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抗IL-5抗体は“好酸球性COPD”の増悪を抑制する(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 好酸球を集積する喘息などの疾患が併存しないにもかかわらずCOPDの20~40%において好酸球増多を伴うことが報告されている。今回、論評の対象とした論文では、以上のような特殊病態を好酸球性COPD(COPD with Eosinophilic Phenotype)と定義し、その増悪に対する生物製剤抗IL-5抗体(メポリズマブ)の効果を検証している。好酸球性COPDの本質は確定されていないが、本論文では、喘息とCOPDの合併であるACO(Asthma and COPD Overlap)に加え多くの好酸球性全身疾患(多発血管炎性肉芽腫症など)の関与を除外したCOPDの一亜型(表現型)と定義されている。COPDの歴史的変遷 COPDの現在に通ずる病態の議論が始まったのは1950年代であり、肺結核を中心とする感染性肺疾患を除いた慢性呼吸器疾患を総称してChronic Non-Specific Lung Disease(CNSLD)と定義された。1964年には閉塞性換気障害を呈する肺疾患に対してイギリス仮説(British Hypothesis)とアメリカ仮説(American Hypothesis)が提出された。イギリス仮説では閉塞性換気障害の本質を慢性気管支炎、アメリカ仮説ではその本質を肺気腫と考えるものであった。しかしながら、1975年、ACCPとATSの合同会議を経て慢性気管支炎と肺気腫を合わせて慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)として統一された。 一方、1960年に提出されたオランダ仮説(Dutch Hypothesis)では、喘息、慢性気管支炎、肺気腫の3病態を表現型が異なる同一疾患であると仮定された。オランダ仮説はその後数十年にわたり評価されなかったが、21世紀に入り、COPDにおける喘息の合併率が、逆に、喘息におけるCOPDの合併率が、一般人口における各病態の有病率より有意に高いことが示され、慢性の気道・肺胞病変にはオランダ仮説で示唆された第3の病態、すなわち、肺気腫、慢性気管支炎によって代表されるCOPDと喘息の重複病態が存在することが示唆された。COPDと喘息の重複病態は、2009年にGibsonらによって(Gibson PG, et al. Thorax. 2009;64:728-735.)、さらに2014年、GINA(喘息の国際ガイドライン)とGOLD(COPDの国際ガイドライン)の共同作業によってACOS(Asthma and COPD Overlap Syndrome)と命名されたが、その後、ACO(Asthma and COPD Overlap)と改名された。ACOは1960年に提出されたオランダ仮説と基本概念が類似する疾患概念だと考えることができる。 しかしながら、近年、喘息が併存しないにもかかわらず好酸球性炎症が病態形成に関与する“好酸球性COPD”なる新たな概念が提出され、その本質に関し積極的に解析が進められている(Yun JH, et al. J Allergy Clin Immunol. 2018;141:2037-2047.)。すなわち、現時点におけるCOPDの病型には、古典的な好中球性COPD(肺気腫、慢性気管支炎)に加え、喘息が合併した好酸球性COPD(ACO)ならびに喘息の合併を認めない非喘息性の好酸球性COPDが存在することになる。好酸球性COPDの分子生物学的機序 20世紀後半にはTh2(T Helper Cell Type 2)リンパ球とそれらが産生するIL-4、IL-5、IL-13が喘息病態に重要な役割を果たすことが示された(Th2炎症)。21世紀に入り2型自然リンパ球(ILC2:Group 2 Innate Lymphoid Cells)が上皮由来のIL-33、IL-25およびTSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)により活性化され、IL-5、IL-13を大量に産生することが明らかにされた。その結果、喘息の主病態は、“Th2炎症”から“Type2炎症”へと概念が拡大された。喘息患者のすべてがType2炎症を有するわけではないが、半数以上の喘息患者にあってType2炎症が主たる分子機序として作用する。Type2炎症にあって重要な役割を担うIL-4、IL-13は、STAT-6を介し気道上皮細胞における誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を増強し、気道上皮において一酸化窒素(NO)を過剰に産生、呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)は高値を呈する。すなわち、FeNOはIL-4、IL-13に関連するType2炎症を、血中好酸球数は主としてIL-5に関連するType2炎症を、反映する臨床的指標と考えることができる。 好中球性炎症が主体であるCOPDにあって好酸球性炎症の重要性が初めて報告されたのは、慢性気管支炎の増悪時であった(Saetta M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1994;150:1646-1652.)。Saettaらは、ウイルス感染に起因する慢性気管支炎の増悪時に喀痰中の好酸球が約30倍増加することを示した。それ以降、COPD患者にあって増悪時ではなく安定期にもType2炎症経路が活性化され好酸球増多を伴う病態が存在することが報告された(Singh D, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022;206:17-24.)。これが非喘息性の好酸球性COPDに該当するが、COPDにおいてType2炎症経路がいかなる機序を介して活性化されるのかは確実には解明されておらず、今後の詳細な検討が待たれる。好酸球性COPDに対する生物製剤の意義-増悪抑制効果 2025年のGOLDによると、血中好酸球数が300cells/μL以上で慢性気管支炎症状が強い好酸球性COPDにおいては、ICS、LABA、LAMAの3剤吸入を原則とするが、吸入治療のみで増悪を管理できない場合には抗IL-4/IL-13受容体α抗体(抗IL-4Rα抗体)であるデュピルマブ(商品名:デュピクセント)を追加することが推奨された。2025年現在、米国においては、抗IL-5抗体であるメポリズマブ(同:ヌーカラ)も好酸球性COPD治療薬として承認されている。一方、本邦にあっては、2025年3月にGOLDの推奨にのっとりデュピルマブが好酸球性COPD治療薬として承認された。 本論評で取り上げたSciurbaらの無作為化プラセボ対照第III相試験(MATINEE試験)では、世界25ヵ国344施設から、(1)40歳以上のCOPD患者(喫煙歴:10pack-years以上)で喘息など好酸球が関与する諸疾患の除外、(2)スクリーニングの1年前までにステロイドの全身投与が必要な中等症増悪を2回以上、あるいは1回以上の入院が必要な重篤な増悪の既往を有し、(3)ICS、LABA、LAMAの3剤吸入療法を少なくとも3ヵ月以上受け、(4)血中好酸球数が300cells/μL以上、の非喘息性の好酸球性COPD患者804例が集積された。これらの患者にあって、170例がメポリズマブを、175例が対照薬の投与を受け52週間(13ヵ月)の経過が観察された。さらに、メポリズマブ群に割り当てられた233例、対照薬群の226例は104週間(26ヵ月)の経過観察が施行された。Primary endpointは救急外来受診あるいは入院を要する中等症以上の増悪の年間発生頻度で、メポリズマブ群で0.80回/年であったのに対し対照群のそれは1.01回/年であり、メポリズマブ群で21%低いことが示された。 Secondary endpointとして中等症以上の増悪発生までの日数が検討されたが、メポリズマブ群で419日、対照群で321日と、メポリズマブ群で約100日長いことが示された。MATINEE試験の結果は、増悪が生命予後の重要な規定因子となる非喘息性の好酸球性COPDにあってICS、LABA、LAMAの3剤吸入に加え、生物製剤メポリズマブの追加投与が増悪に起因する死亡率を有意に低下させる可能性を示唆した点で興味深い。 現在、喘息に対する生物製剤には、本誌で論評したメポリズマブ(商品名:ヌーカラ、抗IL-5抗体)以外にオマリズマブ(同:ゾレア、抗IgE抗体)、ベンラリズマブ(同:ファセンラ、抗IL-5Rα抗体)、GOLDで好酸球性COPDに対する使用が推奨されたデュピルマブ(同:デュピクセント、抗IL-4Rα抗体)、テゼペルマブ(同:テゼスパイア、抗TSLP抗体)の5剤が存在する。これらの生物製剤にあって、少なくともベンラリズマブ、デュピルマブ、テゼペルマブはACOを含む好酸球性COPDの増悪抑制という観点からはメポリズマブと同等の効果(あるいは、それ以上の効果)を発揮するものと予想される。いかなる生物製剤が好酸球性COPD(ACOと非喘息性の好酸球性COPDを含む)の生命予後を改善するのに最も適しているのか、今後のさらなる検討を期待したい。

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「10日間続く緑色尿」…原因は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第286回

