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国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」【下平博士のDIノート】第129回

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」今回は、人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」を紹介します。本剤は、国内で初めて承認された経口の人工妊娠中絶薬であり、中絶を望む女性にとって身体的にも精神的にも負担が少ない薬剤と考えられます。<効能・効果>子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶の適応で、2023年4月28日に製造販売承認を取得し、5月16日より販売されています(薬価基準未収載)。本剤を用いた人工妊娠中絶に先立ち、本剤の危険性および有効性、本剤投与時に必要な対応を十分に説明し、同意を得てから本剤の投与を開始します。なお、異所性妊娠に対しては有効性が期待できません。<用法・用量>ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。30分後も口腔内に錠剤が残っている場合は飲み込みます。ミフェプリストン投与後に胎嚢の排出が認められた場合、子宮内容物の遺残の状況を踏まえてミソプロストールの投与の要否を検討します。<安全性>国内第III相試験において1%以上に認められた副作用は、下腹部痛、悪心、嘔吐、下痢、発熱、悪寒でした。重大な副作用として、重度の子宮出血(0.8%)のほか、感染症、重度の皮膚障害、ショック、アナフィラキシー、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、妊娠9週以下の人に対する人工妊娠中絶の薬です。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬剤と、子宮収縮作用により子宮内容物を排出させる薬剤を組み合わせたパック製剤です。2.この薬の投与後は下腹部痛や子宮出血が現れて一定期間継続します。まれに重度の子宮出血が生じて貧血が悪化することがあるため、自動車の運転などの危険を伴う機械操作を行う場合は十分に注意してください。3.服用後、2時間以上にわたって夜用ナプキンを1時間に2回以上交換しなければならないような出血が生じた場合、発熱、寒気、体のだるさ、腟から異常な分泌物などが生じたときは速やかに医師に連絡してください。4.授乳中に移行することが知られているので、授乳をしている場合は事前にお伝えください。5.子宮内避妊用具(IUD)またはレボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS)を使用中の人はこの薬の投与を受ける前に除去する必要があります。<Shimo's eyes>本剤は、国内で初めて承認された人工妊娠中絶のための経口薬です。これまで妊娠初期の中絶は掻把法や吸引法によって行われてきましたが、今回新たに経口薬が選択肢に加わりました。ミフェプリストンとミソプロストールの順次投与による中絶法は、世界保健機関(WHO)が作成した「安全な中絶−医療保険システムにおける技術及び政策の手引き−」で推奨されており、海外では広く使用されています。使用方法は、1剤目としてミフェプリストン錠1錠を経口投与し、その36~48時間後にミソプロストール錠4錠をバッカル投与します。ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬であり、プロゲステロンによる妊娠の維持を阻害する作用および子宮頸管熟化作用を有します。ミソプロストールはプロスタグランジンE1誘導体であり、子宮頸管熟化作用や子宮収縮作用を有します。両剤の作用により妊娠の継続を中断し、胎嚢を排出します。国内第III相試験では、投与後24時間以内の人工妊娠中絶が成功した患者の割合は93.3%で、安全性プロファイルは認容できるものでした。本剤投与後に、失神などの症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合があります。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では敗血症や中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、異常が認められた場合に連絡を常に受けることができる体制や、ほかの医療機関との連携も含めた緊急時に適切な対応が取れる体制で本剤を投与することが求められています。併用禁忌の薬剤として、子宮出血の程度が悪化する恐れがあるため、抗凝固薬(ワルファリンカリウム、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、EPA製剤など)があります。また、ミフェプリストンの血漿中濃度が低下し、効果が減弱する恐れがあるため、中~強程度のCYP3A誘導剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)も併用禁忌となっています。本剤の承認申請が行われた2021年12月以降、社会的に大きな関心を集めました。厚生労働省が承認にあたってパブリックコメントを実施したところ1万1,450件もの意見が寄せられ、そのうち承認を支持する意見が68.3%、不支持が31.2%でした。欧米では経口薬による人工妊娠中絶法は30年以上前から行われていて、先進国を中心に主流になりつつあります。中絶を望む女性は、健康上の懸念がある、性的暴力を受けた、若すぎる、経済的に困窮している、パートナーの協力を得られないなどさまざまな背景があります。わが国では現在、薬局やインターネットで購入することはできませんが、多くの議論を経て、中絶を望む人たちにとって、医学的にも精神的にも寄り添うことのできるシステムが構築されることが望まれます。

2.

生理痛の強さと生活習慣との関連が明らかに

 朝食を欠かさずビタミンDやB12が不足しないようにすること、毎日入浴することなどが、月経痛(生理痛)の痛みを和らげてくれるかもしれない。月経痛の重い人と軽い人の生活習慣を比較したところ、それらの有意差が認められたという。順天堂大学の奈良岡佑南氏らの研究結果であり、詳細は「Healthcare」に4月30日掲載された。 日本人女性の月経痛の有病率は78.5%という報告があり、生殖年齢にある多くの女性が周期的に生じる何らかの症状に悩まされていると考えられる。月経痛は本人の生活の質(QOL)低下を来すだけでなく、近年ではそれによる労働生産性の低下も含めた経済的負担が、国内で年間6830億円に上ると試算されるなど、社会的な対策の必要性も指摘されるようになった。 これまでに、ビタミンやミネラルなどの摂取量、または食事や運動・睡眠習慣などと月経痛の強さとの関連を個別に検討した研究結果が、いくつか報告されてきている。ただし、研究対象が学生に限られている、または一部の栄養素や食品の摂取量との関連のみを調査しているといった点で、結果の一般化に限界があった。これを背景として奈良岡氏らは、就労年齢の日本人女性を対象として、摂取栄養素・食品、朝食欠食の有無、睡眠・運動・入浴習慣など、多くの生活習慣関連因子と月経痛の強さとの関連を検討する横断研究を行った。 研究参加者は、2018年5~6月に、一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)のオンラインプラットフォームを通じて募集された511人から、年齢40歳以上、妊娠中・授乳中、何らかの疾患治療中、経口避妊薬使用、摂食障害、データ欠落などの該当者を除外し、20~39歳の健康な女性321人(平均年齢30.53±4.69歳、BMI20.67±2.62、体脂肪率27.02±5.29%)を解析対象とした。 調査項目は、月経周期や月経痛の程度、自記式の食事調査票、および、就労状況、飲酒・喫煙・運動・睡眠習慣などに関する質問で構成されていた。そのほかに、身長、体重、体組成を評価した。なお、月経痛の強さは、「寝込むほどの痛み」、「薬を服用せずにいられない」、「痛むものの生活に支障はない」、「痛みはほとんどない」の四者択一で回答してもらい、前二者を月経痛が「重い」、後二者を「軽い」と判定した。 解析対象者のうち、76.19%が月経痛を経験しており、痛みが重いと判定された人が101人、軽いと判定された人が220人だった。この2群を比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量は有意差がなかった。ただし、総タンパク質、動物性タンパク質、ビタミンD、ビタミンB12、魚の摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に少なかった。反対に、砂糖、ラーメン、アイスクリームの摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に多かった。また、朝食を欠かさない割合は、月経痛が軽い群73.6%、重い群64.4%で、後者が有意に低値だった。 栄養・食事以外の生活習慣に着目すると、毎日入浴する割合が、前記と同順に40.5%、26.7%で有意差があり、月経痛が重い人は入浴頻度が少なくシャワーで済ます人が多かった。睡眠時間や1日30分以上の運動習慣のある人の割合については有意差がなかった。 これらの結果について著者らは、以下のような考察を述べている。まず、糖質の摂取量の多さが月経痛の強さと関連していることは、先行研究と同様の結果だとしている。その一方で、欧州からは肉類の摂取量の多さは月経痛の強さと関連していると報告されており、今回の研究では異なる結果となった。この点については、日本人の肉類の摂取量が欧州に比べて少ないことが、相違の一因ではないかとしている。 このほか、ビタミンDは子宮内膜でのプロスタグランジン産生抑制、ビタミンB12はシクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用が報告されており、炎症抑制と疼痛緩和につながる可能性があり、魚はビタミンDとビタミンB12の良い供給源であるという。また、朝食摂取や入浴は体温を高め、血行改善や子宮収縮を抑制するように働いて月経痛を緩和する可能性があるが、本研究では体温を測定していないことから、今後の検証が必要と述べている。 論文の結論は、「日々の食事で魚、タンパク質、ビタミンB12、ビタミンDを十分に摂取し、朝食や入浴などによって体温を上げるような生活習慣とすることが、月経痛の緩和に効果的である可能性が考えられる」とまとめられている。

