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新型コロナが世界の死因の第2位に(GBD 2021)/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らGBD 2021 Causes of Death Collaboratorsは、「世界疾病負担研究(GBD)」の最新の成果としてGBD 2021の解析結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、長期にわたる平均余命の改善や多くの主要な死因による死亡の減少が妨げられ、このような悪影響が地域によって不均一に広がった一方、COVID-19の流行にもかかわらず、いくつかの重要な死因の減少には継続的な進展がみられ、世界的な平均余命の改善につながったことが明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年4月3日号に掲載された。1990~2021年の世界の原因別死亡率、YLLを評価 本研究では、1990~2021年の204の国と地域、および各国の811の地方(郡、州など)における288の死因による死亡率と損失生存年数(YLL)を、年齢、性、場所、年ごとに評価した(米国・ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 解析には、人口動態登録や口頭剖検のほか、国勢調査やサーベイランス、がん登録など、5万6,604件のデータソースを用いた。平均余命や高死亡率の地理的な集中の解析も行った。COVID-19が2021年の死因の第2位に 2019年の世界の主要な年齢調整死因は1990年と同じであり、第1位が虚血性心疾患、次いで脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、下気道感染症の順であった。これに対し2021年には、COVID-19(年齢調整死亡率:人口10万人当たり94.0人[95%不確定区間[UI]:89.2~100.0])が脳卒中に代わって第2位となり、脳卒中は第3位、慢性閉塞性肺疾患は第4位であった。 2021年にCOVID-19による年齢調整死亡率が最も高かった地域は、サハラ以南のアフリカ(10万人当たり271.0人[95%UI:250.1~290.7])と中南米・カリブ海諸国(195.4人[182.1~211.4])であった。 一方、2021年のCOVID-19による年齢調整死亡率が最も低かったのは、高所得地域(10万人当たり48.1人[95%UI:47.4~48.8])と東南アジア・東アジア・オセアニア(23.2人[16.3~37.2])であった。2019~21年に平均余命が1.6年短縮 世界の平均余命は、解析した22の死因のうち18について、1990~2019年の間に着実に改善した。この改善に最も寄与したのは腸管感染症による死亡数の減少で、平均余命が1.1年延長した。次いで下気道感染症で0.9年、脳卒中で0.8年、その他の感染性疾患、虚血性心疾患、新生物、新生児疾患でそれぞれ0.6年の延長が得られた。 一方、2019~21年の間に世界の平均余命は1.6年短縮したが、これは主にCOVID-19やその他の世界的流行に関連した死亡による死亡率の増加に起因するものであった。 また、平均余命の変動は地域によって大きく異なり、東南アジア・東アジア・オセアニアは全体で8.3年(95%UI:6.7~9.9)延長し、COVID-19による平均余命の短縮が最も小さかった(0.4年)。COVID-19により平均余命が最も短縮したのは中南米・カリブ海諸国だった(3.6年)。 さらに2021年の時点で、288の死因のうち53が世界人口の50%未満の地域に高度に集中しており、同様のパターンを示した死因が44だけであった1990年以降、これらの死因は徐々に地理的に集中するようになっていた。この集中現象は、腸管感染症、下気道感染症、マラリア、HIV/AIDS、新生児疾患、結核、麻疹について指摘されている。 著者は、「高死亡率の地理的な集中のパターンを調査することで、公衆衛生上の介入が成功した地域が明らかになり、このような成功例を特定の死因が強く残存する地域に適用することで、あらゆる地域の人々の平均余命を改善するための施策の立案に資する可能性がある」とし、「GBD 2021における死因推定の包括的な性質は、死亡率の改善と悪化から学ぶ貴重な機会を提供し、死亡率減少の進展を加速させる一助となるであろう」と述べている。

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スプラトゥーンが上手いと気管支鏡も上手い!?

 結核予防会複十字病院呼吸器内科の下田 真史氏らの研究により、気管支鏡の経験が乏しい集団では、ビデオゲームの技能と気管支鏡の観察時間に相関が認められることが示された。これまでに、ビデオゲームと消化器内視鏡や腹腔鏡手術などのさまざまな医療手技の技能との関係が報告されているが、気管支鏡に関する報告は不足していた。本研究結果は、Scientific Reports誌2024年1月27日号で報告された。 本研究は、2021年1月~2023年10月の期間に結核予防会複十字病院で実施した。参加者を気管支鏡の経験をもとに未経験群23人(気管支鏡の経験のない医学生またはレジデント)、熟練群18人(気管支鏡の経験が100件以上の呼吸器内科の医師)に分類した。ビデオゲームの技能と気管支鏡の技能の関係を検討するため、ビデオゲーム(スプラトゥーン2[任天堂])のクリア時間と、モデルを使用した気管支鏡による内腔観察に要する時間を測定した。ビデオゲームの技能は、クリアまでの時間が短いほど技能が高いものとした。さらに、アクションを伴うビデオゲームの習慣から、週1時間以上かつ6年以上の経験がある参加者をゲーマー、それ以外を非ゲーマーに分類して同様の検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・未経験群において、ビデオゲームのクリア時間と気管支鏡による内腔観察に要する時間に中等度の有意な相関が認められた(r=0.453、p=0.030)。・熟練群では有意な相関は認められなかった(r=0.268、p=0.283)。・未経験群において、ゲーマーサブグループ(12人)と非ゲーマーサブグループ(11人)を比較すると、ゲーマーサブグループは気管支鏡による内腔観察に要する時間が有意に短かった(観察時間中央値:200秒vs.281秒、p=0.005)。 本研究結果について、著者らは「気管支鏡の経験が乏しい集団において、ビデオゲームの技能と気管支鏡の技能との間に相関があることが示された。ビデオゲームに慣れ親しんでいる人は、気管支鏡の技能を素早く習得できる可能性が示唆された」と結論付けている。

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事例040 特定疾患処方管理加算の漏れ【斬らレセプト シーズン3】

解説診療所のレセプト点検にてよく指摘させていただく事例です。主病の「高コレステロール血症」は、「B000 特定疾患療養管理料」(以下「管理料」)算定対象です。「高コレステロール血症」に対する投薬があれば「F400 注4・注5 特定疾患処方管理加算」(以下「加算」)が算定できます。投与日数が28日分以上であるので「加算」2が月1回算定できます。同月に「加算」1を算定していた場合には、「加算」1を取り消して「加算」2を算定します。この「加算」の算定要件は、生活習慣病などの厚生労働大臣が別に定める疾患(告示「特掲診療料の施設基準等」別表第1)を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理(全身管理)を行うことを評価した「管理料」と同じです。対象疾病に対する投薬があれば必ず算定ができます。事例では、「高コレステロール血症」が別表1に表示されていないから算定ができないと誤解されていました。別表第1には、結核、悪性新生物など、32の病名が表示されています。この病名は「疾病、傷病及び死因の統計分類基本分類表(ICD-10)」から設定された3桁の病名分類です。この下位に続く傷病名が「管理料」と「加算」の対象となります。「高コレステロール血症」は、別表第1に示された「E78 リポ蛋白代謝障害及びその他の脂質血症」の下位「E78.0 純正型高コレステロール血症」に分類されて該当となります。また、医療機関で呼称される疾病名が異なっていても、医学的内容が同様である場合は対象となりますが、できる限り標準病名を使用することが望ましいとされています。

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12月1日 世界エイズ・デー【今日は何の日?】

【12月1日 世界エイズ・デー】〔由来〕世界レベルのエイズのまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消を目的に、WHO(世界保健機関)が1988年に制定。毎年12月1日を中心に、世界各国でエイズに関する啓発活動を実施。関連コンテンツYahoo!の見出しで勘違い続出?「HIV感染報告、過去20年で最少に」【バズった金曜日】ヒト免疫不全ウイルス検査ってなあに?【患者説明用スライド】HIVの流行終結を目指す取り組みとはHIV陽性者の結核性髄膜炎、デキサメタゾン追加は有用か/NEJM米国・HIV感染者へのART、人種・民族差は?/JAMA

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HIV陽性者の結核性髄膜炎、デキサメタゾン追加は有用か/NEJM

