サイト内検索|page:9

検索結果 合計:10244件 表示位置:161 - 180

161.

末梢肺結節の診断、ナビゲーショナル気管支鏡検査は針生検に非劣性/NEJM

 直径10~30mmの末梢肺結節の悪性・良性を鑑別するための生検において、ナビゲーショナル気管支鏡検査は経胸壁針生検に対し、診断精度に関して非劣性であり、気胸の発生が有意に少ないことが、米国・Vanderbilt University Medical CenterのRobert J. Lentz氏らInterventional Pulmonary Outcomes Groupが実施した「VERITAS試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月18日号で報告された。米国の医師主導型無作為化非劣性試験 VERITAS試験は、医師主導型の非盲検無作為化並行群間非劣性試験であり、2020年9月~2023年6月に米国の7施設で参加者を登録した(Medtronicなどの助成を受けた)。  肺がんの事前確率が10%以上で、直径10~30mmの末梢肺結節を有する成人患者を対象とした。被験者を、ナビゲーショナル気管支鏡検査を受ける群または経胸壁針生検を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。  主要アウトカムは診断精度とし、生検で特定の診断(悪性腫瘍または特定の良性病変)を受けた患者のうち、12ヵ月間の臨床的経過観察によりその診断が正確であることが確認された患者の割合と定義した(非劣性マージンは10%ポイント)。副次アウトカムには、気胸の発生などの手技に関連する合併症が含まれた。手技に要した時間は長かった 234例が主要アウトカムの解析の対象となり、ナビゲーショナル気管支鏡検査群に121例(年齢中央値66.0歳[四分位範囲[IQR]:62.0~72.0]、女性47.1%、追跡不能の2例[1.7%]を含む)、経胸壁針生検群に113例(68.0歳[61.0~74.0]、49.6%、3例[2.7%])を割り付けた。全体の結節の直径中央値は15mm(IQR:12~19)であり、82.5%は内部が充実成分のみの結節(solid nodule)で、87.6%では肺の外側3分の1の領域に結節が位置していた。  生検による特定の診断が、12ヵ月間の臨床的経過観察で正確であると確認されたのは、ナビゲーショナル気管支鏡検査群が119例中94例(79.0%)、経胸壁針生検群は110例中81例(73.6%)であり(絶対群間差:5.4%ポイント[95%信頼区間[CI]:-6.5~17.2])、診断精度に関してナビゲーショナル気管支鏡検査群の経胸壁針生検群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.003、優越性のp=0.17)。  生検により悪性腫瘍または特定の良性病変の病理所見が示された患者の割合は、ナビゲーショナル気管支鏡検査群が79.3%、経胸壁針生検群は77.9%であった(絶対群間差:1.5%ポイント[95%CI:-9.9~12.8])。このうち悪性腫瘍の診断の割合はそれぞれ64.5%および54.0%、特定の良性病変の診断の割合は13.2%および15.0%だった。また、手技に要した時間中央値は、それぞれ36分(IQR:28~48)および25分(13~36)であった(群間差中央値:11分[95%CI:8~18])。手技関連合併症、気胸は有意に少ない 手技関連合併症は、経胸壁針生検群で113例中33例(29.2%)に発生したのに対し、ナビゲーショナル気管支鏡検査群は121例中6例(5.0%)と有意に少なかった(絶対群間リスク差:24.2%ポイント[95%CI:15.0~35.6]、p<0.001)。このうち気胸は、ナビゲーショナル気管支鏡検査群で4例(3.3%)、経胸壁針生検群で32例(28.3%)に発現し(25.0%ポイント[15.3~34.8]、p<0.001)、胸腔ドレーン留置、入院、またはこれら両方に至ったのはそれぞれ1例(0.8%)および13例(11.5%)であった(10.7%ポイント[3.7~17.6])。  介入を要する出血は発生せず、12ヵ月の追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの結果は、技術的にどちらのアプローチも可能な肺結節の生検では、診断精度が経胸壁針生検と同程度で、合併症が少ないナビゲーショナル気管支鏡検査が選択すべき手技であることを示唆する」「本試験には教育施設と地域施設が参加しているが、ナビゲーショナル気管支鏡検査は経験豊富な呼吸器専門医が行っているため、今回の知見は専門知識が少ない施設には一般化できない可能性がある」としている。

162.

食生活の質は初潮を迎える年齢に影響する

 何を食べるかが、女児の初潮を迎える年齢に影響を与えるようだ。新たな研究で、食生活の炎症レベルが最も高かった女児では最も低かった女児に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が約15%高いことが示された。この結果は、身長やBMIで調整後も変わらなかったという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターのHolly Harris氏らによるこの研究の詳細は、「Human Reproduction」に5月6日掲載された。 この研究は、9〜14歳の米国の小児を対象にした追跡調査研究であるGrowing Up Today Study(GUTS)に1996年と2004年に参加した女児のうち、ベースライン時に初潮を迎えておらず、食生活の評価など必要なデータの完備した7,530人を対象にしたもの。参加者は初潮を迎える前に、9〜18歳の若者向けの食品摂取頻度調査(youth/adolescent food frequency questionnaire;YAQ)に回答しており、追跡期間中(2001〜2008年)に初潮を迎えた場合には、その年齢を報告していた。 研究グループは、YAQのデータを用いて代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index 2010;AHEI-2010)と経験的炎症性食事パターン(Empirical Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)のスコアを算出し、食生活の質を評価した。AHEI-2010は、野菜、豆類、全粒穀物などの健康的な食品に高い点数を、赤肉や加工肉などの食品やトランス脂肪酸、塩分などを含む食品といった不健康な食品には低い点数を付与する。一方EDIPは、食生活が体内で炎症を引き起こす可能性を総合的に評価する。参加者を、スコアごとに最も高い群から最も低い群の5群に分類した上で、AHEI-2010スコアおよびEDIPスコアと初潮を迎える年齢との関連を検討した。 参加者の93%が追跡期間中に初潮を迎えていた。BMIや身長を考慮して解析した結果、AHEI-2010スコアが最も高い群、つまり、食生活が最も健康的な群は最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が8%低いことが示された(ハザード比0.92、95%信頼区間0.85〜0.99、P=0.03)。また、EDIPが最も高い群、つまり、食事の炎症性レベルが最も高い群では最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が15%高いことも示された(同1.15、1.06〜1.25、P=0.0004)。 Harris氏は、「AHEI-2010とEDIPの2つの食生活パターンは初潮年齢と関連しており、食生活がより健康的な女児では初潮年齢の高いことが示唆された。重要なのは、これらの結果がBMIや身長とは無関係である点だ。これは、体格に関わりなく健康的な食生活が重要であることを示している。初潮年齢の早期化は、糖尿病、肥満、心血管疾患、乳がんのリスク上昇など、その後の人生におけるさまざまな転帰と関連していることを考えると、これらの慢性疾患のリスク低減に取り組む上で、初潮を迎える前の時期は重要な可能性がある」と述べている。 Harris氏はまた、「われわれの調査結果は、全ての小児期および思春期の子どもが健康的な食事へのアクセスと選択肢を持つべきこと、また、学校で提供される朝食や昼食は、エビデンスに基づくガイドラインに準拠したものであるべきことを浮き彫りにしている」と話している。

163.

コーヒーは片頭痛予防に有効なのか?

