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新たなリスクスコアにより頸動脈狭窄に対する不要な手術を回避

 頸動脈リスク(carotid artery risk;CAR)スコアと呼ばれる新たなスコアリングシステムにより、頸動脈狭窄が確認された患者に対する頸動脈血行再建術の必要性を判断できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やアムステルダム大学医療センター(オランダ)などの研究者らが開発したCARスコアリングシステムは、頸動脈狭窄の程度(狭窄率)や医療歴などを考慮して5年間の脳卒中リスクを予測する。UCLクイーン・スクエア神経学研究所の名誉教授であるMartin Brown氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」5月号に掲載された。 頸動脈狭窄患者に対しては、通常、脳卒中リスクを軽減するために頸動脈血行再建術が行われる。しかし研究グループによると、この治療法は、30年以上前に実施されたランダム化比較試験の結果に基づいているという。 論文の責任著者であるBrown氏らは今回、症候性または無症候性の頸動脈狭窄患者を対象に、至適内科治療(optimised medical therapy;OMT)による管理の有効性と安全性を、OMTに加え血行再建術も受けた患者との間で比較した。OMTは、低コレステロール食、脂質低下薬、降圧薬、血液凝固阻止薬などで構成されていた。 対象者は、CARスコアに基づき脳卒中リスクが低~中等度(20%未満)と判定され、頸動脈に50%以上の狭窄が確認された18歳以上の者とし、OMTのみを受ける群(OMT群、215人)とOMTに加えて頸動脈血行再建術も受ける群(OMT+血行再建術群、214人)に1対1の割合でランダムに割り付けられた。主要評価項目は、1)手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生、2)非致死的な脳卒中の発生、3)非致死的な心筋梗塞の発生、4)画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞とし、2年後に評価された。OMT群のうち1人は研究への参加同意後に離脱したため、428人(平均年齢72歳、男性69%)を対象に解析が行われた。 その結果、主要評価項目のいずれについてもOMT群とOMT+血行再建術群の間で有意な差は認められず、血行再建術はリスクを考慮すると特段の利点を示さなかった。主要評価項目の発生件数は、OMT群、OMT+血行再建術群の順に、手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生で4件と3件、非致死的な脳卒中の発生で11件と16件、非致死的な心筋梗塞の発生で7件と5件、画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞で12件と7件であった。 Brown氏は、「これらの知見を確認するにはさらなる追跡調査と追加試験が必要だが、われわれは、CARスコアを用いて、OMTのみで管理可能な頸動脈狭窄患者を特定することを推奨したい」と述べている。同氏はさらに、「このアプローチは、血管リスク因子の個別評価と集中治療を重視しているため、多くの患者が頸動脈血行再建術やステント留置に伴う不快感やリスクを回避できる可能性がある。さらに、この方法は医療サービスの大幅なコスト削減にもつながり得る」と付言している。 この研究をレビューした米脳卒中協会のLouise Flanagan氏は、「CARスコアを用いることで、薬物療法だけで治療を行えるか、薬物療法と手術を組み合わせるべきかを判断できるため、手術やステント留置に伴うリスクや不利益を減らせる可能性がある」と話している。なお、この臨床試験は現在も進行中である。

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臨床試験における患者・市民参画(解説:景山茂氏)

 臨床試験における患者・市民参画(patient and public involvement)は、臨床試験に患者あるいは一般市民が被験者として参加するだけでなく、試験の計画段階から参加することにより、試験計画書をより現場のニーズに合ったものとして、エンドポイントの設定についても患者の視点を踏まえたものとし、得られるエビデンスがより有用なものになるようにしようとする考え方である。 臨床試験における患者・市民参画は比較的最近の動きであって、CIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences、国際医学団体協議会)の報告書でも2014年の「医薬品リスク最小化のための実践的アプローチ」では、ごく簡単に触れられただけであったが、2022年の「医薬品の開発、規制、安全な使用への患者参画」において、ようやく詳しく取り上げられた。 本論文では、BMJ誌の他にN Engl J Med、JAMA、Lancetの4誌を対象に調査しているが、投稿規定で患者・市民参画を記載しているのはBMJ誌のみである。結果として、調査対象とした360論文のうち、患者・市民参画が報告されていたのは論文では64件(18%)、プロトコルでは56件(19%)のみであった。また、患者・市民参画の主な活動は各種の試験委員会への参画であった(64件の論文中44件、56件のプロトコル中39件)。 ランダム化比較試験を報告する為のチェックリストとフローチャートからなるCONSORT声明は従来、患者・市民参画に言及していなかったが、2025年版で初めてこれに言及している。一方、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors、医学雑誌編集者国際委員会)は臨床研究の計画、実施、報告等の各段階での在り方について声明を発出し、とくに臨床試験の登録やdata sharingという先進的な考え方を提唱してきた。また、医学雑誌への投稿規定についてはICMJEの声明が国際的な標準となっている。しかし、ICMJEは現在のところ患者・市民参画については言及していない。 さて、患者や一般市民が臨床試験に参画するためには、臨床試験に関連した事柄をある程度以上理解しなければならない。上記のCIOMS報告書では患者および参画を希望する者は以下の研修が必要と述べている。(1)医薬品関連の科学、(2)健康関連の研究における倫理、(3)臨床試験の方法論や解釈、医薬品に関わる法律や規制。 患者・市民参画を実践することには課題も多いが、臨床試験計画書の改善や被験者のリクルートの視点のみでなく、人間を対象とする臨床試験をよりオープンな透明性の高い形で実践していくには、今後大いに検討すべき課題であるといえる。EBMにおいても、EBMはexternal evidenceのみに基づくのではなく、患者のpreference、および主治医の意見を統合して最善の医療を判断するとされている。患者のpreferenceを取り入れるために臨床試験への患者・市民参画は有用と考えられる。 AMED(日本医療研究開発機構)は昨年度より研究申請書に患者・市民参画に関する記載を求めている。また、PMDA(医薬品医療機器総合機構)も患者参画ガイダンスを2021年に発出しており、わが国においても患者・市民参画という考え方は徐々にではあるが確実に広がってきている。

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第244回 外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連