「10日間続く緑色尿」…原因は?臨床現場は時に、ミステリー小説さながらの謎に満ちています。今回は、そんな謎解きの一つ、「緑色の尿」をテーマにした症例報告をご紹介します。ある日、担当の患者さんの尿バッグが鮮やかな緑色に染まっていたら、先生ならまず何を疑いますか?Colluoglu T, et al. An interesting observation: prolonged green urine can be a combined effect of decreased liver and renal function in a patient with heart failure-a case report. Eur Heart J Case Rep. 2023 Nov 16;7(12):ytad570.この物語の主人公は、79歳の女性です。彼女は呼吸困難を主訴に、急性増悪した心不全のため入院となりました。そして、彼女の尿は入院前から1週間もの間、緑色だったのです。緑色尿の原因として捜査線上に次に浮かび上がった容疑者は、やはり薬剤です。病歴を詳しく聴取すると、彼女が入院の1週間前に行ったペースメーカー植え込み術の際に、鎮静薬のプロポフォールと、メトヘモグロビン血症の治療薬メチレンブルーが投与されていたことが判明しました。この2つは、緑色尿の原因としてよく知られる薬剤です。なんだ、これで一件落着か…と思いきや、謎はさらに深まります。通常、これらの薬剤による緑色尿は、投与後2〜3日で自然に消える一過性の現象だからです。しかし、彼女の場合は12日間も持続したのです。なぜ、これほどまでに長引いたのでしょうか?入院時、彼女は心不全の悪化により肝機能も腎機能も著しく低下していました。ここで、犯人たちの犯行手口を詳しく見ていきましょう。まずプロポフォールです。プロポフォールは主に肝臓で代謝されますが、心不全による血流低下で肝機能が落ちると、腎臓が代謝の肩代わりを始めます。この腎臓での代謝の際に生まれるフェノール性の代謝物が、尿を緑色にする正体です。しかし、彼女の場合は心不全によって腎臓への血流も乏しく、腎機能も低下していました。そのため、腎臓は緑色代謝物を産生したものの、それを効率よく排泄することができませんでした。行き場を失った緑色代謝物が体内に留まり続けたことが、緑色尿が長引いた直接の原因だったのです。共犯者のメチレンブルーも、この状況を悪化させた可能性があります。彼女に投与されたメチレンブルーの量は、心機能や腎血流を低下させる可能性のある高用量でした。これが心不全をさらに悪化させ、肝臓と腎臓の血流を低下させることで、プロポフォール代謝物の排泄遅延に拍車をかけたと推測されます。治療により心不全が改善し、肝臓と腎臓の機能が回復するにつれて、彼女の尿の色は濃い緑から薄緑へ、そして黄色へと徐々に正常な色に戻っていきました。この色の変化は、まさに多臓器機能が回復していく過程をリアルタイムで示す、視覚的なバイタルサインだったといえるでしょう。

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Lp(a)による日本人のリスク層別化、現時点で明らかなこと/日本動脈硬化学会

 第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会が7月5~6日につくば国際会議場にて開催された。本稿ではシンポジウム「新たな心血管リスク因子としてのLp(a)」における吉田 雅幸氏(東京科学大学先進倫理医科学分野 教授)の「今こそ問い直すLp(a):日本におけるRWDから見えるもの」と阿古 潤哉氏(北里大学医学部循環器内科学 教授)の「二次予防リスクとしてのLp(a)」にフォーカスし、Lp(a)の国内基準として有用な値、二次予防に対するLp(a)の重要性について紹介する。Lp(a)に対する動き、海外と日本での違い リポ蛋白(a)[Lp(a)]が「リポスモールa」などと呼ばれていた1990年代、心血管疾患との関連性に関する多くのエビデンスが報告され、測定の第一次ブームが巻き起こっていた。あれから30年。現在の日本でのLp(a)測定率は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが高い患者でも0.42%に留まっている1)。いったいなぜ、測定のブームは衰退し、Lp(a)に関する研究の進展に年月を要しているのか。これについて吉田氏は「Lp(a)は霊長類にしかないリポ蛋白であり、動物実験を行うのが難しい分子である。また、進化の過程でプラスミノーゲン(PMG)遺伝子の部分的重複からアポAが進化する過程で、非常に複雑な構造になった。また、KIV2のサブタイプが2~40と多く存在することで、個人差が大きくなり検査が行いにくい側面がある。さらにSNPのような遺伝的要素も影響している」と説明し、治療薬開発の難しさにも言及した。 加えて、順天堂大学の三井田 孝氏が指摘しているように、測定キットの違いによる測定値のばらつき、測定値の国際標準化がなされていない点などもLp(a)測定の足かせになっている。 世界的な動向としては、米国、欧州、中国でコンセンサスステートメントが発表されており、「30mg/dL(75nmol/L)未満:低リスク、30~50mg/dL(75~125nmol/L):中リスク、50mg/dL(125nmol/L)超:ハイリスク」と濃度によってどのように治療を考えるべきかが示されている。その一方で、「日本動脈硬化学会ではこれらを検討できていない」とコメントした。国内最新研究から明らかになったこと そこで、吉田氏らは日本人のLp(a)濃度分布やLp(a)のASCVDとの関連を明らかにするため、多施設共同後ろ向きコホート研究(LEAP研究)を行った。 本研究は、研究参加施設(東京科学大学、国立循環器病研究センター、大阪医科薬科大学、金沢大学、慈恵会医科大学、杏林大学、順天堂大学)において血清Lp(a)が測定された外来・入院患者6,173例を対象に実施。各施設で得られたLp(a)測定値は、測定キット間の誤差を標準化するため、三井田氏らの校正式に基づきnmol/Lへ換算して集計された。その結果について、「本研究において使用されていたキットは積水メディカルとニットーボーメディカルの2種で、nmol/L換算すると中央値は20.88nmol/Lであった。また、冠動脈疾患(CAD)を有する群、ASCVDを有する群、家族性高コレステロール血症(FH)を有する群では、いずれもLp(a)が有意に高値であった。一方、糖尿病(DM)を有する群では有意に低値であった。この基礎疾患の違いによる結果は先行研究でも報告されているとおりであった」とコメントした。また、感度・特異度・ROC曲線から、低値群:25nmol/L未満、中値群:25~75nmol/L、高値群:75nmol/L超の3つにリスク層別化して比較したところ、CAD、ASCVD、CKDを基礎疾患として有する群では段階的に有病率が増加し、Lp(a)値と疾患頻度の関連が示された。 同氏は本研究の限界として「後ろ向き研究であったため、今後は前向きに検討していく必要がある。また、三井田氏が“mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある”と指摘するように、単位はnmol/L表記が望ましいのではないかと議論されている」と述べ、「われわれの今回の研究対象は比較的リスクの高い集団であったため、この点も考慮しながら、日本動脈硬化学会のコンセンサスステートメントを作成していきたい」と締めくくった。 なお、日本動脈硬化学会ホームページにおいてLp(a)検査値標準化ツールが掲載されたため、積水メディカル、ニットーボーなどで測定された検査値であれば、このツールを用いて容易にmg/dLをnmol/Lへ変換することができる。Lp(a)高値を発見せねば、2次予防への治療介入の意義 続いて阿古氏は、2014年に報告されたCADにおけるメンデルランダム研究2)やLp(a)と血栓性疾患や脳血管疾患の間に因果関係があるか検討した研究3)などの結果を踏まえ、「Lp(a)はLDL-Cと同様にCVDにおける真のリスク因子に分類されており、弁膜症や血栓性疾患などの動脈硬化性疾患の独立したリスク因子としても認識されている。また近年では、2次予防におけるLDL-CおよびLp(a)とCVDリスクの関係を検討した研究報告4)も出てきており、心血管疾患の1次予防のみならず2次予防においてもその役割は重要」とLp(a)高値症例に対して治療介入を行う意義を強調した。さらに、近赤外分光法血管内超音波検査(NIRS-IVUS)などの血管内イメージングからも、Lp(a)の上昇によって(破れやすい)プラークの割合が増加5)、LDL-C同様にLp(a)もプラーク性状に影響6)していることが見いだされており、「Lp(a)測定がプラークの性状にも影響を与えている可能性を示唆している」と述べた。 現在、世界各国では再発イベントなどがある患者、イベントの家族歴を有する患者、ASCVDリスクが高い患者などへLp(a)測定が推奨されている。同氏はこの状況を受け、「われわれの研究結果1)から、国内のLp(a)高リスク患者への測定が進んでいないのは明らか」と、今こそLp(a)への介入が重要であることを訴える。 30年前と違い、Lp(a)低下薬の第III相試験(Lp(a)HORIZON、OCEAN(a)、ACCLAIM-Lp(a)など)が着々と進められている状況を見据え、同氏は「国内でも2次予防としてLp(a)測定を推奨し、Lp(a)高値の患者に対してLDL-C目標値を厳格にしていくことが必要なのではないだろうか」と締めくくった。■参考文献1)Fujii E, et al. J Atheroscler Thromb. 2025;32:421-438.2)Jansen H, et al. Eur Heart J. 2014;35:1917-1924.3)Larson SC, et al. Circulation. 2020;141:1826-1828.4)Madsen CM, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020;40:255-266.5)Erlinge D, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;85:2011-2024.6)Shishikura D, et al. J Clin Lipidol. 2025;19:509-520.