3.

オキシトシンによる分娩誘発、陣痛活動期に継続すべきか中止すべきか?/BMJ

 胎児の状態と子宮収縮のモニタリングが保証される環境において、オキシトシンによる誘発の中止は、帝王切開率のわずかな上昇につながる可能性があるが、子宮過刺激および胎児心拍異常のリスクを有意に低下したことが示された。デンマーク・Randers Regional HospitalのSidsel Boie氏らが、同国の9病院とオランダの1病院で実施した国際共同無作為化二重盲検比較試験「Continued versus discontinued oxytocin stimulation in the active phase of labour:CONDISOX」の結果を報告した。これまで4件のメタ解析では、いったん陣痛活動期に入れば、オキシトシンの投与を中止しても分娩の経過は継続し、帝王切開のリスクが低くなることが示されていた。しかし、2018年のCochrane reviewで過去の研究の質が疑問視され、多くの試験が、バイアスリスクが高いまたは不明と判断されていた。BMJ誌2021年4月14日号掲載の報告。オキシトシンが帝王切開率低下と関連するかを検証 CONDISOX試験の対象は、正期産、頭位、単胎で選択的陣痛誘発または陣痛前破水によりオキシトシンを投与された女性で、陣痛活動期(子宮口開大6cm以上、10分間に3回以上の子宮収縮)に入った時点で、オキシトシン継続群または中止群(プラセボとして生理食塩水を投与)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。施設、出産経験の有無およびオキシトシンの適応(選択的陣痛誘発、陣痛前破水)による層別化も行われた。 主要評価項目は、帝王切開による分娩であった。 2016年4月8日~2020年6月30日に、計1,200例が無作為化された(継続群593例、中止群607例)。帝王切開率は中止群と継続群で差はなし 帝王切開率は、中止群16.6%(101例)、継続群14.2%(84例)であった(相対リスク:1.17、95%信頼区間[CI]:0.90~1.53)。また、帝王切開歴のない経産婦94例における帝王切開率は、中止群7.5%(11/147回)、継続群0.6%(1/155回)であった(相対リスク:11.6、95%CI:1.15~88.7)。 オキシトシン中止は、分娩所要時間の延長(無作為化から分娩までの時間の中央値:中止群282分vs.継続群201分)、過剰刺激のリスク低下(3.7%[20/546例]vs.12.9%[70/541例]、p<0.001)、胎児心拍異常のリスク低下(27.9%[153/548例]vs.40.8%[219/537例]、p<0.001)と関連していたが、母体および新生児の他の有害アウトカムについては両群で類似していた。 なお、著者は研究の限界として、割り付けられた介入を受けなかった女性の割合がかなり高かったこと、助産師が分娩誘発を再開する場合にオキシトシンの使用を選択することが多かったことなどを挙げている。

4.

第20回 岡山医師不同意堕胎致傷事件で思い出した、ショーケン主演の昭和映画

女性をもうろう状態にさせて堕胎術こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。近年では珍しく、猛暑の夏がやって来ました。あまりの暑さに、昔から売っているカップのかき氷(森永乳業のみぞれ、赤城乳業の赤城しぐれ…)が食べたくなり、炎天下、わざわざコンビニに出かけました。ところが、おしゃれなアイスは大量にあるのですが、みぞれもしぐれもありません。売り切れなのか、入荷が少ないのか。複数の店舗を回っても見つけられず、結局ロッテのスイカバーを買って帰りました…。明治のカール生産中止の時も感じたのですが、昭和の時代からあるクラシカルなお菓子が段々とマイナーになり、徐々に消えていっているようで、中高年にはやや寂しく感じる今日この頃です。さて、今回気になったのは、岡山県で男性医師が不同意堕胎致傷の疑いで逮捕された事件です。8月12日付けの山陽新聞などの報道によれば、岡山済生会総合病院に勤務する男性の外科医(33)が、今年5月17日の日曜日、知人女性に「診察してあげる」と持ち掛けて病院に呼び出し、もうろう状態にさせて堕胎術を行い、全治約1週間のケガをさせたとみられています。婚約者との関係を守るために犯行を決意か事件があったとされる5月17日は日曜日で、非番だった男性医師が人目につきにくい診察室や、麻酔薬などの薬剤を無断で使用した可能性があるとのことです。5月19日、別の医療機関の女性の主治医が、胎児の心拍が聞こえないことを不審に思い調べたところ、胎児は胎内で死亡しており、警察に通報、事件が発覚しました。この女性は「堕ろすつもりはなかった」と話しているそうです。その他の報道等によれば、男性医師は2012年に香川大学医学部を卒業、2017年から同病院で外科医として勤務していたとのことです。男性医師は独身で別に婚約者がおり、妊娠させたとみられるこの女性に中絶を迫り、断られていたことも判明しています。岡山県警は婚約者との関係を守るために犯行を決意した可能性があるとみて、捜査を進めるそうです。男性医師は容疑を認めており、県警は10日、同医師を送検しています。なお、岡山済生会総合病院は同じく10日に記者会見を開き、塩出 純二院長が「管理者としての責任を痛感しており、職員の再教育を徹底して信頼回復に努める。被害に遭われた女性には深くおわび申し上げます」と謝罪しています。ショーケン主演の名作映画『青春の蹉跌』を思い出す社会的にエリートといえる医師が、婚約者がいながら他の女性を妊娠させ、堕胎を迫り、犯罪をおかす…。どこかで聞いたことがあるようなこの事件、私は、萩原 健一(ショーケン)と桃井 かおり主演の昭和の映画、『青春の蹉跌』を思い出しました。石川 達三の同名原作を映画化した1974年のこの作品、主人公(萩原 健一)は司法試験に合格した有名大学法学部の学生で、婚約者(檀 ふみ)もいます。その一方で家庭教師の教え子だった女性(桃井 かおり)とも付き合いを続けており、ある日、妊娠を告げられます。そして…。『青春の蹉跌』はロマンポルノの鬼才・神代 辰巳監督による初の一般映画作品で、『キネマ旬報』で日本映画第4位を獲得、物憂げなショーケンの演技は素晴らしく、最優秀主演男優賞を受賞、俳優としての地位を確立しました。岡山済生会の院長は「職員の再教育を徹底して」と話しましたが、一人前の大人に今さら何を再教育するのでしょうか。この古臭いけれどスタイリッシュな昭和の映画を、若い医師たちに観せるというのも一法かもしれません。「医師免許取り消し」は確実?ところで、医師が不同意堕胎罪(不同意堕胎致傷よりは刑が軽い)を犯した事件は平成にも起きています。「慈恵会医大病院医師不同意堕胎事件」です。2009年、慈恵会医大病院に努めていた東海大学医学部出身の男性医師(当時36歳)が、妊娠した交際相手の女性に子宮収縮剤や陣痛誘発剤などの薬剤を用いて流産させたのです。この事件で東京地方裁判所は2010年、男性医師に対し、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡しています。さらに翌2011年、厚生労働省は医道審議会医道分科会の答申を受け、行政処分の中で一番重い「医師免許取り消し」を決定しています。今回の岡山済生会のケースは、不同意堕胎罪よりも罪が重い不同意堕胎致傷罪なので、刑も重くなるでしょうし、「医師免許取り消し」も確実とみられます。まさに令和の「青春の蹉跌」とも言えそうな事件です。