 片頭痛は、不十分な薬物療法、不安、睡眠障害、うつ病、ストレスなど、さまざまなリスク因子の影響を受ける慢性的な神経疾患である。コーヒーは多様な生理活性作用が報告されており、急性片頭痛の症状緩和に役立つといわれているが、長期にわたる摂取を中止した場合、予期せぬ片頭痛の誘発につながる可能性がある。片頭痛患者の一部は、カフェインを潜在的な誘発因子として捉えているが、カフェインの片頭痛予防効果はいくつかの研究で示唆されている。コーヒーとその成分が片頭痛に及ぼす複雑な生理学的・薬理学的メカニズムは、依然として十分に解明されていない。中国・Shulan (Anji) HospitalのAyin Chen氏らは、コーヒーとその成分が片頭痛発症リスクに及ぼす影響を明らかにする目的で、メンデルランダム化(MR)解析を用いた調査を実施した。Neurological Research誌オンライン版2025年4月20日号の報告。 交絡因子およびバイアスリスクを低減するため、遺伝子変異を曝露量の代理指標としたMR解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー摂取と片頭痛リスクの間に、有意な逆相関が認められた。この結果は、コーヒーが頭痛障害を予防する可能性があるという過去の疫学研究と一致している。・MR解析では、7-メチルキサンチンが片頭痛のリスク低下と関連していたのに対し、カフェ酸硫酸塩はリスク上昇と関連していた。・感度分析では、トリゴネリンを除くすべての成分について一塩基多型選択に異質性は認められず、MR-Egger法およびMR-PRESSO検定の両方で水平多面発現性や外れ値は認められなかった。 著者らは、「本結果により、コーヒーおよびその成分が片頭痛リスクに及ぼす影響が明らかとなり、有益な食事に関する推奨事項が提供される」とし、「コーヒーの保護効果は、アデノシン受容体拮抗作用と密接に関連している可能性があり、根底にあるメカニズムの解明には、さらなる研究が求められる」とまとめている。

164.

コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

165.

突然の心停止の最大のリスクは生活習慣

 生活習慣や環境関連のリスク因子をコントロールすることで、突然の心停止(SCA)の約3分の2を予防できる可能性があるという研究結果が、「Canadian Journal of Cardiology」に4月28日掲載された。復旦大学(中国)のRenjie Chen氏らの研究によるもの。論文の上席著者である同氏は、「リスク因子に対処することで、多くのSCAを予防し得るという結論に驚いている」と語っている。 SCAは致死率が高く、かつ予測が困難なため、世界的に主要な死亡原因の一つとなっている。SCAのリスク因子に関するこれまでの研究の多くは仮説主導型という研究手法で行われていて、この手法では事前に定義された仮説に含まれていない因子の発見が難しい。これを背景にChen氏らは、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを利用し、エクスポソームワイド関連研究(EWAS)やメンデルランダム化(MR)解析という、仮説に依存せずリスク因子を探索する手法による研究を行った。 UKバイオバンク参加者50万2,094人を平均13.8年追跡したところ、3,147人がSCAを発症していた。食事・運動・喫煙・飲酒習慣、抑うつや孤独、環境汚染への曝露、雇用状況・暮らし向き、体重・血圧など、修正可能な125の潜在的リスク因子を、SCA発症者と非発症者で比較したところ、SCAリスクと関連の強い56の因子が浮かび上がった。そのうち25の因子は、集団寄与危険割合(その因子を除外すればSCAを防ぐことのできる割合)が10~17.4%の範囲にあり、これには、喫煙、運動、テレビ視聴時間、肥満、睡眠、握力、教育歴などの変更可能な因子が含まれていた。 また、特にリスクの高い因子を除外することで、SCAの発生を40%予防できると予測された。それには生活習慣の改善が最も強く寄与し(40%のうち13%)、次いで身体的因子(9%)、社会経済的因子(8%)、心理社会的因子(5%)、環境因子(5%)が寄与していた。また、リスクがそれほど高くない因子も含めて、より徹底的な対処を行った場合、最大で63%のSCAを予防できると考えられた。この予測においても最も寄与するのは生活習慣の改善であり、18%の減少が見込まれた。 Chen氏は、「われわれの知る限りこの研究は、医学的な手段を用いずに修正可能なリスク因子とSCA発生率との関連性を包括的に調査した、初の研究である」と述べている。また論文の筆頭著者である同大学のHuihuan Luo氏は、「本研究により、SCAと有意な関連のあるさまざまな修正可能因子が見つかり、生活習慣の改善がSCA予防に最も効果的であることが分かった」と総括している。 少し意外なデータも見つかった。それは、パソコン操作時間(不健康とされる座位行動に該当する)が、SCAに対して保護的に働くような関連が見られたことだ。研究者らによると、これはパソコンの操作がSCA予防につながるというのではなく、パソコンユーザーには教育歴が長い人が多い傾向があり、教育歴の長さは一般に健康に対する保護因子として働くためではないかという。

166.

第264回 あの3医学誌を“腐敗”呼ばわり、トランプ氏より危険な人物

トランプ大統領の影で大暴れする人物各種報道で話題になっているように、米・ハーバード大学とトランプ政権の攻防はエスカレートする一方だ。きっかけはトランプ政権が同大学の「“反ユダヤ主義的な差別”への取り組みが不十分」だと非難し、「応じなければ助成金や政府との契約を見直す」と発表。この要求を同大学が拒否したため、政権側は約23億ドル分(4月15日時点)の助成金と契約を凍結すると明言した。これに対し、同大学は凍結取り消しを求めて4月21日にマサチューセッツ州連邦地裁へ提訴。しかし、政権側は同大学に対し5月2日に免税措置を取り消し、22日に留学生受け入れ資格の停止、27日には推定1億ドル(日本円で約144億円)とも言われる政府との全契約打ち切り公言など、相次ぐ報復に踏み切った。ちなみに留学生受け入れ資格の停止についても同大学は即座に提訴し、マサチューセッツ州連邦地裁は翌23日に政府による措置の一時差し止め決定を下した。人によって評価は分かれるかもしれないが、私個人のトランプ大統領のこの間の言動に対する評価は「常軌を逸している」の一言に尽きる。まるで漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将・剛田 武、通称ジャイアン並みの傍若無人ぶりである。そして世界中がトランプ大統領の言動に視線が集まる中、もう1人の主役が“大暴れ中”である。トランプ政権の保健福祉省長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)である。米国の3医学誌を腐敗呼ばわりケネディ氏は以前から極端なワクチン懐疑主義を唱え、コロナ禍中はその治療薬として一部で妄信的とも言える“期待”が語られた抗寄生虫薬のイベルメクチン支持者だったことでも知られる。このためケネディ氏の保健福祉省長官への就任には根強い反対論があり、上院での採決では身内の共和党も造反し、賛成51票・反対48票でかろうじて長官人事が承認された経緯がある。さてそのケネディ氏は5月27日、ポットキャストでLancet、New England Journal of Medicine、JAMAの3誌を「製薬企業が資金提供した研究ばかりが掲載され、腐敗している」と批判。「国立衛生研究所(NIH)の研究者にこれらの雑誌で論文を発表するのを止めさせる」とまで語った。もっともご存じの人も多いと思うが、ケネディ氏の主張は100%間違っているわけではない。これら医学誌に製薬企業の資金提供による論文が数多く掲載されていることは事実であり、またコロナ禍中には査読の甘さゆえに信頼性の低いデータに基づく論文が撤回されたこともある。とはいえ、世界各国の研究者がこの3誌に論文投稿する価値は十分あり、同時に各国の多くの研究者たちが愛読している雑誌である。少なくともNIH関係者が投稿を止めねばならないほど腐敗があると認める人は、この世界では極めて少数派だろう。それをケネディ氏の一存で止めさせようというのだから、相当なトンデモである。しかも、ケネディ氏はこれに代わる新たな医学誌の創刊をぶち上げたらしいが、医学誌1つの創刊と発行継続に、どれだけの資金と人員が必要かについては無頓着のようである。トランプ政権が各種予算を驚くような勢いで削減している中で、そのような費用の支出を政権として承認するかどうかは甚だ疑問である。ここぞとばかりに、ワクチンスケジュール削除また、同日には健常な子どもと妊婦に対する新型コロナワクチン接種を米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨するワクチン接種スケジュールから削除したと自身のSNSを通じて発表している。CDCの推奨ワクチンについては、外部専門家で構成されるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)が年数回開催する公開会議で、データに基づき厳格な審議と投票が行われる。その結果にパブリックコメントも踏まえた勧告案をCDCに提出し、CDC所長による承認を経て正式決定と公表がなされる。今回こうしたプロセスは一切経ていない。もはやここまでいくと「リーダーシップ」のふりをした「ディクテイターシップ(独裁制)」である。米国小児科学会(AAP)はさっそく声明を発表。ケネディ氏の“決定”は「独立した医療専門家を無視し、子どもたちを危険にさらすもの」「保険福祉省が収集したデータをAAPが分析した結果、2024~25年の呼吸器ウイルス流行期に1万1,199人の子どもが新型コロナで入院し、うち7,746人が5歳未満だったことが判明した」「健康な妊婦を除外するという決定は、65~74歳の高齢者と妊婦が新型コロナによる入院率が同程度にもかかわらず、もはや生後6ヵ月未満の乳児が保護を受けられなくなることを意味する」などと述べ、反発を強めている。また、米国産婦人科学会(ACOG)も「妊娠中の新型コロナ感染は悲惨であるとともに、重大な障害につながる可能性があり、家族にとって壊滅的な結果をもたらす可能性があることは明らか。新型コロナワクチンは妊娠中に安全であり、ワクチン接種は患者と出生後の乳児を守ることができる」との声明を発表した。さらに保健福祉省は28日、バイデン政権期に決定していたモデルナ社による高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のmRNAワクチン開発への助成を打ち切ると発表。同省は打ち切りについて、「連邦政府の投資継続に必要な科学的基準や安全性の期待を満たしていない」との見解を示したと報じられている。あくまで省として決定と伝わっているが、長官であるケネディ氏が「新型コロナのmRNAワクチンにはマイクロチップが含まれている」という陰謀説の出元と言われるだけに、同氏の関与をどうしても疑ってしまう。やりたい放題、いつまで続く?極めつきは5月22日に発表された「MAHA(Make America Healthy Again=米国を再び健康にする)委員会」の報告書だ。これは2月13日付でMAHA委員会を設置し、同委員会にアメリカ国民を不健康にしている原因究明とその解消策提言をするよう求めた大統領令に基づくもの。委員長はケネディ氏である。その内容を細かく取り上げるときりがないが、大雑把に要約すると「アメリカの子どもの慢性疾患は深刻で、その原因は加工食品や化学物質、薬の過剰投与、ワクチンの過剰接種が原因の可能性がある」というもの。トランプ政権入りする以前からのケネディ氏の主張そのままである。冒頭で触れたハーバード大学の留学生追放やすでに報じられている科学関連予算の大幅削減にこうしたケネディ色がトッピングされたら、4年後のアメリカはどうなってしまうのだろうか? 正直、嫌な予感しかないのだが…。

