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交通事故診療で困ることとその対応(2)

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。整形外科医の濱口 裕之です。前回の「交通事故診療で困ることとその対応」はいかがでしたでしょうか?やっぱり交通事故診療は面倒くさいとか言わないでくださいね。それでは、今回も交通事故診療の疑問にお答えしましょう!自分の患者さんが、どのような基準で後遺障害に認定されるのかわかりません。後遺障害診断書をしっかり記載したのに非該当になって、患者さんに愚痴られたことがあります自賠責保険の後遺障害認定基準はブラックボックスであり、詳細は公開されていません。このため、自分の患者さんが後遺障害に認定されるか否かを正確に予測するのはほぼ不可能です。これまで、私たちのグループは、全国から寄せられる数千例に及ぶ事案に取り組んできました。それらの事案を分析した結果、自賠責保険は以下の認定基準にしたがって後遺障害の審査を行っていると推察されます。事故の規模症状の一貫性通院頻度適切な専門科の受診の程度身体所見と画像所見の一致の程度症状固定までの期間患者さんが受傷した部位ごとに細かい認定基準があるため、私たちのように年間約1,000例もの症例に取り組んでいても、正確に後遺障害等級を予測できるわけではありません。このため、自分の患者さんの後遺障害等級を予測するのは困難だと割り切りましょう。事故と症状の因果関係が疑わしい患者さんをときどき見かけます。単なる外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)なのに、めまい、耳鳴、目のかすみなどの訴えは理解できません交通事故での外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)といえば、首の痛みを想像する人が多いと思います。確かに、外傷性頸部症候群の症状として最も多いのは、後頸部から腕にかけての痛みやしびれです。しかし、外傷性頸部症候群では、めまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなど自律神経失調症の症状を併発する症例があります。外傷の影響で交感神経が刺激されて前庭迷路の血流が減少します。これによって、めまいや耳鳴が起きるといわれています。外傷性頸部症候群に自律神経失調症が合併した状態を、バレリュー症候群と呼びます。バレリュー症候群は、整形外科医の間でさえ一般的な傷病とは言い難いです。しかし、交通事故診療では比較的よく見かける傷病です。患者さんがめまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなどを訴えると、精神疾患や詐病を連想しがちです。しかし、外傷性頸部症候群では、一定の確率で自律神経失調症を併発します。バレリュー症候群である可能性を念頭に置いて診療しましょう。症状固定の時に、治療終了となることに対して患者さんが納得しなくて困っています。症状固定とは、治療してもそれ以上改善しない状態を指します。具体的には、消炎鎮痛剤の服用やリハビリテーションにより一過性に軽快するものの、すぐ元に戻ってしまう状態です。症状が一進一退になれば、症状固定の時期と思って良いでしょう。症状固定は医学的な概念ではなく、損害保険会社や裁判で慣習的に使われている用語です。そのため、患者さんだけでなく医師が症状固定の意味を正確に理解していなくても不思議ではありません。自賠責保険は、すべての交通事故被害者が完治するとは考えていません。治療効果がなくなった時点で治療を終了し、後遺症に対しては後遺障害を認定して救済します。限りある保険料収入を最大限有効活用することで、公的な利益を追求しています。そのため、治療しても根本的に改善する可能性がなくなったにもかかわらず、延々と治療を続けることには問題があります。患者さんの立場では、交通事故に巻き込まれて後遺症を負ったので、完全に治るまで補償して欲しいと思いがちです。症状固定に納得しない患者さんには、自賠責保険の公的な存在意義を説明するしかないと思います。なお、症状固定しても自賠責保険での治療が終了するだけです。健康保険で症状緩和の治療を続けられることは申し伝えましょう。診断書へ絶対に記載してはいけない事項は何でしょうか?自賠責保険は、醜状などの一部を除いて、すべて書類審査です。したがって、医師が作成した診断書は、患者さんの後遺障害認定に極めて大きな影響を及ぼします。そのため、診断書は自賠責保険のルールに則って記載する必要があります。そうは言っても、特別に勉強する必要はなく、普通の感覚で診断書を作成すればよいでしょう。ただし後遺障害診断書の左下にある「障害内容の増悪・緩解の見通し」については、慎重に記載する必要があります。この欄に、症状は改善する見込みがあるなどと記載すると、患者さんは確実に後遺障害非該当になります。そもそも、症状固定の定義は「治療してもそれ以上改善しない状態」です。症状が改善する見込みがあるのなら、まだ症状固定ではありません。症状固定は医学用語ではないので、多くの医師が症状固定の定義を知らないのは当然といえるでしょう。だからといって、患者さんに不利益になることをあえて記載する理由はありません。主治医として、この点だけは知っておいて損はないと思います。自覚症状だけで他覚所見が乏しい場合の対応はどうすればよいのでしょうか?交通事故診療で最も多い外傷性頸部症候群では、他覚所見に乏しい症例が多いです。身体所見や画像所見と比較して症状の訴えの強い患者さんを診ると、どうしても詐病が頭をよぎります。しかし、私たちの数千例に及ぶ経験では、交通事故診療で明らかに詐病と思われる症例は、さほど多くないのが実情です。たしかに、外傷性頸部症候群では自覚症状だけで他覚所見が乏しい症例は多いですが、彼らが全員ウソをついているわけではありません。単に現在の医療水準では、画像検査などで痛みなどの症状の原因を捉えきれていないだけだと考えるべきでしょう。私たち医師ができることは、客観的に診療することだけです。詐病が強く疑われるケースを除けば、粛々と治療を続けることが望まれます。

