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ナイアシンの取り過ぎは心臓に悪影響

 ナイアシンは必須ビタミンB群の一つだが、取り過ぎは心臓に良くないようだ。何百万人もの米国人が口にする多くの食品に含まれるナイアシンの過剰摂取が炎症を引き起こし、血管にダメージを与える可能性のあることが、米クリーブランド・クリニック、ラーナー研究所の心血管・代謝科学主任研究員であるStanley Hazen氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Nature Medicine」2月19日号に掲載された。 Hazen氏は、「ナイアシンの過剰摂取により心血管疾患の発症リスクが高まる可能性が示された以上、平均的な人はナイアシンのサプリメントの摂取を控えるべきだ」とNBCニュースに対して語った。 米メイヨークリニックによれば、ナイアシンの推奨摂取量は男性で1日16mg、妊娠していない女性では1日14mgである。米国では、穀物やシリアルにナイアシンが強化され始めた1940年代以来、その摂取量が増加している。Hazen氏によると、食品にナイアシンを強化する動きは、ナイアシンが不足するとペラグラと呼ばれる致命的な疾患を引き起こす可能性があることを示唆した研究を受けて助長されたと説明する。皮肉なことに、ナイアシンのサプリメントは、かつてはコレステロール値を改善するために医師によって処方されていた。 本研究には関与していない、米ヴァンダービルト大学医療センター循環器内科のAmanda Doran氏は、ナイアシンが心血管疾患リスクを高める可能性があることを知って驚いたと話す。同氏はNBCニュースに対し、「ナイアシンに炎症促進作用があると予想していた人はいないのではないかと思う」と語り、「この研究結果は、臨床データ、遺伝子データ、マウス実験を組み合わせて多角的に検討して導き出されたものであり、説得力がある」と述べている。 Hazen氏らはまず、心血管疾患の評価のために心臓病センターを訪れた患者1,162人(女性422人)の空腹時血漿のメタボロミクス解析を行った。その結果、ナイアシンの代謝産物である2PY(N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド)と4PY(N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド)の血中濃度が主要心血管イベント(MACE)の発生と関連していることが明らかになった。この結果は、米国人2,331人とヨーロッパ人832人から成る2つの検証コホートでも確認された。また、遺伝子変異体rs10496731は2PYおよび4PYレベルと有意に関連しており、さらに、この変異と血漿中の血管細胞接着分子(VCAM-1)である可溶性VCAM-1(sVCAM-1)レベルが関連することも示された。 マウスを用いた実験からは、生理学的レベルの4PYの投与によりVCAM-1の発現が促進されるとともに、血管内皮における白血球の付着が増加し、炎症が亢進していることが示唆された。このような変化は、2PYの投与では確認されなかった。 米マウントサイナイ・ヘルスシステム代謝・脂質部門でディレクターを務めるRobert Rosenson氏は、この結果は「魅力的」で「重要だ」とし、「食品業界がパンのような製品にナイアシンを大量に添加するのをやめることを期待している。これは、体に良いとされるものの取り過ぎが、かえって悪影響を及ぼすことの一例だ」とNBCニュースに語った。 Rosenson氏は、「この結果は、ナイアシンの食事からの摂取推奨量にも影響を与える可能性がある」との見方を示す。一方、前述のDoran氏は、「この結果は、血管の炎症を抑える新たな方法の開発につながる可能性もある」との見方を示し、「大きな可能性を秘めた、ワクワクするような結果だ」と話している。

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第207回 コーヒーの成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉消耗を防ぐ

コーヒーに豊富な成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉の減少や筋力の低下(サルコペニア)の治療効果を担いうることが示されました1-3)。サルコペニアは筋肉、筋力、歩く速度の病的な減少/低下を特徴とし、分子や細胞の老化病変の組み合わせと筋線維消耗が筋収縮を障害することで生じます。それら数ある病変の中でもミトコンドリア機能不全は顕著であり、ミトコンドリアの新生が減ることやミトコンドリア内での呼吸反応やATP生成が減ることなどが筋肉老化の特徴に寄与することが明らかになっています。サルコペニア患者の筋肉はそのようなミトコンドリア機能不全に加えて、補酵素の1つニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の減少を示すことがシンガポール、英国、ジャマイカの高齢者119人を調べた先立つ試験で示されています4)。NAD+は代謝に不可欠で、ビタミンB3の類いから作られます。新たな研究では筋肉のミトコンドリア機能不全やNAD+代謝異常と全身の変化の関連を目指してサルコペニア患者と健康な人の血清代謝物が比較されました。その結果、コーヒーなどの植物に存在し、ヒトの体内でもNAD+と同様にビタミンB3からいくらか作られるアルカロイドであるトリゴネリンがサルコペニア高齢者の血中には少ないことが判明しました。また、トリゴネリンの血清濃度がより高い人ほど筋肉がより多く、握力がより強く、より早く歩けました。サルコペニア患者とそうでない健康な人から採取した筋肉組織(筋管)にトリゴネリンを加えたところ、サルコペニアかどうかを問わずNAD+が増加しました。続いて個体レベルでの効果が検討され、線虫やマウスにトリゴネリンが与えられました。するとミトコンドリア活性が向上し、筋力が維持され、老化に伴う筋肉消耗を防ぐことができました。また、トリゴネリンで線虫はより長生きになり、老化マウスの筋肉は強度の収縮時の疲労が少なくて済むようになりました。今回の研究によるとトリゴネリンはサルコペニアやその他の老化病態に有効かもしれず、サルコペニアの予防や治療の効果を臨床試験で検討する価値があるようです3)。コーヒーでトリゴネリンは増やせる?コーヒーを飲んでトリゴネリンが増えるならコーヒー好きには朗報ですが、話はそう簡単ではないようです。今回の試験の一環で調べられた高齢者186人の血清トリゴネリン濃度はカフェインやビタミンB3摂取レベルと無関係でした。また、トリゴネリン血清濃度と握力の関連はカフェインやビタミンB3摂取の補正の影響を受けませんでした。試験の被験者がコーヒーをあまり飲まない中東地域(イラン)であったことがトリゴネリン血清濃度とカフェイン摂取の関連が認められなかったことの原因かもしれないと著者は言っています。トリゴネリンとコーヒーの関連はまだ検討の余地があるようですが、お隣の韓国での試験でコーヒーをよく飲む人にサルコペニアが少ないことが示されています5)。トリゴネリンの寄与のほどは定かではありませんが、コーヒーを1日3杯以上飲む人は1日1杯未満の人に比べてサルコペニアの有病率が60%ほど低いという結果が得られています。参考1)Membrez M, et al. Nat Metab. 2024 Mar 19. [Epub ahead of print] 2)Natural molecule found in coffee and human body increases NAD+ levels, improves muscle function during ageing / Eurekalert3)Substance in coffee may improve muscle health in older age / Universities of Southampton4)Migliavacca E, et al. Nat Metab. 2019;10:5808.5)Chung H, et al. Korean J Fam Med. 2017;38:141-147.