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診療科別2025年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・ 内分泌内科編)

Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 DiabetesMcGuire DK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2001-2012.<SOUL試験>:2型糖尿病への経口セマグルチド、主要CVイベントリスク低減50歳以上の2型糖尿病患者を対象に経口セマグルチドとプラセボを比較したRCTで、セマグルチドは主要な心血管イベントのリスクを有意に低減し(ハザード比:0.86)、同種注射薬と同様の臨床的効果が示唆されました。Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese patients with obesity disease (SURMOUNT-J): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trialKadowaki T, et al. Lancet Diabetes & Endocrinology. 2025;13:384-396.<SURMOUNT-J試験>:日本人肥満症患者で、チルゼパチドが顕著な減量効果肥満症を有する非糖尿病日本人において、チルゼパチドは顕著な減量効果(約20%低下)を有することが示されました(プラセボ対照のRCT)。欧米人・中国人をそれぞれ対象としたRCTと同様の結果でした。Finerenone with Empagliflozin in Chronic Kidney Disease and Type 2 DiabetesAgarwal R, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 5. [Epub ahead of print] <CONFIDENCE試験>:顕性アルブミン尿期の2型DM、フィネレノン+エンパグリフロジンが有効顕性アルブミン尿期の2型糖尿病患者にフィネレノンとエンパグリフロジンをそれぞれ単独または併用投与したRCTで、180日後の尿中アルブミン-クレアチニン比低下に統計学的に有意な相加効果が認められました。ただし、長期的な効果の持続性や臨床的アウトカムは不明です。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHを有する肥満者へのセマグルチド、肝臓の組織学的アウトカム改善MASHと中等度以上の肝線維症を有する肥満者(2型糖尿病患者約56%)において、セマグルチド(注射剤)は72週間の追跡期間で肝臓の組織学的アウトカムを統計学的に有意に改善しました。臨床的なアウトカム評価を目的(追跡期間240週)として本試験は継続されており、その結果が発表されるまでは過剰期待しないように気をつけましょう。Blood pressure reduction and all-cause dementia in people with uncontrolled hypertension: an open-label, blinded-endpoint, cluster-randomized trialHe J, et al. Nature Medicine. 2025;31:2054-2061.<血圧管理と認知症リスク>:高血圧患者への厳格な血圧管理が認知症リスク低減高血圧症と糖尿病は認知症の主要なリスクファクターです。中国で行われた高血圧患者(糖尿病患者約9%)を対象とした48ヵ月間のRCTで、厳格な血圧管理(130/80mmHg未満)により認知症のリスクが統計学的に有意に低下しました(リスク比:0.85)。

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第19回 最新研究が警鐘!「いつものあの食べ物」に潜む健康リスクとは

普段、私たちが何気なく口にしているハムやソーセージ、甘いジュースや菓子パン。手軽で美味しいこれらの食品が、実は私たちの健康に静かな影響を及ぼし続けている…。2025年6月に医学雑誌Nature Medicine誌に発表された論文1)は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸といった「超加工食品」の成分が、さまざまな病気のリスクを高めることを改めて浮き彫りにしています。今回は、この研究の結果を、私たちの生活に身近な例を交えながら解説していきます。「少しだけ」でも危ない? 加工肉・甘い飲み物・トランス脂肪酸の新常識この研究がとくに注目されるのは、非常に慎重な分析手法を用いている点です。多くの研究結果を統合し、あえて控えめに見積もってもなお、健康への悪影響が確認された点に大きな意義があります。ここからは、この研究で分析された、加工肉、甘い飲み物、トランス脂肪酸、それぞれのリスクについてみていきましょう。(1)加工肉のリスクまず研究では、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉を日常的に食べることが、2型糖尿病や大腸がんのリスクを高めると結論付けています。具体的には、毎日わずかな量(0.6〜57g)を食べるだけでも、2型糖尿病のリスクが平均で11%以上、大腸がんのリスクが平均で7%以上高まることが示されました。さらに衝撃的なのは、そのリスクの増え方かもしれません。摂取量が増えるほどリスクは上がり続けますが、とくに「0から1のところ」でリスクが最も急激に上昇することがわかりました。これは、「少しなら安全」という考えが通用しない可能性を示唆しています。たとえば、平均的に約50gの加工肉を毎日食べる人は、2型糖尿病のリスクは約30%、大腸がんのリスクは約26%増加すると試算されています。これは、標準的なサイズのホットドッグ1本、ソーセージ2〜3本、ベーコン(スライス)2枚程度に当たります。アメリカに住む私には耳の痛い話で、日本でもこのぐらいの量はさまざまな食事を通して登場しているかもしれません。(2)砂糖入り飲料のリスク炭酸飲料やスポーツドリンク、甘い缶コーヒーやジュースといった砂糖入り飲料も同様です。これらの飲料を日常的に飲むことで、2型糖尿病や心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが高まるという結果が報告されています。こちらも比較的少量の摂取からリスクは上昇し、1日当たり250g(大きめのコップ1杯強)の摂取で、2型糖尿病のリスクは約20%増加すると報告されています。喉が渇いたときに、水やお茶の代わりに甘い飲み物を選ぶ習慣がある方は、注意が必要かもしれません。(3)トランス脂肪酸のリスクまた、今回の研究では、「食べるプラスチック」とも呼ばれるトランス脂肪酸についても分析されました。マーガリンやショートニング、それらを使ったパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ物などに含まれることのある成分です。結果は、トランス脂肪酸の摂取が虚血性心疾患のリスクを明確に高めることを裏付けています。摂取エネルギーのわずか0.25〜2.56%をトランス脂肪酸から摂るだけで、リスクは平均3%以上高まりました。現在はWHOもそのリスクを訴え、世界中で使用を制限する動きが広がっています。この研究結果は、その動きの正しさを改めて後押しするものといえるでしょう。なぜ体に悪いのか、その仕組みとは?では、なぜこれらの食品は体に良くないのでしょうか。論文では、いくつかのメカニズムが指摘されています。たとえば加工肉は、塩分や飽和脂肪酸が多いだけでなく、保存のために使われる亜硝酸ナトリウムなどの添加物が、体内で有害物質に変化する可能性が指摘されています。また、砂糖入り飲料の過剰な糖分は、体内の炎症を引き起こしたり、内臓脂肪を増やしたりします。さらに、これらの超加工食品は、共通して腸内環境のバランスを崩し、悪玉菌を増やしてしまう可能性なども指摘されています。少しの気配りで未来の健康を守る今回の研究結果は、加工肉、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸の摂取を控えるべきだという、これまでの食事ガイドラインを科学的に強く支持するものとなっています。これらの食品が広く消費され、関連する病気が多いことを考えると、決して軽視はできません。もちろん、この研究にも限界はあります。食生活の自己申告に基づく観察研究であること、他の生活習慣の影響を完全に排除できないことなどです。しかし、私たちの健康を守るための重要なヒントを与えてくれているとも思います。日々の食事の選択が、10年後、20年後の自分の健康がどうあるかを左右します。普段の買い物や食事の際に、砂糖入り飲料を水やお茶に変えてみたり、加工食品を新鮮な食材に置き換えてみたりと、日々の食生活を少し見直してみてもいいかもしれません。その小さな一歩が、未来の健康への大きな投資となるのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Haile D, et al. Health effects associated with consumption of processed meat, sugar-sweetened beverages and trans fatty acids: a Burden of Proof study. Nat Med. 2025 Jun 30. [Epub ahead of print]

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脳卒中後の慢性期失語症、C7神経切離術+集中的言語療法が言語機能改善/BMJ