167.

重症大動脈弁狭窄症、supra-annularの自己拡張弁は非劣性を示せず/Lancet

 症候性重症大動脈弁狭窄症患者の経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)において、ACURATE neo2は既存の市販弁と比較し、主要複合エンドポイント(1年時の全死因死亡、脳卒中、再入院)に関して非劣性基準を満たさなかった。米国・Cedars-Sinai Medical CenterのRaj R. Makkar氏らACURATE IDE study investigatorsが、米国とカナダの71施設で実施した無作為化非劣性試験「ACURATE IDE試験」の結果を報告した。ACURATE neo2は、オープンセル構造でsupra-annularタイプの自己拡張型経カテーテル大動脈弁であり、50ヵ国以上で販売されているが、これまで無作為化試験による評価は実施されていなかった。Lancet誌オンライン版2025年5月21日号掲載の報告。ACURATE neo2をSAPIEN 3もしくはEvolut(対照)と比較検証 研究グループは、症候性の重症大動脈弁狭窄症で、手術リスクのレベルにかかわらずハートチームによりTAVRの適応と判断された患者を、ACURATE neo2群または対照群(SAPIEN 3[SAPIEN 3、SAPIEN 3 Ultra]、Evolut[Evolut R、Evolut PRO、Evolut PRO+、Evolut FX])に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、疑似乱数生成器を用いコンピュータで作成された置換ブロック法を用いて行われた。実施施設および対照弁の種類で層別化も行った。 すべてのデバイスは、製造メーカーの指示に従って留置された。 主要エンドポイントは、1年時の全死因死亡、脳卒中および再入院の複合とし、ベイズ法を用いて非劣性を検証した。主要解析はITT集団を対象とし、非劣性マージンは8.0%とした。1年時の主要複合エンドポイントおよび各イベント、ACURATE neo2群で発生率が高い 2019年6月10日~2023年4月19日に1,500例が無作為化された(ACURATE neo2群752例、対照群748例)。患者の年齢中央値は79歳(四分位範囲:74~83)で、女性が778例(51.9%)、男性が721例(48.1%)であった。 1年時の主要複合エンドポイントの事後確率中央値は、ACURATE neo2群16.2%(95%ベイズ信用区間[Crl]:13.4~19.1)、対照群9.5%(7.5~11.9)で、群間差は6.6%(3.0~10.2)、群間差の事後確率は>0.999であった。群間差の95%ベイズCrlは事前に規定した非劣性マージン8.0%を超え、非劣性は示されなかった。 Kaplan-Meier法による解析では、1年時の複合エンドポイントの発生率は、ACURATE neo2群14.8%(95%信頼区間[CI]:12.5~17.6)、対照群9.1%(7.2~11.4)であり、ACURATE neo2群が有意に高かった(ハザード比[HR]:1.71、95%CI:1.26~2.33、p=0.0005)。 1年時の全死因死亡は、ACURATE neo2群で752例中36例、対照群で748例中28例であり(HR:1.30、95%CI:0.80~2.14)、脳卒中はそれぞれ41例、25例(1.68、1.02~2.75)、再入院は38例、25例(1.57、0.95~2.61)に発生した。 1年時の心血管疾患による死亡(ACURATE neo2群3.7%vs.対照群1.8%、p=0.024)および心筋梗塞(2.4%vs.0.7%、p=0.0092)の発生率はACURATE neo2群で高く、1年時の人工弁大動脈弁逆流(中心弁および弁周囲弁)の発生率もACURATE neo2群で有意に高かった(軽度逆流42.5%vs.24.8%、p<0.0001、中等度逆流4.4%vs.1.8%、p=0.0070、重度逆流0.5%vs.0%、p=0.12)。

168.

人類の存続に必要な出生率とは?

 テスラ社のCEOで、少なくとも14人の子どもの父親であるイーロン・マスク(Elon Musk)氏は、出生率の低下は「人類存続の危機である」と警告し、話題を呼んだ。新たな研究によれば、この脅威はマスク氏の警告よりさらに深刻かもしれない。人口が長期的に増減することなく一定に保たれる水準(人口置換水準〔replacement level fertility;RLF〕)はこれまで女性1人当たり2.1人と考えられていたが、新たな研究で、それよりも高い2.7人であることが示唆された。フィリピン大学ロスバニョス校のDiane Carmeliza Cuaresma氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS One」に4月30日掲載された。 Cuaresma氏は、「人口の持続可能性を確保するには、標準的なRLFよりも高い出生率が必要だ」と話す。上述のように、現状では、RLFは2.1とされているが、研究グループによると、G7加盟国の出生率は、イタリア1.29、日本1.30、カナダ1.47、ドイツ1.53、英国1.57、米国1.66、フランス1.79であり、いずれの国も2.1を大きく下回っているという。また、出生率が最も低いのは韓国(0.87)であることや、出生率がRLFを下回ったままである場合、日本の人口は世代ごとに31%ずつ減少すると予測されていることも付け加えている。 ただし研究グループは、この2.1という数字は低い死亡率や出生時の性比が1対1であることを前提に算出されたものであり、個体のランダムな出生や死亡などにより生じる偶然の変動(人口学的確率性)を考慮していないと指摘している。人口学的確率性は、特に小規模集団では影響が極めて大きく、絶滅の要因となることもあるという。このことを踏まえて研究グループは今回、人口学的確率性や性別特異的死亡率を考慮した上で、生殖可能年齢の女性の出生率に関する絶滅の閾値を検討した。具体的には、出産する女性の割合、出生時の性比、生殖年齢前の死亡率などの要素が考慮された。 その結果、人類の存続に必要なRLFは約2.7であり、従来考えられていた2.1よりはるかに高いことが明らかになった。また、男児よりも女児の出生数の方が多くなると、絶滅の閾値は2.7よりも低くなることも示された。 こうした結果から研究グループは、戦争や飢饉、疫病などの過酷な状況下では男児よりも女児の方が多く生まれる傾向が観察されているが、この現象は、本研究結果により説明できる可能性があると主張する。 研究グループは、「ほとんどの先進国は人口が多いため、絶滅は差し迫った問題ではない」と話す。ただし、ほとんどの家系は子孫が途絶えることを示唆する結果ではあると指摘し、「今回の結果は、個人の視点で見ると重大な意味合いを持つ。ほぼ全ての人の家系は途絶える運命にあり、ごく少数の例外のみが何世代にもわたって生き残る可能性がある」と述べている。 さらに研究グループは、「言語もまた消滅の危機に瀕している。世界には6,700以上の言語があるが、そのうち少なくとも40%が今後100年以内に消滅する可能性がある。言語の消滅は、文化、芸術、音楽、口承伝統の消滅につながる」と話している。

