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化学眼外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第9回

今回は化学眼外傷についてです。洗顔料や洗剤、化粧品などの化学物質が目に入ったという経験は誰でも一度はあると思います。私も皿洗い中に洗剤が目に入って痛い思いをしたことがあります。私の場合は目を洗えば症状が消失しましたが、化学物質の種類や経過によっては失明の恐れがあることが知られているため、ちょっとした受傷でも恐怖を覚える患者さんは少なくありません。救急外来に化学眼外傷の患者さんが来るのはたいてい夜です。日中であれば眼科を受診するため、眼科以外の開業医の先生が診察する機会はまれかもしれません。しかし、万が一来院したときのために初療を知っておくことは重要です。今回は、化学眼外傷患者が受診した際にどのような対応が必要かを解説します。<症例>30歳、男性主訴目に殺虫剤が入った受診2時間ほど前、家に虫が入ったため殺虫剤を使用した。目を離したすきに子供が殺虫剤を使用し、それが患者の顔面にかかった。その後、目がひりひりするため電話で問い合わせをしてから受診。既往歴、アレルギー歴、内服薬、バイタル:特記事項なし両目に結膜充血ありこれは、私が近くに眼科がないとある南方の島の病院で働いていたときの症例です。眼科を受診するためには、船+車で3~4時間程度かかります。「眼科に電話で相談する」が最も適切な回答だとは思いますが今回はそれはナシにして…。眼表面の異物に対して非専門医ができる治療は「洗浄」です。とにかく洗います。上記の症例では電話で問い合わせがあったため、私は「まず10分間水道水で洗ってから来て」と伝えました。化学眼外傷の初療で重要なことは「なるべく早く洗浄して、化学物質を洗い流す」です1)。診療ストラテジー(1)視力評価視力は眼のバイタルサインと呼ばれるほど重要ですので、視力を必ず確認しましょう。視力検査のランドルト環があればよいのですが、なければ「いつもと見え方が違いますか?」と質問し、視力障害がないかを判断しましょう。(2)化学物質の評価次に、何が目に入ったか聞いてpHを調べてみましょう。目に入った成分のpHを調べる最も優れた方法はインターネットで検索することです。多くの患者は眼に入ったものが何かわかっていますので、「商品名、SDS※」もしくは「商品名、pH」と検索すれば大抵の商品のpHはわかります。※SDS:Safety Data Sheet(安全データシート)目に入ったものがわからない、もしくは商品名を調べてもわからない場合は、pH試験紙で眼表面のpHを調べて、正常範囲を逸脱しているかどうかを確認します。人間の眼のpHは大体6.5~7.0、高くて8.0で日内変動があります2,3)。これより大きく外れた場合は緊急性が高いです。眼表面のpHの測定をするには、尿試験紙のpHの部位を当ててもよいですし、pH測定用の試験紙でも構いません。pH試験紙のpHごとの色アルカリだとどす黒くなり、酸性だと明るい赤になります。試しに家にあったハイター(pH12)を試験紙に付けてみたところこんな色でした。ハイターをpH試験紙につけてみたちなみにこの患者さんの目に入った殺虫剤を検索したところ「pH 該当しない」となっていました。そのため眼表面のpHを測定したところ、pH7.0と正常範囲内でした(後日、「該当しないとはどういう意味?」と経済産業省に問い合わせたところ、「本当は掲載しなければならないそうで対応します」と返事をいただきました)。(3)pHで組織障害を推測成分が強酸(pH<4)もしくは強アルカリ(pH>10)の場合は可及的速やかに眼球の洗浄が必要となります。とくに強アルカリの場合、「水酸化イオンと陽イオンに解離し、細胞膜の脂肪酸を鹸化しながら、眼球の上皮、間質、内皮を破壊する」という事象が生じます。わかりにくいのですが、端的に言うと「傷が深い」です。この患者さんは眼表面のpHが正常範囲内なので組織障害は低いと考えました。(4)鎮痛、洗浄治療は洗浄です。とにかく洗うことが重要です。しかし、結膜や角膜に障害が強い場合は、痛みで目が開けられなかったり、水をかけられなかったりすることがあります。その場合は、オキシブプロカイン点眼薬を投与して除痛します。除痛ができたら洗浄を開始します。多くの文献では最低2Lの水道水もしくは生理食塩水での洗浄を推奨しています4,5)。瞼の裏などに洗い残しがあることがあるため、必ず上眼瞼、下眼瞼を順番に反転させて眼球を動かしながら奥まで洗浄しましょう。強酸や強アルカリの成分の場合、化学物質が洗い流されていることを確認することが重要です。洗浄後に再度pH試験紙を使用し、正常pHである6.5~8.0になっていることを確認できれば洗い流せたと判断します。強アルカリはなかなか落ちませんので注意が必要です。ハイターを触ったことがある方は、あのネトネトした感じが洗っても洗っても落ちないという経験があると思います。私は実際にアルカリ眼症の洗浄をしたことがありますが、10Lの生理食塩水で洗ってもまだpH試験紙がどす黒い色をしていました。結局眼科に相談し、さらに10Lを追加して洗いましたが、やはりどす黒く、再度眼科と相談して引き継ぎました。なお、本症例の疼痛は違和感程度であったため、鎮痛薬は使用せず2Lの水道水で洗浄して終了としました。(5)洗浄後洗浄後の対応ですが、私は強酸や強アルカリ成分による外傷、視力障害がある場合は必ず緊急で眼科に相談するようにしています。pHが逸脱していなくても、オキシブプロカイン点眼を使わなければいけないほど疼痛が強い場合は眼表面に強い障害を起こしている可能性が高いので、抗菌薬入りの点眼薬と内服の鎮痛薬を処方して後日眼科に相談しています。オキシブプロカイン点眼薬でなく、内服の鎮痛薬を処方する理由は、オキシブプロカイン点眼薬の連続使用により創傷治癒遅延が生じる可能性があるという報告があるためです。しかし、創傷治癒遅延が起こったと記載しているのは症例報告のみで、近年の複数のメタアナリシスでは有害事象の増加は認めなかったという報告もあり、今後のプラクティスは変化するかもしれません6)。オキシブプロカイン点眼薬の効果はとても良好なので、点眼して痛みがなくなったら「治った」と思い、その後眼科に行かずに悪化したという事例を聞いたことがあるので、もしオキシブプロカイン点眼薬を処方するときは必ず眼科に受診するように念押ししましょう。軽い疼痛や無症状であれば、2Lの水道水で洗浄して帰宅、何かしらの症状が生じるようなら眼科を受診するように指示します。本症例は洗浄後に症状が消失したのでとくに処方はなく、目の見えにくさや目の強い痛みが出た場合は眼科を受診するよう指示しました。化学眼外傷は非専門医にはとっつきにくいですが、なるべく早く洗浄することが重要です。万が一対処が求められたときの参考になれば幸いです。●成分がわからずpH試験紙もない場合眼に入ったものが何かわからず、pH試験紙もない場合はどうしましょう? 何があってもまずは洗浄です。先述したとおり2Lの水道水または生理食塩水で洗浄し、その後は症状に合わせて方針を決めます。軽い痛みで物もしっかり見えていれば洗浄で終了。強い痛みもしくは視力障害があれば、角膜に障害があると考えて眼科に紹介します。●オキシブプロカイン点眼薬がない場合鎮痛用の点眼薬がない施設もあるかもしれません。代替薬として比較的多くの病院にあるのがリドカイン製剤(スプレー、ゼリー、局所注射用)だと思いますが、眼球に滴下し使用することは推奨されていません。これは完全に私の見解ですが、疼痛が強いということは眼表面に強い障害が起きており、洗浄が必要な状態です。リドカイン製剤しかない場合であっても、リスク・ベネフィットを考えてその場にあるリドカインを使用して洗浄しても許容されるのではないかと考えます。●眼洗浄の裏技大量の生理食塩水などで洗い続けるのは大変ですし、洗浄のためにずっとそばにいなければなりません。そのため、ある程度洗浄したところで私は点滴の先を切り取って眼瞼の内側に当てて自然滴下で洗浄します。点滴を用いた目の洗浄1)Gelston CD. Am Fam Physician. 2013;88:515-519.2)佐々木 克哉. 日本眼科學会雜誌. 1995;99:676-682.3)Abelson MB, et al. Archives of Ophthalmology. 1981;99:301.4)Rodrigues Z. Emergency Nurse. 2009;17:26-29.5)Solim MAN, et al. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211030429.6)St.Louis WUSoMi. Topical Anesthetics for Corneal Abrasions.

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高い抗菌活性を有する抗菌点耳薬「コムレクス耳科用液1.5%」【下平博士のDIノート】第124回

高い抗菌活性を有する抗菌点耳薬「コムレクス耳科用液1.5%」今回は、フルオロキノロン系抗菌耳科用製剤「レボフロキサシン耳科用液(商品名:コムレクス耳科用液1.5%、製造販売元:セオリアファーマ)」を紹介します。本剤は、久々に登場した抗菌点耳薬であり、外耳炎および中耳炎患者の治療選択肢が広がることが期待されています。<効能・効果>外耳炎および中耳炎の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、6月8日より発売されています。適応菌種は、本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、肺炎桿菌、エンテロバクター属、セラチア属、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属です。<用法・用量>通常、1回6~10滴を1日2回点耳し、点耳後は約10分間の耳浴を行います。なお、症状により適宜回数を増減します。<安全性>1~5%未満に認められた副作用は、耳真菌性外耳炎、回転性めまい、浮動性めまい、下痢、耳痛でした。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.細菌の複製に関わる酵素の働きを抑えることで、中耳炎や外耳炎の原因となる細菌を殺菌する点耳薬です。2.薬液の温度が低いとめまいを起こすことがあるので、使用する際はできるだけ体温に近い温度で使用してください。3.点耳するほうの耳を上にして、横向きに寝てください。耳たぶを後ろに引っぱるようにして、容器の先端が直接耳に触れないようにして薬液を滴下してください。点耳後は約10分間そのままの姿勢を維持して薬液を耳の中にとどめてください。<Shimo's eyes>抗菌点耳薬として、わが国では1992年に販売されたオフロキサシン耳科用液(商品名:タリビッド耳科用液0.3%など)が現在でも繁用されています。本剤の主成分であるレボフロキサシンは、経口薬、点滴静注薬、点眼薬が30年にわたって広く使用されていますが、これまで耳科用液は発売されていませんでした。レボフロキサシン経口薬の効能・効果には、初回承認時より外耳炎および中耳炎が含まれています。レボフロキサシンはラセミ体であるオフロキサシンの一方の光学活性体((S)-(-)体)であり、オフロキサシンの約2倍の抗菌活性を有します。本剤の濃度は1.5%であり、オフロキサシン耳科用液の5倍の有効成分を含有しています。国内第III相臨床試験における中耳および鼓膜の炎症の消退に基づく臨床効果の改善率は、本剤投与群で46.5%、プラセボ群で23.5%であり、プラセボ群に対する優越性が認められました。また、本試験における菌消失率は、本剤投与群で93.9%、プラセボ群で12.5%であり、本剤投与群で有意に高いという結果を示しました。副作用は、真菌性外耳炎、浮動性めまい、回転性めまい、下痢および滴下投与部位痛が各1.0%でした。4週間投与しても改善がみられない場合は、耐性菌が出現しないよう他剤への変更などの適切な処置が必要です。投薬時は耳浴の方法を、イラストなどを用いて説明するとよいでしょう。参考コムレクス耳科用液1.5%を使用する患者さんへ