 結核性髄膜炎を有するHIV陽性の成人患者の治療において、抗結核化学療法に補助療法としてデキサメタゾンを追加する方法は、プラセボの追加と比較して、1年生存率を改善せず、神経障害や免疫再構築症候群(IRIS)の発生などに関しても有益性を認めないことが、ベトナム・オックスフォード大学臨床研究所(OUCRU)のJoseph Donovan氏らが実施した「ACT HIV試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年10月12日に掲載された。ベトナムとインドネシアの無作為化プラセボ対照試験 ACT HIV試験は、ベトナムとインドネシアの施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、2017年5月~2021年4月の期間に参加者の無作為化を行った(Wellcome Trustの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、HIV陽性(新規または過去の診断)で、臨床的に結核性髄膜炎(髄膜炎症状と脳脊髄液[CSF]の異常が5日以上持続)との診断を受け、担当医によって抗結核化学療法が予定されているか、開始された患者であった。 被験者を、12ヵ月間の標準的な抗結核化学療法に加え、デキサメタゾンまたはプラセボを6~8週間で漸減投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、無作為化から12ヵ月間における全死因死亡とした。 ITT集団として520例(年齢中央値36歳[四分位範囲[IQR]:30~41]、男性76.2%)を登録し、デキサメタゾン群に263例、プラセボ群に257例を割り付けた。255例(49.0%)は抗レトロウイルス療法(ART)を1回も受けたことがなく、データを入手できた484例のうち251例(51.9%)がベースラインのCD4細胞数が50/mm3以下であった。死亡率は容認できないほど高い 結核性髄膜炎の重症度は全般に軽度~中等度で、Medical Research Council(MRC)の修正重症度分類のグレード1または2が447例(86.0%)を占めた。登録時の抗結核化学療法レジメンとして、93.0%でリファンピシン、94.4%でイソニアジド、91.6%でピラジナミド、70.8%でエタンブトールが使用されていた。 12ヵ月の追跡期間中に、デキサメタゾン群の263例中116例(44.1%)、プラセボ群の257例中126例(49.0%)が死亡し(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.66~1.10、p=0.22)、1年生存率に関して両群間に有意な差を認めなかった(主要エンドポイント)。 事前に規定されたサブグループの解析では、デキサメタゾン群で明確な有益性を示したものはなかった。また、per-protocol集団とそのサブグループでも有益性を認めたものはなかった。 副次エンドポイントについても、ITT集団およびper-protocol集団の双方で両群間に差はなかった。たとえば、ITT集団における12ヵ月時の神経障害(修正Rankinスケール3~5)のオッズ比は1.31(95%CI:0.80~2.14)、最初の6ヵ月間のIRIS発生のHRは1.11(95%CI:0.46~2.69)、12ヵ月間における新たな神経学的イベントの発生または死亡のHRは0.85(95%CI:0.67~1.08)、AIDSを定義するイベントの発生または死亡のHRは0.87(95%CI:0.68~1.12)だった。 12ヵ月時までに少なくとも1件の重篤な有害事象を発現した患者は、デキサメタゾン群が263例中192例(73.0%)、プラセボ群は257例中194例(75.5%)であった(p=0.52)。また、重篤な神経学的有害事象が発現した患者の割合は、プラセボ群(115/257例[44.7%])よりもデキサメタゾン群(95/263例[36.1%])で低かった。 著者は、「これらの結果は、HIV陽性者の結核性髄膜炎に伴う死亡率は依然として容認できないほど高く、HIVと結核の発見と早期治療の強化が世界的に重要であることを強調するものである」と指摘している。

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乾癬の治療法を徹底解説!:日野皮フ科医院 院長 日野 亮介氏