169.

第13回 コロナ・インフル「同時予防ワクチン」、その実力とは?

毎年、冬になると猛威を振るう季節性インフルエンザ。未だ世界中で散発的な流行を起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これら2つの感染症は、とくに50歳以上の人や基礎疾患を持つ人にとって、重症化や入院、時には死に至る危険性もはらんでいます。現在、これらの感染症を予防するためには、それぞれ別のワクチンを接種する必要があります。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2つのワクチンの同時接種を推奨しており、これにより接種率の向上が期待されています。しかし、その推奨にもかかわらず、両方のワクチンの接種率は必ずしも高くないのが現状です。もし、1回の注射でインフルエンザと新型コロナの両方に対応できるワクチンがあれば、接種を受ける人の負担が減り、より多くの人が予防接種を受けやすくなるかもしれません。そんな期待を背負って開発が進められてきたのが、新しい混合ワクチンです。この記事では、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの両方に対応するmRNAワクチン「mRNA-1083」の安全性と免疫反応を評価した最新の研究論文1)について解説します。新しいmRNA多価ワクチン「mRNA-1083」とは?今回報告された「mRNA-1083」は、mRNAワクチンの一種です。mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を作るための設計図(mRNA)を体内に送り込み、それをもとに体内でタンパク質の一部が作られます。すると、私たちの免疫システムがそのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する抗体などを作り出すことで、本物のウイルスが侵入してきた際に備えることができる仕組みです。mRNA-1083には、インフルエンザウイルスの表面にあるヘマグルチニンというタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部の設計図が含まれています。これらは、それぞれインフルエンザワクチン(mRNA-1010)と新型コロナワクチン(mRNA-1283)の成分であり、過去の研究でそれぞれ良好な安全性と免疫反応が確認されています。ワクチンの効果と安全性をどうやって調べたのか?この研究は、mRNA-1083の有効性と安全性を評価するための第III相臨床試験として、アメリカ国内146施設で実施されました。参加者は50歳以上の成人で、「65歳以上」と「50~64歳」の2つの年齢層に分けられました。これは、推奨されるインフルエンザワクチンの種類がこれらの年齢層で異なるためです。参加者は、ランダムに2つのグループに分けられました。mRNA-1083群新しい多価ワクチンmRNA-1083と、プラセボ(生理食塩水)を接種(比較群が2つのワクチン接種を受けるため、あえてプラセボを1本接種しています)比較群インフルエンザワクチンと既存の新型コロナワクチンを同時接種試験は盲検化して行われました。これにより、結果に対する先入観を排除することができます。主な目的は、接種29日後に、mRNA-1083が既存のワクチンと同等以上の免疫反応(非劣性)を示すかどうか、そして安全性を評価することでした。この研究で何がわかったのか?合計8,015人がこの試験に参加し、ワクチンを接種しました。結果として、mRNA-1083は、対象となったすべての型のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存のワクチンと同等以上の免疫反応を示し、非劣性基準を達成しました。さらに、mRNA-1083はいくつかの点で、既存のワクチンよりも優れた免疫反応(優越性)を示しました。50歳~64歳mRNA-1083は、標準用量のインフルエンザワクチンと比較して、4種類すべてのインフルエンザウイルスに対してより高い免疫反応を示しました。また、新型コロナウイルスに対しても同様の結果でした。 65歳以上mRNA-1083は、高用量のインフルエンザワクチンと比較して、3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)に対してより高い免疫反応を示しました。ただし、B/Yamagata株に対する免疫反応は、優越性の基準には達しませんでした。新型コロナウイルスに対しても、mRNA-1083はより高い免疫反応を示しました。 なお、インフルエンザB/Yamagata株は、近年の流行がみられないため2024~25年シーズンのワクチンからは除外することがWHOから推奨されています。この点を考慮すると、mRNA-1083は重要な3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)と新型コロナウイルスの両方に対して、既存の推奨ワクチンよりも優れた免疫反応を50歳以上の成人に誘導したといえます。安全性は?ワクチンの安全性は非常に重要です。この研究では、mRNA-1083接種後の副反応も詳しく調べられました。その結果、mRNA-1083を接種した群では、既存のワクチンを接種した群と比較して、副反応を報告した人の割合や重症度がわずかに高い傾向がみられました。たとえば、65歳以上では、mRNA-1083群の83.5%に対し、比較群では78.1%が副反応を報告しました。50~64歳では、それぞれ85.2%と81.8%でした。しかし、報告された副反応のほとんどは、軽度(Grade1)または中等度(Grade2)であり、短期間で回復するものでした。最も多かった副反応は、注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛、頭痛でした。重篤な副反応(Grade4、すべて発熱)は非常にまれで、両年齢層のmRNA-1083群で合計4人(0.1%未満)でした。試験期間を通じて、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。また、この研究では、ワクチン接種後の数日間の生活の質(QOL)への影響も調査されています。その結果、mRNA-1083を接種したグループでは、接種後2日目に一時的なQOLスコアの低下が見られましたが、3日目には回復しました。この低下の度合いは、既存のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンで報告されているものと同程度か、それ以下であり、臨床的に意味のある大きな変化ではありませんでした。研究の限界この研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。まず、この研究では、ワクチンが実際にインフルエンザや新型コロナの発症をどの程度防ぐかという「有効性」は直接評価されていません。ただし、評価された免疫反応の指標(抗体価)は、それぞれインフルエンザと新型コロナワクチンの有効性と関連する信頼性の高い指標とされています。また、試験参加者はアメリカ国内の住民で、人種構成はアメリカの一般人口を反映していますが、他の地域や人種グループにそのまま結果を当てはめられるかはさらなる検討が必要です。今後の展望今回の第III相臨床試験の結果は、mRNA多価ワクチン「mRNA-1083」が、50歳以上の成人において、4種類のインフルエンザ株と新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存の推奨ワクチンと同等以上の免疫反応を誘導し、安全性も許容範囲であることを示しました。とくに、臨床的に重要なインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに対しては、既存ワクチンよりも優れた免疫反応が確認された点は注目に値します。1回の接種で2つの主要な呼吸器感染症を予防できる可能性を秘めたこの新しいワクチンは、公衆衛生の観点からも大きな期待が寄せられます。今後の実用化に向けた取り組みが注目されます。参考文献・参考サイト1)Rudman Spergel AK, et al. Immunogenicity and Safety of Influenza and COVID-19 Multicomponent Vaccine in Adults ≥50 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

170.

