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近年、CT検査は診断能が飛躍的に向上し、急速に普及したため、米国では2023年に6,151万人に対し、約9,300万件もの検査が実施されました。人口当たりに直すと、1,000人当たり約280件となり、数字の大きさがより実感しやすいかもしれません。これは実際、世界でもトップレベルの頻度です。CT検査で用いられるX線は、細胞の損傷や遺伝子の突然変異を起こすのに十分なエネルギーを持つ「イオン化放射線」に分類され、「既知の発がん性物質」として扱われています。今回ご紹介するSmith-Bindman氏らの研究では、このCTの撮像回数から被曝量を割り出し、この被曝が米国国民の発がんにどの程度寄与するのかを推計しています1)。検査氾濫が招く10万件超のがんリスク彼らの研究モデルによれば、CT検査に伴うイオン化放射線による将来のがん発症数は、平均で年間約10万3,000件に上り、米国における年間新規がん診断の約5%を占めるという衝撃的な推計が行われました。子供では検査1件当たりのリスクが高くなるものの、検査件数そのものは成人に偏っているため、結果的に成人へのCT検査が総発がん数の約91%(約9万3,000件)を担うと報告されています。がんの内訳を見ると、肺がんが最も多く2万2,400件、次いで大腸がん、白血病、膀胱がんと続きます。女性では乳がんが5,700件と推計されました。部位別では、成人の腹部・骨盤部のCT検査が3,000万件(全検査の32%)実施され、それに由来するがんは3万7,500件と最も多く、続いて胸部CTが2,000万件(21%)で、将来のがんは2万1,500件と見積もられています。多様な分析を行ったうえでも、推計の総発がん数は8万~12万7,000件の範囲となり、推計値の不確実性を勘案しても、変わらず重要性の高い問題であると考察されています。この報告が重要なのは、単に「CTは放射線リスクを伴う」といった抽象的な議論ではなく、検査件数と年齢・部位別の実測の放射線量データを用いて、具体的な将来の発がん数を予測した点にあります。日本では――適正化への道標では、この結果を日本でどう受け止めればよいでしょうか。日本もOECD加盟国のなかでCT検査件数が常に上位にあり、米国ほどではないものの、検査回数も1人当たり高水準で推移しています。日本国内のNDBオープンデータに基づく推計では、例年人口1,000人当たり200~250件前後という高い水準です2,3)。今回の報告を参考にすると、日本で検査に伴う放射線発がんの潜在的負荷は決して無視できません。もちろんこれは、診断に必要とされる場合など、必要なCT検査をやめましょうという話ではありません。しかし、「一応、CTを撮っておきましょう」と必要性が曖昧な検査が行われていることも事実です。これについては、見直しが必要であることを改めて教えてくれる研究結果であったと思います。代替手段として超音波検査などで対応できたものもあるでしょう。また、可能な限り被曝を抑えた撮影条件を徹底し、検査部位を最小限に留めるなどの対策も重要です。結論として、本論文は「CT検査は命を救うが、利用過多は将来のがんを増やす」というトレードオフを定量的に示し、検査適正化と線量管理の徹底こそが利益と安全性の両立に不可欠であることを教えてくれます。医療者も患者も、急ぎでないCT検査の必要性を立ち止まって見極める意識がますます重要といえるのではないでしょうか。 1) Smith-Bindman R, et al. Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging. JAMA Intern Med. 2025 Apr 14. [Epub ahead of print] 2) Tsushima Y, et al. Radiation Exposure from CT Examinations in Japan. BMC Med Imaging. 2010;10:24. 3) 厚生労働省.【NDB】NDBオープンデータ.