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入院患者の不眠症治療における催眠鎮静薬減量のための薬剤師介入

 多くの患者において入院は不眠症の原因となり、通常は対症療法で治療が行われる。しかし、催眠鎮静薬の誤った使用は、とくに高齢入院患者において合併症と関連している。この合併症には、めまい、転倒、過鎮静が含まれる。このような潜在的な危険性のため、とくに高齢者においては、不眠症に対する催眠鎮静薬の広範な使用は、多くの病院で推奨されていない。サウジアラビア・King Abdulaziz University Faculty of PharmacyのAisha F. Badr氏らは、処方パターンの検討および評価を行い、地域病院における日々の薬剤師介入を通じた催眠鎮静薬の使用最適化について検討を行った。Saudi Pharmaceutical Journal誌2018年12月号の報告。 本研究は、前後比較研究として催眠鎮静薬の使用や合併症発症などについて、薬剤師による介入前と介入後で比較を行った。催眠鎮静薬の使用に関するデータを2ヵ月間レトロスペクティブに収集し、分析のために100例の患者サンプルをランダムに選択した。2ヵ月間のフォローアップでは、薬剤師1名が日々の処方を検討し、必要に応じて不要薬の中止や催眠鎮静薬の新規処方の勧告を行った。介入前後における結果は、患者の人口統計学的要因の違い、複数の催眠鎮静薬の処方、合併症の記録について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・薬剤師の介入により、97例の患者の25%が催眠鎮静薬を中止した。・複数の催眠鎮静薬を投与されている患者数は、介入後のほうが介入前よりも有意に少なかった(15例 vs.34例、p=0.0026)。・合併症の発生率は、介入前後で有意な差は認められなかった(過鎮静:p=0.835、転倒:p=0.185、せん妄:p=0.697)。 著者らは「救命救急を除く入院患者において、催眠鎮静薬の使用は広まっている。また、多くの患者が複数の催眠鎮静薬を服用している可能性もあり、潜在的な問題が蓄積する可能性がある。薬剤師介入により、催眠鎮静薬を処方されている入院患者の25%が使用を中止し、複数の催眠鎮静薬使用患者も有意に減少した。入院患者に対する不必要な催眠鎮静薬の使用を避け、薬剤師によるモニタリングが最適化されるよう、さらなる努力を行うべきである」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデートメラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか

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米国総合診療医の「時間がない」は本当か/BMJ

 米国のプライマリケアに従事する総合診療医(general practitioner:GP)の「患者との共同意思決定(shared decision making:SDM)や、予防的ケアをする時間がない」という主張について、米国・ミシガン大学のTanner J. Caverly氏らがマイクロシミュレーション試験で調べた結果、これまで広く持たれてきた疑念「GPは貴重な時間を“個人的なケア”の活動に費やしている」ことが確認されたという。著者は、「ひとたび個人的な時間が膨大であることを知らしめれば、プライマリケアの権威者は、増大している臨床的要求に、より多くの個人的な時間を再割当するようGPを“説得する”ための方法を、試しはじめることができるだろう」と述べている。BMJ誌2018年12月13日号(クリスマス特集号)掲載の報告。予防的介入のSDMに必要な時間を算出 マイクロシミュレーション試験はモンテカルロ法を用いて、米国のプライマリケアを対象に行われた。米国国民健康栄養調査(NHANES)から抽出した、米国での年間の仕事時間と患者パネルサイズ(2,000例)を代表するGP 1,000例をサンプルとした。 主要評価項目は、予防的ケアに利用できる時間に関して、高度に推奨されている予防的介入のためのSDMに必要な時間、prevention-time-space-deficit(すなわち、医師が足りないと言っている分のtime-space)であった。現状で費やしている時間は1日29分に対し、必要としている時間は6.1時間 平均して、GPが予防的ケアサービスについて患者と話し合うために費やしていた時間は、平日1日につき29分(受診者1人につきちょうど2分)であった。一方で、GPが予防的ケアに関するSDMを完璧にこなすのに必要としている時間は、6.1時間であった。 たとえSDMのために必要な時間がコンサバティブ(すなわち、ばかばかしいほど希望的)な時間であっても、試験サンプルであるGPの全員がprevention-time-space-deficit(平均5.6時間/日の不足)を経験していた。しかしながら、平日にGPが利用していない時間には、仕事に再割当できる、身だしなみやセルフケア、レジャー、不要な睡眠などといった個人的な時間が含まれていた。このことから時間不足は、個人的な時間を減らし、その分を仕事にシフトすれば容易に克服可能であった。たとえば、バスルームでの休憩の頻度を1日おきにする、年長の子供と一緒にいる時間を省略する(どのみちそれほど一緒にいることが好きではないだろうから)などで可能だろう。

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とうとうCONSENSUS試験が古典になる日が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)-966

オリジナルニュース急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA(2018/11/16掲載) 今年のAHAは豊作であった。Late breakingでDECLARE試験の発表があり、そしてsacubitril/バルサルタン(ARNi:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の新たなエビデンスがこのPIONEER-HF試験1)で加わった。2014年にARNiがACE阻害薬とのRCT(PARADIGM-HF試験)2)でHFrEFの予後を改善することが示されたのは衝撃であり、1987年CONSENSUS試験3)以来王座を死守してきたACE阻害薬の牙城が崩れたかに思えた。しかし、FDAの認可基準はあくまでもRAS阻害薬を含むGDMTを4週間以上施行してなお心不全症状の残ったHFrEF患者に対するACE阻害薬またはARBからの切り替え、というものであり、de novoの患者に最初から投与することはできなかった。 このPIONEER-HF試験はタイトルを読むといかにも急性心不全に対する効果をみたような印象を受けるが、そうではない。非代償性心不全で入院した患者を対象とはするものの、血行動態を安定化させてから神経体液性因子の阻害薬を導入または増量するフェーズでARNiにするか、ACE阻害薬にするかに割り付けたものである。であるからして、亜急性期と言って良いが、NT-proBNPは入院時に4,000台後半から割り付け時には2,000台後半になっており、かなりよくコントロールされた状態での開始である。もともと8週間しか観察期間を設けておらず、短期間なのでプライマリーエンドポイントはNT-proBNPの変化率である。 今回、NT-proBNPの減少率がARNiで有意に大きかったことから、この試験としては成功であり、そのあとのことはPARADIGM-HF試験での長期予後で外挿すれば足りると考えられる。観察時間が短いことから、大半の臨床的エンドポイントは有意差がつかなかったが、重篤な複合エンドポイント(死亡、心不全再入院、VAD植込み、移植登録)は46%減少した。このようなデータを見るとACE阻害薬はいずれARNiに取って代わられるのは決定的であると感じた。この試験の骨子はサロゲートマーカーがより改善したというだけであり、それだけを見るとなぜNEJM? なぜラストオーサーがBraunwald?と首をひねるところであるが、ACE阻害薬からの切り替えしか認められていないところを大きく変えるデータとしてのインパクトがある。 このPIONEER-HF試験の対象患者の3割はde novo患者であり、半分以上RAS阻害薬が投与されていない。すなわち、血行動態が安定したら速やかにARNiを最初から導入したほうが良いということであり、もはやACE阻害薬の出番は非常に限定的とならざるをえない。ただし、ARNiは降圧作用が強く、これまでの臨床試験では収縮期血圧100mmHg以上をエントリー基準としている。実臨床的にはこれ以下の重症例も存在するので、その場合にはACE阻害薬を少量で開始してということになるかもしれない。わが国における臨床試験はPARALLEL-HF 4)という名前ですでに開始されており、いずれ承認される見込みである。 ただ、わが国において使用する場合、用量設定がやや気にかかる。最小用量の剤型がsacubitril 24mg+バルサルタン26mgを1日2回であり、1日量としてバルサルタンが52mgであるが、配合剤にしたことで力価が変わるようで80mg相当になるそうである。心不全患者で現状バルサルタン80mgを初期量として処方することは少ないと考えられる。もう半分量の剤型があれば使い勝手が良いと思う。また、最大用量の剤型はsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回でバルサルタン320mg相当ということであるが、わが国においてバルサルタン320mgを飲んでいる人は高血圧患者といえども皆無であると思われる。そもそも最大承認用量が160mgである。 PARALLEL-HF試験では最大用量をsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回と海外同様に設定しており、実際どの程度日本人で忍容性があったかも興味深い。いずれにせよ、長年HFrEF治療の金字塔であったCONSENSUS試験が文献的価値のみを有する日がすぐそこまで来ているようだ。

