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妊娠合併症は将来の心臓の健康に悪影響を及ぼす

 妊娠中に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群といった合併症を発症した女性は、後年の心臓の健康リスクが高いことを示す研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学のJaclyn Borrowman氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に4月22日掲載された。 著者らによると、妊娠合併症と健康リスクとの関連は、妊娠前に過体重や肥満であった女性に、特に強く当てはまるという。そして、「女性にとって妊娠中に合併症を発症するか否かは、将来の健康状態や慢性疾患のリスクを予測するという点で、あたかも“ストレス負荷テスト”のようなものだ」と解説。またBorrowman氏は、「われわれの研究結果は、妊娠を考えている女性が体重管理を優先することが、妊娠中および将来の心臓血管の健康につながり得ることを示唆している」と話している。 この研究は、妊娠前に高血圧や糖尿病のない18歳以上の妊婦4,269人(平均年齢30.1±5.6歳)を妊娠28週(範囲24~32週)時点に登録し、観察研究として行われた。妊娠前に、22%は過体重(BMI25~30未満〔国内ではこの範囲も肥満に該当〕)、11%は肥満(BMI30以上)だった。妊娠糖尿病は13.8%に、妊娠高血圧症候群は10.7%に認められた。 出産後11.6±1.3年間追跡(範囲10~14年)。平均41.7±5.6歳の時点において、妊娠前に肥満であった群はそうでない群に比べて、平均血圧(7.0mmHg〔95%信頼区間6.0~8.1〕)、トリグリセライド(28.5mg/dL〔同21.9~35.1〕)、HbA1c(0.3%〔0.2~0.4〕)が有意に高かった。 妊娠糖尿病の発症は、肥満と追跡期間中のHbA1cとの関連を24.6%(20.9~28.4)媒介し、妊娠高血圧症候群の発症は、肥満と追跡期間中の平均動脈圧との関連を12.4%(10.6~14.2)媒介していた。この結果についてBorrowman氏は、「妊娠合併症は将来の心臓病リスクに寄与するが、そのリスクの全てを説明できるわけではなく他の因子も関係している。妊娠合併症と心臓病リスクとの関連性を理解することは、効果的な予防戦略の開発や最良の介入タイミングの決定のために重要である」と話している。 米イノバ・ヘルス・システムのGarima Sharma氏が、この論文に対する付随論評を寄せ、「本研究は、医師が妊娠後の女性の心臓リスク因子を予測する際に役立つ可能性のある、示唆に富む情報を提供している」と評価。また、「示された結果は、妊娠前および出産後に、過剰な脂肪を減らすことの意義を強調するものと言える。抗肥満薬などの新しい治療選択肢が整ってきた現在では、この点はより重要な意味を持つ」と付け加えている。

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セマグルチドはPADを有する2型糖尿病患者の歩行距離を改善する(解説:原田和昌氏)

 症候性末梢動脈疾患(PAD)の罹患者は世界で2億3,000万人超と推定され、高齢化により増加している。PAD患者の機能低下と健康関連QOL低下を改善する治療は、ほとんどなかった。米国・コロラド大学のMarc P. Bonaca氏らは第IIIb相二重盲検無作為化プラセボ対照試験のSTRIDE試験にて、PADを有する2型糖尿病(DM)患者においてセマグルチドがプラセボと比較して歩行距離を改善することを示した。20ヵ国112の外来臨床試験施設で行われた。 2型DMで間欠性跛行を伴うPAD(Fontaine分類IIa度、歩行可能距離>200m)を有し、足関節上腕血圧比(ABI)≦0.90または足趾上腕血圧比(TBI)≦0.70の患者を対象とした。セマグルチド1.0mgを週1回52週間皮下投与する群(396例)またはプラセボ群(396例)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、定荷重トレッドミルで測定した52週時点の最大歩行距離の対ベースライン比であった。25%が女性で年齢中央値は68.0歳、ベースラインのABIの幾何平均値は0.75、同TBIは0.48、最大歩行距離中央値185.5m、追跡期間中央値は13.2ヵ月であった。 主要エンドポイントは、セマグルチド群(1.21[四分位範囲[IQR]:0.95~1.55])がプラセボ群(1.08[0.86~1.36])よりも有意に大であった(推定治療群間比:1.13[95%信頼区間:1.06~1.21]、p=0.0004)。52週時点の最大歩行距離の絶対改善中央値は、セマグルチド群37m(IQR:-8~109.0)、プラセボ群13m(-26.5~70.0)であった。重篤な有害事象はセマグルチド群19%、プラセボ群20%であり、試験薬に関連した重篤な有害事象はセマグルチド群1%、プラセボ群2%で重篤な胃腸障害の頻度が最も高かった。治療に関連した死亡はなかった。 PADの治療は運動療法とアスピリンまたはクロピドグレル、シロスタゾール、スタチンが基本であり、下肢血行再建術後のPADにはリバーロキサバン2.5mgの1日2回経口投与+アスピリンが承認されている。2020年Marc P. Bonaca氏らによるVOYAGER PAD試験にて主要有害下肢/心血管イベントリスクの低下が示されたことによる。一方、STRIDE試験では歩行距離の延長と副次的評価項目のABI改善が示されており、PAD+2型DM患者に対するセマグルチドの早期承認が望まれる。心血管合併症などでシロスタゾールが使用しにくい患者にとくに有効と考えられる。なお、事後解析では救肢のための血行再建術+薬物追加+死亡も有意に減少していた。 著者らはメカニズムを強調していないが、PAD患者はもともと体重があまり大きくないため体重減少の効果は少なそうである。GLP-1受容体作動薬のDMの臨床試験のメタ解析にてCRP値の低下を含む抗炎症作用が示されており、心血管イベント抑制だけでなく血管自体に効いているという可能性がある。非DM患者に対する効果も興味深いところである。

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第263回 大学病院などで医療機器メーカー社員が無資格でX線検査、医療機器絡みのリベートや労務提供がなくならない理由とは