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モルヌピラビル、高リスクコロナ患者の後遺症リスク低減/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に進行する危険因子を少なくとも1つ有する患者において、感染後5日以内のモルヌピラビル投与は無治療と比較し、ワクチン接種歴や感染歴にかかわらず、急性期以降の罹患後症状(いわゆる後遺症)(post-acute sequelae of SARS-CoV-2:PASC)のリスク低下と関連していた。米国・VA Saint Louis Health Care SystemのYan Xie氏らが、退役軍人医療データベースを用いたコホート研究で明らかにした。著者は、「COVID-19の重症化リスクが高い患者では、SARS-CoV-2感染後5日以内のモルヌピラビル投与がPASCのリスクを低下する有効なアプローチとなりうる」とまとめている。BMJ誌2023年4月25日号掲載の報告。検査陽性後30日以降の死亡、入院、PASCについて無治療と比較 研究グループは、退役軍人医療データベースを用い、2022年1月5日~2023年1月15日の間にSARS-CoV-2陽性と判定され、重症化リスク(年齢>60歳、BMI>30、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、慢性肺疾患、糖尿病、免疫機能障害)を1つ以上有し、陽性判定後30日間生存していた患者のうち、陽性判定後5日以内にモルヌピラビルを投与された患者(モルヌピラビル群)1万1,472例と、陽性判定後30日以内にCOVID-19に対する抗ウイルス薬または抗体治療を受けなかった患者(無治療群)21万7,814例、合計22万9,286例を特定し解析した。 評価項目は、急性期以降の死亡、急性期以降の入院、および急性期以降の死亡または入院の複合である。また、事前に規定した13のPASC(虚血性心疾患発症、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知障害、自律神経失調症、息切れ、咳)の発症リスクも検討した。すべての急性期以降のアウトカムは、最初のSARS-CoV-2陽性判定後30日から2023年2月15日(追跡調査終了日)まで調査した。 相対スケール(相対リスク[RR]またはハザード比[HR])および絶対スケール(180日後の絶対リスク減少)のリスクが推定された。陽性後5日以内での投与で、急性期以降の死亡、入院、PASCのリスク低下 無治療群と比較してモルヌピラビル群では、PASCのリスク低下(RR:0.86、95%信頼区間[CI]:0.83~0.89、180日後の絶対リスク低下:2.97%、95%CI:2.31~3.60)、急性期以降死亡のリスク低下(HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、180日後の絶対リスク低下:0.87%、95%CI:0.62~1.13)、急性期以降入院のリスク低下(HR:0.86、95%CI:0.80~0.93、180日後の絶対リスク低下:1.32%、95%CI:0.72~1.92)が認められた。 モルヌピラビルは、13のPASCのうち、不整脈、肺塞栓症、深部静脈血栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、神経認知障害の8つのリスク低下と関連していた。また、サブグループ解析の結果、COVID-19ワクチン未接種者、1回または2回のワクチン接種者、ブースター接種者、SARS-CoV-2初感染者および再感染者のいずれにおいても、モルヌピラビル群でPASCのリスク低下が示された。