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診断のエントリーはパターン認識で捉える【国試のトリセツ】第31回

§2 診断推論診断のエントリーはパターン認識で捉えるQuestion〈109G53〉36歳の女性。全身倦怠感を主訴に来院した。半年前から全身倦怠感が出現し、改善しないため受診した。20歳代後半から過多月経がある。血液所見赤血球337万、Hb5.9g/dL、Ht18%、白血球6,400、血小板43万。血液生化学所見総蛋白6.8g/dL、アルブミン4.3g/dL、総ビリルビン0.5mg/dL、AST10IU/L、ALT6IU/L、LD144IU/L(基準176~353)、尿素窒素11mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL、Fe 9μg/dL。この患者にみられるのはどれか。(a)網赤血球増加(b)フェリチン低下(c)ビタミンB12増加(d)不飽和鉄結合能低下(e)エリスロポエチン低下

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朝食抜きや夕食後の間食、食行動の「数」が抑うつと関連

 抑うつにはさまざまな因子が関係するが、不健康な食行動が多いこともその一つと言えそうだ。朝食を抜く、夕食後に間食をするといった不健康な食行動について、その「数」に着目した研究が新たに行われた。その結果、これらの食行動の数が多い人ほど、抑うつのリスクが高かったという。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らによる研究結果であり、詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」に12月22日掲載された。 朝食を抜くことと抑うつリスクとの関連については、著者らの先行研究を含め、これまでにもいくつか報告されている。しかし例えば、夕食後の間食が朝食抜きに影響を及ぼす可能性などもあることから、食行動のそれぞれではなく、その積み重ねと抑うつとの関連を検討する方が現実に即している。ただ、この観点での研究はほとんど行われていなかった。そこで、これらの点を踏まえて今回、食行動の数による影響が詳細に検討された。 著者らは、栄養疫学調査に参加した製造業の従業員を対象とし、ベースライン時(2012年4月と2013年5月)と3年間の追跡期間後(2015年4月と2016年5月)に調査を実施した。抑うつ症状は自己評価尺度(CES-D)を用いて評価した。不健康な食行動は、朝食抜き、夕食後の間食、就寝前の夕食の3つについて、週に3回以上行っている行動の数を調査。その他、生活習慣や労働環境、栄養摂取の状態なども調査した。 解析対象者は19~68歳の914人(男性816人、女性98人)だった。不健康な食行動の数で分類すると、1つもない人は429人(平均43.0歳、男性87.4%)、1つの人は364人(同41.4歳、89.8%)、2~3つの人は121人(同39.6歳、94.2%)だった。不健康な食行動の数が多い人ほど、若年齢、男性・交代勤務・喫煙者の割合が高い、残業時間が長い、仕事・家事・通勤中の身体活動が多いという傾向があった。また、仕事のストレスが大きく、一人暮らしの傾向があり、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、マグネシウム、亜鉛の摂取量が少なかった。 3年間の追跡期間中、抑うつ症状(CES-D≧16)を発症したのは155人(17.0%)だった。対象者の背景因子や職業・生活習慣因子の違いによる影響を調整して解析した結果、不健康な食行動が2~3つの人は、1つもない人と比べて、抑うつのリスクが有意に高かった(調整オッズ比1.87、95%信頼区間1.10~3.21)。しかし、栄養因子による影響を加えて調整すると、抑うつリスクの差は有意ではなくなった(同1.67、0.96~2.90)。一方、重度の抑うつ症状(CES-D≧23)については、全ての因子を調整しても、不健康な食行動が2~3つの人の方がリスクは有意に高かった。 著者らは、これまでの研究との違いに関して、「抑うつの予防効果が示唆されている、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、n-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、亜鉛の摂取量」による影響を含めて検討したと説明している。その上で、「朝食抜き、夕食後の間食、就寝前の夕食という不健康な食行動の数が抑うつのリスク上昇と関連していた」と結論付け、「この関連は、気分を改善する効果のある栄養素の摂取量が少ないことにより、部分的に説明できるかもしれない」と述べている。

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フレイル、「やせが多い」「タンパク質摂取が重要」は誤解?

 人生100年時代といわれ、90歳を迎える人の割合は女性では約50%ともされている。そのなかで、老衰が死因の第3位となっており1)、老衰の予防が重要となっている。また、要介護状態への移行の原因の約80%はフレイルであり、フレイルの予防が注目されている。 そこで、2024年1月26日(腸内フローラの日)に、青森県りんご対策協議会が「いま注目の“健康・長寿”における食と腸内細菌の役割 腸内細菌叢におけるりんごの生体調節機能に関する研究報告」と題したイベントを開催した。そのなかで、内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)が「京丹後長寿研究から見えてきたフレイルの現状~食と腸内細菌の役割~」をテーマに、日本有数の長寿地域とされる京丹後市で実施している京丹後長寿コホート研究から得られた最新知見を紹介した。フレイルの4つのリスク因子、やせではなく肥満がリスク 内藤氏はフレイルのリスク因子は、大きく分けて4つあることを紹介した。1つ目は「代謝」で、糖尿病や高血圧症、がんの既往歴、肥満などが含まれる。実際に、京丹後市のフレイルの人にはやせている人はほとんどいないとのことである。2つ目は「睡眠」で、睡眠時間ではなく睡眠の質が重要とのことだ。3つ目は「運動」で、日常的な身体活動度の低さがリスク因子になっているという。4つ目は「環境」で、これには食事、薬剤、居住地などが含まれる。このなかで、内藤氏は運動と食事の重要性を強調した。高タンパク質食はフレイルの予防にならない!? 厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、65歳以上の高齢者のフレイルやサルコペニアの発症予防には、少なくとも1g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとしている2)。しかし、内藤氏はこれだけでは不十分であると指摘した。高齢者の高タンパク質食は、サルコペニアの発症予防にならないどころか発症のリスクとなっているという報告もあり3)、単純にタンパク質を多く摂取すればよいわけではないことを強調した。フレイル予防に有用な栄養素とは? 内藤氏は、京丹後長寿コホート研究でフレイルと非フレイルを比較した結果を報告した(未発表データ)。3大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)について検討した結果、フレイルの有無によって脂質や炭水化物の摂取量には差がなく、タンパク質についても植物性タンパク質がフレイル群でわずかに少ないのみであった。しかし、6大栄養素(3大栄養素+ミネラル、ビタミン、食物繊維)に範囲を広げて比較すると、フレイル群はカリウムやマグネシウム、ビタミンB群、食物繊維の摂取が少なかった。また、食物繊維を多く含む食品のなかで、その他野菜(非緑黄色野菜)や豆類の摂取がフレイル群で少なかったことも明らかになった。 京丹後長寿コホート研究では、食物繊維の摂取が腸内細菌叢にも影響することもわかってきた。食物繊維の摂取と酪酸産生菌として知られるEubacterium eligensの量に相関が認められたのである。Eubacterium eligensの誘導に重要な食物繊維はペクチンであり4)、内藤氏は「りんごにはペクチンが多く含まれており、フレイル群で不足していたカリウムやマグネシウムも多く含まれているので、フレイル予防に役立つのではないか」と述べた。 食物繊維について、現在の日本人の食事摂取基準2)では成人男性(18~64歳)は21g/日以上、15~64歳の女性は18g/日以上が摂取目標値とされている。しかし、最新の世界保健機関(WHO)の基準では、10歳以上の男女は天然由来の食物繊維を25g/日摂取することが推奨されているため5)、内藤氏は「日本が世界基準に遅れをとっていることを認識してほしい」と述べた。

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12月13日 ビタミンの日【今日は何の日?】

【12月13日 ビタミンの日】〔由来〕1910年の今日、鈴木梅太郎博士(農芸化学者)が、米糠から抽出した成分を「オリザニン」と命名し、東京化学会で発表した。このオリザニンは後に、ビタミンB1(チアミン)と同じ物質であることが判明し、「ビタミン」と呼ばれるようになったことを記念し「ビタミンの日」制定委員会が2000年に制定。関連コンテンツ点滴用複合ビタミン剤でアナフィラキシー【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】動脈硬化性疾患予防への有効性が期待されているビタミンは?【一目でわかる診療ビフォーアフター】ビタミンCってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンD、p53免疫反応性の消化管がんの再発/死亡を抑制ビタミンD不足で認知症リスク上昇~コホート研究

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2型糖尿病患者のメトホルミン服用中止は認知症リスクを高める?