兄弟会社含めると“お騒がせ”2度目の外資系メーカーこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。米国MLB、日本人投手受難の日々が続いていますね。デトロイト・タイガースの前田 健太投手は調子上がらず結局解雇、シカゴ・カブスの今永 昇太投手は太もも怪我、そしてロサンゼルス・エンゼルスの菊池 雄星投手は未だに未勝利です。菊池投手は、これまでに9試合に先発し5度のクオリティ・スタート(6回3自責点以内)をマークしていますが、勝ち星はついておらず0勝4敗という成績です。こちらは不運としか言いようがありません。また、ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手も先行きが不安視されています。かろうじて1勝はしているものの、5月9日(現地時間)の登板(初めての中5日登板)は5回途中、わずか61球で降板しています。日本で過保護に育てられ過ぎてスタミナがないのか、あるいは肩がどこかおかしいのか、フォーシームのスピード、変化球のキレともに日本時代より相当落ちている気がしました。日本のスポーツ紙各紙も「ドジャース傘下“トリプルA”で出直した方がいい」「明らかな球速低下『並の投手』に」「カットボールなどを覚えて幅を広げないと厳しい」など、手厳しい評価をしています。この先、立て直すことができるのか、あるいは怪我をして長期離脱してしまうのか……、とここまで書いたら、現地時間13日、右肩痛により故障者リスト入りが発表されました。まるでロッテ時代みたいですね。いろいろな意味で心配です。さて、今回は先月表沙汰になった医療機器メーカー社員が大学病院などで無資格でX線装置を操作していた事件を取り上げます。この医療機器メーカーは脊椎手術で使う脊椎インプラントを製造販売するニューベイシブジャパン(東京都中央区)です。同社は2009年5月に米国カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置くNuVasive社の日本法人として設立されました。ちなみに、米国のNuVasive社は2023年にやはり脊椎インプラントを製造販売するGlobus Medical社(ペンシルバニア州オーデュボン)と合併しています。そのGlobus Medical社の日本法人、グローバスメディカル(東京都中央区)は2020年に同社の製品を購入した病院の医師に対し、売上の10%前後をキックバックしていたことで世間を騒がせました(第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?)。というわけで、この外資系メーカー、兄弟会社を合わせると2度目の“お騒がせ”ということになります。関東や関西の複数医療機関で整形外科手術に立ち会いX線装置を操作4月18日付の朝日新聞朝刊は、「手術中、無資格でX線照射」と題する記事を掲載、米国系の医療機器メーカー、ニューベイシブジャパンの営業担当者らが、大学病院などの医療機関で手術に立ち会い、資格を持たずにX線装置を操作していたと報じました。同記事には「関西の大学病院の手術内で、X線装置を操作する医療機器メーカーの営業担当者」というキャプションとともに、防護服を着用して操作中の社員の写真も掲載されています。同記事によれば、朝日新聞の取材に対し同社は、「営業担当者4人が2024年4~11月に関東や関西の五つの医療機関で整形外科手術に立ち会い、X線装置を操作した」と説明、診療放射線技師法違反も認めたとのことです。手術は同社製の脊椎インプラントを使用した手術ですが、操作していたX線装置は同社製ではありませんでした。そんなことを黙認していた病院も病院です。同記事は、「同社関係者は『営業担当者は、自社の医療機器を購入してもらうために医師に労務を提供し、便宜をはかっていた』と話す。五つの医療機関以外でも同社社員によるX線装置の操作が目撃されている」と書いています。この日の朝日新聞は「X線照射、密室の癒着」と題する関連記事も掲載しています。同記事によれば、ニューベイシブジャパンの営業社員が操作していたのは、「Cアーム」と呼ばれる機器で、術中の放射線の照射は長時間に及ぶことが多く、とくに高度な操作が必要とされる、としています。営業の成果を求めるメーカー社員、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師同記事は、医療機器の操作資格がない営業担当者が、医師の指示のもとに手術に関わる「立ち会い」という慣習の存在について、「背景にあるのは、機器の選別・購入に影響力がある医師と、メーカー側との関係だ。メーカーの営業社員にとって、手術室で医師と一緒に過ごす時間は、自社の医療機器を売り込む格好の機会になる。外資系メーカーでは、営業成績に応じてボーナスが支給される制度もある」と書くとともに、「患者に対して責任を負うべき医師は、なぜ無資格の営業担当の行為を容認するのか。医療関係者によると、放射線技師の人数が不足する病院では、外来や検査も担当する技師を手術中、長時間にわたり拘束することが難しいケースがある。整形外科手術は数時間に及ぶことも多い。医師がメーカーの社員の助けに依存する構図が生まれる」と、営業の成果を求めるメーカー社員と、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師との癒着を指摘しています。関西医科大学総合医療センター、横浜新緑総合病院は無資格X線認める朝日新聞はさらに4月19日付の朝刊で「証拠握る社員 社長が批判」と題する続報記事を掲載。ニューベイシブジャパンの社員が無資格でX線装置を操作していた問題について、昨年、一部の社員が是正のため違法行為の証拠として操作の様子を写真に撮るなどしたところ、同社の田中 孝明社長(グローバスメディカルの社長でもあります)が営業担当者らに対し、証拠写真撮影は「間違った姿勢」などとメール、違法行為を隠蔽するかのような指示をした事実も明らかになっています。朝日新聞は続いて4月23日付朝刊で「無資格X線 2病院認める」と題する記事を掲載、同紙が把握している無資格でX線装置を操作していたニューベイシブジャパンの社員について、違法行為を行ったとされる5病院に事実関係を確認した結果を報じています。それによれば、関西医科大学総合医療センター(大阪府守口市)、医療法人社団三喜会・横浜新緑総合病院(横浜市緑区)が無資格者によるX線装置操作を認めたとのことです。和歌山県立医科大学(和歌山市)、兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)は調査中、残りの大阪府内の病院は「無資格者の照射があったという報告はない」と答えたとのことです。厚労大臣「無資格は法令違反、実態の把握に努める」、医療機器業公正取引協議会は調査開始こうした一連の報道を受け、福岡資麿厚生労働大臣は4月18日、閣議後の記者会見で「医療機関における放射線の照射は法律の規定により、医師、歯科医師または診療放射線技師でない者が人体に対して放射線を照射することを禁止しているため、仮に無資格の方がこれを行っていた場合については、法令違反となり、刑事罰の対象となる。医療現場において、医療機器が適切に使用されることは大変重要だと考えている。どういったことが行われていたのか、実態の把握に努める」と語りました。一方、4月19日付の朝日新聞によれば、医療機器業界の自主規制機関「医療機器業公正取引協議会(公取協)」が、ニューベイシブジャパンが医師に対し、X線装置を操作するという労務を提供して便宜を図った疑いがあるとして調査を始めることを決めたとのことです。なお、ニューベイシブジャパンは4月18日に社員が無資格でX線装置を操作していた事実を認め、4月22日にはウェブサイトで「当社に関する一部報道について」と題する文書を公開、「現在、関係当局にご報告しつつ当社の米国本社と連携の上、外部の弁護士による調査を実施しています」とコメントしています。リベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになる日本それにしても、医療機器メーカーによる医療機関や医師に対する利益供与(今回はリベートではなく労務)はどうしてなくならないのでしょうか。本連載では、冒頭で紹介した「第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?」のほか、「第111回 手術動画提供で機器メーカーの不当な現金供与発覚、類似事件がなくならないワケとは」、「第139回 眼科医の手術動画提供事件、行政指導で一通りの決着、スター・ジャパンは白内障用眼内レンズ取り扱い終了へ」などでこの問題を取り上げました。同様の事件がなくならない原因は明らかです。日本にはリベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになるからです。今回の朝日新聞も、「労務の提供」ではなく、「無資格者によるX線装置の操作が診療放射線技師法違反に相当する」ことに焦点を当てた報道をしたのもそのためと考えられます。そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するべきでは「第35回」で書いたケースでは、グローバスメディカルの脊椎インプラントを購入した病院の医師20数人に対し、同社は売上の10%前後をキックバックしていました。当時の朝日新聞の記事によれば、キックバック額は2019年の1年間で総額1億円超となり、医師本人ではなく、各医師や親族らが設立した会社に振り込む形で行っていたとのことです。20数人の医師は関東や関西、九州の大規模な民間病院の勤務医で、東京慈恵会医科大学病院や岡山済生会総合病院などの名前が挙がっていました。この時は朝日新聞のみが報道、他媒体はほとんど後追いしませんでした。企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」状況で、事件性が薄かったためと思われます。メーカーから医師への金銭や労務の提供は、景品表示法に基づく規約(医療機器業公正競争規約)で禁じられてはいます。医療機器業界の自主規制機関である公取協はこの規約を運用し、メーカーを調査・指導しており、違反すると再発防止策を取るよう警告され、社名公表などの処分もありますが、それはあくまでも業界内の処分でしかありません。そうした“甘さ”が、似たような事件が何年おきに起こる最大の原因と言えます。医療機関が購入する医療機器の代金はそもそも公的財源も入った診療報酬で賄われています。その代金にあらかじめリベートや不当な現金供与分、労役分なども上乗せされているとしたら、それは大きな問題と言えるでしょう。医療機器絡みのリベートや不当な現金供与、そして今回のような労務提供などは、そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するようにすべきではないでしょうか。

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気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨【論文から学ぶ看護の新常識】第14回