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新型肺炎は母子感染するのか?妊婦9例の後ろ向き研究/Lancet

 中国・武漢市を中心に世界規模で広がっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これまでの研究では一般集団における感染ルートの検証が行われてきたが、妊婦のデータは限定的だ。武漢大学中南医院産婦人科のHuijun Chen氏らは、新型コロナウイルス陽性と確認された妊産婦について、臨床的特徴と垂直感染の可能性について検証した。Lancet誌オンライン版2月12日版に掲載。 本研究では、2020年1月20日~31日、武漢大学中南医院に入院した患者のうち、COVID-19と診断された妊産婦9例について、臨床記録、検査結果および胸部CT画像を後ろ向きにレビューした。垂直感染を裏付ける根拠として、羊水、臍帯血、新生児の咽頭スワブおよび母乳サンプルが採取された。 主な結果は以下のとおり。・妊産婦9例は26歳~40歳で、いずれも持病はなく、全例が妊娠第3期に帝王切開で出産した。・全例で出生が確認され、新生児仮死は見られなかった。・新生児9例はいずれも1分後アプガースコア(AP)が8~9、5分後APが9~10で正常だった。・妊産婦9例中7例で発熱が見られたほか、咳(4例)、筋肉痛(3例)、咽頭痛(2例)、倦怠感(2例)といった症状が確認された。・2月4日の段階で、妊産婦9例についてCOVID-19重症例および死亡例は確認されていない。・9例のうち6例について、羊水、臍帯血、新生児の咽頭スワブ、および母乳サンプルのウイルス検査が行われ、すべて陰性だった。・2月6日の段階で、新生児1例について、出生36時間後にウイルス検査で陽性反応を示した。・ただし、本症例については出生30時間後に採取されたサンプルであるため、子宮内感染が発生したかどうかは不明である。 本研究の9例は、妊婦が感染していたCOVID-19の母子感染リスクが不明であったため、帝王切開による分娩が選択されたという。著者らは、「この9例に限っては、妊娠後期にCOVID-19を発症した妊婦からの子宮内垂直感染を直接示すエビデンスがないことを示唆している」としながらも、「経腟分娩による母子感染リスクや、母体の子宮収縮がウイルスに及ぼす影響については、さらに調査する必要がある」と述べている。

6.

トラネキサム酸の分娩後出血予防は?/NEJM

 経膣分娩時にオキシトシンの予防的投与を受けた女性において、トラネキサム酸の併用投与はプラセボ群と比較し、500mL以上の分娩後出血の発生を有意に低下しなかった。フランス・ボルドー大学病院のLoic Sentilhes氏らが、トラネキサム酸の予防的投与追加による分娩後出血の発生率低下を検証した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「TRAAP試験」の結果を報告した。分娩直後のトラネキサム酸の使用により、分娩後出血に起因する死亡率低下が示唆されているが、トラネキサム酸の予防的投与の有効性を支持するエビデンスは十分ではなかった。NEJM誌2018年8月23日号掲載の報告。オキシトシン+トラネキサム酸vs.オキシトシン+プラセボ 研究グループは2015年1月~2016年12月の期間に、妊娠35週以上で経腟分娩予定の単胎妊娠女性を、分娩後オキシトシンの予防投与に加え、トラネキサム酸1g(トラネキサム酸群)あるいはプラセボを静脈内投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、分娩後出血とし、目盛付き採集バッグによる測定で500mL以上の出血と定義した。 4,079例が無作為化され、このうち3,891例が経腟分娩であった。トラネキサム酸追加で、医療者評価の臨床的に重大な分娩後出血発生率は低下 主要評価項目である分娩後出血の発生率は、トラネキサム酸群8.1%(156/1,921例)、プラセボ群9.8%(188/1,918例)で有意な差はなかった(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.68~1.01、p=0.07)。 トラネキサム酸群ではプラセボ群と比較し、医療提供者評価による臨床的に重大な分娩後出血の発生率は有意に低下し(7.8% vs.10.4%、相対リスク:0.74、95%CI:0.61~0.91、p=0.004、多重比較事後補正後p=0.04)、子宮収縮薬の追加投与も有意に少なかった(7.2% vs.9.7%、相対リスク:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.006、補正後p=0.04)。他の副次評価項目については、両群間に有意差は確認されなかった。 分娩後3ヵ月間の血栓塞栓性イベントの発現率は、トラネキサム酸群とプラセボ群とで有意差はなかった(それぞれ0.1%および0.2%、相対リスク:0.25、95%CI:0.03~2.24)。 なお、著者は研究の限界として、分娩前のヘモグロビン値測定などは多くが外来で実施されるため、評価時期が標準化されていないこと、重度の分娩後出血に対するトラネキサム酸の有効性や、治療法としてのトラネキサム酸の使用に関しては検出力不足であったことなどを挙げている。

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出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できる(解説:住谷哲氏)-720

