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1.

甘い飲み物の飲み過ぎで心房細動?

 加糖飲料や人工甘味料入りの飲料を飲み過ぎると、心房細動になりやすくなる可能性を示唆するデータが報告された。上海交通大学医学院附属第九人民医院(中国)のNingjian Wang氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology」に3月5日掲載された。 甘味飲料の摂取量が一部の心血管代謝疾患のリスクと関連のあることは知られているが、心房細動との関連はこれまで明らかにされていない。心房細動は不整脈の一種で、自覚症状として動悸やめまいなどを生じることがある。ただしより重要なことは、心房細動では心臓の中に血液の塊(血栓)が形成されやすくなって、その血栓が脳の動脈に運ばれて脳梗塞が起きてしまうリスクが高い点にある。このタイプの脳梗塞は梗塞の範囲が広いことが多く、重症になりやすい。 Wang氏らは、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて、加糖飲料(SSB)、人工甘味料入り飲料(ASB)、および果汁100%フルーツジュース(PJ)の摂取量と心房細動のリスクを、遺伝的素因を考慮に入れて検討した。解析対象は、ベースライン時に心房細動がなく、遺伝子関連データがあり、かつ24時間思い出し法による食事摂取アンケートに回答していた20万1,856人。中央値9.9年の追跡期間中に、9,362人が心房細動の診断を受けていた。 交絡因子を調整後、SSBを摂取しない人に比べて週に2リットル超摂取している人は、心房細動のリスクが10%高いことが示された〔ハザード比(HR)1.10(95%信頼区間1.01~1.20)〕。同様に、ASBを摂取しない人に比べて週に2リットル超摂取している人は、心房細動のリスクが20%高かった〔HR1.20(同1.10~1.31)〕。一方、PJを摂取しない人に比べて週に1リットルを超えない範囲で摂取している人は、心房細動のリスクが8%低いことが分かった〔HR0.92(同0.87~0.97)〕。心房細動の遺伝的素因の有無で層別化した解析の結果、有意な交互作用は観察されなかった。 この結果について論文の筆頭著者であるWang氏は、「さまざまな種類の飲料を摂取している人がいて、飲料以外の食事の影響も否定できないことから、ある飲料が別の飲料よりも心房細動のリスクが高いと明確に結論付けることはできない」としている。とは言え、「これらの結果に基づけば、可能な限りSSBやASBの摂取を避けることが推奨される。また、『低糖』や『低カロリー』とうたったASBには、潜在的な健康リスクを引き起こす可能性があり、それらを健康的な飲み物だとは考えないでほしい」と付け加えている。 SSBが心房細動のリスクを高めるメカニズムとしてWang氏は、糖負荷によるインスリン抵抗性の亢進が2型糖尿病発症リスクを高め、その2型糖尿病は心房細動のリスク因子であることを考察として述べている。またASBについては、サッカリンなどの人工甘味料に対して体が特異的に反応する可能性があるという。

2.

第208回 メトホルミンの食欲抑制を担うらしい血中成分を発見

メトホルミンの食欲抑制を担うらしい血中成分を発見メトホルミンの食欲抑制作用を担うと思しき血中成分が同定されました1,2)。糖尿病の治療薬メトホルミンは中世ヨーロッパで薬草として使われていたフレンチライラック(Galega officinalis、ガレガ草)を発祥とし、同植物に豊富に含まれる成分のグアニジンを端緒とする化合物として今からおよそ100年も前の1922年にその合成が報告されています3)。メトホルミンは血糖値の低下のみならず心血管イベント減少や生存改善ももたらしうることが1998年の試験で判明したことを受け、2型糖尿病(T2D)の高血糖管理にまず使うべき薬剤の1つと見なされるようになりました。いまや同剤はT2D治療の域を超え、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、HIVリポジストロフィー、認知症などのインスリン抵抗性が絡む数々の疾患の治療やがんの予防、さらには抗老化という夢のような効果をも担いうることが示されています。何やら万能薬の様相を呈するメトホルミンですが、同剤の根本的な用途であるT2D治療の仕組みの理解はまだ不完全です。たとえばメトホルミンが体重を減らす効果には食欲抑制が寄与しているようですが、食欲抑制の仕組みはこれまでよくわかっていませんでした。メトホルミンは食欲を抑制するホルモンGDF15を増やします。2019年の報告ではその作用を介してメトホルミンは食欲を抑制すると示唆されました4)。しかし、その3年後の2022年の報告でメトホルミンはGDF15がなくとも体重を減らしうることが示され5)、メトホルミンの食欲抑制へのGDF15増加の寄与のほどは今や疑問視されています。GDF15とメトホルミンの食欲抑制作用の関わりのさらなる検討が必要である一方、ダブリン大学(Trinity College Dublin)のBarry Scott氏らは別の食欲抑制因子に当たりをつけて研究を行いました。Scott氏らが注目したのは乳酸とフェニルアラニンを結合させる酵素の産物である乳酸フェニルアラニン(N-lactoyl phenylalanine:Lac-Phe)です。Lac-Pheは激しい運動をすると食欲がなくなることに寄与する成分を探す研究で発見されました6)。肥満マウスにLac-Pheを投与すると食欲が減り、競走馬やヒトの運動後にLac-Pheが大幅に上昇することが2022年の報告で示されています。Scott氏らは新たな研究で33例の被験者の血中代謝物を調べました。その結果、メトホルミン治療を主とする糖尿病患者にLac-Pheが多く、Lac-Pheとメトホルミンの濃度が強く関連しました。また、英国の双子の追跡データ(TwinsUK)や先立つ2つの介入試験の結果を解析したところ、メトホルミン投与に伴うLac-Phe上昇が認められました。ほかでもないLac-Pheを発見したチームもメトホルミン投与に応じたLac-Phe上昇をヒトとマウスの両方で確認しており、その成果をScott氏らと時を同じくしてNature Metabolism誌に報告しています7,8)。より強力な食欲抑制作用が期待できるLac-Phe狙いの創薬により、肥満を治療する安全で効果的なこれまでにない類いの薬を生み出せそうです1)。参考1)Scott B, et al. Nat Metab. 2024 Mar 18. [Epub ahead of print] 2)Scientists uncover new secrets to natural appetite control, offering promise in the battle against obesity / Eurekalert3)Weight loss caused by common diabetes drug tied to “anti-hunger” molecule in study / Eurekalert4)Bailey CJ. Diabetologia. 2017;60:1566-1576.5)Day EA, et al. Nat Metab. 2019;1:1202-1208.6)Klein AB, et al. Cell Rep. 2022;40:111258. 7)Coll AP, et al. Nature. 2020;578:E24. 8)Xiao S, et al. Nat Metab. 2024 Mar 18. [Epub ahead of print] 9)Weight loss caused by common diabetes drug tied to “anti-hunger” molecule in study / Eurekalert

3.