 2型糖尿病患者が、長期的な使用が前提とされている血糖降下薬のメトホルミンの服用を早期に中止すると、加齢に伴い、思考力や記憶力に問題の生じるリスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。論文の上席著者である、米ボストン大学の疫学者Sarah Ackley氏は、「メトホルミンの服用を続けることが、認知症発症の予防や遅延につながることが分かった。これは大きな励みとなる結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に10月25日掲載された。 Ackley氏によると、メトホルミンには幅広い効能があるため、通常、糖尿病治療の第一選択肢とされており、特定の理由がない限り服用を継続することが推奨されている。メトホルミンの服用により腎障害などの副作用が生じた患者や、薬に頼らない血糖コントロールを希望する患者では、メトホルミンの服用が中止されることがある。 今回の研究では、米カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのサービス利用者から抽出した2型糖尿病患者4万1,346人を対象に、腎障害を理由としないメトホルミンの服用中止と認知症の発症との関連が検討された。対象者はいずれも1955年以前の出生で、メトホルミンの服用開始時に腎臓病の診断歴はなかった。認知症発症については、電子健康記録が導入された1996年から2020年まで追跡された。対象者のうち、1万2,220人(メトホルミン服用開始時の平均年齢59.4歳、女性46.2%)はメトホルミンの服用を途中で中止し(服用中止群)、残りの2万9,126人(同61.1歳、46.6%)は服用を継続していた(服用継続群)。 解析の結果、服用中止群では服用継続群に比べて認知症の発症リスクが21%高いことが明らかになった(ハザード比1.21、95%信頼区間1.12〜1.30)。媒介分析で、この関連性にHbA1c値やインスリン使用の変化が及ぼす影響を検討したところ、有意な影響は確認されなかった。 メトホルミンの服用中止後の血糖値の上昇やインスリンの使用増加が認知症の発症に影響を及ぼさない可能性が示された点について、論文の筆頭著者である米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の疫学者Scott Zimmerman氏は、「メトホルミンの血糖降下作用以外の他の作用が、認知症の発症予防に関与している可能性が高い。この洞察は、今後の研究において、効果的な介入策や予防策を特定する際に役立つだろう」と述べている。 Zimmerman氏は、メトホルミンを服用中だがその中止を考えている人は、まずは主治医に相談するべきだと助言する。同氏は、「患者ごとに、認知症の発症リスクやメトホルミンの副作用の程度、患者の希望などの多くの要素を考慮してバランスを取る必要がある。糖尿病合併症の予防だけでなく、メトホルミンの利点も、検討材料の一つだ」と説明している。 米アルツハイマー病創薬財団の加齢・アルツハイマー病予防部長を務めているYuko Hara氏は、「この結果は、メトホルミンが認知症の発症リスクを低下させることを示唆する既存の研究報告と一致している」と話す。同氏は、「2型糖尿病とアルツハイマー病には、脳へのグルコース取り込み障害など共通の特徴がいくつかある。加えて、両疾患ともインスリン抵抗性と高レベルの酸化ストレスに関連している。したがって、2型糖尿病患者は、メトホルミンやその他の糖尿病治療薬で血糖値をコントロールし、生活習慣を是正することで、認知症の発症リスクを低減させられる可能性がある」と話している。 一方、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校糖尿病ケアセンター所長のJohn Buse氏は、「メトホルミンの服用を中止することで認知症の発症リスクが高まると結論付けるには時期尚早だ」との見方を示す。同氏は、メトホルミンが、記憶力や思考力の低下をもたらすビタミンB12の濃度低下を招いている可能性など、今回の結果をもたらした要因が他にもある可能性を指摘。「この研究結果は、掘り下げて検討する価値はあるものの、メトホルミンの服用中止が悪い考えであることを明示するものでないことは確かだ。メトホルミンが現存する薬物の中で最も有効で安全な薬物であることは明らかであり、腎臓の問題などメトホルミンの服用を中止すべき正当な理由がないのであれば、使用を継続すべきだ」と強調している。

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ざ瘡に期待できる栄養補助食品は?

 ざ瘡(にきび)治療の補助としてビタミン剤やそのほかの栄養補助食品に関心を示す患者は多い。しかし、それらの有効性や安全性は明らかではなく、推奨する十分な根拠は乏しい。そこで、米国・Brigham and Women's HospitalのAli Shields氏らの研究グループは、ざ瘡治療における栄養補助食品のエビデンスを評価することを目的にシステマティックレビューを行った。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年10月25日号の報告。 研究グループは、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Scienceの各データベースを開設から2023年1月30日まで検索した。ざ瘡患者を対象に栄養補助食品(ビタミンやミネラル、植物抽出物、プレバイオティクス、プロバイオティクスなど)の摂取を評価した無作為化比較試験を解析し、臨床医が報告したアウトカム(全体評価や病変数など)、患者が報告したアウトカム(QOLなど)、有害事象を抽出した。バイアスリスクはCochrane risk of bias toolを用いて、研究の質をGood、Fair、Poorに分類した。 主な結果は以下のとおり。・42件の研究(3,346例)が組み入れ基準を満たした。・GoodまたはFairの分類の研究で栄養補助食品の有用性が示唆されたのは、ビタミンB5およびD、緑茶、プロバイオティクス、オメガ3脂肪酸であった。・これらの有用性評価に最も関連していたのは、病変数の減少または臨床医による全体評価スコアであった。・栄養補助食品の摂取による有害事象の発現はまれであったが、亜鉛摂取による消化管障害が報告された。 これらの結果より、研究グループは「このシステマティックレビューは、ざ瘡治療における栄養補助食品の可能性を示している。医師は、患者に栄養補助食品のエビデンスを提示する準備をしておくべきである」としたうえで、「多くの研究は小規模であり、今後の研究ではより大規模な無作為化比較試験に焦点を当てるべきである」とまとめた。

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点滴用複合ビタミン剤でアナフィラキシー【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第243回

【第243回】点滴用複合ビタミン剤でアナフィラキシーphoto-ACより使用長らく医師をしていると、いろいろな製剤によるアナフィラキシーを見聞きしたことがあるかと思います。私は大阪府に住んでいるので、お好み焼き粉の中のダニによるアナフィラキシーの話をよく耳にします。さて、わりと安全と思われるものであっても、アナフィラキシーは必ず報告されています。今回は、点滴用複合ビタミン剤です。熊谷 淳, 他.点滴用複合ビタミン剤中のビタミンB1誘導体によるアナフィラキシーの1例.アレルギー. 2023;72(5): 479-484.下部消化管感染症に対して、抗菌薬の点滴に加えて点滴用複合ビタミン剤を投与したところ、アナフィラキシーを発症したというものです。抗菌薬のアレルギーであればわかるのですが、点滴用複合ビタミン剤1%皮内テストが陽性となり、成分別検査ではビタミンB1誘導体のリン酸チアミンジスルフィドのプリックテストが陽性となりました。これによって、点滴用複合ビタミン剤中のリン酸チアミンジスルフィドによるアナフィラキシーということが診断されました。この症例ではフルスルチアミン塩酸塩で陽性を示し、交差反応の可能性が想定されました。いやー、これ結構怖いですよね。まさかビタミンが原因なんて、現場で予想できないかもしれません。ビタミンB1誘導体は、ビタミンB1の構造の一部分を変化させた化合物です。より吸収されやすく、組織移行性が高いとされています。極めてまれではありますが、どのような製剤でもアナフィラキシーの可能性を考えておく必要がありますね。あともうひとつ重要なポイントとして、ビタミンB1欠乏症の状況で急速に大量のビタミンB1を静注すると、クエン酸回路を経由してATPが産生されるカスケードが進みます。このATPによって喉頭に喘鳴を来し、あたかもアナフィラキシーに見えることがあります1)。これを「ビタミンB1ショック」といいます。1)川崎 武, 他. ビタミンB1ショックの1例. 日本内科学会雑誌. 1962;51(3):54-60.