定年後も働きたい?医師が望むセカンドキャリア/医師1,000人アンケート

 近年、医師の定年後の過ごし方は多様化している。今回、CareNet.comでは、「医師の定年後の過ごし方」と題したアンケートを実施し、何歳まで働き続けたいかや、希望するセカンドキャリアなどを聞いた。対象はケアネット会員医師のうち、50代の勤務医が中心の1,002人で、内科系(545人)、外科系(282人)、その他診療科(175人)の3群に分けて傾向を調査した。何歳まで働くか? Q1では「何歳まで働きたいか」を聞いた。全体で最も多かった回答は「66~70歳まで」で28%、「61~65歳まで」が21%、「71~75歳まで」が22%だった。診療科系別にみると、「60歳まで」と回答した割合はその他診療科が12%で最も高く、「生涯現役」と回答した割合は内科系が13%でほかより若干高かった。定年後は非常勤の希望が最多 Q2では「定年後はどのような働き方を希望するか」を単一回答で聞いた。全体では、「非常勤・アルバイト」を希望する医師が65%と最も多く、「常勤」は24%、「就業は希望しない」は10%だった。診療科系別にみると、「常勤」を希望する割合は外科系がやや高く、「就業を希望しない」割合はその他診療科がやや高い傾向にあった。現勤務先か、ほかの医療機関に転職か Q3では「定年後に就業するなら、どのような仕事を希望するか」を複数回答で聞いた。全体では、「ほかの医療機関に転職」したい医師が52%、「現勤務先で継続」したい医師が49%と、この2つの選択肢が回答の上位を占めている。次いで、「産業医」11%、「僻地医療」8%、「就業は希望しない」8%、「医療コンサルタント」7%、「医療関連以外」7%と続いた。診療科系別にみると、「ほかの医療機関に転職」を希望する割合は外科系が最も高く、「現勤務先で継続」を希望する割合はその他診療科が最も高い傾向にあった。働く理由は「経済的な理由」だけではない Q4では「定年後も就業する理由」を複数回答で聞いた。「経済的な理由」が52%と最も多く、次いで「社会貢献」34%、「生涯現役」31%、「医師不足解消に貢献」22%となっている。診療科系別にみると、「経済的な理由」を挙げる割合はその他診療科と外科系がやや高く、「社会貢献」「生涯現役」「医師不足解消に貢献」を挙げる割合は、内科系がやや高い傾向にあった。「家族・周囲からの期待」の割合は、その他診療科でやや高い結果となった。仕事以外では旅行や趣味が人気 Q5では「就業以外で定年後にやりたいこと」を複数回答で聞いた。全体では、「旅行」が65%、「趣味」が61%と、この2つがとくに多い回答であった。そのほか、「健康維持活動」42%、「家族や友人と過ごす」32%などが上位に挙げられた。診療科系別にみると、「旅行」と回答した割合は外科系が最も高く、「健康維持活動」「家事」「医学以外の学習・資格取得」と回答した割合は、その他診療科で比較的高い結果となった。 Q6では、自由回答として「定年後にセカンドキャリアとして挑戦したいこと」を聞いた。医師の定年後のセカンドキャリアは、医療への貢献継続意向と異分野への挑戦意欲が共存しており、多岐にわたるユニークな回答が寄せられた。 回答を分類すると、「医療関連」「研究」「教育」が65件、「学び」「語学」が35件、「趣味」が33件、「社会貢献」が31件、「旅行」が23件、飲食業や不動産業などの「事業」が21件、「のんびり過ごしたい」というものが21件など、これらのカテゴリーに多くの回答が寄せられた。このほかより具体的なものとして、農業、創作活動、スポーツ、投資などの意見も少なくなかった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師の定年後の過ごし方/医師1,000人アンケート

171.

乳がん家族歴のある女性の検診、3D vs.2D/JAMA Oncol

 乳がんの家族歴のある女性を対象とした大規模コホート研究において、デジタル乳房トモシンセシス(DBT)を用いた乳がん検診が、従来のデジタルマンモグラフィ(DM)と比べ再検査率が大幅に低下し、特異度が向上したことをオーストラリア・シドニー大学のTong Li氏らが報告した。とくに、第1度近親者に乳がん患者がいる女性や乳腺散在乳房の女性でその効果が顕著で、きわめて高濃度乳房の女性では進行がん率を低下させることが示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2025年5月22日号に掲載。 本研究では、2011~18年に米国・Breast Cancer Surveillance Consortiumの加盟施設でDBTまたはDMによる検診を受けた、18歳以上の乳がん家族歴のある女性20万8,945人、延べ50万2,357件の検診データを解析した。主要評価項目は、治療の逆確率重み付けを行った再検査率、がん発見率、中間期がん(検診と次回の検診の間に発見されるがん)率、進行がん率、生検率、陽性反応的中度、感度、特異度におけるDBTとDMの絶対リスク差(ARD)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体として、DBTはDMより再検査率が有意に低く(調整後ARD:-1.51%)、特異度が有意に高かった(同:1.56%)。とくに第1度近親者に1人の乳がん患者がいる女性では、DBTはDMより再検査率が有意に低く(同:-1.72%)、特異度が有意に高かった(同:1.75%)。・乳腺密度別にみると、脂肪性乳房の女性ではDBTの非浸潤性乳管がん(DCIS)発見率はDMより有意に低かった(-0.71/1,000検査)。乳腺散在乳房の女性では、DBTの再検査率はDMより有意に低く(ARD:-1.90%)、特異度が有意に高かった(同:1.93%)。不均一高濃度乳房の女性では、DBTの再検査率はDMより有意に高かった(同:1.75%)。きわめて高濃度乳房の女性は、DBTの生検率はDMより有意に高く(同:0.48%)、進行がん率が有意に低かった(-0.61/1,000検査)。・DBTによる検診ではDMよりも早期の浸潤がんで発見される割合が高かった。

172.

COPDの新たな診断スキーマが有用/JAMA

 呼吸器症状、呼吸器QOL、スパイロメトリーおよびCT画像所見を統合した新たなCOPD診断スキーマによりCOPDと診断された患者は、COPDでないと診断された患者と比較して全死因死亡および呼吸器関連死亡、増悪、急速な肺機能低下のリスクが高いことが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のSurya P. Bhatt氏らCOPDGene 2025 Diagnosis Working Group and CanCOLD Investigatorsの研究で明らかとなった。著者は、「この新たなCOPD診断スキーマは、多次元的な評価を統合することで、これまで見逃されてきた呼吸器疾患患者を特定し、呼吸器症状や構造的肺疾患所見のない気流閉塞のみを有する患者を除外できる」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月18日号掲載の報告。主要基準として気流閉塞、副基準に症状および画像所見5項目を設定 研究グループは、COPDの新たな多次元的診断スキーマを開発し、2つの大規模な前向きコホート、Genetic Epidemiology of COPD(COPDGene)およびCanadian Cohort Obstructive Lung Disease(CanCOLD)を用いてその有用性を検証した。 COPDGeneコホートは、2007年11月9日~2011年4月15日に米国の21施設において、現在または過去に喫煙歴のある45~80歳の1万305例を登録したもので、2022年8月31日まで追跡が行われた。 CanCOLDコホートは、2009年11月26日~2015年7月15日にカナダの9施設において、40歳以上(喫煙歴は問わない)の1,561例を登録したもので、2023年12月31日まで追跡が行われた。 新しいスキーマでは、気流閉塞(FEV1/FVCが<0.70または<正常下限値)を「主要基準」、CT画像での軽度以上の肺気腫、気道壁肥厚の2つを「副基準:CT画像所見」、呼吸困難(mMRCスコア≧2)、呼吸器QOL低下(SGRQ≧25またはCAT≧10)、慢性気管支炎の3つを「副基準:呼吸器症状」として、(1)主要基準を満たし、5つの副基準のうち1つ以上を認める、または(2)副基準のうち3つ以上を認める(他の疾患が呼吸器症状の原因と考えられる場合はCT画像所見2つが必要)場合にCOPDと診断した。 主要アウトカムは、新スキーマを用いて診断した場合の全死因死亡、呼吸器疾患特異的死亡、COPD増悪、FEV1の年間変化であった。気流閉塞を認めないCOPDで予後不良 COPDGeneコホート(解析対象9,416例、登録時平均[±SD]年齢59.6±9.0歳、男性53.5%、黒人32.6%、白人67.4%、現喫煙者52.5%)では、気流閉塞を認めない5,250例中811例(15.4%)が副基準により新たにCOPDと診断され、気流閉塞を認めた4,166例中282例(6.8%)は非COPDとされた。新たにCOPDと診断された群は、非COPD群と比較して、全死因死亡(補正後ハザード比[HR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.67~2.35、p<0.001)、呼吸器特異的死亡(補正後HR:3.58、95%CI:1.56~8.20、p=0.003)、増悪(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.79~2.44、p<0.001)がいずれも有意に多く、FEV1の低下(-7.7mL/年、95%CI:-13.2~-2.3、p=0.006)が有意に大きかった。 スパイロメトリーで気流閉塞が認められたが新スキーマで非COPDとされた群は、気流閉塞がない集団と同様のアウトカムであった。 CanCOLDコホート(解析対象1,341例)においても同様に、新たにCOPDと診断された群は増悪頻度が高かった(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.25~3.51、p<0.001)。