血糖値が改善する身近な香辛料は?~メタ解析

 地中海食に含まれるハーブ/スパイスが2型糖尿病患者の血糖プロファイルに及ぼす影響を調査したシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、いくつかのハーブ/スパイス摂取が空腹時血糖、HbA1cおよびインスリン値の低下と関連していて、とくにショウガの摂取でそれらすべてが有意に改善したことを、スペイン・University of ZaragozaのMaria C. Garza氏らが明らかにした。Nutrients誌2024年3月7日号掲載の報告。 地中海食には豊富なハーブ/スパイスが含まれていて、それらが血糖値やコレステロール低下作用、抗酸化作用、抗炎症作用などを示す可能性が示唆されている。そこで研究グループは、地中海食に一般的に含まれるハーブ/スパイスが2型糖尿病患者の血糖プロファイルに及ぼす影響を調査した。 PubMed、Web of Science、Scopusの各データベースを2023年9月まで検索し、2型糖尿病の成人患者の血糖プロファイルに対するブラッククミン、クローブ、パセリ、サフラン、タイム、ショウガ、黒コショウ、ローズマリー、ターメリック、バジル、オレガノ、シナモンの影響を調査した介入研究を適格とした。主要アウトカムは空腹時血糖値、HbA1c、インスリン値の変化であった。 主な結果は以下のとおり。●システマティックレビューの対象となった論文は77報で、このうち45報(45研究、3,050例)がメタ解析の対象となった。●空腹時血糖値が有意に改善したのは、ブラッククミン、シナモン、ショウガ、ターメリック、サフランであった(以下、括弧内は95%信頼区間)。 ・ブラッククミン摂取群:26.33mg/dL低下(-39.89~-12.77、p=0.0001) ・シナモン摂取群:18.67mg/dL低下(-27.24~-10.10、p<0.001) ・ショウガ摂取群:17.12mg/dL低下(-29.60~-4.64、p=0.0004) ・ターメリック摂取群:12.55mg/dL低下(-14.18~-10.86、p<0.001) ・サフラン摂取群:7.06mg/dL低下(-13.01~-1.10、p=0.020)●HbA1cが有意に改善したのは、ショウガとブラッククミンであった。 ・ショウガ摂取群:0.56%低下(-0.90~-0.22、p=0.0013) ・ブラッククミン摂取群:0.41%低下(-0.81~-0.02、p=0.0409)●インスリン値が有意に改善したのは、ショウガとシナモンであった。 ・ショウガ摂取群:1.69 IU/μL低下(-2.66~-0.72、p=0.0006) ・シナモン摂取群:0.76 IU/μL低下(-1.13~-0.39、p<0.0001)※各ハーブ/スパイスの最も一般的な摂取量は、ブラッククミン:500mg、シナモン:1,000mg、ショウガ:2,000mg、ターメリック:2,000mg、サフラン:30~100mg。 著者らは、本研究の限界として「それぞれのハーブ/スパイスの用量が不均一であるため、有効用量を考慮することはできなかった」ことなどを挙げつつ、「ショウガは、地中海食のハーブ/スパイスの中で、空腹時血糖、HbA1cおよびインスリン値の3つの検査結果すべてに有意な影響をもたらす独特のものであるようだ」とまとめた。

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電子カルテを通じた医師への警告で不要な検査が減少

 80歳の男性に定期的な前立腺がんの検査(PSA検査)を指示するために医師がコンピューターを操作していると、患者の電子カルテに派手な黄色の警告が表示された。そこには、「ガイドラインで推奨されていない検査をオーダーしています。PSA検査の結果に基づき行われる診断や治療が患者に有害となる可能性があります。正当な理由なく検査を行うと、不要な検査であることがカルテに記載されます」との警告文が表示されていた。 この警告文は、医師による高齢患者への不要な検査を減らすための戦略の一環として米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のStephen Persell氏らが作成し、試験的に導入したものである。同氏らの研究では、この戦略により18カ月後には不要なPSA検査が9%、女性での尿路感染症診断のための尿検査が約6%減少したという。Persell氏は、「われわれの知る限り、これはポイント・オブ・ケア(ケアが行われている場)での警告が全ての不要な検査や治療を有意に減少させることを示した初めての研究である」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に2月6日掲載された。 この研究では、ノースウェスタン・メディスンに属する60施設のプライマリケア診療所の医師とその患者を対象に、医師の注意を患者が被る害に向けさせ、また、医師に過剰医療に対する社会的懸念や風評に対する懸念を考えさせることで、医師の意思決定がどのように変わるかが評価された。対象とされた医師は、行動科学に基づいた臨床意思決定支援ツールによる介入と症例ベースの教育を受ける群(30クリニックの医師187人、介入群)と、症例ベースの教育のみを受ける群(30クリニックの医師187人、教育群)に割り付けられた。意思決定支援ツールは、患者にもたらされる潜在的な害や結果に対する医師の責任を強調し、社会的規範を伝えるようにデザインされたものだった。 介入効果は、前立腺がんの既往歴がない76歳以上の男性に対するPSA検査、65歳以上の女性に対する非特異的な理由での尿検査、HbA1cが7%未満の75歳以上の糖尿病患者に対する血糖降下薬による過剰治療の3点について検討した。先行研究では、75歳以上の男性でのPSA検査は延命治療につながらないばかりか、不要な治療を受けることで尿失禁や性機能障害、直腸出血などが生じる可能性もあることが示されている。同様に、65歳以上の無症状の尿路感染症に対する抗菌薬による治療が健康を改善することを示したエビデンスもない。さらに、インスリンやスルホニル尿素のような糖尿病治療薬を使用している75歳以上の糖尿病患者の血糖値を低下させる治療も低血糖のリスクを高めるので危険である。 その結果、介入から18カ月後には、介入群では教育群に比べてPSA検査が8.7%、非特異的な尿検査が5.5%、糖尿病に対する過剰治療が1.4%少なく、介入が有効であることが明らかになった。 先行研究では、電子カルテを通じて医師にメッセージを配信することで不要な検査を減らすことが試みられているが、Persell氏らは今回の研究で、医師に影響を与え得る言葉の組み合わせを考え出すことができたと話している。同氏は、「患者にもたらされる潜在的な害に焦点を当て、社会的規範を共有し、社会的責任や風評への懸念を促進する要素を取り入れることが、これらのメッセージの効果につながったと考えている」と大学のニュースリリースで説明している。その上で、「臨床医にとって説得力のあるメッセージを、臨床医がオーダーを出す際に電子カルテを通じて配信することができるのなら、これはケアを改善する簡単な方法となるし、大規模な医療システム全体への適用も可能だ」と付け加えている。 研究グループは、このようなメッセージ配信による介入が、オピオイドや睡眠薬の処方、潜在的に危険な薬剤の組み合わせなど、他のタイプの過剰治療を減らす上でも有効であるのかを検討する予定だと話している。

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調剤後薬剤管理指導が“格上げ”、対象の薬と患者が拡大【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第127回

2024年度の調剤報酬改定の内容が確定しました。これまでの改定は華々しく何かがスタートしたりしましたが、あまり浮足立った感じはなく、しっかりと地に足が着いた改定のように感じます。今回は2024年度の調剤報酬改定によって新設や変更となった加算を紹介します。「調剤後薬剤管理指導料」が加算→指導料に変更薬学管理料の「調剤後薬剤管理指導加算」が廃止され、「調剤後薬剤管理指導料」が新設されます。2020年度改定で新設された調剤後薬剤管理指導加算は、薬剤を服用中の患者に対する薬剤師のフォローアップを評価する目的で新設された点数でした。その基本的な考え方は受け継がれつつ加算から指導料へ変更されたということは、これらの指導が評価されて格上げされたと考えてよいでしょう。調剤後薬剤管理指導加算の対象となっていた糖尿病薬の範囲はインスリンとSU薬でしたが、「糖尿病用剤」に拡大され、また対象患者に慢性心不全患者が追加されました。調剤後薬剤管理指導加算では、かかりつけ薬剤師管理指導料の算定患者では算定できませんでしたが、調剤後薬剤管理指導料では算定患者に対してフォローアップを実施した場合でも算定ができるようになります。加算から指導料になっても60点という点数に変更はありません。しかし、この調剤後のフォローアップが踏襲され、しかも対象が広がったということは、これを積極的に取り組んでいる薬局が評価されたということでとてもうれしいです。調剤後薬剤管理指導料を算定できる薬局は、地域支援体制加算を算定可能として届出をしている薬局です。ベースが地域支援体制加算というのは、今後も基本要件になってくる可能性は高いでしょう。「在宅移行初期管理料」が新設在宅訪問を開始する際には、あらかじめ患者さん宅やケアマネジャーさんを訪問してさまざまな確認をすると思いますが、その加算や指導料はとくにありませんでした。今回、患者さんが病院から退院するときなど、在宅医療に移行する際の薬学管理に対する評価として、新たに「在宅移行初期管理料」が導入されます。退院直後などに薬局薬剤師が患者宅を訪問し、服薬状況の確認や薬剤の管理などの必要な指導を実施した場合に、1回に限り230点を算定できます。1回だけの算定とはいえ230点は大きいですし、その1回を確実に意味のあるものにしようという気合と責任が芽生えますよね。ただし、認知症や精神疾患、小児、末期がんなど条件を満たす患者さんのうち、とくに重点的な服薬支援を行う必要性があると判断された場合に限る、とされているので、対象となる患者さんの注意が必要です。私は、日々患者さんのために頑張っている薬局や薬剤師が報われてほしいと思ってこのコラムを書いていますが、今回の改定内容を読み込めば読み込むほど、薬局がどんどん増え、薬剤師は稼げると言われた時代は過ぎ去り、地域医療のために実績を上げている薬局や薬剤師が生き残る時代に突入したのだなという実感がします。今回新設・変更された項目に対する取り組みや実績が今後の報酬改定で評価されればよいなと思います。