このコンテンツでは、乾癬の治療法について解説していきます。日常診療のアップデートに、ぜひご活用ください。講師紹介多くの乾癬患者さんたちからは、「ずっと同じ薬ばっかりで良くならない」というお声を多く頂きます。乾癬の治療は塗り薬しかない、と思っておられる方も多いかもしれません。しかし、そうではありません。乾癬は治療に苦労する皮膚疾患でありますが、ここ10年ほどで大変多くの治療薬が出てきました。皮膚の症状は大半の方でコントロール可能になりました。今、患者さんの乾癬はどんな状態でしょうか?患者さんのライフスタイルに応じて、適切な治療方針を選ぶための参考にしていただけると幸いです。治療がうまくいかないとき、マンネリ化したときに、次の一手を考えるヒントになってくれると思っております。このページでは、乾癬について保険適用のある治療について解説しています。乾癬には尋常性乾癬、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬、滴状乾癬の5種類があります。薬によって適用が異なりますので、ご注意ください。1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬1-1.ステロイド外用薬ステロイド外用薬は皮膚疾患に幅広く使われていますが、もちろん乾癬にも有効です。今のところ、乾癬に一番多く使われているお薬です。多くの乾癬患者さんは、一度は塗ったことがあると思います。ステロイドは昔からある薬ですが、ここにも進歩があります。ステロイド外用薬の弱点は長期に使うと副作用が出てくる点なのですが、それを和らげるための手だてとしてシャンプーになっている薬が出ました。コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)というもので、15分だけつける、という方法を用いて副作用を減らす工夫がなされています。また、シャンプーは薬を塗りにくい頭という場所の特性を生かした大変興味深い方法です。なお、ステロイドの飲み薬は乾癬には通常使用しません。長期的なステロイド外用薬の副作用を避けるためにも、ステロイド外用薬単体での長期的な治療は避ける必要があります。治療が長引いてきた場合は方法を見直しましょう。1-2.ビタミンD3外用薬乾癬患者さんの塗り薬で、一番大切なのはビタミンD3です。効果が出てくるまで時間がかかりますが、一度改善すると再発しにくいこと、長期間塗っても副作用が出にくいことが大切なポイントです。ただし、大量に塗ると血液中のカルシウムが増え過ぎて二日酔いのような症状(高カルシウム血症)が出る可能性がありますので、注意が必要です。皮膚の増殖を抑えるのが主な効き目ですが、IL-17という乾癬の皮膚症状に重要な役割を果たすタンパクを作りにくくすることにも役立ちます。1日2回塗ることが推奨されています。カルシポトリオール(商品名:ドボネックス):軟膏マキサカルシトール(商品名:オキサロール):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファハイ):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファ):軟膏、ローション、クリーム1-3.配合外用薬配合外用薬も、ここ10年の進歩の1つです。ステロイドとビタミンD3の2つを配合させた薬がデビューし、乾癬の治療に幅広く使われるようになりました。昔は、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬を薬局で混ぜてもらって処方されることが多かったと思います。お薬の性質上、単純に混ぜるだけでは効果が落ちてしまいます。そのため、ステロイドとビタミンD3の両方を使いたい場合は、重ねて塗るか、両方とも特殊な製法で配合した塗り薬を使う必要があります。乾癬の塗り薬が効かない人は、まず混ぜた薬を使っていないか確認する必要があります。国内では、現在2種類の配合外用薬が使用可能です。カルシポトリオール水和物/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(商品名:ドボベット):軟膏、ゲル、フォームゲル剤があるので頭皮の中に塗るのにも向いています。頭皮の中に塗る際は、意外にベタつくことに注意が必要です。また、フォーム剤もデビューしました。フォーム剤は塗りやすさから海外で多く使われているようです。上手に使わないと飛び散るので注意が必要です。マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(商品名:マーデュオックス):軟膏ページTOPへ2.経口薬2-1.アプレミラスト(商品名:オテズラ)PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という酵素をブロックする薬です。頭痛、吐き気、下痢などの副作用が最初に出ることが多いので、お薬に体を慣らしていくためのスターターパックがあります。副作用は使っていくうちに慣れてくることが多いです。長期的に内服すると体重減少の副作用もあります。効果はゆっくり出てくるので、焦らず使用することが大切です。痒みや関節の痛みにも効果があります。注射薬のような劇的な効果ではないですが、症状が軽くなるので塗り薬を塗るのが面倒な方や小さなぶつぶつがたくさん出ている方には向いています。当院では小さなぶつぶつがたくさん出て塗りにくい方、頭のぶつぶつやかさぶたが治りにくい方、少し関節が痛い方、手足に分厚いかさぶたができて治りにくい方などに使っています。また、生物学的製剤の治療が終了した、もしくは何らかの理由で中断せざるを得なかった方にも使用できます。腎機能が低下している方は、半分の量で内服する必要があります。2-2.シクロスポリン(商品名:ネオーラル)乾癬が出てくるのに重要な働きをするT細胞の働きを抑える薬です。効果は比較的速やかで、量を多くすると生物学的製剤に近いくらいの効果を得ることもできます。ただし、血圧上昇などの副作用があることは注意が必要です。長期間内服すると、腎臓にダメージが起こります。海外のガイドラインでは1年程度の服用にとどめるように勧められています。これらの理由もあり、定期的な血液検査を必要としています。2-3.メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)リウマチではよく使われている薬ではありますが、乾癬でも最近保険適用になりました。リウマトレックスだけがジェネリックも含め乾癬に保険適用となっています。日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設でのみ乾癬に使用できます。妊娠計画の少なくとも3ヵ月前から男性、女性とも内服を中断しなければなりません。腎機能障害のある方には使用できません。副作用対策として葉酸製剤を内服することがあります。2-4.エトレチナート(商品名:チガソン)エトレチナートはビタミンA誘導体であり、免疫を落とさないことにより光線療法との併用が可能です。表皮細胞の異常増殖を抑えてくれることで効果を発揮します。唇が荒れる、手足の皮がむける、皮膚が薄くなるなどの副作用があります。催奇形性といって、お腹の赤ちゃんに奇形を起こす副作用が報告されています。そのため女性は服用中止後2年間、男性は半年間避妊することが必要になります。2-5.ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)に適応があります。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬という新しいメカニズムの治療薬です。もともと関節リウマチの治療薬として使用されていました。皮膚にも効果があります。15mg錠を1日1回内服します。帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますので、この治療薬を検討されている方には事前に帯状疱疹ワクチンの接種を強くお勧めしています。深部静脈血栓症、肺塞栓症といった血栓のリスクが高まります。そのための注意が必要になります。また、生物学的製剤と同様に事前に結核の検査をする必要があります。2-6.デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)2022年11月デビューの内服薬です。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。比較的副作用の少ない薬ですが、TYK2という分子をブロックするJAK阻害薬というジャンルに入っているため、日本皮膚科学会の分子標的薬使用承認施設のみで投与可能となっています。成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。ページTOPへ3.光線療法治療の位置付けとしては、寛解導入、すなわち週2~3回程度の細かい間隔で照射し、ぶつぶつをできるだけ消失させるのを最初の目的としています。効果が出て皮膚症状が寛解したら間隔をのばしていく、ないしは中止します。ナローバンドUVBは発がん性が上昇するリスクは今のところ報告されていません。しかし、紫外線であるため、ダラダラと継続して無駄な照射をしないように気を付けることも大切です。ページTOPへ4.顆粒球吸着除去療法アダカラムという特殊な体外循環装置を使い、白血球の一部である、活性化した顆粒球を取り除く方法です。膿疱性乾癬に保険適用があります。薬剤の投与をしないため、妊娠中でも実施できます。ページTOPへ5.生物学的製剤乾癬の治療は、2010年に生物学的製剤が使えるようになってから劇的に変化しました。今までの治療で効果がなかった患者さんも、この薬の投与を開始してから皮膚や関節の症状と無縁の生活を送れるようになってきました。このように非常によく効く薬なのですが、大変高額です。そのため、高額療養費制度の理解や活用も大切になってきます。どんどん薬剤の開発が進み、10年で10種類以上のお薬が乾癬に対して使えるようになってきました。生物学的製剤が使えない方、注意が必要な方活動性の結核を含む重い感染症がある方は使用できませんので、事前にしっかりと検査を行い、必要な対処を行ってから投与する必要があります。また、悪性腫瘍のある方は投与禁忌ではありませんが、投与に当たっては(がん治療の)主治医としっかり相談・確認して慎重に進めなければなりません。現在、乾癬に使える生物学的製剤だけで、こんなにたくさんの種類があります(2023年9月現在)。画像を拡大する(各薬剤の電子添付文書を基にケアネット作成)5-1.TNF-α阻害薬TNF-αというタンパクをブロックする薬です。TNF-αは体のあちこちで作られ、乾癬を悪化させていきます。内臓脂肪からも作られます。メタボ気味の人は内臓脂肪からのTNF-αが増えてきます。すると、インスリン抵抗性といって血糖が上がりやすい状態になってしまうこともあります。これをブロックすることで、全身のさまざまな炎症を抑えてくれることも期待されています。また、関節炎にも効果が高いです。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の症状が進行すると骨びらんという骨へのダメージが来るのですが、TNF-α阻害薬は骨破壊を抑え、回復させてくれる効果が期待できます。インフリキシマブ(商品名:レミケード)唯一、これだけが点滴で投与する薬です。効果不十分時に増量ないし投与期間を短縮することが可能です。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)2週間に1回皮下注射する薬です。効果不十分時に増量することが可能です。シリンジだけでなく、ペン型の注射器具があるため自己注射が簡単に行えます。セルトリズマブ ペゴル(商品名:シムジア)この薬剤は製法が特殊であり、胎盤をお薬が通過しにくいことがわかっています。そのため唯一、妊娠中でも使える生物学的製剤です。TNF-α阻害薬が使えない人うっ血性心不全のある方多発性硬化症などの脱髄性疾患をお持ちの方TNF-α阻害薬はどんな人に向いている?乾癬性関節炎(関節症性乾癬)で、とくに関節の症状が強い人メタボ気味の人炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の既往がある人体重が重い人インフリキシマブは体重1kg当たり5mgの量を投与します。体重がかなり重い方は十分な薬剤量を行きわたらせるためにインフリキシマブを選択することがあります。5-2.IL-23阻害薬IL-12/23 p40阻害薬のウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)が最初に出ました。IL-23はp40とp19というタンパクが合体しているものです。p40はIL-12という別のタンパクにも含まれている構造のため、IL-12/23 p40阻害薬は乾癬に関係のない細胞の働きも弱めてしまいます。そこで、ウステキヌマブ以降に出た次世代型のIL-23阻害薬は、p19をブロックすることでよりピンポイントな効き目を実現させています。すべての薬剤にある特長は、効果が持続しやすい、投与間隔が長いという点、副作用が少ないことです。ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)2011年から使用されている薬剤です。効果不十分な場合に増量できるのが特徴です。グセルクマブ(商品名:トレムフィア)掌蹠膿疱症にも適応があります。維持投与期は8週間に1回の投与を行います。リサンキズマブ(商品名:スキリージ)維持投与期は12週間に1回という長さが魅力です。チルドラキズマブ(商品名:イルミア)尋常性乾癬のみに適応があります。この薬剤も維持投与期は12週間に1回です。IL-23阻害薬はどんな人に向いている?治りにくい尋常性乾癬の方仕事が忙しくて通院が大変な方自分で注射を打つのが怖い方5-3.IL-17阻害薬IL-17とは乾癬を発症させるのに大変重要な役割を果たすタンパクです。IL-17にはIL-17AからFまでの6つのサブファミリーがあります。とくにIL-17ファミリーの中で乾癬の成り立ちに重要な役割を果たすタンパクが、IL-17AとIL-17Fです。治療効果が早く出ること、そして4種類の薬剤それぞれ非常に高い効果が得られることが特長です。セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブは維持投与期に自己注射をすることが可能です。セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)最初の1ヵ月に毎週注射をすることで効果を早く出せることが特長です。完全ヒト型抗体であり、中和抗体が出にくいのが特徴です。成人には300mgを投与しますが、状況により減量が可能です。生物学的製剤の中で唯一小児にも適応があります。通常、6歳以上の小児にはセクキヌマブ(遺伝子組換え)として、体重50kg未満の患者には1回75mgを、体重50kg以上の患者には1回150mgを皮下投与します。なお、体重50kg以上の患者では、状態に応じて1回300mgを投与することができます。イキセキズマブ(商品名:トルツ)IL-17Aを阻害します。薬剤の特長として高い治療効果が早期から出てくることが多いです。効果がいまひとつだったり、安定しなかったりするとき、つまり使用開始後12週時点で効果不十分な場合には、投与期間を短縮することが可能です。乾癬の皮膚や関節症状が強い方、安定しない方に向いています。ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)この薬剤は、乾癬の治療薬ではIL-17の受容体であるIL-17RAをブロックする薬です。そのため、IL-17A、IL-17A/F、IL-17C、IL-17E、IL-17Fが受容体に結合するのをブロックすることができます。皮膚症状に対しては、かなり有効性が期待できる薬剤です。ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)IL-17A、IL-17Fをブロックできる薬剤です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)には適応がありません。今までの治療でうまくいかなかった人でも鋭い効果を出すことが期待されています。IL-17阻害薬が使えない方炎症性腸疾患のある方IL-17は腸管のバリア機能を保つために重要な役割を果たします。炎症性腸疾患のある方は、IL-17をブロックすることで悪化する可能性があります。真菌感染症のある方IL-17は真菌(カビ)の防御に大切な働きをします。そのため、これらの感染症がある方は、IL-17をブロックすることで悪化させてしまう可能性があります。IL-17阻害薬はどんな人に向いている?皮膚の症状がかなり重度な方自分で注射を打てる方素早い効果を期待している方5-4.IL-36受容体阻害薬スペソリマブ(商品名:スペビゴ)抗IL-36受容体抗体であるスペソリマブが主成分です。膿疱性乾癬における急性症状の改善、という適応で保険収載されました。投与開始1週後に有意な膿疱の減少、12週後には84.4%の患者で膿疱が消失という劇的な効果を呈することが知られています。ページTOPへまとめ乾癬の治療薬、治療法はたくさんあることがおわかりいただけたと思います。乾癬の治療に絶対の正解はありませんが、いろいろな治し方を知り、治療方針を決めていく参考になればと思っております。乾癬の治療薬は、まだたくさん開発されています。内服薬(RORγtインバースアゴニスト)、外用薬(アリル炭化水素受容体モジュレーター)などが治験中です。今後も多くの治療選択肢ができることで、乾癬患者さんたちの未来は明るくなっていくのではと期待しています。1)森田明理ほか. 乾癬の光線療法ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:1239-1262.2)佐伯秀久ほか. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版). 日皮会誌. 2022;132:2271-2296.3)各薬剤の電子添付文書

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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難治性クローン病の寛解導入と寛解維持に対するウパダシチニブの有用性(解説:上村直実氏)

