2433-2439.2)前川 平ほか.臨床血液. 2008;22:1306-1314.3)澤部 孝昭ほか. 日本輸血学会雑誌. 1993;39:974-978.4)安全な輸血療法ガイド5)日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド6)日本赤十字社HP 医薬品情報-溶血性副作用7)小林航太ほか. 仙台市立病院誌2017;37.39-42.

検索結果 合計:123件 表示位置:1 - 20