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肥満症治療薬のチルゼパチドで肥満者の血圧が低下

 肥満症治療薬のZepbound(ゼップバウンド、一般名チルゼパチド)の効果は、体重の減少や糖尿病コントロールの改善にとどまらないようだ。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター心臓病学部長のJames de Lemos氏らによる研究で、チルゼパチドを使用した肥満患者では収縮期血圧(上の血圧)が有意に低下し、同薬が肥満者の血圧コントロールにも有効である可能性が示唆されたのだ。チルゼパチドの製造販売元であるEli Lilly社の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「Hypertension」に2月5日掲載された。 この研究の背景情報によると、収縮期血圧は拡張期血圧(下の血圧)よりも心疾患に関連した死亡リスクとの関連の強いことが判明しているという。De Lemos氏は、「これまでの研究では、チルゼパチドの肥満症治療薬としての効果が検討されてきたが、今回の研究の参加者で確認された同薬による血圧の低下は印象的なものだった」と話す。 チルゼパチドは、体内でインスリンの分泌を促し食後のインスリン感受性を高める作用を持つ2種類のホルモンと同じように働く。同薬には消化のスピードを緩やかにして食欲を低下させ、血糖値の調節を助ける作用がある。なお、日本では、現時点でのチルゼパチドの適応症は糖尿病のみである。 今回の研究では、肥満の成人600人(平均年齢45.5歳、平均BMI 37.4、女性66.8%)をプラセボ投与群(155人)、またはチルゼパチドを5mg(145人)、10mg(152人)、15mg(148人)のいずれかの用量で皮下注射する群にランダムに割り付けた。 その結果、チルゼパチド群ではプラセボ群に比べて試験開始時から36週間目までの間に収縮期血圧が、チルゼパチド5mg投与で平均7.4mmHg、10mg投与で平均10.6mmHg、15mg投与で平均8mmHg低下したことが明らかになった。また、チルゼパチドの降圧効果は日中だけでなく夜間にも認められた。De Lemos氏らによると、日中よりも夜間の収縮期血圧の方が心疾患に関連する死亡リスクのより強い予測因子であるという。 De Lemos氏は、「血圧降下がチルゼパチドによるものなのか、あるいは研究参加者の体重減少によるものなのかは不明だが、チルゼパチドを使用した参加者で認められた血圧の低下度は、多くの降圧薬の使用による低下度に匹敵するものであった」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで説明している。 今回の研究には関与していない米ミシシッピ大学医療センターのMichael Hall氏は、「全体として、チルゼパチドのような新規の肥満症治療薬は、体重減少だけでなく肥満に伴う高血圧や2型糖尿病、脂質異常症などの心血管代謝系の合併症を大いに改善させることが示されており、励みになる結果だ」と話している。 Hall氏はまた、「これらの有益な効果はいずれも重要ではあるが、肥満に関連した合併症の多くは相乗的に心血管疾患リスクを高める。したがって、肥満に関連した複数の合併症を抑える戦略は、心血管イベントのリスク低下につながる可能性がある」との見方を示している。 ただしHall氏は、「心筋梗塞や心不全、その他の心臓に関連した健康上の問題に対するチルゼパチドの長期的な効果について明らかにするには、さらなる研究が必要だ」と指摘。また、「チルゼパチドのような薬剤を中止した場合に血圧がどのように変化するのか、例えば再び上昇するのか、あるいは低下が維持されるのかを明らかにするための研究も必要だ」と話している。

7.

高齢になると糖尿病有病率が高くなる理由/順天堂大学

 加齢に伴うインスリン感受性と分泌の低下により、高齢者では糖尿病の有病率が高いことが知られている。一方で、インスリン感受性と分泌の両方が65歳以降も低下し続けるかどうかは、まだ解明されていなかった。この疑問について、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の内藤 仁嗣氏らの研究グループは、65歳以降の糖代謝に対する加齢の影響を調査し、その決定因子を明らかにする研究を行った。その結果、高齢者では加齢に伴い、インスリン抵抗性が増加、膵β細胞機能が低下していることが明らかになった。Journal of the Endocrine Society誌オンライン版2023年12月20日号に掲載。内臓脂肪の蓄積などが関連する高齢者の糖尿病発症 本研究では、文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65~84歳の糖尿病既往がなく、糖尿病の診断に用いられる検査である75g経口糖負荷検査(OGTT)のデータが揃っている1,438例を対象とした。 対象者全員に二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)による体組成検査、MRIによる内臓・皮下脂肪面積の測定、採血・採尿検査、75gOGTT、生活習慣に関連する各種アンケートを行い、5歳ごとに4群(65~69歳、70~74歳、75~79歳、80~84歳)に分け、各種パラメータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は73.0±5.4歳、BMIは22.7±3.0kg/m2だった。・新たに糖尿病と診断された人の有病率は年齢とともに増加した。・食後初期のインスリン分泌を示す指標であるInsulinogenic indexや、血糖値に対するインスリン分泌指標である75gOGTT中のインスリン曲線下面積/血糖曲線下面積(AUC)は、各年齢群間で同等だった。・インスリン感受性の指標(Matsuda index)、膵β細胞機能の指標(Disposition index)は加齢とともに有意に低くなった。・加齢に伴う脂肪蓄積、とくに内臓脂肪面積(VFA)の増加、遊離脂肪酸(FFA)濃度の上昇が観察された。・重回帰解析により、Matsuda indexおよびDisposition indexとVFAおよびFFAとの強い相関が明らかになった。 研究グループでは、この結果から「高齢者において耐糖能が加齢とともに低下するのは、加齢によるインスリン抵抗性の増加および膵β細胞の機能低下によるもので、それらは内臓脂肪蓄積やFFA値上昇と関連する」としている。

8.