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シンデレラ体重の若年日本人女性の栄養不良の実態が明らかに

 国内で増加している低体重若年女性の栄養状態を、詳細に検討した結果が報告された。栄養不良リスクの高さや、朝食欠食の多さ、食事の多様性スコア低下などの実態が明らかにされている。藤田医科大学医学部臨床栄養学講座の飯塚勝美氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月7日掲載された。 日本人若年女性に低体重者が多いことが、近年しばしば指摘される。「国民健康・栄養調査」からは、20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高い。BMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする、この傾向に拍車をかけるような主張もソーシャルメディアなどで見られる。実際には、女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性も指摘されている。とはいえ、肥満が健康に及ぼす影響は多くの研究がなされているのに比べて、低体重による健康リスクに関するデータは不足している。 飯塚氏らの研究は、2022年8~9月に同大学職員を対象に行われた職場健診受診者のうち、年齢が20~39歳の2,100人(女性69.4%)のデータを用いた横断研究として実施された。まず、低体重(BMI18.5未満)の割合を性別に見ると、男性の4.5%に比べて女性は16.8%と高く、さらに極端な低体重(BMI17.5未満)の割合は同順に1.4%、5.9%だった。 次に、女性のみ(1,457人、平均年齢28.25±4.90歳)を低体重(BMI18.5未満)245人、普通体重(同18.5~25.0未満)1,096人、肥満(25.0以上)116人の3群に分類して比較すると、低体重群は他の2群より有意に若年で、握力が弱かった。栄養状態のマーカーである総コレステロールは同順に、177.8±25.2、184.1±29.2、194.7±31.2mg/dL、リンパ球は1,883±503、1,981±524、2,148±765/μLであり、いずれも低体重群は他の2群より有意に低値だった。一方、HbA1cは肥満群で高値だったものの、低体重群と普通体重群は有意差がなかった。 続いて、極端な低体重のため二次健診を受診した女性56人を対象として、より詳細な分析を施行。この集団は平均年齢32.41±10.63歳、BMI17.02±0.69であり、総コレステロール180mg/dL未満が57.1%、リンパ球1,600/μL未満が42.9%、アルブミン4mg/dL未満が5.3%を占めていた。その一方で39%の人がHbA1c5.6%以上であり、糖代謝異常を有していた。なお、バセドウ病と新規診断された患者が4人含まれていた。 20~39歳の44人と40歳以上の12人に二分すると、BMIや握力、コレステロールは有意差がなかったが、リンパ球数は1,908±486、1,382±419/μLの順で、後者が有意に低かった。また、アルブミン、コレステロール、リンパ球を基にCONUTという栄養不良のスクリーニング指標のスコアを計算すると、軽度の栄養不良に該当するスコア2~3の割合が、前者は25.0%、後者は58.3%で、後者で有意に多かった。 極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く(同順に82.1%、96.4%)、一方でコレステロールの摂取量は277.7±95.9mgと比較的高値だった。また、28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は、朝食を食べている人の4.18±0.83に比べて朝食欠食者は2.44±1.87と有意に低いことが明らかになった。 極端な低体重者は微量栄養素が不足している実態も明らかになった。例えば鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満の割合が、いずれも96.4%を占めていた。血液検査からはビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在していることが分かった。さらに、40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された。 これらの結果に基づき著者らは、「日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる」と総括している。

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PPIと認知症リスクの新たな試験、4.4年超の使用で影響か

 長年にわたってプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方されている高齢者では、認知症を発症するリスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で示された。米ミネソタ大学公衆衛生学部教授で血管神経学者のKamakshi Lakshminarayan氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に8月9日掲載された。 この研究は、PPIの長期使用に伴う潜在的な危険性を明らかにした研究の中で最新のものだ。PPIは医師によって処方される医療用医薬品のほか、一般用医薬品(OTC医薬品)としても販売されている。PPIは慢性的に胃酸が食道に逆流し、胸やけの症状などをもたらす胃食道逆流症(GERD)に対して処方されてきた。しかし近年、PPIの長期使用が心筋梗塞や腎臓病、早期死亡などさまざまな健康リスクに関連することを示した研究結果が相次いで報告されている。2016年には認知症もこのリスクに含まれることを示唆する研究が発表されて話題となった。 問題はこれらの健康リスクの原因がPPIであることを証明した研究は一つもないという点だ。今回の研究には関与していない、米スクリプス・ヘルスの消化器専門医で米国消化器病学会(AGA)のスポークスパーソンでもあるFouad Moawad氏は、「過去の研究では、PPIと認知症との関連を否定する結果もあれば、PPIによる認知症リスクの低下を示す報告もあり、一貫していない。このことは患者と処方する側の双方に混乱を招いている」と指摘する。 Lakshminarayan氏らは今回、数千人の米国人の心臓の健康状態を追跡調査することを目的とした米政府による長期研究(ARIC研究)のデータを用いて、2011~2013年の調査時に認知症がなかった5,712人の参加者(平均年齢75.4±5.1歳、女性58%)を対象に解析を行った。なお、当時PPIを使用していた参加者の割合は4人に1人程度(25.4%)だった。 5.5年間(中央値)の追跡期間中に、585人が新たに認知症を発症していた。年齢や糖尿病、高血圧の有無などを調整して解析した結果、累積で4.4年を超えてPPIを使用していた長期使用者では、PPIを一度も使用したことがない人と比べて認知症を発症するリスクが33%有意に高いことが示された。これに対して、短期使用者(1日〜2.8年)や中期間の使用者(2.8年超〜4.4年)では、有意なリスク増加は認められなかった。ただし、この研究では、OTC医薬品のPPI使用者は解析対象から除外されていた点に注意が必要である。 Moawad氏は、過去のほとんどの研究と同様、今回の研究も観察研究であり、研究参加者を追跡してPPIの使用と認知症の新規発症との関連を調べたものであることを指摘。「PPIを長期間使用している高齢者と、そうでない高齢者の間にはさまざまな差異がある可能性があり、それらを全て考慮に入れるのは難しい」との見方を示している。Lakshminarayan氏も「研究では、因果関係ではなく関連が認められたに過ぎない」と説明。また、4.4年超という長期間のPPIの使用と認知症リスクの上昇との間に関連が認められだけであることも強調している。 実際にPPIの長期使用が認知症の発症を促すとしても、その機序は不明だ。機序に関しては、これまで、さまざまな説が提唱されている。そのうちの一つの説では、PPIはビタミンB12欠乏をもたらすことがあり、それが認知症の症状の要因となっている可能性が指摘されている。また、マウスの研究からは、PPIが脳内のアミロイドプラークの蓄積量を増加させることも示されている。しかし、これらは全て推測の域を出ていない。 最近、「Gastroenterology」に発表された約1万9,000人の高齢者を対象とした研究では、PPIの使用と認知症や認知機能の低下に関連は認められなかったとの結果が示されている。同研究を報告した米マサチューセッツ総合病院の消化器専門医のAndrew Chan氏は、Lakshminarayan氏らの研究で示されたPPIに関連する認知症リスクの上昇は「統計学的には五分五分である」と指摘し、結果を慎重に解釈する必要があると注意を促している。