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低用量メトトレキサートは冠動脈疾患例のMACEを抑制せず:CIRT/AHA

 LDLコレステロール(LDL-C)を低下させることなくアテローム性動脈硬化性イベントを抑制したCANTOS試験は、心血管系(CV)イベント抑制における抗炎症療法の重要性を強く示唆した。メトトレキサート(MTX)も、機序は必ずしも明らかでないが抗炎症作用が知られている。また関節リウマチ例を対象とした観察研究や非ランダム化試験では、低用量MTXによるCVイベント抑制作用が報告されている。ではMTXも、アテローム性動脈硬化性イベントを減少させるだろうか? ランダム化試験"CIRT"の結果、その可能性は否定された。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、11月10日、CANTOS試験の報告者でもある米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul Ridker氏が報告した。対象は炎症亢進例に限定せず CIRT試験の対象は、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの標準的治療下にあった、安定冠動脈疾患4,786例である。平均年齢は66歳、20%弱が女性だった。61%が心筋梗塞既往例で、残りは糖尿病/メタボリックシンドローム合併多枝病変1次予防例である。CANTOS試験とは異なり、「高感度C反応性蛋白(hs-CRP)高値」は導入条件となっていない。 これら4,786例は全例が葉酸1mg/日を服用の上、低用量(15~20mg/週)MTX群(2,391例)とプラセボ群(2,395例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された(早期中止)。MTXの用量は、臨床検査値と症状に基づいて、詳細なアルゴリズムに従い、必要があれば2ヵ月ごとに変更された。1次エンドポイントはプラセボと有意差なし、皮膚がんは有意増加 その結果、2.3年間(中央値)の追跡期間後、当初の1次エンドポイントであるMACE(心血管系[CV]死亡・心筋梗塞・脳卒中)のリスクは両群間に有意差を認めなかった(MTX群:3.46%/年、プラセボ群:3.43%/年、p=0.91)。盲検解除前に追加されたもう1つの1次エンドポイント「MACE・緊急血行再建が必要となる不安定狭心症」でも、同様だった(MTX群:4.13%/年、プラセボ群:4.31%/年、p=0.91)。 一方、肝機能異常、白血球減少症の発現はMTX群で有意に多く、基底細胞がん以外の皮膚がんが有意に増えていた(33例 vs.12例、p=0.0026)。炎症性サイトカインも減少せず Ridker氏が強調したのは、炎症性サイトカインの変化が、CANTOS試験と異なっていた点である。すなわち、インターロイキン-1β(IL-1β)抗体を用いたCANTOSではIL-1βはもとより、IL-6、hs-CRPも減少していたが、CIRTではいずれのマーカーの低下も認めなかった。このためCVイベント抑制には、IL-1βからCRP産生に至る経路の遮断が重要と考えられた。Ridker氏は、NLRP3インフラマソームやIL-6をターゲットにした治療による、CVイベント抑制の可能性を指摘した。 本試験は米国NHLBIからの資金提供を受けて行われた。また発表と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「速報!AHA2018」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。■関連記事メトトレキサート、重症円形脱毛症に有効

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急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA

 アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、2014年に報告されたPARADIGM-HF試験において、ACE阻害薬を上回る慢性心不全予後改善作用を示した。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会ではそれに加え、急性心不全に対する有用性も示唆された。11月11日のLate Breaking Clinical TrialsセッションでEric J. Velazquez氏(米国・イェール大学)が報告したランダム化試験"PIONEER-HF"である。急性心不全入院例が対象 PIONEER-HF試験の対象は、急性非代償性心不全(左室駆出率[LVEF]≦40%、NT-proBNP≧1,600pg/mL または BNP≧400pg/mL)で入院後、血行動態が安定した881例である。平均年齢は61歳、72%が男性だった。 これら881例はARNi(海外商品名:Entresto)群とACE阻害薬(エナラプリル)群にランダム化され、二重盲検法で8週間追跡された(それぞれ対照薬のプラセボも服用)。ランダム化時のLVEFは約25%、収縮期血圧は118mmHgだった(いずれも中央値)。ARNiでNT-proBNP濃度が有意に低下、予後改善の可能性も その結果、1次エンドポイントである8週間後のNT-proBNP濃度低下率は、ARNi群(46.7%)でACE阻害薬群(25.3%)に比べ、有意(p<0.0001)に高値となった。両群ともNT-proBNP濃度は経時的に低下し続けたが、群間差は、試験開始1週間後の時点ですでに明らかになっていた。 また、探索的エンドポイントではあるものの、56週間の「死亡・心不全再入院・LVAD植え込み・心移植待機リスト登録」リスクも、ARNi群で有意に低くなっていた(ハザード比:0.54、95%信頼区間:0.37~0.79、9.3% vs.16.8%)。14例をACE阻害薬からARNiに切り替えると、1例でこれらのイベントを回避できる計算になる。 これらの有効性は、「心不全既往の有無」「レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用例の有無」にかかわらず認められた。 一方、2次エンドポイントである「腎機能増悪」や「高カリウム血症」「症候性低血圧」「血管浮腫」の発現率は、両群間に有意差を認めなかった。 本試験はNovartisの資金提供を受けて行われた。また報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。なおEntrestoは、HFpEF例の心血管系死亡・心不全入院抑制作用をARBと比較するランダム化試験"PARAGON-HF"が進行しており、来年3月に終了予定である。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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TG低下療法によるCVイベント抑制作用が示される:REDUCE-IT/AHA