1型糖尿病に対する週1回の基礎インスリン補充の効果と安全性は(解説:安孫子亜津子氏)

 新たな週1回製剤であるインスリンicodecは、世界で第III相の臨床試験が行われており、1型糖尿病に対する52週間の無作為化非盲検第IIIa相試験である「ONWARDS 6」の結果が、2023年10月17日号のLancet誌で報告された。 この試験は日本を含む12ヵ国99施設で行われ、基礎インスリンとして週1回投与のicodecと、1日1回投与のデグルデクを比較したものであり、両群ともにボーラスインスリンとしてはアスパルトを併用している。主要評価項目はベースラインから26週時におけるHbA1cの変化量であり、その他の有効性評価項目としては52週時におけるHbA1cの変化量、26週時の空腹時血糖値の変化、22~26週における血糖日内変動におけるTime in range(TIR)など。安全性の評価項目としては体重変化、平均インスリン週投与量、54mg/dL未満の臨床的に重大な低血糖、夜間低血糖、重症低血糖などである。 2021年4月30日~10月15日に655例がスクリーニングされ、このうち582例がicodec群(290例)またはデグルデク群(292例)に割り付けられた。 icodec群およびデグルデク群のHbA1c値は、ベースラインでそれぞれ7.59%、7.63%から、26週時には0.47%、0.51%低下した。推定平均変化量の群間差は0.05%(95%CI:-0.13~0.23)であり、icodec群のデグルデク群に対する非劣性が確認された(p=0.0065)。52週時点のHbA1cではicodec群0.37%、デグルデク群0.54%の低下でデグルデク群のほうが有意に低下しており(p=0.021)、空腹時血糖値は26週および52週においてデグルデク群で有意な低下が認められたが、TIRには両群で有意差はなかった。 安全性の評価項目では、26週時までの54mg/dL未満の低血糖または重症低血糖の発生頻度は、icodec群19.9件/人年、デグルデク群10.4件/人年で、icodec群が有意に高かった(p<0.0001)。57週時においても、icodec群ではデグルデク群と比較し低血糖の発生頻度が有意に高かった(17.0件/人年vs.9.2件/人年、p<0.0001)。体重変化は両群で差はなく、総使用インスリン量は両群で差がなかったが、基礎インスリン量はicodec群で多く、ボーラスインスリン量はデグルデク群で多かった。 2型糖尿病を対象としたONWARDS 1~5ではicodecでHbA1c値の低下が認められている結果が多いが、今回の1型糖尿病では差が認められなかった。ONWARDS 6の対象はベースラインのHbA1c値が7.6%前後に管理された1型糖尿病患者であるといった特徴もある。空腹時血糖値70~130mg/dLを目標として基礎インスリン量の調整をする中で、icodec群で有意に低血糖の発生が多く、さらにicodec群で総基礎インスリン使用量が多かったにもかかわらず、空腹時血糖値はデグルデク群ほど低下していなかった。この結果から1型糖尿病でicodecを使った強化インスリン療法において、低血糖を避けて適切な用量調整をするには今後の課題があると感じた。

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短時間睡眠は女性のインスリン感受性を低下させる

 女性の短時間睡眠はインスリン感受性の低下につながることを示すデータが報告された。睡眠時間が90分短い状態が6週間続くと、空腹時インスリン値やインスリン抵抗性(HOMA-IR)が有意に上昇するという。米コロンビア大学アービング医療センターのFaris M. Zuraikat氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に11月13日掲載された。 これまでに、睡眠不足が糖代謝に悪影響を及ぼすとする研究結果が複数報告されている。それらの研究の中には、睡眠不足による悪影響は男性よりも女性でより強く現れることを示唆するものもある。そこでZuraikat氏らは、女性の睡眠不足の糖代謝に及ぼす影響に焦点を当てた研究を行った。 研究参加者は、習慣的に1日7~9時間の睡眠を取っている心血管代謝疾患のない20~75歳の女性38人で、うち11人は閉経後女性。研究デザインは無作為化クロスオーバー法とし、短時間睡眠(sleep restriction;SR)条件と十分な睡眠(adequate sleep;AS)条件をそれぞれ6週間継続。SR条件では、リアルワールドで起こりやすい1.5時間の睡眠不足を再現するため、就床時刻を1.5時間遅らせてもらった。実際の睡眠時間はウェアラブルデバイスによってモニタリングされ、SR条件では睡眠時間が1.34±0.04時間短縮されて(P<0.0001)、平均6.2時間であったことが確認された。 ベースライン特性を調整した線形モデルでの解析の結果、SR条件ではAS条件よりも空腹時インスリン値(β=6.8±2.8pmol/L、P=0.016)やHOMA-IR(β=0.30±0.12、P=0.016)がともに有意に高値であり、インスリン抵抗性の亢進が認められた。また、閉経後女性ではより強い影響が生じることが確認された。具体的には、HOMA-IRが全例では約15%の上昇であるのに対して、閉経後女性に限ると約20%の上昇であり、変動幅に有意な交互作用が観察された(閉経前後での交互作用P=0.042)。 交絡因子に体脂肪量を追加した場合、解析結果に有意な違いは認められず、睡眠時間短縮の糖代謝に及ぼす影響が肥満によって媒介される可能性は示されなかった。なお、血糖値に関しては参加者全員、研究期間を通して安定していた。 以上より著者らは、「医師は患者に対して、健康にとって睡眠が重要な役割を果たしていることを教育すべきだろう。特に女性に対しては、睡眠時間を増やすことがインスリン感受性の低下や2型糖尿病発症予防につながり、ひいては健康寿命を延伸する可能性があることを伝える必要がある」と述べている。 コロンビア大学発のリリースによると、成人に推奨される睡眠時間は7~9時間であるが、米国人の約3分の1はこの下限を下回っているという。論文の上席著者である同大学のMarie-Pierre St-Onge氏は、「女性は生涯を通して、出産、子育て、閉経などの要因によって、男性よりも睡眠衛生に影響が及びやすい」と解説。また、このテーマに関連する次のステップとして、「日常的に睡眠時間が不足している人や睡眠時間が変動しやすい生活を送っている人の睡眠パターンを安定化させることで、糖代謝や血糖管理を改善させ得るかを検討する予定」としている。

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適度な低炭水化物食が1型糖尿病患者の治療の助けに

 適度な低炭水化物食が1型糖尿病患者の血糖管理を容易にする可能性を示す研究結果が、「The Lancet Regional Health - Europe」に12月19日掲載された。論文の筆頭著者であるヨーテボリ大学(スウェーデン)のSofia Sterner Isaksson氏は、「この研究の結果は、適度な低炭水化物食によって平均血糖値が低下し、血糖値が目標範囲内に収まる時間が延長することを示している。この変化は1型糖尿病患者の臓器障害のリスク軽減につながるのではないか」と述べている。 炭水化物を消化吸収することで生じる血糖は、膵臓のβ細胞で分泌されるインスリンの働きで全身の細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用される。1型糖尿病はβ細胞が破壊されて発症するタイプの糖尿病で、発症後には生存のためにインスリン療法が必須となり、その血糖管理は2型糖尿病に比べて一般に困難であり、高血糖や低血糖が起こりやすい。血糖管理が不十分な状態が年余にわたると深刻な臓器障害につながる。 1型糖尿病の治療として、古くは厳格な炭水化物摂取制限が行われていた時代もあった。しかし現在は糖尿病でない人に対して推奨されるような健康的な食事が、1型糖尿病の食事療法としても推奨されることが多く、1型糖尿病の血糖管理目的で低炭水化物食を行った場合の影響を調べた研究は少ない。以上を背景にIsaksson氏らは、極端ではなく適度な低炭水化物食が、1型糖尿病患者の血糖管理状態を改善し得るかを検討した。 この研究には、HbA1c7.5%以上の成人1型糖尿病患者54人が参加し、12週間にわたる多施設共同無作為化非盲検クロスオーバー試験として実施された。通常の食事(炭水化物の摂取エネルギー比が50%)または適度な低炭水化物食(同30%)を4週間継続し、4週間のウォッシュアウト期間を置いて、食事条件の割付けを切り替えた上で4週間継続した。主要評価項目は、連続血糖測定で把握された各試行条件の最後の14日間の平均血糖値の差とした。 データ欠落などのない50人が解析対象となった。解析対象者のベースラインデータは、平均年齢48歳で、女性50%、HbA1c8.4%、BMI29など。 解析の結果、平均血糖値の差は10.8mg/dL(95%信頼区間5.4~16.2)であり、低炭水化物食条件の方が有意に低値だった(P<0.001)。また、血糖値が管理目標(70~180mg/dL)の範囲内にあった時間の割合は、低炭水化物食条件の方が4.7%(同1.3~8.0/1日当たり68分)有意に大きかった(P=0.008)。また、高血糖(180mg/dL以上)の時間の割合は低炭水化物食条件の方が5.9%(2.2~9.6/1日当たり85分)有意に少なかった(P=0.003)。 低血糖の時間の割合や、血糖値の標準偏差には有意差がなかった。また、重症低血糖やケトアシドーシスなどの重篤な有害事象は観察されなかった。 Isaksson氏は大学発のリリースの中で、「適度な低炭水化物食は、成人1型糖尿病患者にとって良い治療選択肢となり得る。ただし、脂質と炭水化物の質に留意し、食事全体が健康的であること、そして炭水化物の摂取量が少なくなりすぎないことが重要」と解説している。