気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨Sun Ju Chang氏らの研究により、人工呼吸器装着患者への気管内吸引前の生理食塩水注入は、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。Intensive and Critical Care Nursing誌2023年10月号に掲載された。集中治療室の人工呼吸器装着成人患者における気管吸引前の生理食塩水注入の利点と有害性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、人工呼吸器装着患者において、気管吸引前の生理食塩水注入が臨床的アウトカムに及ぼす影響を明らかにすることを目的として、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。関連文献の検索には6つの主要な論文データベースに加え、特定された研究の参考文献リストや過去のシステマティックレビューなども対象とし、最終的に16件の研究(ランダム化比較試験13件、準実験研究3件)が分析対象となった。データ分析には、ナラティブ・シンセシスとメタアナリシスの手法が用いられた。主な結果は以下の通り。ナラティブ・シンセシスの結果:気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、酸素飽和度の低下、酸素飽和度が基準値(ベースライン)に回復するまでの時間の延長、動脈血pHの低下、分泌物量の増加、人工呼吸器関連肺炎の発生率の減少、心拍数の増加、および収縮期血圧の上昇と関連していた。メタアナリシスの結果:吸引後5分時点の心拍数に有意な差が認められたが、吸引後2分および5分の酸素飽和度、および吸引後2分の心拍数については有意差は認められなかった。本研究の結果から、気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。人工呼吸器管理中の成人患者に対する気管内吸引前の生理食塩水注入に関する最新のシステマティックレビューが発表されました。この研究では、生理食塩水注入の利点と害について包括的に検討しています。生理食塩水注入は、分泌物の粘性を下げ、咳嗽反射を刺激し、吸引量を増やすといった効果を期待して行われる手技です。海外では日常的に行われている施設もあるようです。しかし、今回の研究では、生理食塩水注入により酸素飽和度の低下、回復時間の延長、動脈血pHの低下、心拍数や収縮期血圧の上昇といった有害な影響が示唆されました。これらのエビデンスを踏まえて、臨床現場では生理食塩水注入の適応をより慎重に判断する必要があります。ルーチン手技として行うのではなく、個々の患者の状態に応じて必要性を評価し、選択的に実施することが望ましいでしょう。特に循環動態が不安定な患者や、酸素化が悪化しやすい患者には注意が必要です。気管内吸引の目的は、気道の開存性を維持し、肺コンプライアンスや酸素化を改善することです。しかし、同時に侵襲的な手技であり、合併症のリスクも伴うため理論や根拠をしっかり把握した上で実施する必要があります。日本では生理食塩水注入はあまり行われていませんが、海外ではローカルルールとして実施されている現状があるようです。しかし、ローカルルールに基づく医療行為は、最新エビデンスとの間に乖離が生じ、リスクが伴う可能性があります。今回の研究結果は、そうしたローカルルールの危険性を再考するきっかけにもなるでしょう。論文はこちらChang SJ, et al. Intensive Crit Care Nurs.2023;78:103477.

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青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾールの短期的有用性〜第III相試験

 青年期の統合失調症に対する現在の治療は、不十分であり、新たな治療オプションが求められている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのCaroline Ward氏らは、青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾール治療の短期的有効性および安全性を評価するため、10ヵ国、62施設の外来診療における国際共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。The Lancet Psychiatry誌2025年5月号の報告。 同試験の対象は、DSM-5で統合失調症と診断され、スクリーニング時およびベースライン時に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)合計スコア80以上であった13〜17歳の患者。ブレクスピプラゾール群(2〜4mg/日)、プラセボ群、アリピプラゾール群(10〜20mg/日)のいずれかに1:1:1でランダムに割り付けられた。主要有効性エンドポイントは、PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの変化とした。安全性は無作為に割り付けられ、試験薬を1回以上投与された患者について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・2017年6月29日〜2023年2月23日にスクリーニングされた376例のうち、316例がランダム化された。内訳は、ブレクスピプラゾール群110例、プラセボ群104例、アリピプラゾール群102例。・対象患者の平均年齢は、15.3±1.5歳。女性は166例(53%)、男性は150例(47%)。・米国国勢調査局分類による人種別では、白人204例(65%)、黒人またはアフリカ系米国人21例(7%)、アメリカ先住民またはアラスカ先住民7例(2%)、アジア人2例(1%)、その他81例(26%)。・最終診察時の平均投与量は、ブレクスピプラゾールで3.0±0.9mg、アリピプラゾールで13.9±4.7mgであった。・PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの最小二乗平均値変化は、ブレクスピプラゾール群で−22.8±1.5、プラセボ群で−17.4±1.6(プラセボ群との最小二乗平均値差:−5.33、95%信頼区間[CI]:−9.55〜−1.10、p=0.014)であった。アリピプラゾール群は−24.0±1.6であり、プラセボ群との最小二乗平均値差は−6.53(95%CI:−10.8〜−2.21、p=0.0032、多重検定調整なし)であった。・治療中に発生した有害事象は、ブレクスピプラゾール群で44例(40%)、プラセボ群で42例(40%)、アリピプラゾール群で53例(52%)発現した。・発生率5%以上の有害事象は、ブレクスピプラゾール群では頭痛(7例)、悪心(7例)、アリピプラゾール群で傾眠(11例)、疲労(8例)、アカシジア(7例)。・重篤な有害事象は、ブレクスピプラゾール群で1例(1%)、プラセボ群で3例(3%)、アリピプラゾール群で1例(1%)報告された。・死亡例の報告はなかった。 著者らは「青年期統合失調症において、ブレクスピプラゾール2〜4mg/日は、プラセボと比較し、6週間にわたる症状重症度の大幅な改善に寄与することが示唆された。また、安全性プロファイルは、成人の場合と一致していた。これらの結果は、青年期統合失調症におけるブレクスピプラゾールに関するエビデンスのさらなる充実につながり、臨床現場における治療選択の参考となるであろう」と結論付けている。

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既治療のHER2変異陽性NSCLC、zongertinibは有益/NEJM

 既治療のHER2変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、経口不可逆的HER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬zongertinibは臨床的有益性を示し有害事象は主に低Gradeであったことが、米国・University of Texas M.D. Anderson Cancer CenterのJohn V. Heymach氏らBeamion LUNG-1 Investigatorsによる第Ib相試験の結果で報告された。HER2変異陽性NSCLC患者には、革新的な経口標的療法が求められている。zongertinibは第Ia相試験で進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者への有効性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。複数コホートで用量探索および安全性・有効性を評価 第Ia/Ib試験はヒト初回投与試験で、現在も進行中である。進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者(Ia相)および進行または転移を有するHER2変異陽性NSCLC患者(Ib相)を登録した複数コホートでzongertinibの用量探索および安全性・有効性が評価された。 本論ではIb相から既治療の患者が登録された3つのコホートにおけるzongertinibの主要解析の結果が報告された。3コホートは、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異陽性NSCLC患者(コホート1)、TKD変異陽性かつHER2標的抗体薬物複合体による治療歴のあるNSCLC患者(コホート5)、非TKD変異陽性NSCLC患者(探索的コホート3)である。 コホート1の患者は、zongertinib 1日1回120mgまたは240mgで投与を開始し、コホート3および5の患者は、同240mgで投与を開始した。コホート1の用量選択の中間解析の結果を受けて、その後は全コホートが120mgの投与を受けた。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定で評価(コホート1、5)または治験担当医師判定で評価(コホート3)した奏効率(ORR)であった。副次評価項目は、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間などであった。zongertinib 1日1回120mg投与群の71%で奏効 2023年3月8日~2024年11月29日に、オーストラリア、欧州、アジア、米国の74施設で、コホート1は132例、コホート5は39例、コホート3は25例の患者が治療を受けた。 データカットオフ(2024年11月29日)時点で、コホート1では計75例がzongertinib 1日1回120mgの投与を受けており、そのうち奏効を示したのは53例で(ORR:71%[95%信頼区間[CI]:60~80]、p<0.001)、DOR中央値は14.1ヵ月(95%CI:6.9~未到達)であった。Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は13例(17%)に発現した。 コホート5(31例)では、ORRは48%(95%CI:32~65)であった。Grade3以上のTRAEは1例(3%)に発現した。 コホート3(20例)では、ORRは30%(95%CI:15~52)であった。Grade3以上のTRAEは5例(25%)に発現した。 全3コホートにおいて、薬剤性間質性肺疾患の発現は報告されなかった。