 慢性かつ再発性の炎症性腸疾患であるクローン病(CD)の治療に関しては、病気の活動性をコントロールして患者の寛解状態をできるだけ長く保持し、日常生活のQOLに影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症の治療や予防が非常に重要である。すなわち、十分な症状緩和と内視鏡的コントロールを提供する新しい作用機序の治療法が求められる中、最近、活動性とくに中等症から重症のCDに対しては、生物学的製剤により寛解導入した後、引き続いて同じ薬剤で寛解維持に対する有用性を検証する臨床試験が多く施行されている。今回は、CDの寛解導入および寛解維持療法における経口選択的低分子のJAK阻害薬であるウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)の有効性を示すRCTの結果が、2023年5月のNEJM誌に報告された。ウパダシチニブの導入療法および維持療法の主要評価項目である臨床的寛解および内視鏡的効果に関して、プラセボより有意に優れた結果を示すと同時に安全性に関しても許容範囲であった。この報告と同時に米国FDAは難治性CDの寛解導入と寛解維持を目的としたウパダシチニブを承認している。 リンヴォック錠は1日1回投与の経口薬で、わが国でも2020年に難治性の関節リウマチ(RA)に対して保険収載され、その後も2021年には関節症性乾癬およびアトピー性皮膚炎、2022年には強直性脊椎炎に対する治療薬として適応追加が承認されている。CDについては2023年6月26日、既存治療で効果不十分な中等症から重症の活動期CDの寛解導入および維持療法の治療薬として適応追加が承認された。 このように難治性CDに対しては潰瘍性大腸炎(UC)と同様にさまざまな生物学的製剤が開発されているが、一般臨床現場で注意すべきは重篤な感染症である。今回のJAK阻害薬であるウパダシチニブ、トファシチニブおよびフィルゴチニブは、わが国でもRAなどに対して比較的長い間使用されているが、自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られており、感染症および悪性疾患の発生には留意する必要がある。とくに、本研究でも述べられているように、JAK阻害薬には血管血栓症や帯状疱疹の発生リスク上昇の可能性も報告されており、薬理作用に精通した長期的な患者管理が重要であろう。

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コロナ5類移行後の院内感染対策の現状は?/医師1,000人アンケート

 5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行となったが、医療機関ではその前後の過渡期に、これまで継続してきたさまざまな院内感染対策の緩和について議論されていた。5類に移行して約1ヵ月経過し、新規コロナ感染者は全国的に増加傾向にあり、院内感染対策をどこまで緩和するか、今なお難しい判断が迫られている。 病床の有無やコロナ診療状況など条件の異なる医療機関において、院内感染対策の現状や、抱えている課題を把握するため、病院を20床以上、診療所を20床未満と定義し、病院522人、診療所502人の会員医師1,024人を対象に『病院・診療所別 新型コロナ5類移行後の院内感染対策アンケート』を5月30日に実施した。5類移行後、病院93%、診療所72%がコロナ診療している 「Q1. 勤務先の医療機関における、5類移行前後での新型コロナの診療状況」という設問では、「5類移行の前後で、いずれもコロナ診療を受け付けている」「5類移行前は受け付けていなかったが、移行後は受け付けている」「5類移行前は受け付けていたが、移行後は受け付けていない」「5類移行の前後で、いずれも受け付けていない」の4つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 病院では、84%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、9%が5類移行後に新たに受け付けるようになった。診療所では、56%がいずれの時期も受け付けており、16%が移行後に新たに受け付けるようになった。なお本調査では、コロナ診療の割合の低い眼科、皮膚科、泌尿器科といった診療科も含まれている。PPE着用は感染症疑いの患者の診察時のみが多数 「Q2. 個人防護具(PPE)の着用について」という設問では、「勤務中は常にPPEを着用している」「感染症疑いの患者の診察時のみPPEを着用している」「PPEを着用していない」の3つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 コロナ診療している病院では、常にPPE着用している割合は12%で、79%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療している診療所でも、常にPPE着用している割合は12%で、64%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療をしていない医療機関でも、病院の49%、診療所の33%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用し、診療所の5%が常に着用していると回答した。 「Q3. 診療中の手指消毒のタイミングについて」という設問では、「診療室や病室に入るとき」「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」のそれぞれの場合に対して、病院では約60%の医師がいずれの場合も手指消毒を行っているとした。診療所では、45%が「診療室や病室に入るとき」、約55%が「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」に手指消毒を行っていると回答した。コロナに罹患した職員の療養期間、病院と診療所で傾向の差 「Q4. 勤務先の医療機関での、コロナに罹患した医療従事者の療養期間は何日か」という設問では、医療機関の規模とコロナ診療の有無で、結果に若干の傾向の差が出た。最も慎重な結果だったのはコロナ診療している病院であり、4日以下が8%、5日が56%、7日が24%、8日以上が10%であった。コロナ診療していない病院では、4日以下が8%、5日が64%、7日が21%、8日以上が5%であった。 診療所はコロナ診療の有無にかかわらずほぼ同等で、コロナ診療している場合は、4日以下が13%、5日が63%、7日が17%、8日以上が2%。コロナ診療していない場合は、4日以下が17%、5日が62%、7日が16%、8日以上が3%であった。病院と比べて診療所のほうが、4日以下の割合が約2倍多くなっている一方で、7日、8日以上の割合は病院のほうが多かった。 「Q5. 入院予定患者に対する事前のコロナスクリーニング検査の実施状況について」という設問では、病院では、PCR検査を実施しているのが31%、抗原検査を実施しているのが27%、検査は行わず、事前に診察でコロナの診断を行っているのが9%、事前スクリーニング検査は実施していないとしたのが29%となり、結果が拮抗していた。人々の危機感の薄れとは裏腹に、医療機関ではさまざまな課題 「Q6. 院内の感染対策を緩和していくうえで、判断に迷っていること、難しいと感じること」という設問では、以下のような意見が挙げられ、新型コロナに対する人々の危機感の薄れとは裏腹に、医療機関がさまざまな課題を抱えていることが浮き彫りになった。患者が感染対策せずに来院する・ウイルス感染は依然として続いているのに、あたかも、なくなったかのごとく振る舞う患者が結構みられるようになった。(診療所・内科・60代)・マスクをしない患者さんがよく来るようになった。(診療所・皮膚科・40代)院内感染・クラスター・感染が広がった際の責任の所在。(病院・呼吸器外科・30代)検査・入院時に陰性でも、後に感染が判明することがある。(病院・糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)・明らかにコロナ感染症だと思われる方の中には、検査を希望されない方が一定の割合で存在する。(診療所・内科・60代)・以前は患者負担なく検査できたのでやりやすかったが、今はそうではないので困る。(診療所・消化器内科・40代)動線・ゾーニング・現状は時間分離で診療を行っているが、一般患者さんとの分離が十分できている保証はない。(診療所・内科・70代以上)面会・新型コロナ感染者が1人でも院内に発生した場合に、面会制限をしたほうがいいのか、判断に困っています。(病院・内科・50代)PPE・どこまでPPEを緩めるか。(診療所・内科・50代)職員への対応・職員の同居人に発熱者が出ても新型コロナかどうか不明の場合の出勤調整の判断に迷う。(診療所・内科・60代)・咳嗽が残った従事者の勤務。(診療所・内科・60代)感染対策の基準がわかりづらい・適正な指針が見当たらない。(病院・消化器内科・50代)・高齢者が多いため緩和しにくい。(診療所・内科・50代)・最近また新型コロナウイルス感染患者が増えてきた。(病院・外科・40代)・コロナ以外にもインフルエンザや麻疹、結核などのルールアウトもしておらず、アウトブレイクに対して一抹の不安はある。(病院・麻酔科・50代)・地域・全国のコロナ患者の状況、ベッドがどれくらい埋まっているかの情報・統計が得られなくなり、院内の感染対策を緩めていい時期が不明瞭。(診療所・内科・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。5類移行後の院内感染対策はどうしている?/医師1,000人アンケート なお、ケアネットライブでは『アフターコロナの院内感染対策・新ルール』を6月21日(水)20時からライブ配信する。聖路加国際病院 感染管理担当の坂本 史衣氏が、最新の知見を踏まえ、今後の院内感染対策で徹底すべきこと、緩和してもよいことなど、実践例を交えながら解説する。本講義はCareNet.com会員であれば無料で視聴できる。

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第155回 「サル痘」感染対策、やってはいけない患者啓発とは