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生理痛の強さと生活習慣との関連が明らかに

 朝食を欠かさずビタミンDやB12が不足しないようにすること、毎日入浴することなどが、月経痛(生理痛)の痛みを和らげてくれるかもしれない。月経痛の重い人と軽い人の生活習慣を比較したところ、それらの有意差が認められたという。順天堂大学の奈良岡佑南氏らの研究結果であり、詳細は「Healthcare」に4月30日掲載された。 日本人女性の月経痛の有病率は78.5%という報告があり、生殖年齢にある多くの女性が周期的に生じる何らかの症状に悩まされていると考えられる。月経痛は本人の生活の質(QOL)低下を来すだけでなく、近年ではそれによる労働生産性の低下も含めた経済的負担が、国内で年間6830億円に上ると試算されるなど、社会的な対策の必要性も指摘されるようになった。 これまでに、ビタミンやミネラルなどの摂取量、または食事や運動・睡眠習慣などと月経痛の強さとの関連を個別に検討した研究結果が、いくつか報告されてきている。ただし、研究対象が学生に限られている、または一部の栄養素や食品の摂取量との関連のみを調査しているといった点で、結果の一般化に限界があった。これを背景として奈良岡氏らは、就労年齢の日本人女性を対象として、摂取栄養素・食品、朝食欠食の有無、睡眠・運動・入浴習慣など、多くの生活習慣関連因子と月経痛の強さとの関連を検討する横断研究を行った。 研究参加者は、2018年5~6月に、一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)のオンラインプラットフォームを通じて募集された511人から、年齢40歳以上、妊娠中・授乳中、何らかの疾患治療中、経口避妊薬使用、摂食障害、データ欠落などの該当者を除外し、20~39歳の健康な女性321人(平均年齢30.53±4.69歳、BMI20.67±2.62、体脂肪率27.02±5.29%)を解析対象とした。 調査項目は、月経周期や月経痛の程度、自記式の食事調査票、および、就労状況、飲酒・喫煙・運動・睡眠習慣などに関する質問で構成されていた。そのほかに、身長、体重、体組成を評価した。なお、月経痛の強さは、「寝込むほどの痛み」、「薬を服用せずにいられない」、「痛むものの生活に支障はない」、「痛みはほとんどない」の四者択一で回答してもらい、前二者を月経痛が「重い」、後二者を「軽い」と判定した。 解析対象者のうち、76.19%が月経痛を経験しており、痛みが重いと判定された人が101人、軽いと判定された人が220人だった。この2群を比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量は有意差がなかった。ただし、総タンパク質、動物性タンパク質、ビタミンD、ビタミンB12、魚の摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に少なかった。反対に、砂糖、ラーメン、アイスクリームの摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に多かった。また、朝食を欠かさない割合は、月経痛が軽い群73.6%、重い群64.4%で、後者が有意に低値だった。 栄養・食事以外の生活習慣に着目すると、毎日入浴する割合が、前記と同順に40.5%、26.7%で有意差があり、月経痛が重い人は入浴頻度が少なくシャワーで済ます人が多かった。睡眠時間や1日30分以上の運動習慣のある人の割合については有意差がなかった。 これらの結果について著者らは、以下のような考察を述べている。まず、糖質の摂取量の多さが月経痛の強さと関連していることは、先行研究と同様の結果だとしている。その一方で、欧州からは肉類の摂取量の多さは月経痛の強さと関連していると報告されており、今回の研究では異なる結果となった。この点については、日本人の肉類の摂取量が欧州に比べて少ないことが、相違の一因ではないかとしている。 このほか、ビタミンDは子宮内膜でのプロスタグランジン産生抑制、ビタミンB12はシクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用が報告されており、炎症抑制と疼痛緩和につながる可能性があり、魚はビタミンDとビタミンB12の良い供給源であるという。また、朝食摂取や入浴は体温を高め、血行改善や子宮収縮を抑制するように働いて月経痛を緩和する可能性があるが、本研究では体温を測定していないことから、今後の検証が必要と述べている。 論文の結論は、「日々の食事で魚、タンパク質、ビタミンB12、ビタミンDを十分に摂取し、朝食や入浴などによって体温を上げるような生活習慣とすることが、月経痛の緩和に効果的である可能性が考えられる」とまとめられている。

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アスリートの睡眠習慣は食事に左右される?

 早寝早起きの生活にしたいのなら、食べ物をアレンジしてみると良いかもしれない。新たに報告された研究によると、何を食べるかによって、睡眠パターンが異なる可能性があるという。米ウエストバージニア大学のLauren Rentz氏らが、大学生アスリートを対象に行った小規模な研究の結果であり、米国生理学会(APS2023、4月20~23日、米国・ロングビーチ)で発表された。 Rentz氏によると、「アスリートの成功にとって、試合時に自分のパフォーマンスを最大化して発揮することだけでなく、試合やトレーニングの後の迅速な回復も重要。良い睡眠習慣が日々の身体的・精神的ストレスからの回復を促し、将来のパフォーマンスに好影響を与える」とのことだ。ただし、「常に強いストレスにさらされているアスリートの回復戦略における、睡眠と栄養素摂取の関係はまだほとんど知られていない」と、同氏は研究の背景を語っている。 この研究の対象は、サッカーを行っている大学生女子アスリート23人。サッカーシーズン中の31晩連続で、ウェアラブルデバイスによって睡眠パターンを記録。また最後の3日間は、食事摂取状況も調査された。 収集されたデータを解析した結果、大半のアスリートは、平均すると毎日7〜8時間の睡眠を取っていて、多くのビタミンの摂取推奨量を満たしていた。ただし、全ての栄養素の摂取量が推奨値を満たしていたわけではなく、ほぼ全員が炭水化物とビタミンDが不足しており、約半数のアスリートはタンパク質とビタミンA、Kも不足していた。 栄養素摂取量と睡眠習慣との関連を検討すると、入眠や起床の時刻と一部の栄養素の摂取量との間に関連が認められた。具体的には、炭水化物とビタミンB12およびCを多く摂取しているアスリートは、より早く入眠し、より早く起床する傾向があった。一方、睡眠時間の多寡と栄養素摂取量との関連は認められなかった。 Rentz氏は、「炭水化物やビタミンB12、Cなどの栄養素は、睡眠にとって重要なセロトニンやメラトニンなどの合成を増加させる可能性がある」と述べている。また、「ウェアラブルデバイスはアスリートの間で非常に一般的な存在になっている。われわれの研究は、ウェアラブルデバイスがストレスによる体の反応を把握するのに適しており、アスリート自身による健康管理に有用であることを示している」としている。 ただし同氏は、「今回の研究で示された結果は、因果関係の証明ではない」と拙速な解釈に注意を促し、「研究の次のステップは、より大きなサンプル数で評価すること」と述べている。将来的には、栄養素の摂取量をアレンジすることで睡眠習慣を変えることが、アスリートの成功を左右するかを調査することも視野に入れているという。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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紹介先への情報欠落を防ぐ―安全な医療のために【紹介状の傾向と対策】第4回

<あるある傾向>患者を紹介されたとき、重要情報の欠落がある<対策>プロブレムや既往歴の取捨選択はご用心!紹介先が誰であれ、持っている情報は漏れなく伝える多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながります。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。以下は筆者自身が紹介状の記載において留意していることを箇条書きにしたものです。今回は(3)の「プロブレムと既往歴は漏れなく記載」についてお話ししましょう。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ他院に患者さんを紹介する場合も、院内で他科コンサルテーションする際も同様ですが、筆者はプロブレムや既往歴を漏れなく記載することが非常に大切だと考えています。これは、紹介(依頼)する側が把握・認識しているプロブレムを漏れなく伝えることが、紹介先(依頼先)の把握漏れを回避する上で重要だと考えるからです。この際に留意しているのは、“書き手自身の判断でプロブレムとして記載する内容を取捨選択しないこと”です。これは、依頼内容とは関係ないだろうと思った情報が、依頼された側の医師にとって、重要な情報だったことを何度も経験してきたからです。たとえば、緑内障の持病のある高齢者が、肺炎で内科に入院したときを想像してください。ご存じの通り、緑内障は使用できない薬剤が多い疾患の1つです。そんな患者さんが過活動膀胱症状のため内科の担当医が泌尿器科に紹介したとします。紹介された泌尿器科医が緑内障の有無を知らなければ(本来は処方前に泌尿器科医自身が患者さんに確認する必要がありますが)、緑内障に禁忌である薬剤を処方してしまうことが起きうると考えます。依頼側の医師がプロブレムや既往情報として把握している情報をきちんと記載し伝えることは、情報欠落によるトラブルを回避するために重要です。筆者が情報欠落を回避すべく心掛けているのは、日頃からカルテにプロブレムリストを作成することです。他科への受診歴があれば、その情報も確認し、プロブレムリストを作成しています。入院早期のうちに、一旦、しっかりとプロブレムリストやショートサマリーを作成するようにしています。大切なのは、既往疾患や手術歴も1つのプロブレムとして捉えることです。疾患は少なからず過去の既往歴や手術歴と関連があることが多々あります。たとえば胃の部分切除1つを挙げても、手術歴の情報は、謎の貧血データを見た時、それが過去の胃切除に由来するビタミンB12欠乏性貧血の可能性を示唆してくれます。患者が同一の医療機関内を受診しているのであれば、カルテ内を探すことで過去の情報を見つけることも可能です。しかし、患者が異なる医療機関に転院する場合は、それができません。転院の際に情報が引き継がれなければ、転院先も情報不足で困るかもしれません。とくに受け入れる側は、急性期医療機関からの詳細な情報を必要としています。急性期医療機関から回復期リハビリ病院、あるいは療養型病院、かかりつけ医へと、患者の移動に伴い情報も欠落せずにしっかり付いてくることが、その患者にきちんとした医療を提供する上で、とても重要だと考えています。今、患者の医療データは個々の病院の電子カルテに記載されていますが、これではどうしても医療機関ごとに患者情報や検査データが分散することになり、筆者は非常に効率が悪いと考えています。できることなら、患者自身が自らのカルテを保有し、各医療機関がそこにアクセスし、情報や検査結果を追記していくような形が取れれば、患者情報が一元管理できるのではないか…とも考えてしまいます。