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映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 2

病気になりたがることが実はよくある訳は?確かに、嘘をついてまで病気になりたがるのは、かなり度が過ぎています。しかし、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがることは、心療内科・精神科や心理カウンセリングの現場で、実はよくあることです。その理由を大きく3つ挙げてみましょう。(1)もっとかまって欲しいから病気になりたがる1つ目の理由は、もっとかまって欲しいからです。そのために、嘘をつかなくても、困っていることや症状を大げさに訴えたり見せつけます。たとえば、毎回の診察で「死にたい」と訴え続けることです。また、急に倒れ込んだり、リストカットの傷痕を隠さずに出していることです。症状を伝えることは、かまってもらうためではなく、良くするためであるはずなのにです。なお、これらは、意識的に嘘をついている訳ではないので、ミュンヒハウゼン症候群ではなく、演技性パーソナリティ障害と診断されます。(2)病気のせいにしたいから病気になりたがる2つ目の理由は、病気のせいにしたいからです。仕事や人間関係でうまく行っていない時、それが自分の能力や性格によるものであれば、自分のせいになります。しかし、「うつ病」「自律神経失調症」などと診断されれば、その問題を病気のせいにすることができます。また、自分の能力の問題であっても、「ADHD(注意欠如・多動症)」「HSP(敏感な人)」などと指摘されれば、やはり病気のせいにできます。さらに、自分の性格の問題であっても、「毒親」「アダルトチルドレン」などと指摘されれば、家庭環境のせいにすることができます。病気になったのは本人の責任ではないかもしれませんが、病気を良くしていくのは本人の責任であるはずなのにです。もはや、自分で自分に嘘をついている状態です。なお、これらは、無意識に責任逃れや責任転嫁をしている点で、自己奉仕バイアスと呼ばれます。婚活でうまく行かない人が、良い相手がいないと嘆く心理に通じます。また、ひきこもりの人が親に謝罪をしつこく求める心理にも通じます。(3)病人として生きたいから病気になりたがる3つ目の理由は、病人として生きたいからです。病人でいる状況が長くなると、病気に立ち向かって頑張って生きている自分というアイデンティティが確立してしまいます。逆に言えば、病人ではなくなると、病気以外で頑張ること(役割)やその居場所を新しく探さなければならず、見つからなければ自分は何者でもなくなってしまうという恐怖が出てきます。よって、彼らにとって、たとえば精神障害者保健福祉手帳の取得はステータスになります。3級が2級になれば、資格試験で頑張った成果であるかのように納得した表情をします。やがて、「病気自慢」「不幸自慢」をするようになります。そもそも、病気や不幸を語ることは、健康や幸福になるための手段であって、目的そのものではないはずなのにです。なお、これは、無意識に治りたいと思っておらず、病人の役割(アイデンティティ)をまっとうしようとする点で、シックロールと呼ばれています。病気になりたがる人を見分けるには?病気になりたがることが実はよくある理由は、もっとかまって欲しい、病気のせいにしたい、そして病人として生きたいからであることが分かりました。それでは、これらの心理を踏まえて、彼らをどうやって見分ければいいでしょうか? 彼らの特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)症状を語りたがる病気になりたがる人の特徴の1つ目は、症状を語りたがることです。たとえば、症状を次々と列挙して、その症状がどんなふうでどうなってきたかを、辛そうな表情を交えながらもよくしゃべります。また、医療機関での予診票では、症状のチェック欄には、ほぼすべての症状をチェックします。自己記入式の病状のスクリーニング検査では、病状が重く見られるようにチェックします。そして、こちらが、症状を語りたがっている意図を察知して、あえて話を切り上げようとすると、「話を聞いてくれない」「辛さを分かってくれない」と怒り出します。そもそも、本当に病気の人は、症状を伝えるにしても、一番辛い症状を何とか1つか2つあげるだけで、そんなに語れません。そして、治してもらえるなら、話が早くに終わっても気にしません。(2)病名や原因をはっきりさせたがる病気になりたがる人の特徴の2つ目は、病名や原因をはっきりさせたがることです。たとえば、病名や原因をしつこく聞いてきます。自分がネットで調べて見つけた病名が、厳密には違うと聞かされると、がっかりしたり食い下がってきます。わざわざ自分が持ち歩くだけのために、診断書の発行を希望する人もいます。そもそも、精神科医が病名や原因を伝えるのは、薬の処方をはじめとして今後のためになる場合に限られています。逆に言えば、今後のためにならない場合は積極的には伝えません。その理由は、そうすること自体が、決め付け(ラベリング)になってしまい、その病気や原因に本人がとらわれて、逆になかなか良くならないことがあるからです。(3)治療には乗ってこない病気になりたがる人の特徴の3つ目は、治療には乗ってこないことです。たとえば、病気を良くするためのさまざまな提案に対して、すべて「はい、いいんですけど…でもやっぱり私には無理です」と曖昧に返してきます。これは、心理学で「イエス・バット・ゲーム」と呼ばれています。一方で、「いいえ、そうじゃなくて(ノー・バット)」とはっきり返してくる場合は、「ということは何か考えがあるのですね」とその人なりの思いを掘り起こすことができます。また、「この病気さえなければ」と言い続ける人に、「じゃあ、もしもこの病気が良くなったら、どうしていますか?」と聞くと、「そんなこと考えられないです。だって、病気があることには変わりないじゃないですか」「そんなこと考えて、結局良くならなかったら、ますます辛いじゃないですか」と言い返してきます。さらに、ポジティブな面に目を向ける問いかけに対しては、「私のポジティブなところを聞かれても困ります」「前向きに考えてなんて言って欲しくない」「私はそんなんじゃない」「私の病気を軽く見ないでください」「それがうざいんですよ」と言う人もいます。確かに、とても弱っている時は前向きには考えられません。しかし、それがずっと続く場合は、もはやその人の考え方、生き方の問題になってきますので、治療として限界があることを理解する必要があります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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「セルシン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第36回