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点眼薬が子どもの近視の進行を抑制

 点眼薬によって子どもの近視の進行を抑制できることが、新たな研究から明らかになった。米オハイオ州立大学のKarla Zadnik氏らが行った、低用量アトロピンを用いた3年間にわたる二重盲検無作為化比較試験の結果であり、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月1日掲載された。 アトロピンは副交感神経の働きを抑える薬で、多くの症状の治療目的で用いられていて、眼科領域では検査のために瞳孔を広げる用途で使われている。今回の研究では、このアトロピンを毎日点眼した子どもはプラセボを点眼した子どもよりも、視力の低下が少ないことが示された。ただし専門家によると、この結果が近視に伴う問題の全てを解決するわけではないという。 Zadnik氏によると、「近視は眼軸長(眼球表面から網膜までの距離)が長くなった時に生じる。それによる視力低下は眼鏡やコンタクトレンズで解決できるが、子どもの近視は少なくとも10代半ばまで進行し続けることが多い。また、成人後の重度の近視は網膜剥離や緑内障などのリスクを高めることがある」という。そして「われわれの研究結果から言えることは、アトロピン点眼による3年以内の視力の変化への影響だけであって、成人後に発症する近視に伴う疾患のリスクをこの薬が抑制するのか否かの確認には、非常に長期に及ぶ研究が必要とされる」と話している。 アトロピンが近視の進行抑制に働く機序についてZadnik氏は、「眼軸長が長くなるのを抑える作用によるものと考えられている」と解説。また、現状でも多くの眼科医が、低用量のアトロピンを子どもの近視進行抑制のために適応外で処方しているという。ただし、薬に含まれている防腐剤のためにドライアイなどの角膜疾患の副作用の懸念があるとのことだ。今回の研究は、眼科用薬メーカーのVyluma社が開発中の防腐剤が含まれていない低用量アトロピンの有効性と安全性を検討する、第3相臨床試験として実施された。同社は同薬について昨年末、米国食品医薬品局(FDA)の承認申請に向けての計画を発表している。 この研究の解析対象は、平均年齢8.9±2.0歳の近視のある子ども573人(女児54.7%)。無作為に3群に分け、それぞれ濃度0.01%のアトロピン、0.02%のアトロピン、プラセボを1日1回点眼してもらった。3年後、視力低下や眼軸長の延長の抑制が認められた割合は、プラセボ群が17.5%であったのに対してアトロピン0.01%群は28.5%、0.02%群は22.1%だった。0.01%群はプラセボ群より有意にそのオッズ比(OR)が高く〔OR4.54(95%信頼区間1.15~17.97)〕、0.02%群は非有意だった〔OR1.77(同0.50~6.26)〕。 この研究から、新たな疑問も生じた。その一つは、アトロピンの点眼をいつまで続けるのかという点だ。本研究には関与していない米マウントサイナイ眼科耳鼻咽喉科のRudrani Banik氏は、「いつになったら中止すべきかについて、指針となるデータはない。これまでアトロピンを適応外使用してきている眼科医は、視力低下が停止した場合はいったん処方を中止し、再び視力が低下し始めたら処方を再開するといった対応をしている」と話す。 なお、同氏はアトロピン点眼以外の近視進行抑制方法として、屋外で過ごす時間を増やすことを提案している。「理由は明らかになっていないが、屋外で多くの時間を過ごす子どもたちは近視の進行が遅いことが分かっている」とのことだ。

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6月7日 緑内障を考える日【今日は何の日?】

【6月7日 緑内障を考える日】〔由来〕「りょく(6)ない(7)しょう」の語呂合わせから、「緑内障フレンド・ネットワーク」が2005年に制定。中途失明の原因としてもっとも多いとされている緑内障について広く考え、年に1回は緑内障検査を呼びかける日として緑内障に関する啓発や情報発信を実施。関連コンテンツRhoキナーゼ阻害薬+α2作動薬で眼圧を低下させる世界初の点眼薬「グラアルファ配合点眼液」【下平博士のDIノート】治療継続が大切!緑内障で一度欠けた視野は戻りません【使える!服薬指導箋】眼圧は正常なのに、なぜ治療が必要なの?【使える!服薬指導箋】緑内障治療薬はどのくらい眼圧を下げ、視野を保つか【論文で探る服薬指導のエビデンス】正常眼圧緑内障にも遺伝子変異の関与が示唆

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手持ち不足の薬剤の処方依頼前に継続の必要性を再検討【うまくいく!処方提案プラクティス】第53回

 今回は、手持ちの薬がなくなって服薬ができていなかった症例を紹介します。患者さんの希望で処方依頼をするシチュエーションは多々ありますが、状態によっては継続ではなく中止を提案することもあります。治療効果を意識して体調の変化を確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患気管支喘息、慢性気管支炎、前立腺肥大症、高血圧症、緑内障、便秘症、アレルギー性鼻炎介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アジルサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後2.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.アンブロキソール徐放錠45mg 1錠 分1 朝食後5.ベポタスチン錠10mg 2錠 分2 朝夕食後6.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前9.ヒアルロン酸点眼液0.1% 1日3回 両眼10.タフルプロスト点眼液0.015% 1日1回 両眼本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から4日目に当薬局に訪問介入の依頼がありました。入居前は薬剤を自己管理していたようですが、過去の飲み忘れも含めて約1ヵ月半分の持参薬があり、用法ごとの残数もそろっていない状況でした(朝:42、昼:66、夕:58、就寝前:70日分)。気管支喘息の診断を受けていたとのことで、ブデソニド・ホルモテロールの空容器を持参していましたが、夜間は不安だからプロカテロール吸入薬も吸入したいので処方してもらいたいという患者さんからの依頼がありました。よくよく話を聞いてみると入居3週間前からブデソニド・ホルモテロールもプロカテロールも残薬がなくなっていて、手元にないと不安なので処方してほしいとのことでした。情報分析これまでの情報から私なりに分析してみました。まず、大量かつ不均等の持参薬から患者さんの服薬アドヒアランスは不良であることが想像できます。薬に対する依存度が強く、患者さんから医師にさまざまな薬を要望している様子もあったため、使用していた薬剤の種類と処方理由を明確にしておく必要があると考えました。なお、患者さんが要望している吸入薬はどちらも約1ヵ月間使用していませんでしたが、喘息発作などは起きていません。前医の診療情報書に目を通したところ、小児喘息や成人時期の喘息発作の経験はなかったものの、患者によると喘息の素因があるとのことで、感冒の際に希望があり処方しているという文面を確認することができました。患者さんはその後、長期間にわたって吸入薬を使用していました。基礎疾患にある気管支喘息の診断情報に疑問をもち、訪問診療医に相談することにしました。処方提案と経過患者さんとの初回面談から3日目に訪問診療医の初診があったため同行することにしました。診察前に、医師に初回面談時のやりとりを共有しました。入居前は服薬アドヒアランスが安定していなかったと考えられ、患者さんの希望から吸入薬が追加されている可能性があるものの、約1ヵ月間使用していなくても発作症状はないことなどを伝えました。医師からは、診察時に呼吸音や病状を確認し、診断の見直しをするという返答がありました。その結果、気管支喘息を積極的に疑う所見ではないので、このまま吸入薬をやめて様子をみようという判断になりました。その2週間後の診療でもその間の喘息発作は認められませんでした。患者さんからは、吸入の負担が減って精神的に楽になったと聞き、その後も状態が悪化することなく施設で穏やかに生活されています。

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Rhoキナーゼ阻害薬+α2作動薬で眼圧を低下させる世界初の点眼薬「グラアルファ配合点眼液」【下平博士のDIノート】第114回