 肥満人口の増大に伴い糖尿病妊婦も増加している。糖尿病妊婦からの出生児は子宮内で高血糖の環境にあるため高インスリン状態にあり、分娩後は一過性低血糖を来すことがある。そのため分娩後NICUでの管理が必要になることが少なくない。初乳(colostrum)は通常の乳汁に比べてグルコース濃度が高く、出生児の低血糖を予防するために適切である。そこで、わが国ではあまりないと思われるが、欧米の一部では糖尿病妊婦に対する出産前搾乳が推奨されている。一方で、妊娠後期の搾乳はオキシトシン分泌を介して子宮収縮を促進することから、出生児の合併症を増加させる可能性も懸念されている。そこで糖尿病妊婦における出産前搾乳の有益性に関するコクランのシステマティックレビューが実施されたが、エビデンスが存在しないため有益性は不明とされていた1)。 本試験はこの「糖尿病妊婦の出産前搾乳は出生児に対して有益かつ安全か?」との臨床的疑問に回答を試みたものである。対象は9割以上が妊娠糖尿病(GDM)であり、残りが妊娠前糖尿病(pre-existing diabetes、1型糖尿病および2型糖尿病の両者を含む)である。多くの除外基準が設定されており(詳細は論文を参照されたい)、低リスク妊婦のみが対象となっている。対象患者は妊娠36週から搾乳する群と対照群に無作為に分けられたが、試験デザインから盲検化は不可能であり、データ回収、解析などを盲検化したPROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法に近い方法が用いられた。 その結果、出生児のNICUへの入院率は両群に有意差はなく、出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できると考えられた。ただし著者らが強調しているように、この試験の結果は多くの除外基準をクリアした低リスク妊婦のみに適用可能であり、すべての糖尿病妊婦に適用できるかは現時点では不明である。 本試験は、これまで慣習として広く実施されてきた医療行為(糖尿病妊婦における出産前搾乳)を臨床的疑問として定式化し、因果関係を証明するのに最も適切であるRCTを用いてその有益性を明らかにした。臨床的疑問の定式化はEBMの第一歩であるが、これは既存のエビデンスに基づいて眼前の臨床的疑問を解決する第一歩であるのみならず、自ら新たなエビデンスを創造するための第一歩でもある。本論文を読んで筆者はそれを再認識させられた。

8.