第36回 「セルシン」の名称の由来は?販売名2mg セルシン®錠5mg セルシン®錠10mg セルシン®錠セルシン®散1%セルシン®シロップ0.1%※セルシン注射液はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください一般名(和名[命名法])ジアゼパム(JAN)効能又は効果○神経症における不安・緊張・抑うつ○うつ病における不安・緊張○心身症(消化器疾患、循環器疾患、自律神経失調症、更年期障害、腰痛症、頸肩腕症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ○下記疾患における筋緊張の軽減脳脊髄疾患に伴う筋痙攣・疼痛○麻酔前投薬用法及び用量通常、成人には1回ジアゼパムとして2〜5mgを1日2〜4回経口投与する。ただし、外来患者は原則として1日量ジアゼパムとして15mg以内とする。また、小児に用いる場合には、3歳以下は1日量ジアゼパムとして1〜5mgを、4〜12歳は1日量ジアゼパムとして2〜10mgを、それぞれ1〜3回に分割経口投与する。筋痙攣患者に用いる場合は、通常成人には1回ジアゼパムとして2〜10mgを1日3〜4回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。麻酔前投薬の場合は、通常成人には1回ジアゼパムとして5〜10mgを就寝前または手術前に経口投与する。なお、年齢、症状、疾患により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(1)急性狭隅角緑内障のある患者[本剤の弱い抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化するおそれがある。](2)重症筋無力症のある患者[本剤の筋弛緩作用により症状が悪化するおそれがある。](3)リトナビル(HIVプロテアーゼ阻害剤)を投与中の患者※本内容は2020年1月27日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2017年3月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「2mg セルシン®錠/5mg セルシン®錠/10mg セルシン®錠・セルシン®散1%・セルシン®シロップ0.1%」2)武田テバ DI-net:製品情報一覧