 スタチン服用下でトリグリセライド(TG)高値を呈する例への介入は、今日に至るまで、明確な心血管系(CV)イベント抑制作用を示せていない。そのような状況を一変させうるランダム化試験がREDUCE-IT試験である。その結果が、米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の11月10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションで報告された。精製イコサペンタエン酸エチル(EPA-E)を用いた服用で、プラセボに比べ、CVイベントリスクは、相対的に25%の有意減少を認めた。スタチン服用下で高TGを呈するCV高リスク例が対象 REDUCE-IT試験の対象は、スタチン服用下でTG「150~499mg/dL」の、1)CV疾患既往例(2次予防:5,785例)、2)CVリスクを有する糖尿病例(高リスク1次予防:2,394例)である。LDLコレステロール(LDL-C)「≦40mg/dL」と「>100mg/dL」例、魚類に対する過敏症例などは除外されている。 平均年齢は64歳、30%弱が女性だった。試験開始時のTG値の平均は216mg/dL、全体の60%が「TG≧200mg/dL」だった。 これら8,179例はEPA-E群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で4.9年間(中央値)追跡された。EPA-EでTGは低下、HDL-Cは増加せず まず脂質代謝の変化を見ると、試験開始1年後、EPA-E群のTG値は175mg/dLへ有意に低下し(p<0.001)、プラセボ群では逆に221mg/dLへ上昇していた(p<0.001)。またHDLコレステロール(HDL-C)は、EPA-E群で39mg/dLへの有意低下と、プラセボ群における42mg/dLへの有意上昇を認めた(いずれもp<0.001)。CVイベント4.9年間NNTは21例 その結果、プライマリーエンドポイントである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中・冠血行再建術・不安定狭心症」の発生率は、EPA-E群で17.2%、プラセボ群で22.0%となり、EPA-E群における有意なリスク低下が認められた(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.68~0.83)。21例でプラセボをEPA-Eに切り替えれば、4.9年間(中央値)に1例でプライマリーエンドポイントを回避できる計算になる。 EPA-E群におけるプライマリーエンドポイント抑制作用は、「2次予防と1次予防」や治療前TG値「200mg/dLの上下」「150mg/dLの上下」、「糖尿病合併の有無」など、さまざまなサブグループで検討しても一貫していた。 有害事象は、EPA-E群で「末梢浮腫」が有意に多く(6.5% vs.5.0%、p=0.002)、同様に「便秘」(5.4% vs.3.6%、p<0.001)、「心房細動」(5.3% vs.3.9%、p=0.003)の発現も、EPA-E群で有意に多かった。一方、「下痢」(9.0% vs.11.1%、p=0.002)と「貧血」(4.7% vs.5.8%、p=0.03)の発現は、EPA-E群で有意に少なかった。 その結果、試験薬服用中止に至った有害事象発現率は、EPA-E群(7.9%)とプラセボ群(8.2%)の間に有意差を認めなかった(p=0.60)。重篤な出血も、EPA-E群2.7%、プラセボ群2.1%で、有意差はなかった(p=0.06)。 本試験はAmarin Pharmaの資金提供を受けて実施された。また発表と同時に、NEJM誌オンライン版で公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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CV高リスク・高LDL-C血症の日本人高齢者に対するLDL-C低下療法の有用性は?:EWTOPIA/AHA

 高齢の高コレステロール血症例を対象としたコレステロール低下療法のランダム化試験としては、“PROSPER”がよく知られている(Shepherd J, et al. Lancet. 2002;360:1623-1630.)。しかし同試験には多くの心血管系(CV)2次予防例が含まれており、さらに「82歳」という年齢上限も設けられていた。 そこで、わが国の高LDLコレステロール(LDL-C)血症を呈するCV1次予防高齢者を対象に、LDL-C低下療法の有用性が検討された。ランダム化試験“EWTOPIA75”である。その結果、エゼチミブを用いたLDL-C低下療法で、食事指導のみの対照群に比べ、「脳・心イベント」リスクは相対的に34%有意に低下した。米国・シカゴにて開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の11月10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、大内 尉義氏(虎の門病院 院長)が報告した。わが国のCV高リスク「LDL-C≧140mg/dL」高齢者を、「食事指導」と「食事指導+エゼチミブ」にランダム化 EWTOPIA75試験の対象は、75歳以上、冠動脈疾患の既往はないもののCVリスク因子は有し、スタチンを含む脂質低下薬非服用下で「LDL-C≧140mg/dL」だった3,796例である。 平均年齢は81歳、女性が74%を占めた。LDL-C平均値は約160mg/dL。90%近くが高血圧、約25%が糖尿病を合併し、15%強がメタボリックシンドロームを呈していた。 これら3,796例は食事指導のみを行う「対照」群(1,898例)と、食事指導に加えエゼチミブ10mg/日を服用する「エゼチミブ」群(1,898例)にランダム化され、イベント判定者にのみ割付群が遮蔽されるPROBE法で追跡された。また原則として、エゼチミブ以外の脂質低下薬は使用しないこととされた。「脳・心イベント」が相対的に34%の有意減少 5年間の観察期間終了時、LDL-C値は、エゼチミブ群で120.1mg/L、対照群でも131.4mgまで低下した。 その結果、1次評価項目である「心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中」のハザード比(HR)は、エゼチミブ群で0.66(95%信頼区間[CI]:0.50~0.86)と、有意に低値となった。 両群のカプランマイヤー曲線は、試験開始後1年を待たず乖離を始め、5年間の追跡期間中、差はわずかながら広がり続けた。有意減少は「心イベント」、脳血管障害と総死亡には有意差認めず 2次評価項目を見ると、エゼチミブ群で有意にリスクが減少していたのは、「心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術」から成る「心イベント」である(HR:0.60、95%CI:0.37~0.98)。脳血管障害(HR:0.78、95%CI:0.55~1.11)と総死亡(HR:1.09、95%CI:0.89~1.34)のリスクに、両群間で有意差はなかった。なお、本試験はPROBE法であり、盲検化はされていない。 また、これらのイベント中、最も発生率が高かったのは「総死亡」で約15%、次いで「脳血管障害」の約5%、「心イベント」の発生率はおよそ2~3%だった。 指定討論者として登壇したJennifer Robinson氏(米国・アイオワ大学)は、本試験における「LDL-C低下幅に対するイベント減少率」が、これまでのLDL-C低下ランダム化試験に比べ著明に高いと指摘していた。 本研究は、公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンターから資金提供を受け行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

 先ごろ改訂された米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会ガイドラインにおいてSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)疾患既往を有する2型糖尿病(DM)例への第1選択薬の1つとされている。これはEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programという2つのランダム化試験に基づく推奨だが、今回、新たなエビデンスが加わった。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて発表された、DECLARE-TIMI 58試験である。SGLT2阻害薬は、CV高リスク2型DM例のCVイベント抑制に関しプラセボに非劣性であり(優越性は認めず)、CV死亡・心不全(HF)入院は有意に抑制した。Stephen D. Wiviott氏(Brigham and Women’s Hospital、米国)が報告した。3分の2近くが1次予防例 DECLARE-TIMI 58試験の対象は、1)虚血性血管疾患を有する(6,974例)、または2)複数のCVリスク因子を有する(1万186例)2型DM例である。クレアチニン・クリアランス「60mL/分/1.73m2未満」例は除外されている。本試験における1次予防例の割合(59%)は、CANVAS Program(34%)に比べ、かなり高い。 平均年齢は64歳、DM罹患期間中央値は11年、平均BMIは32kg/m2だった。併用薬は、82%がメトホルミン、43%がSU剤を服用し、41%でインスリンが用いられていた。CVイベント抑制薬は、レニン・アンジオテンシン系抑制薬が81%、スタチン/エゼチミブが75%、抗血小板薬も61%、β遮断薬が53%で用いられていた。 これら1万7,160例は、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン群(8,582例)とプラセボ群(8,578例)にランダム化され、二重盲検法で4.2年間(中央値)追跡された。MACE抑制はプラセボに非劣性が示された その結果、CV安全性1次評価項目であるMACE(CV死亡・心筋梗塞[MI]・脳梗塞)の発生率は、SGLT2阻害薬群:8.8%、プラセボ群:9.4%(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.84~1.03)となり、SGLT2阻害薬による抑制作用は、プラセボに非劣性だった(p<0.001)。このように、プラセボに比べMACEの有意減少は認められなかったものの、もう1つのCV有効性1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」*リスクは、SGLT2阻害薬群で有意に減少していた(HR:0.83、95%CI:0.73~0.95)。*試験開始後、MACEリスク中間解析前に追加 有害事象は、服用中止を必要とするものがSGLT2阻害薬群で有意に多かった(8.1% vs.6.9%、p=0.01)。なおメタ解析でリスク増加が懸念されていた膀胱がんは(Ptaszynska A, et al. Diabetes Ther. 2015;6:357-75.)、プラセボ群のほうが発症率は有意に高かった(0.5% vs.0.3%、p=0.02)。CANVAS programとの併合解析で、1次予防例におけるMACE有意抑制は示されず SGLT2阻害薬による2型DMのCVイベント抑制作用を検討した大規模ランダム化試験は、このDECLARE-TIMI 58で3報目となる。そこでWiviott氏らは、既報のEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programと合わせたメタ解析により、SGLT2阻害薬のMACE抑制作用を検討した。 その結果、CV疾患既往例では、SGLT2阻害薬によりMACEのHRは0.86(95%CI:0.80~0.93)と有意に低下していたものの、リスク因子のみの1次予防例(1万3,672例)では、SGLT2阻害薬によるリスク低下は認められなかった(HR:1.00、95%CI:0.87~1.16)。なお、CV疾患既往の有無による交互作用のp値は「0.05」である。一方、CV死亡・HF入院のHRは、CV疾患既往例で0.76(95%CI:0.69~0.84)、リスク因子のみ例で0.84(95%CI:0.69~1.01)だった(交互作用p値:0.41)。 本試験はAstraZenecaの資金提供を受け行われた(当初はBristol-Myers Squibbも資金提供)。また学会発表と同時にNEJM誌にオンライン掲載された。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ACE阻害薬と肺がんリスクの関連/BMJ