帝王切開術後のMRSA感染症で重度後遺障害が残存したケース

産科・婦人科最終判決平成15年10月7日 東京地方裁判所 判決概要妊娠26週、双胎および頸管無力症、高位破水と診断されて大学病院産婦人科へ入院となった25歳女性。感染兆候がみられたため抗菌薬の投与下に、妊娠28週で帝王切開施行。術後39℃以上の発熱があり抗菌薬を変更したが、術後5日目に容態が急変し、集中治療室へ搬送し気管内挿管を行った。羊水の培養検査でMRSA(+)のためアルベカシン(商品名:ハベカシン)を開始したものの、術後6日目に心肺停止、MRSA感染症による多臓器不全と診断された。バンコマイシン®投与を含む集中治療によって全身状態は改善したが、低酸素脳症から寝たきり状態となった。詳細な経過患者情報25歳女性、2回目の妊娠、某大学病院産婦人科に通院経過平成8年6月19日妊娠26週検診で双胎および頸管無力症と診断され同日入院となる。高位破水、子宮収縮がみられ、CRP上昇、白血球増加などの所見から子宮内細菌感染を疑う。6月20日羊水移行性の高い抗菌薬セフォタキシム(同:セフォタックス)を開始。6月28日頸管無力症で子宮口が開大したため、シロッカー頸管縫縮術施行。6月30日感染徴候の悪化を認め、原因菌を同定しないままセフォタックス®をイミペネム・シラスタチン(同:チエナム)に変更(帝王切開が行われた7月12日まで)。7月1日子宮口からカテーテルを挿入して羊水を採取し細菌培養検査を行うが、このときはMRSA(-)。7月10日体温36.5℃、脈拍84回/分、白血球12,300、CRP 0.3以下膣内に貯留していた羊水を含む分泌物を細菌培養検査へ提出。7月11日(木)脈拍102回/分、CRP 0.9。7月12日(金)緊急帝王切開手術施行。検査室では7月10日に提出した検体の細菌分離、純培養を終了。白血球10,800、脈拍96回/分、CRP 0.7、体温37.3~38.3℃。術後にチエナム®からアスポキシシリン(同:ドイル)に変更(7月12日~7月15日まで)。第3世代セフェム系抗菌薬であるセフォタックス®やチエナム®などかなり強い抗菌薬の使用をやめて、ドイル®を使用し感染状態の変化を見きわめることを目的とした。7月13日(土)病院休診日(検査室は当直体制)。脈拍80回/分、体温36.5~37.6℃、顔面紅潮あり。7月14日(日)検査室では菌の同定・感受性検査施行。前日には部分的であった発疹が全身へ拡大、白血球20,600、CRP 24.1へと急上昇。BUN 24.8mg/dL、Cr 1.3mg/dLと腎機能の軽度低下。発疹および発熱は抗菌薬によるアレルギーを疑い、ドイル®を中止してホスホマイシン(同:ホスミシン)、チエナム®、セフジニル(同:セフゾン)に変更。血液培養では陰性。このときは普通に話ができる状態であった。7月15日(月)検査室では夕刻の段階でMRSAを確認し感受性テストも終了。白血球24,000、CRP 24、血小板73,000、DICを疑いガベキサートメシル(同:エフオーワイ)投与開始。夜の段階で羊水の細菌培養検査結果が病棟に届くが、担当医には知らされなかった。7月17日(水)白血球34,600、CRP 30.4、血圧80/40mmHg、体温37.7~37.9℃、朝から換気不全、意識レベルの低下などがみられARDSと診断し、気管内挿管などを行いつつICUに入室。この直前に羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り、ARDSはMRSAによる感染症(敗血症)に伴うものと考え、パニペネム・ベタミプロン(同:カルベニン)、免疫グロブリン、MRSAに対しハベカシン®を投与。AST、ALT、LDH、アミラーゼ、BUN、Crなどの上昇が認められMOFと診断。7月18日03:00突然心停止となり、ただちに心肺蘇生を開始して心拍は再開した。ところが低酸素脳症による昏睡状態へと陥る。白血球31,700、CRP 1509:30ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。8月5日腹部CTでダグラス窩に膿瘍形成。8月6日切開排膿ドレナージを施行。その後感染症状は軽快。8月23日MRSAは完全に消滅。平成9年1月18日症状固定:言葉を発することはなく、意思の疎通はできず、排便・排尿はオムツ管理で、常時要介護の状態となる。当事者の主張患者側(原告)の主張7月14日に39℃に近い高熱と悪寒、脈拍も86回/分、全身に細菌感染徴候がみられたので、遅くとも7月15日(月)には羊水の細菌培養検査を問い合わせるか、急がせる義務があり、遅くとも7月16日(火)正午までには感受性判定の結果が得られ、その段階から抗MRSA薬バンコマイシン®を早期に適量投与することができたはずである。ところがバンコマイシン®の投与を開始したのは7月18日午前9:30と2日も遅れた。もっとも早くて7月14日、遅くて7月16日夕刻までにMRSA感染症治療としてバンコマイシン®の投与を開始していれば、7月18日の心停止を回避できた可能性は十二分にある。病院側(被告)の主張出産の2週間前から破水した長期破水例のため、感染症のことは当然念頭にあり、毎日CRP、白血球数を検査し、帝王切開手術後も引き続き感染症を念頭において対応していた。しかし、急激に容態が悪くなったのは7月16日の夜からである。患者側は7月10日に採取した羊水の細菌培養検査結果の報告を急がせるべきであったと主張するが、7月16日午後6:30の呼吸苦出現までは感染症はそれほど重症ではなく、検査結果を急がせるような状況にはない。細菌培養の検体提出後、菌の同定、感受性の試験まで行うには5日間は要するが、本件では7月13日、7月14日と土日の当直体制であったため、結果的に報告まで7日かかったことはやむを得ない。担当医は7月16日夜に病棟に届いていた羊水の細菌培養検査結果MRSA(+)を、翌7月17日朝に知ったが、その時点でうっ血性心不全、意識低下と病態急変し、ICU(集中治療室)への収容、気管内挿管、人工換気などに忙殺された。そして、同日午後5:00に抗MRSA薬ハベカシン®を投与し、さらに翌18日からはバンコマイシン®を投与した。したがって、MRSAに対する薬剤投与が遅れたということはない。MRSAを知ってからハベカシン®を投与するまでの約6時間は緊迫した全身状態への対応に追われていた。仮に羊水培養検査結果の報告が届いた7月16日夜にハベカシン®またはバンコマイシン®を投与したとしても、すでにDIC、ARDSがみられ、MOFが進行している病態の下で、薬効の発現に2日ないし4日を要するとされていることを考えると、その後の病態を改善できたかは不明で心停止を回避することはできなかった。裁判所の判断被告病院における細菌培養の検査体制について羊水を分離培養するために要した時間は48時間。自動細菌検査システムVITEK® SYSTEMによれば、MRSA(グラム陽性菌=GpC)の同定に要する時間は4~18時間、感受性試験に要する時間は3~10時間、検査の結果が判明するのに通常要する期間は5日程度であった。被告病院では検査結果が判明したら、検査伝票が検査部にある各科のボックスに入れられ、各科の看護補助員が随時回収し、各科の病棟事務員に渡し、病棟事務員から各担当医師に渡されるという方法がとられている。院内感染対策委員会において策定したMRSA院内感染予防対策マニュアルによれば、MRSA陽性の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達するものとされていた。ARDS、DIC、MOFに陥った原因、時期について7月14日(日)には39.8℃、翌7月15日(月)にも39℃の発熱、脈拍数120回/分とSIRSの基準4項目のうち2項目以上を満たし、白血球20,600、CRP 24.1などの所見から、7月15日午前9:00の段階でSIRS、セプシス(敗血症)の状態にあった。原因菌として、7月10日に採取した羊水の細菌培養検査、7月12日の帝王切開手術当日に採取された咽頭、便、胎脂からもMRSAが検出されていること、入院後から帝王切開手術までの間、スペクトラムが広く、抗菌力の強い抗菌薬チエナム®やセフォタックス®が継続使用され、菌交代現象が生じる可能性があったこと、抗菌薬ドイル®、チエナム®が無効であったことなどから、セプシスの原因菌はMRSAである。MRSA感染症治療としてバンコマイシン®をどの時点で投与する義務があったか細菌培養に提出された羊水の検体は、7月10日(水)に採取され、7月12日(金)の午後には分離培養は完了、7月15日(月)に細菌同定、感受性検査を開始、7月16日夕刻にはその結果を報告し合計7日間を要した。細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものであった。一方術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある。被告病院は高度医療の推進を標榜し、これを期待される医科系総合大学の附属病院であり、病院としてMRSA感染症対策を行っていた。仮に菌の同定を7月13日の作業開始時間である午前9:00から開始したとしても、遅くとも、細菌の同定その後の感受性の判定結果を、その28時間後の7月14日(日)午後1:00には培養検査結果を終了させておく義務があった。その結果、各科の看護補助員が出勤しているはずの7月15日(月)午前9:00頃には細菌培養検査結果の伝票を看護補助員が回収し各科の病棟事務員に渡され、担当医は遅くとも7月15日(月)午前中にはMRSA感染症を知り得たはずである。そして、MRSA感染症治療として被告病院が投与すべきであった抗菌薬は、各種感受性検査からバンコマイシン®であったので、遅くとも7月15日午後7:00頃にはバンコマイシン®を投与する義務があった。ところが、被告病院が実際にバンコマイシン®を投与したのは7月18日午前9:30であり大幅に遅れた。重症敗血症の時点でバンコマイシン®を投与した場合と敗血症性ショックを生じた後にバンコマイシン®を投与した場合について比較すると、重症敗血症の場合の死亡率は約10~20%にとどまるのに対し、敗血症性ショックの場合のそれは約46~60%と、その死亡率は高い。7月15日午後7:00頃の時点では、MRSAを原因菌とするセプシスあるいはそれに引き続いて敗血症に陥っているにとどまっている段階であり、まだ敗血症性ショックには至っていなかったので、遅くとも7月15日午後7:00頃バンコマイシン®を投与していれば、ARDSやDICを発症し、MOF状態となり、心停止により低酸素脳症に陥るという結果を回避することができた高度の蓋然性が認められる。原告側1億5,752万円(プラス死亡するまで1日介護料17,000円)の請求に対し、1億389万円(プラス死亡するまで1日介護料15,000円)の判決考察この判決は、われわれ医師にとってはきわめて不条理な内容であり、まさに唖然とする思いです。病態の進行が急激で治療が後手後手とはなりましたが、あとから振り返っても診療上の明らかな過失はみいだせないと思います。にもかかわらず、結果が悪かったというだけで、すべての責任を医師に押しつけたこの裁判官は、まるで時代のヒーローとでも思っているのでしょうか。この患者さんは出産の2週間前から破水した長期破水例であり、当然のことながら担当医師は感染症に対して慎重に対応し、初期から強力な抗菌薬を使用しました。にもかかわらず敗血症性ショックとなり、低酸素脳症から寝たきり状態となってしまったのは、大変残念ではあります。しかし、経過中にきちんと血液検査、細菌培養を行い、はっきりとした細菌は同定されなかったものの、さまざまな抗菌薬を投与するなど、その都度、そのときに考えられる最良の対応を行っていたことがわかります。けっして怠慢であったとか、大事な所見を見落としていたわけではありません。もう一度振り返ると、平成8年6月19日妊娠26週、高位破水。6月20日セフォタックス®開始。6月30日セフォタックス®をチエナム®に変更。7月1日羊水培養、MRSA(-)7月10日羊水培養提出。7月12日緊急帝王切開、チエナム®をドイル®に変更。7月13日休診日(検査室は当直体制)。7月14日休診日(検査室は当直体制)。 裁判所は検体提出の5日後、日曜日の13:00には感受性検査が終了できたであろうと認定。7月15日検査室で菌の同定・感受性検査施行。 抗菌薬のアレルギーを考えてドイル®を中止、ホスミシン®、チエナム®、セフゾン®に変更。 裁判所は7月15日の朝にはMRSA(+)がわかりバンコマイシン®投与可能と認定。7月16日夜にMRSA(+)の結果が病棟に届く。7月17日容態急変で集中治療室へ。羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り夕方からハベカシン®開始。7月18日ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。われわれ医療従事者であれば、細菌培養にはある程度時間がかかることを知っていますから、結果が出次第、担当医師に連絡するように依頼はしても、培養の作業時間を短縮させたり、土日まで担当者を呼び出して感受性検査を急ぐことなどしないと思います。ましてや、土日の当直検査技師は緊急を要する血液検査、尿検査、髄液検査、輸血のクロスマッチなどに追われ、しかもすべての検査技師が培養検査に習熟しているわけでもありません。ここに裁判官の大きな誤解があり、培養検査というのを細菌感染症に対する万能かつ唯一無二の手段と考えて、土日であろうとも培養結果を出すため対応すべきものと勝手に思いこみ、「細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものでけしからん」という判決文を書きました。たしかに、培養検査は治療上きわめて重要であるのはいうまでもありませんが、抗菌薬使用下では細菌が生えてこないことも多く、原因菌不明のまま抗菌薬を投与することもしばしばあります。ここで裁判官はさらに無謀なことを判決文に書いています。「術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある!」と明言しています。この意味するところは、通常の抗菌薬を使っても発熱が続く患者には予防的にMRSAに効く抗菌薬を使え、ということでしょうか?今回の症例はMRSAが判明するまでは、細菌感染が疑われるものの発熱原因が特定されない、いわば「不明熱」であって、けっして「通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中」ではありませんでした。そのため担当医師は抗菌薬(ドイル®)によるアレルギーも考えて抗菌薬を別のものに変更しています。このような不明熱のケースに、予防的にバンコマイシン®を投与しなければならないというのは、結果を知ったあとだからこそいえる行き過ぎの考え方だと思います。ところが「公平な判断を下す」はずの裁判官たちは、ほかにも多数の裁判事例を抱えて多忙らしく、誤解や勉強不足による間違った判決文を書いても、あとから非難を受ける立場には置かれません。そのため、結果責任は医師に押しつければよいという、「一歩踏み込んだ判断」を自負する傾向が非常に強くなっていると思います。残念ながら、このような由々しき風潮を改善するのは非常に難しく、われわれにできることは自己防衛的な対策を講じることくらいでしょう。今回のように、土日をはさんだ細菌培養検査にはどうしても結果が出るまでに時間がかかります。この点はやむを得ないのですが、被告病院の感染症対策マニュアルにも書いてあるとおり、「MRSA(+)の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達する」という原則を常に遵守することが大事だと思います。本件では、7月16日夕刻の段階でMRSA(+)が判明しましたが、検査部から担当医師へダイレクトな連絡はありませんでした。通常のルートに乗って、7月16日夜には検査結果を記した伝票が病棟まで届きましたが、その結果を担当医師が確認したのは翌朝11:00頃であり、12時間以上のロスがあったことになります。このような院内体制については改善の余地がありますので、スタッフ同士の院内コミュニケーションを十分にはかることがいかに重要であるか、改めて痛感させられるケースです。産科・婦人科