 脳卒中後の慢性期失語症において、第7頸神経(C7)の神経切離術+3週間の集中的言語療法(SLT)は3週間のSLT単独と比較して、6ヵ月間の試験期間中、言語機能がより大きく改善し、重篤な有害事象および長期にわたる煩わしさを伴う症状や機能喪失は報告されなかった。中国・復旦大学のJuntao Feng氏らが、多施設共同評価者盲検無作為化試験の結果を報告した。脳卒中後の慢性期失語症の治療は困難で、SLTが主な治療法だが有効性の改善が求められている。また、SLTをベースとした付加的かつ持続的効果をもたらす新たな治療技術は提案されていなかった。BMJ誌2025年6月25日号掲載の報告。集中的言語療法単独と比較した無作為化試験を中国4施設で実施 脳卒中後の慢性期失語症患者におけるC7神経切離術+SLTとSLT単独を比較した試験は、中国大陸の4施設で、左半球の脳卒中後1年以上失語症を有する40~65歳を対象に行われた。 被験者は、右側C7神経切離術+SLT群(併用治療群)またはSLT単独群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けられ、治療施設による層別化も行われた。併用治療群では、右側C7神経切離術の1週間後に3週間のSLTが開始された。対照群では1週間の待機後に3週間のSLTが開始された。 主要アウトカムは、ベースラインから治療終了(無作為化後1ヵ月)時点の60項目Boston Naming Test(BNT)スコア(範囲:0~60、高スコアほど語想起機能が良好であることを示す)の変化であった。 副次アウトカムは、Western Aphasia Battery(WAB)を用いて算出した失語症指数(AQ)に基づく失語症重症度の変化、脳卒中後のQOLとうつ病に関する患者報告アウトカムなどであった。1ヵ月時点のBNTスコアの平均変化、併用治療群11.16 vs.対照群2.72 2022年7月25日~2023年7月31日に、脳卒中後失語症と診断された1,086例のうち322例が適格性のスクリーニングを受け、50例の適格患者が併用治療群と対照群に無作為化された(各群25例)。 50例の神経損傷から試験組み入れまでの期間中央値は、併用治療群28.8ヵ月(四分位範囲:21.2~45.0)、対照群25.3ヵ月(17.7~37.6)。中国版WABの分類基準に基づき、45例が非流暢性失語症(Broca失語症37例を含む)、5例が流暢性失語症であった。50例のうち42例が上肢の痙性麻痺を有し平均痙性度は1度(軽度痙性)であった。 ベースラインから1ヵ月時点までのBNTスコアの平均変化は、併用治療群11.16ポイント、対照群2.72ポイントであった(群間差:8.51ポイント[95%信頼区間[CI]:5.31~11.71]、p<0.001)。BNTスコアの群間差は、6ヵ月時点でも安定して維持されていた(群間差:8.26ポイント[95%CI:4.16~12.35]、p<0.001)。 AQも併用治療群が対照群と比較して有意に改善した(1ヵ月時点の群間差:7.06ポイント[95%CI:4.41~9.72]、p<0.001)。また、患者報告に基づく日常生活動作(ADL、バーセルインデックスで評価、1ヵ月時点の群間差:4.12[95%CI:0.23~8.00]、p=0.04)、脳卒中後うつ(6ヵ月時点の群間差:-1.28[95%CI:-2.01~-0.54]、p=0.001)も同様であった。 治療に関連した重篤な有害事象は報告されなかった。

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非輸血依存性サラセミア、mitapivatは新たな経口治療薬として有望/Lancet

 非輸血依存性(NTD)αサラセミアまたはNTD βサラセミアの成人患者において、開発中の経口ピルビン酸キナーゼ活性化薬mitapivatはヘモグロビン値を上昇させ疲労感を改善し、新たな経口治療薬となる可能性があることが示された。レバノン・American University of Beirut Medical CenterのAli T. Taher氏らENERGIZE investigatorsが第III相の国際無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ENERGIZE試験」の結果を報告した。NTDサラセミアは無効造血と溶血性貧血によって特徴付けられる遺伝性疾患で、長期の合併症、QOL低下、早期死亡をもたらす。βサラセミアに対する承認された経口疾患修飾治療薬はなく、αサラセミアに対しては承認薬がなかった。Lancet誌2025年6月19日号掲載の報告。1日2回100mgを24週経口投与し、ヘモグロビン値上昇を評価 ENERGIZE試験は、NTD αサラセミアまたはNTD βサラセミアの成人患者におけるmitapivatの有効性と安全性を評価した世界18ヵ国70病院で行われた試験。非盲検の延長試験も行われている。対象は18歳以上、NTD αサラセミアまたはNTD βサラセミアでヘモグロビン値10g/dL以下の患者を適格とした。 被験者は、ブロック無作為化法を用いた中央双方向応答テクノロジーシステムを介して、mitapivat群(1日2回100mgを24週経口投与)またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。ベースラインのヘモグロビン値とサラセミアの遺伝子型による層別化も行われた。 試験に関わる全員が、主要エンドポイントの解析のために試験の盲検化が解除されるまで、被験者の治療割り付けを知らされなかった。 主要エンドポイントは、ヘモグロビン反応(12~24週目の平均ヘモグロビン値がベースラインから1.0g/dL以上上昇)で、無作為化された全被験者を対象に解析した。安全性は、試験薬の投与を少なくとも1回受けた全患者を対象に解析した。平均ヘモグロビン値1.0g/dL以上上昇、mitapivat群42%、プラセボ群2% 2021年11月8日~2023年3月31日に、235例がスクリーニングされ、そのうち194例(女性123例[63%]、男性71例[37%])が試験に登録された。130例がmitapivat群に、64例がプラセボ群に無作為化され、この194例を有効性解析集団(FAS)とした。 各群1例について、無作為化されたが治療薬の投与を受けず、これら被験者は安全性解析集団から除外された(mitapivat群129例、プラセボ群63例)。mitapivat群の7例、プラセボ群の1例が24週間の二重盲検試験期間が終わる前に治療を中断している。 ヘモグロビン反応を呈したのはmitapivat群55/130例(42%)、プラセボ群1/64例(2%)であった(最小二乗平均差:41%[95%信頼区間:32~50]、両側のp<0.0001)。 有害事象は、mitapivat群107/129例(83%)、プラセボ群50/63例(79%)で報告された。mitapivat群で多く報告された有害事象は頭痛(29/129例[22%]vs.プラセボ群6/63例[10%])、初期不眠症(18例[14%]vs.3例[5%])、悪心(15例[12%]vs.5例[8%])、上気道感染(14例[11%]vs.4例[6%])であった。死亡は報告されなかった。

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2型糖尿病のHbA1cコントロールにピアサポートアプリが有効か

 糖尿病患者の血糖管理においてHbA1cは重要な指標となるが、今回、デジタルピアサポートアプリの活用により2型糖尿病患者のHbA1cが統計学的に有意に低下する可能性が示唆された。アプリ内のチャットを通じたコミュニケーションが患者個人の意思決定や行動に影響を与えている可能性があるという。研究は北里大学大学院 医療系研究科の吉原翔太氏によるもので、詳細は「JMIR Formative Research」に5月20日掲載された。 HbA1cは過去2~3か月間の平均血糖値を反映し、糖尿病合併症のリスクを予測するためのゴールドスタンダードとされている。しかし、2型糖尿病患者にとっては、健康的な行動を自ら採用し維持することが困難な場合もあり、HbA1cの適切な管理が難しい患者も少なくない。ピアサポートは、共通の経験や課題を持つ個人同士が互いに支援し合うことと定義されており、2型糖尿病患者の健康的な行動を促進するための効果的な戦略となる可能性が示唆されている。デジタルヘルスの技術進歩により、ピアサポートもアプリ上で行うことが可能となりつつある。しかし、このようなアプリが2型糖尿病の管理に及ぼす影響については、十分な検討がなされていない。このような背景を踏まえ、著者らは2型糖尿病患者のHbA1cコントロールに対するデジタルピアサポートアプリの効果を検証するために、前向きの単群パイロット研究を実施した。 本研究は、「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」の一環として、2021年12月から2022年6月にかけて実施された。解析対象は、スマートフォンを所有する、山梨県内の医療機関を受診した2型糖尿病患者とした。参加者は医師からデジタルピアサポートアプリ「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)を紹介され、アプリ内の糖尿病管理グループに登録した。介入期間は3ヵ月間とし、参加者は糖尿病の標準治療に加え、このアプリの使用を奨励された。このアプリは、参加者がチャット機能を通じて活動記録や懸念を共有し、相互の関与と励ましによってHbA1c値の改善を図ることを可能にした。主要評価項目は、ベースラインからのHbA1cの変化量とした。 本研究には、21名の参加者(年齢中央値56歳)が含まれ、うち13名(61.9%)が女性だった。3ヵ月間の介入の結果、参加者のHbA1cはベースラインの7.1(±0.6)%から6.9(±0.1)%へと有意に減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。同様に、体重も70.7(±12.7)kgから69.9(±12.4)kgに減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。血圧に関しては、128.2(±12.5)mmHgから126.0(±12.9)mmHgへとわずかに減少したものの、統計的に有意ではなかった。また、1日1時間以上の身体活動を行う参加者の割合は、23.5%から58.5%へと増加した(P<0.05、マクネマー検定)。 本研究について著者らは、「2型糖尿病の標準治療に加え、デジタルピアサポートアプリを使用することで健康的な行動が促進され、患者のHbA1c値が改善する可能性があることが示唆された。この結果は、リマインダーやチャット機能といったアプリの特定の機能に起因している可能性がある。チャットを通じたコミュニケーションは、個人の意思決定や行動に影響を与え、健全な行動を維持するためのオンラインコミュニティ内での行動規範形成に寄与している可能性もある」と述べている。 本研究の限界点については、サンプル数の少ない単群介入研究であったこと、主要評価項目にHbA1c値を採用したため、行動変化と検査値の間にタイムラグがあることなどを挙げている。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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停電・断水下の避難所診療、現場の医師が迫られる判断は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第2回