 ACE阻害薬の使用により、肺がんのリスクが増大し、とくに使用期間が5年を超えるとリスクが高まることが、カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M. Hicks氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年10月24日号に掲載された。ACE阻害薬により、ブラジキニンおよびサブスタンスPが肺に蓄積し、肺がんリスクが高まることを示唆するエビデンスがある。この関連を検討した観察研究は限られており、結果は一致していないという。肺がんとの関連をARBと比較するコホート研究 研究グループは、ACE阻害薬の使用が肺がんリスクを高めるかを、ARBと比較する地域住民ベースのコホート研究を行った(Canadian Institutes of Health Researchの助成による)。 United Kingdom Clinical Practice Research Datalinkから、1995年1月1日~2015年12月31日の期間に、新規に降圧薬治療を受けた患者99万2,061例のコホートを同定し、2016年12月31日まで追跡した。 ACE阻害薬の累積使用期間および治療開始からの期間別の肺がんの発生率を、ARBと比較した。Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)を推算し、95%信頼区間(CI)を算出した。肺がんリスクが14%増加、5年以上の使用で関連が明確に 降圧薬別の患者の割合は、ACE阻害薬使用例が21.0%、ARB使用例が1.6%、その他が77.4%であった。全体の平均年齢は55.6(SD 16.6)歳、男性が46.3%であった。最も多く使用されていたACE阻害薬はramipril(26%)で、次いでリシノプリル(12%)、ペリンドプリル(7%)の順だった。 平均フォローアップ期間は6.4(SD 4.7)年で、この間に7,952例が新たに肺がんと診断された(粗発生率:1.3[95%CI:1.2~1.3]件/1,000人年)。 全体として、ACE阻害薬の使用により、ARBと比較して肺がんリスクが有意に増加した(発生率:1.6件 vs.1.2件/1,000人年、HR:1.14、95%CI:1.01~1.29)。 使用期間が長くなるに従ってHRは徐々に上昇し、5年以降は明確な関連が認められ(HR:1.22、95%CI:1.06~1.40)、10年後にピークに達した(1.31、1.08~1.59)(傾向検定:p<0.001)。 治療開始からの期間についても同様の関連が認められ、期間が長くなるに従ってHRが上昇した(5.1~10年:1.14、95%CI:0.99~1.30、>10年:1.29、1.10~1.51)(傾向検定:p<0.001)。 著者は、「今回、観察された影響はさほど強くないが、小さな作用が結果として多くの患者を生み出す可能性があるため、これらの知見を他の疾患でも確認すべきだろう」と指摘し、「ACE阻害薬が肺がんの発生率に及ぼす影響を、より正確に評価するために、さらに長期のフォローアップを行う必要がある」としている。

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肥満手術後の体重増、アウトカムと関連する尺度は/JAMA

 腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス(RYGB)術を受けた後の、体重再増加と臨床アウトカムとの関連は、体重再増加を最大体重減少量の%値でみた場合に最も強く認められることが示された。米国・ピッツバーグ大学のWendy C. King氏らによる、RYGB術を受けた約1,400例を5年以上追跡した前向きコホート試験の結果で、JAMA誌2018年10月16日号で発表された。RYGB術後の体重再増加には、大きなばらつきがある。研究グループは、RYGB術後の体重減少が最大に達した後に増加に転じる様子を描出し、体重再増加とアウトカムとの関連を調べた。術後の体重再増加に関する5種類の連続測定値と、アウトカムとの関連を評価 研究グループは、米国6都市10ヵ所の医療機関で、2006年3月~2009年4月にかけて、肥満外科手術を受けた成人2,458例のうち、RYGBを受け(1,703例)、最低体重の測定記録があり5年以上の追跡を受けた1,406例(83%)を対象に分析を行った。 被験者に対する評価は、術前30日以内と術後6ヵ月、それ以降は年1回行い、2015年1月まで継続した。術後の体重再増加について、kg、BMI、術前体重に対する割合(%)、最低体重に対する割合(%)、最大体重減少量に対する割合(%)の5種類の連続測定値および、閾値を設定した8種の体重再増加指標と臨床アウトカムとの関連(統計的有意差、関連の大きさ、モデル適合)を検証した。対最大体重減少量比、高脂血症以外の臨床アウトカムと強い関連 被験者1,406例の年齢中央値は47歳(25~75パーセンタイル:38~55)で、術前BMI中央値は46.3(同:42.3~51.8)。女性の割合は80.3%と大部分を占め、また白人は85.6%だった。追跡期間中央値は、6.6年(同:5.9~7.0)だった。 最大体重減少量の術前体重に対する割合中央値は37.4%(同:31.6~43.3)で、同発生までの期間中央値は術後2.0年(同:1.0~3.2)だった。 体重再増加率は、最低体重に達した後の1年以内が最大で、その後追跡5年時点まで増加し続けた。体重増加中央値は、最大体重減少量の9.5%(25~75パーセンタイル:4.7~17.2)から26.8%(同:16.7~41.5)へ変化した。 体重再増加者の割合は、閾値に依存していた。たとえば最低体重に達した後の5年間で、BMIが5ポイント以上増加した人の割合は43.6%、体重再増加が最低体重の15%以上だった人は50.2%、最大体重減少量の20%以上だった人は67.3%などだった。 体重再増加の連続測定値のうち、高脂血症を除く臨床アウトカムについて最も関連が強かったのは、最大体重減少量の割合でみた場合だった。高脂血症については、BMIとの関連がやや強くみられた。 体重再増加指標のうち、最大体重減少量20%以上が、ほとんどのアウトカムについて連続測定値よりも良好もしくは同程度に関連性を示した。2番目に良好な指標は、高脂血症(10kg以上の体重増加)と、高血圧症(最大体重減少量が10%以上)についてだった。