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GLP-1受容体作動薬、従来薬と比較して大腸がんリスク低下

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬として日本をはじめ海外でも広く承認されている。GLP-1受容体作動薬には、血糖低下、体重減少、免疫機能調節などの作用があり、肥満・過体重は大腸がんの主要な危険因子である。GLP-1受容体作動薬が大腸がんリスク低下と関連するかどうかを調査した研究がJAMA Oncology誌2023年12月7日号オンライン版Research Letterに掲載された。 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のLindsey Wang氏らの研究者は、TriNetXプラットフォームを用い、米国1億120万人の非識別化された電子カルテデータにアクセスした。GLP-1受容体作動薬と、インスリン、メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤(ただし、SGLT2阻害薬は2013年、DPP-4阻害薬は2006年が開始年)の7薬剤を比較する、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 コホートは、人口統計、社会経済的な健康決定要因、既往症、がんや大腸ポリープの家族歴および個人歴、生活習慣要因などで調整され、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を用いた解析を行った。次いで、肥満・過体重、性別で層別化した患者を対象にした解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2005~2019年に2型糖尿病を理由に医療機関を受診し、それまでに抗糖尿病薬の使用歴がなく、受診後に抗糖尿病薬を処方された、大腸がんの診断歴がない122万1,218例が対象となった。・追跡期間15年時点で、GLP-1受容体作動薬はインスリン(HR:0.56、95%CI:0.44~0.72)、メトホルミン(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)と比較して、大腸がんのリスク低下と有意に関連していた。この有意差は男女でも一貫しており、肥満・過体重の患者ではインスリン(HR:0.50、95%CI:0.33~0.75)、メトホルミン(HR:0.58、95%CI:0.38~0.89)と、さらなるリスク低下が見られた。・SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤との比較でもリスク低下は見られたが、インスリン、メトホルミンほどではなかった。α-グルコシダーゼ阻害薬とDPP-4阻害薬との比較では、統計学的有意差は見出されなかった。 研究者らは、本研究の限界として「未測定または未制御の交絡因子、自己選択、逆因果、観察研究に特有のその他のバイアスの可能性があるため、本試験の結果は他のデータや研究集団による検証が必要である。また、抗糖尿病治療歴のある患者における効果、基礎となる機序、GLP-1受容体作動薬がほかの肥満関連がんに及ぼす効果についても、さらなる研究が必要である」としている。

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植物性食品ベースの食事で糖尿病リスク24%減

 植物性食品をベースとする健康的な食習慣によって、2型糖尿病の発症リスクが大きく低下することを示唆する研究結果が報告された。ウィーン大学(オーストリア)のTilman Kuhn氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes and Metabolism」1月号に掲載された。遺伝的背景や肥満などの既知のリスク因子の影響を調整後に、最大24%のリスク差が認められたという。 植物性食品ベースの食事スタイルは、健康に良く、かつ環境負荷が少ないことを特徴とする。またそのような食事スタイルは、2型糖尿病のリスク低下と関連のあることも知られている。Kuhn氏らは、健康的な植物性食品ベースの食事スタイルが2型糖尿病リスクを押し下げる、潜在的なメカニズムを探る研究を行った。 研究には、40~69歳の一般成人を対象とした英国の大規模コホート研究であるUKバイオバンクのデータが用いられた。11万3,097人の研究参加者を12年間前向きに追跡したところ、2,628人が新たに2型糖尿病を発症。食生活が健康的な植物性食品ベースか否かを評価する指標(healthful plant-based index;hPDI)の第1四分位群(スコアの低い下位4分の1)を基準として、年齢や肥満、身体活動量、遺伝的背景などの既知の2型糖尿病リスク因子を調整した上で発症リスクを検討した。なお、hPDIは新鮮な果物や野菜、全粒穀物の摂取量が多いほどスコアが高くなる。 多変量Cox回帰モデルでの解析の結果、第4四分位群(スコアの高い上位4分の1)は、2型糖尿病発症リスクが24%低いことが明らかになった〔ハザード比(HR)0.76(95%信頼区間0.68~0.85)〕。媒介分析からは、BMIがこの関連性の28%を媒介し、ウエスト周囲長も28%媒介していることが示された。そのほかに、糖代謝の指標のHbA1cが11%、脂質代謝の指標の中性脂肪が9%、肝機能の指標のALTが5%、γ-GTが4%を媒介。また、炎症の指標であるC反応性蛋白、腎機能の指標のシスタチンC、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、尿酸がそれぞれ4%ずつ媒介していた。このことは、体重や内臓脂肪の管理および糖代謝や脂質代謝が良好であること以外に、肝臓や腎臓の機能が良好であることも、2型糖尿病発症リスクの低さに関与していることを意味している。 hPDIとは反対に、精製穀物の摂取量が多いなどの非健康的な食事スタイルを評価する指標(unhealthful PDI;uPDI)を用いた検討からは、第1四分位群に比べて第4四分位群は2型糖尿病発症リスクが37%高いことが明らかになった〔HR1.37(同1.22~1.53)〕。また媒介分析から、ウエスト周囲長が17%、中性脂肪が13%、BMIが7%、この関連性を媒介していることが示された。 Kuhn氏によると本研究は、「植物性食品ベースの食事スタイルの健康への影響を、代謝関連指標と臓器機能のバイオマーカーを媒介因子として設定し、それらの関連の程度を明らかにした初の研究」だという。結果として、「植物性食品ベースの食事スタイルは、単に体重や内臓脂肪の増加を抑制するにとどまらず、炎症の抑制、腎臓や肝臓の機能の維持・改善を介して、2型糖尿病リスクを低下させることが示された」と、結論付けられている。

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GLP-1受容体作動薬の処方された患者さんへのライフスタイル指導【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第45回