<先週の動き> 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連 2.リンゴ病が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連外科医療の持続可能性が危機に瀕する中、日本消化器外科学会と日本心臓血管外科学会は、高難度症例の「地域拠点への集約化」と「経済的インセンティブの付与」をセットで推進する必要性を訴えた。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が5月19日に開催した記者懇談会で明らかにされた。消化器外科学会の試算によれば、同会員(65歳以下)は2023年の約1万6,000人から2043年には約8,000人にと半減すると予測される。背景には、キャリア形成の難しさ(専門医取得まで17~20年)や、救急・移植など多岐にわたる業務負担の重さ、そしてその努力に見合わない評価の低さがある。同学会の調査では、現役外科医の4割が「子に外科を勧めない」と回答しており、外科離れの深刻さがうかがえる。これに対し学会は、症例を拠点病院に集約することにより短期間で多くの経験が得られ、キャリア形成が加速する環境を整備すべきと提言。集約先病院には報酬上の評価を充実させ、医師のモチベーション維持と人材確保を図るべきとする。同様に、心臓血管外科学会も「症例数と成績の正の相関」に基づき、高難度手術の集約化を推進。「搬送時間が予後に影響を及ぼさない」というデータも示し、集約化による利点が搬送距離の不利を上回るとした。加えて、ICU体制強化やタスクシフト推進、報酬面での手厚い支援の必要性も訴えた。一方、救急・産科領域では「集約化一辺倒」の議論に警鐘が鳴らされた。医療アクセスの確保が不可欠であり、働き方改革と診療報酬の乖離が、地域医療の崩壊を招く危険があると警告。産科では正常分娩の保険適用による報酬低下が、医療提供体制に大きな打撃を与える懸念が指摘された。こうした各学会の提言の根拠となるのが、NCD(National Clinical Database)である。年間150万例以上の手術データを蓄積するこの巨大データベースは、症例の集約が望ましい術式や、施設ごとに必要な外科医数の可視化を可能にし、今後の医療提供体制の設計に極めて重要な役割を果たす。2026年度の診療報酬改定に向け、外保連はNCDに基づく科学的データを活用し、地域医療構想との整合を図った制度設計を強く求めている。 参考 1) 消化器外科医が20年間で半減、学会試算 キャリア形成見えにくく 「手術の集約を」(CB news) 2) NCDを活用することで、地域ごとに「どの外科領域のどの術式について、どの程度の集約化が必要か」などを明確化できる-外保連(Gem med) 2.伝染性紅斑(リンゴ病)が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS子供に多くみられるウイルス感染症の「伝染性紅斑(リンゴ病)」の感染が拡大しており、妊婦に対する注意喚起が強まっている。国立健康危機管理研究機構(JHIS)の発表によれば、2025年5月5~11日の1週間に全国約2,000の小児科定点医療機関から報告された患者数は、1施設当たり1.14人。これはこの時期としては過去10年で最多の水準であり、4月以降、1.0人超の高水準が継続している。都道府県別では、栃木県(4.19人)、宮城県・山形県(各3.23人)、北海道(2.87人)など、東北・北日本を中心に高い報告数が続く。専門家は、昨年秋の関東での流行から、地域と時期をずらしながら今年秋頃までの流行継続を予測している。伝染性紅斑は、パルボウイルスB19が原因で、飛沫感染や接触感染により伝播する。感染初期は風邪様症状を呈し、その後、頬部の紅斑が出現するのが特徴。小児や一般成人では自然軽快することが多いが、過去に感染歴のない妊婦が感染した場合、胎児水腫や流産・死産のリスクがあることが知られている。日本産婦人科感染症学会の山田 秀人氏は、「流行年には全国で100人以上の流産・死産が発生していると推定される」と警鐘を鳴らす。感染経路の特徴として、発疹出現の約1週間前が最も感染性が高く、無症候期に家庭内で感染が広がる点も問題視されている。治療法やワクチンは存在せず、予防策としては手洗い・マスクの着用、人混みの回避が推奨される。とくに妊婦や、妊婦と接する職業に従事する医療関係者、保育・教育従事者への注意喚起が重要である。厚生労働省も、家庭内感染防止の観点から、同居家族にも感染対策の徹底を求めている。 参考 1) リンゴ病の患者数 この時期としては過去10年で最多 感染対策を(NHK) 2) 「リンゴ病」感染拡大、流産の原因になることもあり注意呼びかけ(読売新聞) 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省文部科学省は5月21日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の人材確保と魅力向上を目的とした中間骨子案を提示した。医学生の63.1%が大学病院以外への就職を希望し、その主因は給与や労働環境の良さであった。勤務希望理由として「地域医療への貢献」が最多(73.0%)だった一方で、「研究力向上」は34.4%に留まった。勤務医の離職傾向も顕著で、助教・医員の54.1%が大学病院以外での勤務を志望している。博士課程進学希望者は44.0%で、進学時期は専門研修後が主流となっている。これにより大学院進学率や学位取得率の低下が顕在化し、臨床と研究の両立困難さが浮き彫りとなっている。助教の64.9%は研究時間が週5時間以下とされ、研究力の国際的低下も深刻化している。対策として、専門研修と博士課程を両立可能な「臨床研究医コース」の推進、研究時間確保のためのバイアウト制度活用、研究費・環境整備の支援強化などが骨子案に盛り込まれた。また、特定機能病院の見直しにおいて、大学病院が地域医療構想に整合した「地域貢献機能」を担うことも明記された。今後の重点課題は、医師にとって大学病院勤務が魅力ある選択肢となるよう、制度・評価・財政面での総合的な支援体制の構築が喫緊の課題となる。 参考 1) 第14回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省) 2) 大学病院の人材確保で「臨床研究医の育成推進」 文科省検討会(MEDIFAX) 3) 医学部5・6年生の63%が大学病院での勤務希望せず 在職者も過半数で 文科省検討会(CB news) 4) 大学病院で働く医師の研究・教育時間が減少傾向、世界での研究力低下が課題に(日経メディカル) 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ5月23日、自民党・公明党と日本維新の会は、国会内で開かれた社会保障改革に関する実務者協議で、全国の医療機関に存在する余剰病床をおよそ11万床削減する方針で大筋合意した。維新の主張を自公が一定程度受け入れる形で、政府が6月に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への明記を目指す。維新は、医療費の年間総額を最低4兆円削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを主張。11万床の病床削減によって、1兆円の医療費削減が可能との試算を示していた。今回の協議では、自公側もこの見解を共有したとされ、病床削減に向けた合意形成が進展した形。しかし、維新が併せて提案している、OTC(一般用医薬品)と同等の効能を持つ医薬品の保険給付除外については、自公との間で意見の隔たりが大きく、今国会での結論は困難との見通しが示された。今後も継続して協議が行われる予定。背景には、21日の党首討論で維新の前原 誠司共同代表が改革への進展が見られないことに対し「守らなければ内閣不信任に値する」と強く牽制したことがある。これを受け、石破 茂首相は翌日、自民党幹部に誠意ある対応を指示したとされ、今回の合意形成に一定の政治的圧力が影響したとの見方も出ている。自民党の田村 憲久元厚生労働相は「内容的にはほぼ同じ考えを共有できた」と発言。維新の岩谷 良平幹事長も「11万床の削減については相互理解に達した」と述べた。3党は今後、協議内容を文書化し、制度改革の具体的方針を固めていく。医療現場においては、病床削減が地域医療に及ぼす影響の精査と、代替的な医療提供体制の整備が急務となる。現場の声やデータを踏まえた、慎重な制度設計が求められる段階に入ったといえる。 参考 1) 自公維、余剰病床削減で大筋合意 「骨太方針」に明記の方向で調整(東京新聞) 2) 保険料負担軽減へ“11万床減で医療費1兆円削減”自公維が共有(NHK) 3) 余剰病床の削減で大筋合意、自公維の社会保障協議 骨太方針に明記へ(日経新聞) 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道北海道室蘭市の市立室蘭総合病院は、2025年度に約19.8億円の赤字、累積資金不足が37億円超に達する見込みであることを受け、正職員の基本給を9%削減することで労働組合と合意した。削減は2026年3月末までの限定措置で、医師と市からの人事交流職員を除外。会計年度任用職員は4%の削減とし、総額約5.85億円の人件費削減を見込む。当初、病院側は正職員11%、会計年度任用職員5%の削減を提案していたが、組合は「赤字は国の政策による構造的問題であり、職員に責任はない」と反発。一方で、公立病院として地域医療を守る責任や、市の財政健全化への影響を考慮し、約3ヵ月にわたる交渉の末に妥結した。市立病院は現在、経営が厳しい民間の「日鋼記念病院」との統合を目指しており、病院再編に向けた協議が進行中だが、統合後の病院機能や人員配置の見通しは不透明なままである。組合は「病院の将来像が見えないことが交渉長期化の要因」とし、地域医療の継続に対する懸念を表明している。室蘭市の病院事業会計は、一般会計から毎年約16億円の繰り入れを受けているが、補助金など外部財源への依存は困難な状況で、持続可能な病院運営が喫緊の課題となっている。地域の医療圏を支える中核病院として、感染症対応や災害時の医療提供といった機能維持が求められる中、今回の給与削減は苦渋の決断といえる。今後、医療提供体制の再構築と財政的持続可能性を両立させるには、国・自治体・医療機関の三者による支援体制の再検討と、地域医療ビジョンの明確化が急務とされている。 参考 1) 市立室蘭病院 正職員の基本給9%削減で労使合意 医療機能維持「苦渋の決断」 病院統合へ課題は山積(北海道新聞) 2) 厳しい経営続く市立室蘭総合病院 再来年まで職員給与9%削減(NHK) 3) 「地域医療守る」組合決断 市立室蘭、給与削減合意(室蘭民報) 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県岐阜市の岐阜赤十字病院は、職員16人が長年にわたり敷地内で喫煙していた事実が発覚したことを受け、禁煙外来の診療報酬約450万円を患者や健康保険組合に返還する方針を明らかにした。同病院は2005年から敷地内を全面禁煙とし、2006年からは「敷地内禁煙」が禁煙外来における診療報酬の請求要件となっていた。病院によると、喫煙行為は少なくとも2006年6月~2023年12月まで継続的に行われていたとされ、看護師や元管理職を含む16人が病棟の陰などで喫煙していた。昨年12月、日赤岐阜県支部に寄せられた匿名の情報提供をきっかけに、今年1月から全職員約550人への聞き取り調査を実施し、事実が判明した。この問題により、「ニコチン依存症管理料」などの診療報酬請求の正当性が失われたと判断し、病院は2006年6月~2023年までの禁煙外来の受診者約750人と健康保険組合などに対し、報酬を返還する。返還対象者には5月下旬以降、順次連絡が行われる予定。同病院には、以前から投書箱などを通じ、職員の喫煙を指摘する声が寄せられていた。病院は厚生労働省東海北陸厚生局に報告し、5月23日にはホームページ上で事案を公表した。 担当者は「認識が甘く、申し訳ない」と謝罪し、今後は職員への禁煙教育の徹底や公益通報窓口の設置を含む再発防止策を講じるとしている。 参考 1) 禁煙外来あるのに…岐阜赤十字病院の職員16人、長年にわたり敷地内で喫煙 診療報酬返還へ(中日新聞) 2) 岐阜赤十字病院の職員が敷地内で喫煙 診療報酬を返還へ(NHK)