停電・断水下の避難所診療、現場の医師が迫られる判断は?大規模災害発生から2日目の夜。停電と断水が続く中、ある避難所に医療チームが臨時診療所を設置しました。避難者は300人以上、高齢者が多数を占め、冷え込んだ体育館に雑魚寝状態。照明もなく、トイレも使えない劣悪な環境です。停電・断水下の避難所の様子 写真提供:筆者その中に、車椅子に座ったまま動けずにいる高齢女性がいました。避難後から排泄もできず、表情には疲弊の色が濃い状態でした。声をかけると意識は清明です。本人は「横になると、もう起きられなくなる」と訴えました。右下腿に痛みと軽度の腫脹を認めましたが、身体診察は困難でした。仰臥位も拒否し、視診・触診にも限界があります。診療スペースは避難者の目の前の一角であり、プライバシーも照明も十分に確保できない状況です。この状況下で患者さんを診る場合、どのように評価し、判断し、次の行動につなげればよいでしょうか? 検査、処置、搬送判断、避難所内外のケアなど、現場の医師は多くの判断を迫られます。限られた環境での診察避難所では、通常の医療とはまったく異なる制約の中で判断と対応を迫られます。この事例では、持参したポータブルエコーを活用し、腓骨の遠位部に骨折を疑う所見を確認しました。X線が使えない環境においても、エコーによる骨折のスクリーニングは非常に有用で、とくに四肢長管骨骨折では感度93%、特異度92%という報告もあります1)。骨折エコー画像  写真提供:筆者画像を拡大する応急処置として、簡易シーネで患部を固定しましたが、問題はその後の対応でした。避難所にとどめておくことは不適切であり、まずは近隣病院に問い合わせました。しかし病院側もすでに手一杯で受け入れ困難でした。被災地外の医療機関までは6時間以上かかる道路状況です。結局、翌朝再評価のうえ、手術適応がなければ福祉避難所への移送を検討する方針としました。診断のその先へ:適切な支援につなげるための連携災害時には高齢者が自力で避難しない・できないケースが多いことは世界的にも報告されており2)、こうした複雑な調整が必要な場面では、DMAT本部や行政が設置する保健医療福祉調整本部との連携が重要です。患者の搬送先の調整や、リソースの割り振りを一元的に把握している本部が存在すれば、支援チームの動きも円滑になります。しかし現実には、その連携が整う前に、目の前の判断を迫られることも少なくありません。「誰かが搬送してくれるだろう」と考えるのではなく、自ら搬送先を確保し、手段を調整し、必要なら自分たちで搬送を行うという覚悟が求められます。この症例から学べることは、「診断技術」よりも、「要支援者をいかに適切な支援につなげるか」という視点です。とくに高齢者や要介護者は災害弱者であり、その生活の質や命に直結する判断を、きわめて限られた条件下で求められます。迷ったとき、「この人が自分の家族だったらどうするか」を問い直すことで、行動が変わることがあります。そして、その一歩を踏み出す覚悟が、医療者の災害対応を支える原動力になるのだと思います。 1) Chartier LB, et al. Use of point-of-care ultrasound in long bone fractures: a systematic review and meta-analysis. CJEM. 2017;19:131-142. 2) Dostal PJ, et al. Vulnerability of Urban Homebound Older Adults in Disasters: A Survey of Evacuation Preparedness. Disaster Med Public Health Prep. 2015;9:301-306.

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看護師の不眠に解決策!? シフト勤務に特化したデジタル認知行動療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第23回

看護師の不眠に解決策!? シフト勤務に特化したデジタル認知行動療法の効果交代勤務の看護師が抱える不眠に対し、デジタル認知行動療法(CBT-I)「SleepCare」が有効であることが、Hanna A. Bruckner氏らの研究結果から示された。International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月7日号に掲載された。交代勤務睡眠障害のある看護師の不眠症に対するデジタル認知行動療法の有効性:ランダム化比較試験研究チームは、交代勤務睡眠障害に罹患している看護師に対し、不眠症を軽減するためのデジタル認知行動療法プログラム「SleepCare」の有効性を調査することを目的にランダム化比較試験を行った。交代勤務睡眠障害に罹患している看護師74名を、「SleepCare」介入群と、ドイツ睡眠学会が公開している交代勤務に特化した心理教育群に割り当て、効果を比較した。主要評価項目は、ランダム化前のベースライン時、8週間後、および3ヵ月後の不眠症の重症度(不眠症重症度指数[Insomnia Severity Index]で測定)とした。副次評価項目として、メンタルヘルス指標、および長期的な毛髪中コルチゾール濃度を評価した。主な結果は以下の通り。Intention to treat(治療意図)に基づく共分散分析により、介入群は心理教育群と比較して、介入直後(d=1.11、95%信頼区間[CI]:0.7~1.6)および追跡調査時(d=0.97、95%CI:0.5~1.4)の両方で、より大きな不眠症重症度の軽減を示した。この結果は、不眠症重症度指数において、それぞれ5.0ポイントおよび5.3ポイントの群間差に相当する。参加者の56%が、6セッションのうち5セッション以上を完了し、これらの介入完了者においては、それぞれd=1.49およびd=1.28と、より大きな効果が示された。統計的に有意な効果は、睡眠関連の指標では認められたが、ストレスや抑うつといった他のメンタルヘルス指標では認められなかった。「SleepCare」群では、介入後に毛髪中コルチゾール濃度の低下が認められた(V=82、p=0.008、Δ=−1.8 pg/mg、ベースラインから44%減少)。「SleepCare」は、不眠症の症状を臨床的に意味のあるレベルまで軽減する上で有効であった。また、看護師の交代勤務に対するニーズに応えるための特定のエクササイズを取り入れ、不眠症のための認知行動療法を応用した、最初のデジタル配信プログラムの一つでもある。介入完了者においては、大幅に大きな効果が認められたことから、治療アドヒアランス(治療の継続・遵守)を促進するための効果的な戦略の開発が必要である。交代勤務に従事する看護師の方々にとって、交代勤務睡眠障害は深刻な問題ですが、多忙かつ不規則なスケジュールから従来の対面式の認知行動療法(CBT-I)は利用しにくいという課題がありました。本研究で検証されたデジタルCBT-I「SleepCare」は、この状況に対する画期的なアプローチと言えます。交代勤務特有のニーズに合わせて調整され、時間や場所を選ばずに利用できるこのプログラムは、実際に不眠重症度を臨床的に有意に改善しました。とくに、介入完了者でより高い効果が認められたこと、そして客観的なストレス指標である毛髪コルチゾール濃度が改善したことは注目に値します。一方で、ストレスや抑うつといった睡眠関連以外の精神的健康課題への直接的な効果は認められず、治療アドヒアランスの向上が重要であるという点は、今後の課題です。これらは近年のデジタル系の研究全体でよく述べられている限界点です。この研究で示されたアプローチは、私たちの日常にもヒントを与えてくれます。例えば、夜勤明けはサングラスをかけて帰宅する、夜勤の勤務後半にはカフェインなどの刺激物を避ける、といった工夫が睡眠障害の予防につながるでしょう。本研究は困難な勤務環境にある私たち看護師の睡眠問題に対し、実用的かつ効果的なデジタルヘルスソリューションの可能性を力強く示した点で、非常に価値が高いと言えます。論文はこちらBruckner HA, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