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帝王切開の決定時期が遅れて胎児仮死・低酸素脳症となったケース

産科・婦人科最終判決判例時報 1772号108-120頁概要妊娠経過中に異常はみられなかった24歳初産婦。破水から6時間後にいったん分娩停止となったため、陣痛促進剤を開始するとともに、仙骨硬膜外麻酔も追加した。分娩室に移動した直後から胎児心拍細変動の低下・消失、徐脈などが出現し、まずは吸引分娩を試みたが不成功。鉗子分娩は児頭が高位になったことから断念し、緊急帝王切開を行った。ところが胎児仮死の状態で出生し、重度の脳障害が残存した。詳細な経過患者情報24歳初産婦、分娩予定日1993年3月31日、身長154cm、体重55kg(非妊時46kg)、ノンストレステスト異常なし、子宮底32cm、推定胎児体重3,598g、骨盤X線計測では通過可能経過4月1日21:00陣痛が10分間隔となり分娩開始。4月2日02:00市立病院産婦人科に入院。子宮口2~3cm開大、展退80%、児の下降度stationマイナス1.5、陣痛間隔は間歇5分規則的、発作30~40秒。02:37外側式分娩監視装置を装着。07:45早期破水。08:00子宮口4cm開大、展退80~90%、児の下降度stationマイナス1.5。09:13内側式分娩監視装置を装着。10:30子宮口8cm開大、児心音130-140、児の下降度stationマイナス1。13:30子宮口8cm開大、児心音140、児の下降度stationマイナス0.5。子宮口の開大進まず、分娩遷延ないし停止状態。第2回旋が横定位の状態に戻る。15:45裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少(15分間持続しその後回復。あとからみるとごく軽度の遅発一過性徐脈ともとれるのでこの時点で酸素投与を開始するのが望ましかった)。16:00陣痛促進剤(プロスタグランデインF2α)開始。16:40裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少ともとれる所見が46分間継続(このような変化は正常な経過をとる分娩にはみられないので胎児仮死を想定すべきであった)。17:50内診にて横定位回旋異常が変化しないため、仙骨硬膜外麻酔施行。18:20~18:40(担当医師はトイレのため陣痛室を離れる)18:20裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少は著明で、遅発一過性徐脈を疑う所見がある。さらにこの時に子宮口は全開大していた可能性が高い(?)ので内疹をして確認するべきであった。18:30分娩室に移動。18:35裁判所の認定:胎児心拍数が110前後の徐脈。分娩室に移動して一時中断していた記録を再開したこの時点で急速遂娩を決定するべきであった。18:37胎児心拍数が80前後の高度徐脈。18:45胎児心拍数はいったん120を越えたため、徐脈は軽度であって経過観察をすることにした。予防的に酸素投与。18:502分間ほどの頻脈、基線の細変動は保たれていたので低酸素状態ではないと判断。18:54高度徐脈が1分間持続、臍帯の圧迫などによる低酸素と考え急速遂娩が必要と判断。18:58子宮口全開大。19:05児の下降度stationプラス1を確認したうえで、クリステル圧出法による吸引分娩を試みるが娩出せず。19:20ほかの医師に交代し鉗子分娩を試みるが、児頭が高位になったことから断念し帝王切開を決定。19:46重症仮死状態で出生。直後のアプガースコアは1点、5分後も4点であり、低酸素脳症による重度脳障害が発生し、日常生活全介護となった。裁判所からの依頼鑑定胎児が何らかの因子で分娩の初期から胎児心拍細変動の一時的な消失を示しており、また、分娩の後半における一連の変化は、たとえ遅発性一過性徐脈を伴う典型的なパターンではなくても、胎児仮死を疑い、より厳重な監視と迅速な対応が必要であった。当事者の主張患者側(原告)の主張担当医師は遅くとも18:35の時点で急速遂娩の決断をするべきであった。仮に急速遂娩を決断するべき時期が高度持続性徐脈のみられた18:54だとしても、その方法は吸引分娩ではなく帝王切開にするべきであった。このような判断の遅れから、胎児仮死による脳性麻痺に至った。患者側提出産婦人科専門医作成意見書心拍数曲線は記録の乱れのために判定は難しいが、18:37~18:42頃までのあいだに遅発性一過性徐脈を疑わせる所見がある。一般に胎児仮死の徴候は分娩経過とともに発現することが多いため、18:54まではまったく異常がなく、この時点で突然持続性徐脈で示される胎児仮死が現れる可能性は低い。したがって、18:54に持続性徐脈がみられた時点で、ただちに吸引遂娩術を試み、それが不成功であれば速やかに帝王切開術を実施していれば、胎児仮死を避けられた可能性が高い病院側(被告)の主張18:36突然の徐脈が出現するまでは胎児の状態は良好であり、突然の悪化は予見できない。裁判所からの依頼鑑定では、正常な状態で出現するレム・ノンレムおよび覚醒のサイクル(スリープウエイクサイクル)を無視している。18:54に急速遂娩を決定した時の判断として、吸引分娩が成功すれば帝王切開よりもはるかに短い時間ですむので、吸引分娩の判断は誤りではない。そして、帝王切開を決定してから児の娩出まで26分でありけっして遅滞とはいえない。アメリカ産婦人科学会の基準では、脳性麻痺の原因が胎児仮死にあると推定できる要件として4つ挙げているが、本件では2要件しか満たさないので、脳性麻痺の原因は胎児仮死ではない。病院側提出意見書(1)(産婦人科M教授)18:35までの胎児心拍数モニター上では、基準心拍数、胎児心拍数基線細変動、子宮収縮による心拍数の変化、一過性頻脈の存在、レム・ノンレムサイクルの存在からみても、胎児仮死を示唆する所見はない。分娩室移動後も、18:58までは正常範囲内である。本件における胎児心拍細変動の低下・消失は、健康な胎児がレム・ノンレムおよび覚醒のサイクルをくり返している典型的な胎児の生理的状態である病院側提出意見書(2)(産婦人科T教授)18:36から基準心拍数の低下と一過性徐脈があるようにもみえるが、この程度の変化では胎児仮死徴候の発現とみることはできない。18:50までの胎児心拍の不安定な推移はのちに起こる胎児仮死の予兆もしくは警戒信号といえなくもないが、あくまでも結果論であり、現場においてはその推移を注意深く見守るくらいで十分な状態であったといえる裁判所の判断分娩経過中には分娩監視装置を適切に使用するなどして、できる限り胎児仮死の早期診断、早期治療に努めるべきであるのに、担当医師は胎児心拍細変動の低下・消失、徐脈に気付いて急速遂娩を実施する義務を怠り、児を少なくとも1時間早く娩出できた可能性を見過ごし、胎児仮死の状態に至らせた過失がある。原告側合計1億5,200万円の請求に対し、1億812万円の判決考察今回のケースで裁判所は、分娩管理の「明らかな過失」という判断を下しましたが、はたして本当に医療過誤といえるほどの過失が存在したのか、かなり疑問に思うケースです。分娩経過を通じて担当医師は患者のそばにほとんど立ち会っていますし、その都度必要に応じた処置を施して何とか無事に分娩を終了しようとしましたが、(裁判官が指摘した時刻にはトイレにいっていたなど)さまざまな要因が重なって不幸な結果につながりました。そこには担当医師の明らかな怠慢、不注意などはあまり感じられず、結果責任だけを問われているような気がします。あとからCTG(Cardio-toco-graphy)を詳細に検討すると、確かに胎児心拍細変動の消失や低下が一過性にみられたり、遅発一過性徐脈を疑う所見もあります。そして、裁判所選出の鑑定医のコメントは、「典型的な遅発一過性徐脈が出ているとはいっていない。詳細にみるとごく軽度の遅発一過性徐脈ともとれる所見の存在も否定し得ない」となっているのに、裁判官の方ではそれを拡大解釈して、「遅発一過性徐脈を少しでも疑うのならば、即、急速遂娩しないのは明らかな過失」と断じているようなものではないかと思います。その背景として、出産は病気ではなく五体満足で産まれるのが普通なのに、脳性麻痺になったのは絶対に病院が悪い、という考え方があるのではないでしょうか。おそらく一般臨床家の立場では、病院側の意見書を作成したT教授のように、「胎児心拍の不安定な推移はのちに起こる胎児仮死の予兆もしくは警戒信号といえなくもないが、あくまでも結果論であり、現場においてはその推移を注意深く見守るくらいで十分な状態であったといえる」という考え方に賛同するのではないかと思います。今回のような産科領域、とくにCTGに関連した医事紛争はかなり増えてきています。CTGの重大な所見を過小評価して対応が遅れたり、あるいは分娩監視装置を途中で外してしまい再度装着した時にはひどい徐脈であったりなどといった事例が散見されます。やはり患者側は「お産は病気じゃない」という意識が非常に強いため、ひとたび障害児が生まれるとトラブルに巻き込まれる可能性がきわめて高くなります。そのため、普段からCTGの判読に精通しておかなければならないことはいうまでもありませんが、産科スタッフにも異常の早期発見を徹底するよう注意を喚起する必要があると思います。産科・婦人科

