現役CEOが医学生に語るキャリア形成、キャリア構築のコツ!

公開日:2012/08/30

7月7日(土)慶應義塾大学信濃町キャンパスにおいて山本雄士氏(株式会社ミナケア 代表取締役)主催による「山本雄士ゼミ」の第4回が開催された。今回は、ノバルティス ファーマ株式会社 代表取締役社長である三谷宏幸氏をゲストに迎え、日本と世界のキャリア形成の違いやリーダーシップ論などを中心に話を聞いた。

山本雄士ゼミは、ハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得した山本氏をファシリテーターに迎え、ケーススタディを題材に医療の問題点や今後の取組みをディスカッションによって学んでいく毎月1回開催のゼミである。

産業構造の大転換

講演では、三谷氏が自身のキャリアを述べた後、国際ビジネスマンとしての視点から現在の日本の産業と世界、そして医療について語った。

はじめに日本の産業構造の変化について、以前なら市場は国内だけ見ていればよかったが、今では全世界を見なくてはならなくなったこと、そして、外国からの文化の流入と融合への取り組みが必要となったことなど、三谷氏の分析的視点から語られた。

講演では、大手家電メーカーを例に説明し、「日本企業は時代のニーズへの対応が不得意であり、視野狭窄で国内市場しか目が向いていなかった(ガラパゴス化)。その結果、今日のような事態を招いた」と語った。

日本的思考法、グローバルの思考法

「日本的思考とグローバルの思考」の違いについて説明し、「日本では文化の同質性から『あ・うんの呼吸』で仮説から一気に結論までもっていくが、グローバル思考では文化が異なるため仮説から論証を積み上げて結論までもっていく。論理的な思考というものがきちんとなされている。また、組織構成とキャリアパスの違いから日本企業はなあなあの仲良しクラブになりがちだが、グローバル企業では個々人の責任の所在を明らかにし、リスクを選び、リスクに見合った利益を手にする考え方が主流である」と日本と外資系企業の違いを説明した。

そのうえで、外資系企業の強さについて、その要素は3つあり、(1)規模、(2) 開発力、(3) 人材と企業文化であるとした。具体的に、製薬メーカーであれば規模が大きいほど研究・開発力が大きくなる。そして、開発に関して「規模で劣る日本の製薬メーカーが、研究・開発の分野の絞り込みをできていないところが心配だ」とコメントするとともに、(3) 人材と企業文化についてはリーダーシップ論とキャリア形成法を交えて詳しく説明を行った。

求められるリーダーとは?

三谷氏が以前所属していたGE(ゼネラル・エレクトリック)を例に「リーダーに求められる資質」として「『外部思考、想像力、専門性、明瞭な思考、包容力』の5つの資質が、大人数を納得させ、動かす資質である」と説明。そして、リーダーに求められる能力として「専門知識、ビジネス知識、企業価値にもとづく行動規範、リーダーシップ」が必要だと説明した。次に、混同されがちな「リーダー」と「管理職」の違いを説明し、「リーダーはアクセルであり、ビジョンを重視し、柔軟性をもっている。管理職はブレーキであり、ロジックを重視し、一貫性をもっている」とその差異を説明した。

最後に主体的なキャリア構築の勧めとして、「継続的に挑戦し、学んでいくマインドが大切である」と述べ、次の言葉を聴講者に贈り、講演を終えた。

“Control your destiny or someone else will”(自分の運命は自分で選べ)
                                                                -Jack Welch(GE 元CEO)

引き続き、質疑応答となり、多くの参加者が質問を寄せた。

――人材教育は日本企業と外国企業のどちらがよいか?

決して日本が劣っているわけではない。しかし、外資の戦い方やさまざまなプレゼンテーションの仕方は勉強になるし、ロジカルな思考も強くなれる。

――社長になるための資格は?

社長になる方程式はないので自分で作るしかない。ただロジカルな思考ができる面で、理系は有利だと思う。また、現場は人間性、リーダー力を養う場になるので現場に出て修行を積むことも大事。現場での人の動かし方や苦労を知り、失敗することで成功への意欲が出てくる。

――キャリアを変えるために行うべきことは何か?

キャリアの変更については、「自分の強み、将来の予想、過去の成功例」を見出すことだと思う。同じグループだけを見ているのではダメ。自分自身でいえば、自己実現の充足が今のポジションをもたらしている。学ぶことを止めないこと、私は、自分の学びの確認に海外を見ている。

――医療業界で若手が元気になるには?