Rhoキナーゼ阻害薬+α2作動薬で眼圧を低下させる世界初の点眼薬「グラアルファ配合点眼液」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩(商品名:グラアルファ配合点眼液、製造販売元:興和)」を紹介します。本剤は、Rhoキナーゼ阻害薬とα2作動薬を含有する世界初の組み合わせの点眼薬です。1剤で3種の眼圧下降機序を有し、多剤併用を必要とする患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、緑内障、高眼圧症(他の緑内障治療薬が効果不十分な場合)の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年12月6日より発売されています。<用法・用量>通常、1回1滴、1日2回点眼します。<安全性>国内第III相長期投与試験(K-232-03)において、副作用は76.0%(136/179例)に認められました。主な副作用は、結膜充血58.1%(104例)、アレルギー性結膜炎18.4%(33例)、眼瞼炎17.3%(31例)、点状角膜炎7.8%(14例)、眼刺激7.3%(13例)、結膜炎6.1%(11例)、眼そう痒症3.9%(7例)、霧視2.2%(4例)などでした。なお、本剤は全身的に吸収されるため、α2作動薬の全身投与時と同様の副作用(眠気、めまい、徐脈、低血圧など)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この点眼薬には2種類の有効成分が配合されており、眼圧を調整する房水の産生を抑制するとともに、主流出路および副流出路からの房水の排出を促進することで眼圧を下げます。2.点眼後は、1~5分間目を閉じて、目頭のあたりを指で軽く押さえてください。3.他の点眼薬を併用する場合は、少なくとも5分以上間隔を空けてから点眼してください。4.コンタクトレンズを装用している場合は、点眼前にレンズを外し、点眼後5分以上経ってから再装用してください。5.本剤を使うことで、眠気、めまい、眼のかすみなどを起こす恐れがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事する場合は注意してください。<Shimo's eyes>緑内障は、視野狭窄から失明に至る可能性があり、適切な治療が必要な疾患です。緑内障・高眼圧症に対するエビデンスに基づいた治療は眼圧を下げることであり、原則として単剤から治療を開始して、効果が不十分な場合に多剤併用療法が実施されます。しかし、多剤併用の場合は、5~10分以上の間隔を空けてから点眼する必要があるため、さし忘れによるアドヒアランスの低下や治療負担感の増大が課題となっています。このような背景から配合点眼薬が頻用されており、わが国ではグラアルファ配合点眼液を加えて9製品が発売されています。しかし、これらのうち7製品はチモロールなどのβ遮断薬が配合されているため、コントロールが不十分な心不全や気管支喘息などの患者には禁忌となっています。本剤は、Rhoキナーゼ阻害薬であるリパスジル塩酸塩水和物と、α2作動薬であるブリモニジンを組み合わせた世界初の配合点眼薬です。1剤で、(1)主流出路からの房水流出促進、(2)副流出路からの房水流出促進、(3)房水産生抑制の3種の眼圧下降機序を有するため、緑内障点眼薬を併用する患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待されています。プロスタグランジン関連薬とβ遮断薬が配合された点眼薬と本剤を併用することで、2剤で4種類の機序の異なる有効成分を点眼することが可能となります。なお、本剤の名称の由来は、リパスジル塩酸塩水和物点眼液(商品名:グラナテック点眼液0.4%)の「グラ」と、α2作動薬の「アルファ」を組み合わせたものとなっています。副作用としては、本剤は局所のみならず全身的に吸収されるため、ブリモニジンによる血圧低下、傾眠、回転性めまい、浮動性めまいに注意する必要があります。またブリモニジンによる霧視が発現する場合があるので、そのような症状が現れた場合は、回復するまで機械類の操作や自動車などの運転を行わないように伝えましょう。リパスジルはアレルギー性結膜炎、眼瞼炎などに注意が必要で、本剤のRMPで重要な特定されたリスクにもアレルギー・炎症関連眼障害が記載されています。また、リパスジルにより結膜充血が起こりやすいですが、これは点眼後約90分程度で解消されるので患者さんには前もって伝えておきましょう。

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2月5日開催、ドライアイ研究会主催講習会2023【ご案内】

 2023年2月5日(日)、グランフロント大阪にてドライアイ研究会主催講習会2023が開催される。本講習会の現地対面開催は3年ぶり、そして大阪開催は4年ぶりとなる。年に一回開催される本講習会では、ドライアイという疾患の正しい理解と治療の普及、臨床に役立つ情報の発信に力を注いでいる。 今回、参加者の多くが開業医であることに鑑みて、第1部の「繰り返し聞きたい!」では、基本のおさらい、第2部の「これが聞きたい!」では臨床における実際の対応をカバーする。そして、第3部の「もっと聞きたい!」では、今、最もホットな話題について講演が行われる予定である。“あめちゃん”ならぬ、「参加して良かった」「得した!」と思われること間違いなしの明日から使える知識をお持ち帰りいただけるよう準備しているという。 ドライアイ研究会は、臨床の現場で近年増加しているドライアイに対する研究の推進と診療の向上を目的として1990年に発足。1995年には「ドライアイの定義と診断基準」を作成し、その後2回の改定を経て、「ドライアイの定義と診断基準(2016年版)」を発表し、現在に至る。また、2019年には「ドライアイ診療ガイドライン」を日本眼科学会誌(第123巻第5号)に発表するなど、大きく活動の範囲を広げ、世界のドライアイを専門とする眼科医との国際会議を通じて、臨床に即した世界のドライアイの定義の作成にも取り組んでいる。 開催概要は以下のとおり。【日時】現地開催日:2023年2月5日(日)13:00~16:55オンデマンド配信:2023年2月17日(金)~2月23日(木)【開催形式】現地および事後オンデマンド配信※会場:グランフロント大阪北館タワーC8階内ナレッジキャピタルカンファレンスルームタワーC RoomC01+C02【主なプログラム】・本当に、ドライアイ?SPKの鑑別・ドライアイの登竜門 ブレイクアップパターン秘伝公開・併用点眼(緑内障点眼など)があるとき・眼表面・眼瞼異常があるとき(結膜弛緩や瞬目不全)・ヒトiPS細胞を用いた涙腺オルガノイドの作製・MGD診療・ガイドライン活用法【主催】ドライアイ研究会担当世話人・オーガナイザー高 静花(大阪大学大学院医学系研究科 視覚先端医学寄附講座 准教授)詳細はこちら:http://dryeye.ne.jp/for-member/seminars/

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ブタの皮膚を用いた角膜インプラントで視力回復

 角膜の損傷により光を失った人の視力を、ブタが救ってくれるかもしれない。リンショーピング大学(スウェーデン)のNeil Lagali氏らが、ブタの皮膚から抽出したコラーゲンを用いたインプラントを作成し、ヒトを対象とするパイロット研究を行ったところ、良好な結果を得られたという。詳細は「Nature Biotechnology」に8月11日掲載された。 角膜は眼球の最も外側に位置し、黒目に相当する部分を覆っているアーチ状の透明な組織。何らかの理由で角膜が傷ついたりアーチ状の形状が変化すると、網膜に光が届かなかったりピントが合わなかったりして視力が低下し、時には失明に至る。 角膜は主にコラーゲンで構成されている。Lagali氏らは、豚の皮膚から抽出したコラーゲンを高度に精製した上で安定化させ、ヒトの眼に移植できる丈夫な透明のインプラントを作成。それを角膜疾患の患者20人に移植したところ、視力が改善した。移植前の患者の視機能は、全盲かそのリスクの高い状態だったという。研究者らは、「このインプラントは、角膜の外傷や疾患で失われた視力を回復するための画期的な手段になる可能性がある」と述べている。 世界中で推定1270万人が角膜疾患のために視力を失っており、そのような人たちの視機能を回復させ得る唯一の方法は、ヒトのドナーからの角膜移植だ。しかしドナーからの角膜供給は少なく、70人に1人しか必要な移植を受けることができない。Lagali氏は、「われわれは、需要と供給のギャップを満たすために、安価で十分な量のインプラントを作成可能な技術の確立を目指してきた。ブタの皮膚は畜産業の副産物として豊富に入手でき、また米食品医薬品局(FDA)は、ブタ由来の皮膚を治療に用いることを既に承認し臨床応用されている」と説明する。加えて、「角膜インプラント作成に利用されるブタは一切、遺伝子操作をされていない」と話している。 Lagali氏によると、このインプラントにはコラーゲン以外の生体物質を用いていないため、ヒトのドナーからの角膜移植よりも、拒絶反応がはるかに少ないという。さらに、角膜全層を移植するのではなく、薄く変化している部分のみに用いることで、侵襲性を最小限に抑えた使い方が可能とのことだ。「ドナーの角膜を用いた全層移植では、移植後に少なくとも1年は免疫抑制薬の点眼が必要だ。しかしわれわれのインプラントの部分移植であれば点眼は8週間のみで済み、縫合も要さないため1回の受診で治療が完結する」と同氏は語っている。 Lagali氏らのパイロット研究は、イランとインドの円錐角膜の患者20人に対して実施された。研究の主目的は安全性の確認であったが、得られた結果は研究者を驚かせるものだった。手術前、20人中14人が全盲だったが、術後2年時点で盲に該当する患者はおらず、3人は1.0という完全な視力に回復していた。しかも2年間の追跡期間中に合併症は発生せず、角膜厚は維持されていた。Lagali氏によると、「以前に作成した、今回用いたインプラントよりも脆弱な素材でも、角膜内に少なくとも10年間は定着することが示されている。残っている角膜組織から新たなコラーゲンも生成されるため、長期的には角膜の再生も促されるのではないか」とのことだ。 メリットはこれらばかりでない。ドナーから摘出された角膜は2週間以内に移植する必要があるが、このインプラントは最大2年間保管可能だ。「今後は、より多くの患者を対象とした無作為化比較試験を計画している。そこで有用性が確認できたら、その次は承認申請だ」とLagali氏は展望を語る。 米ワイルコーネル医科大学の眼科医で米国眼科学会のスポークスパーソンであるChristopher Starr氏は、本研究を「非常に有望」と評価。その上で、「円錐角膜などの角膜疾患のケアに当たる専門医の一人として、この論文で示された結果に興奮しており、この技術がFDAによって承認されることを願っている」と述べている。 なお、本パイロット研究は、スウェーデンのLinkoCare Life Sciences社が資金を提供して行われた。

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バイクに乗ってアレが目に当たるとヤバイ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第213回

【第213回】バイクに乗ってアレが目に当たるとヤバイpixabayより使用われわれ異物論文の業界では、肛門、陰部に続く異物御三家が「眼」です。眼外傷は怖いです。いくつも論文を読んでいると、意外と眼予後っていいんだなと感じます。論文化されているものは、治療が成功した報告が多いですから、成功者バイアスが入っているのかもしれませんが…。Tamilarsan SS, et al.Ocular Injuries Due to Insect Spines (Ophthalmia Nodosa): Potential Hazard to Motorcyclists.Cureus. 2022 Mar 11;14(3):e23084.バイクに乗る時は、ヘルメットの着用が義務付けられています(道路交通法第71条)。50cc以下の原付も、走行時のヘルメット着用が義務付けられています。近所の大学生などが原付に乗っているとき、ハーフキャップタイプという眼が保護されていないヘルメットを被っていることがありますが、眼鏡をつけていない人などは、眼にほこりやゴミが入ることがあり、少し危険です。この論文は、バイクを運転している人で、運転中に昆虫が目に当たって眼球を損傷した4例のケースシリーズです。男性が3人、女性が1人で、年齢は18~24歳でした。視力が0.1まで低下した人もいました。全例に昆虫の毛状突起の角膜への侵入と、前房の障害が見られました。この昆虫の皮膚にある毛状突起が厄介で、これが角膜の中に入り込んでしまうと取れません。結節性眼炎に対しては、抗菌薬とステロイドの点眼をある程度継続する必要があります。前房から後房へ移動すると、眼科的には毛状突起が観察されなくなります1)。とにかく、眼を守るものを着用してバイクに乗りましょう、ということですね。ライダードクターの皆さんはご注意を。1)Ibarra MS, et al. Intraocular caterpillar setae without subsequent vitritis or iridocyclitis. Am J Ophthalmol. 2002 Jul;134(1):118-20.