■外来NGワード「きちんと注射しなさい!」(食事療法や運動療法については説明せず)「この注射をすれば、痩せますよ」(副作用について説明せず)■解説GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療薬であり、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進するGLP-1(Glucagon-like peptide-1)に基づいています。このクラスの薬物は血糖改善だけでなく、減量効果も期待されます。わが国では2010年に初めてリラグルチド(商品名:ビクトーザ)が上市され、その後にエキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)、デュラグルチド(同:トルリシティ)、セマグルチド(同:オゼンピック)など、現在では5つの注射製剤が利用可能です。あと、GIPも加えたGIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(同:マンジャロ)もあります。ただし、GLP-1受容体作動薬を使用する際には、開始直後に嘔気や嘔吐などの消化器症状がよくみられます。これらの症状は通常、時間が経つと軽減する傾向がありますが、患者さんに対しては、事前に十分な説明が必要です。なぜなら、突然の症状に驚いて治療アドヒアランスが低下する可能性があるからです。重大な有害事象としては、腸閉塞が挙げられます。腹部手術の既往がある患者さんや腸閉塞のリスクを抱える患者さんでは、慎重な投与と定期的なモニタリングが必要です。また、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(同:ウゴービ皮下注)は、肥満症治療薬としても認可されています。臨床試験では、セマグルチドを使用した群では平均で体重が13.2%減少したことが示され、その効果は脳の中枢を刺激して食欲を抑え、胃の運動を制御することによるものです。最大投与量が2.4mgまでできるため、強力な効果が期待される一方で、吐き気、下痢、便秘などの副作用には慎重に対処する必要があります。患者さんには副作用を十分に説明し、ライフスタイルの改善により最小限の用量で管理するように指導することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者食事や運動に気を付けているんですが、血糖がなかなか下がりません。医師それでは、この週1回の注射薬を試してみましょうか。患者注射薬ですか、毎日、注射できるかな…(心配そうな顔)。医師大丈夫です。これは週に1回の注射なので、休みの日などゆっくりとした日に試してみてください。患者それなら、できそうです。医師この薬は血糖値が高いときには膵臓を刺激してインスリンを出して血糖値を改善するんですが、脳にも働いて食欲を抑えることで減量効果も高めます(薬の作用について説明)。患者えっ、それなら私にもピッタリですね。医師ただし、副作用については注意してください。注射してからすぐに、吐いてしまうことがあります。とくに、このくらいならいけると余分なものを食べたり、食べ過ぎたりするのは禁物です。患者了解しました。食べ過ぎは禁物ということですね。医師そうです。薬も少なめから徐々に増やしていこうと思っています。その方が、副作用がでにくいので…。患者それは安心です。それで、お願いします。医師この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり、お菓子類を目につかない所に置く、ヘルシープレートを使うなどのダイエット作戦を併用しておくといいですよ。ここにパンフレットがありますので、是非、試してみてください。患者はい。ありがとうございます(嬉しそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「この薬の副作用を予防するには、余分なものを食べない、食べ過ぎたり飲みすぎたりしないことが大切ですよ」「この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり(セルフモニタリング)、お菓子類を目につかない所に置く(刺激統制法)、ヘルシープレートを使う(ポーションコントロール、などのダイエット作戦を一緒にやるといいですよ!」 1)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.2)Capehorn MS, et al. Diabetes Metab. 2020;46:100-109.

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経口GLP-1受容体作動薬の処方された患者さんへの服薬指導【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第44回

■外来NGワード「朝食前に飲みなさい」(正しい服用法を説明しない)「たっぷり水を飲んで服用しなさい」(間違った説明をする)■解説代表的なインクレチンであるGLP-1は、小腸下部のL細胞から分泌され、膵β細胞でのインスリン分泌を促進し、膵α細胞でのグルカゴン分泌を抑制します。同時に中枢での摂食抑制ホルモンとしても機能します。これまでGLP-1受容体作動薬はペプチドであり、経口投与しても消化酵素によって分解されてしまい吸収されませんでした。そのため、主に注射薬として使われていました。しかし、経口セマグルチドのリベルサス(商品名)は、吸収促進剤であるサルカプロザートナトリウム(SNAC)を添加することで、胃からの吸収が可能となりました。これが国内初の経口GLP-1受容体作動薬です。この薬は胃内で主に吸収され、SNACがもつ局所でのpH緩衝作用によりセマグルチドの酵素的分解が抑制され、吸収が促進されます。また、SNACによってセマグルチドのモノマー化も促進される仕組みです。薬物動態解析によれば、経口投与後のセマグルチドの絶対的なバイオアベイラビリティは、約1%と推定されています。セマグルチドの吸収を高めるためには、空腹時にコップ半分(120mL以下)の水で服用する必要があります。また、経口セマグルチドの吸収には食事が影響を与えることが確認されています。そのため、服用後は少なくとも30分間は飲食や他の薬剤の経口摂取を避ける必要があります。経口セマグルチドの適応は「2型糖尿病」で、用法用量は「1日1回3mgから始め、4週間以上投与した後、1日1回7mgに増量する」ことが推奨されています。患者の状態により適宜増減させることも可能で、1日1回7mgを維持しても効果が不十分な場合は、1日1回14mgに増量することも考慮されています。服用は14mg錠を1錠摂取し、分割・粉砕・噛むことは避けなければなりません。さらに、湿気と光の影響を受けやすいので、服用直前に錠剤をシートから取り出す必要があります。また、ミシン目以外で切れないため、偶数日数で処方する際には、その点に留意する必要があります。患者さんの朝のルーチンに合わせ、服用後の30分間を有意義に過ごす工夫を一緒に考え、指導することが求められます。■患者さんとの会話でロールプレイ患者食事や運動に気を付けているんですが、血糖値がなかなか下がりません。医師それでは、この薬を試してみましょうか。患者どんな薬なんですか?医師これは小腸から出るGLP-1というホルモンを模倣した薬で、普通は注射薬なんですが、この薬は特別な薬で…。患者特別って?医師吸収を高めるために、特許技術が採用されているんですよ。ですから服用方法を守らないと、ほとんど吸収されません。患者えっ、そうなんですか。どんな風に服用したらいいんですか?医師朝のルーチンを教えてもらえますか?患者7時頃に起きて、顔を洗って7時20分頃にパンとコーヒーの朝食を済ませて…。医師なるほど。この薬は、空腹時に服用します。食べたり、飲んだりすると薬の吸収率が下がるので、コップ半分の水(120mL以下)で飲んで、30分経ってから飲み物を飲んだり、食事をしたり、他の薬を飲んだりすることができます。患者そうすると、薬を飲んですぐにコーヒーはだめですね。医師そうですね。この薬は主に胃で吸収されるのですが、1%くらいしか吸収されないとも言われています。是非、この薬の高める朝のルーチンにして頂けますか。患者はい。わかりました(嬉しそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「この薬は、空腹時に服用します。食べたり飲んだりすると薬の吸収率が下がるので、コップ半分の水(120mL以下)で飲んで、30分経ってから飲み物を飲んだり、食事をしたり、他の薬を飲んだりすることができます」 1)Buckley ST, et al. Sci Transl Med. 2018;10:eaar7047.2)Bækdal TA, et al. Diabetes Ther. 2021;12:1915-1927.

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初潮発来が早いと糖尿病リスクが高い

 より低年齢の時期に月経が始まった女性は、成人後の2型糖尿病リスク、および2型糖尿病に伴う65歳以前の脳卒中リスクが高くなる可能性を示すデータが報告された。米チューレーン大学のSylvia Ley氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition Prevention & Health」に12月5日掲載された。 これまでにも初潮発来(初めての月経)の早さが肥満や2型糖尿病、心血管疾患のリスクの高さと関連のあることが報告されてきているが、それらの研究は閉経後の女性のみを対象にしているなど、解釈上の限界点があった。そこでLey氏らは、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、20~65歳という幅広い年齢の女性を対象として、初潮年齢と2型糖尿病や心血管疾患(CVD)のリスクとの関係を検討した。 解析対象数は1万7,377人。糖尿病やCVDのリスクに影響を及ぼし得ることを考慮して、がん既往歴のある女性は除外されている。初潮年齢は自己申告に基づき、10歳以下、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳以上に分類した。対象全体の10.2%に当たる1,773人が、2型糖尿病であることを報告した。年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病家族歴、教育歴、出産歴、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行の影響を調整後に、初潮年齢が13歳だった人を基準として2型糖尿病発症リスクを比較。すると、初潮発来が早かった女性ほど2型糖尿病発症リスクが高いという関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.03)。 次に、糖尿病患者におけるCVDリスクと初潮年齢との関連を検討。前記と同様の手法による解析の結果、CVD全体では初潮年齢との有意な関連は認められなかった(傾向性P=0.09)。ただし、CVDを冠動脈心疾患(CHD)と脳卒中に分けて解析すると、脳卒中については初潮発来が早いほどそのリスクが高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.02)。特に初潮年齢が10歳以下だった2型糖尿病患者では、13歳に初潮発来のあった2型糖尿病患者に比べて、65歳以前での脳卒中発症のオッズ比(OR)が2倍を超えていた〔OR2.66(95%信頼区間1.07~6.64)〕。CHDの発症に関しては、初潮年齢との関連が見られなかった(傾向性P=0.51)。 なぜ、初潮発来が早いと2型糖尿病やそれに伴う脳卒中のリスクが高いのだろうか。研究グループでは、ジャーナル発のリリースの中で、「本研究は横断研究であって、関連のメカニズムについては特定できない」としながらも、「人生のより早い時期に月経が始まった女性は、より長期間にわたりエストロゲン(女性ホルモン)に曝露されることが関係している可能性もあるのではないか」との推測を記している。また論文中に既報研究からの考察として述べられているところによると、エストロゲンの一種のエストラジオールは、インスリン受容体の切断を誘導してインスリンシグナル伝達を阻害するという、潜在的な作用を持つ可能性があるとのことだ。