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早産に対する分娩遅延効果が最も優れる子宮収縮抑制薬とは?

 早産への対処において、子宮収縮抑制薬としてのプロスタグランジン阻害薬とカルシウム拮抗薬は、他の薬剤に比べ分娩遅延効果が高く、新生児と母親の双方の予後を改善することが、米国・インディアナ大学医学部のDavid M Haas氏らの検討で示された。早産のリスクのある妊婦では、子宮収縮抑制薬を使用して分娩を遅らせることで、出生前に副腎皮質ステロイドの投与が可能となり、新生児の予後が改善される。子宮収縮抑制薬には多くの薬剤があり、標準的な1次治療薬は確立されていない。少数の薬剤を比較した試験は多いが、使用頻度の高い薬剤をすべて評価する包括的な研究は行われていないという。BMJ誌2012年10月20日号(オンライン版2012年10月9日号)掲載の報告。分娩の遅延に最も有効な薬剤をネットワーク・メタ解析で評価 研究グループは、分娩の遅延において最も有効な子宮収縮抑制薬を明らかにする目的で、系統的なレビューとネットワーク・メタ解析を実施した。 文献の検索には、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Medline、Medline In-Process、Embase、CINAHLを用いた。対象は、2012年2月17日までに発表された早産のリスクのある妊婦に対する子宮収縮抑制薬投与に関する無作為化対照比較試験の論文とした。 複数のレビュアーが、試験デザイン、患者背景、症例数、アウトカム(新生児、妊婦)のデータの抽出に当たった。ネットワーク・メタ解析にはランダム効果モデルを用い、薬剤のクラス効果(class effect)も考慮した。また、2度の感度分析を行って、バイアスのリスクの低い試験および早産リスクの高い女性(多胎妊娠や破水)を除外した試験に絞り込んだ。産科領域でネットワーク・メタ解析を用いた初めての試験 子宮収縮抑制薬の無作為化対照比較試験に関する95編の論文がレビューの対象となった。 プラセボとの比較において、分娩を48時間遅延させる効果が最も高かったのはプロスタグランジン阻害薬[オッズ比(OR):5.39、95%信頼区間(CI):2.14~12.34]であった。次いで、硫酸マグネシウム(同:2.76、1.58~4.94)、カルシウム拮抗薬(同:2.71、1.17~5.91)、β刺激薬(同:2.41、1.27~4.55)、オキシトシン受容体遮断薬であるアトシバン(同:2.02、1.10~3.80)の順だった。 新生児呼吸窮迫症候群の低減作用をプラセボと比較したところ、子宮収縮抑制薬の有効性に関してクラス効果は認めなかった。薬剤の変更を要する副作用の発現は、プラセボに比べβ刺激薬(OR:22.68、95%CI:7.51~73.67)が最も高頻度で、次いで硫酸マグネシウム(同:8.15、2.47~27.70)、カルシウム拮抗薬(3.80、1.02~16.92)の順であった。 子宮収縮抑制薬としてのプロスタグランジン阻害薬とカルシウム拮抗薬は、分娩48時間遅延効果、新生児呼吸窮迫症候群、新生児死亡率、妊婦に対する副作用(全原因)において、最も有効な上位3剤の中に位置づけられた。 著者は、「両薬剤は分娩遅延効果が最も高く、新生児と母親双方の予後を改善した」とまとめ、「われわれの知るかぎり、本研究は産科領域で最初のネットワーク・メタ解析を用いた試験であり、異質性が高い治療選択肢を使用した産科的介入にもこの方法論を適用可能なことが示された」と考察している。

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分娩第3期の積極的管理、臍帯牽引は省略できるか?