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第4回 エイエフ(AF)診断できます?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第4回:エイエフ(AF)診断できます?“キング(King)・オブ・不整脈は何?”と聞かれたら、ボクは「心房細動(AF)」と即答します。臨床的にも心不全や脳梗塞など大事な側面を持ちますが、スタートは必ず心電図から。エイエフと正しく診断するための条件をDr.ヒロがレクチャーしましょう。症例提示55歳。男性。ここ数年、健診で血圧および血糖高値を指摘されるも受診せず。起床時より「胸全体がドンドン押されるような、常に走った後のような感じ」を自覚。改善しないため外来受診。血圧147/92mmHg、脈拍174/分、酸素飽和度98%。来院時の心電図を示す(図1)。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題1】心電図診断として正しいものはどれか。1)洞(性)不整脈2)洞(性)頻脈3)心房期外収縮連発(ショートラン)4)発作性上室性頻拍5)心房細動解答はこちら 5)解説はこちら “不整脈の代表選手AFは絶対性不整脈でf波あり”1)×:「洞調律」も呼吸などの影響でR-R間隔が不整にはなり得ます。しかし、洞調律の“証”たるP波がなければこう呼べません。2)×:頻脈(“検脈法”より168/分)ではありますが、1)と同じく洞性P波が欠如しています。3)×:連発・ショートラン(3連以上)が頻発して5)の心房細動と紛らわしいケースもありますが、期外収縮も基本調律が洞調律であることを前提とするため、今回は該当しません。4)×:いわゆる「narrow QRS tachycardia」を呈する代表格ですが、R-R間隔が整となる例が大半です。5)○:R-R間隔不整(絶対性不整脈)、洞性P波がなく細動波(f波)あり、頻脈の3条件を満たす典型的な心房細動です。発症様式から「発作性」が疑われます。今回の中年男性が訴える胸部症状は、医学的には「動悸」の範疇ですかね。一言で動悸と言っても、患者さんの訴えは本当に様々です。この方も『胸がドンドン』、『走った後の感じ』と、表現がユニークです。そして、選択肢には不整脈らしき病名がたくさん。『トホホ…苦手じゃん(泣)』って言わないで。「初心者、非専門医でも自分で読めた方がいいよ」とボクが伝える不整脈は、なんと2つ!一つは「期外収縮」。そしてもう一つが、今回のテーマ「心房細動(AF)」です。この2つだけで、ふだん目にする不整脈の5-6割はいけるんじゃないかな。特に心房細動は、持続性不整脈の中では最多で、脳梗塞や心不全の合併など、臨床的にも重要性が高いと思います。ちまたでは“AF(Atrial Fibrillation)”なんて呼ばれています。“AFの3つの診断条件をおさえる!”AFの心電図診断はカンタンです。特にボクの語呂合わせの通りに心電図を読んでくれる人にとってはね(第1回参照)。…え?なぜって?それは、はじめの“3つのR”の確認だけで診断できるからです。ですから、慣れたら“いの一番”に指摘可能な不整脈なわけです。最初はR-R間隔。AFには“絶対性不整脈(absolute arrhythmia/arrhythmia absoluta)”という別称があり、“筋金入り”の不整脈なんです。だから、R-R間隔がテンデンバラバラ、どれ一つとっても同じことはありません。どの誘導でもいいですが、たとえば心電図(図1)のI誘導はどうでしょう?真ん中へんはQRS波が密集していて、逆に周辺は割合空いていますよね。肩の力を抜き、用紙から目を離して俯瞰するのがコツ。R-R間隔の絶対不整は、私たちの目に“訴えかける”モノがあるからです。2つ目はRate(心拍数)。自動計測を“カンニング”すると「169/分」です。病歴の脈拍数も「174/分」です! 正常な「50~100/分」から明らかに逸脱しています。100/分オーバーは「頻脈」といいますよ。AFは頻脈性不整脈の代表です。初診(≒未治療)で心臓があまり傷んでない(≒病気がない)人や若めの人では、安静時とは思えない頻脈でやってくるのがテッパンです。『走った後の感じがずっと続いている』という言い方もたしかに、たしかに。ただ、患者さんによっては、“レート・コントロール(心拍数管理)”のために薬が使われていたり、高齢者ならそんな薬を使わなくとも房室伝導能低下のため、頻脈にならないことがしばしばです。だから、AFの診断に「頻脈」はマストではないんです。最後の3つ目のRは…そうRhythm(調律)です。だいぶ定着したかな、“イチニエフ(またはニアル)法”(第2回参照)の出番です。R-R間隔が少し広がった部分で確認するのがミソ。イチニエフ・ブイシゴロで陽性、アールで陰性を満たす洞性P波がないことがわかるでしょう。つまり洞調律じゃないんです。以上3点、R-R間隔、心拍数、調律のいずれもオカシイわけですから、こりゃ決定的な「不整脈」です。“心房細動の決定的証拠-心房の痙攣を表す小波”こんな時、最後の“ダメ押し”で見て欲しいのはV1誘導。これがボクのオススメ。心電図(図1)から抜き出してみました(図2)。(図2)細動波(f波)を見るならV1誘導!画像を拡大する注目すべきはQRS波の間をつなぐ基線。ここは本来フラットで、あってもP波くらいのもんなんです。でも、このV1誘導はグニャグニャンでしょ?英語で“カオス”(chaotic)と表現されますが、まさに“混沌”。とらえどころのないランダムな小波こそ、AFたる何よりのアカシです!この波形を「細動波」ないし「f波」といいます。fは“fibrillation(細動)”ってことで、心房筋が高頻度で痙攣している様子を表しています。AFが慢性化して長時間が経過すると、f波は徐々に縮小して見づらくなっていきますが、AFが心房“細動”たるゆえんは、この小波の存在なのです。余談ですが、心電図がこの世に生まれたのが1903年。それから5年後に若き天才Sir.Thomas Lewis(1881-1945)がこの「f波」の存在を銘記し、翌年(1909年)に臨床概念として「心房細動」を確立したとされます。それを思うと、AFって非常に由緒ある不整脈でしょ。話をf波に戻しましょう。V1以外に「下壁誘導」、すなわちニサンエフ(II、III、aVF)もf波を見やすい誘導ですので、セカンド・チョイス的に知っときましょう。さぁ、最後にまとめます。心房細動(AF)の心電図診断(1)R-R間隔の絶対不整(絶対性不整脈)(2)頻脈なら典型的(必須ではない)(3)洞性P波の欠如と細動波(f波)の存在今回の男性の心電図(図1)は、この3条件をバッチリ満たす「AF」です。これが動悸の正体でした!もう、皆さんは自信を持って診断できますね?Take-home Message1)AFは“3つのR”(レーサー・チェック)だけで診断できる!2)圧倒的なR-R間隔不整とV1誘導で細動波(f波)を見つけたら、「AF」と言ってほぼ間違いなし。【古都のこと~実相院門跡その2~】実相院門跡は庭園もいいです。市民も参加して作庭された『こころのお庭』には、「床みどり」とは別の趣があります。日本国土をイメージした苔島を囲む波型をした3つの杉皮オブジェが石庭に映えていました。遠くに望む山景と澄みきった青空。しばしのタイムスリップ感覚が実に心地よかったです。

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MitraClipはfunctional MRのイベント抑制しない? する?→する!(解説:絹川弘一郎氏)-921