先日、京都滞在中、ある1通のメールを受信した。国立国際医療研究センター広報企画室からだ。フリーライターでも過去に取材をしたことがある医療機関・研究機関の広報部門に名刺を渡すと、ニュースリリースをはじめとするお知らせが届くようになる。私に国立国際医療研究センターからメールが届くようになったのは、2014年に扶桑社から発刊されている「週刊SPA!」で、知人を介して新興・再興感染症の特集を企画している編集者を紹介され、同特集の執筆者として同センターに取材に行ったのがきっかけである。ちなみにこの時は異例づくしだった。そもそも初対面となる担当編集者から指定された打合せ場所が同センターの結核病棟だった。なんと、担当編集者自らが結核にかかり、この病棟に入院中という。そこで私は同センターに赴き、1階の自動販売機でN95マスクを購入して装着。結核病棟に入院する編集者のもとを訪ねて打ち合わせをした。当時、アフリカではエボラウイルス病(旧エボラ出血熱)が流行していたことに加え、編集者本人が結核にかかったことで企画を思いついたという。なんともアグレッシブな企画立案経緯だが、実は雑誌の特集などでは編集者本人が当事者だったことがきっかけで企画が生まれることはよくある。結局、この時は編集者から病棟内を案内され、そこにあるオープンスペースで打ち合わせをした。編集者曰く、まずは特集内でエボラウイルス病と結核を取り上げることは決まっているので、それ以外にふさわしい感染症をリストアップして欲しいという。そこで私が挙げたのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」「デング熱」「E型肝炎」。最終的にはデング熱は外され、それ以外の2つをやることとなった。そこでSFTSの取材で再び同センターを訪れたのだった。取材当日、対象者である医師と向かい合った瞬間、開口一番に「なんかさっきデング熱の国内発生が報じられてました」と聞かされた。そのニュースをまだ知らなかった私は「え?」となった。何とも間が悪い。髭面のこの医師に企画段階でデング熱が外されたことを話すと、「あははは」と笑われた。この医師こそが今回のコロナ禍で全国区の有名人となり、現在は大阪大学大学院医学系研究科の感染制御医学講座教授に転身された忽那 賢志氏である。さて前置きが長くなったが、同センターからのメールには、今年に入ってから国内で急増している「サル痘」に関して、厚生労働省がメディア向けのハイブリット勉強会を開催する旨が記載されていた。同センターの医師が参加するため、情報提供のためリリースを行ったとある。私個人としても興味を持っていた事象だったので、ぜひ参加したかったが、基本は省内の記者クラブ所属記者向けである。開催日は金曜日夕方で、この日の午前中まで私は京都にいて夕刻までには東京に戻る予定だった。十分参加可能だ。とりあえずリリースにあった結核感染症課の担当者に電話連絡し、クラブ外からの参加が可能かを尋ねたところ、現在確認中なので決まり次第連絡をするとのこと。翌日午前中、京都最後のワーケーションとして仁和寺で満開だった御室桜を見ている時に参加可との着信が入り、その足で京都駅に向かい、新幹線に飛び乗った。さて、国内でのサル痘患者については4月12日現在108例が報告されており、うち100例が2023年になってからの発生報告例だ。とりわけ3月以降増加している。2022年内に報告された8例では、うち5例は海外渡航歴あるいは国内来訪中の外国人と接触があったが、2023年以降報告されている100例のうち海外渡航歴などがあったのはわずか1例。その意味では輸入感染症から土着性の感染症になりつつあるステージである。これまで判明した患者はすべて男性である。世界保健機関(WHO)がサル痘のハイリスク群として指摘しているのがMSM(Men who have Sex with Men)である。この辺の定義をより厳格に記述しておくと、MSMは男性同性愛者とイコールではなく、バイセクシャルも含む。現在、日本国内で報告されているサル痘患者が全員男性であることからもわかるように、MSMは明らかなハイリスク群である。勉強会でもこのような国内での感染状況などの事実関係や代表的な症状、予防法、現在の治療法などが簡潔に解説され、あとは出席した記者と厚労省担当者や国立国際医療研究センターからの出席医師と質疑応答になった。実は特筆すべきだったのがこの場のプレゼン側の出席者として、厚労省が新宿でHIV/エイズ、性感染症などのセクシャルヘルス情報センターを運営するNPO法人の代表を呼んだことである。NPO法人代表からは、参加した記者達に向けて、「報道時に感染者や感染経路と関連した特定の属性の人達への差別・偏見に十分にご注意いただきたい」とのお願いがあった。代表はより具体的に次のように語った。「特定の人たちに対する差別・偏見が生まれることは人権の視点で当然避けられるべきです。さらに過去40年にわたるエイズ対策の中で私達が学んできたことは、社会での差別・偏見が高まれば、感染する可能性のある人が(差別・偏見を受けやすい)その属性と関連付けられてしまうことを気にして、たとえば医療機関の受診や検査・相談を受けることを避けてしまう。それによって、必要な人が必要な予防やケアに繋がらなくなってしまう。その結果、感染症の流行を終わらせることがさらに遅くなってしまう」この点はその通りである。もっとも報道としては悩みが深い部分でもある。というのも前述のような国内発生例が現状では全員男性、WHOがMSMをハイリスク群と指摘している事実は報じないわけにはいかない。ところが事実を単純に報じるだけでは、少なからぬ人がサル痘を「男性同性愛者特有の性感染症」と受け止めて他人事と思い、一部ではそれが先鋭化してMSMへの偏見・差別につながることは十分起こり得るからだ。もちろん報道を含めた情報発信側により突っ込んだ努力は求められる。たとえば実際のサル痘の感染経路である▽げっ歯類をはじめサルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触▽感染者や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)▽感染者とかなり接近した対面での飛沫への長時間の曝露▽感染者が使用した寝具などとの接触、を具体的に報じることがその1つである。また、この感染経路を考えれば性感染症というのも正確ではないので、そうした表現は使わない。さらに、感染経路と現状の国内での感染急増を考慮すれば現在は女性も含めて多くの人が感染リスクにさらされているステージになっていることを報じることも必要だろう。しかし、そこまでしてもなお人は自分にわかりやすく解釈してしまう。報道は個人の解釈までには手が及ばないのである。たぶんこうした歯がゆい思いはMSMの人達に接したことがある医療従事者ならば経験していることではないだろうか。確かにかつてと比べれば、性的マイノリティに関する認識や議論はかなり進化している。とはいえ、政治家の不穏当発言に代表されるように、今も差別・偏見は各所に根強く残っている。差別・偏見を肯定するつもりはさらさらないが、社会全体でみると、少数派への理解がどうしても遅れてしまうのは世の常である。これを少しでも変えていくためには、ある程度のトップダウン型の対応が必要になると個人的には考えている。具体的には教育や法整備を実施することで、やや強制的に社会を変えていくのである。つまり「外堀」を埋めて否が応でも理解をしなければならない環境を作り出す。その意味で、今回このサル痘のメディア勉強会に厚労省がMSMを支援する当事者を呼んだことは、私は英断だと思っている。一方、サル痘の件も含め、性的マイノリティの人達が抱える心身のリスクに接する機会が社会のほかのクラスターよりも明らかに多いのは医療従事者である。この環境を考えれば、医療従事者向けにこうした性的マイノリティに関する理解を深めるための教育も国が率先して取り組んでいく時期に差し掛かっているのではないだろうかとも思っている。

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第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)