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第178回 COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症

<先週の動き>1.COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市1.新型コロナウイルス感染症の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が国内で初めて確認されてから4年が経過し、ウイルス感染後の後遺症が重要な課題となっている。世界保健機関(WHO)は「症状が少なくとも2ヵ月以上続き、ほかの病気の症状として説明がつかないもの」と定義し、通常はCOVID-19発症から「3ヵ月たった時点にもみられるもの」とされている。後遺症には疲労感、呼吸困難、集中力の低下など200以上のさまざまな症状が報告されており、北野病院の調査によると、後遺症患者のうち女性は68.8%で、男性は31.2%と女性が多かった。とくに働き盛りの年代で発症しやすい傾向があることが判明している。後遺症の原因としては、持続感染、免疫機能の異常、腸の具合の悪化などが指摘されている。また、後遺症の患者の約7割が女性であり、主な症状には倦怠感が最も多いことがわかってきた。後遺症のメカニズムについて、免疫機能に関わる物質の変化や、コルチゾールの減少、リンパ球の増加、ヘルペスウイルスの再活性化などが関連していることが示されている。ただ、後遺症の予防には、ワクチン接種が有効であり、ワクチン接種によって後遺症の発症を抑える効果があることが報告されている。一方で、治療法はまだ確立されておらず、対症療法が主になっている状況。後遺症の患者支援に、時短勤務や産業医の支援などが必要とされている。参考1)新型コロナ 国内で初確認から4年 感染と後遺症への対策が課題(NHK)2)多様なコロナ後遺症 国内発生4年 不明だった実態、徐々に明らかに(朝日新聞)3)コロナ後遺症、発症者の7割が女性 倦怠感が最多 民間病院調査(毎日新聞)4)働き盛りの女性がコロナ後遺症になりやすく 予防するには?(同)2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省厚生労働省は、1月15日に「大学病院に勤務する医師の教育・研究活動に関連する「研鑽」を労働時間に含めるべき」とする通知を改正した。これは、医師の働き方改革の一環として行われたもので、2024年4月から勤務医の時間外労働に上限が設けられることに伴う措置。改正された通知では、大学病院勤務医の教育・研究活動が本来の業務に含まれることを明示し、これに関連する研鑽も労働時間に該当するとされた。具体的には、医学部生への講義、試験問題の作成・採点、学生の論文指導、入学試験や国家試験に関する事務などが含まれる。この改正は、教育・研究活動が自己研鑽として扱われることによる時間外労働の問題を解決するためのもので、医師と上司間のコミュニケーションを重視し、正しい理解を促すことを目的としている。参考1)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について(厚労省)2)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について 新旧対照表(同)3)大学病院勤務医、教育・研究の「研鑽」は労働に該当 厚労省が明示(朝日新聞)3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省厚生労働省は、2022年度の保険医療機関と薬局に対する指導・監査の結果、不正請求などで保険指定が取り消された施設は計18件(取り消し相当を含む)であったことを明らかにした。厚労省の指導・監査によって、医療機関や薬局からの返還総額は約19.7億円となり、コロナ感染拡大の影響もあり前年度からは約28.7億円減少していた。取り消し処分を受けた施設の内訳は、医科7件、歯科9件、薬局2件で、医療保険者や医療機関の従事者からの通報・情報提供が処分のきっかけとなったケースが多かった。また、保険医や保険薬剤師の登録取り消しは計14人に上った。不正請求の内容は架空請求、付増請求、振替請求など多岐にわたり、監査は診療内容や診療報酬の請求に不正やいちじるしい不当が疑われる場合に実施された。指導・監査の実施件数は、個別指導が1,505件、新規個別指導が6,742件、適時調査が2,303件、監査が52件となっている。参考1)令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省)2)保険医療機関・薬局の指定取消計18件 22年度、返還19.7億円(CB news)3)不正請求等で18件・14人の医師等が保険指定取り消し等の処分、診療報酬20億円弱を返還-2022年度指導・監査(Gem Med)4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市三重県松阪市は、2024年6月1日から、市内の3つの基幹病院(松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院)に救急搬送されたが入院に至らなかった患者に対し、保険適用外の「選定療養費」として1件あたり7,700円(税込み)を徴収することを発表した。この措置は、救急車の過剰利用に歯止めをかけるために行われる。松坂市の救急車の出動件数は、2023年に過去最多の1万6,180件に達し、市は現行の医療体制が限界に近付いていると判断した。この新しい制度は、軽症者に救急車以外の選択肢を促し、医療従事者の負担軽減と緊急患者への適切な医療提供を目指している。ただし、紹介状を持参した患者や公費負担医療制度の対象者、医師の判断で必要とされる場合は徴収対象外とされる。参考1)6月から1件7,700円を徴収 救急車“便利使い”歯止め 三重・松阪市(夕刊三重)2)救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは(Merkmal)3)三重・松坂の救急搬送、入院しなかったら「7,700円」徴収へ…出動急増で「助かる命が助からない」(読売新聞)5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市京都市の京都第一赤十字病院の脳神経外科で、手術の説明や記録が不十分だった事例が発覚し、京都市は同病院に対して改善を求める行政指導を行った。この問題は、病院関係者からの通報を受け、京都市が立ち入り検査を実施した結果、明らかになったもの。市の調査では、脳腫瘍やくも膜下出血などの手術において、患者や家族への説明の不備や、医療安全管理委員会への報告不足が確認された。さらに、手術や治療後に患者が死亡した12件の重大なケースについても、市は再検証を要求している。京都第一赤十字病院は、行政指導を真摯に受け止め、適切に対応する意向を示している。参考1)手術説明不十分、京都第一赤十字病院に行政指導 患者死亡の重大事例12件も(産経新聞)2)京都第一赤十字病院、手術の説明や記録で不適切対応 京都市が行政指導(京都新聞)3)手術の説明や記録不十分 京都市が病院に改善求める行政指導(NHK)6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市神戸市の神戸徳洲会病院で、70代の男性患者が糖尿病の治療を受けずに死亡した問題について、神戸市は医療法に基づく改善命令を出す方針を固めた。この患者は新型コロナウイルス感染症に感染し、肺炎の悪化により一時的に大学病院に転院した後、徳洲会病院に戻ったが、糖尿病の持病があるにも関わらず、主治医である院長がこれを見落とし、インスリンの投与などの必要な治療が行われていなかった。同病院は、この事態を内部で検証したが、結論を出さずに放置していたとされている。神戸徳洲会病院は、以前から安全管理体制に問題があり、昨年8月にはカテーテル治療を受けた別の患者が複数死亡した事件に関連して行政指導を受けていた。兵庫県内で医療法に基づく改善命令が出されるのはこれが初めて。参考1)糖尿病既往歴見落とし、入院患者死亡 神戸徳洲会病院に改善命令へ(毎日新聞)2)神戸徳洲会病院に市が改善命令へ 入院患者に糖尿病治療行わず(NHK)

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「GLP-1受容体作動薬ダイエット」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第43回