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短腸症候群〔SBS:Short bowel syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義先天性あるいは後天性のさまざまな病因により小腸が大量に切除され、栄養素・水分・電解質などの吸収が困難となる病態を総称して「短腸症候群」(SBS)という。75%以上の小腸が切除されると重度の消化吸収障害を呈することから、一般的には残存小腸長が、成人では150cm以下、小児では75cm以下の状態を指す。一方、わが国の小腸機能障害の障害者認定では、1級は小児30cm未満・成人75cm未満で必要栄養量の60%以上を常時中心静脈栄養にたよるもの、3級は小児30~75cm未満・成人75~150cm未満で30%以上を常時中心静脈栄養に頼るもの、4級は通常の経口からの栄養摂取では栄養維持が困難なために随時中心静脈栄養法または経腸栄養法が必要なものと定義されている。遺残腸管の部位や状態などのさまざまな要因により症状や病態が大きく異なるため、学問上は明確な定義はないのが現状である。■ 疫学発症率についてヨーロッパでは100万人当たり0.4~40人、米国では100万人当たり30人と国により大きな隔たりがみられる。これはすでに述べた通り明確な疾患定義がないことに起因するものと考える。わが国での平成28年の厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部の報告では、小腸機能障害の障害者手帳の所持者数は約2,000人である。この中には炎症性腸疾患や吸収不良症候群などの機能性障害も含まれるが、実際には手帳の交付条件を満たさない短腸症例も多くみられるため、明確な実数は不明である。■ 病因病因は多彩であり、多い順に先天性の要因としては多発小腸閉鎖、腸回転異常症・中腸軸捻転症、壊死性腸炎などによるものがあり、その多くは小児期に発症する。一方、成人にみられる後天性のものとしては腸間膜動脈血栓症、クローン病、放射線腸炎、手術合併症、慢性特発性偽性腸閉塞症などがある。■ 症状SBS発症後の症状としては、消化吸収障害に起因する、下痢、腹痛や電解質を含む栄養障害(低カリウム・低マグネシウム血症に伴う筋力低下・不整脈など、必須脂肪酸欠乏に伴う皮膚炎・脱毛などが主たるものである。特に回腸を大量切除している症例では、ビタミンB12欠乏に伴う貧血、亜鉛欠乏に伴う味覚異常や皮膚炎など、そして腸管循環が傷害されたことによる胆汁鬱滞型肝機能障害や顕著な脂肪吸収障害もみられるようになる。一方、臨床上はSBSの固有の症状ではないが、身体的および心理社会的負担から生じる慢性疲労や無力感から生じる余暇活動・社会生活・家族生活・性生活の制限なども問題となる。■ 分類遺残腸管の状態に応じて、(1)末端空腸瘻型(typeI):口側の遺残空腸の断端に腸瘻が増設されている病態、(2)空腸結腸吻合術後(typeII):回腸の全域が切除された後に遺残腸管が吻合されている病態、(3)空腸回腸吻合術後(typeIII)の3つの型に大別される。■ 予後中心静脈栄養(PN)管理からの離脱の有無が予後に大きく関わる。長期にPN管理が必要とされる場合には、カテーテル関連血流感染症や腸管不全関連肝障害(IFALD)などの合併症の発症により、死亡率は約30~50%と非常に高い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は上記の概念・定義の通り。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 栄養療法腸管大量切除後の腸管馴化は、腸切除後24時間以内に始まり、成人では12~18ヵ月間、小児では5歳前後まで継続する。そのため、非常に長期間にわたり多職種が協力して集学的な腸管リハビリテーション(栄養療法)を継続することが肝要となる。この間、残存小腸に負荷される栄養素量が過負荷とならないよう(1)単位時間当たりの投与量および、(2)線維・脂質投与量の制限、(3)吸収能力の低下している栄養素の投与方法の工夫など、遺残腸管の安定化を図り、腸管馴化を促すことで治療がスムーズに進むよう調整することが重要となる。■ 手術小腸移植以外の外科的治療は、吸収面積を増やすと同時に腸内容物の停滞を減らし、腸内細菌の異常増殖を予防するために行われてきた。小腸を延長する外科的処置として2つの方法が考案されている。1)Longitudinal intestinal lengthening and tailoring(LILT)法これは、1990年にBianchiらにより報告された方法である。小腸の拡張部分を長軸方向に2つに切開してそれぞれを管腔状に縫合後、これらを吻合し腸管を延長する方法である。2)Serial transverse enteroplasty(STEP)法2003年にKimらにより報告された方法である。拡張腸管を短軸方向に斜めに、内腔を保つようにジグザグに切開縫合を加え、腸管径を細くすると同時に延長する方法である。現在これらの消化管再建手術は、主に小児期に行われることが多い。一方、重症のIFALDの発症や中心静脈へのアクセス血管が喪失した場合には、小腸移植が適応される。2018年よりわが国でも保険適応となったが、長期成績をみると生存率は1年89%、5年70%、10年53%であり、グラフト生着率は1年84%、5年59%、10年41%とまだ満足できる結果には至っていない。多職種からなる腸管不全対策チームによる腸管リハビリテーションによる予後は70~85%と高いことが報告されていることから、現段階では小腸移植は最終的な救命手段として行われる治療と考える。■ 薬物療法腸管を大量に切除すると、腸管内分泌ホルモンの1つであり、腸管上皮増殖能を有するGLP-2(グルカゴン様増殖因子)の分泌も低下する。その補充療法として、GLP-2アナログ製剤であるテデュグルチド(商品名:レベスティブ)が2021年にわが国でも医薬品として承認され、SBS患者への治療的介入が始まった。短~中期の成績では、中心静脈栄養依存率の低下や下痢症状の改善などの有用性が報告されているが、長期成績がいまだ明確になっておらず、今後の検討課題である。4 今後の展望現在、遺残腸管の自己再生を促すべくさまざまな研究が開始されている。LILT手術の応用で一部の腸管をコラーゲンシートで代用して腸管延長率を上げる方法、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)から新たに腸管を培養生成する腸オルガノイド培養技術など再生医療技術はめざましく発展してきている。加えて、2019年には腸管の恒常性維持を司る幹細胞を復活させて腸上皮再生を促進する独特の幹細胞(腸復活幹細胞[revival stem cell:revSC])が発見され、その臨床応用が期待されている。ただし、これらの新たな試みが実臨床に応用されるまでには、まだ長い時間が必要である。現状としては、今臨床ですでに利用されている治療法を先に見通しながら、どの時期にどのように組み合わせて利用すべきかの検討を行うことが、SBSの治療を有利に進めていくことにつながるものと考える。5 主たる診療科小児外科、小児科、消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報SBS Life(短腸症候群に関する基礎から治療までを網羅した情報や短腸症候群患者の生活をサポートするための情報)小児慢性特定疾病情報センター 短腸症(小児の本疾病に対する助成などの情報)患者会情報短腸症候群の会(患者とその家族および支援者の会)1)Jeppesen PB, et al. Gastroenterology. 2012;143:1473-1481.2)Klek S, et al. ClinNutr. 2016;35:1209-1218.3)Kocoshis SA, et al. JPEN. 2020;44:621-631.4)Chen MK, et al. J Surg Res. 2001;99:352-358.5)Workman MJ, et al. NatMed. 2017;23:49-59.6)Ayyaz A, et al. Nature. 2019;569:121-125.公開履歴初回2023年1月26日