 最近、カテーテルによる心不全治療デバイスがImpella、MitraClipと立て続けに認可された。Impellaは少なくともわが国の適応である心原性ショックにおいてIABPに対する優越性をランダム化比較試験で立証できていないのであるが、わが国における治験なしで承認された。MitraClipも開心術にハイリスクのdegenerative MRについては明らかな有効性があり、米国でもすでに承認済みであるが、わが国の適応は米国で未承認であるfunctional MRを含んでいる。デバイスラグを糾弾されまいとするPMDAのご意向でもないとは思うが、どちらのデバイスの審査にも携わった1人としてわが国のデバイス承認の流れが以前とは若干変化してきていることは事実である。ことの良しあしは今後の市販後調査の結果に委ねられている。 その中で、MitraClipのfunctional MRに対するRCT、MITRA-FR試験がはじめて発表された。先日のミュンヘンでのESC late breakingで発表されようとしているさなか、私の携帯にNEJM.orgからこの論文が送られてきて、発表より10分ほど早く結果を知ることとなり、残念ではあった。残念だったのはタイミングだけではなく、その結論であり、まったく心不全の再入院を抑制しないというのは大変な驚きである。functional MRを単なる心不全のサロゲートマーカーと考え、介入の対象でないとするこの論文のdiscussionにはいささか疑念を提示ざるをえない。 と、ここまで書いたところが9月22日であったが、9月23日のTCT late breakingでCOAPT試験の結果が発表されることが決まっており、その結果を見ずに軽々しいことは言えないと思って一旦筆を置いた。さてCOAPT試験の結果である。これまた再度の驚きで、全死亡、心不全再入院などほぼすべてのエンドポイントでMitraClip群が優れていた。圧勝である。どこをどうすればこんなに違う結果が生まれるのか、また1ヵ月のうちにNEJMにまったく異なる結果が掲載されることも滅多にない(私の経験では見たことがない)。 少し、詳細に見ても両者の背景はほぼ同等である(どちらもAbbott社の第III相試験なので当然と言えば当然である)。COAPT試験でややEROが大きめ、BNPが高めであるが、コントロール群のイベント発生率は両試験でほとんど同じである。COAPT試験においてMitraClip群のNYHA分類がやや軽め、RAS阻害薬の使用がやや多め、ではあるが、ここまでコントロール群に差をつける原因とは考えにくい。絶対的に違うのはMITRA-FR試験でコントロール群のNYHAクラスがMitraClip群のそれと12ヵ月後も同じ程度に改善していることである。COAPT試験ではコントロール群のNYHAクラスの改善はMitraClip群より明らかに劣る。ここから推察されることは、MITRA-FR試験にエントリーされた患者のその後の薬物治療が良く奏効したということであり、裏を返せば、薬物治療の余地がまだ十分あった患者をエントリーしてしまったことになる。フォローアップ期間中の薬剤の変化はCOAPT試験ではデータがあり、ごくわずかしか変動せずまた2群間で差はないが、MITRA-FR試験のデータは見当たらないので、そのあたりも検討が必要であろう。可能ならばエントリー時の標準的薬物治療の用量なども示してもらうと良いかもしれない。 エビデンス、というものは作るものである、というのは正しく、その道程にそった標準的治療の中にデバイス治療が存在すべきであるという教訓になるのかもしれない。いずれにせよ、今後functional MRに対する経皮的僧帽弁形成術デバイスは続々と上梓されてくるであろうし、標準的薬物治療抵抗性の心不全のunmet needsに答えるものとして私自身は大いに期待している。MITRA-FR試験はおそらく今後引用されることなく、忘れ去られることになると思っている。

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「エンバーゴ・ポリシーで言えません」と言ってみたい!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】 第3回

第3回 「エンバーゴ・ポリシーで言えません」と言ってみたい!エンバーゴ(embargo)を知っていますか? 本来は海運業界の用語で、自国の港にある外国の船舶の出港を禁止すること、船舶抑留を意味します。この言葉は、現在では海運業界よりも報道業界で頻用されています。報道業界では、ある特定の日時までニュースを報道しないように報道機関に出される要請に使われています。たとえば、自国民がテロリストに拉致され、身代金を要求されているという情報が政府に入ったとします。記者クラブなどの場で報道官は報道各社に事実を伝えますが、「この件については、被害者の生命を守るために、何時までは、エンバーゴをかけさせていただきたいと思っておりますので、協力をお願いします」となるわけです。国際学会で最も華やかな場は、なんといってもLate-breaking Sessionです。学会発表しようと思えば、抄録登録の締め切りが半年くらい前に設定され、めでたく採択されれば発表となります。しかし、この時間軸は現代においてスピード感が不足しています。締め切り後に研究の進展があり、最新の成果をもとに議論を深めたいという場合があるのです。締め切り後にデータが揃う研究の応募登録を受け付け、その演題を集中的に議論する特別枠がLate-breaking Sessionです。無作為化大規模臨床試験などの、意義の高い研究の発表のための場です。賢明な皆さんはご存じと思いますが、「締め切りに間に合わなかったのでLate-breakingで行くぜ!」と応募すると恥ずかしい思いをします。ご注意ください。Late-breaking Sessionでの発表に加え、さらにカッコ良いのが、発表同日の論文掲載です。この掲載医学誌がNEJM(New England Journal of Medicine)誌などであれば最高です。想像するだけで「ウットリ」します。Late-breaking Sessionでは、当日の発表が公表の最初の場面でなければなりません。発表者や共同研究者が結果を知っていることは当然ですが、事前に外部の者に喋ってはならないのです。国際学会では、Late-breaking Sessionの前日にプレス向け説明会が開催されます。報道各社は、その情報をもとに学術記事を準備しますが、報道が許されるのは発表後です。この情報統制がエンバーゴ・ポリシーです。学会発表・論文掲載のタイミングと報道掲載とのタイミングのずれを解消するためとされますが、学会の場を盛り上げる演出ともいえます。「エンバーゴ・ポリシーで言えません」と答える必要に迫られる立派な研究者・医師に皆さまが成長されることを願っております。では、おやすみなさい。

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第7回 スタチンの服薬アドヒアランスに影響する7つの要因【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 服薬アドヒアランスの改善は服薬指導における大きなテーマの1つです。とくに、すでに生じている症状の改善ではなく、将来的な発症の予防目的で長期的に服用する薬では、服薬アドヒアランスが低くなりがちですので、薬剤師としてどのような視点でアプローチすべきか試行錯誤されているのではないでしょうか。服薬アドヒアランスが低下しがちな薬剤の代表格であるスタチンは、服用6〜12ヵ月で25%〜50%の患者が服薬を中止し、2年経つころには75%に達するという推計(Brown MT, et al. Mayo Clin Proc. 2011;86:304-314.)もあります。心血管イベントリスクの高いほうではとくに服薬指導時の説明の工夫が必要です。そこで今回は、スタチンの服薬アドヒアランスに影響する要因を検討した質的研究を統合したシステマティックレビューを紹介します。なお、質的研究とは、インタビューや観察を通して被験者の行動やプロセスを分析して解釈的理解を行うことを目的とした研究です。Patient beliefs and attitudes to taking statins: systematic review of qualitative studies.Ju A, et al. Br J Gen Pract. 2018;68:e408-e419.このシステマティックレビューは、スタチンの服用に対する患者の視点、経験および態度について明らかにすべく、2016年10月6日までにPsycINFO、CINAHL、Embase、MEDLINEの各データベースや博士号論文から、スタチンに対する成人患者の視点に関する質的研究を検索し、得られた各文献からすべての文章と被験者のコメントを抽出してテーマ別に分析しています。主だった研究データをすべて反映させているため、情報の透明性は高そうです。最終的に8ヵ国、22〜93歳の888例からなる32の研究がレビューに含まれ、服薬アドヒアランスに影響する7つの要素が見い出されました。 1.予防効果の信頼(有効性の信頼、長期的な致命的心血管イベントリスクの最小化、安定したコレステロール値の獲得、高コレステロール状態の不安緩和) 2.ルーティン化(日常生活への取り込み) 3.薬理効果への疑問(効果の不認識、薬理学的メカニズムの不確実性) 4.医療に対する不信(過剰投与ないし医師の処方動機に対する疑い、治療開始へのプレッシャー) 5.健康への脅威(副作用リスク、体への毒性) 6.病気の実感(薬物に頼らざるを得ないことへの恐れ、治療意欲の喪失) 7.経済的な負担結果として、1のスタチンが心血管イベントを予防できるという期待と、2のスタチン服用を日常生活に取り入れることで服薬アドヒアランスが改善した一方で、3〜7の要素は障壁となりやすい傾向にありました。7つの要素から見えてくる具体的なアプローチ7つの要素からどのようなことが見えてくるでしょうか。たとえば、治療目的や将来期待できる効果について説明する、残薬の話から生活習慣の話へつなげて服薬の習慣への組み入れをアドバイスする、患者さんの性格や理解度別に丁寧に処方の理由や薬の作用を説明するなど、当たり前のようで漏れがちな取り組みかもしれません。残薬確認1つとっても聞き方はさまざまで、「処方薬を全部服用するのは大変かと思いますが、どのくらい飲み忘れたりしますか?」「何か事情があって中止されたお薬はありますか?」「何か気になる副作用はありましたか?」など批判的にならないように聞くのもよいでしょう。効果やリスクなどは、絶対リスク減少率など誤解をしにくい指標で期待できる効果をお伝えすることも患者さんの治療受容度に寄与しうるという研究もあります(Stovring H, et al. BMC Med Inform Decis Mak. 2008;8:25.)。冒頭の論文で例として挙げられている患者コメントの中には、「体調は悪くないので、服用すべきかわからない。効果の実感がない」「ずっと飲み続けなければならないのか不安」などネガティブなものから、「未来のために今服用する」「薬が効いているし、服用で健康になっているように感じられる」「ひげそり、コーヒーを入れるという朝のルーティンの一環で毎朝同じ時間に服用する」という積極的なものまで、アドヒアランス向上のヒントとなるような実践的な要素が散りばめられています。患者さんが日頃どのようなことを考えながら治療を受けているのかを知り、アプローチを考えてみてはいかがでしょうか。1)Brown MT, et al. Mayo Clin Proc. 2011;86:304-314.2)Ju A, et al. Br J Gen Pract. 2018;68:e408-e419.3)Stovring H, et al. BMC Med Inform Decis Mak. 2008;8:25.