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中等度早産児へのカフェイン投与継続、入院期間を短縮するか/JAMA

 中等度早産児(在胎期間29週0日~33週6日で出生)に対するカフェイン投与の継続は、プラセボ投与と比較して入院期間の短縮には至らなかったことが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のWaldemar A. Carlo氏らEunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Neonatal Research Networkによる無作為化試験「MoCHA試験」の結果で示された。中等度早産児に最も多くみられる疾患の1つに未熟児無呼吸発作がある。カフェインなどのメチルキサンチン製剤が非常に有効だが副作用が生じる可能性があり、必要以上に投与を継続すべきではないとされる。2024年に発表されたメタ解析では、早産児へのカフェイン中止戦略の有益性と有害性に関するデータは限定的であることが示され、カフェイン投与の短期的および長期的な影響のさらなる評価が求められていた。JAMA誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。無作為化後の退院までの期間を評価 研究グループは、2019年2月~2022年12月に米国の29病院で、カフェイン療法の延長が入院期間を短縮するかを評価する無作為化試験を行った。対象は、在胎期間29週0日~33週6日で出生し、(1)無作為時の月経後年齢が33週0日~35週6日、(2)カフェイン投与を受けており投与中止の計画があり、(3)120mL/kg/日以上の経口栄養および/または経管栄養を受けている新生児とした。 対象児は退院後28日まで、経口カフェインクエン酸塩(10mg/kg/日)投与を受ける群またはプラセボ投与を受ける群に無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた(フォローアップ完了は2023年3月20日)。 主要アウトカムは、無作為化後の退院までの期間。副次アウトカムは、生理的発達(無呼吸発作が連続5日間なく、完全経口栄養を受けており、少なくとも48時間保育器から出ている)までの日数、退院時の月経後年齢、あらゆる要因による再入院およびあらゆる疾患による受診、安全性アウトカム、死亡などであった。補正後群間差中央値0日、生理的発達までの日数も短縮せず 事前に規定された無益性閾値の検出に必要とされた被験者登録は878例であったが、計827例(在胎期間中央値31週、女児414例[51%])が無作為化(カフェイン群416例、プラセボ群411例)された時点で登録は早期に中止された。 無作為化から退院までの入院日数は、カフェイン群18.0日(四分位範囲[IQR]:10~30)、プラセボ群16.5日(10~27)で群間差はなく(補正後群間差中央値:0日[95%信頼区間[CI]:-1.7~1.7])、また生理的発達までの日数も差は認められなかった(14.0日vs.15.0日、補正後群間差中央値:-1日[95%CI:-2.4~0.4])。 カフェイン群の新生児は無呼吸発作消失までの期間が短縮したが(6.0日vs.10.0日、補正後群間差中央値:-2.7日[95%CI:-3.4~-2.0])、完全経口栄養を受けるようになるまでの期間は同程度であった(7.5日vs.6.0日、0日[-0.1~0.1])。再入院および疾患による受診は両群で差はなかった。 有害事象については、両群間で統計学的有意差は認められなかった。

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3枝病変へのFFRガイド下PCIは有効か/Lancet(解説:山地杏平氏)

 3枝冠動脈疾患(3VD)患者に対し、FFR(冠血流予備量比)を用いたガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)を無作為に比較したFAME 3試験の5年追跡結果が報告されました。主要複合エンドポイント(全死亡、脳卒中、心筋梗塞)の5年発生率は、PCI群で16%、CABG群で14%と、統計学的に有意な差は認められませんでした(ハザード比[HR]:1.16、95%信頼区間[CI]:0.89~1.52)。全死亡率は両群ともに7%で同等でしたが、心筋梗塞の発生率はPCI群が8%、CABG群が5%と、PCI群で有意に高く(HR:1.57、95%CI:1.04~2.36)、さらに再血行再建の必要性もPCI群で16%、CABG群で8%と、PCI群で有意に多い結果でした(HR:2.02、95%CI:1.46~2.79)。 3枝病変に対する標準治療はCABGとされてきました。とくに、1990年代までのバルーン血管形成術の時代には、3枝病変にPCIが行われることはほとんどありませんでした。1990年代にベアメタルステントが導入された後も、依然として多くの症例ではCABGが選択されてきました。その後、第1世代薬剤溶出性ステントの登場により実施されたSYNTAX試験では、SYNTAXスコアによる層別解析において、中等度から高スコア(>22)の患者ではCABGが優れている一方、低スコア(≦22)であればPCIとCABGの成績は同等であることが示されました。 現行世代の薬剤溶出性ステントは、再狭窄やステント血栓症のリスクを低減しており、さらにFFRによる病変の機能的評価や薬物療法の最適化など、PCIに関連する技術は大きく進歩しています。これらを背景に、FAME 3試験にて最新のPCIを用いてCABGとの比較が行われましたが、1年時点でPCIはCABGと比較して非劣性は示されませんでした。しかしながら、今回の5年追跡結果は、最新のPCI戦略がCABGと同等の長期成績を示す可能性を示唆するものです。 また、日本のCREDO-Kyoto研究から、3枝病変を有する患者において、高齢者ではCABGが優れている一方、若年者ではPCIとCABGの長期成績が同等であることが報告されました。これらの知見を踏まえると、長期予後を考慮したうえで、高齢者でCABGが可能な場合はCABGが望ましい選択肢と考えられますが、若年患者においては、今回のFAME 3試験の5年結果を踏まえると、PCIを治療選択肢として積極的に検討する余地があると考えられます。

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第266回 プラスチックを食べて増えうる細菌が患者から見つかった