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心不全の補完代替療法についてAHAがステートメントを発表

 米国心臓協会(AHA)は、心不全の補完代替療法に関する科学的ステートメントをまとめ、「Circulation」に12月8日掲載した。魚油サプリメント、各種ビタミン、コエンザイムQ10、ヨガ、太極拳などについて、現時点のエビデンスを総括した上で、推奨や注意事項などを述べている。 米国の20歳以上の心不全患者数は約600万人であり、その3割程度が補完代替療法を利用していると推測されている。ステートメントの筆頭著者である米ウエスタン健康科学大学のSheryl Chow氏は、「補完代替療法に用いられている製品は、米食品医薬品局(FDA)の規制をほとんど受けないため、メーカーは有効性や安全性を実証する必要がない。医療専門職者と消費者の双方が、メリットの可能性と潜在的なリスクについて学び、最新の情報を共有した上で意思決定することが重要だ」と述べている。また消費者に対して、「多くの人が、それらの商品がFDAの規制対象外の製品であることを知らずに利用している。同じ成分名で販売されていたとしても、含有量や純度は製品によって大きく異なることもある。よって使用に際しては、まず医療チームに相談すべき」と助言している。 AHAのステートメントによると、心不全患者にメリットをもたらす可能性があるとされる補完代替療法の中で、最もエビデンスが強固なのは魚油(オメガ3脂肪酸)であり、医師との相談の上で適量を摂取することは安全だという。オメガ3脂肪酸サプリの有用性を示唆する、小規模な無作為化プラセボ対象試験の報告もあるとのことだ。ただし、高用量を摂取した場合に不整脈のリスクが上昇する可能性があるため、1日の総摂取量は4g未満とするとされている。 一方、心不全の一因としてチアミン(ビタミンB1)欠乏症が知られているため、チアミン摂取が心不全に有効な可能性がこれまで検討されてきている。ただし、いまだ明確なエビデンスがないことから、ステートメントには、欠乏に伴う臨床症状を生じていない心不全患者がチアミンを習慣的に摂取することは支持されないと記されている。コエンザイムQ10については、現時点では心不全に対する影響ははっきりしないとのことだ。 食品以外では、ヨガや太極拳の有望性に触れている。それらは安全であり、運動耐容能や生活の質(QOL)の改善、炎症マーカーの低下などの作用が報告されており、医療ガイドラインに基づく治療の補助的なアプローチとして利用可能とされている。 ステートメントでは上記のほかに、カフェイン、アルコール、甘草、L-アルギニン、グレープフルーツジュースなどを幅広く取り上げている。それらの中には、患者の状態によっては健康上のリスクになり得るものもあり、より確実な理解のためにさらなる研究が必要としている。なお、このステートメントは心不全患者に焦点を当てたものだが、Chow氏は、「心不全以外の健康上の問題を抱えている人にとっても重要な情報である」と述べている。 米シダーズ・サイナイ医療センターのMichelle Kittleson氏は、今回のAHAのステートメント発表を歓迎している。同氏は心不全治療のスペシャリストだが、そうであっても補完代替療法を利用している患者の管理にしばしば迷いが生じるとのことだ。「このステートメントには、参考文献として210報もの論文が掲げられている。著者らがそれらを吟味しまとめてくれたおかげで、われわれは同じことをしないで済む。多くの臨床医は、医薬品との相互作用の理解のために、このような情報を必要としているはずだ」とKittleson氏は語っている。

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短腸症候群患者の声は社会に届いているか/武田

 社会にはなかなか認知されていない希少疾病や難病も多く「短腸症候群」もその1つである。本症は指定難病ではないが、小児から成人まで患者層は幅広く、患者のQOLにも大きな負担をもたらしている。武田薬品工業は「短腸症候群(SBS)を知っていますか?」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、前半でSBSの病態や診療と治療について説明するとともに、後半では患者のリアルな声が届けられた。成人でもSBSになる はじめに「短腸症候群の特徴」をテーマに千葉 正博氏(昭和大学薬学部臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門 教授/同病院外科学講座小児外科学部門兼担)が、疾患概要を説明した。 SBSとは「生まれつき、あるいは生活する中で腸が通常より短くなった方々」とされ、明確な学術的な定義がない。通常、小腸は成人で約6m(小児で約2m)ほどあるが、わが国では(1)小腸の75%以上切除、(2)成人1.5m未満(小児75cm未満)、(3)静脈栄養から離脱困難のうち1つでも該当する患者をSBSと診断している。 SBSで問題となるのは、毎日の食事制限や必要な栄養の摂取ができないことと、吸収不良による排便回数の多さである(下痢便になる)。また、この状態が長期に及ぶことで患者の心理社会的な負担や慢性疲労、QOLの低下などがある。そして、身体的には腸管不全関連肝障害やカテーテル関連血流感染症を合併するリスクも指摘されている。 患者を苦しめるのは、日々の食事制限であり、もし食べすぎた場合、消化・吸収不良に容易になってしまうことである。腸蠕動が亢進することで腸液分泌も亢進する。そして、腸粘膜が荒れることで吸収障害がさらに悪化し、負のスパイラルに陥る懸念がある。 その一方で、腸には自己修復能力(馴化)があることも知られ、小腸の維持・再生には腸管栄養素、GLP-1などの消化管ホルモン、EGFなどの血液関与ホルモンの3要素をいかに関与させて成長を促すかが保存的療法のカギとなる。 保存的治療では、十二指腸、空腸、回腸、結腸など残存部位により消化吸収できる糖、ビタミン、ナトリウムなどに違いがあるため、理解しておく必要がある。例えば、ほぼ十二指腸しか残存していない場合、ビタミンB12や胆汁酸の吸収はむずかしく、中心静脈カテーテルなどでの栄養補給を行う必要がでてくる。 注意すべきこととして中心静脈カテーテルは、腸が弱っている腸管機能不全の患者では、腸壁に腸内細菌が入り込むことで、敗血症などを容易に起こすので、可能な限り早く腸管を強く育てることが重要となる。 SBSの治療は1960年代後半に中心静脈栄養法が開発され、以降、腸管延長手術、そして、2000年代の内科治療と着実に進化している。そして、治療では、変化がみえるまで非常に長い時間がかかることを踏まえ、「ある程度先を予想し、先手を打ちつつ、限界を見極めた管理を行うこと」で患者を見守ってもらいたいと同氏は語り、レクチャーを終えた。自分の病気と体調を周りに話すことが大事 後半では、SBSの患者3人と千葉氏が登壇し、患者側からみた疾患への悩みや医療者、行政への要望などのトークセッションが行われた。 登壇した患者の発症背景もさまざまで、新生児としてすでにSBSの患者や10代で腸管壊死を来しSBSに進展した患者、30代でクローン病から腸切除を受けSBSとなった患者がセッションに参加し、生活面で旅行や学校・職場の行事に参加できない悩みや人工肛門での苦労などが語られた。 周囲のサポートで患者が期待することでは、体力がないので患者にできないことがあること、毎日点滴が必要なこと、トイレの回数が多いことなど理解して欲しいと希望を述べた。また、周囲に自分の病気を隠すことなく伝える重要性、自分の状態の様子を伝えることで周囲のサポートが得られた実情などが語られた。 最後に患者からは「新しい薬や治療法に期待している一方で完治する疾患ではないので、ポジティブに病気と向かい合っていきたい」、「国の支援では制度からこぼれている患者もいる、情報をどう届けるのかが課題」、「患者の雇用が進んでいないのが問題だし、ストーマの支援や助成が患者の要望と合っていない問題もある」などの声が聞かれ、トークセッションを終えた。