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死亡リスクの予測、BMI vs.体脂肪率

 体組成の評価指標としてBMIが広く用いられているが、筋肉質な人を過体重や肥満に分類したり、BMIは正常でも体脂肪率が高い「正常体重肥満」のリスクを見逃したりする可能性が指摘されている。そこで、米国・フロリダ大学のArch G. Mainous氏らの研究グループは、20~49歳の成人を対象に、死亡リスクの予測においてBMIと体脂肪率のいずれが優れているか検討した。その結果、体脂肪率のほうが15年間の全死亡および心疾患死亡のリスク予測において優れている可能性が示された。本研究結果は、Annals of Family Medicine誌オンライン版2025年6月24日号に掲載された。 本研究は、米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の1999~2004年のデータを用いた後ろ向きコホート研究である。対象は、ベースライン時に20~49歳であった成人4,252人(男性2,821人、女性1,431人)とした。BMI、生体電気インピーダンス法を用いて推定した体脂肪率、胴囲(waist circumference)と、15年間の全死亡、心疾患死亡、がん死亡との関連を評価した。BMIは18.5~24.9kg/m2を正常、25kg/m2以上を過体重/肥満と定義した。体脂肪率については、先行研究に基づき男性は27%以上、女性は44%以上を不健康とした。胴囲については、男性は40インチ超、女性は35インチ超を不健康とした 主な結果は以下のとおり。・調整後解析において、BMIに基づく過体重/肥満の群は、正常の群と比較して全死亡リスク(ハザード比[HR]:1.246、95%信頼区間[CI]:0.845~1.837)および心疾患死亡リスク(HR:2.227、95%CI:0.833~5.952)の統計学的に有意な上昇はみられなかった。・不健康な体脂肪率群は、健康な体脂肪の群と比較して、全死亡リスク(HR:1.780、95%CI:1.282~2.471)および心疾患死亡リスク(HR:3.620、95%CI:1.552~8.445)が有意に高かった。・不健康な胴囲の群も同様に、健康な胴囲の群と比較して、全死亡(HR:1.593、95%CI:1.123~2.259)および心疾患死亡(HR:4.007、95%CI:1.941~8.271)のリスクが有意に高かった。・がん死亡リスクについては、BMI、体脂肪率、胴囲のいずれの指標とも有意な関連は認められなかった。 著者らは「体脂肪率は測定が容易な体組成指標であり、BMIと比較して若年成人における長期的な死亡リスクと強い関連がある可能性が示された」と結論付けている。

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アルツハイマー病における興奮の診断・評価・治療に関するエキスパートの推奨事項

 アルツハイマー型認知症のアジテーションは、患者、介護者、家族、医療制度に大きな影響を及ぼす。アジテーション治療に関する新たなエビデンスが明らかになるにつれて、多専門分野の専門家によるラウンドテーブルが開催され、発表された文献(2024年10月1日現在のPubMed検索結果)をレビューし、米国のプライマリケア提供者のためのコンセンサス推奨事項が作成された。米国・セントルイス大学のGeorge T. Grossberg氏らは、プライマリケア提供者向けのアルツハイマー型認知症のアジテーションの診断とマネジメントに関するエビデンスに基づく臨床実践のコンセンサス推奨事項を報告した。Postgraduate Medicine誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 本稿では、ラウンドテーブルで得られた主要な推奨事項を要約した。具体的には、鑑別診断、現在の臨床実践、非薬理学的介入、薬理学的介入、居住型介護施設/在宅介護環境および介護者に対する治療とコミュニケーションの考慮事項を含めた。 主な結果は以下のとおり。・アジテーションのタイムリーな検出、正確な診断、適切なマネジメントと予防には、医療提供者、患者、介護者/家族の間での積極的なコミュニケーションが不可欠である。・治療のベースは常に、患者の性格、興味、機能レベルに基づいた個別の心理教育および非薬理学的介入から、スタートしている。・薬理学的介入が強く推奨されるケースは以下のとおりである。●アジテーションに伴う行動が非常に激しく、不安を呈し、混乱を招く場合●重大な安全性上の懸念が他の方法で対処できない場合●医療提供者が好ましい個々のリスクベネフィットプロファイルを有する薬理学的介入によりアジテーションを十分にマネジメントまたは軽減できると確信した場合・アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの治療薬として質の高い臨床試験で複数の薬剤が研究されているものの、米国食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤はブレクスピプラゾールのみであり、必要に応じて使用することが推奨される。・治療を最適化し、潜在的な副作用をモニタリングし、最小限に抑制するためにも、介入の継続的な評価が必要である。・患者ケアチームの重要な一員である介護者/家族との強力なパートナーシップを含む、患者中心のアプローチが推奨される。 著者らは「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションをタイムリーに検出し、正確な診断を行い、適切な治療に繋げることが非常に重要である。これらの推奨事項に従うことで、ほとんどの患者および介護者のアウトカムが改善される可能性がある」とまとめている。

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lorundrostatがコントロール不良の高血圧に有効/JAMA

 コントロール不良または治療抵抗性の高血圧で、2~5種類の降圧薬を使用している患者において、プラセボと比較し経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatは、収縮期血圧の降圧効果が有意に優れ、参加者全体の約半数に認めた試験治療下で発現した有害事象(TEAE)のほとんどが軽度または中等度であったことが、イングランド・Barts Health NHS Trust and Queen Mary UniversityのManish Saxena氏らLaunch-HTN Investigatorsが実施した「Launch-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年6月30日号で報告された。13ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 Launch-HTN試験は、13ヵ国159施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2023年11月~2024年9月に参加者のスクリーニングを行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上のコントロール不良または治療抵抗性の高血圧患者を対象とした。医療従事者非同席下の自動血圧計による診察室収縮期血圧が135~180mmHg、かつ拡張期血圧が65~110mmHgまたは特定の条件下での自動血圧計による診察室拡張期血圧が90~110mmHgで、2~5種の降圧薬を安定用量で使用していることとした。 これらの患者を、lorundrostat 50mg/日を6週間投与後に同100mg/日を6週間投与する群(50/100mg群)、同50mg/日を12週間投与する群、プラセボを12週間投与する群に、1対2対1の割合で無作為に割り付けた。lorundrostat 50/100mg群の6週目までの50mg投与と同50mg群を合わせた808例を統合50mg群とした。 主要アウトカムは、6週目における統合50mg群とプラセボ群の自動血圧計による診察室収縮期血圧とした。収縮期血圧130mmHg未満達成率も優れた 1,083例(平均年齢61.6[SD 10.3]歳、女性508例[46.9%]、肥満[BMI値≧30]685例[63.3%])を登録し、lorundrostat 50/100mg群に270例、同50mg群に541例、プラセボ群に272例を割り付けた。無作為化の時点で、432例(39.9%)が降圧薬を2剤、651例(60.1%)が3剤以上処方されていた。 ベースラインから6週目までの自動血圧計による診察室収縮期血圧の最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-7.9mmHg(95%信頼区間[CI]:-11.5~-4.2)であったのに対し、統合50mg群は-16.9mmHg(-19.0~-14.9)と降圧効果が有意に優れた(最小二乗平均群間差:-9.1mmHg[95%CI:-13.3~-4.9]、p<0.001)。 6週目の時点で、診察室収縮期血圧130mmHg未満を達成した患者の割合は、プラセボ群の24.1%に比べ、統合50mg群は44.1%であり有意に高かった(オッズ比:3.4[95%CI:1.5~7.8]、p=0.003)。 また、降圧薬2剤併用例(最小二乗平均群間差:-8.8mmHg[97.5%CI:-14.8~-2.9]、p<0.001)および同3剤以上併用例(-9.0mmHg[-14.0~-4.1]、p<0.001)とも、ベースラインから6週目までの診察室収縮期血圧の最小二乗平均変化量が、プラセボ群と比較し統合50mg群で有意に良好だった。低ナトリウム血症による被験薬の減量、投与中断、中止が多い TEAEは患者の49.9%(538/1,078例)にみられ、重症度はほとんどが軽度または中等度であった。重篤な有害事象は、50/100mg群で2例(0.7%)、50mg群で12例(2.2%)、プラセボ群で8例(3.0%)に発現した。プラセボ群の1例が死亡した(治療関連ではない)。 被験薬の減量、投与中断、投与中止に至った低ナトリウム血症(50/100mg群10.4%、50mg群6.9%、プラセボ群3.3%)、高カリウム血症(2.6%、2.0%、0.4%)、腎機能低下(推算糸球体濾過量の低下)(3.3%、3.0%、0.7%)の報告は、プラセボ群よりもlorundrostat群で多かった。 50/100mg群では、高カリウム血症による投与中止が1例(0.37%)、低ナトリウム血症による治療中止が1例(0.37%)に発生した。50mg投与群では、高カリウム血症による投与中止が2例(0.37%)、低ナトリウム血症による投与中止が2例(0.37%)、腎機能低下による投与中止が3例(0.56%)にみられた。 著者は、「本試験では、lorundrostatの1日50mgの6週間の投与で収縮期血圧が有意に低下し、この降圧効果は12週にわたって維持された。50mgを100mgに増量しても、50mgで目標血圧を達成しなかった患者における付加的な有益性は得られなかった」「これらのデータは、コントロール不良または治療抵抗性の高血圧の治療選択肢としてのlorundrostatを支持するものである」としている。