休職中だったWHO西太平洋地域事務局の葛西 健・事務局長とうとう解任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ワールド・ベースボール・クラシック (WBC)が終わってしまいました。日本代表の優勝に終わった今大会ですが、栗山 英樹監督以下、コーチ陣のほとんどが北海道日本ハムファイターズ(以下、日ハム)の在籍経験者で占められていたことは特筆に値します(代表の投手コーチだった吉井 理人・ロッテ監督も日ハムの投手コーチ時代にダルビッシュ 有選手、大谷 翔平選手を指導)。時折映るブルペンには、かつて日ハムでダルビッシュ選手の球を受けていた鶴岡 慎也氏もいました(ブルペンキャッチャーとして帯同)。首脳陣や裏方の組織編成に、栗山監督が日ハム時代に一緒に働き、自身の考えや戦い方を熟知している人間たちを招集したということでしょう。今回のWBCは、野球というスポーツを超えて、組織づくりという面でもとても参考になりました。ちなみに今回日本代表にスタッフとして参加した大谷選手の通訳の水原 一平氏(元日ハム通訳)は決勝戦直後、自身のインスタグラムに「日ハム組」と題して、コーチ陣に大谷 翔平選手、ダルビッシュ 有選手、近藤 健介選手、伊藤 大海選手らの出場選手も加わった集合写真を掲載しました。総勢なんと13人、全員がにこやかに笑う写真はまるで日ハムが世界で優勝したかのようでした。さて今回は、同じ”世界”ということで、WBCならぬWHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。昨年8月から休職となっていた葛西氏、日本政府の強力なロビー活動も虚しく、正式に解任となってしまいました。「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とWHOWHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。WHOが地域事務局長を解任したのは初めてだそうです。共同通信などの報道によると、葛西氏の処遇を決める地域委員会の投票では解任賛成が13票、反対が11票、棄権が1票とほぼ拮抗。その結果を踏まえ、WHOは「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とし「(葛西氏の)任命を取消した」と発表しました。不適切な行為の詳細は明らかにしていません。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て内部告発についてはAP通信が昨年1月に最初に報じました。それらの報道によれば、葛西氏は部下の職員に人種差別的な発言をしたり、「攻撃的なコミュニケーションや公然の場で恥をかかせる行為」を繰り返したり、一部の太平洋地域における新型コロナウイルスの感染拡大は「文化や人種のレベルが劣ることによる能力不足」などと述べたりしたとのことです。さらに、機密情報を日本政府に漏らしたという疑いも浮上していました。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て、WHOは告発内容について調査を開始、葛西氏を休職扱いとしました。葛西氏は、調査開始当初、声明で「部下に厳しく接したことは事実だが、特定の国籍の人を攻撃したことはない。機密情報を漏洩したとの非難にも異議がある」と告発内容を否定していました。テドロス事務局長の後任の最有力候補だった葛西氏葛西氏は慶應大学医学部出身の医師で、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院を修了後、岩手県庁で働いた後、厚生省(当時)に入省しました。同省保健医療局結核感染症課の国際感染症専門官などを経て2000年からWHO西太平洋地域事務局に感染症対策医官として勤務、西太平洋地域の結核対策や、SARS対応に取り組みました。その後、厚生労働省の大臣官房国際課課長補佐としていったん日本に戻り、宮崎県福祉保健部次長などを務め、地域の医療や感染症対策などに取り組みました。2006年に再びWHOに戻り、西太平洋地域事務局感染症対策課長、WHOベトナム代表などを務め順調に出世、2019年2月、日本政府の強力な支援を受けて、地域委員会の選挙でWHO西太平洋地域事務局長に選ばれました。WHOの西太平洋地域事務局は、世界に6ヵ所あるWHOの地域事務局の一つで、日本や中国、オーストラリアなどを管轄しています。西太平洋地域事務局長には、新型インフルエンザ等対策有識者会議の会長を務める尾身 茂氏も1999年から2006年まで就いていました。葛西氏は、WHOのトップ、テドロス・アダノム事務局長の後任の最有力候補とも目されていました。2006年の選挙で尾身 茂氏が苦杯を舐めたWHO事務局長のポストの獲得は、日本政府にとっても悲願と言えることでした。今回の解任は、WHOをはじめとする国際機関のポスト獲得に注力してきた日本政府には非常に大きな痛手となりました。この方面に詳しい知人に話を聞くと、「いろいろな国際機関があるが、WHOは将来日本がトップを取れるかもしれない数少ない機関の一つだった。告発が表沙汰になってから、日本は嘆願書を出し、尾身氏をマニラに送り込むなど、強力なロビー活動を展開したがダメだった。葛西氏は否定し続けてきたが、告発が事実だった可能性は高い」と話していました。なお、松野 博一官房長官は解任が決まった翌日、9日の記者会見で、WHOが葛西氏を解任したことについて、「選挙で選ばれた局長に対する処分であり、調査・事実認定は公正公平に行われ、地域委員会、加盟国がコミットした上で行われる必要があると一貫して主張してきた」と述べる一方、「日本政府は人種差別やハラスメントを容認しないWHOの政策を支持する立場だ」とも語りました。歴代の厚労大臣がWHOに「嘆願書」ところでこの件に関し、雑誌「集中」2023年1月号は「WHO葛西 健氏の処分、対応巡り政府与党内に波紋」という記事を掲載、2022年10月に歴代の厚生労働大臣がWHOのテドロス事務局長に「嘆願書」を送っていたと報じています。同記事によれば、嘆願書は田村 憲久・元厚労相、塩崎 恭久・元厚労相、根本 匠・元厚労相、後藤 茂之・前厚労相、武見 敬三・元厚労副大臣、古川 俊治・自民党参院議員、橋本 岳・元厚労副大臣、丸川 珠代・元厚労政務官の8人の連名で、「私達は日本の国会議員として、グローバルヘルスやWHOと密接な関わりを持って来ました。私達は、WHO西太平洋事務局長の葛西 健先生に対する疑念に対するWHOの対応について懸念を共有する為に、この連名で書簡を送ります」として、「私達はこの疑惑について直接知っている訳ではないので、特にコメントしません。しかし、葛西 健先生を長年知っている私達にとって、これらの疑惑は真実から遠く離れたものでしかありません」と葛西氏に対する疑惑に疑問を呈しています。その上で、加藤 勝信厚労相が、22年9月に開催された西太平洋地域の地域委員会において、今回の内部告発や調査などについて十分な情報開示と正式な議論を求める意見を表明したにも関わらず、それに対して具体的な行動が取られていないことに懸念を表明しています。葛西氏は今回のような疑惑を招くような人物ではない、調査結果を公表してほしい、葛西氏の言い分も聞くべきだ…。歴代の厚労大臣らによる異例の嘆願書がWHOに送られたものの、結局は解任に至ってしまいました。一体、何が悪かったのでしょうか。パワハラが表沙汰になった段階でほぼほぼアウトの欧米先進国WHO内でのさまざまな事情やパワーバランスももちろん大きいと思いますが、一つにはパワハラやセクハラなどに鈍感、寛容過ぎる日本人の特性が災いした可能性があります。欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階で、ほぼほぼアウトというのが常識と言われています。そもそも複数(30人!)の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性に疑問符が付けられてしまいます。ましてや多様性の象徴とも言える国際機関での差別発言は、たとえそこに悪意がなかったとしてもアウトでしょう。そのアウトさがAP通信で報道されたのは2022年1月。すぐさま火消しに入らなかった日本政府や頑なに告発内容を否定し続けた葛西氏にも非がありそうです。「解任理由が不明確」との批判もありますが、国際的には今回の解任、歓迎の声も大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal」(グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎)と題する記事を掲載しているのです。(この項続く)

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3月24日 世界結核デー【今日は何の日?】

【3月24日 世界結核デーの日】〔由来〕ドイツのロベルト・コッホが結核菌を発見し演説した日にちなみ、世界保健機関(WHO)が1997年に制定。世界中でこの日の前後に結核撲滅や結核の啓発について、イベントが開催されている。関連コンテンツ結核菌特異的IFN-γ産生能とは【患者説明用スライド】マンガ喫茶で結核集団感染!【Dr. 倉原の”おどろき”医学論文】終わらない結核結核菌の新たな生き残り戦略未治療HIV結核患者、検査に基づく治療が有益/NEJMリファンピシン耐性結核に短期レジメンが有望/NEJM

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多剤耐性抗結核治療薬を用いた薬剤感受性結核の治療期間短縮トライアル(解説:栗原宏氏)

Strong point 8週間(標準治療24週の1/3の治療期間)でも非劣性が示された標準治療と比較して死亡、治療失敗、有害事象に有意差なしWeak point リファンピシン感受性結核菌に対し多剤耐性抗結核薬を使用している高額な治療コスト日本国内ではベダキリン、リネゾリドは薬剤感受性結核には適応外 結核は、発展途上国を中心に年間約1千万人が発症、約160万人が死亡する疾患である。日本国内では減少傾向ではあるものの、2021年には約1.1万人が新規に登録され、約2千人が死亡している。 結核の治療は結核菌の耐性化予防が非常に重要であり、多剤併用、長期間投与が基本となる。一方、複雑な治療方法や長期間の治療は患者の服薬アドヒアランスの低下、ひいては治療失敗、耐性化の原因にもなり得る。このような背景の下、結核治療は治療期間の短縮が模索されてきた。 1950年代前半に登場した3剤併用レジメンが24ヵ月であった。新薬の開発とともにエビデンスが積み上げられ、1980年代に登場した現在行われている標準治療レジメンでは6ヵ月になった。最近ではrifapentineを用いたレジメンで4ヵ月に短縮できたという報告もある1)。現在も短縮は模索されており、本研究もその1つである。 本研究で使用された薬剤について簡単に解説する。rifapentine(本邦未発売):いくつかの調査から治療期間の短縮が期待されている1),2)。副作用として好中球減少、肝機能障害、C.ディフィシル腸炎が知られている。ベダキリン:本邦では2018年に承認された多剤耐性結核治療薬。耐性発現を防ぐため、適正使用が強く求められ、製造販売業者が行うRAP(Responsible Access Program)に登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対して行うこととされている。副作用としてQT延長を来す。リネゾリド:本邦ではMRSA治療薬として使用されるが、世界的には多剤耐性結核の治療薬としても用いられており、今後国内でも認可される可能性がある。副作用として骨髄抑制が有名。 本研究での対象は多剤耐性結核菌ではなくリファンピシン感受性結核菌である点、多剤耐性結核菌に対するレジメンで使用される治療薬であるベダキリン、リネゾリドを用いている点に留意する必要があるが、治療期間が8週間と標準治療24週の1/3に短縮できる可能性が示された。治療終了後96週時点で標準治療と比較して、ベダキリン+リネゾリド レジメンでは死亡例、治療失敗例の数、有害事象ともに有意な差がなかった。 一方、先行研究で治療期間短縮が有望視されているrifapentineを用いたレジメンは調査に組み込まれていたが、プロトコルにより途中で登録が中止されており評価対象とならなかった。また、完遂したレジメンのうち、日本国内でも使用可能なリファンピシンを、高用量(体重によって異なるが大まかに標準レジメンの3倍)で用いたレジメンでは非劣性を示すことができなかった。 治療期間短縮は魅力的であるが、日本国内では現時点において、多剤耐性結核治療薬であるベダキリンおよび適応外使用となるリネゾリドを用いる本レジメンは薬剤感受性結核菌の治療に直ちに適用できるものではない。日本国内における多剤耐性結核の治療成功率は40~70%とされる。開発が容易ではない多剤耐性結核治療薬は非常に貴重であり、今後も使用適応は限定されると思われる。 参考までに、本レジメンでの治療コストは、ベダキリンとリネゾリドの主要薬剤2剤で約230万円となり、結核治療としてはかなり高額になる。