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咳嗽・喀痰の診療GL改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定されたCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、本ガイドラインは、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドラインに関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。喘息の3病型を「喘息性咳嗽」に統一、GERDの治療にP-CABとアルギン酸追加 咳嗽の治療薬について、「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回からは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、本ガイドラインでも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。難治性慢性咳嗽に対する唯一の治療薬ゲーファピキサント 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。本ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。国内の専門施設では血痰・喀血の原因は年齢によって大きく異なる 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる本ガイドラインも世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、本ガイドラインの改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。CQのまとめ 本ガイドラインにおけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

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フィブラート系薬でCKDリスクは増加、死亡リスクは低下

 フィブラート系薬の服用が腎機能や死亡に及ぼす影響を検討した結果、フィブラート系薬は慢性腎臓病(CKD)発症リスクの増加と関連する一方で、末期腎不全(ESKD)発症および死亡リスクの低下と関連していたことを、米国・Harbor-UCLA Medical Centerの高橋 利奈氏らが明らかにした。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年4月7日号掲載の報告。 フィブラート系薬は血清クレアチニンの急激な上昇を引き起こす可能性があるが、腎アウトカムの評価は追跡期間の短い研究では困難である。さらに、特定の腎アウトカムに関する研究は限られており、それらの結果も一貫していない。 そこで研究グループは、フィブラート系薬の新規処方とCKDやESKDの発症、死亡との関連を調べるため、米国退役軍人省の研究データベース(68万8,382例)を用いた後ろ向きコホート研究で、最大14年間にわたり追跡・分析を行った。人口統計学的因子、主な併存疾患、eGFRを含む臨床検査値、アルブミン尿、服用薬で調整し、Cox比例ハザードモデルおよびFine-Grayモデルを用いて関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・5万8,773例がフィブラート系薬を新規で服用開始した。全体の平均年齢は59(SD 13)歳で、フィブラート系薬服用患者は男性や喫煙者が多く、併存疾患を有する頻度も高かった。・完全調整モデルでは、フィブラート系薬の服用は、非服用と比較してCKDリスクの上昇と関連していた(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.19~1.24)。・フィブラート系薬の服用は、死亡リスク(HR:0.91、95%CI:0.89~0.93)およびESKDリスク(0.80、0.71~0.92)の低下と関連していた。 これらの結果より、研究グループは「フィブラート系薬が腎アウトカムと生存に及ぼす潜在的な利点を裏付けるにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

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患者数は多いが社会的認知度の低い肥大型心筋症/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブ(以下、BMS)は、閉塞性肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)治療薬の選択的心筋ミオシン阻害薬マバカムテン(商品名:カムザイオス)を5月21日に発売した。本剤が国内初承認されたことで、臨床現場でもHCMの見方が変わってくるだろう。5月15日にはBMS主催のメディアセミナーが開催され、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が「肥大型心筋症とはどの様な疾患か? なぜ新しい治療が必要か?〜肥大型心筋症で苦しむ患者さんのために〜」と題し、HCMの過小評価の実態などについて解説。さらに、患者代表として林 千晶氏が登壇し、自身の経験から医師に知ってもらいたいこと、患者として注意すべきことについて語った。“500人に1人”は肥大型心筋症 HCMは原因不明※の心筋疾患のなかで左室壁の肥厚を伴うもので、左心室流出路の狭窄による圧較差が息切れや動悸、めまいなどの症状をもたらすが、良好な転帰を迎える人は多い。一方で、心不全、左室収縮能低下、心房細動から脳梗塞を発症することがあり、とくに若年者、小児における突然死リスクの1つとも言われている。北岡氏は「HCMの発症年齢は10代後半が多く、入学時の学校健診などの心電図検査で異常を来して受診してきた時がHCMを発見するチャンス。ところが、初診時に心室壁が厚くなく、診断が難しいケースもある」とし、「成人後でもHCMの発見契機は健診による心電図異常が半数を占め、発見された時にはNYHA心機能分類II~III度に至っているケースは珍しくない」とも説明した。※現在は原因が解明されている疾患もあり これまでのHCM治療と言えば、β遮断薬やNaチャネル遮断薬による対症療法、あるいは中隔縮小術(septal reduction therapy:SRT)で、内科的に病気の本質を治療することができなかった。また、病歴が長いため患者が訴える自覚症状が病状に比して比較的軽く、潜在患者数に比して難病指定されている患者数が圧倒的に少ないことも問題になっている疾患である。これについて同氏は「難病指定を受けている患者の内、圧較差があるのは600人程度と推定されるが、HCMの推定患者は20万人に上ると言われている。もちろん、すべての患者が指定難病に相当するわけではないが、この乖離理由は、HCMの正確な病状の把握と負荷心エコーの施行など病状に対する正確な評価が十分でないことが原因と考えられる」と実情について指摘した。さらに「HCMは、外来で1回だけ診察してわかる病気ではなく、患者と長く付き合うことで明らかになる疾患。そのため、都心部よりも地方のように、一人の患者と長く付き合うことが多い医師のほうが、病気の全体像を理解しているかもしれない」と地域格差についても言及した。マバカムテンの治療効果と適切な処方とは HCMは心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白の遺伝子変異が原因とされ、ミオシンとアクチンによるクロスブリッジの過剰な形成が心肥大につながっている1)。マバカムテンはその過剰形成を抑制することで、運動負荷後のLVOT最大圧較差の減少に効果が期待される薬剤である。国内第III相のHORIZON-HCM試験2)においても、主要評価項目である投与30週までの運動負荷後のLVOT最大圧較差のベースラインからの変化量(平均値±SD)は、-60.6963±31.55674mmHg(95%信頼区間:-71.5364~-49.8562)と、マバカムテンによる有効性が示されている。また、安全性については、投与54週時点で有害事象は28例、重篤な有害事象は6例に認められたが、投与中止に至った有害事象や死亡は認められなかった。 なお、3月に発刊された『心不全診療ガイドライン 2025年改訂版』の「第9章 特別な病態・疾患」(p.127~131)において、マバカムテンの使用は推奨クラスI、エビデンスレベルB-Rとされたが、2025年4月24日に日本循環器学会より「マバカムテン適正使用に関するステートメントについて」が公表されているため、本ステートメントに準じた医療機関においてのみ処方が可能となっている。 最後に「中高生で心電図に異常があった場合、その時点の精密検査に異常がなくても将来的にHCMを発症する可能性が否定できない。その際に学校医や診察した医師らから定期的な通院を患者へ提案してほしい」。また、マバカムテンの効果について、「現状は症状改善に有効と考えられるが、服用により壁肥厚の改善など疾患そのものに良い影響を与える可能性がある。生命予後の改善効果は今後の課題」と締めくくった。患者視点から伝えたい医学の現状 病気と向き合いながら、結婚・出産・子育てを経験している林氏は、自身の診断までの経緯、家事・育児、そして仕事の両立や人間関係について説明。「父の主治医から遺伝子要因があるため検査を提案され、26歳でHCMと診断された。もともとは自覚症状もなく海外旅行や友人との会食などアクティブに活動していたが、出産後に入浴後や階段の昇降で息切れ、全疾走後のような症状や不整脈を自覚するようになった」と、これまでを振り返り、「普段から不整脈があるが、とくに生理時期には不整脈が酷くなってしまい、QOLも低下する。見た目では健康な方と変わらないため、周囲から理解されにくい点に苦慮している」とコメントした。新たな治療薬としてマバカムテンが発売される見込み(取材時点)については、「対処療法が中心の疾患だったが、新薬により希望が持てる」と述べ、「患者側も心臓の小さなサインを見逃さずに、主治医に相談するよう努める必要がある」と一人ひとりの体調管理の重要性についても話した。最後に同氏は「HCMをweb検索した際、検索上位はネコのものが多く、人間の情報が乏しく情報収集にとても苦労した。web上でも正確な病気の情報を伝えてほしい」と情報のあり方についても言及した。 BMSはこのような患者の声から「肥大型心筋症テラス」という患者・家族のための情報提供サイトをオープンし、病態、治療や遺伝子検査、医療費助成などに関する情報や患者インタビューを公開している。ーーーーーーー<製品概要>製品名:カムザイオスカプセル1mg、同2.5mg、同5mg一般名:マバカムテン効能又は効果: 閉塞性肥大型心筋症用法及び用量:通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減する。ただし、最大投与量は1回15mgとする。薬価:1mg1カプセル 7,204.00円、2.5mg1カプセル 7,264.80円、5mg1カプセル 7,410.50円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:ブリストル マイヤーズ スクイブ株式会社

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うつ病に対するブレクスピプラゾール増強療法とミトコンドリア遺伝子発現変化

