高齢者HER2陽性乳がんに、安全かつ有効な化学療法を…JCOG1607(HERB TEA)【Oncologyインタビュー】第1回

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下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科

抗HER2療法によってHER2陽性乳がんの生命予後は大きく改善した。しかし、高齢者のHER2陽性乳がんに対するエビデンスは少ない。そのような中、高齢の進行HER2陽性乳がんに対する毒性の軽い、新たな1次治療としてのTDM-1を評価するHERB TEA (JCOG1607)Studyが開始された。HERB TEA Studyの研究事務局である国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 下村 昭彦氏に聞いた。

試験を行った背景はどのようなものですか。

日本の女性の平均寿命は87歳、乳がん患者の年齢も高くなっています。しかし、高齢者乳がんを対象とした臨床試験はとても少数です。HER2陽性乳がんは高齢者では若年と比較して少なく、高齢者を対象とした治療法の開発が行われていませんでした。HERB TEA Studyは、このHER2陽性進行乳がんを対象にしています。

現在のHER2陽性乳がんの標準治療はHPD(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)療法で、高齢者でもこれがスタンダードです。HPDには、CLEOPATRAstudy1)という pivotal試験がありますが、この試験には65歳以上の高齢者が15%しか含まれておらず安全性が十分に評価されたとはいえません。しかし、サブ解析をみると、高齢者ではドセタキセルの投与回数や投与量が少ないことが示されています。さらに、アジア人では毒性が強く出ることが示されています。つまり、HPD療法は、アジア人の高齢者という対象に限ると、毒性面で適用しにくいケースがあるということが示唆されます。

一方、2次治療以降でキードラッグになっているT-DM1には、毒性が軽いという特徴があります。高齢者はさまざまな合併症を有しており、がんだけで亡くなるわけではありません。また、有害事象の強い治療が入ることでQOLが低下することもあります。実臨床では、T-DM1を高齢者に投与した際でも、有害事象を理由に継続できない方は非常に少ないです。T-DM1が1次治療で使えるようになると、患者さんにとっては、より有害事象が軽い治療を選択しやすくなります。しかし、T-DM1とHPD療法を比較した試験はありません。このような背景から、高齢HER2陽性乳がんにおけるT-DM1とHPD療法の直接比較試験JCOG1607(HERB TEA)を開始しました。

試験デザインについて教えてください。

JCOG1607試験はHPD療法に対するT-DM1の非劣性を評価するランダム化比較第III相試験です。サンプルサイズは330例、対象は65~79歳の進行HER2陽性乳がん患者です。現在、年齢の上限を撤廃するプロトコール改訂を予定しています。登録患者は、試験群のT-DM1とコントロール群のHPD療法にランダムに割り付けされ、毒性中止か増悪まで治療します。

なお、オリジナルのHPDのドセタキセルは75mg/m2ですが、この試験では安全を保つため、1コース目は60mg/m2でスタートし、毒性面で問題なければ2コース目から75mg/m2に増量します。実施可能な患者にはしっかりした治療が入り、毒性が強く出る患者には少ない用量の治療が入るデザインです。

この試験が成功した場合、どのようことが実臨床にもたらされますか。

HER2陽性乳がんの薬剤は数多く開発されています。しかし、その中で毒性が軽い薬剤は多くありません。一方、T-DM1はNCCNガイドラインではHPD療法に耐えられない、あるいは禁忌の患者さんに対するオプションとして推奨されています。HPD療法との直接比較で非劣性が証明されれば、高齢者における毒性の軽い標準治療の1つとして長く確立されることになるでしょう。

読者の方にメッセージを

高齢のHER2陽性乳がん患者は非常に少なく、JCOG施設であっても年間2~3例程度です。しかし、全国的にみればかなりの数の患者さんがおられると思います。JCOG参加施設は全国にありますので、HPDかT-DM1か迷う患者さんがおられる場合、ぜひJCOGの参加施設に紹介いただければと思います。臨床試験の元で治療を行っていただくことが、将来の患者さんへの貴重なエビデンスとなります。

HERB TEA (JCOG1607)Study

高齢者HER2陽性進行乳がんに対するT-DM1の臨床的有用性(全生存期間における非劣性)を標準療法であるHPD療法と比較する。

  • 多施設ランダム化比較第III相試験
  • 対象:69歳以上のHER2陽性進行乳がん患者(抗HER2療法未治療)
  • 試験薬:T-DM1 3.6mg/kg 3週ごと増悪まで
  • 対象薬:HPD療法(トラスツズマブ6mg/kg[初回8mg/kg]、ペルツズマブ 420mg[初回840mg]、ドセタキセル60mg/m2[増量規準満たす場合2コース目から75mg/m2
  • 主要評価項目:全生存期間
  • 副次評価項目:無増悪生存期間、乳がん特異的死亡割合、奏効割合、安全性、高齢者機能評価など

※HERB TEA
(JCOG1607)Study:Shimomura A,Tamura K, Mizutani T, et al. A phase III study comparing trastuzumab emtansine with trastuzumab, pertuzumab, and docetaxel in elderly patients with advanced stage HER2-positive breast cancer (JCOG1607 HERB TEA study). Ann Oncol. 2018;29(8). doi: 10.1093/annonc/mdy272.349.

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