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12月13日 ビタミンの日【今日は何の日?】

【12月13日 ビタミンの日】〔由来〕1910年の今日、鈴木梅太郎博士(農芸化学者)が、米糠から抽出した成分を「オリザニン」と命名し、東京化学会で発表した。このオリザニンは後に、ビタミンB1(チアミン)と同じ物質であることが判明し、「ビタミン」と呼ばれるようになったことを記念し「ビタミンの日」制定委員会が2000年に制定。関連コンテンツビタミンEってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンCってなあに?【患者説明用スライド】葉酸ってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM青年期の抑うつ症状とビタミンDレベルとの関係

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日本人男性では米飯が心血管死リスクを下げる?

 日本人男性では、米の摂取量が多い方が心血管疾患による死亡リスクが低いという、有意な関連のあることが報告された。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学の和田恵子氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月30日掲載された。なお、女性ではこの関連は認められないとのことだ。 日本人は欧米人より心血管疾患リスクが低いことが古くから知られている。日本人の主食は米であり、その消費量は欧米よりはるかに高い。これまで、米の摂取量と心血管死リスクとの関連を前向きに解析した研究の結果は一致しなかった。和田氏らは岐阜県高山市で行われている「高山スタディ」のデータを用いて、主食としての米の摂取量と心血管死リスクとの関連を、日本でよく食べられる他の主食であるパンや麺と比較しながら検討した。これら3つの主食と関連する食事パターンについても検討した。 高山スタディは同市の住民対象コホート研究であり、1992年9月に35歳以上の住民(入院患者以外)、3万1,552人が参加した。今回の研究では、登録時に食事摂取頻度に関する質問票に回答し、心血管疾患の既往のなかった2万9,079人(男性45.9%)を解析対象とした。 ベースライン時の米摂取量の四分位で性別ごとに4群に分けると、男性は米の摂取量が少ない群で、糖尿病や高血圧の既往者が多く、身体活動量が少なく、飲酒量や食物繊維、塩分の摂取量が多い傾向があった。女性の米摂取量が少ない群は、教育歴が長く、飲酒やコーヒーの摂取量、および食物繊維と塩分の摂取量が多い傾向があった。 また、男性と女性の双方で、米摂取量は大豆製品と海藻の摂取量と正の相関があり、肉と卵の摂取量とは負の相関が見られた。一方、パンの摂取量は果物や乳製品の摂取量と正の相関があり、大豆製品の摂取量とは負の相関があった。麺の摂取量は、いも類、肉類、魚介類、卵の摂取量と正の相関があった。 2008年10月1日までの追跡(平均14.1年)で、1,685人(男性46.2%)の心血管死が発生。米摂取量の第1四分位群(米摂取量が最も少ない下位25%)を基準に、他群の年齢調整後の心血管死リスクを比較すると、第3四分位群はハザード比(HR)0.77(95%信頼区間0.62~0.96)、第4四分位群はHR0.81(同0.66~0.99)であり、米摂取量が多いほど心血管死リスクが低いという有意な関係が認められた(傾向性P=0.004)。 調整因子に、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病・高血圧の既往、婚姻状況、教育歴、コーヒー・塩分摂取量を加えても、この関連は引き続き有意だった(傾向性P=0.013)。さらに、追跡開始から最初の2年以内の心血管死を除外した解析の結果も同様であり〔第4四分位群でHR0.77(同0.60~0.98)、傾向性P=0.012〕、ベースライン時点の健康状態が結果に影響を及ぼしている可能性は低いと考えられた。 一方、パンの摂取量は男性の心血管死リスクと有意な関連がなかった。麺の摂取量は調整因子が年齢のみの場合、摂取量が多いほど心血管死リスクが高いという関連が見られたが(傾向性P=0.034)、前記の全ての因子で調整後は有意性が消失した。 女性に関しては、米、パン、麺のいずれの摂取量も、心血管死リスクとの有意な関連が認められなかった。 以上より著者らは、「米の摂取量が多いことが日本人男性の心血管死リスクの低さと関連している」と結論付けている。この背景として、「米摂取量が、健康的な食品とされる大豆や海藻の摂取量と正相関していることの影響が考えられる」という。ただし、「それらの摂取量を調整後にもなお、心血管死リスクの低さとの有意な関連が維持されており、米に含まれている食物繊維やビタミンB6が男性の心血管リスクに対して保護的に働くのではないか」との考察が加えられている。 なお、女性ではこの関連が有意でないことに関しては、「男性は米摂取量と菓子摂取量が逆相関するのに対して女性では正相関することや、米や炭水化物の高摂取と糖尿病や脂質代謝異常との関連が女性は男性より大きく表れることなどの影響ではないか」と述べられている。

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「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?【Dr.山中の攻める!問診3step】第16回

第16回 「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?―Key Point―食事は人生最大の楽しみの一つである。味覚障害があると食欲が低下する複雑な風味を味わうには味覚と嗅覚が正常でなければならない味覚は年齢、食事、喫煙、薬剤によって影響を受ける症例:83歳 男性主訴)味覚障害現病歴)3ヵ月前から倦怠感と手足のしびれを自覚している。2ヵ月前から徐々に食べ物の味がわかりにくくなり、食欲が低下してきた。最近2週間は体動時の息切れを感じている。既往歴)10年前に胃がんのため胃全摘術、高血圧症内服薬)アムロジピン身体所見)意識清明、体温 36.8℃、血圧 132/68mmHg、脈拍 96回/分、呼吸回数 18回/分、SpO2 95%(室内気)眼瞼結膜:軽度の蒼白あり、舌:発赤あり、舌乳頭萎縮あり胸部:収縮期雑音(Levine 3/6)を心尖部で聴取する、腹部:正中に手術痕あり下肢:両側に軽度の浮腫と末梢優位の感覚障害あり経過)血液検査でWBC 3300/μL、Hb 8.3g/dL、MCV 110fL、血小板 15万/μL、Cr 0.7mg/dL、血糖 102mg/dL、CRP 0.25mg/dLであった10年前の胃全摘術の既往、下肢末梢優位の感覚障害、ハンター舌炎を示唆する舌所見、汎血球減少からビタミンB12欠乏を疑った1)血清ビタミンB12は75pg/mL(基準値:180~914)であったビタミンB12欠乏症による味覚障害と診断し、ビタミンB12の補充を行うと味覚障害は徐々に改善した◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!COVID-19感染症の流行初期には、味覚障害と嗅覚障害がよくみられた味覚障害の多くは嗅覚障害が原因である薬剤は味覚障害を起こすことが多い【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】味覚のメカニズムを理解する2)舌表面には約8,000個の味蕾(みらい)と呼ばれる味覚受容器官があり、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を感じる甘味は舌の先端、塩味は舌前方の側面、酸味は舌後方の側面、苦味は舌後方で感じる嚥下時に後鼻腔にある嗅覚レセプターが刺激され、味覚と一緒に複雑な風味を感じる症状を訴える多くの患者は味覚ではなく嗅覚が障害されている<参考文献・資料>1)Stabler SP, et al. N Engl J Med. 2013;368:149-160.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022. p232-238.3)UpToDate:Taste and olfactory disorders in adults: anatomy and etiology

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