■外来NGワード「あなたには使えません」(保険適用について説明せず)「この薬を使えば、痩せますよ!」(食事と運動療法について説明せず)■解説最近、「GLP-1ダイエット」という言葉が注目を集めています。SNSでは、単品ダイエット、脂肪燃焼スープ、食事時間制限、レモンコーヒーなどとともに、「GLP-1ダイエット」というワードが頻繁に検索されています。GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン抑制や胃内容物排出遅延を介して血糖改善作用を発揮するだけでなく、食欲抑制を通じて減量効果も期待されます。肥満症を対象とした「セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)」の適応は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病を有し、かつ食事療法や運動療法が不十分な場合、かつBMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある、またはBMIが35以上の患者に限定されています。ところが、「GLP-1ダイエット」では、「初診からオンラインで診察可能、自宅で手軽に実施でき、食事制限や運動不要で、太りにくい体質になる」などといった宣伝文句が並んでいます。一部には自己調整可能な投与量を強調するものも見受けられます。そのうえ、自由診療であるので価格が高額である一方で、副作用については詳細な説明が不足しています。その結果、副作用が発生した場合には、保険診療の医療機関を受診する必要が生じます。そして、自由診療においてGLP-1受容体作動薬が処方されることで、本来必要な糖尿病患者への供給が追いつかないとの指摘もあります。また、自由診療で処方された患者は、適切なライフスタイルの改善方法について充分な説明がなされていないため、薬を中止した際のリバウンドを心配しています。こうした「GLP-1ダイエット」の問題点について適切に理解し、説明することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者この間、SNSを検索していたら、「GLP-1ダイエット」というのがでてきたのですが、どうですか?(糖尿病がない肥満者)医師最近、美容の世界や個人輸入している人もいるそうですね。患者痩せるんですか?医師正しく使えばね。ただし、自己流は禁物です。患者副作用はありますか?医師もちろん。薬ですから、副作用はありますよ。吐き気や嘔吐、胃腸障害など…。あと、専門家の指導のもとで薬の量を調整しないと、低血糖などで救急搬送された例もあるそうですよ。患者えっ、それ怖いですね。医師それに、薬を止めたら、体重がリバウンドするかもしれませんからね。患者確かに、ただ単に薬を飲むだけじゃ、痩せないということですね。医師そうです。こういった肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。そうすることがリバウンド予防になります。患者食事と運動はどんなことに気を付けたらいいですか?(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「ただ、薬を飲むだけでは痩せることはできませんし、止めたらリバウンドは必至です。肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。その方が、最小限の薬になって副作用も少ないですし、薬を止めた際にもリバウンド予防につながります」 1)Ansari H UI H, et al. Endocr Pract. 2023:23;758-759.Endocr Pract. 2023 Nov 27.[Epub ahead of print]2)日本肥満学会、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント3)最適使用推進ガイドラインセマグルチド(遺伝子組換え)

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インスリン療法を行っている妊娠中の糖尿病に、メトホルミンを追加することの意義は?(解説:小川大輔氏)

 妊娠前から2型糖尿病と診断されている方でも、妊娠後に糖尿病と診断された方でも、妊娠中の糖尿病の管理は食事療法とインスリン療法が基本となる。日本では妊婦に対するメトホルミンの投与は禁忌とされているが、海外では使用が可能となっている。糖尿病合併妊娠あるいは妊娠糖尿病患者を対象に、インスリン療法に加えてメトホルミンを追加した際の新生児期の有害事象に対する効果を検討した結果がJAMA誌に発表された1)。 米国17ヵ所の医療機関で、妊娠前に2型糖尿病と診断されている、または妊娠23週以前に妊娠糖尿病と診断されたインスリン治療中の被検者831症例を対象に、メトホルミン1,000mgを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは周産期死亡、早産、新生児低血糖、在胎不当過大児あるいは在胎不当過少児、光線療法を必要とする高ビリルビン血症といった新生児複合有害事象であった。 多く認められた有害事象は早産、新生児低血糖、在胎不当過大児であり、主要アウトカムの発生率はメトホルミン群71%、プラセボ群74%と有意差はなかった。副次アウトカムも両群間で有意差を認めなかった。ただ、新生児複合有害事象の1つである、在胎不当過大児についてはメトホルミン群で有意にイベントが少なかった。著者らはこの効果について、さらなる検討が必要であると考察している。 今回の試験で、妊娠糖尿病あるいは2型糖尿病の妊婦に対し、メトホルミン追加投与による新生児有害アウトカムの抑制効果は示されなかった。インスリンを用いて厳格に血糖を管理すれば新生児の有害事象は減るので、その状況でメトホルミンを上乗せしてもさらなる効果は期待できないのかもしれない。しかし、インスリン療法にメトホルミンを追加することにより、新生児低血糖、在胎不当過大児、妊娠高血圧などのリスクが低下し、また早産や在胎不当過少児、周産期死亡などの有害事象は増加しないというメタ解析の報告もある2)。妊娠糖尿病でも肥満合併例やインスリン抵抗性の強い妊婦を対象として、インスリン療法にメトホルミンを併用する試験が行われることを期待したい。

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歩く速さが糖尿病リスクと相関

 歩行速度が速い人ほど糖尿病リスクが低いという関連性を示す研究結果が報告された。セムナン医科大学(イラン)のAhmad Jayedi氏らが行ったシステマティックレビューの結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に11月28日掲載された。 この研究では、PubMed、Scopus、CENTRAL、Web of Scienceなどの文献データベースに2023年5月30日までに収載された論文から、成人の歩行速度と2型糖尿病のリスクとの関連を調査した研究を検索。米国、英国、日本で行われた計10件のコホート研究が特定された。それらの研究参加者は合計50万8,121人で、観察期間は3~11年だった。 プール解析の結果、歩行速度が時速3.2km未満の場合と比較して、時速3.2~4.8kmの場合〔該当する研究数4件、信頼性(GRADE)低〕は、2型糖尿病のリスクが15%低かった〔相対リスク(RR)0.85(95%信頼区間0.70~1.00)〕。時速4.8~6.4km〔研究数10、GRADE低〕ではリスクが24%低く〔RR0.76(同0.65~0.87)〕、さらに時速6.4km/時超の場合〔研究数6、GRADE中〕は39%低いことが分かった〔RR0.61(同0.49~0.73)〕。 これらのデータを基に2型糖尿病患者数への影響を推算すると、時速3.2~4.8kmの歩行速度では100人当たり0.86人、時速4.8~6.4kmでは1.38人、時速6.4km/時超では2.24人、患者数の減少につながると予測された。また、用量反応解析からは、2型糖尿病リスクの有意な低下が認められる歩行速度は、時速4km以上の場合であり、それ以上のスピードでは、時速1km速くなるごとにリスクが9%ずつ低下する可能性が示された。なお、時速4kmという速度で歩くための歩数は、男性では1分当たり87歩程度、女性では100歩程度だという。 これらの結果を基に研究グループは、「健康のためにウォーキングの時間を増やすという、現在よく行われている戦略は有益に違いないが、健康上のメリットをさらに高めるために、より速い速度での歩行を奨励することが合理的ではないか」と、ジャーナル発のリリースの中で語っている。ただし、この研究結果は因果の逆転を見ている可能性もあるため、解釈には注意を要するとも述べている。つまり、歩行速度が速い人は身体的に健康であり、心肺機能が高くて筋肉量が多く身体活動量も多いという、もともと2型糖尿病のリスクが低い人である可能性もあるということだ。 とは言え、早歩き自体に減量効果があり、肥満者や過体重者であれば体重が減るとともにインスリン感受性が良好になって、2型糖尿病リスクが低下することも確かなことだ。なお、本研究では、歩行速度の速さと2型糖尿病リスクの低さとの関連は、1日の総身体活動量や歩行に費やす時間にかかわらず認められた。 論文の結論は、「解析対象となった研究の信頼性は低~中程度であり、バイアスリスクが高い研究が多かったが、より速い速度で歩くほど2型糖尿病のリスクがより低下する可能性を示唆している」と総括されている。

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TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子

 中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。 TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。 2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。 まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。 次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。 続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。 BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。 著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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