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心臓の病気が緑内障のリスク?―日本人での横断研究

 徐脈や心房細動などの不整脈、および左室肥大といった循環器系の病気が、緑内障のリスク因子であることを示唆するデータが報告された。JCHO三島総合病院眼科の鈴木幸久氏らの研究結果であり、詳細は「Biomedicines」に3月15日掲載された。 緑内障は眼圧(眼球内の内圧)が高いために、視神経が障害されて視野が狭くなる病気。緑内障の中でも患者数が多い開放隅角緑内障は、緑内障発作(眼圧が急上昇し、失明回避のため緊急治療が必要となる状態)は起きにくいものの、徐々に視野狭窄が進むタイプであり、眼圧を下げる点眼薬による治療を継続する。しかし、眼圧を十分に下げても視野狭窄が進んでしまうことがあり、眼圧以外のリスク因子もあると考えられている。 開放隅角緑内障による視野狭窄にかかわる眼圧以外のリスク因子として、これまでの研究から、心房細動や低血圧などの循環器疾患の影響が想定されている。ただし、不明点が多く残されている。鈴木氏らはこの点に関する詳細な検討を行った。 研究対象は、開放隅角緑内障患者581人(平均年齢71.6±10.2歳、男性49.1%)、および緑内障でなく、年齢と男女比が同等の比較対照群595人。無治療時の眼圧は緑内障群が右15.7/左15.9mmHg、対照群が12.6/12.7mmHgで、緑内障群の方が有意に高かった。 緑内障の発症との関連を検討した項目は、高血圧(140/90mmHg以上)と低血圧(100/60mmHg未満)、および心電図異常。また、緑内障の重症度とそれらの関連も検討した。 高血圧の有病率は、緑内障群34.3%、対照群29.4%で前者に多く(P=0.0005)、低血圧は同順に8.8%、11.8%であり後者に多かった(P=0.0008)。また心電図異常は41.3%、30.9%であり、前者に多かった(P=0.02)。心電図所見のうち、虚血性変化や心房細動、左室肥大、ST-T異常、期外収縮は緑内障群に有意に多く、QT延長、異常Q波、脚ブロックなどには有意差がなかった。また、緑内障群の4.8%、対照群の3.2%に徐脈が見られ、前者に多かったが、群間差は有意水準に至らなかった(P=0.08)。 ロジスティック回帰分析の結果、緑内障の発症に関連する因子として眼圧〔オッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.36~1.51)〕のほかに、左室肥大〔OR2.21(同1.15~4.25)〕、徐脈〔OR2.19(同1.25~4.70)〕、心房細動〔OR2.02(同1.01~4.04)〕が抽出された。年齢や高血圧および低血圧などは、有意な関連因子ではなかった。 緑内障の重症度(視野検査のMD値)と関連のある因子としては、年齢〔t=-6.22(同-0.15~-0.08)〕、眼圧〔t=-6.47(同-0.42~-0.23)〕、左室肥大〔t=-2.15(同-3.36~-0.29)〕という3つが抽出された。 これらの結果から著者らは、「眼圧だけでなく、循環器疾患が緑内障の発症と重症度に関連があると推測される」と結論付けている。また、緑内障点眼薬として使用されるβ遮断薬は心拍数を減少させる作用があり、徐脈を持つ患者には禁忌である。徐脈は緑内障発症のリスク因子であるだけでなく、緑内障患者の4.8%に徐脈が見られたことから、「眼圧管理のための点眼薬としてβ遮断薬を処方する際には、心電図検査の施行や心拍数の確認が必要とされる」と述べている。

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関節型若年性特発性関節炎〔pJIA:Polyarticular Juvenile Idiopathic Arthritis〕