プラスチックを食べて増えうる細菌が患者から見つかった縫合糸、ステント、創傷被覆、植込み型の機器などで使われるプラスチックの類いを分解する酵素を有し、どうやらそれを食べて増えるらしい細菌が患者の検体から見つかりました1,2)。人の身体に直接触れるプラスチックの中で、ポリカプロラクトン(PCL)は生分解性であることや生体と相性がよいことなどの取り柄ゆえに医療で多く使われるようになっています。プラスチックを分解する能力を身につけた細菌がプラスチック廃棄地の土壌、海水、下水汚泥、埋立地、プラスチックを食べる虫の腸などの環境中から見つかっています3)。それらの細菌はプラスチックに構造が似たクチンなどの天然ポリマーの分解にあたる既存の酵素を応用して、PCLやポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチックを分解する能力を身につけたようです。しかし、医療でまみえる細菌の酵素のプラスチック分解能がこれまで検討されたことはありません。カテーテル、人工呼吸器、植込み型の機器に細菌が定着することや、それらの細菌による感染症は病院の大きな悩みの種です。もし病原体が植込み型の機器を分解するなら、それら機器は損なわれ、細菌はより根づき、生じうる感染症の治療を一層困難にしそうです。もっというと、プラスチックを分解しうる病原体がプラスチックからの炭素を使って増え、より深刻な感染症を引き起こしうるかもしれません。そのような懸念を背景にして、英国ロンドンのブルネル大学のRonan McCarthy氏が率いるチームはヒトの病原性細菌のゲノムを検索し、プラスチック分解に携わることが知られる遺伝子の相同物を探してみました。すると、ある患者の傷口から単離されたPA-W23という識別名の緑膿菌がPCLを分解しうることが示され、Pap1という酵素がその働きを担うことが判明しました。試しに大腸菌にPap1遺伝子を導入したところ、PA-W23と同様にPCLを分解できるようになりました。なんとPA-W23はPCLの分解からの炭素のみで増殖可能でした。それに、プラスチックの分解能がその毒性強化に一役買うらしいことも示されました。細菌が作るねばねばの防御膜であるバイオフィルムは抗菌薬を効き難くし、感染症の治療を困難にします。PCLがあるとPA-W23はバイオフィルムをより多く生成しました。また、PCLの植え込みがあるとPA-W23の毒性が増すことが昆虫(Galleria mellonella larvae)の検討で確認されています。緑膿菌は病院での抗菌薬耐性感染の主因の1つで、世界保健機関(WHO)が新たな治療を最も必要とすると位置付けている病原体の1つです2)。緑膿菌はカテーテル関連尿路感染症(CA-UTI)や人工呼吸器関連肺炎(VAP)の多くを引き起こします。CA-UTIとVAPはどちらもプラスチックを含む機器の使用と関連します。今回の研究で確認されたのはPCLの分解のみですが、ことはPCLだけにとどまらないようで、他のプラスチックへの影響も心配です。すでに研究チームは他の病原体のPap1に似た酵素の兆し(signs)を把握しています。今やプラスチックが医療に深く浸透していることを踏まえるに、院内に居座りうる細菌のプラスチック分解能の識別は今後の重要な検討課題であろうと著者は言っています1)。 参考 1) Howard SA, et al. Cell Rep. 2025 May 5. [Epub ahead of print] 2) 'Superbug' found to digest medical plastic / Brunel University of London 3) Ru J, et al. Front Microbiol. 2020;11:442.

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チルゼパチド72週の投与で体重が5%以上減少/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、4月11日に発売された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド[皮下注アテオス])について、プレスセミナーを開催した。プレスセミナーでは、肥満症の基礎情報や肥満症の要因、社会的課題とともに、チルゼパチドの臨床試験であるSURMOUNT-J試験の概要が説明された。肥満症治療は薬物治療・外科治療という新しいアプローチに 「複合的な要因からなる慢性疾患『肥満症』のアンメットニーズ」をテーマに、脇 裕典氏(秋田大学大学院医学系研究科 代謝・内分泌内科学講座 教授)が、肥満症の病態や関係する諸課題について説明した。 過体重およびBMI25以上の肥満者は、全世界で約25億人、わが国では約2,800万人と推計され、成人男性のとくに40~50代で割合が高く、最近では小児の肥満も増加している。 肥満の問題としては、BMI30以上40未満の人では、BMI23以上25未満を基準(ハザード比=1)としたときの全死因の死亡リスクが男性1.36および女性1.37という男女別のコホート研究もある1)。また、肥満はメタボリックドミノの上流に位置し、将来的に慢性腎臓病や糖尿病など重大な健康障害を来すとされている。 肥満および肥満症の要因としては、遺伝的、生理的、環境などさまざまな要因が複合的に関与しているにもかかわらず「自己管理の問題」と考えられがちで、肥満・肥満症のある人は、職場や教育現場のみならず、医療現場においても「スティグマ(偏見や差別)」に直面することがある。また、肥満者自身が自分自身の責任と考えてしまう「セルフ・スティグマ」も指摘されている。 肥満症の定義は、肥満(BMIが25以上)かつ、(1)肥満による耐糖能異常、脂質異常症、高血圧などの11種の健康障害(合併症)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断される。わが国の肥満症の特徴として内臓脂肪蓄積型の肥満が多く、BMIが高値でなくても肥満関連健康障害を伴いやすいという。 肥満症治療の目的は、「減量により健康障害・健康障害リスクを改善し、QOLの改善につなげること」であり、治療では、減量目標を設定し、食事・運動・行動療法を行ったうえで3~6ヵ月を目安に各治療成果を評価する。そして、減量目標が未達成の場合に肥満症治療食の強化や薬物療法、外科療法の導入を考慮するとガイドラインでは明記されている。 ただ、課題としてLook AHEAD研究から集中的な生活習慣介入で短期的に減量しても、長期的に減量した体重を維持できたのは半数未満で、元の体重より増加した例も認められたことから、生活習慣の改善のみで減量した体重を維持するのは困難であることが示唆されている2)。 これは、食欲抑制作用の低下により、満腹感が低下した結果、食欲が亢進すること、基礎代謝が低下し、エネルギー消費量が減少することが指摘され、生活習慣への介入だけでは不十分な可能性もある。 最後にまとめとして、脇氏は「肥満症治療の目標は、減量ではなく、肥満に関連する健康障害の改善とそのリスクの低減であり、QOLの改善である。新たな治療選択肢の登場によって肥満症治療はアプローチや支援を見直すときを迎えている」と従来の治療介入だけではない肥満症治療の選択肢を語り、説明を終えた。72週時点のチルゼパチド投与群は体重が5%以上減少 「第III相臨床試験結果からみる持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」登場の肥満症市場における意義」をテーマに門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの特徴、作用機序、SURMOUNT-J試験の概要について説明を行った。 チルゼパチドは、2024年12月27日に国内製造販売承認を取得し、2025年4月11日に発売された。対象者は、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られないBMI27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害(高血圧、脂質異常症など)を有する者またはBMI35以上の者。 用法・用量について成人では、週1回10mgを維持用量とし、皮下注射する。ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgに増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回10mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できる。ただし、最大用量は週1回15mgまでとなっている。 この作用機序は、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進により、体重減少作用を示すとされている。 今回の適応承認のために行われたSURMOUNT-J試験は、2型糖尿病を有しない日本人肥満症患者を対象としたプラセボ対照、二重盲検比較試験。主要評価項目は投与72週時点のベースラインからの体重減少であり、チルゼパチド10mg/15mgを週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討した。 対象者は、BMIが27以上35未満で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、またはBMIが35以上で1つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者225例。 その結果、主要評価項目である体重ベースラインから投与72週時までの変化率および投与72週時点の体重について5%以上減少していた患者の割合は、チルゼパチド10mg群および15mg群において、プラセボ群に対し優越性が検証された。投与後72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群1.7%減(n=75)に対して、チルゼパチド10mg群17.8%減(n=73)、15mg群22.7%減(n=77)だった。 副次評価項目である投与72週時点の体重が7%以上、10%以上、15%以上、または20%以上減少した患者の割合は、いずれのチルゼパチド群でもプラセボ群と比較し、有意に高かった。 また、ベースラインから投与72週時点のBMIの変化量では、チルゼパチド10mg群では-5.8、15mg群では-7.7、プラセボ群では-0.6だった。そのほか、“Impact of Weight on Quality of Life-Lite Clinical Trials Version”(肥満に関連する生活の質を評価するために開発された20項目)では、チルゼパチド10mg群、15mg群のいずれもプラセボ群と比較し、改善していた。 安全性に関しては、ほかのGLP-1受容体作動薬と同様に、便秘、発熱、悪心、下痢、嘔吐、食欲減退など、主な有害事象は消化器系の症状であった。試験中に確認されたすべての有害事象の割合は、プラセボ群69.3%(n=75)に対し、チルゼパチド10mg群83.6%(n=73)、15mg群85.7%(n=77)であり、死亡などの重篤なものは報告されなかった。