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第5回 全身痛と関連痛【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第5回 全身痛と関連痛痛みは病気の兆候として最も多く、誰もが苦しむ原因となっています。そのために、患者さんは病院や診療所などを受診されます。血圧、脈拍、呼吸数、体温と共に、痛みは「第5のバイタルサイン」とも呼ばれております。近年、全身に痛みを訴えられる患者さんが増えておられます。全身痛と呼んでおりますが比較的若い患者さんが多くなってきたように感じられます。今回は、この全身痛を取り上げ、付随して関連痛を説明したいと思います。全身痛とは全身的に痛みを訴えられる患者さんの痛みを「全身痛」と呼んでいます。いろいろな部位に痛みを訴えられる患者さんや、全身にわたって痛みを訴えられる患者さんなど、その形態はさまざまです。また、重篤な身体疾患を持っていることもあるので注意が必要です。その中で全身痛から発見される疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、皮膚筋炎・多発性筋炎、全身性強皮症、リウマチ性多発筋痛症などの膠原病があります。甲状腺機能低下症や有痛性糖尿病性ニューロパチーなどの内分泌疾患もあります。そのほか、ポストポリオ症候群や横紋筋融解症などの神経筋疾患も認められます。横紋筋融解症は、脂質異常症治療薬や抗神経病薬などによる薬剤性疾患によっても生じます。そして、悪性腫瘍では多発性骨髄腫、多発性転移、何より増して全身の骨関節痛、腰背部痛などが生じます。インフルエンザ、ウイルス性肝炎では全身の関節痛や筋肉痛、神経痛がみられます。うつ病、身体表現性疼痛(疼痛性障害、身体化障害など)、自律神経失調症などの精神・神経疾患でも全身痛を訴えます。とくにうつ病では、痛みの部位が変動するのが特徴です。その他、難治性疼痛疾患としての線維筋痛症(FM)(図1)や慢性疲労症候群(CFS)も現在、話題になっています。FMの診断では、(1)広範囲(右半身/左半身、上半身/下半身、体軸という身体の真ん中)の痛みが3ヵ月以上続いていること、(2)図1に示した18ヵ所(圧痛点といいます)を指で押して、11ヵ所以上で痛むことが条件となります。図1 FMの診断における18ヵ所の圧痛点画像を拡大する関連痛とは表層筋膜、アキレス腱、前脛骨筋腱、表在関節、靭帯、脛骨のような表在性の骨などの痛みは、局在性の痛みとして感じます。これに対してより深い部位にある腱、関節、骨などや筋肉内にあるような組織からの痛みは、遠く隔たった皮膚に投射されます。たとえば、上部胸椎の骨膜に刺激を受けた場合には、肩の上部にびまん性の痛みを感じます。また、内臓痛には関連痛が伴います。内臓痛そのものの局在性は不明確ですが、「関連痛」といって、同じ脊髄節支配の皮膚に投射されて痛む部位が明確に示されます。そして、この皮膚におきましては、疼痛過敏や異常知覚を伴ったり、筋肉の緊張、自律神経の異常興奮がみられることもあります(図2)。図2 内臓痛に伴い現れる関連痛の部位画像を拡大するいずれも痛みの部位と性質、随伴症状や検査所見などによって鑑別診断します。そして原疾患が疑われるようであれば、その治療を最重要として、それぞれの専門医に紹介します。原疾患が治癒しても痛みが持続する場合やとくに原疾患がない場合には、痛み治療が必要となります。次回は頭・頸部痛を取り上げます。1)花岡一雄ほか監修.日本医師会雑誌. 2014;143:120-121.2)山村秀夫ほか編. 痛みを診断する.有斐閣;1984.p.20-38.