173.

脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase+血栓除去術vs.血栓除去術単独/NEJM

 発症後4.5時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者において、血管内血栓除去術単独と比較し、tenecteplase静注後血管内血栓除去術は90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・Second Affiliated Hospital of Army Medical University(Xinqiao Hospital)のZhongming Qiu氏らが、同国の39施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「BRIDGE-TNK試験」の結果を報告した。大血管閉塞による脳梗塞急性期における血管内血栓除去術施行前のtenecteplase静注療法の安全性と有効性のエビデンスは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年5月21日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0~2の割合を比較 研究グループは、18歳以上、最終健常確認後4.5時間以内の内頸動脈、中大脳動脈M1/M2部または椎骨脳底動脈閉塞による脳梗塞患者で、中国の脳卒中ガイドラインに基づき静脈内血栓溶解療法の適応となる患者を、tenecteplase静注後血管内血栓除去術施行群(tenecteplase+血栓除去術群)、血管内血栓除去術単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の機能的自立(修正Rankinスケール[mRS]スコア0~2[範囲:0~6]、高スコアほど障害が重度)、副次アウトカムは血栓除去術前後の再灌流成功率などであった。 安全性は、無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の死亡などについて評価した。機能的自立は53%vs.44%でtenecteplase+血栓除去術が良好 2022年5月9日~2024年9月8日に554例が無作為化され、同意撤回の4例を除く550例がITT集団に組み入れられた(tenecteplase+血栓除去術群278例、血栓除去術単独群272例)。 90日時点の機能的自立は、tenecteplase+血栓除去術群で52.9%(147/278例)、血栓除去術単独群で44.1%(120/272例)に観察された(調整前リスク比:1.20、95%信頼区間:1.01~1.43、p=0.04)。 tenecteplase+血栓除去術群では6.1%(17/278例)、血栓除去術単独群では1.1%(3/271例)が血栓除去術前に再灌流に成功していた。また、血栓除去術後の再灌流成功率はそれぞれ91.4%(254/278例)、94.1%(255/271例)であった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血は、tenecteplase+血栓除去術群で8.5%(23/271例)、血栓除去術単独群で6.7%(18/269例)に認められ、90日死亡率はそれぞれ22.3%(62/278例)、19.9%(54/272例)であった。

174.

4時間ごとの口腔ケア・口腔咽頭吸引でVAE発生率が減少【論文から学ぶ看護の新常識】第16回

4時間ごとの口腔ケア・口腔咽頭吸引でVAE発生率が減少4時間ごとの口腔ケアと口腔咽頭吸引が、人工呼吸器関連イベント(VAE)を有意に減少させることが、Khanjana Borah氏らの研究により示された。Acute and Critical Care誌2023年11月号に掲載された。南インドの三次医療センター集中治療室で人工呼吸器管理を必要とする患者に対する、4時間ごとの口腔咽頭吸引が人工呼吸器関連イベントに及ぼす影響:ランダム化比較試験研究チームは、機械的人工呼吸管理(MV)を受けている患者における人工呼吸器関連イベント(VAE)に対して、4時間ごとの口腔ケアおよび口腔咽頭吸引を組み合わせた介入が、標準的な口腔ケアプロトコルと比較してどのような効果をもたらすかを検証するため、ランダム化比較試験を実施した。対象は、新たに気管挿管され、72時間以上の人工呼吸器管理が予測される患者120例であり、対照群または介入群に無作為に割り付けられた。介入群には、4時間ごとにクロルヘキシジン溶液を用いた口腔ケアと口腔咽頭吸引が実施された。対照群には、標準的な口腔ケア(クロルヘキシジン溶液を用い1日3回)と必要時の口腔咽頭吸引がおこなわれた。介入後3日目および7日目には、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の評価のため気管内吸引物の検査がおこなわれた。主な結果は以下の通り。両群のベースラインにおける臨床的特徴は均質であった。VAEの発生率は、介入群(56.7%)が、対照群(78.3%)と比較して、統計的に有意に低かった(p論文はこちらBorah K, et al. Acute Crit Care. 2023;38(4):460-468.

175.

飲酒は膵がんに関連するのか~WHOの大規模プール解析

 アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を示すエビデンスは国際的専門家パネルによって限定的、あるいは決定的ではないと考えられている。今回、世界保健機関(WHO)のInternational Agency for Research on Cancer(IARC)のSabine Naudin氏らは、30コホートの前向き研究の大規模コンソーシアムにおいて、アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を検討した。その結果、性別および喫煙状況にかかわらず、アルコール摂取と膵がんリスクにわずかな正の関連が認められた。PLOS Medicine誌2025年5月20日号に掲載。 本研究における集団ベースの個人レベルのデータは、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米の4大陸にわたる30のコホートからプールした。1980~2013年に、がんを発症していない249万4,432人(女性62%、ヨーロッパ系84%、飲酒者70%、喫煙歴なし47%)を登録(年齢中央値57歳)、1万67例が膵がんを発症した。喫煙歴、糖尿病の有無、BMI、身長、教育、人種・民族、身体活動で調整した年齢・性別による層別Cox比例ハザードモデルにおいて、アルコール摂取量のカテゴリーと10g/日増加による膵がんのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・アルコール摂取量は膵がんリスクと正の相関を示し、1日0.1~5g未満と比べた1日30g以上60g未満および1日60g以上でのHR(95%CI)はそれぞれ1.12(1.03~1.21)および1.32(1.18~1.47)であった。・男女別では、女性で1日15g以上、男性で1日30g以上の場合に関連が明らかになった。・アルコール摂取量が10g/日増加すると、膵がんリスクは全体で3%増加し(HR:1.03、95%CI:1.02~1.04、p<0.001)、喫煙経験者では3%増加した(HR:1.03、95%CI:1.01~1.06、p=0.006)が、性別(異質性:0.274)または喫煙状況(異質性:0.624)による異質性は示されなかった。・地域別では、ヨーロッパ/オーストラリア(10g/日増加によるHR:1.03、95%CI:1.00~1.05、p=0.042)および北米(HR:1.03、95%CI:1.02~1.05、p<0.001)では関連が認められたが、アジア(HR:1.00、95%CI:0.96~1.03、p=0.800、異質性:0.003)では関連は認められなかった。・アルコールの種類別では、ビール(10g/日増加によるHR:1.02、95%CI:1.00~1.04、p=0.015)とスピリッツ/リキュール(95%CI:1.03~1.06、p<0.001)は膵がんリスクとの正の関連が認められたが、ワイン(HR:1.00、95%CI:0.98~1.03、p=0.827)については認められなかった。 著者らは、「地域やアルコールの種類による関連性の違いは、飲酒習慣の違いを反映している可能性があり、さらなる調査が必要」と考察している。

176.