1 疾患概要■ 定義・分類若年性特発性関節炎(JIA)は16歳未満に発症し6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称である。発症から6ヵ月までの臨床像から、(1)全身型、(2)少関節炎、(3)rheumatoid factor(RF)陰性多関節炎、(4)RF陽性多関節炎、(5)乾癬性関節炎、(6)腱付着部炎関連関節炎、(7)分類不能型の7病型に分類され1)、また治療の視点から、全身型、関節型、症候性の3つに整理されている(図1)。図1 JIAの病型分類と関節型JIAの位置付け画像を拡大する6歳未満に発症した原因不明の慢性関節炎は、発症から6ヵ月以内の臨床症状や検査所見から7病型に分類される。また、治療の観点から、全身型JIA、関節型JIA、症候性JIAの3つに分類するが、このうち関節型JIAとは、主に少関節炎JIA、RF陰性およびRF陽性多関節炎JIAを指し、全身型JIAで発症し、全身症状が消退しても関節炎が遷延するものも含まれる。関節型JIAとは、主に(2)少関節炎JIAと(3)RF陰性および(4)RF陽性多関節型JIAの3病型を指す。少関節炎JIAと多関節炎JIAは炎症関節の数で区分されており、前者は4関節以下、後者は5関節以上と定義されている。また、(1)全身型JIAの約20%は、その後、全身症状(発熱、皮疹など)を伴わず関節炎が遷延する経過をとるため(全身型発症多関節炎)、関節型JIAに含められている。■ 疫学わが国のJIAの有病率は小児10万人当たり8.8~11.6と報告され、推定患者数は2,893人である。また、JIAの病型の比率2)は、全身型41.2%、少関節炎20.2%、RF陰性多関節炎13.7%、RF陽性多関節炎18.2%であることから、関節型JIAの患者数は約1,700人程度と推定される。■ 病因関節型JIAの病因は不明であるが、抗核抗体陽性例が多い少関節炎JIAやRF陽性多関節炎JIAは自己免疫疾患の1つと考えられている。また、後述する生物学的製剤biologic disease modifying anti-rheumatic drugs(bDMARDs)の有効性から、関節型JIAの病態形成にTNFやIL-6などの炎症性サイトカインや、T細胞活性化が関与していることは明らかである。■ 症状1)関節症状関節は腫脹・発赤し、疼痛やこわばり、痛みによる可動域制限を伴う。関節炎は、少関節炎JIAでは大関節(膝、足、手)に好発し、多関節炎JIAではこれに小関節(指趾、頸椎など)が加わる。しかし、小児では本人からの関節症状の訴えは少ない。これは小児では痛みを具体的に説明できず、痛みを避ける動作や姿勢を無意識にとっているためと考えられる。そのため、起床時の様子や午前中の歩行容姿、乳児ではおむつ交換時の激しい啼泣などから、保護者が異常に気付くことが多い。2)関節外症状関節症状に倦怠感や易疲労感を伴う。関節症状と同様、倦怠感は起床時や午前中に強いが、午後には改善して元気になる。そのため、学校では午前中の様子をさぼりや無気力と誤解されることがある。微熱を伴うこともあるが高熱とはならず、皮疹もみられない。少関節炎JIAを中心に、JIAの5~15%に前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)がみられる。関節炎発症から6年以内に発症することが多く、発症リスクとして、4歳未満発症と抗核抗体陽性が挙げられている。また、発症早期には自覚症状(眼痛、羞明)に乏しい。そのため、早期診断には眼症状がなくても定期的な眼科検診が欠かせない。■ 予後適切な治療により長期寛解が得られれば、JIAの約半数は無治療寛解(off medication寛解)を達成する。ただその可能性は病型で異なり、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎では過半数が無治療寛解を達成するが、RF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAでは、その達成率は低い(図2)。完治困難例の関節予後は不良であり、不可逆的な関節破壊による機能障害が進行し、日常生活に支障を来す。しかし、わが国では2008年にJIAに対する最初のbDMARDsが認可され、今後は重篤な機能障害に至る例は減少することが期待されている。少関節炎JIAに好発するぶどう膜炎は治療抵抗性であり、ステロイド点眼で寛解しても減量や中止後に再燃を繰り返す。そのため、眼合併症(帯状角膜変性、白内障、緑内障など)が経過とともに顕在化し、視機能が障害される。ぶどう膜炎についても、2016年にbDMARDsの1つであるアダリムマブ(adalimumab:ADA)が非感染性ぶどう膜炎で認可され、予後の改善が期待されている。図2 JIAの病型別累積無治療寛解率画像を拡大する鹿児島大学小児科で治療した全身型89例および多関節型JIA196例、合計285例のうち、すべての治療を中止し、2年間寛解状態を維持したものを、無治療寛解と定義し、その累積達成率を病型毎に検討した。その結果、JIA285例全体の累積無治療寛解率は罹病期間5年で33.1%であったが、病型別の達成率では、RF陽性多関節炎JIAと全身型発症多関節型JIAで低値であった。* 全身型で発症し、全身症状消失後も関節炎が遷延する病型**全身型で発症し、疾患活動期には関節炎と全身症状を伴う病型2 診断 (検査・鑑別診断も含む)持続する原因不明の関節炎がJIAの必須要件であるが、特異的な所見に乏しいために診断基準は確立されていない。したがって、臨床症状や検査所見を参考にJIAの可能性を検討し、鑑別疾患を除外して初めて診断される。■ 臨床症状関節炎は固定性・持続性で、しばしば倦怠感や易疲労性を伴う。関節症状(関節痛、こわばり感)は起床時や朝に強く、時間とともに改善する。高熱や皮疹はみられない。■ 検査所見抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody :ACPA)が陽性であればRF陽性多関節炎JIAの可能性が高い。一方RFは、RF陽性多関節炎JIAでは必須であるが、他のJIA病型では陰性であり、むしろシェーグレン症候群や混合性結合組織病での陽性率が高い。したがって、ACPAやRFが陰性でもJIAを否定できず、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎JIAの可能性を検討する必要がある。MRIや関節エコー検査における肥厚した関節滑膜や炎症を示唆する所見は、関節型JIAの早期診断に有用であるが、JIAに特異的な所見ではない。一方、X線検査による関節裂隙の狭小化や骨糜爛などの破壊像はJIAに特異性が高いものの、早期診断には役立たない。MMP-3の増加は関節炎の存在や関節破壊の進行予知に有用である。しかし、健康幼児のMMP-3はほとんどが測定感度以下であるため、正常値であっても慎重に判断する。また、MMP-3の評価にはステロイドの影響を除外する必要がある。■ 鑑別疾患小児の関節痛に対する鑑別疾患を、疼痛部位や臨床経過、随伴症状、検査所見を含めて図3に示す。図3 疼痛部位や経過、臨床所見からみた小児の関節痛の鑑別疾患画像を拡大する年齢別には、乳幼児では悪性疾患(白血病)や自己炎症性疾患、年長児では他の膠原病やリウマチ性疾患、線維筋痛症、悪性疾患(骨肉腫)などを中心に鑑別する。一方、感染症や若年性皮膚筋炎との鑑別は全年齢にわたって必要である。関節炎に発熱や皮疹を伴う場合は、皮膚筋炎や全身性エリテマトーデスなどの膠原病疾患だけでなく、全身型JIAやブラウ症候群などの自己炎症性疾患を鑑別する。特に白血病や悪性疾患については、JIAとして治療を開始する前に除外しておくことは重要である。白血病を含む小児腫瘍性疾患1,275例を検討した報告では、発症時に関節炎を伴う例が102例(8%)存在し、これを関節型JIA 655例と比較したところ、「男児」、「単関節炎」、「股関節炎」、「全身症状」、「夜間痛や背部痛」が悪性疾患のリスク所見であった。特に白血病の初期は末梢血が正常であることが多く、骨髄検査で除外しておくことが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標関節型JIAの治療目標は関節炎病態に寛解を導入し、破壊性関節炎の発生や進行を抑止することである。一方、JIAの約半数は、治療寛解を長期維持した後に治療中止が可能で、その後も再燃せずに無治療寛解を維持する(図2)。そのため、関節型JIAにおいても、その最終的な治療目標は永続性のある無治療寛解(完治cure)であり、この点がRAとの最も大きな違いである。■ 治療評価1)診察時の評価関節痛や倦怠感、朝のこわばりの持続時間などで評価する。小児では訴えが不明確で評価が難しため、保護者からもたらされる日常生活の情報(歩行容姿や行動量などの変化)が参考になる。理学所見では、活動性関節炎(関節腫脹や圧痛)の数や、関節可動域の変化で評価する。検査では、炎症指標(CRP、赤沈、血清アミロイドA)やMMP-3、関節エコー所見などが参考になる。2)疾患活動性の総合評価27関節を評価するJuvenile Arthritis Disease Activity Score(JADAS)27が臨床評価に用いられている(図4)3)。RAで用いられるDAS28と異なり、少関節炎JIAで好発する足関節炎の評価が可能である。JADAS27の評価項目はVisual analog scale (VAS、0-10cm)による(1)医師および(2)患児(または保護者)の評価、(3)活動性関節炎数(0-27)、(4)標準化赤沈値([1時間値-20]/10、0-10)の4項目からなり、その合計スコア値(0-57)で評価する。なお、活動性関節炎とは、関節の腫脹または圧痛がある関節、圧痛がない場合は伸展屈曲負荷をかけた際に痛みがある関節と定義されている。また、JADAS27から標準化赤沈値を除いたスコア値を用いて、疾患活動性を寛解、低度、中等度、高度の4群にカテゴリー化するcut-off値も定義されている。3)寛解の種類と定義臨床寛解(clinical inactive disease)の定義は、(1)活動性関節炎、(2)活動性のぶどう膜炎、(3)赤沈値およびCRP値の異常、(4)発熱、皮疹、漿膜炎、脾腫、リンパ節腫脹がなく、(5)医師による総合評価が最小値で、(6)朝のこわばりが5分以下の6項目をすべて満たした状態である。また、この臨床寛解を治療により6ヵ月以上維持していれば治療(on medication)寛解、治療中止後も1年以上臨床寛解を維持していれば、無治療(off medication)寛解と分類される。図4 JADASを用いた関節型JIAの疾患活動性評価画像を拡大する医師および患児(または保護者)による総合評価、活動関節炎数、標準化赤沈値の集計したスコア値で疾患活動性を評価する。JADASには評価関節の数により、JADAS71、JADAS27、JADAS10の3つがあるが、臨床現場ではJADAS27が汎用されている。JADAS27では、DAS28で評価しない頸椎、両股関節、両足関節を評価する一方、DAS28で評価する両側の4-5MP関節、両肩関節は評価しない。疾患活動性を寛解、低活動性、中等度活動性、高度活動性の4群に分類する場合、標準化ESR値を除いた3項目の合計スコア値を用いる。その際のスコア値は、関節炎数が4関節以下の場合は、それぞれ0~1、0~1.5未満、1.5~8.5未満、8.5以上、関節炎数が5関節以上の場合は、それぞれ0~1、0~2.5未満、2.5~8.5未満、8.5以上と定義されている。■ 治療の実際(図5)4)関節型JIAの3病型のいずれも、以下の手順で治療を進める。また、治療開始後の臨床像の変化を、症状、理学所見、検査値、関節エコー、JADAS27などで評価し、治療の有効性と安全性を確認しながら治療を進める。図5 関節型JIAの治療手順画像を拡大する治療目標は無治療寛解である。予後不良因子のあるhigh risk群では、初期治療からNSAIDsにcsDMARDs(第1選択薬はMTX)を併用し、無効であれば生物学的製剤bDMARDsの追加併用を検討する。1)初期治療(1)1stステップ関節痛に対し、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を開始するとともに、予後不良因子(RF、ACPA、関節破壊像、日常生活に重要な頸椎・股・手関節などの関節炎)の有無を検討する。JIAに保険適用のあるNSAIDsは、イブプロフェン(30~40mg/kg/日、分3、最大2,400mg/日)とナプロキセン(10~20mg/kg/日、分2、最大1,000mg/日)に限られている。また、NSAIDsで疼痛コントロールが不十分でQOLが著しく低下している場合、少量ステロイド薬(glucocorticoid:GC)を併用することがある。ただ、GCはその強い抗炎症作用でCRP値や関節痛を改善させても、関節炎病態を寛解させない。そのためGCは2ndステップの治療効果が確認されるまでの橋渡し的な使用に限定すべきであり、漫然と継続してはならない。予後不良因子がある場合は、速やかに2ndステップの治療を開始する。予後不良因子がない場合はNSAIDsのみで経過を診るが、2週間経過しても改善が得られなければ、2ndステップの治療に移行する。(2)2nd ステップ従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(conventional synthetic disease modifying anti-rheumatic drugs:csDMARDs)をNSAIDsに追加併用する。第1選択薬はメトトレキサート(methotrexate:MTX)であり、globalな標準投与量は有効血中濃度(ピーク値5.8×10-7moles/L以上)が得られる10~15 mg/m2/週(分1、空腹時投与)である5)。しかし、わが国でのJIAでの承認投与量は4~10mg/m2/週であるため、MTX10mg/m2を週1回、空腹時に分1で投与するのが一般的な投与法である。また、副作用軽減を目的にフォリアミン5mgをMTX投与翌日に投与する。このMTXの投与量10mg/m2は、平均的な体格の小学生1年生で8mg、中学生1年生で15mgに相当する。RAでの上限投与量が16mgであることを考えれば、成人より相対的に高用量であるが、これは小児では、MTXの腎排泄が成人と比べて早いためである。そのため、小児では腎障害や骨髄抑制の発生は少ない。また、高齢者に多いMTXによる肺障害も極めてまれである。小児での主な副作用は嘔気や気分不良で、中学生以降の年長児ではほぼ必発である。そのため、訴えの強い小児では制吐剤の併用、就寝前の服用、剤型の変更などを検討する。なお、DMARDsには既感染の結核やB型肝炎ウイルス(HBV)を再活性化させる可能性がある。そのため、投与開始前に結核(T-spotや胸部Xp/CT)やHBV関連抗原/抗体(HBsAg、HBsAb、HBcAb)の検査を行って感染の有無を確認する。また、トキソプラズマやサイトメガロウイルス、ニューモシスチス肺炎や他の真菌感染症(β-D-glucan)の有無を検討しておくことも必要である。MTX開始後2ヵ月経過しても十分な効果が得られない場合、MTXを他のcsDMARDs (サラゾスルファピリジン[sulfasalazine]やイグラチモド[iguratimod/商品名:ケアラム]など)へ変更する選択肢もある。しかし、海外でその推奨度は低く、またcsDMARDsの効果発現までさらに数ヵ月を要すること、わが国ではJIAに保険適用のあるcsDMARDsはMTX以外にはないこともあり、他のcsDMARDsへの変更は現実的ではない。したがって、次の治療ステップである生物学的製剤(bDMARDs)の追加併用を検討する。(3)3rdステップ関節型JIAに保険適用のあるbDMARDsは、TNF阻害薬のエタネルセプト(Etanercept :ETA)とアダリムマブ(Adalimumab:ADA)、IL-6阻害薬のトシリズマブ(Tocilizumab :TCZ/同:アクテムラ)、T細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプト(Abatacept:ABT/同:オレンシア)の4製剤のみである(表)。表 関節型JIAに保険適用のある生物学的製剤画像を拡大するa)TNF阻害薬ETNはTNF受容体(TNF-R2)とヒトIgG1Fcとの融合蛋白製剤であり、血中のTNFα/βと結合することで標的細胞表面上のTNF R2との結合を阻害し、TNFによる炎症誘導シグナルの伝達を抑制する。半減期が短く、0.4mg/kgを週2回皮下注で投与する。JIAで認可された剤形はETNを凍結乾燥させたバイアル製剤のみであり、家族が投与前に溶解液を調合する必要があった。その後、2019年にETN注射液を容れた目盛付きシリンジ製剤(同:エタネルセプトBS皮下注シリンジ「TY」が、また2022年にはエタネルセプトBS皮下注シリンジ「日医工」)がバイオシミラー製剤としてJIAで保険適用を取得し、利便性が向上した。ADAはTNF-αに対する完全ヒト型モノクローナル抗体で、中和抗体として標的細胞上のTNFα受容体へのTNF結合を阻害する。また、TNF産生を担う活性化細胞膜上に発現したTNFαとも結合し、補体を介した細胞傷害性(ADCC)によりTNF産生を抑制する。投与量は固定量で、体重30kg未満では20mgを、体重30kg以上では40mgを、2週毎に皮下注で投与する。わが国のJIA375例を対象とした市販後調査では、投与開始24週後のDAS寛解(DAS28-4/ESR<2.6)達成率は、治療開始時の21.7%から74.7%に増加し、また難治性のRF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAにおいても、それぞれ61.9%、80.0%まで増加した。この市販後調査は、前向きの全例調査であることから、臨床現場(real world)での治療成績と考えられる。b)IL-6阻害薬TCZはIL-6受容体に対するヒト化モノクローナル抗体である。細胞膜上のIL-6受容体および流血中のsoluble IL-6受容体と結合し、IL-6のシグナル伝達を阻害し、炎症病態を制御する。4週ごとにTCZ 8mg/kgを点滴静注で投与する。RAに保険適用のある皮下注製剤や、TCZと同じ作用機序をもつサリルマブ(sarilumab/同:ケブザラ)はJIAでは未承認である。多関節型JIA132例を対象とした市販後調査(中間報告)では、投与開始28週後の医師による全般評価は、著効53%、有効42%であり、あわせて90%を超える例が有効と判断された。また、投与前と投与28週後の関節理学所見の変化を57例で検討すると、疼痛関節数(平均)は5.3から1.5へ、腫脹関節数(平均)は5.6から1.6へ減少し、赤沈値も32mm/時間から5mm/時間へと改善した。c)T細胞選択的阻害薬ABTはcytotoxic T lymphocyte associated antigen-4(CTLA-4)とヒトIgG1-Fcとの融合蛋白(CTLA-4-Ig)であり、抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)のCD80/86と強力に結合する。そのため、APCのCD80/86とT細胞のCD28との結合で得られる共刺激シグナルが競合的に遮断され、T細胞の過剰な活性化が抑制される。1回10mg/kgを4週ごとに点滴静注で投与する。皮下注製剤はJIAでは未承認である。1剤以上のcsDMARDに不応な関節型JIA190例を対象とした海外での臨床試験では、ACRpedi 50/70/90改善の達成率は投与4ヵ月時点でそれぞれ50/28/13%であった。また、引き続き行われた6ヵ月間のdouble blind期間においてABT群はプラセボ群と比較して有意な寛解維持率を示した。さらにその後の長期投与試験では、4年10ヵ月の時点でのACRpedi 50/70/90改善達成率はそれぞれ34/27/21%であり、有効性の長期継続が確認された。2)bDMARDs不応例の治療bDMARDs開始後は、その有効性と安全性を監視する。初めて導入したbDMARDsの投与開始3ヵ月後のDAS28が2.49以下であれば、2年以上の寛解が期待できるとした報告がある。しかし、臨床所見やJADASやDAS28スコアの改善が不十分で、bDMARDs不応と思われる場合は、治療変更が必要である。その際は、作用機序の異なる他のbDMARDsへのスイッチが推奨されている。Janus kinase(JAK)阻害薬は、分子標的合成(targeted synthetic:ts)DMARDsに分類され、bDMARDs不応例に対するスイッチ薬の候補である。JAKは、IL-2、 IFN-γ、IFN-αs、IL-12、IL-23、IL-6などの炎症性サイトカインの受容体に存在し、ATPと結合してそのシグナルを伝達する。JAK阻害薬はこのATP結合部位に競合的に結合し、炎症シグナル伝達を多面的に阻害することで抗炎症作用を発揮する。また、低分子化合物であるため内服で投与される。Rupertoらは、多関節炎JIA225例(関節型JIA184例、乾癬性関節炎20例、腱付着部炎関連関節炎21例)を対象にトファシニチブ(tofacitinib:TOF/同:ゼルヤンツ)の国際臨床試験を行った。まず18週にわたりTOF5mgを1日2回投与し、ACR30改善達成例を実薬群72例とプラセボ群70例の2群に分け、その後の再燃率を44週まで検討した。その結果、TOF群の再燃率は29%と低く、プラセボ群の53%と有意差を認めた(hazard比0.46、95%CI 0.27-0.79、p=0.0031)。現在、JIAに保険適用のあるJAK阻害薬はないが、バリシチニブ(baricitinib)の国際臨床試験がわが国でも進行中である。4 今後の展望疫学研究では、JIAを含む小児リウマチ性疾患の登録が進められている(PRICURE)。臨床研究では、前述のように関節型JIAに対するJAK阻害薬のバリシチニブの国際臨床試験が進行中である。5 主たる診療科小児科であるが、わが国の小児リウマチ専門医は約90名に過ぎず、また専門医のいる医療機関も特定の地域に偏在している。そのため、他の領域に専門性を持つ多くの小児科専門医が、小児リウマチ専門医と連携しながら関節型JIAの診療に携わっている。日本小児リウマチ学会ホームページの小児リウマチ診療支援MAPには、小児リウマチ診療に実績のある医療機関が掲載されている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会 小児リウマチ診療支援MAP(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児リウマチ性疾患国際研究組織(PRINTO)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報JIA家族会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Petty RE, et al. J Rheumatol. 2004;31: 390-392.2)武井修治,ほか. 小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究, 平成19年度総括・分担研究報告書2008.2008.p.102-111.3)Consolaro A, et al. Arthritis Rheum. 2009;61:658-666.4)小児リウマチ調査検討小委員会. 全身型以外の関節炎に対する治療、若年性特発性関節炎初期診療の手引き2015. メディカルレビュー社;2015.p.59-66.5)Wallace CA, et al. Arthritis Rheum. 1989;32:677-681.公開履歴初回2022年3月23日