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うつ病患者、身体症状から見つけて

 2017年5月17日、東京において塩野義製薬株式会社主催のプレスセミナーが開催され、「うつ傾向のある人の意識と行動に関するアンケート調査※1」の結果が、藤田保健衛生大学 精神神経医学 教授の内藤 宏氏より発表された。その後、患者の身近な相談医として日常診療にあたっている宮崎医院 院長の宮崎 仁氏を交え、うつ傾向のある患者とかかりつけ医のコミュニケーションについて語られた。潜在的なうつ病患者の発掘は「かかりつけ医」にかかっている うつ病の患者数は、厚生労働省の統計で約73万人と推計されている1)。しかし、うつ病・うつ状態でありながらも医療機関で診断・治療を受けていない潜在的な患者が230万人存在すると推定されており2)、うつ症状を医師に相談できていない患者はまだ多く存在すると考えられる。うつ病・うつ状態の放置は、症状の悪化や治療の長期化につながることから、潜在患者の発掘は急務といえる。そのためには、かかりつけ医によるうつ状態の早期発見が望まれるが、潜在的なうつ病患者にどのような特徴があるのかを知るプライマリケア医は多いとはいえない。うつ傾向のある人はさまざまな不調を感じているが、内科医に相談する人は少ない そのような背景から、うつ病のスクリーニングに用いられる二質問法※2をベースに判定した「うつ傾向のある人」の特徴と行動の把握を目的として、インターネット調査が実施された。まず、うつ傾向のある回答者の基本属性や特性を把握するための予備調査が行われ、その後、潜在患者調査が行われた。予備調査の結果、うつ傾向がある人のうち、現在「うつ病/うつ状態」の診断をされている人は1割弱で、9割以上の人が未診断であることが明らかになった。また、うつ傾向のある人は、「疲労倦怠感」、「肩・腰・首の痛み」、「頭痛」といった身体症状を訴える割合が多かった。また、抑うつ気分以外にも「体のあちこちが重く感じる」、「不安でいてもたってもいられない」、「話や本の内容が入ってこない」などの訴えが多かった。潜在患者調査の結果、「うつ傾向ありで未診断」の人のうち、約半数は最近内科を受診しており、内科医との接点は少なくないことが示唆された。しかし、その内科医に「専門外のことでも相談できる」と回答した人は約2割で、精神的・身体的不調について相談意向があって、実際に相談したという人は約1割にとどまった。MUS(Medical Unexplained Symptoms)の陰に潜むうつ病 今回の調査で明らかになった「うつ傾向患者」における身体症状の特徴を示し、宮崎氏は、「“MUS”のラベルを付けただけで満足し、うつ病が見落とされている可能性がある」と非専門医によるうつ病診療の課題について語った。MUSとは、何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が認められるものの、診察や検査で原因疾患が見いだせない病像である。不定愁訴や自律神経失調症などがMUSに該当し、プライマリケア外来患者の実に3~4割を占めるという3)。原因疾患不明の身体症状を訴える患者を、単なる不定愁訴として扱うのではなく、うつ病の可能性を意識して診療を行うことが大切である。「不定愁訴+不眠」に遭遇したら“心療モード”を起動 宮崎氏は、プライマリケア医が精神科診療のテクニックを導入して、精神科的な対応ができるようになるための教育訓練を行うPIPC(Psychiatry In Primary Care)研究会の活動を行っている。PIPC研究会では、初心者でもフォーマットに従って10分程度で精神科的評価ができる背景問診・MAPSO※3問診チェックリストを作成しており、日常診療で役立てるのも良いかもしれない。宮崎氏は、「MUSの患者に遭遇したら、睡眠について問診し、不眠であれば“心療モード”を起動して二質問法のうつ病スクリーニングを行う。さらにその他のうつ症状や希死念慮、躁・軽躁エピソードについても問診で探っていく」と、自身が行っている気分障害の問診手順について語った。専門医の治療が必要と判断した場合は、速やかに精神科医に紹介する。うつ病の早期発見・早期治療のために かかりつけ医は、患者の不調を発見するゲートキーパー的な役割を担っている。患者が相談しやすい良好な関係性を構築するためには、医師のほうから「最近どうですか?」、「気になるところはありませんか?」、「よく眠れていますか?」などと問いかけてみることも大切である。「患者が原因疾患不明の身体症状や不眠、食欲不振を訴える場合はうつ病の可能性を意識して、適切な問診を行い、潜在的なうつ病患者の早期発見・早期治療につなげてほしい」と宮崎氏は強調し、講演を締めくくった。※1 【調査概要】調査時期:2016年2月調査手法:インターネット調査(全国)調査対象:[事前調査]一般生活者の男女20~69歳 19,975人     [本調査]以下の対象者条件に合致する2,028人          対象者条件…事前調査に回答した人のうち、          二質問法で「うつ傾向あり」かつ          「うつ病の診断なし(および最近専門医に受診していない)」          に該当調査主体:塩野義製薬株式会社     ※調査結果の詳細は、セラピューティック・リサーチ誌2017年4月号      に掲載。     (内藤 宏ほか. Therapeutic Research. 2017;4:413.)※2 二質問法:「最近1ヵ月間、気分が沈んだり、憂鬱な気持ちになることがよくあった」または「最近1ヵ月間、物事に対して興味がわかない、心から楽しめないことがよくあった」のいずれか1項目該当で「うつ傾向あり」と判定(鈴木竜世ほか. 精神医学. 2003;45:669-708.)※3 MAPSO:Mood(気分障害)、Anxiety(不安障害)、Psychoses(精神病群)、Substance induced(薬物誘発性障害)、Organic/Other(器質性・その他)の略参考1) 厚生労働省. 平成26年患者調査(傷病分類編).2) 川上憲人. 神経・精神疾患診療マニュアル. 2013;142巻 特別号2:30.3) 宮崎 仁. 日本内科学会雑誌. 2009;98:188.