日本の研究環境も変わりつつあるが、まだ世界レベルではないように思う。たとえば米国のボストン近郊のケンブリッジは大学、企業の研究所、ベンチャーが集積していて、研究者がお互いに刺激し合っている。日本では、価値を転換して臨床研究の評価を上げるなども必要だと思う。

――医療の世界へ来た動機と今後の抱負

以前いたGEで医療に関わり、興味があった。機会があれば挑戦したいと思い医療の世界に来た。これからも、さらなる自己実現と周りの人が驚くようなスピードで経営を行っていきたいと思う。

『医療イノベーション 5か年戦略』とディスカッション

後半のディスカッションでは、資料に『医療イノベーション 5か年戦略(案)』(医療イノベーション会議・発行)と『平成24年度診療報酬改定の概要』(厚生労働省・発行)を使い、前者の立案に参加した山本氏が、内容の要旨と今後の医療施策の動向について説明した。

資料から「人口動態変動で今後は高齢者が増加し、死亡率が増加する(少子多死時代の到来)。この社会環境の中で医療をどう位置づけるかが問題。今までの日本は、低コストで効率のよい医療を提供していたが、今では国家財政的に厳しい時代に来ている」と将来への論点を提示した。

次に『医療イノベーション5か年戦略』の内容を詳説し、「政府として今までの議論を基に、今後志向することは何か」を説明した。とくに今回「『広い視点から医療技術評価のあり方を検討する』、『予防から終末期に至る包括的なケアを考える』という2つの事柄が入ったことは画期的なこと」と述べた。

この後、質疑応答となり、資料の内容やゼミの活動についてさまざまな質問が寄せられた。たとえば「今回の『医療イノベーション』の特色は何か?」という質問に「いままで基本理念がなかったが、健康長寿、産業振興(医薬品の開発)、世界への発信という3つを明記した。また、PDCAサイクルによるチェック機能を入れたところが大きな特色」と回答した。

また、「日本の医療に明るさが見えない。さまざまなゼミや研究会で出された提案が、なかなか政策に反映されず、政府の審議会だけで決まってしまうことに、とても歯がゆさを感じている」という感想に対して、「このゼミは、いろいろな世代、立場の人が集まって議論する場であり、なかには中央省庁の方も出席されている。声が届かないことはないと思う。また、ゼミの場は、いわば道場であり、ゼミでの議論を自分のものにして、実現できるようになっていってもらいたい。今後はゼミでの議論も踏まえて、政策提言できる動きもしていきたい」と述べ、ゼミを終了した。

なお今後のスケジュールは次の通り(いずれも16:00~19:00の開催予定)。
  • 第5回 9月8日(土):ワイス(製薬会社のケーススタディ)
  • 第6回 10月13日(土):後期ガイダンス&クリーブランド・クリニック(アメリカの病院のケーススタディ)
  • 第7回 11月10日(土):『医療戦略の本質』の読書会&西ドイツ頭痛センター(ドイツの病院のケーススタディ)
  • 第8回 12月8日(土):ピッツニーボウズ(アメリカの医療保険者に関するケーススタディ)
  • 第9回 1月12日(土)(仮):外部講師による講演会
  • 第10回 2月9日(土)(仮):セダケア(地域のヘルスケアシステムのケーススタディ)

●ゼミ公式HP http://yamamoto.umin.jp/

●ゼミ公式Facebook http://www.facebook.com/#!/groups/226064334073359/

●講演者経歴

三谷 宏幸 ( みたに ひろゆき ) 氏オフィス三谷 代表 ベネッセホールディングス 社外取締役

[略歴]

1977年 4月 川崎製鉄(株)入社
1988年 5月 (株)ボストンコンサルティンググループ入社
1992年 5月 日本ゼネラルエレクトリック(株)企画開発部長
1995年 7月 ゼネラルエレクトリックインターナショナル(株) 電力事業部カスタマーサービス本部長
1998年 10月 GE航空機エンジン北アジア部門 社長兼ゼネラルマネージャー
2002年 5月 GE横河メディカルシステム(株)代表取締役社長
2005年 7月 ゼネラルエレクトリック本社カンパニーオフィサー
2007年 5月 ノバルティスファーマ(株)代表取締役社長兼CEO
2008年 3月 ノバルティスホールディングジャパン(株)代表取締役社長
2009年 6月 ベネッセホールディングス社外取締役
2013年 4月 ノバルティスホールディングジャパン(株)取締役最高顧問兼ノバルティスファーマ(株)取締役最高顧問
2013年 10月 オフィス三谷 代表
著書に『世界で通用するリーダーシップ 』(東洋経済新報社)。

山本 雄士 ( やまもと ゆうじ ) 氏株式会社ミナケア 代表取締役慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター 客員准教授株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員

[略歴]

1993年 北海道立札幌南高校卒業

1999年 東京大学医学部医学科卒業 循環器内科臨床医として都立広尾病院、東京大学医学部付属病院等に勤務

2003年 東京大学医学系研究科入学

2005年 ハーバード大学ビジネススクール入学

現在、株式会社 ミナケア 代表取締役

株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー

内閣官房医療イノベーション推進室企画調査官

慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター 客員准教授

公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員

訳書に『医療戦略の本質』(マイケル・E・ポーターら、日経BP社)、『奇跡は起こせる』(ジョン・クラウリー、宝島社)、共著書に『病院経営のしくみ』、『病院経営のしくみ2』(ともに日本医療企画)など。

[山本雄士氏著作]