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事例045 大腸内視鏡検査でマグコロールの入力ミスで査定【斬らレセプト シーズン2】

解説大腸内視鏡検査前の腸管内容物の排出を目的に投与したクエン酸マグネシウム(商品名:マグコロール)がB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。内容をみて、「やってしまった!」という査定でした。この医療機関のマグコロール処方の流れは、院内システムの都合上、医師に院内頓服扱いで大腸内視鏡前処置のコメントを付けて入力していただき、薬剤部から患者に服用方法の説明をしてお渡しするとしています。今回も医師は手順通り1包を処方されていました。そして、会計上では医療費請求に正しく反映させなければならないため、頓服の欄から検査用の薬剤の欄に手動で入力修正を行う運用としていました。このときに担当者は、薬剤の規格欄に「50g1包」とあったため、単位数を「1g」と思い込み、入力欄に「50」を入力してしまったようです。入力修正は医療費請求において必須の手順のため、「1g」あたりの入力なのか「1本」や「1袋」の入力なのか、規格単位数の誤りに細心の注意をはらうように常々伝えています。逆に、点眼薬や注射薬など「mL」や「g」単位で入力しなければならないものを「本、筒」単位で入力すると大きな請求漏れにつながります。入力単位の誤りをシステムで判定させようとすると、膨大な数の登録が必要となります。年に1回もあってはならないことですが、費用対効果を考えた今後の対策として会計入力時の確認と、レセプト点検時の目視点検の強化、ならびに薬剤部における払出数とレセプト請求数の比較検証で乗り切ることとしました。

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事例041 オフロキサシン点眼液の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説事例は、糖尿病患者の「角膜びらん」に対して、オフロキサシン点眼液を投与したところ、病名不備や療養担当規則違反などの事由に当てはまらないその他の場合に分類されるC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。査定原因を調べるために添付文書を参照しました。オフロキサシン点眼液は、「広範囲抗菌点眼剤に分類され、長期間使用しないこと」が明記されています。改めて診療開始日を確認すると6か月を越えた病名に対して投与されていました。次に診療録を確認したところ、左眼の炎症を伴う「角膜びらん」を繰り返していることが記載されていました。病名の更新を行わずに、その度、オフロキサシン点眼液が処方されていました。レセプトからは、再発時の投与であることが読み取れないため、急性期用剤の新鮮例への投与ではなく、古い疾病に対する漫然投与と捉えられて査定となったものと推測できます。再発防止に、医師には抗菌剤を処方する場合には、その判断をした日付と病名を診療録へ記載をいただくようにお願いしました。併せて、会計担当者には、抗菌剤が処方されていた場合の病名日付を確認することを伝え、レセプトチェックシステムに限度日数の登録をしました。

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日帰りオペ後に起きた悲劇!薬剤師の頭をよぎった副作用とは?【スーパー服薬指導(2)】

スーパー服薬指導(2)日帰りオペ後に起きた悲劇!薬剤師の頭をよぎった副作用とは?講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説複数の目薬が処方された患者の代理人が来局。薬剤師は点眼の順番に先生からの指示があったかを確認し…

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ドンペリドン、胎児の奇形リスクなし/国内大規模データベース