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双極性障害「初期診断はうつ病 65%」「正確な診断まで平均4年」

 双極性障害は、最初の医療機関を受診時に正しく診断される患者が約4分の1しかおらず、初診から正確な診断に至るまでには平均4年かかることが、杏林大学の渡邊 衡一郎氏らによる調査で明らかになった。Neuropsychiatric disease and treatment誌2016年11月21日号の報告。 双極性障害は、再発や躁病・うつ病エピソードを繰り返す疾患である。そのため、正確な診断・適切な治療開始までに時間がかかる場合が多い。この要因としては、双極性障害に対する医師の理解不足も考えられるが、患者の洞察力不足により、症状を医師へ正確に伝えることができないという可能性も考えられる。また、誤った診断から正しい診断に至った要因がどのようなものかは不明である。 そこで著者らは、これらを明らかにするため、日本の双極性障害患者1,050例を対象にインターネット上でアンケート調査を実施した(2013年2月~3月)。結果は、記述統計を用いて分析した。主な結果は以下のとおり。・457例(男性226例、女性231例)が回答した。・最初の医療機関を受診時、専門医(精神科医、心身医学科医)を受診していたのは86%であった。・最初の医療機関を受診時の症状は、うつ症状が70%、混合状態が15%、躁状態は4%であった。・最初の医療機関で双極性障害と正しく診断されていたのは約4分の1であった。・初期診断で最も多かったのは、うつ病/うつ状態(65%)であった。そのほかに多かったのは、自律神経失調症(14%、日本で未定義の精神疾患の診断に使われる)、パニック障害(11%)であった。・70%が最初または2件目に受診した医療機関で双極性障害の診断がついたが、残りの30%は正確な診断に至る前に3件以上の医療機関を受診していた。・初診から正確な診断に至るまでの平均時間差は4年(標準偏差±4.8年)であった。3分の1は5年以上の時間差があった。・正確な診断に至るまでに時間がかかった主な要因は以下の3つであった。  「躁の症状を病気として認識しておらず、医師に伝えなかった」(39%)  「双極性障害という疾患を知らなかった」(38%)  「医師とのコミュニケーションが欠如していた」(25%)・70%以上の患者が、双極性障害の診断に至る前に診断が変更された(1回変更 33%、2回変更 25%)。・正確な診断に至った主な要因は以下の3つであった。  「治療の過程で医師が双極性障害の可能性を疑った」(57%)  「躁状態に切り替わった」(30%)  「他の医師を受診したら、診断が変更された」(28%)・最初に誤って診断され、不適切な治療が行われたと考えられる患者は、長期就労や学校での勉強ができない(65%)など、社会経済的な問題を最も多く抱えていた。