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ノータッチ静脈採取法、CABGの静脈グラフト閉塞を改善/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)のグラフト採取において、従来法とは異なりノータッチ静脈採取法(no-touch vein harvesting technique)は、静脈の外膜と血管周囲組織を温存し、vasa vasorum(脈管の脈管)の完全性と内皮機能を保持する。そのため、内皮傷害が最小限に抑えられ、炎症反応が軽減されてグラフトの開存性が向上すると指摘されている。中国医学科学院・北京協和医学院のMeice Tian氏らは、「PATENCY試験」の3年間の追跡調査により、従来法と比較して大伏在静脈のノータッチ静脈採取法はCABGにおける静脈グラフトの閉塞を有意に軽減し、患者アウトカムを改善することを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年4月30日号に掲載された。中国の無作為化試験の3年延長試験 PATENCY試験は、CABGにおけるノータッチ静脈採取法の3年間のアウトカムの評価を目的とする無作為化試験であり、2017年4月~2019年6月に中国の7ヵ所の心臓外科施設で患者を登録した(National High Level Hospital Clinical Research Fundingなどの助成を受けた)。今回は、3年間の延長試験の結果を報告した。 年齢18歳以上で、CABGを受ける患者2,655例(平均[±SD]年齢61±8歳、女性22%、糖尿病36%、3枝病変88.4%、左主幹部病変31.7%)を対象とした。被験者を、CABG施行中に大伏在静脈からのグラフト採取法としてノータッチ静脈採取法を行う群(1,337例)、または従来法によるグラフト採取を行う群(1,318例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、CABG後3年の時点における静脈グラフトの閉塞(CT血管造影で評価)とした。グラフトおよび患者レベルとも閉塞率が有意に良好 術後3年間に、全体の2,621例(99.4%)が臨床的なフォローアップを完了し、2,281例(86.5%)が予定されていたCT血管造影を受けた。 術後3年時のグラフトレベルの静脈グラフト閉塞の割合は、従来法群が9.0%(175/1,953グラフト)であったのに対しノータッチ静脈採取法群は5.7%(114/1,988グラフト)と有意に良好であった(オッズ比[OR]:0.62[95%信頼区間[CI]:0.48~0.80]、絶対群間リスク差:-3.2%[95%CI:-5.0~-1.4]、p<0.001)。 また、全2,655例のITT解析でも、3年後の静脈グラフト閉塞の割合は従来法群に比べノータッチ静脈採取法群で低かった(6.1%vs.9.3%、OR:0.63[95%CI:0.51~0.81]、絶対群間リスク差:-3.1%[95%CI:-4.9~-1.4]、p<0.001)。 3年後の患者レベルの静脈グラフト閉塞の割合は、従来法群の13.3%(152/1,141例)に比べノータッチ静脈採取法群は9.2%(105/1,140例)と有意差を認めた(OR:0.66[95%CI:0.51~0.86]、絶対群間リスク差:-4.11[95%CI:-6.70~-1.52]、p=0.002)。創部の皮膚感覚低下、滲出、浮腫が多い 3年後の臨床アウトカムは、非致死的心筋梗塞(ノータッチ静脈採取法群1.2%vs.従来法群2.7%、p=0.01)、再血行再建術(1.1%vs.2.2%、p=0.03)、狭心症の再発(6.2%vs.8.4%、p=0.03)、心臓関連の原因による再入院(7.1%vs.10.2%、p=0.004)の発生率がノータッチ静脈採取法群で良好であった。一方、全死因死亡(3.8%vs.3.4%、p=0.49)、心臓死(2.6%vs.2.4%、p=0.83)、脳卒中(3.7%vs.3.3%、p=0.55)の発生率には両群間に差はなかった。 退院前の脚創部合併症については、皮膚の感覚低下(23.2%vs.17.8%、p<0.001)、滲出(4.3%vs.1.9%、p<0.001)、浮腫(19.0%vs.12.9%、p<0.001)の頻度がノータッチ静脈採取法群で高かった。壊死、コンパートメント症候群などの重度合併症は発現しなかった。また、3ヵ月の時点で未治癒の脚創傷への外科的介入(10.3%vs.4.3%、p<0.001)はノータッチ静脈採取法群で多かったが、12ヵ月時には追加的外科治療の割合は両群で同程度となった。 著者は、「これらの結果により、ノータッチ静脈採取法は長期間にわたってグラフトの開存性を維持し、心筋梗塞や再血行再建術の発生を抑制することで患者アウトカムの改善をもたらすことが示された」としている。

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英語で「肩甲骨」、日本語では皆が使う言葉でも…【患者と医療者で!使い分け★英単語】第17回

医学用語紹介:肩甲骨 scapula「肩甲骨(けんこうこつ)」はscapulaといいますが、肩甲骨について説明する際、患者さんにscapulaと言って通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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がん診療に携わるすべての人のレベルアップ目指しセミナー開催/TCOG

 東京がん化学療法研究会(TCOG)は、第25回臨床腫瘍夏期セミナーをオンラインで開催する。 同セミナーは、がん診療に携わる医師、薬剤師、看護師、臨床研究関係者、製薬会社、CROなどを対象に、治療の最新情報、臨床研究論文を理解するための医学統計などさまざまな悪性腫瘍の基礎知識から最新情報まで幅広く習得できるよう企画している。セミナー概要・日時:2025年7月18日(金)~19日(土)・開催形式:オンライン(ライブ配信、後日オンデマンド配信を予定)・定員:500人・参加費:15,000円(2日間)・主催・企画:特定非営利活動法人 東京がん化学療法研究会・後援:日本医師会、東京都医師会、東京都病院薬剤師会、日本薬剤師研修センター、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本産科婦人科学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会、西日本がん研究機構、North East Japan Study Group・交付単位(予定):日本薬剤師研修センターによる単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)、日本医療薬学会 認定がん専門薬剤師・がん指導薬剤師認定単位(7/18受講:2単位、7/19受講:2単位)、日本看護協会 認定看護師・専門看護師:「研修プログラムへの参加」(参加証発行)、日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療認定薬剤師講習(研修)認定単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)プログラム(要約)7月18日(金)9:30~16:509:30~10:55【がん薬物療法 TOPICS】 胃がん化学療法、ASCOにおける肺癌最新の話題11:05~12:30【医学統計】 臨床研究のための統計学の基本知識、臨床に生かすために知っておきたい医学統計13:50~15:15【最新のがん薬物療法I】 膵がん・胆道がん、大腸がん化学療法 ガイドライン改定を踏まえて15:25~16:50【妊孕性と家族性腫瘍】 遺伝性腫瘍~遺伝学的診断と遺伝カウンセリング、CAYAがん患者等に対する妊孕性温存/がん・生殖医療の現状と課題7月19日(土)9:30~16:509:30~10:55【がんにおける新規抗体医薬】 二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)の特徴と臨床成績、抗体薬物複合体(ADC)11:05~12:30【TOPICS 2】 MRDが拓く癌治療の新しいストラテジー、ctDNAによるがん種横断的なMRD検査の時代へ13:50~15:15【最新のがん薬物療法II】 子宮頸がん・子宮体がん薬物療法のトピックス、泌尿器がんに対する薬物療法UpDate202515:15~16:50【緩和医療と支持療法】 骨転移の緩和ケア、コミュニケーション/遺族ケア/気持ちのつらさガイドラインのエッセンス申し込みはTCOG「臨床腫瘍夏期セミナー」ページから「臨床腫瘍夏期セミナー」プログラム

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SSRI/SNRIの使用がベンゾジアゼピン依存性に及ぼす影響