 制吐薬ドンペリドンは動物実験で催奇形性が示されたことから、従来、妊婦禁忌とされてきた。しかし、つわりと知らずに服用し妊娠が判明した後に気付いて妊娠継続に悩む女性が少なくない。一方で、本剤は米国で発売されていないことから疫学研究も少なく、安全性の根拠に乏しい面もあった。今回、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」と虎の門病院は、両施設が保有する1万3,599例もの妊娠中の薬剤曝露症例のデータベースを用いて、ドンペリドンの催奇形性を解析。その結果、妊娠初期に本剤を服用した例と、リスクがないことが明らかな薬のみを服用した例では、奇形発生率に有意な差は見られなかった。The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research誌オンライン版2021年2月25日号に掲載。ドンペリドン曝露は乳児の主要な奇形のリスク増加と関連なし 本研究は、1988年4月~2017年12月までに、虎の門病院「妊娠と薬相談外来」または国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」に、妊娠中の薬物の安全性について相談した女性が含まれ、妊娠初期(4~13週)にドンペリドンを服用した妊婦519例(ドンペリドン群)と、対照薬を服用した妊婦1,673例(対照群)から生まれた乳児の奇形発生率を比較した。なお、ドンペリドンとメトクロプラミドの両方を使用した妊婦は研究から除外された。 対照薬としては、アセトアミノフェン、催奇形性リスクが増加しない抗ヒスタミン薬、H2ブロッカー、消化酵素製剤、ペニシリンやセファロスポリンなどの抗菌薬、および外用薬(点眼、軟膏・クリームなど)が含まれた。また、妊婦の制吐薬として一般的に使用されるメトクロプラミドを服用した妊婦241例(メトクロプラミド群)を参照群として定義した。 ドンペリドンによる乳児の奇形発生率について検討した主な結果は以下のとおり。・カウンセリング時の年齢中央値はすべての群で30歳であり、年齢分布も同等だった。飲酒または喫煙習慣のいずれにおいても、3群に大きな違いはなかった。・出産の結果はすべての登録者について集計され、生産の割合は、ドンペリドン群で94.0%(488例)、対照群で93.8%(1,570例)、メトクロプラミド群で94.2%(227例)だった。3群間で死産、流産または中絶の発生率に顕著な違いはなかった。・生産の単胎児における奇形発生率は、ドンペリドン群で2.9%(14/485例、95%信頼区間[CI]:1.6~4.8)、対照群で1.7%(27/1,554例、95%CI:1.1~2.5)、メトクロプラミド群では3.6%(8/224例、95%CI:1.6~6.9)で、有意な差は見られなかった。・飲酒量、喫煙、母体年齢、妊娠初期、施設、対照薬以外の併用薬使用を調整した多変量ロジスティック回帰分析の結果、対照群とドンペリドン群の調整後オッズ比(OR)は1.86(95%CI:0.73~4.70、p=0.191)であり、奇形発生率に有意差は見られなかった。また、対照群とメトクロプラミド群の調整後ORは2.20(95%CI:0.69~6.98、p=0.183)と同様の結果だった。 研究者らは、「この観察コホート研究は、妊娠初期のドンペリドン曝露が乳児の主要な奇形のリスク増加と関連していないことを示した。これらの結果は、妊娠中にドンペリドンを服用した妊婦の不安を和らげるのに役立つ可能性がある」と結論している。

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コロナ禍の中で花粉症診療へ行くべきか/アイスタット

 花粉症の季節が到来した。街中ではマスクだけでなく、花粉防止のゴーグルをかけた人を見かけるようになった。新型コロナウイルス感染症が収束をみせない中、慢性疾患や花粉症に代表される季節性疾患の診療に例年とは異なる動きはあるのであろうか。 株式会社アイスタット(代表取締役社長:志賀 保夫)は、2月25日に花粉症の理由で病医院を受診する人の割合、傾向を知る目的として、花粉症に関するアンケート調査を行い、その結果を発表した。 アンケートは、業界最大規模のモニター数を誇るセルフ型アンケートツール“Freeasy”の会員で20~69歳、東京・神奈川・千葉・埼玉に在住の300人を対象に実施した。同社では今後も毎月定期的に定点調査を行い、その結果を報告するとしている。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年2月19日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~69歳)で東京・神奈川・千葉・埼玉在住者アンケート結果の概要・花粉症が「現在ない」と回答した割合は46.3%、花粉症歴が「長い」は26.0%、「中間」は16.0%、「短い」は11.7%・花粉症歴が「長い」と回答した人ほど、医療機関を「毎年、受診している」が多い結果に・花粉症の強さが「軽症」と回答した人は、医療機関を「1度も受診したことがない」が最多に。「中等症」「重症」と回答した人は、医療機関を「毎年、受診している」が最多に・花粉症の三大症状の「鼻水」「目のかゆみ・痛み・涙」「くしゃみ」は70%以上に・花粉症の症状で「鼻水」を回答した人は、医療機関を「1度も受診したことがない」が最多に・コロナ禍により、花粉症の症状で病医院の受診を控えるかは、「そう思う」42.9%が「そう思わない」24.8%を上回ったアンケート結果の概要 「花粉症と自覚した時期」について聞いたところ、「現在、花粉症でない」が46.3%で最多であり、次に「長い」(約15年超)が26.0%、「中間」(約5~15年)が16.0%、「短い」(最近~5年以内)が11.7%だった。※以下は「花粉症歴があると回答した161人」の回答 「花粉症の症状」を聞いたところ、「鼻水」、「目のかゆみ・痛み・涙」がともに77.0%で最も多く、次に「くしゃみ」が73.9%、「鼻づまり」が56.5%、「だるい、ボーっとする」が26.1%と多かった。 「花粉症の強さを自身の判断」で聞いたところ、「軽症」が47.2%で最も多く、次に「中等症」が42.2%、「重症」が8.1%だった。 「花粉症対策として病医院の処方箋・市販薬も含め服用・使用している薬」について聞いたところ、「飲み薬(1種類)」が42.9%と最も多く、次に「点眼薬」が32.9%、点鼻薬が21.1%と上位を占めた。その一方で、「薬を服用、使用していない」が29.2%いた。薬に頼らずに我慢する患者の存在もうかがわれた。 「花粉症の理由で病院に受診したことがあるか」を聞いたところ、「1度も受診したことがない」が45.3%で最も多く、「その年の症状により受診」が32.3%、「毎年、受診している」が22.4%だった。花粉症軽度の割合が多いことから医療機関へ受診につながらないことが推定された。 「今シーズン(2021年春季)、花粉症の治療のために病院を受診するか」を聞いたところ、「受診する予定はない」が70.2%と最多で、「受診する予定」が18.0%、「すでに受診した」が11.8%だった。花粉症診療へ消極的な動きが判明した。 「昨今のコロナ禍により病医院へ受診することを控えようと思うか」を聞いたところ、「非常に」「やや」を足し合わせた「そう思う」が42.9%、「どちらともいえない」が32.3%、「あまり思わない」「まったく思わない」を足し合わせた「そう思わない」の24.8%と診療を控える傾向がうかがわれた。 「花粉症で病医院を受診する決め手」を聞いたところ、「病医院で処方される薬の方がドラッグストアなどの市販薬より、効果があるから」が34.2%で最も多く、次に「病医院で処置・治療してもらうと効き目があるから」が26.7%、「病医院を受診することで安心感を得たいから」が19.9%と上位を占めた。受診の決め手となる動機では、医療機関から処方される治療薬への期待がうかがわれた。

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第38回 緑内障治療薬はどのくらい眼圧を下げ、視野を保つか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 眼圧上昇は緑内障を進行させる代表的な要因です。眼球内の房水が充満して圧力が上がれば視神経を圧迫し、視神経が弱れば視野狭窄や視力の低下を招きます。眼圧を下げる点眼薬が緑内障治療の中心となりますが、しばしばノンアドヒアランスが問題になります。ノンアドヒアランスの原因については横断研究でいくつか指摘されています。緑内障が視力低下を引き起こすことを十分認識できていなかったり、点眼薬で視力低下を緩和できることに懐疑的であったりするなどさまざまです。ほかにも緑内障についての知識不足、点眼やスケジュール理解の難しさ、コスト、副作用、生活上のストレスなど患者さんによって事情は異なりますが1)、根治療法がないため、視力や視野を維持するためにはどうしても長期間にわたる治療が必要です。緑内障・高眼圧症治療の点眼薬を続ければ、視野狭窄の進行が緩和されることはオープンラベルの研究で示されています。今回は緑内障治療の第1選択薬の1つであるプロスタグランジン関連薬のラタノプロスト点眼液のプラセボ対照比較試験を紹介します2)。これは緑内障の視野欠損に対する点眼薬の効果を調査した初のプラセボ対照のランダム化比較試験です。対象は開放隅角緑内障の患者516例(平均65.5歳、男性53%、糖尿病10.5%)で、介入群(ベースライン眼圧19.6mmHg、258例)はラタノプロスト0.005%点眼液を1日1回両目に投与、対照群(ベースライン眼圧20.1mmHg、258例)はプラセボ点眼薬を1日1回両目に投与し、24ヵ月以内の視野悪化までの時間を主要アウトカムとして調査しています。患者、介入者、評価者のトリプルマスキングで、介入者は患者に眼圧の測定結果を伝えないようにして、プラセボ点眼薬はラタノプロストの容器に入れて用いられています。割り付けられた516例のうち461例が解析に含まれました。両群のベースラインの特徴は似通っており、コルチコステロイド(吸入含む)の使用はプラセボ群17例(7%)、ラタノプロスト28例(11%)とやや後者が多くなっていますが、おおむね対等な比較となっています。94例に24ヵ月以内の緑内障の進行を伴う視野の悪化が認められ、その内訳は次のとおりでした。・ラタノプロスト:35/231例(15.2%)、眼圧変化-3.8mmHg・プラセボ:59/230例(25.6%)、眼圧変化-0.9mmHg・視野悪化の調整ハザード比:0.44(95%信頼区間[CI]:0.28~0.69、p=0.0003)ラタノプロスト群で視野の保持期間が有意に長いという結果でした。ラタノプロストを継続すると、眼圧がこのくらい下がるというのを目安として知っておくと効果判定に有用そうです。有害事象については目立ったものは報告されず、結膜炎がややラタノプロストで多い程度でした。結膜炎、充血に加え、プロスタグランジン系点眼薬ではまつげが異常に伸びたり、まぶたや虹彩に色素沈着が生じたりするといった美容に関わる副作用があります。対策として、点眼後の拭き取りをお伝えしましょう。逆手にとって美容目的でまつげに綿棒で付ける方もいますが。正常眼圧緑内障でも眼圧を下げることで進行を抑制日本人には正常眼圧緑内障が多いですが、その場合でも点眼薬が有用です。眼圧が正常範囲でも、無治療時の眼圧から30%以上の眼圧低下を目標として治療した群と無治療群では、視野障害の進行に有意な差があることが米国における多施設共同研究で示されています3)。合計140眼のうち、治療群の7眼(12%)と対照群の28眼(35%)が緑内障性視神経乳頭の進行または視野欠損のエンドポイントに達し、治療群の平均生存期間が2,688±123日であったのに対して、対照群では1,695±143日と長期的に大きな差が出ることがわかっています。なお、ランダム化割り付け時点の眼圧のベースラインは、対照群16.1±2.3mmHg、治療群16.9±2.1mmHgなので、眼圧が15mmHg以下だった場合の有効性は不明です。根拠をもって治療の効果を説明することで、ノンアドヒアランスの原因となる認識不足を解消できることもあると思いますので、服薬指導の参考にしていただければ幸いです。1)Newman-Casey PA, et al. Ophthalmology. 2015;122:1308-1316.2)Garway-Heath DF, et al. Lancet. 2015;385:1295-1304.3)Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group. Am J Ophthalmol. 1998;126:487-497.