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リファンピシン感受性肺結核、8週レジメンが標準治療に非劣性/NEJM

 結核の治療において、8週間のベダキリン+リネゾリドレジメンによる初期治療を含む治療戦略は標準治療に対して非劣性であり、治療期間の短縮にもつながり、安全性に明らかな懸念はないことを、シンガポール・シンガポール国立大学のNicholas I. Paton氏らがアダプティブ第II/III相無作為化非盲検非劣性試験「Two-Month Regimens Using Novel Combinations to Augment Treatment Effectiveness for Drug-Sensitive Tuberculosis trial:TRUNCATE-TB試験」の結果、報告した。結核は、通常6ヵ月間のリファンピシンベースのレジメンで治療されるが、初期治療期間の短縮を含む治療戦略により同様の治療成績が得られるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年2月20日号掲載の報告。高用量リファンピシン+リネゾリドまたはベダキリン+リネゾリドを検証 研究グループは2018年3月21日~2020年1月20日の期間で、インドネシア、フィリピン、タイ、ウガンダ、インドの18施設において、18~65歳のリファンピシン感受性肺結核患者675例を、標準治療(リファンピシン+イソニアジド24週、ピラジナミド+エタンブトールを最初の8週間併用)、または4つの初期治療戦略群(8週間レジメンの初期治療、臨床症状が持続する場合は12週まで治療延長、治療後モニタリングおよび再発時の再治療を含む)のいずれかに無作為に割り付けた。4つの初期治療レジメンは、高用量リファンピシン+リネゾリド、高用量リファンピシン+クロファジミン、rifapentine+リネゾリド、ベダキリン+リネゾリド(いずれもイソニアジド+ピラジナミド+エタンブトールとの併用)である。 今回は、登録が完了した高用量リファンピシン+リネゾリドとベダキリン+リネゾリドの2つの初期治療レジメンについて、標準治療に対する非劣性を検証した。 主要アウトカムは96週時点での死亡、治療継続または活動性疾患の複合で、非劣性マージン12ポイント、片側有意水準0.0125とした。ベダキリン+リネゾリド、96週後の複合エンドポイントに関して非劣性 675例中、1例は誤って無作為化されたため直ちに撤回され、intention-to-treat集団は674例であった。このうち、4例が同意撤回または追跡不能となった。 主要アウトカムのイベントは、標準治療群で181例中7例(3.9%)、高用量リファンピシン+リネゾリド群で184例中21例(11.4%、補正後群間差:7.4ポイント、97.5%信頼区間[CI]:1.7~13.2、非劣性基準を満たさず)、ベダキリン+リネゾリド群で189例中11例(5.8%、0.8ポイント、-3.4~5.1、非劣性基準を満たす)に発生した。 96週時点の平均治療期間は、標準治療群180日、高用量リファンピシン+リネゾリド群106日、ベダキリン+リネゾリド群85日であった。 Grade3/4の有害事象および重篤な有害事象の発現率は、3群で類似していた。

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自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」【下平博士のDIノート】第115回

自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」今回は、抗リウマチ薬「メトトレキサート(MTX)皮下注(商品名:メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL/同10mgシリンジ0.20mL/同12.5mgシリンジ0.25mL/同15mgシリンジ0.30mL)、製造販売元:日本メダック」を紹介します。本剤は、国内初の自己注射可能なMTX皮下注製剤であり、関節リウマチ患者の服薬アドヒアランスの向上に加え、誤投与・過剰投与リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、関節リウマチの適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはMTXとして7.5mgを週に1回皮下注射します。患者の状態や忍容性などに応じて適宜増量できますが、15mgを超えることはできません。4週を目安に患者の状態を十分に確認し、増量は2.5mgずつ行います。<安全性>国内第III相臨床試験(MC-MTX.17/RA試験)において、83.8%(93/111例)に臨床検査値異常を含む有害事象が認められました。5%以上に認められたものは、悪心16.2%、口内炎14.4%、関節リウマチ11.7%、上咽頭炎10.8%、ALT増加9.9%、肝機能異常9.9%、白血球数減少8.1%、上腹部痛5.4%、高血圧5.4%などでした。なお、重大な副作用として、ショック/アナフィラキシー(頻度不明)、骨髄抑制(5%以上)、感染症(0.1~5%未満)、結核、劇症肝炎/肝不全、急性腎障害/尿細管壊死/重症ネフロパチー、間質性肺炎/肺線維症/胸水、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)/皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出血性腸炎/壊死性腸炎、膵炎、骨粗鬆症、脳症(白質脳症を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML)(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、異常な状態となっている免疫反応や炎症反応を抑えることで、関節リウマチによる関節の腫れや痛みを改善します。2.通常、週に1回、特定の曜日に皮下注射してください。3.注射部位は大腿部・腹部・上腕部の毎回異なる部位を選び、短期間に同一部位へ繰り返して投与しないでください。4.この薬を投与している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は医師に相談してください。5.発熱、倦怠感が現れた場合や、口内炎、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れた場合は直ちに医師に連絡してください。6.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を投与中および投与終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。7.(授乳中の女性に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤の投与中は授乳しないでください。<Shimo's eyes> 関節リウマチ(RA)治療の基本は、疾患活動性を低く抑え、早期の臨床的寛解を達成・維持することです。MTXはRAの病態形成に関与する種々の細胞に対して、複数の分子作用機序を介して免疫および炎症性反応を抑制し、抗RA作用を発揮すると考えられています。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインではMTXが第1選択薬として推奨されています。わが国においては、RAに対するMTXはこれまで経口薬のみが発売されていましたが、本剤は週1回の皮下投与のプレフィルドシリンジです。医師の管理・指導のもと、自己注射も可能です。2022年9月時点で、本剤は欧州を中心に世界49の国または地域で承認されており、2019年には欧州医薬品庁はMTXの誤投与の危険性を回避するため、RAなどの治療に対して週1回投与のMTX皮下注製剤を推奨しています。MTX経口薬から切り替えの際の投与初期量は、1週間当たりの投与量を対比させた添付文書の表などを参考に決定されます。安全性プロファイルは、注射部位反応を除いてMTX経口薬と同様と考えられています。主な副作用は白血球数減少、肝機能障害、悪心、口内炎などであり、重大な副作用である骨髄抑制、感染症、結核、劇症肝炎、肝不全、急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー、間質性肺炎、肺線維症、出血性腸炎などに注意する必要があります。2020年10月の「医療安全情報No.167」では、MTXの過剰投与による骨髄抑制の事故が後を絶たないことを注意喚起しています。本剤の普及によって医療現場での投与過誤、あるいは患者さんの服用過誤が減少することを期待します。

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リファンピシン耐性結核、24週レジメンが標準治療に非劣性/NEJM

 リファンピシン耐性肺結核患者に対する24週間の経口治療レジメンは、従来の標準治療に対して有効性に関する非劣性が示され、安全性プロファイルも良好であった。オランダ・Operational Center AmsterdamのBern-Thomas Nyang'wa氏らが、国境なき医師団主導による多施設共同無作為化非盲検非劣性第II/III相試験「TB-PRACTECAL試験」の結果を報告した。リファンピシン耐性結核患者においては、現在のレジメンより治療期間が短くかつ有効で、副作用プロファイルも許容できる、経口治療レジメンが必要とされている。NEJM誌2022年12月22日号掲載の報告。ベダキリン+pretomanid+リネゾリド(BPaL)±モキシフロキサシン(M)またはクロファジミン(C)を標準治療と比較 研究グループは、ベラルーシ、南アフリカ共和国、ウズベキスタンの7施設において、新たに診断された15歳以上のリファンピシン耐性肺結核患者を登録した。 本試験の第1段階では、現地の標準治療と3種類の治療レジメン(BPaL、BPaLM、BPaLC)の4群に1対1対1対1の割合で、第2段階では標準治療とBPaLM群に1対1の割合で患者を無作為に割り付けた。 各治療レジメンは次のとおりである。・BPaL:ベダキリン1日400mgを2週間、その後200mgを週3回22週間、pretomanid 1日200mgを24週間、リネゾリド1日600mgを16週間、その後300mgを8週間、いずれも経口投与・BPaLM:BPaL+モキシフロキサシン1日400mgを24週間経口投与・BPaLC:BPaL+クロファジミン1日100mg(体重30kg未満の場合は50mg)を24週間経口投与 主要評価項目は、無作為化後72週時点での不良転帰(死亡、治療失敗、治療中止、追跡不能、結核再発の複合)で、非劣性マージンを12ポイントとした。BPaLMは、72週後の不良転帰に関して標準治療に対し非劣性 本試験は、2017年1月に最初の患者を無作為化し、2021年3月18日に登録を早期終了した。 登録終了時点で、第2段階として145例(標準治療群73例、BPaLM群72例)がintention-to-treat(ITT)集団(無作為化された全患者)、128例(それぞれ66例、62例)が修正ITT集団(ITT集団のうち少なくとも1回の試験薬の投与を受け、微生物学的にリファンピシン耐性結核であることが証明された患者)、90例(それぞれ33例、57例)がper- protocol集団の解析対象となった。 主要評価項目のイベントは、修正ITT解析ではBPaLM群で11%、標準治療群で48%発生し(群間リスク差:-37ポイント、96.6%信頼区間[CI]:-53~-22)、per-protocol解析ではBPaLM群で4%、標準治療群で12%発生した(-9ポイント、-22~4)。 無作為化され少なくとも1回の試験薬の投与を受けた患者(as-treated集団)において、72週以内のGrade3以上または重篤な有害事象の発現率は、BPaLM群が標準治療群より低値であった(19% vs.59%)。