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の使用とベンゾジアゼピン使用パターンとの関係、両剤併用の経時的変化について、米国・Vanderbilt University Medical Center のKerry L. Kinney氏らが調査を行った。Drug and Alcohol Dependence Reports誌2025年6月号の報告。 2020〜22年にベンゾジアゼピンを使用した患者847例を電子カルテより分析した。対象患者は、SSRI使用群、SNRI使用群、非使用群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・SSRI群(M=6.63)またはSNRI群(M=8.31)は、非使用群(M=5.08)と比較し、ベンゾジアゼピンを使用する期間が長かった。・SSRI群(M=2.41 DMEDDD)またはSNRI群(M=2.30 DMEDDD)は、非使用群(M=1.91 DMEDDD)よりも、ベンゾジアゼピンの投与量が高用量であった。・マルチレベルモデルでは、SSRI群は、初期ベンゾジアゼピン投与量が多かったが(b=0.394)、時間経過とともに有意な変化は認められなかった。・ベンゾジアゼピン使用の人口統計学的および臨床的相関を制御した場合、非SSRI群は、時間経過とともにベンゾジアゼピンの投与量増加が認められた(b=0.075)。・マルチレベルモデルでは、SNRI群は、ベンゾジアゼピンの初期用量または経時的な用量変化との関連は認められなかった。・不安症の診断、若年、非黒人/アフリカ系米国人は、ベンゾジアゼピン高用量の関連因子であった。 著者らは「SSRIまたはSNRIを使用している患者は、ベンゾジアゼピンの投与量が多く、治療期間が長引く可能性があり、ベンゾジアゼピン依存リスクが高いことが示唆された」と結論付けている。

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好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

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栄養士が調整した医療食の提供は医療費削減に有効

 米国では、栄養を医療の一環としてとらえ、慢性疾患の予防や治療に役立てる目的で栄養士が患者の状態に応じて調整した医療食(medically tailored meal;MTM)を提供する「食は薬(Food is Medicine)」プログラムが広範に実施されている。過去の小規模研究では、MTMが患者の健康管理に有効なだけでなく、医療費の削減につながる可能性が示唆されている。こうした中、米タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院のShuyue Deng氏らが、全国規模でMTMを保険適用とした場合の影響を検討した結果、初年度だけで321億ドル(1ドル142円換算で4兆5582億円)の医療費を削減できる可能性が示唆された。この研究の詳細は、「Health Affairs」4月号に掲載された。 Deng氏らは本研究で、過去の研究で用いた集団ベースのオープンコホートシミュレーションモデルを用いて、食事関連の疾患および日常生活動作に制限があるメディケイド、メディケア、または民間保険の加入患者にMTMを提供した場合に、年間入院数、医療費、費用対効果がどのように変化するのかを、1年間および5年間単位で推定した。 その結果、MTMの全国規模での実施により、全国レベルでは初年度だけで321億ドルの医療費削減が可能になると推定された。州別に見ると、50州のうちアラバマ州を除く49州で医療費は削減されると推定された。患者1人当たりの年間削減額が特に大きかったのは、コネチカット州での6,299ドル(約89万4,500円)、ペンシルベニア州での4,450ドル(約63万1,900円)、マサチューセッツ州での4,331ドル(約61万5,000円)だった。アラバマ州では、MTM導入の費用対効果はゼロだったが、健康に対する効果は認められた。 医学的見地からMTMの提供を受ける資格があると推定された米国人は全国で1401万195人に上り、最も多かったのはカリフォルニア州の122万1,035人、最も少なかったのはアラスカ州の1万7,812人であった。さらに、1回の入院を防ぐために何人の患者にMTMを提供する必要があるかについても評価したところ、最も少なかったのはメリーランド州での2.3人、最も多かったのはコロラド州での6.9人だった。米国全体で見ると、MTMの導入により、糖尿病、心臓病、がんの合併症による入院を年間354万2,500件回避できると推定された。 論文の上席著者である、タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院Food is Medicine研究所所長のDariush Mozaffarian氏は、「われわれの研究結果は、MTMが単に良質な医療であるだけでなく、経済的にも高い効果をもたらすことを示している」と同大学のニュースリリースで述べている。 研究グループによると、本研究対象者の約90%がメディケアとメディケイド加入者であり、2025年1月時点で16の州が「食は薬」プログラムによる治療に対するメディケイド適用免除を承認または提案しているという。 Mozaffarian氏は、「州は、革新的な医療の実現と普及において重要な役割を担っている。MTMへの投資は、あらゆる州において、脆弱な患者のケアを変革し、医療に大きな価値を生み出す可能性がある」と述べている。

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大惨事はがんの診断数を減少させる

 自然災害やパンデミックなどの大惨事は、がんによる死者数の増加につながるかもしれない。新たな研究で、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアが2週間間隔でプエルトリコを襲った際に、同国での大腸がんの診断数が減少していたことが明らかになった。このような診断数の低下は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生直後にも認められたという。プエルトリコ大学総合がんセンターのTonatiuh Suarez-Ramos氏らによるこの研究結果は、「Cancer」に4月14日掲載された。 米国領プエルトリコでは、2017年9月初旬に超大型ハリケーン・イルマが島の北を通過したわずか2週間後に、カテゴリー5の最強ハリケーン・マリアが上陸し、甚大な被害を出した。当時、稼働していた病院はほとんどなく、高い貧困率などが原因ですでに制限されていた医療へのアクセスがさらに悪化した。さらに2020年にはCOVID-19パンデミックが発生した。政府が実施した厳格なロックダウン政策は、感染の抑制には効果的だったが、医療サービスの利用低下につながった。 Suarez-Ramos氏らは、このような大規模イベント発生による医療システムの混乱により、プエルトリコで2番目に多いがんである大腸がんの検診へのアクセスが制限され、それががんの早期発見の妨げとなった可能性があるのではないかと考えた。それを調べるために同氏らは、プエルトリコ中央がん登録簿の2012年1月1日から2021年12月31日までのデータを入手し、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアおよびCOVID-19パンデミックの発生直後および発生期間中に大腸がんの診断数がどのように変化したかを調査した。 その結果、2つのハリケーンがプエルトリコを襲った2017年9月の大腸がんの診断数は82件だったことが明らかになった。ハリケーンがなかった場合に想定された診断数は161.4件であり、統計モデルにより、ハリケーンによる即時の影響として診断数が28.3件減少したと推定された(17.5%の減少に相当)。 一方、パンデミック発生に伴うロックダウン後(2020年4月)の大腸がん診断数は50件であった。ロックダウンがなかった場合に想定された診断数は162.5件であり、統計モデルにより、ロックダウンにより診断数は即時的に39.4件減少したと推定された(24.2%の減少に相当)。 2021年12月の研究終了時点でも、早期大腸がんの診断数と50~75歳での診断数は、想定される診断数に達していなかった。また、末期大腸がんの診断数と、50歳未満および76歳以上の診断数は、想定される診断数を上回っていた。 論文の筆頭著者であるSuarez-Ramos氏は、「これらの調査結果は、ハリケーンの襲来やパンデミックの発生により医療へのアクセスが制限されたことが原因でがんの発見が遅れ、患者の健康状態が悪化した可能性があることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。研究グループは、このようなスクリーニング検査の混乱により、「将来的には、大腸がんが進行してから検出される患者が増え、生存率が低下する可能性がある」と危惧を示している。 米国地質調査所によると、気候変動による気温上昇により、より激しい嵐や壊滅的な山火事の発生が増え、海面上昇も進んでいるという。論文の上席著者であるプエルトリコ大学のKaren Ortiz-Ortiz氏は、「医療制度はこうした災害下でも人々が必要ながんの検査を受けられる方法を見つけておく必要がある。われわれの最終的な目標は、危機的状況下でも医療システムの回復力とアクセス性を高めること、また、人々がより長くより健康的な生活を送れるように支援することだ」とニュースリリースの中で語っている。