高齢者の不眠を伴ううつ病に対する薬理学的介入効果の比較〜ネットワークメタ解析

 高齢者における睡眠障害を伴ううつ病に対するさまざまな薬物治療の有効性と安全性を比較するため、中国・北京大学のJun Wang氏らは、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychogeriatrics誌2025年5月号の報告。 主要な国際データベース(Medline、Cochrane Library、Scopus、Embase、WHO国際臨床試験登録プラットフォーム、ClinicalTrialsなど)より、事前に設定したワードを用いて、検索した。薬物治療またはプラセボ群と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。ネットワークメタ解析におけるエフェクトサイズの推定には、標準平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を用いた。データ解析には、頻度主義アプローチを用いた。安全性評価には、治療中に発現した有害事象および重篤な有害事象を含めた。 主な内容は以下のとおり。・検索された文献8,673件のうち、12件のRCTが基準を満たした(3,070例)。・すべての薬物治療介入は、不眠症重症度指数(ISI)およびうつ病スコアの低下に有効的であった。・セルトラリンは、高齢のうつ病および不眠症患者におけるISIおよびハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の改善において、最も効果的な介入である可能性が高かった。【ISI】SMD:−2.17、95%CI:−2.60~−1.75【HAM-D】SMD:−3.10、95%CI:−3.60~−2.61・安全性評価では、エスシタロプラム、zuranoloneで報告された患者数において、ゾルピデム、seltorexant、エスゾピクロンは、プラセボまたは他の治療薬と比較し、重篤な有害事象リスクが高かった。 著者らは「セルトラリンは、高齢者の睡眠障害を伴ううつ病において最適な治療選択肢である可能性が最も高かった。エスシタロプラム、zuranolone、seltorexantでは、ISI改善において、有意な効果が認められなかった。これらの結果はエビデンスに基づいた臨床実践に役立つはずである」と結論付けている。

177.

1型ナルコレプシー、oveporextonが入眠潜時を改善/NEJM

 1型ナルコレプシーの治療において、プラセボと比較して血液脳関門を通過する経口オレキシン2型受容体選択的作動薬oveporexton(TAK-861)は、覚醒、眠気、情動脱力発作の指標に関して、用量依存性に8週間にわたり臨床的に意義のある改善をもたらし、不眠や尿意切迫の頻度が高いものの肝毒性は認めないことが、フランス・Gui de Chauliac HospitalのYves Dauvilliers氏らが実施した「TAK-861-2001試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年5月15日号で報告された。4つの用量を検討する第II相無作為化プラセボ対照比較試験 TAK-861-2001試験は、1型ナルコレプシーにおけるoveporextonの有効性と安全性の評価を目的とする第II相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年2~10月に米国、欧州、日本、オーストラリアで参加者の無作為化を行った(Takeda Development Center Americasの助成を受けた)。 年齢18~70歳で1型ナルコレプシーと診断された患者112例(平均年齢34歳、女性52%)を登録した。これらの患者を、oveporexton 0.5mg(1日2回)を投与する群(23例)、同2mg(1日2回)群(21例)、同2mg投与後に5mg投与(1日1回)群(23例)、同7mg投与後にプラセボ投与(1日1回)群(23例)、プラセボ(1日2回)群(22例)に無作為に割り付けた。  主要エンドポイントは、覚醒維持検査(MWT)で評価した平均睡眠潜時(入眠までに要した時間:範囲は0~40分、20分以上で正常)のベースラインから8週までの平均変化量であった。副次エンドポイントは、Epworth眠気尺度(ESS)の総スコア(範囲:0~24点、10点以下で正常)のベースラインから8週までの変化量、8週の時点における1週間の情動脱力発作の発生率、有害事象の発現などであった。睡眠潜時とESS総スコアはすべての用量で有意差 MWTによる平均睡眠潜時のベースラインから8週までの平均変化量は、oveporexton 0.5mg×2回群が12.5分、同2mg×2回群が23.5分、同2mg+5mg群が25.4分、同7mg群が15.0分、プラセボ群は-1.2分であり、プラセボ群に比べoveporextonの4つの用量群はいずれも有意に良好であった(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.001)。 8週の時点におけるESS総スコアの平均変化量は、それぞれ-8.9点、-13.8点、-12.8点、-11.3点、-2.5点と、プラセボ群に比べ4つの用量群はいずれも有意に優れた(プラセボ群と比較した補正後p値はすべての用量で≦0.004)。 また、8週の時点での1週間の情動脱力発作の発生率は、それぞれ4.24件、3.14件、2.48件、5.89件、8.76件であり、2mg×2回群と2mg+5mg群で有意差を認めた(プラセボと比較した補正後p値は、2mg×2回群と2mg+5mg群で<0.05)。不眠のほとんどは1週間以内に消失 oveporexton群では、70例(78%)に有害事象が発現した。oveporexton関連の有害事象のうち最も頻度が高かったのは、不眠(48%に発現、ほとんどが1週間以内に消失)、尿意切迫(33%)、頻尿(32%)であった。重度有害事象は7例に認めた。 重篤な有害事象として足関節果部骨折が1例(2mg+5mg群)で発現したが、試験薬との関連はなかった。有害事象による試験中止の報告はなく、自殺行動/自殺念慮、血圧や心拍数の顕著な変動も認めなかった。また、肝毒性は発現しなかった。 著者は、「この試験は他のナルコレプシー治療薬と有効性を比較するものではないが、oveporextonはMWTによる平均睡眠潜時を用量依存性に14~27分近く改善し、現在使用可能なナルコレプシー治療薬で観察されている2~12分の改善に比べ大幅に優れていた」としている。

178.

希少がん患者、新たな放射線治療で副作用なくがんを克服

 米ミシガン州レッドフォード在住のTiffiney Beardさん(46歳)は、2024年4月に唾液腺の希少がんと診断されて以来、困難な道のりが待ち受けていることを覚悟していた。Beardさんが罹患した腺様嚢胞がんは神経に浸潤する傾向があるため、治療の副作用として、倦怠感、顎の痛み、食事や嚥下の困難、味覚の喪失、頭痛、記憶障害などを伴うのが常だからだ。Beardさんの場合、がんが脳につながる神経にまで浸潤していたことが事態をさらに悪化させていた。 Beardさんの担当医は、頭頸部がんに使用するのは米国で初めてとなる高度な放射線治療(陽子線治療)を行った。その結果、治療中にBeardさんに副作用が出ることはなかったという。Beardさんは、「ガムボールほどの大きさの腫瘍の摘出後、合計33回の陽子線治療を受けたが、副作用は全くなく、仕事を休むこともなかった」とニュースリリースで述べている。米コアウェル・ヘルス・ウィリアム・ボーモント大学病院のRohan Deraniyagala氏らが報告したこの治療成功症例の詳細は、「International Journal of Particle Therapy」6月号に掲載された。 従来の放射線治療では、高エネルギーX線などの光子線を用いてがん細胞を死滅させるのに対し、陽子線治療では、正に帯電した水素原子の原子核(陽子)を加速器で加速させて作ったビーム(陽子線)を、がん細胞周囲の健康な組織や臓器へのダメージを極力抑えながらより正確に照射して、がん細胞を死滅させることができる。 近年、最新の放射線治療として、照射装置を回転させながら(アーク照射法)細い陽子線を腫瘍に動的に照射する「動的スポットスキャニング法による陽子アーク治療(Dynamic spot-scanning proton arc therapy)」が注目を集めているが、病院への導入は進んでいない。一方、Beardさんに実施された陽子線治療は、照射装置の回転を一定の角度で停止させて陽子線を照射する、step and shoot方式のスポットスキャニング法による陽子アーク治療である(step-and-shoot spot-scanning proton arc therapy、以下、step and shootスポットスキャンアーク治療)。 Beardさんの治療は2024年6月に開始され、3カ月間、週5日、1日30分行われた。治療は2024年8月初旬に完了した。それ以来、Beardさんはがんを克服した状態を維持している。また、研究グループによると、脳を含む体の他の部位における放射線毒性も確認されていないという。 Deraniyagala氏は、「この治療により顔の左側の皮膚が少し変色したが、喜ばしいことに、それ以外の副作用が出ることはなかった」と語る。 Deraniyagala氏はまた、他の患者もこの治療によりBeardさんと同じ結果を得ることに期待を示している。同氏は、「陽子線治療は急速に進化し続けている。Beardさんの症例では、step and shootスポットスキャンアーク治療が非常に効果的であることが示されたが、これはさらに優れた治療法の開発に向けた最新のステップに過ぎない。Beardさんがほとんど副作用を経験しなかったという事実は、この種の治療法にとって素晴らしい成果であり、今後さらに良いことが起こるという良い兆候だ」と述べている。

179.