分娩第3期の積極的管理では、コントロール下の臍帯牽引を省略すると重度出血のリスクがわずかながら高まる可能性があることが、世界保健機構(WHO)のA Metin Gulmezoglu氏らの調査で示された。分娩第3期の積極的管理により分娩後の出血リスクが低減する。積極的管理に含まれるコントロール下の臍帯牽引は高度な技術を要するが、出血抑制への影響が大きくないことが証明されれば省略が可能となり、医療資源の有効活用などへの寄与が期待されるという。Lancet誌2012年5月5日号(オンライン版2012年3月6日号)掲載の報告。臍帯牽引省略の可能性を検証する非劣性試験研究グループは、分娩第3期の積極的管理において、重度出血のリスクを増やさずにコントロール下の臍帯牽引の省略が可能なことを検証するために、無作為化非劣性試験を行った。2009年6月1日~2010年10月30日までに、8ヵ国(アルゼンチン、エジプト、インド、ケニア、フィリピン、南アフリカ、タイ、ウガンダ)の16の病院と2つのプライマリ・ケア診療所から、単胎経膣分娩(すなわち計画的帝王切開ではない)が予定されている女性が登録された。これらの妊婦が、胎盤を自然に娩出する群(省略群)あるいは子宮収縮を確認後に臍帯を結紮し、即座にコントロール下に臍帯の牽引を行う群(臍帯牽引群)に無作為に割り付けられた。分娩直後に、全妊婦に出血の予防を目的にオキシトシン(10IU)を筋注し、各施設の規則に従って子宮マッサージが行われた。主要評価項目は分娩後の1,000mL以上の失血(重度出血)とし、95%信頼区間(CI)の上限値が1.30未満の場合に非劣性と定義した。95%CI上限値が非劣性境界値をわずかに超える省略群に1万2,227人が、臍帯牽引群には1万2,163人の妊婦が割り付けられた。緊急帝王切開となった妊婦を除き、省略群の1万1,861人および臍帯牽引群の1万1,820人が解析の対象となった。1,000mL以上の失血がみられた妊婦は、省略群が239人(2%)、臍帯牽引群は219人(2%)であり、リスク比は1.09(95%CI:0.91~1.31)であった。わずかだが、95%CI上限値が1.30を超えたため、非劣性は証明されなかった。臍帯牽引群で1人の妊婦に子宮内反症がみられた。ほかの有害事象はいずれも出血関連のものだった。著者は、「非劣性の仮説は検証されなかったが、コントロール下の臍帯牽引を省略しても重度出血のリスクへの影響はきわめて小さいことが示唆された」と結論し、「専門病院がない環境で出血予防プログラムを拡充するには、オキシトシンの使用に重点的に取り組む必要がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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分娩後出血は、ミソプロストールを追加しても改善しない

分娩後出血の治療において、標準的な子宮収縮薬注射に加えミソプロストール(商品名:サイトテック)600μgを舌下投与しても、失血は改善されないことが、WHO(スイス)リプロダクティブヘルス研究部門のMariana Widmer氏らが、アジア、アフリカ、南米諸国の参加のもとに実施した無作為化試験で示された。分娩後出血は世界的に妊婦の罹病および死亡の主原因である。ミソプロストールは子宮収縮作用を持つプロスタグランジンのアナログ製剤であり、経口投与が可能で安定性に優れ、安価であるため治療選択肢として有望視されているという。Lancet誌2010年5月22日号掲載の報告。5ヵ国の施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化試験研究グループは、分娩後出血の治療として、標準的子宮収縮薬単独とこれにミソプロストールを補助的に併用する方法の効果を評価する二重盲検無作為化試験を実施した。2005年7月~2008年8月までに、アルゼンチン、エジプト、南アフリカ、タイ、ベトナムの施設から、経膣分娩後に、臨床的に子宮弛緩による分娩後出血と診断された女性が登録され、ルーチンの子宮収縮薬注射とともにミソプロストール600μgを投与する群あるいはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。医師と患者には、治療の割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は無作為割り付け後60分以内の500mL以上の失血とし、intention-to-treat解析を行った。500mL失血率は両群とも14%、震え、発熱がミソプロストール群で高頻度に1,422人の女性が登録され、ミソプロストール群に705人が、プラセボ群には717人が割り付けられた。60分以内に500mL以上の失血がみられた女性の割合は、ミソプロストール群が14%(100/705人)、プラセボ群も14%(100/717人)であり、両群で同等であった(相対リスク:1.02、95%信頼区間:0.79~1.32)。身体の震えが、ミソプロストール群の65%(455/704人)にみられ、プラセボ群の32%(230/717人)に比し有意に高頻度であった(相対リスク:2.01、95%信頼区間:1.79~2.27)。38℃以上の発熱も、ミソプロストール群は43%(303/704人)と、プラセボ群の15%(107/717人)に比べ有意に多く認められた(同:2.88、同:2.37~2.50)。著者は、「本試験の知見により、分娩後出血の治療において標準的な子宮収縮薬注射の補助としてミソプロストール600μgを舌下投与する方法は支持されない」と結論し、「今後は、標準的な子宮収縮薬が使用できない状況におけるミソプロストールの有効性について研究を進めるべき」としている。(菅野守:医学ライター)

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27週未満の早産児、91%がNICUで受療、1年生存率7割:スウェーデン

過去5年間に生まれた周産期27週未満の早産児について調べたところ、生児出生の場合の生後1年後生存率が7割に上ることがわかった。そのうち45%は、主な新生児疾患が見られなかったという。これはスウェーデンLund大学のKarel Marsal氏らが行った研究、Extremely Preterm Infants in Sweden Study(EXPRESS)からの報告で、同試験は、2004~2007年に周産期27週未満に生まれた早産児1,000児超の、短期・長期アウトカムの評価を目的に行われた。今回の結果は、JAMA誌2009年6月3日号で発表された。早産児のうち91%が、NICUで受療同試験では、2004~2007年に、周産期22~26週で生まれた早産児、1,011児について追跡した。周産期27週未満の早産発生率は、3.3/1,000児だった。早産児のうち91%が、新生児集中治療室(NICU)で治療を受け、1年後の生存率は70%に上った(95%信頼区間:67~73)。死産は、追跡対象のうち304児だった。死産も含めた早産児全体の死亡率は、45%、死産はそのうち30%を占める。周産期別では、22週で生まれた場合の死亡率は93%だったが、26週では24%にとどまっていた。1年生存率は22週早産から23週早産で大幅増カプラン-マイヤー法による1年生存率の予測値は、周産期22週早産が9.8%(95%信頼区間:4~23)だったが、23週早産では53%(44~63)に上がり、24週で67%(59~75)、25週で82%(76~87)、26週では85%(81~90)だった。新生児死亡率の低下に関連していたのは、出生前の子宮収縮抑制治療(オッズ比:0.43)や、ステロイド治療(0.44)、出生後2時間以内のサーファクタント治療(0.47)、より設備の整ったレベル3の病院での出産(0.49)となっていた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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