 うつ病患者の20%は治療抵抗性を示し、いくつかの抗うつ薬単剤療法では治療反応が得られない。このような治療抵抗性うつ病患者には、抗精神病薬による増強療法が治療選択肢の1つとなりうる。しかし、抗精神病薬増強療法のメカニズムは、依然として解明されていない。愛媛大学の近藤 恒平氏らは、遺伝子発現レベルにおけるブレクスピプラゾール増強療法の作用メカニズムを解明するため、本研究を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年5月6日号の報告。 マウス神経紋由来の細胞株Neuro2a細胞に媒体、エスシタロプラム、ブレクスピプラゾール、ブレクスピプラゾール+エスシタロプラムを投与し、RNAシークエンシングを行った。20日間投与後のマウスの前頭前皮質、海馬およびうつ病患者の全血における遺伝子発現を測定した。 主な結果は以下のとおり。・定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、RNAシークエンシングおよび遺伝子オントロジー解析において、ミトコンドリア(MT)関連遺伝子の発現上昇が確認された。・これらの発現上昇遺伝子は、Neuro2a細胞およびCaco2細胞の両方で検証された。・うつ病患者の全血において、MT-ATP8の発現低下が認められた。・増強療法を行ったマウスでは、前頭前皮質および海馬において、MT-mRNAの発現変化が確認された。 著者らは「in vitroおよびin vivoの両実験において、ブレクスピプラゾール増強療法によるMT-mRNAの発現変化が確認された。これは、うつ病の病態解明および臨床実践を理解するうえで重要な知見となりうる」と結論付けている。

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超加工食品の摂取は早期死亡リスクを高める

 超加工食品の摂取量が多いほど早期死亡リスクも高まるようだ。新たな研究で、超加工食品の摂取に起因する早期死亡は、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の割合が高いほど増加することが明らかになった。オスワルド・クルス財団(ブラジル)のEduardo Nilson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Preventive Medicine」に4月28日掲載された。 超加工食品は、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、主に自然食品から抽出された物質で作られており、風味や見た目を良くし、保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などさまざまな添加物が加えられている。具体例は、パッケージ済みの焼き菓子、砂糖が添加されたシリアル、すぐに食べられる、または温めるだけで食べられる製品などが挙げられる。研究の背景情報によると、超加工食品の摂取は心臓病、肥満、糖尿病、一部のがん、うつ病など32種類の健康問題と関連付けられているという。 今回の研究では、まず、過去の研究で用いた超加工食品の摂取とあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連に関する10件の研究のうち、基準を満たした7件を選出し、量反応関係メタアナリシスを実施した。対象国は、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、英国、米国の8カ国で、対象者の総計は23万9,982人であった。国ごとの超加工食品の摂取量は、コロンビア(15.0%)とブラジル(17.4%)では少なめ、チリ(22.8%)とメキシコ(24.9%)では中程度であり、オーストラリア(37.5%)、カナダ(43.7%)、英国(53.4%)、米国(54.5%)では多かった。 解析の結果、総エネルギー摂取量に占める超加工食品の摂取量が10%増加するごとに全死亡リスクが2.7%上昇することが明らかになった(相対リスク1.027、95%信頼区間1.017〜1.037、P<0.0001)。次に、この相対リスクを用いて、早期死亡のうちどの程度が超加工食品の摂取に起因すると推定されるかを評価するために人口寄与割合(PAF)を計算した。その結果、超加工食品が原因と推定される早期死亡の割合は約4%から約14%に及ぶことが明らかになった。具体的には、最も低かったのがコロンビアの3.9%(7万2,940件)、最も高かったのは英国の13.8%(12万8,743件)、米国の13.7%(90万6,795件)であった。 Nilson氏は、「高所得国では超加工食品の摂取量はすでに高レベルだが、10年以上にわたって高止まりしたままだ。一方、低・中所得国では摂取量が増加し続けていることは懸念される。これは、現時点では高所得国での超加工食品摂取がもたらす健康への負担は他の国より高い一方で、その負担が他の国々でも増加しつつあるということだ」と述べている。 Nilson氏はさらに、「これは、世界的に超加工食品の摂取量を抑制し、地元の新鮮で最小限の加工食品に基づいた伝統的な食生活を促進する政策が喫緊で必要なことを示している」と「American Journal of Preventive Medicine」の発行元であるElsevier社のニュースリリースで強調している。

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ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】

ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】 日頃よりケアネットをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。ケアネットDVDは、2025年6月20日を以て販売を終了いたしました。これまでにケアネットDVDで販売していたタイトルにつきましては、臨床医学チャンネルCareNeTVにて引き続き配信しておりますので、今後はCareNeTVをご利用いただけますと幸いです。※一部、CareNeTVでの配信が終了しているタイトルもございます。今後ともケアネットをご愛顧のほどお願い申し上げます。本件に関するご質問、ご不明な点はこちらよりご連絡ください。

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高齢者の転倒対策、現場は何をすべきか?【外来で役立つ!認知症Topics】第29回

「縛るな!」――身体拘束ゼロへの取り組み病院・施設の高齢者における訴訟は増加しているが、訴訟の2大原因は、転倒と誤嚥だそうだ。いずれであれ、その判決内容、賠償金額によっては病院・施設の死活問題になりかねない。そこで誰もが転倒の予防対策として考えるのは身体抑制だろうが、これは人の尊厳を損なう最たるものである。さて「身体拘束ゼロ」、わが国のいわゆる老人病院で始まった高齢者医療・ケアの改革運動である。2001年には厚生労働省が『身体拘束ゼロへの手引き』を作成し、また、2024年には診療報酬改定で身体拘束最小化の基準が設けられた。とくに慢性期病院や介護施設は、身体拘束の最小化に向けて懸命に取り組んできた歴史がある。この流れの源流は、今年4月に亡くなられた吉岡 充医師にある。彼は、東大病院と都立松沢病院の勤務を経て、ご尊父が営む八王子の精神科病院に移られた。そこには数十年の入院生活で高齢化した統合失調症の患者さんたちがいた。これが彼の高齢者医療への取り組みの始まりだったと思う。1980年代に、この病院でアルバイトをさせてもらっていた私はこの当時、彼と初めて会った。「患者さんを縛っちゃいけないよ!」「どうして病院ではすぐに患者を縛るんだ? 朝田、おかしいと思わないか」という会話をした。正直、「理想はそう、病院では安静を守れない患者も、すぐに転んで骨折する患者もいます、必要悪ですよ」が私の本音だった。しかしその後、吉岡医師は類まれな意志力・行動力で「抑制廃止」(彼はいつも「縛るな!」と言っていた)を全国展開していった。転倒による死亡は交通事故の3倍こうした抑制廃止の裏面が、転倒である。今日、高齢者の転倒・転落は、広く高齢者医療の大きな課題として一般の人にもよく知られている。転倒による大腿骨骨頭骨折などの骨折はもとより、死亡例も驚くほど多い。2023年の資料では、こうした事故による死亡者数は全国で1万2,000例弱にも上り、交通事故死の3倍以上だというから恐ろしい1)。ところで老年医学は、1950年代からイギリス、北欧で芽生え成長してきた。この分野では、イギリスのバーナード・アイザックス(Bernard Isaacs)が1965年に提唱した「老年医学の4巨人」、すなわち転倒、寝たきり、失禁、認知症が今日に至るまで主要テーマである。筆者は1980年代にイギリスの大学老年科に留学して、老年医学の病棟のみならず患家にも立った。その影響で、帰国後は精神科領域における転倒を臨床研究のテーマにし、この領域の進歩に努めて触れてきた。そのポイントをまとめると、まずは転倒の危険因子、転倒予防、予後、そして手術と手術適応である。個人の転倒危険因子では、より高齢であること、転倒既往、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、身体機能・ADLの低下、向精神薬など薬剤、飲酒などがある。また施設の住宅設備面から段差の解消、手すりや常夜灯の設置がある。一方で床にこぼれた水分や尿などを可及的速やかに拭き取ったり、落ちた紙などの障害物を除いたりすることも極めて重要である。というのは転倒の直接原因では、滑る・躓くが最多とされるからである。次に予後では、認知症者では、身体機能はもちろん、生命予後もよくない。アメリカのナーシングホームのデータ2)では、大腿骨頸部骨折の手術がなされた者では、6ヵ月以内に35~55%が、2年以内に64%が亡くなったとされる。また手術をしてもこうした患者の機能レベルは容易に転倒前まで戻らないこともわかっている。それだけに手術適応の決定も簡単ではない。これまで転倒予防として繰り返し強調されたのは、脚力を中心とした体力増強の運動である。もっともこの運動や薬剤の調整で発生リスクを2割ほど低減したとの数少ない論文はあるが、リスク低減のエビデンスは乏しい。今のところ、予防の決め手はないというのが現実だ。病院・施設はどのような対策をすべきか?さて訴訟に関し、転倒を含めた事故で病院・施設に過失があるとされるのは、「結果予見義務」と「結果回避義務」が尽くされなかった場合である。転倒・転落が起こるかもしれないという「結果予見義務」だが、裁判の論点にならなくなってきている。なぜなら今日では、認知症の有無、転倒歴、睡眠薬の使用などの転倒・転落リスクは、ほぼしっかり確認されているからである。そこで論点になるのが転倒・転落を防ぐための備え・工夫をしたかという「結果回避義務」になる。もっとも既述のように、転倒・転落は完全には防ぎ難いことはわかっている。それだけに事情通の弁護士によれば、転倒は予見の可能性が難しいだけに、判決として「病院・施設に責任ありとするが、賠償額を低く抑えることでバランスをとる」のが主流ではないかとの由。以上をまとめると、病院・施設側として転倒リスクの評価はまず入院時に不可欠である。そして計画した予防策は明文化し、たとえば定時の見守り・チェックなどは必ず記入する。また濡れた床拭き、靴の履き方直しなど臨機応変に対応したことの記録を残し、結果回避義務を強く意識した努力を記録として蓄積すべきだろう。参考1)厚生労働省「不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」(e-Stat). 2)Berry SD, et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178:774-780.