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『てんかん診療ガイドライン2018』発刊

 前回のガイドライン発刊から約8年。その間に、新規治療薬の登場や適応追加、改正道路交通法など、てんかんを取り巻く環境は大きく変化している。2018年7月2日、大塚製薬株式会社が主催したプレスセミナー「てんかん診療ガイドライン2018」にて、てんかん診療ガイドライン作成委員会委員長の宇川 義一氏(福島県立医科大学 神経再生医療学講座教授)が登壇し、日本神経学会が監修したガイドラインの主な改訂点について語った。てんかん診療ガイドライン2018はGRADEシステムを採用 本ガイドラインは、2部で構成されている。第1部は診療ガイドライン、第2部では3つのクリニカルクエスチョン(CQ)に対してシステマティック・レビュー(SR)を行っている。また、エビデンスの質の評価は、GRADE working groupが提唱する方法で行い、「高(high)」「中(moderate)」「低(low)」「非常に低(very low)」にグレーディングされている。“けいれん”と“てんかん” “けいれん”とは「全身または一部の骨格筋が、不随意な硬直性または間代性収縮を起こすこと」であり、患者は持続的あるいは断続的なぴくつきを訴える。眼瞼けいれんなど、てんかんと無関係な病態でもけいれんを起こす。一方、“てんかん”とは「大脳神経細胞群の突発的・同期性過剰放電に基づく現象」を示し、けいれんを起こす時も起こさない時もある。宇川氏によると、「“epilepsy”はてんかんという病名を意味し、発作そのものを意味しない。さらに“convulsion”と“spasms”はいずれもけいれんと訳されるが、前者は[てんかんによるけいれん]を指し、後者は[末梢神経由来・筋肉由来のものなど]を指す」と指摘。また、同氏は「てんかんという日本語は、病名として使う場合と症状として使う場合がある。これには英語の概念を日本語訳したことによる混乱が影響している」と日本語訳の解釈について言及した。てんかん診療ガイドラインに薬物開始時期が追加 薬物療法を開始するに当たり、開始時期とその予後についてしばしば議論される。本ガイドラインでは「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」というCQにおいて、「初回の非誘発性発作では、ある条件を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。ただし、高齢者では初回発作後の再発率が高いため、初回発作後に治療を開始することが多い」と記されるようになった。ただし、「医学的根拠があれば初回発作から開始する場合もある」と同氏は述べている。第2世代薬も第1選択へ 2006年以降、日本において第2世代に分類される薬剤では、11剤が承認・販売された。これらは全般てんかん・部分てんかん、それぞれの新規発症患者だけでなく、高齢発症患者に対しても使用が推奨されるようになった。てんかんとの鑑別に注意が必要な疾患 成人において、てんかんと鑑別されるべき疾患は11項目に上る。なかでも、失神(神経調節性、心原性など)と心因性非てんかん発作(PNES)は突然発症の意識消失で救急外来を訪れる患者の40%を占めるため、これらの患者のてんかんを否定することが必要である。失神発作は発作後に意識変化や疲労、倦怠感を伴わない点が特徴であるため、鑑別には一般の検査(脳波、MRI、CT)だけでなく、心血管性の原因を精査することが重要とされる。それでも鑑別が難しい場合はビデオ脳波同時記録も行う。これらの診断を誤ると「間違って、てんかん患者として抗てんかん薬を服用し続ける原因につながる」と同氏は注意を促している。 そして、てんかんを誘発する原因として、1)脳卒中、2)睡眠不足、3)急性中毒(薬物、アルコール)・薬物離脱・アルコール離脱の3項目が該当する。これについて同氏は「まずは原疾患治療に抗てんかん薬をオンして治療を行っていくが、症状の改善に応じて抗てんかん薬をオフすることが可能」と説明した。てんかん診療ガイドラインの今後の課題 最後に同氏は「毎年は改訂できないが、年に1回の頻度で追補版を学会ホームページに公開している。これからも先生方の意見を基にガイドラインをブラッシュアップしていきたい」と締めくくった。

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普遍性と独自性の調和を目指す精神医学

 2018年6月4日、日本精神神経学会は、「2018年度プレスセミナー」を都内で開催した。セミナーでは、本学会の活動と将来展望、6月21~23日に神戸市で行われる本学会学術総会の概要・注目トピックスをテーマに、2名の演者が講演を行った。ICD-11発表間近 初めに、本学会 理事長の神庭 重信氏(九州大学大学院 医学研究院精神病態医学 教授)が、学会の活動について説明を行った。注目点として、WHOが公表する国際統計分類 第11版(ICD-11)の暫定版が今月下旬に出ることについて、国内における新しい精神科病名の検討結果を発表されている。今月末日までは、学会のホームページ上でパブリックコメントの募集を行っているという。また、わが国を含めた世界13ヵ国による、ICD-11第6章「精神、行動及び神経発達の疾患」の診断ガイドラインの信頼性・有用性の研究についても紹介された。 神庭氏は、日本専門医機構による新しい精神科専門医制度への取り組みとして、2019年4月の研修開始に向けて準備を行っていると説明。同氏は、「患者全体における精神科患者の割合に対して、医師全体における精神科医師の割合が少ない現状である。本学会が開催するサマースクールなどをきっかけに、実際の現場を見て、(専門医を目指す方々に)興味を持ってほしい」と語った。自殺者の半数以上は精神疾患を患っていた? 次に、本学会学術総会 会長の米田 博氏(大阪医科大学医学部 総合医学講座 神経精神医学教室 教授)が、学術総会の概要について説明した。本総会のテーマは、「精神医学・医療の普遍性と独自性―医学・医療の変革の中でー」であり、精神医学・医療は医学医療全般の一分野として重要な役割を担っており、独自の特異的な広がりと深さを併せ持っている、といったメッセージが込められているという。 わが国において、精神疾患を有する患者数の推移は増加傾向が続いており、15年前と比較してほぼ倍に増え、とくにアルツハイマー型認知症と気分障害が大きく増加している1)。また、自殺率については、近年やや減少傾向だが、依然としてOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で高い位置にある2)。海外のデータにおいて、自殺と精神疾患の関係性を調査した結果、自殺した人のうち、気分障害を持つ患者が35.8%、統合失調症は10.6%存在したという報告もされている3)。米田氏は、「時代の変遷により、精神医学・医療の役割も変化している。患者さん個別の症状に合わせた治療をするためにも、われわれは重要な役割を担っている」と述べた。 6月21~23日に開催予定の学術総会では、会長講演、特別講演などに加え、26もの委員会シンポジウムが行われ、その内容は精神科臨床、多剤併用、認知症診療、措置入院、性同一性障害、ガイドラインについてなど多岐にわたる。とくに注目のトピックとして、「精神科一般外来での自殺予防について考える」をテーマとしたものが、会期中2日目の委員会シンポジウムで開催される。「外来通院中の精神疾患患者が自殺し、主治医の責任が問われた事件」の先ごろ出された控訴審判決で、主治医の責任を裁判所が認めたことから、今後の精神科医療において方向を見誤ることが危惧される。そのため、この事件を取り上げ、医師をはじめとする医療者と弁護士などの法律家が、「患者の自殺予防」について議論を行う。 学術総会への参加を通じて、 最新の精神神経学だけでなく、転換点にある精神医学・医療の方向性についても知見を深めることができる。■参考資料1)厚生労働省 第1回これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会 参考資料2)McDaid D, et al. OECD Health Working Papers. 2017;No.97.3)Bertolote JM, et al. World Psychiatry. 2002;1:181-185.■参考公益社団法人 日本精神神経学会第114回 日本精神神経学会学術総会