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VR活用リハビリは脳卒中患者の腕の機能回復に有用

 脳卒中患者のリハビリテーション(以下、リハビリ)におけるVR(仮想現実、バーチャルリアリティ)の活用は、代替療法に比べて腕の動きの改善にわずかに役立つ可能性があることが、新たな研究により明らかになった。英フリンダース大学看護・健康科学部のKate Laver氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic reviews」に6月20日掲載された。 研究グループは、「VRは、患者が受けるリハビリの量を増やすことでその効果を高める手段として有望である可能性が示された」と話す。またLaver氏は、「治療に費やす時間を増やすと、脳卒中後の転帰が改善することは知られている。VRを活用すれば、臨床医が監督をしなくても治療の量が増えるため、比較的安価で魅力的な方法となり得る」と述べている。 脳卒中に対するVRを活用したリハビリ(以下、VR活用リハビリ)の効果についてのレビューは、2011年と2015〜2017年にも実施されている。今回のレビューでは、新たに発表された119件の研究を追加した、計190件のランダム化比較試験(RCT)のデータ(対象者の総計7,188人)を対象にしたもの。RCTの多くは小規模で、対象者の数が50人以上のRCTはわずか36件(29%)だった。また、RCTで使用されていたVR技術は、既製のゲームシステムなど、基本的な、あるいは低コストのものだった。 その結果、VR活用リハビリは、代替療法と比べて腕の機能と活動性の回復に対する効果がわずかに高いことが示された(標準化平均差0.20、95%信頼区間0.12〜0.28、67件の研究)。歩行速度に対しては、VR活用リハビリはほとんどまたは全く影響しないことが示唆されたが、エビデンスの確実性は極めて低かった(10件の研究)。さらに、代替療法と比較して、VR活用リハビリはバランス感覚の向上にわずかに有益な可能性があり(同0.26、0.12~0.40、24件の研究)、活動制限を軽減する可能性があるが(同0.21、0.11~0.32、33件の研究)、生活の質(QOL)への影響はほとんど、またはまったくない可能性が示唆された(同0.11、−0.02~0.24、16件の研究)。VR活用リハビリの安全性については、ごく少数の患者に痛みや頭痛、めまいなどが生じたが、概ね安全であることが示唆された。 研究グループは、「現在のVR活用リハビリプログラムのほとんどは、着替えや調理といった機能的能力の回復を助けることではなく動作訓練に重点を置いているため、脳卒中経験者の機能回復を支援するという本来の可能性を生かしきれていない」との見方を示す。Laver氏は、「VR技術は、スーパーマーケットでの買い物や道路の横断など、現実の環境をシミュレートできる可能性を秘めている。つまり、現実世界では安全に実践できないタスクを試すことができるということだ」と話す。その上で同氏は、「研究者らは、さらなる研究により、より洗練された機能重視の治療法を開発する余地が十分にある」と付け加えている。

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無症状例への頸動脈狭窄のスクリーニング【日常診療アップグレード】第34回

無症状例への頸動脈狭窄のスクリーニング問題72歳女性。最近、仲のよい友人が頸動脈狭窄により脳梗塞を起こしたと聞き、心配になり来院した。治療中の疾患として高血圧はあるが、リシノプリルで血圧のコントロールは良好である。症状はとくにない。一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)や脳梗塞を含め、他疾患の既往はない。タバコは吸わない。頸動脈の超音波検査をオーダーした。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Addition of Macrolide Antibiotics for Hospital Treatment of Community-Acquired PneumoniaWei J, et al. J Infect Dis. 2025;231:e713-e722.<リアルワールドでの市中肺炎におけるマクロライド追加の有効性>:βラクタム薬にマクロライドを追加しても死亡率を改善せず英国のリアルワールドデータを用いた研究で、市中肺炎におけるβラクタム薬へのマクロライド系抗菌薬の追加は30日死亡率や入院期間に改善をもたらさないことが示されました。ACCESS試験後、マクロライド系抗菌薬追加を支持する声が高まる中、このデータはルーチンでの使用を支持しません。重症例への追加は国際ガイドラインで支持されていますが、すべての入院症例に併用が必要かについては議論が続くでしょう。Dupilumab for chronic obstructive pulmonary disease with type 2 inflammation: a pooled analysis of two phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trialsBhatt SP, et al. Lancet Respir Med. 2025;13:234-243.<BOREAS・NOTUS試験統合解析>:デュピルマブは2型炎症を伴うCOPDの増悪を抑制COPD治療におけるIL-4/13受容体阻害薬デュピルマブの効果についての統合解析です。BOREAS試験とNOTUS試験の結果から、血中好酸球数が300/μL以上のCOPD患者に対し、デュピルマブがプラセボよりも有意に増悪を抑制することが示されました。「2型炎症」が関与するCOPDに対する新たな治療選択肢として期待されています。GOLDガイドライン2025でもデュピルマブが推奨に含まれました。Tarlatamab in Small-Cell Lung Cancer after Platinum-Based ChemotherapyMountzios G, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 2. [Epub ahead of print]<DeLLphi-304試験>:タルラタマブ、進展型小細胞肺がんの2次治療に新標準を確立小細胞肺がん(SCLC)の治療における朗報です。プラチナ製剤抵抗性のSCLC患者に対する2次治療として、DLL3を標的とするBiTE免疫療法薬タルラタマブが標準化学療法より全生存期間(OS)を有意に延長しました(中央値13.6ヵ月vs.8.3ヵ月)。有効性が高く、Grade3以上の有害事象の頻度も低い(54%vs.80%)ため、今後はSCLC2次治療における標準治療となる可能性があります。Phase 3 Trial of the DPP-1 Inhibitor Brensocatib in BronchiectasisChalmers JD, et al. N Engl J Med. 2025;392:1569-1581.<ASPEN試験>:第III相試験でbrensocatibは気管支拡張の増悪を抑制本研究では、気管支拡張症患者において、brensocatib(ブレンソカチブ、10mgまたは25mg)の1日1回投与は、プラセボよりも肺増悪の年間発生率を低下させ、25mg用量のbrensocatibではプラセボよりもFEV1の低下が少なくなりました。これまで治療薬が存在しなかった気管支拡張症における待望の薬剤となります。世界初の気管支拡張症治療薬として、米国、日本で今後承認が期待されています。Nerandomilast in Patients with Idiopathic Pulmonary FibrosisRicheldi L, et al. N Engl J Med. 2025;392:2193-2202.<FIBRONEER-IPF試験>:nerandomilastが第III相試験でFVCの低下を抑制特発性肺線維症(IPF)に対する新規治療薬nerandomilast(ネランドミラスト)の第III相試験の結果です。本薬は、既存の抗線維化薬(ニンテダニブやピルフェニドン)を服用している患者も対象としており、その併用下でも努力肺活量(FVC)の低下を有意に抑制することが示されました。ただし、nerandomilast 9mg群においては、ピルフェニドン群で効果が落ちており、nerandomilastとの薬物相互作用が原因と考えられました。IPFの治療選択肢が増えることは、患者にとって大きな福音と考えられます。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~消化管領域)