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高齢者への抗菌薬投与の有害性と安全性、3~7日vs.8~14日

 地域在住の66歳以上の高齢者において、アモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンの投与期間が長期(8〜14日)となった場合、短期(3〜7日)の場合と比較して、副作用やClostridioides difficile感染症(CDI)などの有害性アウトカム発現に差は認められなかった。カナダ・トロント大学のBradley J Langford氏らは、10万例以上の高齢患者を対象としたコホート研究の結果を、Clinical Infectious Diseases誌2025年4月号で報告した。 本研究では、カナダ・オンタリオ州の行政医療データが用いられた。対象はアモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンのいずれかまたは複数の処方を受けた66~110歳の外来患者で、処方期間は短期(3〜7日)または長期(8〜14日)に分類された。主要アウトカムは副作用、CDI、抗菌薬耐性を含む抗菌薬関連の害の複合、副次アウトカムは、抗菌薬の再処方、通院、死亡を含む安全性指標の複合であった。バイアスリスクを低減するため、抗菌薬投与が長期の患者の割合を元に操作変数法による解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者11万7,682例において、抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、主要有害性アウトカムに差はみられなかった(以下、調整オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:0.99[0.84~1.15] セファレキシン:1.11[0.90~1.38] シプロフロキサシン:0.94[0.74~1.20]・抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、副次安全性アウトカムに差はみられなかった(以下、オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:1.01[0.94~1.08] セファレキシン:1.06[0.97~1.17] シプロフロキサシン:0.99[0.85~1.15]

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「がんと栄養」に正しい情報を!がん患者さんのための栄養治療ガイドライン発刊

 日本栄養治療学会(JSPEN)は2025年2月、『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』(金原出版)を刊行した。JSPENが患者向けガイドラインを作成するのは初めての試みだ。5月14日には刊行記念のプレスセミナーが開催され、比企 直樹氏(北里大学医学部 上部消化管外科学)と犬飼 道雄氏(岡山済生会総合病院 内科・がん化学療法センター)が登壇し、ガイドライン作成の経緯や狙いを解説した。【比企氏】 世の中には「〇〇を食べると健康に良い」といった根拠の乏しい情報があふれている。とくにがんに関しては、科学的根拠のない栄養療法や補助食品の情報があふれており、患者や家族が正しい情報を得ることに苦労している。一方で、最近ではがん治療と栄養療法に関連した研究が増え、「どの栄養素を、どれだけ摂取すれば、どんな効果があるか」に関するエビデンスが蓄積されてきた。実際、がんの薬物療法や手術治療において、栄養治療が副作用の軽減や合併症の予防に寄与することが明らかになっている。こうした背景から、患者さんが正しい情報を得られるよう、情報を整理するために作成されたのがこのガイドラインだ。 JSPENは約2万4,000名の会員を抱える世界最大級の臨床栄養学の学会であり、会員の職種は医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多岐にわたる。実際、医療現場において栄養治療はNST(栄養サポートチーム)として多職種で担うことが多く、こうした医療者向けに昨年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 総論編』(金原出版)を刊行した。入院期間中はNSTが支援できるだろうが、外来治療中や退院後に不安になったときに、今回の患者向けガイドラインを使ってもらえればと考えている。患者さんの目に留まりやすいようポップな雰囲気の表紙にし、イラストを使うなどの工夫をした。全国のがん診療連携拠点病院を中心に1,000冊以上を寄付する取り組みも行っており、ぜひ手にとっていただきたい。【犬飼氏】 本ガイドライン作成に先立ち、がん患者へのアンケートを行った。334人から回答があり、Webアンケートだったこともあり、乳がんや血液がんの比較的若年層が多かった。「がん治療中の悩み」として多く挙がった項目としては、「リハビリテーションや運動療法、生活の仕方」が最多で29%、「食事のメニュー」が23%、「薬物療法の際の食事や栄養」が20%だった。口腔状態(9%)や手術後の栄養(5%)の項目は挙げる人が比較的少なかった。術後の栄養指導は診療報酬加算があり、医療機関が一般的に行っていることが不安解消につながったのではと分析している。 栄養に関するアンケートのつもりが、「リハビリに関する悩み」が最多という結果を受け、ガイドラインでは46のQ&Aのうち、リハビリに関するものを9つ設定した。また、口腔に関する悩みは少なかったものの、口腔環境が食欲不振や味覚障害に影響することを知らない人も多いと考え、口腔関連で7つのQ&Aを設定した。その他が栄養に関するQ&Aという構成だ。 がん薬物療法では、副作用の重症度を評価する指標であるCTCAEを使って、副作用の程度にかかわらず、それに応じた栄養治療の必要性が示されている。「がんになると体重が減って当たり前」と考える患者や家族も多いが、体重を維持することでQOL向上や副作用の軽減、治療の成績や予後の改善につながることがわかっている。こうした背景から、「がん治療中、体重は維持したほうがよいですか?」というQ&Aを設け、体重維持の重要性を強調している。がんによる体重減少には「食べられないで痩せる」と「食べていても痩せる」という2つの要因があり、前者はうつや吐き気、味覚障害、口内炎などが原因であることも多く、介入による改善が期待できる。ただし、「体重を減らすな、しっかり食べろ」と言うだけでは、食欲不振などで食べられず、ストレスを感じる患者・家族もいるだろう。そうした場合にお勧めの食品や調理法を提示し、栄養剤や点滴などの方法もあることを紹介した。 がん治療前に口腔ケアをすることで、手術の合併症や口内炎の悪化を防ぐことも知ってほしい。体力低下には有酸素運動が有効で、患者には「栄養・運動・社会参加」のバランスが大切であることを伝えている。「がん治療のさまざまな場面で、多職種が適切に栄養治療をサポートする」というメッセージを込めた。このガイドラインが、患者や家族が医療者に悩みを相談するきっかけになればと考えている。『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:144頁(カラー図数:34枚)発行:2025年2月編集:日本栄養治療学会目次・1章 がんにならないために・2章 がんになったら・3章 薬物療法が始まったら・4章 手術が決まったら・手術をしたら・5章 がん治療後について・6章 緩和医療において書籍情報はこちら

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自家SCT後に再発した多発性骨髄腫、同種SCT vs.自家SCT

 自家造血幹細胞移植(auto-SCT)後に再発した多発性骨髄腫患者に対して、これまでauto-SCTより同種造血幹細胞移植(allo-SCT)のほうが優れていると考えられていた。今回、オーストリア・Wilhelminen Cancer Research InstituteのHeinz Ludwig氏らの系統的レビューとメタ解析の結果、allo-SCTがauto-SCTよりも全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)が劣っていることが示された。Cancer誌2025年5月15日号に掲載。 研究グループは、1995年~2024年10月に発表された英語論文の包括的な文献レビューを行い、初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫に対して、allo-SCTとauto-SCTを比較した5研究を解析した。また、再発後に適合する同種造血幹細胞ドナーが存在する患者と存在しない患者を比較した2研究を個別に解析した。日本造血・免疫細胞療法学会と国際血液骨髄移植研究センター(CIBMTR)の2つの大規模データベースから 815例の個別データを入手した。Kaplan-Meier曲線で示された5つの小規模研究(allo-SCTとauto-SCTを比較した3研究、および適合ドナーの有無で比較した2つの研究)のデータは、Shinyアプリを用いてデジタル化した。メタ解析はR 4.3.3を用い、OSおよびPFSについてKaplan-Meier検定およびlog-rank検定を行った。 主な結果は以下のとおり。・個々の患者データ解析では、auto-SCT群でOSが有意に延長し、このベネフィットは3つの小規模試験で一貫していた。PFSも、CIBMTRのデータセットおよびプールされた小規模研究において、auto-SCTのほうが優れていた。・適合ドナーの有無で比較した2試験では、ドナーあり群のほうがPFSが長く、データを統合するとOSも改善していた。 これらの結果から、著者らは「初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫患者には、allo-SCTを推奨すべきではないことが示された」としている。