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ある呼吸法活用で禁煙継続(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話医師患者禁煙、頑張っておられますね。いえいえ、自分の健康のためですから…。けど、たまに吸いたい衝動にかられて…。医師 なるほど。そんなときはどうされているんですか?患者 水を飲んだり、深呼吸をしたり、しているんですが…。医師 なるほど。それなら、いい呼吸法がありますよ!患者 それは、どんな方法ですか?(興味深々)医師 ちょっと、やってみましょうか。まずは、「ふぅー」と音を立てて口から息を完全に吐き出します。次に、口を閉じて、画 いわみせいじ鼻から息を吸いながら4つ数えます。そして、息を止めて7つ数えます。最後に、8つ数えながら、「ふぅー」と音を立てながら、ゆっくりと口から息を吐き出します。患者 これを何回くらいしたらいいですか?医師 1セットを4回で、ニコチン切れでタバコが吸いたくなる朝や寝る前など、1日に2回からスタートしてみて下さい。これは「4-7-8呼吸法」と呼ばれています。是非、「4(し)7(な)8(や)」かにやってみて下さい。(手で数字を示しながら)患者 はい、わかりました。頑張ってやってみます。(嬉しそうな顔)ポイント自己流の呼吸法ではなく、効果的な呼吸法について実演を交えて説明します。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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次々と承認される抗アミロイド抗体、有効性に違いはあるか?

 近年、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体の承認が加速している。しかし、抗アミロイド抗体の臨床的意義やリスク/ベネフィットプロファイルは、依然として明らかになっていない。他の治療法ではなく、抗アミロイド抗体を選択する根拠を確立するためにも、アルツハイマー病の異質性および抗アミロイド抗体の長期臨床データの不足は、課題である。スペイン・University of Castilla-La ManchaのDanko Jeremic氏らは、抗アミロイド抗体の有効性および安全性を評価し、比較するため、従来のペアワイズメタ解析ならびに第II相および第III相臨床試験の結果を用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施した。また、本研究の目的を達成するため、研究者や臨床医が疾患進行や有害事象のベースラインリスクに関するさまざまな事前選択や仮定を組み込み、これらの治療法の相対的および絶対的なリスク/ベネフィットをリアルタイムに評価できる無料のWebアプリケーションAlzMeta.app 2.0を開発した。Journal of Medical Internet Research誌2025年4月7日号の報告。 PRISMA-NMAおよびGRADEガイドラインに従い、エビデンスの報告および確実性を評価した。2024年9月30日までに公表された臨床試験報告書は、PubMed、Google Scholar、臨床試験データベース(ClinicalTrials.govを含む)より検索した。孤発性アルツハイマー病患者数が20例未満、修正Jadadスコアが3未満の研究は分析から除外した。バイアスリスクの評価には、RoB-2ツールを用いた。相対リスク/ベネフィットは、リスク比および標準化平均差を算出し、すべてのアウトカムにおける信頼区間、信用区間、予測区間を算出した。有意な結果を得るため、介入効果は頻度主義およびベイズ主義の枠組みで順位付けし、その臨床的意義は、1,000人当たりの絶対リスク、広範な対照群に対する治療必要数(NNT)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・2万1,236例を対象とした7つの治療法(バイアスリスクが低い、または多少の懸念のある研究26件)のうち、ドナネマブは、認知機能および機能的指標において最も高い評価を受けた。この評価は、aducanumabおよびレカネマブの約2倍の効果を示し、認知機能および機能の全般的な臨床的認知症尺度(CDR)ボックス合計スコアにおいて他の治療法よりも有意に有益であることが示唆された(NNT=10、95%信頼区間[CI]:8〜16)。・脳浮腫および微小出血については、ドナネマブ(NNT=8、95%CI:5~16)、aducanumab(NNT=10、95%CI: 6~17)、レカネマブ(NNT=14、95%CI:7~31)において臨床的に関連する脳浮腫リスクが認められ、ベネフィットを上回る可能性も示され、とくに注意が必要であることが明らかとなった。 著者らは「抗アミロイド抗体の中では、ドナネマブが最も有効であり、安全性プロファイルはaducanumabやレカネマブと同様であることが示された。しかし、より安全性の高い治療選択肢の必要性も浮き彫りとなった。これは、対象試験において頻繁な脳浮腫および微小出血による盲検化の解除ならびにCOVID-19パンデミックの影響により、潜在的なバイアスが生じている可能性がある」と結論付けている。

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気管支拡張症、DPP-1阻害薬brensocatibが有用/NEJM

 気管支拡張症患者において、経口可逆的ジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬brensocatib 10mgまたは25mgの1日1回投与は、プラセボと比較して肺疾患増悪の発生率を低下させ、25mg群ではプラセボと比較して1秒量(FEV1)の低下が少ないことが、英国・ダンディー大学のJames D. Chalmers氏らASPEN Investigatorsが35ヵ国390施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「ASPEN試験」の結果で示された。気管支拡張症において好中球性炎症は増悪および病勢進行リスクの増大と関連しており、brensocatibは好中球性炎症の主要なメディエーターである好中球セリンプロテアーゼを標的としている。気管支拡張症成人患者を対象とした第II相試験では、brensocatib 10mgまたは25mgの1日1回24週間投与により、プラセボと比較して、初回増悪までの期間延長および増悪率の低下が示されていた。NEJM誌2025年4月24日号掲載の報告。肺疾患増悪発生率をbrensocatib 10mg群と25mg群、プラセボ群で比較 研究グループは、スクリーニング前12ヵ月間に少なくとも2回の増悪を呈しスクリーニング時のBMIが18.5以上の18~85歳(成人)、ならびにスクリーニング前12ヵ月間に少なくとも1回の増悪を呈しスクリーニング時の体重が30kg以上の12~17歳(青少年)の気管支拡張症患者を、brensocatib 10mg群、25mg群またはプラセボ群に、成人では1対1対1、青少年では2対2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回投与した。 主要エンドポイントは52週間における年率換算した肺疾患増悪発生率(1年当たりのイベント数)であり、副次エンドポイントは階層的検定順序に基づいた、52週間における初回増悪までの期間、52週間無増悪の患者の割合、52週時の気管支拡張薬投与後のFEV1のベースラインからの変化量、重度肺疾患増悪の年率換算した発生率、およびQOLの変化(成人のみ)とした。brensocatib群で肺疾患増悪発生率が有意に低下 2020年11月~2023年3月に1,767例が無作為に割り付けられ、brensocatibまたはプラセボを投与された1,721例(成人1,680例、青少年41例)がITT集団となった(brensocatib 10mg群583例、25mg群575例、プラセボ群563例)。 年率換算した肺疾患増悪発生率は、brensocatib 10mg群1.02、25mg群1.04、プラセボ群1.29であり、プラセボ群に対する発生率比はbrensocatib 10mg群で0.79(95%信頼区間[CI]:0.68~0.92、補正後p=0.004)、25mg群で0.81(0.69~0.94、p=0.005)であった。 初回増悪までの期間のハザード比(HR)は、10mg群0.81(95%CI:0.70~0.95、補正後p=0.02)、25mg群0.83(0.70~0.97、p=0.04)であった。また、52週間無増悪の患者の割合は、brensocatib各群48.5%(10mg群283/583例、25mg群279/575例)に対しプラセボ群40.3%(227/563例)であり、HRは10mg群で1.20(95%CI:1.06~1.37、補正後p=0.02)、25mg群で1.18(1.04~1.34、p=0.04)であった。 52週時のFEV1のベースラインからの低下(平均値±標準誤差)は、brensocatib 10mg群50±9mL、25mg群24±10mL、プラセボ群62±9mLで、プラセボ群との最小二乗平均差は10mg群11mL(95%CI:-14~37、補正後p=0.38)、25mg群38mL(11~65、p=0.04)であった。 有害事象の発現率は、brensocatib群で過角化の発現率が高かったことを除き、両群で同様であった。

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