Multicentre randomised controlled trial of a self-assembling haemostatic gel to prevent delayed bleeding following endoscopic mucosal resection (PURPLE Trial)Drews J, et al. Gut. 2025;74:1103-1111.<PURPLE試験>:十二指腸・大腸内視鏡的粘膜切除術後の後出血予防における止血ゲル、後出血率の低下効果は認められず欧州で行われた本ランダム化比較試験では、10mm以上の十二指腸腫瘍または20mm以上の大腸腫瘍に対する十二指腸・大腸内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)後において、止血ゲル投与群の後出血率は11.7%(14/120例)、非投与群の後出血率は6.3%(7/112例)であり、止血ゲルの後出血予防効果は示されませんでした。止血ゲルは、内視鏡治療後の人工潰瘍出血に対する新規の止血予防でしたが、その有効性が証明されなかった点は、今後の内視鏡治療において重要な知見です。Perioperative Chemotherapy or Preoperative Chemoradiotherapy in Esophageal CancerHoeppner J, et al. N Engl J Med. 2025;392:323-335.<ESOPEC試験>:切除可能食道進行腺がんへの周術期化学療法(FLOT療法)、術前化学放射線療法(CROSS療法)と比較して3年および5年生存率を有意に改善欧州で行われた本ランダム化比較試験では、切除可能食道進行腺がんに対して、FLOT(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル)周術期化学療法(術前+術後)の3年生存率は57.4%、5年生存率は50.6%であり、CROSS(カルボプラチン+パクリタキセル)術前化学放射線療法の3年生存率50.7%、5年生存率38.7%と比較して優越性が認められました。進行食道腺がんにおける周術期化学療法の生存率向上効果を示した重要な知見です。Stool-Based Testing for Post-Polypectomy Colorectal Cancer Surveillance Safely Reduces Colonoscopies: The MOCCAS StudyCarvalho B, et al. Gastroenterology. 2025;168:121-135.<MOCCAS試験>:大腸ポリープ切除後のサーベイランス、便検査の活用で大腸内視鏡検査の実施回数を削減できる可能性欧州で行われた本試験では、大腸ポリープ切除および結腸直腸がん治療後、家族性大腸がんリスクを有する集団に対して、大腸内視鏡検査施行前に実施したmt-sDNA testと2種類の便潜血検査1回法(FIT:Fecal Immunochemical Test)によるadvanced neoplasiaに対する曲線下面積(AUC)は0.72、0.59~0.61でした。オランダ人口モデルを用いたシミュレーションにより、大腸内視鏡検査後のサーベイランスに便検査を行うことで、大腸内視鏡検査回数を低下させ、コスト効率の向上が期待できることが示唆されました。Effect of an Endoscopy Screening on Upper Gastrointestinal Cancer Mortality: A Community-Based Multicenter Cluster Randomized Clinical TrialXia C, et al. Gastroenterology. 2025;168:725-740.<食道がん・胃がん死亡率への上部消化管内視鏡検診の効果>:高リスク地域で1回の上部消化管内視鏡検診が食道がん・胃がん死亡率を有意に低下本試験は、中国の40~69歳の住民を対象とするクラスターランダム化比較試験です。食道がんおよび胃がんの年齢調整死亡率が全国平均の3倍以上の中国の高リスク地域において、1回の上部消化管内視鏡スクリーニングが食道がんおよび胃がんの死亡リスクを7.5年間で22%低下させることが示されました。本試験は、上部消化管内視鏡検診の有効性を明確に示した初めてのランダム化比較試験です。Vonoprazan as a Long-term Maintenance Treatment for Erosive Esophagitis: VISION, a 5-Year, Randomized, Open-label StudyUemura N, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2025;23:748-757.<VISION研究>:H. pylori未感染の逆流性食道炎患者に対するボノプラザン長期維持療法、5年間の安全性を証明強力な胃酸分泌抑制は、高ガストリン血症を引き起こし、胃がんや胃神経内分泌腫瘍のリスクと懸念されています。本ランダム化比較試験では、Helicobacter pylori(H. pylori)未感染で維持療法が必要な日本の逆流性食道炎患者に対して、ボノプラザン10mg群とランソプラゾール15mg群を比較しました。その結果、5年間の追跡で両群ともに胃がんおよび胃神経内分泌腫瘍の発生は0人でした。本試験は、H. pylori未感染患者におけるボノプラザンの長期安全性を支持する重要なエビデンスを示しました。

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COVID-19の世界的流行がとくに影響を及ぼした疾患・集団は/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によって、COVID-19以外のいくつかの疾患、とくに精神疾患(抑うつ、不安障害)、アフリカ地域の幼児におけるマラリア、高齢者における脳卒中と虚血性心疾患の負担が著しく増加し、これには年齢や性別で顕著な不均衡がみられることが、中国・浙江大学のCan Chen氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年7月2日号に掲載された。GBD 2021のデータを用いた時系列モデル分析 研究グループは、COVID-19の世界的流行が他の疾病負担の原因に及ぼした影響を体系的に調査し、評価することを目的に時系列モデル分析を行った(中国国家自然科学基金委員会の助成を受けた)。 世界疾病負担研究(GBD)2021に基づき、1990~2021年の174の原因による疾病負担のデータを収集した。時系列モデルを開発し、COVID-19が発生しなかったとするシナリオの下で、2020年と2021年における174の原因による疾病負担を、地域別、年齢層別、男女別にシミュレートすることで、他の原因の疾病負担に及ぼしたCOVID-19の影響を定量化した。 2020~21年の発生率、有病率、障害調整生存年(DALY)、死亡の増加の原因について、その比率の実測値と予測値の絶対的率差(10万人当たり)と相対的率差(%)を、95%信頼区間(CI)とともに算出した。率差の95%CIが0を超える場合に、統計学的に有意な増加と判定した。とくにマラリア、抑うつ、不安障害で、DALY負担が増加 世界的に、マラリアの年齢標準化DALY率は、10万人当たりの絶対差で97.9(95%CI:46.9~148.9)、相対的率差で12.2%(5.8~18.5)増加し、抑うつ状態はそれぞれ83.0(79.2~86.8)および12.2%(11.7~12.8)の増加、不安障害は73.8(72.2~75.4)および14.3%(14.0~14.7)の増加であり、いずれも顕著な統計学的有意性を示した。次いで、脳卒中、結核、虚血性心疾患で高い有意性を認めた。 さらに、10万人当たりの年齢標準化発生率および有病率は、抑うつ状態(発生率618.0[95%CI:589.3~646.8]、有病率414.2[394.6~433.9])と不安障害(102.4[101.3~103.6]、628.1[614.5~641.7])で有意に増加し、虚血性心疾患(11.3[5.8~16.7])と脳卒中(3.0[1.1~4.8])は年齢標準化有病率が著明に増加していた。抑うつ、不安障害のDALY負担増加は女性で顕著 加えて、マラリアによる年齢標準化死亡率が有意に増加していた(10万人当たり1.3[95%CI:0.5~2.1])。また、抑うつと不安障害は、世界的なDALY負担の増加の主要な原因であり、男性と比較して女性で顕著であった。 一方、マラリアは、アフリカ地域における最も深刻なDALY負担増加の原因であり、典型的には5歳未満の小児の罹患による負担が増加していた。また、脳卒中と虚血性心疾患は、欧州地域と70歳以上で負担が増加した。 著者は、「これらの知見は、将来の公衆衛生上の緊急事態に対する偏りのない備えに資するために、保健システムの回復力の強化、平等なサーベイランスの増強、複数の疾患と社会状況の重なりに関する情報に基づく戦略(syndemic-informed strategy)の導入が、緊急に求められることを強く主張するものである」としている。

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トーキングセラピーが脳卒中後の抑うつや不安を改善

 脳卒中後の抑うつや不安に苦しむ患者に対し、会話を中心にした心理療法であるトーキングセラピーが有効であることが、新たな研究で示された。英国で国民保健サービス(NHS)が無料で提供している不安と抑うつのためのトーキングセラピー(Talking Therapies for anxiety and depression;TTad)を受けた脳卒中経験者の71.3%が抑うつや不安の症状の大幅な改善を経験し、約半数は脳卒中後の気分障害から完全に回復したことが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神保健リサーチフェローのJae Won Suh氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Mental Health」に6月5日掲載された。 Suh氏は、「脳卒中経験者がトーキングセラピーを始めるタイミングが早ければ早いほど、より良いアウトカムにつながることも分かった。脳卒中後の患者の診療に当たっている総合診療医(GP)などの臨床医は、患者の抑うつや不安の症状のスクリーニングを行い、できるだけ早く心理療法を紹介することが重要だ」とUCLのニュースリリースで述べている。 Suh氏らによると、脳卒中経験者の3人中1人が抑うつ症状を抱え、4人中1人以上が不安を抱えていると推定されている。また、脳卒中経験者は、一般人口と比べて脳卒中後1年以内にうつ病を発症するリスクが約2倍、不安症を発症するリスクが約4倍高いと報告されている。 Suh氏らは今回の研究で、2012~2019年にNHSのTTadを利用した193万9,007人のデータを調査した。その中には7,597人(0.4%)の脳卒中経験者が含まれていた。TTadは、気分障害に悩む住民に向けて、1対1、またはグループで行われる認知行動療法(CBT)やカウンセリングを、対面またはオンラインで無料提供するNHSのサービスである。参加者の抑うつや不安は、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9)やGAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)などの妥当性が確認されている質問票で評価された。 その結果、トーキングセラピーを受けた脳卒中経験者の71.3%(5,403人)で、抑うつや不安の症状の大幅な改善が認められた。また、49.2%(3,723人)は、症状が明確に改善し、抑うつおよび不安のスコアが診断閾値を下回って治療を完了する「信頼できる回復」を達成したことが確認された。さらに、機能障害(仕事や家庭の管理、社会的つながりの維持、余暇活動が困難になる状態)についても中等度の改善が確認された。このほか、脳卒中の発症後1年以上が経過してからトーキングセラピーを始めた場合、発症から6カ月以内に始めた場合と比べて回復の可能性が20%低下することも明らかになった。 論文の共著者の一人であるUCL老年学および臨床心理学教授のJoshua Stott氏は、「脳卒中未経験者と比較して、脳卒中経験者ではアウトカムが不良な傾向にある。このことは、精神保健の臨床医が認知障害や感覚障害、複雑な身体上の健康問題を抱えている人など、慢性疾患を有する患者に対応するためのさらなる訓練を受けることの重要性を示している」とニュースリリースの中で指摘。その上で、「このような訓練への投資は、何千人もの患者の精神的および身体的な健康アウトカムの向上をもたらすだろう」と付け加えている。

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