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筋萎縮性側索硬化症、リルゾール+低用量IL-2で死亡リスク低減か/Lancet

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者において、リルゾールへの低用量インターロイキン2(IL-2LD)の上乗せは補正前解析では有意ではないものの死亡リスクの減少をもたらし、補正後解析では脳脊髄液中リン酸化ニューロフィラメント重鎖(CSF-pNFH)低値集団で有意な死亡リスクの減少が認められた。フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのGilbert Bensimon氏らMIROCALS Study Groupが、フランスの10施設および英国の7施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MIROCALS試験」の結果を報告した。ALSは、運動ニューロンの進行性喪失を特徴とする生命を脅かす疾患であり、治療法は限られている。著者は、「主要エンドポイントにおける補正前解析と補正後解析の結果の差は、ALSの無作為化比較試験において疾患の異質性を考慮する重要性を強調しており、CSF-pNFH低値集団で死亡リスクが減少したことは、ALSに対するこの治療法が有望であることを示すものであり、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版5月9日号掲載の報告。リルゾール未投与の発症後2年以内のALS患者が対象 研究グループは、年齢18~75歳、改訂El Escorial基準のpossible、laboratory-supported probable、probable、definiteを満たし、症状(筋力低下、球麻痺による発症の場合は構音障害と定義)発症後24ヵ月以内で、静的肺活量70%以上、リルゾール未投与のALS患者を、12~18週間のリルゾール単独投与の導入期を経て、IL-2LD群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 IL-2LD群ではaldesleukin 2 million international units(MIU)、プラセボ群では5%ブドウ糖溶液の、1日1回5日間皮下投与を28日ごと19サイクル投与した。 主要エンドポイントは640日(21ヵ月)の追跡期間における生存、副次エンドポイントは安全性、ALS機能評価尺度改訂版(ALSFRS-R)スコア、および制御性T細胞(Treg)、CSF-pNFH、血漿および脳脊髄液ケモカインリガンド2(CCL2)などのバイオマーカー測定値とした。 主要エンドポイントに関する治療効果は、補正前解析と事前に定義した補正後解析により評価した。補正前解析には層別log-rank検定と、Coxモデル(層別因子:発症[四肢vs.球発症]、および施設[英国vs.フランス])を用いた。補正後解析では、ステップワイズ多変量Coxモデル回帰により、あらかじめ定義された共変量を用いて解析した。予後因子で補正後、IL-2LD投与群で死亡リスクが有意に減少 2017年6月19日~2019年10月16日に304例がスクリーニングを受け、そのうち220例(72%)が導入期後に無作為化された。患者背景は男性136例(62%)、女性84例(38%)で、25例(11%)はEl Escorial基準がpossibleであった。カットオフ日時点で追跡不能者はおらず、無作為化された全220例(死亡90例[41%]、生存130例[59%])がITT集団および安全性集団に組み入れられた。 主要エンドポイントの補正前解析では、有意ではないもののIL-2LD群でプラセボ群と比較し死亡リスクが19%減少した(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.54~1.22、p=0.33)。 一方、多変量Coxモデルで同定された予後因子(年齢、ALSFRS-Rスコア、CSF-pNFH値、血漿-CCL2値、Treg絶対数)による補正後解析では、IL-2LD群で死亡リスクが68%有意に減少し(HR:0.32、95%CI:0.14~0.73、p=0.007)、CSF-pNFHとの有意な交互作用が認められた(HR:1.0003、95%CI:1.0001~1.0005、p=0.001)。 IL-2LDは安全であり、すべての時点で有意なTreg細胞数増加と血漿中CCL2値減少が認められた。 無作為化時に測定したCSF-pNFH値による層別化では、CSF-pNFH低値(750~3,700pg/mL)集団(全体の70%)において、IL-2LDにより死亡リスクが48%有意に減少したが(HR:0.52、95%CI:0.30~0.89、p=0.016)、CSF-pNFH高値(>3,700pg/mL)集団(全体の21%)では有意差は認められなかった(HR:1.37、95%CI:0.68~2.75、p=0.38)。

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妊娠初期の貧血は子の先天性心疾患リスクを高める

 妊娠100日目までの妊娠初期に母親が貧血状態にあると、生まれてくる子どもが先天性心疾患を持つリスクが大幅に高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学分野のDuncan Sparrow氏らによるこの研究結果は、「BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」に4月23日掲載された。Sparrow氏は、「妊娠初期の貧血がこれほど有害であることを示した本研究結果は、世界中で医療のあり方を一変させる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 Sparrow氏らは今回、英国で出生後5年以内に先天性心疾患の診断を受けた児を出産した女性2,776人(症例群)と健常児を出産した女性1万3,880人(対照群)の医療記録を比較した。母親の貧血の有無は、妊娠100日目までに測定されたヘモグロビン濃度を確認し、110g/L未満を貧血と見なした。 その結果、妊娠100日目までに貧血状態にあった母親の割合は、症例群で123人(4.4%)、対照群で390人(2.8%)であることが明らかになった。影響を与える可能性のある因子を調整して解析した結果、貧血状態にあった母親が先天性心疾患と診断される児を出産するオッズは、貧血のなかった母親に比べて47%有意に高いことが示された(オッズ比1.47、95%信頼区間1.18〜1.83、P=0.0006)。 研究グループによると、これらの結果は、過去にイスラエル、カナダ、台湾で実施された3件の研究結果と一致しているという。これらの研究では、母親の妊娠中の貧血が児の先天性心疾患リスクのそれぞれ24%、26%、31%の上昇と関連することが示されているという。 Sparrow氏は、「先天性心疾患のリスクがさまざまな要因により高まることはすでに知られているが、今回の研究により貧血に関する理解が深まった。この知見は今後、実験室での研究から臨床現場で活用されるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、妊娠中の貧血症例の約3分の2は鉄の欠乏が原因だと指摘する。Sparrow氏は、「鉄欠乏症は多くの貧血の根本原因である。そのため、妊娠を計画している女性や妊娠中の女性に対して鉄分補給を行えば、多くの新生児の先天性心疾患を予防できる可能性がある」と述べている。 Sparrow氏らはマウスを用いた過去の研究で、鉄欠乏症を原因とする妊娠中の貧血と先天性心疾患との関連を確認している。そのため同氏らは、ヒトを対象にした研究でも同じ関連が認められるかを確認したいと考えているという。もしこの関連が確認されれば、将来的には、鉄サプリメントが先天性心疾患の発症リスクを下げる手段として有効か否かの臨床試験の実施が期待される。

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マラソン大会中の心肺停止:米国の大規模データ収集から見えてくる「備え」の在り方(解説:香坂俊氏)

 米国のRACER 2研究が2025年3月のJAMA誌オンライン版に報告された(※RACER 1研究は2012年にNEJM誌に掲載)。この研究では、2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会(完走者約2,930万人)の記録を全米陸上競技連盟(USATF)の協力の下で収集し、走行中の心肺停止事故の発生率とその原因を調査した。前回のRACER 1は、研究者がRunning USAというNPOが収集している情報を基に新聞記事などをさかのぼり情報を収集したが、今回は陸上競技連盟の協力を得られたことで、より網羅的かつ詳細なデータ収集が可能になったものと考えられる。 まず、走行中の心肺停止事故の発生率は、10万人当たり0.54例と、2000~10年を対象としたRACER 1と同率であった。しかし心臓死は0.39例から0.20例へとほぼ半減し、AED普及や救命体制強化の効果が示唆される結果となった。原因は冠動脈疾患によるもの(急性冠症候群)が最多(生存例の56%、死亡例の9%)、次いで冠動脈起始異常(同7%と9%)、肥大型心筋症(同2%と9%)の順であり、RACER 1と比較して若年例の肥大型心筋症の比率は低下していた(ただ、剖検後も原因が不明であった症例もかなり多い[死亡例の41%])。 わが国では、心筋症や冠攣縮とされる症例が相対的に多いという印象がある(個人の経験:原因不明症例が冠攣縮と見なされている可能性もある)。とはいえ、ゴール前で発症が集中する傾向は共通しており(これも個人の経験)、搬送導線、カテーテル検査やVA-ECMOなどの即応体制を、大規模な大会開催当日に整える重要性は変わらない。 救命率が上がっているというのは非常に良いニュースであるが、経験的に救命後も2つのジレンマが待つ。若いランナーに対し「競技禁止」を進言するか、そしてさらに「ICD植え込み」をどう判断するか、というところである。若い方というのは、高齢の方とはまた違った価値観を持っており、ここで悩む方も多い。数は少ないが冠動脈異常やMyocardial bridgeが見つかった際に手術を行うか、ということも同様にジレンマとなることが多い。 また、心肺停止には至らなくとも、胸部症状や意識障害など、いろいろなことが起こることも忘れてはならない(トロポニンが陽性になる方は本当に多い)。「マラソン大会」の当日というのは、ランナーの方も緊張してレースに参加しているのだと思われるが、救命救急医と循環器内科医もドキドキしながら勤務することとなる。今後もRACER 2をはじめとする最新のエビデンスを羅針盤とし、救命体制を整備していく必要があるだろう。