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成長ホルモン治療を継続させる切り札

 2018年5月18日ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、ノルディトロピン(一般名:ソマトロピン)承認30周年を記念し、プレスセミナーを開催した。 セミナーでは、成長ホルモン治療の現状、問題点とともに医療者と患者・患者家族が協働して治療の意思決定を行う最新のコミュニケーションの説明が行われた。成長ホルモン治療でアドヒアランスを維持することは難しい セミナーは、「成長ホルモン治療の Shared Decision Making ~注射デバイスの Patient Choiceと Adherence」をテーマに、高澤 啓氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)を講師に迎え行われた。 現在、成長ホルモン(以下「GH」と略す)治療は、保険適用の対象疾患としてGH分泌不全性低身長、ターナー症候群、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症(ここまでが小児慢性特定疾患)、SGA性低身長がある。これらは未診断群も含め、全国で約3万人の患児・患者が存在するという。診断では、通常の血液、尿検査のスクリーニングを経て、負荷試験、MRI、染色体検査などの精密検査により確定診断が行われる。そして、治療ではソマトロピンなどのGH治療薬を1日1回(週6~7回)、睡眠前に本人または家族が皮下注射している。 GH治療の課題として、治療が数年以上の長期間にわたることで患者のアドヒアランスが低下し、維持することが難しいとされるほか、治療用の注射デバイスが現状では医師主導で選択されていることが多く、患者に身体的・精神的負担をかけることが懸念されているという。患者の怠薬を防ぐ切り札 これらの課題を解決する手段として提案されるのが「Shared Decision Making(協働意思決定)」(以下「SDM」と略す)だという。 SDMとは、「意思決定の課題に直面した際に医師と患者が、evidenceに基づいた情報を共有し、選択肢の検討を支援するシステムにのっとり、情報告知に基づいた選択を達成する過程」と定義され、従来のインフォームドコンセントと異なり、患者の視点が医療者に伝わることで医療の限界や不確実性、費用対効果の共有が図られ、治療という共通問題に向き合う関係が構築できるという。 実際この手法は、欧米ですでに多数導入され、専任のスタッフを設置している医療機関もあり、SDMがアドヒアランスに与える影響として、患者の治療意欲の向上、怠薬スコアの改善といった効果も報告されているという1)。日本型SDMの構築の必要性 実際に同氏が、川口市立医療センターで行ったSDM導入研究(n=46)を紹介。その結果として、「患者が自己決定することで(1)患者家族の理解および治療参加が促進された、(2)アドヒアランスの維持に寄与した、(3)治療効果を促進する可能性が示唆された」と報告した。また、「SDMによる患者の自己決定は、意思疎通の過程で有用であり、治療への家族参加や自己効力感を高めうるだけでなく、簡便な手法ゆえ施設毎での応用ができる」と意義を強調した。 最後に同氏は、今後のわが国での取り組みについて「SDMの有効性から必要性への啓発、サポートする体制作り、日本式のSDMの在り方の構築が求められる」と展望を語り、セミナーを終了した。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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市中肺炎の高齢者、再入院しやすい患者は?

 市中肺炎(CAP)で入院した患者では、複数の併存疾患を有する高齢者において再入院が多く、臨床的および経済的負担が生じる。スペインのProject FIS PI12/02079 Working Groupが横断研究を行ったところ、65歳以上のCAP患者の11.39%が退院後30日以内に再入院し、その関連因子として「15歳未満の同居者あり」「発症前90日に病院受診が3回以上」「慢性呼吸不全」「心不全」「慢性肝疾患」「退院先が在宅医療サービスのある自宅」が挙げられた。BMJ open誌2018年3月30日号に掲載。 本研究は、2回のインフルエンザシーズン(2013~14年および2014~15年)にスペインの7地域20病院の入院患者において実施した。対象は、CAPと診断され救急部から入院した65歳以上の患者で、初回入院時に死亡した患者と30日以上入院した患者は除外した。最終的に1,756例のCAP症例が含まれ、これらのうち200例(11.39%)が再入院した。主要アウトカムは退院後30日以内の再入院とした。 主な結果は以下のとおり。・退院後30日以内の再入院に関連した因子の調整オッズ比(95%信頼区間)  15歳未満の同居者あり:2.10(1.01~4.41)  発症前90日に病院受診が3回以上:1.53(1.01~2.34)  慢性呼吸不全:1.74(1.24~2.45)  心不全:1.69(1.21~2.35)  慢性肝疾患:2.27(1.20~4.31)  退院先が在宅医療サービスのある自宅:5.61(1.70~18.50)・年齢、性別、入院前5年間での肺炎球菌ワクチン接種、入院前3シーズンでの季節性インフルエンザワクチン接種との関連はみられなかった。

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日本のPCI患者のDAPT期間。リアルワールドでは6ヵ月?/日本循環器学会

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)における適正な抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の適正な期間は明らかになっていない。福岡山王病院 循環器センターの横井宏佳氏が、2018年3月23〜25日に大阪で開催された第82回日本循環器学会学術集会Late Breaking Cohort Studiesにて、リアルワールドデータを解析した日本人患者のDAPT継続期間とアウトカムの疫学研究を発表した。 この研究では、多数のDPC病院から成る、メディカルデータビジョン社のデータベースソースを使用した。2012年4月〜2013年6月までに登録された614万以上のデータのうちCADの診断がついた34万例以上から、登録基準に合致した7,473例が解析対象になった DAPT継続している患者の割合は、6ヵ月で63.4%、12ヵ月で41.9%であった。3ヵ月ランドマーク解析による虚血イベント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)は、DAPT継続3ヵ月未満17.8%、3ヵ月以上9.7%であった(p=0.001)。6ヵ月ランドマーク解析による虚血イベントは、DAPT継続6ヵ月未満17.8%、6ヵ月以上9.7%であった(p=0.002)。12ヵ月ランドマーク解析による虚血イベントは、DAPT継続12ヵ月未満8.1%、12ヵ月以上5.9%であった(p=0.242)。継続期間6ヵ月まではShort DAPTよりもLong DAPTで有意にイベントが少ないという結果となった。

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