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国内初、α2作動薬+炭酸脱水酵素阻害薬で眼圧を低下させる「アイラミド配合懸濁性点眼液」【下平博士のDIノート】第54回

国内初、α2作動薬+炭酸脱水酵素阻害薬で眼圧を低下させる「アイラミド配合懸濁性点眼液」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド(商品名:アイラミド配合懸濁性点眼液、製造販売元:千寿製薬)」を紹介します。本剤は、新しい組み合わせの配合点眼薬として、緑内障点眼薬を併用する患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、緑内障、高眼圧症(ほかの緑内障治療薬が効果不十分な場合)の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月16日より発売されています。なお、本剤はアドレナリンα2受容体作動薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合剤であり、まずは単剤での治療を優先します。<用法・用量>通常、1回1滴、1日2回点眼します。<安全性>国内で実施された臨床試験における安全性評価対象360例中39例(10.8%)に副作用が認められました。主な副作用は、霧視18例(5.0%)、点状角膜炎8例(2.2%)、眼刺激6例(1.7%)、味覚異常5例(1.4%)などでした(承認時)。なお、本剤は全身的に吸収される可能性があり、α2作動薬またはスルホンアミド系薬剤の全身投与時と同様の副作用が現れることがあるので注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この点眼薬には2種類の有効成分が配合されており、眼圧を調整する水分(房水)の産生を抑制するとともに、排出を促進することで眼圧を下げます。2.点眼前にせっけんで手をきれいに洗ってください。キャップがしっかり閉まっているか確認し、よく振ってからキャップを開けて点眼してください。3.ほかの点眼薬を併用する場合は、少なくとも10分以上間隔を空けてから点眼してください。4.コンタクトレンズを装用している場合は、点眼前にレンズを外し、点眼後15分以上たってから再装用してください。5.本剤を使うことで、眠気、めまい、霧視などを起こす恐れがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事する場合は注意してください。6.妊娠中または授乳中の場合は、薬剤の使用について医師にご相談ください。<Shimo's eyes>緑内障・高眼圧症に対するエビデンスに基づいた確実な治療法は眼圧を下げることで、原則として単剤から治療を開始して、効果が不十分な場合に多剤併用療法が実施されます。ところが、多剤併用の場合は、5~10分以上の間隔を空けてから点眼する必要があるため、挿し忘れなどアドヒアランスの低下につながることが課題となっています。このような背景から配合点眼薬が頻用されており、わが国ではこれまで8製品が発売されています。しかし、これらにはすべてチモロールなどのβ遮断薬が配合されているため、コントロール不十分な心不全や気管支喘息などの患者には禁忌であり使用できません。本剤は、α2作動薬(ブリモニジン)と炭酸脱水酵素阻害薬(ブリンゾラミド)を組み合わせた国内初の配合点眼薬であり、従来の配合点眼薬が使えなかった患者でも選択が可能となりました。さらに、プロスタグランジン関連薬とβ遮断薬が配合された点眼薬と本剤を併用することで、2剤で4種類の機序の異なる有効成分を点眼することが可能となります。なお、本剤は局所のみならず全身の副作用が生じる可能性があるため注意が必要です。ブリモニジンは血圧低下、傾眠、回転性めまい、浮動性めまい、霧視など、ブリンゾラミドは一過性の霧視や角膜障害が発現する恐れがあります。本剤を点眼後、そのような症状が現れた場合は、回復するまで機械類の操作や自動車などの運転を行わないように伝えましょう。なお、本剤の名称の由来は、ブリモニジンの単剤製品(商品名:アイファガン点眼液0.1%)の「アイ」と、ブリンゾラミドの「ラミド」を組み合わせたものとなっています。参考1)PMDA 添付文書 アイラミド配合懸濁性点眼

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日本初、1日2回の抗ヒスタミン点眼薬「アレジオンLX点眼液0.1%」【下平博士のDIノート】第44回

日本初、1日2回の抗ヒスタミン点眼薬「アレジオンLX点眼液0.1%」今回は、「エピナスチン塩酸塩点眼液」(商品名:アレジオンLX点眼液0.1%、製造販売元:参天製薬)を紹介します。本剤は、薬剤を高濃度化したことで抗アレルギー作用が長時間持続する1日2回点眼の薬剤であり、アレルギー性結膜炎患者のアドヒアランスと治療満足度の向上が期待できます。<効能・効果>本剤は、アレルギー性結膜炎の適応で、2019年9月20日に承認され、2019年11月27日より発売されています。<用法・用量>通常、1回1滴、1日2回(朝、夕)点眼します。<副作用>本剤の臨床試験で安全性解析対象となった総症例189例において、本剤との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動を含む副作用として、結膜充血1例(0.5%)が認められました(承認時)。なお、アレジオン点眼液0.05%で報告されている刺激感、異物感、羞明、眼瞼炎、眼痛、流涙、点状角膜炎、そう痒感、眼脂が、その他の副作用として注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、アレルギー症状や炎症を引き起こすヒスタミンの働きを抑えるとともに、炎症を誘発する物質の放出を抑えます。2.1日2回の点眼でかゆみを減らします。防腐剤が含まれていないので、コンタクトをつけたままでも使用可能です。3.点眼時に刺激を感じることがあります。症状が強い場合や継続する場合は、医師または薬剤師に相談してください。4.ほかの点眼薬を併用する場合には、少なくとも5分以上間隔を空けてから点眼してください。<Shimo's eyes>本剤は、2013年から発売されているアレジオン点眼液0.05%の高用量製剤です。「LX」は、Lasting extendという造語に由来し、持続性を意味しています。薬剤の高濃度化により、持続性を向上させたことで、わが国で初めての1日2回点眼の持続性抗ヒスタミン点眼薬となりました。また、防腐剤フリーの点眼薬ということも特徴に挙げられます。アレジオン点眼液0.05%も、防腐剤としてコンタクトレンズへの吸着や角膜上皮障害が問題となる塩化ベンザルコニウムではなく、ホウ酸を使用しています。本剤は、防腐剤フリーでありながら、保存効力試験に適合しているため、開封後28日間は安全に使うことができ、患者さんへの負担が少ない製剤になったと考えられます。参考1)PMDA アレジオンLX点眼液0.1%

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日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬「アジマイシン点眼液1%」【下平博士のDIノート】第39回

日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬「アジマイシン点眼液1%」今回は、わが国で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬である「アジスロマイシン水和物点眼液」(商品名:アジマイシン点眼液1%、千寿製薬)を紹介します。本剤は、結膜、角膜、眼瞼への移行性や滞留性が良好なため、少ない点眼回数で眼感染症の治療が可能となります。<効能・効果>本剤は結膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月11日より発売されています。<用法・用量>《結膜炎》通常、成人および7歳以上の小児には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回5日間点眼します。《眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎》通常、成人には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回12日間点眼します。<副作用>細菌性結膜炎を対象とした国内第III相試験(3-01、3-06)と細菌性の眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎を対象とした国内第III相試験(3-02)の3試験において、アジスロマイシン点眼液が投与された安全性評価対象726例のうち、73例(10.1%)に副作用が認められました。主な副作用は、眼刺激32例(4.4%)、眼そう痒症9例(1.2%)、眼痛7例(1.0%)、点状角膜炎5例(0.7%)でした。なお、重大な副作用として、角膜潰瘍などの角膜障害(頻度不明)、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が報告されています(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、細菌の増殖を抑える作用により、目の感染症を治療します。2.薬を使用中に目の異物感、目の痛みなどの症状が現れた場合は、ただちに投与を中止して受診してください。3.開栓前は冷蔵庫、開栓後は室温で保管し、高温環境下や直射日光が当たる場所での保管は避けてください。4.点眼後、しばらく目がぼやけることがあるので、視界がはっきりするまで安静にしてください。5.ベトベト感が気になる場合は、朝の洗顔や入浴前に点眼して、点眼後5分以上経過したら、目の周りに付いた薬液を洗い流すとよいでしょう。6.決められた日数を点眼した後は薬剤を廃棄し、再使用はしないでください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬として発売されました。既存の抗菌点眼薬は1日3~5回投与なので日中の点眼が難しいこともありましたが、本剤は1日1~2回と少ない点眼回数での治療が可能です。点眼方法は、初日と2日目は1日2回、3日目以降は1日1回を、結膜炎では7日間、眼瞼炎・麦粒腫・涙嚢炎では14日間継続します。処方箋に点眼日数が記載されていない場合は、疑義照会で確認しなければなりません。本剤は、成分の滞留性向上のために、添加剤にポリカルボフィルが配合されたDDS製剤です。粘性が強いので、キャップをしたまま容器を下に向けて数回振り、薬液をキャップ側に移動させてから点眼します。点眼後しばらくは視界がぼやけることがあるため、転倒しないように注意が必要です。目の周りのベトベト感が気になる場合は、点眼後5分ほど経過したら目の周りを洗い流してよいことを伝えましょう。なお、2種類以上の点眼薬を併用する場合には、本剤を最後に点眼することで、他の点眼薬への影響を減らすことができます。近年、薬剤耐性菌およびそれに伴う感染症の増加が国際的に問題となっていることから、厚生労働省より「アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について」が発出されています。患者さんには、残存菌による再発や耐性菌獲得リスクの点から、自覚症状がなくなっても決められた点眼日数を必ず守るように指導しましょう。参考1)PMDA アジマイシン点眼液1%2)アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について

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