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早期HER2+乳がん、術後化療+トラスツズマブへのペルツズマブ上乗せでOS改善(APHINITY)/ESMO BREAST 2025

 HER2陽性乳がんに対する術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブの上乗せを検証した第III相APHINITY試験の最終解析の結果、ペルツズマブの上乗せにより全生存期間(OS)が有意に改善したことを、スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2025、5月14~17日)で報告した。 APHINITY試験は、HER2陽性の手術可能な早期乳がん患者(4,804例)を対象に、術後療法として化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを上乗せした際のプラセボに対する無浸潤疾患生存期間(iDFS)における優越性を検証したプラセボ対照無作為化比較試験。中間解析において、ペルツズマブ群では、プラセボ群よりもiDFSの有意な改善を示した。今回は、追跡期間中央値11.3年の最終解析結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・死亡はペルツズマブ群205例(8.5%)、プラセボ群247例(10.3%)に発生した(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.69~1.00、p=0.0441[有意水準はp≦0.0496])。・10年OS率は、ペルツズマブ群91.6%、プラセボ群89.8%であった。・リンパ節転移陽性患者(HR:0.79、95%CI:0.64~0.97)ではペルツズマブ上乗せによるOSの有意な改善が認められたが、リンパ節転移陰性患者(HR:0.99、95%CI:0.66~1.49)では認められなかった。・ホルモン受容体陽性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)ではペルツズマブ上乗せによるOSの有意な改善が認められたが、ホルモン受容体陰性患者(HR:0.94、95%CI:0.70~1.26)では認められなかった。・中間解析で認められたペルツズマブ上乗せによるiDFSの改善は11.3年時点でも維持されていた(HR:0.79、95%CI:0.68~0.92)。・10年iDFS率は、ペルツズマブ群87.2%、プラセボ83.8%であった。・リンパ節転移陽性患者ではペルツズマブ上乗せによるiDFSのベネフィットは引き続き臨床的に意義のあるものであったが、リンパ節転移陰性患者ではベネフィットは認められなかった。・心臓に対する新たな安全性シグナルは特定されなかった。 これらの結果より、Cortes氏は「リンパ節転移陰性の場合には化学療法+トラスツズマブを引き続き術後補助療法として選択すべきであるが、リンパ節転移陽性の場合にはペルツズマブも投与すべきである」とまとめた。

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降圧薬の心血管リスク低減効果、朝服用vs.就寝前服用/JAMA

 降圧薬の就寝前服用は安全であるが、朝の服用と比較して心血管リスクを有意に低減しなかったことが、カナダ・University of AlbertaのScott R. Garrison氏らが、プライマリケアの外来成人高血圧症患者を対象として実施した無作為化試験で示された。降圧薬を朝ではなく就寝前に服用することが心血管リスクを低減させるかどうかについては、先行研究の大規模臨床試験における知見が一致しておらず不明のままである。また、降圧薬の就寝前服用については、緑内障による視力低下やその他の低血圧症/虚血性の副作用を引き起こす可能性が懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「降圧薬の服用時間は、降圧治療のリスクやベネフィットに影響を与えない。むしろ患者の希望に即して決めるべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月12日号掲載の報告。カナダのプライマリケアで試験、朝服用vs.就寝前服用を評価 研究グループは、降圧薬の朝服用と就寝前服用の、死亡および主要心血管イベント(MACE)に与える影響を、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化・エンドポイント評価者盲検化試験で調べた。被験者は、カナダの5つの州にある436人のプライマリケア臨床医を通じて集めた、少なくとも1種類の1日1回投与の降圧薬の投与を受けている地域在住の成人高血圧症患者であった。募集期間は2017年3月31日~2022年5月26日、最終追跡調査は2023年12月22日であった。 被験者は、すべての1日1回投与の降圧薬を朝に服用する群(朝服用群)もしくは就寝前に服用する群(就寝前服用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、全死因死亡またはMACE(脳卒中、急性冠症候群または心不全による入院/救急外来[ED]受診)の初回発生までの期間であった。あらゆる予定外入院/ED受診、視覚機能、認知機能、転倒および/または骨折に関連した安全性アウトカムも評価した。主要複合アウトカムイベントの発生、安全性に有意差なし 計3,357例が無作為化された(就寝前服用群1,677例、朝服用群1,680例)。被験者は全体で女性56%、年齢中央値67歳であり、併存疾患は糖尿病が18%、冠動脈疾患既往が11%、慢性腎臓病が7%であった。また、単剤治療を受けている被験者が53.7%であり、降圧薬の種類はACE阻害薬36%、ARB 30%、Ca阻害薬29%などであった。 全体として追跡調査期間中央値4.6年において、主要複合アウトカムイベントの発生率は、100患者年当たりで就寝前服用群2.30、朝服用群2.44であった(補正後ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.19、p=0.70)。 100患者年当たりの主要アウトカムの項目別発生率(死亡:就寝前服用群1.11 vs.朝服用群1.28[補正後HR:0.90、95%CI:0.67~1.22、p=0.50]など)、あらゆる予定外入院/ED受診の発生率(23.26 vs.25.15[0.93、0.85~1.02、p=0.10])および安全性について、両群間で差は認められなかった。とくに、転倒の自己申告率(4.9%vs.5.0%、p=0.47)や100患者年当たりの骨折(非脊椎骨折:2.18 vs.2.40[0.92、0.74~1.14、p=0.44]、大腿骨近位部骨折:0.27 vs.0.43[0.65、0.37~1.15、p=0.14])、緑内障の新規診断(0.60 vs.0.54[1.13、0.73~1.74、p=0.58])、18ヵ月間の認知機能低下(26.0%vs.26.5%、p=0.82)について差はみられなかった。

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バロキサビル単回投与による家庭内インフルエンザ伝播予防効果(解説:寺田教彦氏)

 ウイルス性上気道炎に対する抗ウイルス薬の伝播抑制効果は従来注目されてきたが、臨床研究においてその有効性を明確に示すことは困難であった。そうした中、2025年にNew England Journal of Medicine誌に掲載された本研究は、メーカーからの後援を受けた研究ではあるものの、インフルエンザ発症者に対して発症後48時間以内にバロキサビルを単回投与することで、家庭内でのウイルス伝播が有意に抑制されることを示した。 バロキサビルは日本で開発された新規抗インフルエンザ薬であり、以下のような特徴を有する。【長所】・単回経口投与で治療が完結する。・ウイルス力価の迅速な低下が期待される。・臨床効果はオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)と同等であり、とくにインフルエンザB型に対して優れているとする報告がある(Ison MG, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1204-1214.)。【懸念点】・投与後にPA/I38X変異を有するウイルスが一定頻度で検出されており、バロキサビルの使用が増加すると耐性ウイルスの拡大が懸念されうる(Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2018;379:913-923.)。・妊婦、免疫不全者、重症入院患者に対する有効性に関するエビデンスが現時点では不足している。・他の抗インフルエンザ薬と比較して薬価が高い。 本研究は、インフルエンザ発症から48時間以内の指標患者(index case)にバロキサビルを単回投与し、家庭内接触者へのインフルエンザ伝播抑制効果を検討した無作為化比較試験である。指標患者に重篤な合併症リスクのある者は含まれておらず、また家庭内接触者に2歳未満児、妊婦、免疫不全者といったインフルエンザ感染症の重症化リスクが高い者がいる場合も除外されていた。 主な結果として、無作為化から5日目までの家庭内接触者の感染率はバロキサビル群で9.5%、プラセボ群で13.4%と有意に低く(相対リスク低下29.0%)、インフルエンザ伝播に対する抑制効果が確認された。一方で、有症状インフルエンザの発症率はバロキサビル群5.8%、プラセボ群7.6%であり、統計学的有意差は認められなかった。 本研究結果は、バロキサビル投与により、インフルエンザ伝播率は有意に抑制されたが、有症状のインフルエンザ発症の抑制は限定的であることを示唆している。抗インフルエンザ薬の役割を「他者への伝播抑制」とした場合、指標患者の周囲に健常者のみがいる状況では、薬の内服による追加的なメリットは限定的であろう。だが、同居家族に高リスク者がいる場合には、バロキサビルの投与は、感染拡大とインフルエンザ重症化を予防することが期待されうる。 さらに、公衆衛生的観点からは、2020年のCOVID-19のようなパンデミックがインフルエンザで発生した場合、ワクチン展開以前の初期対応としてバロキサビルを活用する戦略も理論的に検討されうる。 なお、本研究では次の2点も注目された。 第1に、副作用の頻度である。バロキサビル群における有害事象発現率は4.6%、プラセボ群では7.0%であり、いずれも軽度(Grade1または2)であった。これまでの報告と同様に、本剤の忍容性は良好と考えられる。 第2に、バロキサビル投与に伴う耐性変異の出現である。バロキサビルを投与された指標患者においてPA/I38X変異は7.2%で認められたが、家庭内接触者では耐性ウイルスに感染した症例はなかった。これは、耐性ウイルスが患者体内でのみ発生したことを意味するのではなく、家庭内接触者は指標患者がバロキサビルを服用する前にすでに感染していたと考えられる。 バロキサビルは、インフルエンザ治療における重要な薬剤の1つであり、今後も耐性ウイルスの出現状況を注視しつつ、適正使用が求められる抗微生物薬である。[結論]バロキサビルは、インフルエンザの家庭内伝播を有意に抑制する効果を示し、とくに高リスク者の保護という観点で臨床的意義を持つ可能性がある。一方で、耐性ウイルスの出現や、重症例・免疫不全患者への有効性など、今後さらに検証を要する課題もある。