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米FDAが高リスク筋層非浸潤性膀胱がんの遺伝子治療薬を承認

 米食品医薬品局(FDA)は2022年12月16日、高リスク膀胱がんの新たな治療選択肢としてAdstiladrin(一般名nadofaragene firadenovec-vncg)と呼ばれる遺伝子治療薬を承認した。適応は、標準治療であるBCG(Bacillus Calmette-Guerin)が奏効しない、上皮がん(CIS)を有する高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)の成人患者で、乳頭状腫瘍の有無は問わない。ただしFDAは、免疫抑制や免疫不全の患者にはAdstiladrinを投与すべきではないとしている。 新たに診断される膀胱がんの約75~80%は、がんが膀胱の内層を越えるが筋層までは浸潤していないNMIBCである。NMIBCの約30~80%は再発して、浸潤がんや転移がんになるリスクがある。高リスクNMIBCに対する一般的な治療法は、腫瘍を切除し、主に結核予防のためのワクチンとして使用されているBCGにより再発リスクの低減を図るというもの。しかし、BCGが奏効しない患者に対しては、これまで効果的な治療選択肢がほとんどなかった。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では年間に男性約5万7,000人、女性約1万8,000人が膀胱がんと診断され、男性約1万2,000人、女性約4,700人が同がんにより死亡している。 Adstiladrinは、157人の高リスクNMIBC患者を対象とした多施設共同臨床試験の結果に基づいて承認された。157人のうち98人がBCG不応性のCIS(乳頭状腫瘍の有無は問わない)を有しており、Adstiladrin投与の効果が検討された。投与は、3カ月ごとに1回、最長12カ月間にわたって行われた。ただし、この間に許容できない毒性が認められたか高悪性度のNMIBCが再発した場合には中止された。 その結果、51%で完全奏効(膀胱鏡検査、生検組織診断、尿検査で認められるがんの兆候が全て消失)が確認された。奏効期間の中央値は9.7カ月で、奏効を認めた患者の約46%に1年以上の完全寛解が認められた。Adstiladrinの有害反応として特によく生じたのは、膀胱分泌物、疲労、膀胱痙攣、尿意ひっ迫、血尿、悪寒、発熱、および排尿痛であった。 FDA生物製剤評価研究センター(CBER)のPeter Marks氏は、「今回の承認により医療従事者は、BCG不応性の高リスクNMIBC患者に対する革新的な治療選択肢を得ることになった。この措置は、必要性が非常に高い領域に対応したものである。FDAは引き続き、安全かつ有効ながんの治療法の開発と承認に尽力していく」と述べている。

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TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

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終わらない結核結核菌の新たな生き残り戦略

 結核は、世界で最も死亡率の高い感染症の1つである。毎年、約1,060万人が結核に罹患し、160万人が死亡する。その背景の1つとして、抗菌薬の普及により薬剤耐性を有する結核菌が増加し、治療が困難になっていることがあるといわれる。そこで、米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのQingyun Liu氏らの研究グループは、結核患者から単離された結核菌のゲノム解析を行った。その結果、転写因子resR遺伝子に変異があると、抗菌薬への曝露終了後に急速に再増殖を開始することが明らかになった。本研究結果は、Science誌2022年12月9日号に掲載された。 結核患者から単離された結核菌51,229株のゲノム解析から、必須転写制御因子のRv1830(resRと呼ぶ)遺伝子の変異が発見された。resR遺伝子変異を有する結核菌は、抗菌薬に対する応答性には変化がなく、耐性は示さなかったものの、抗菌薬への曝露終了後に急速な増殖が可能となっていた(この表現型を著者らは“antibiotic resilience”と呼んでいる)。また、resRは、細胞の増殖や分裂を制御する他の転写因子とともに機能することから、これらの転写因子にも変異がみられた。なお、今回発見された遺伝子変異は、抗菌薬による治療の失敗や一般的な薬剤耐性の獲得とも関連していた。

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膿疱性乾癬の現状と、新しい治療薬スぺビゴへの期待

 2022年12月8日、日本ベーリンガーインゲルハイムは「膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)のアンメットメディカルニーズと新しい治療への期待」をテーマにメディアセミナーを開催した。同セミナーで帝京大学医学部皮膚科学講座の多田 弥生氏は、GPPの現状と同年9月に承認された抗IL-36Rモノクローナル抗体「スペビゴ点滴静注450mg」(一般名:スペソリマブ[遺伝子組換え])の国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayil 1試験)について講演を行った。膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)とは GPPは発熱や倦怠感と共に無菌性の膿疱が現れる皮膚病である。GPPは乾癬の一種で、最も一般的な乾癬である尋常性乾癬とは症状や発症までのプロセスが異なる。全身に膿疱が現れるGPPは厚生労働省が定める指定難病の1つに指定されている1)。 GPPは乾癬全体の約1%といわれており2)、難病医療費の助成を受けている患者は全国で2,058例である(2020年現在)3)。発症年齢は男性で30~39歳と50~69歳、女性では25~34歳と50~64歳にピークがあり、女性にやや多くみられる4)。 GPPの主な治療方法には全身療法、外用療法、光線療法などがあるが、急性症状の改善を目的とした治療薬はなかった。GPPの急性症状に対する日本初の治療薬スぺビゴ そのような中、スぺビゴは急性症状の改善を目的とした、日本初の治療薬として登場した。 スぺビゴはIL-36Rに結合することにより5)、内因性リガンドによるIL-36Rの活性化と下流の炎症シグナル伝達経路を阻害し6、7)、治療効果を発揮すると考えられている。 スペビゴは点滴投与の薬剤で、過去の治療歴にかかわらずGPPの急性症状に対して使用できる。ただし、感染症や結核の既往歴、妊娠・授乳中などの場合は治療上の注意が必要となる。スぺビゴの治療は日本皮膚科学会が定める乾癬分子標的薬使用承認施設(全国で778施設[2022年10月時点])で受けることができる。中等度から重度のGPP急性症状が認められる患者を対象としたEffisayil 1試験 スペビゴの国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayil 1試験)の対象はERASPEN※1診断基準によりGPPと診断された18~75歳の患者53例。スぺビゴ群およびプラセボ群に2:1で無作為に割り付け、それぞれ単回投与を行った。主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である1週時におけるGPPGA※2膿疱サブスコア0達成率について、スぺビゴ群(35例)では54.3%が達成し、プラセボ群(18例)の5.6%に対する優越性が認められた(リスク差:48.7%、95%信頼区間[CI]:21.5~67.2)。・重要な副次評価項目である1週時におけるGPPGA※2合計スコア0/1達成率は、スぺビゴ群では42.9%が達成し、プラセボ群の11.1%に対する優越性が認められた(リスク差:31.7%、95%CI:2.2~52.7)。・1週時の重篤な有害事象発現率は、スぺビゴ群で5例14.3%、プラセボ群で3例16.7%、投与中止に至った有害事象および死亡に至った有害事象は両群共に報告はなかった。※1:European Rare and Severe Psoriasis Expert Network※2:膿疱性乾癬に対する医師による全般的評価GPP治療薬スぺビゴへの期待 スぺビゴはGPPにおける急性症状の改善の効能・効果で国内初の製造販売承認を取得した。GPPは症状による身体的ストレスや不安、周囲から理解を得にくいことによる孤独感などから、精神的ストレスを抱える患者も少なくなく、アンメットメディカルニーズ解消への貢献、ひいてはQOLの向上が期待されている。多田氏は「5割以上の方が投与後1週間で膿疱が見えなくなったことは、非常に早いし効果も高い」と述べ、講演を終えた。<参考文献・参考サイトはこちら>1)難病情報センター.膿疱性乾癬(汎発型)(指定難病37).2)山本俊幸編. 乾癬・掌蹠膿疱症病態の理解と治療最前線. 中山書店;2020.3)厚生労働省. 令和2年度衛生行政報告例(令和2年度末現在).4)日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2015;125:2211-57.5)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、結合親和性)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]6)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、ヒト初代培養細胞に対する作用)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]7)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、ヒト末梢血単核球に対する作用)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]

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