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抗精神病薬の高用量投与で心血管イベントリスク上昇:横浜市立大

 抗精神病薬は、自律神経失調症を引き起こす要因と考えられており、統合失調症患者の潜在的な致死的不整脈を予測すると報告されている。しかしながら、抗精神病薬や他の向精神薬の用量依存的な効果が自律神経系(ANS)の活動に及ぼす影響に関しては、依然として不明なままである。横浜市立大学 岩本 洋子氏らは、統合失調症患者における抗精神病薬と他の臨床的因子の用量依存効果がANSの活性に及ぼす影響について検討した。その結果、著者らは「統合失調症患者の心血管系に関連する有害事象を避けるためには、抗精神病薬の投与量を最適化する必要がある」としている。BMC psychiatry誌オンライン版2012年11月14日号の報告。 対象は、日本人統合失調症患者211例および健常者44例。各々における抗精神病薬による治療や、さまざまな臨床的要因を調査した。ANS活性は心拍変動(HRV)パワースペクトル解析を用いて評価した。患者群は抗精神病薬の投与量により3つのサブグループに分けて評価し、サブグループ間のHRVを比較した。主な結果は以下のとおり。・患者群では、対照群と比較し、HRVの低域と高域成分の有意な減少が認められた。・抗精神病薬の高用量投与群では、中用量投与群よりも有意に低いHRVが認められ、低用量投与群と比較するとさらに低いHRVが認められた。・HRVと抗精神病薬の投与量との有意な関連が認められた(重回帰分析)。・HRVは、年齢、性別、BMI、罹病期間、他の向精神薬の投与量との関連は認められなかった。関連医療ニュース ・100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増! ・統合失調症における長期転帰の予測因子は? ・検証!向精神薬とワルファリンの相互作用

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受診経験のあるうつ病患者の約4人に1人が治療を中断した経験がある

ファイザー株式会社が行った12歳以上の一般生活者のうち、うつ病・うつ病関連疾患で受診経験がある1,000名を対象にインターネット調査によると、受診経験のあるうつ病患者の約4人に1人が治療を中断したことがあることがわかった。その内「症状は治まっていなかった」にも関わらず、治療を中断したのは41%で、その理由としては「通院が面倒」「通院するほどの病気、症状ではないと思った」「症状が良くならなかった」が多くあげられた。また、初診時の診断で「うつ病・うつ状態」と診断された割合は、専門医で52%に対して、非専門医では17%。非専門医受診者では、うつ病・うつ状態と診断されず、自律神経失調症などの診断がされるケースが専門医に比べ多く存在することがわかった。詳細はプレスリリースへhttp://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2008/2008_04_11_02.html

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