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第264回 日本の診療報酬改定の財源確保はますます困難に?米国のトランプ大統領の医薬品価格引き下げ政策の影響を考える

消費税が社会保障の重要財源になっていることを軽視・無視する政治家たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の参院選をにらみ、消費税の扱いについて各党幹部からの発言が相次いでいます。とくに野党からの消費税減税・撤廃の声は強く、立憲民主党は来年4月から原則1年間、食料品の消費税をゼロにするよう求め、日本維新の会は食品にかかる消費税を再来年4月まで時限的に撤廃するよう求めています。この他、国民民主党は時限的に一律5%下げることを提案、共産党も将来的な廃止を目指して緊急で一律5%に引き下げるよう求めています。れいわ新選組は従来からの主張通り、消費税そのものを廃止するよう求めています。これに対し、自民党は社会保障などの財源になっていることを理由に、税率引き下げに依然否定的な考えを示しています。ただ、これも党執行部の意見であり、一部からは税率引き下げの声も出ているようです。不思議なのは、どの政党も消費税が社会保障の重要な財源になっていることを軽視(あるいは無視)しており、代替財源について大した案を示していないことです。私の自宅のポストに入っていた共産党のチラシなどは、「いますぐ消費税減税を」と書く一方、「国費投入で医療・介護の危機打開」とも書かれており、もはやわけがわかりません。「消費税率を下げる=社会保障財源を減らす」なのですから。さて、「わけがわからない」と言えば、米国のトランプ大統領が、米国内の医療用医薬品価格を引き下げる指示をする大統領令に署名したというニュースもある意味「わけがわからない」です。同様の政策をトランプ大統領は第1次政権の時にも敢行しようとしましたが、製薬会社の抵抗や連邦裁判所の大統領令一時差し止めにより頓挫しています。改めて打ち出された米国の医薬品価格引き下げ政策は、日本の医療にどんな影響を与えるのでしょうか。「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きた」トランプ大統領は5月11日(現地時間)、自身のSNSに医療用医薬品の価格について、「最恵国待遇(most favored nation:MFN)」政策を導入する大統領令に署名すると表明、翌12日に署名しました。このニュースを報じた5月12日付の日経バイオテクは、「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きたといっても過言ではない」と書いています。最恵国待遇とは、世界貿易機関(WTO)協定の基本原則の1つで、ある国に与えた貿易上の優遇措置をその他の加盟国にも同様に適用し、平等に扱うというルールです。トランプ大統領はこのルールを米国の医薬品価格に適用、米連邦政府が支払っている特定の医薬品の価格を、ほかの先進国が支払っている最も低い医薬品価格に連動させるとしています。各紙報道によれば、トランプ大統領は最恵国待遇政策の導入によって「医薬品価格を59%引き下げる」と主張したとのことです。「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきた」とトランプ大統領大統領令に署名する前に開いた記者会見の席上、トランプ大統領は、「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきたが、実際には他国が低い価格を設定しており、米国が不当に高い価格を支払ってきた」と主張、「この政策により、他国が医薬品の研究開発費を公正に負担するよう促され、米国と他国の薬価が同等になる。製薬企業が他国での不公平な価格交渉からも保護される仕組みだ」と語ったとのことです。今回の大統領令の対象となるのは、連邦政府が提供する公的医療保険制度のうち、65歳以上の高齢者や障がい者などを対象としたメディケア(Medicare)と、低所得者向けのメディケイド(Medicaid)で使用される医薬品とみられていますが、一部の医薬品に留まるのか、より広範な医薬品が対象になるのかは未定です。なお、製薬企業に対しては、大統領令の日から30日以内に、米保健福祉省長官が米メディケア・メディケイドサービスセンター管理者や関連する行政機関などの職員と連携し、製薬企業に最恵国待遇価格の目標値を伝達するとしています。「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」とPhRMAこうした動きに対し、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は同日、声明を発表しています。日経バイオテクなどの報道によれば、PhRMAは米国で医薬品の価格が高い「本当の理由」として、「他国が正当な負担を負っていない」「中間業者が米国の医薬品価格を押し上げている」と指摘。米国で医薬品にかかる費用の50%は薬剤給付管理業者、保険会社、病院が受け取っているとして、「これらのお金を患者に直接渡すことで、患者負担が軽減し、欧州との価格差が大幅に縮まる」と主張したとのことです。またPhRMAは、政府が貿易交渉によって「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」と支持した一方で、医薬品価格の引き下げは「米国の患者や労働者の治療機会や治療の選択肢を減らすことになる」と反論もしています。トランプ大統領の考えを全面否定はせず、「他国が正当な負担を負っていない」、「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」などと、どちらかと言えばすり寄ったコメントをしている点はなかなか興味深いです。この段階でトランプ大統領を怒らせて、“業界いじめ”がさらに加速することを嫌ったためと考えられます。他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」就任以来、さまざまな政策を打ち出すものの、なかなか米国民のプラスが見えてこない状況で、「医薬品の価格を大幅に下げる」という政策は、確かに国民の共感を呼びそうです。米国は世界最大の創薬大国と言われていますが、創薬のための巨額の研究開発費が医薬品の価格に上乗せされていることで成立しているとの見方があります。ちなみに日本と異なり、米国では原則、製薬会社が独自に医薬品の価格を決めています。というわけで、他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」というのがトランプ大統領の考え方なのです。今後の具体的な政策としては、前述したようにメディケア、メディケイドで使用される医薬品の価格を下げることや、PhRMAも賛同している薬剤給付管理業者、保険会社、病院など中間業者の“取り分”を減らす施策を講じること、そして国外で製造された薬剤を米国で販売するメーカーには、薬価引き下げを要求するという流れになります。薬価引き下げに応じない国には追加関税を課す考えもトランプ大統領は示しています。そうした意味では、グローバルに展開する日本の製薬メーカーにとっては、米国の医薬品価格下げは大きなダメージとなるでしょう。日本の薬価はこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まるこの政策、第1次トランプ政権のときは頓挫しており、今回も実現するかどうかはまだわかりませんが、仮に実現した場合、日本の医療現場にはどんな影響が出るのでしょうか。約1ヵ月前、本連載「第259回 トランプ関税で2026年度診療報酬改定の財源確保に暗雲?国内では消費税率の減税論もくすぶり、医療費削減圧力はさらに増大の予感」では、トランプ大統領が4月2日に発表した全世界を対象とした相互関税について取り上げました。この時は、「仮に薬価改定による診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われることになれば、来年以降の診療報酬改定の財源確保に大きな影響が出ることになります」と書きました。日本の薬価についてはこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まりそうです。なぜならば、米国内での医薬品価格を下げれば米国の製薬企業の収益を圧迫するので、製薬企業には海外市場でその分稼いでもらわなければならないからです。トランプ政権が米国の医薬品開発に「ただ乗り」を許さない姿勢を強めてくれば、石破政権後の方針転換によって、2025年度中間年改定で革新的医薬品の薬価引き下げのルールを拡大するなどしてきた日本の薬価制度について大幅な見直しを迫ってくる可能性もあります。PhRMAは昨年末に欧州製薬団体連合会(EFPIA)と出した共同声明で、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判していました。ポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民というわけで、2026年度診療報酬改定の財源確保はますます厳しいものとなりそうです。そして国内では、相変わらずの「消費税減税・撤廃」の議論。目先のことしか考えない国内外の政治家たちによるポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民(とくに現役世代や子供たち)です。日本でも与野党含めた政治家たちがトランプ政権のやり方を批判していますが、少なくとも「消費税減税・撤廃」を叫ぶ政治家にその資格はまったくないのではないか、と考える今日この頃です。

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