第268回 生まれつき重病の乳児への世界初の体内塩基編集治療がひとまず成功

生まれつき重病の乳児への世界初の体内塩基編集治療がひとまず成功生まれつきの重病の乳児に、その子専用にあつらえた体内遺伝子編集治療が世界で初めて投与されました1,2)。幸いなことに手に負えない有害事象は生じておらず、経過はひとまず順調なようです。KJと呼ばれるその男児の病気はカルバモイルリン酸合成酵素1(CPS1)欠損症と言い、病名が示すとおりCPS1欠乏を引き起こす遺伝子の異常で生じます。CPS1はミトコンドリアにある酵素で、もっぱら肝細胞で取り行われる解毒反応で必須の工程を担います。CPS1は神経毒のアンモニアと炭酸水素を組み合わせて尿素回路の基質となるカルバモイルリン酸を作ります。カルバモイルリン酸を取り込んだ尿素回路から尿素が作られて尿中へと排出されます。遺伝子の異常でCPS1が不足して用を成さなくなると、血中のアンモニアが増え、脳を害する高アンモニア血症に陥ります。治療しないままの高アンモニア血症は昏睡を引き起こして死に至る恐れがあります。KJは生後2日と経たず発症し、血中のアンモニア濃度は基準範囲9~33μmol/Lを遥かに上回る1,703μmol/Lを示していました。KJのゲノム配列を解析したところCPS1の生成を途中で終わらせてしまう変異Q335Xが見つかりました。Q335Xは塩基のグアニンをアデニンに置き換えるナンセンス変異で、本来アミノ酸を指定するコドンを停止コドンにします。そのせいでCPS1は寸足らずの短いものとなってしまいます。KJにはその変異を正す塩基編集治療が施されました。米国のフィラデルフィア小児病院の医師Kiran Musunuru氏らがペンシルバニア大学の研究者と協力して開発されたその治療はkayjayguran abengcemeran(k-abe)と呼ばれ、Cas9ニッカーゼ(Cas9n)とアデノシンデアミナーゼの複合体であるアデニン塩基編集タンパク質(ABE)を作るmRNA(abengcemeran)、ガイドRNA(gRNA)、それらを肝細胞に運ぶ脂質ナノ粒子で構成されています。k-abeのgRNAがCPS1変異領域へABEを導き、ABEのCas9n領域がまず目指す配列に結合します。続いてアデノシンデアミナーゼ領域がアデニンを脱アミノ化します。そうしてアデニン-チミン塩基対がグアニン-チミン塩基対へと変換され、寸足らずではない完全長のCPS1が作られるようになります。k-abeはマウスで遺伝子編集の効率を調べ、サルで安全性を確認した後にKJに静注されました。本年2025年の4月までにk-abeは合計3回投与され2)、安全性にこれといった難はなく、深刻な有害事象は認められていません。効果のほども見て取れ、生後7ヵ月ごろ(生後208日目)の最初のk-abe投与から7週間にKJは食事でのタンパク質摂取を増やすことができ、窒素除去薬の用量を半分に減らせました。また、CPS1の働きが回復していることを示す所見と一致する血中アンモニア濃度低下も認められています。CPS1遺伝子配列が正しく編集されているかどうかを検討するための肝臓の生検には報告の時点で至っていません。幼いKJに肝生検は危険すぎたからです。効果の持続のほど、目当ての配列以外の余計な編集やk-abeへの免疫反応の害もわかっておらず、より長期の経過観察でk-abeのさらなる安全性や有効性、それに神経の調子を検討する必要があります1,3)。 参考 1) Musunuru K, et al. N Engl J Med. 2025 May 15. [Epub ahead of print] 2) World's First Patient Treated with Personalized CRISPR Gene Editing Therapy at Children's Hospital of Philadelphia / PRNewswire 3) Gropman AL, et al. N Engl J Med. 2025 May 15. [Epub ahead of print]

180.

治療抵抗性高血圧、amilorideはスピロノラクトンに非劣性/JAMA

 治療抵抗性高血圧の治療において、カリウム保持性利尿薬のamilorideはスピロノラクトンに対し、家庭収縮期血圧(SBP)の低下に関して非劣性が認められたことを、韓国・Yonsei University のChan Joo Lee氏らが、同国の14施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検臨床試験の結果で報告した。これまで、治療抵抗性高血圧患者においてスピロノラクトンとamilorideの有効性を比較した無作為化臨床試験は行われていなかった。結果を踏まえて著者は、「amilorideは治療抵抗性高血圧の治療に有効な代替薬となりうることが示された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月14日号掲載の報告。12週時の家庭SBPのベースラインからの変化量を評価 研究グループは、2020年11月16日~2024年2月29日に19~75歳の治療抵抗性高血圧患者(レニン-アンジオテンシン系阻害薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬の3剤併用療法にもかかわらず、スクリーニング前12ヵ月以内の外来血圧モニタリングで日中の平均SBPが130mmHg以上と定義)を登録し、導入期としてアムロジピン、オルメサルタン、ヒドロクロロチアジドの固定用量3剤併用療法を4週間行った後、平均家庭SBPが130mmHg以上の患者118例を、スピロノラクトン(12.5mg/日)群(60例)またはamiloride(5mg/日)群(58例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 無作為化4週間後に平均家庭SBPが130mmHg以上、血清カリウムが5.0mmol/L未満の場合は、投与量をそれぞれ25mg/日、10mg/日に増量した。 主要エンドポイントは、12週時の家庭SBPのベースラインからの変化量の群間差とし、非劣性マージンは信頼区間(CI)の下限が-4.4mmHgとした。副次エンドポイントは、家庭および診察室でのSBP 130mmHg未満の達成率であった。変化量は-13.6±8.6mmHg vs.-14.7±11.0mmHg 118例の患者背景は、年齢中央値55歳、男性が70%であった。α遮断薬の使用(amiloride群8.6%、スピロノラクトン群0%)以外の患者背景に群間差はなかった。ベースラインの家庭血圧の平均値(±標準偏差)はamiloride群で141.5±7.9mmHg、スピロノラクトン群で142.3±8.5mmHgであった。 12週時の家庭SBPのベースラインからの変化量(平均値±標準偏差)は、amiloride群で-13.6±8.6mmHg、スピロノラクトン群で-14.7±11.0mmHg。群間差は-0.68mmHg(90%CI:-3.50~2.14mmHg)であり、amiloride群のスピロノラクトン群に対する非劣性が示された。 家庭SBP 130mmHg未満達成率はamiloride群で66.1%、スピロノラクトン群で55.2%、診察室SBP 130mmHg未満達成率はそれぞれ57.1%および60.3%であり、両群間に差はなかった。 安全性については、スピロノラクトン群では1例がめまいと急性腎障害、amiloride群では2例がめまい、1例が高カリウム血症により試験治療を中止した。両群とも試験期間中に女性化乳房を発症した患者は認められなかった。

検索結果 合計:10244件 表示位置:161 - 180