CLEAR!ジャーナル四天王|page:52

1型糖尿病の臓器障害に、RA系阻害薬は有効か?(解説:石上友章氏)-776

糖尿病は、特異的な微小血管障害をもたらすことで、腎不全、網膜症、神経障害の原因になる。糖尿病治療のゴールは、こうした合併症を抑制し、健康長寿を全うすることにある。RA系阻害薬に、降圧を超えた臓器保護効果があるとされた結果、本邦のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の第1選択にRA系阻害薬が推奨されている。しかし、臨床研究の結果は、必ずしもRA系阻害薬の降圧を超えた腎保護効果を支持しているわけではない。ONTARGET試験・TRANSCEND試験1,2)を皮切りに、最近ではBMJ誌に掲載された報告3)(腎保護効果は、見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~http://www.carenet.com/news/clear/journal/43805)も、観察研究ではあるが、否定的な結果に終わっている。

出血こそが問題なのだ:減量のメリット(解説:後藤信哉氏)-775

欧米では動脈硬化の初期症状として、冠動脈疾患が出現することが多い。アジア人では脳血管疾患が多いが、脳血管疾患は梗塞と出血の境界線が明確でないので抗血栓薬の開発は困難である。出血合併症の多い抗凝固薬が、血栓イベントの既往のない非弁膜症性心房細動に使用されているのは筆者には奇異であるが、ランダム化比較試験のエンドポイントとされた脳卒中と臨床家が恐れる心原性脳塞栓を混同させたマーケット戦略、巨大企業による徹底した情報管理の勝利であった。しかし、第III相試験にて示されたDOACによる年率3%の重篤な出血合併症は実臨床においても事実であろうから、特許切れまで企業が情報管理を継続できるか否かには疑問も残る。

人工弁選択のLabyrinth(解説:今中 和人氏)-774

人工弁選択は、要するに抗凝固合併症の可能性と劣化・再手術の可能性の選択である。古いテーマゆえ膨大な論文があるが、生体弁の改良をはじめ多くのconfounding factorで見解は一定せず、2014年にAHA/ACCが「大動脈弁置換(AVR)65歳、僧帽弁置換(MVR)70歳」とのガイドラインを発行した後も未決着の感が強い。本論文はカリフォルニア州の142施設が18年間に初回の単弁置換をした症例の追跡調査で、個々のデータは、とくに日本胸部外科学会の全国集計と比較すると興味深い。

早期(軽症)COPDにチオトロピウムは有用だろうか?(解説:小林 英夫 氏)-773

吸入抗コリン薬は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の自覚症状や呼吸機能の改善をもたらしうる基本薬剤と位置づけられている。しかし、自覚症状の乏しい早期(軽症)COPDに対し吸入抗コリン薬がどのような意義を有するのかについては、臨床的見解が一致しているとは言えない。本論文はその疑問を解決するために中国で実施された無作為化比較試験である。

クローン病に対するタイトな管理の有用性-多施設共同RCT(解説:上村直実氏)-772

クローン病(CD)は原因不明で根治的治療が確立していない慢性炎症性腸疾患であり、わが国の患者数は現在約4万人で、医療費補助の対象である特定疾患に指定されている。本疾患に対する薬物療法の目的は、活動期CDに対する寛解導入および寛解状態の維持であり、一般的には、罹患部位や症状および炎症の程度によって、5-ASA製剤、ステロイド、代謝拮抗薬、抗TNF拮抗薬と段階的にステップアップする薬物療法が行われている。

治療時間枠拡大への夜明け(解説:内山真一郎氏)-770

これまでに行われた血管内血栓除去術の無作為化試験の結果によれば、脳卒中発症後6時間以内に施行されたときの有効性は示されていたが、6時間以後の効果については情報が限られていた。しかしながら、画像で梗塞巣容積が小さい割に脳卒中症状が重症な患者では、再灌流により転帰が改善する可能性が示唆されていた。

中国における高血圧管理の現状から学ぶべきこと(解説:有馬久富氏)-771

中国における高血圧管理の現状について、北京協和医科大学のグループよりLancetに報告された。本研究では、中国全土の31省において35~75歳の一般住民170万人の横断調査が実施された。その結果、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、あるいは降圧薬服用で定義した高血圧の有病率は約45%であった。そのうち、高血圧であることを知らなかった者が約半数、治療していなかった者が約3分の2いた。治療を受けている高血圧者においても、ほとんどが1種類の降圧薬しか服用しておらず、140/90mmHg未満の降圧目標を達成できている者は4分の1以下であった。

まだBMSを使う理由があるか?(解説:上田恭敬氏)-769

本試験では、安定狭心症も急性冠症候群も含めた75歳以上のPCI施行患者を対象として、まずDAPTの期間を1〜6ヵ月の間(short DAPT)で臨床的必要性に応じて決めた後に、PCIに使用するステントをDES(Synergy、Boston Scientific)またはBMS(Omega or Rebel、Boston Scientific)に無作為に割り付けた。患者に対しては、「SENIOR stent」の表記で統一することによって、いずれに割り付けられたかわからないようにした(single-blind)。

派手さはないが重要な研究(解説:野間 重孝 氏)-767

急性心筋梗塞患者の急性期の治療において、酸素の使用が初めて報告されたのは古く1900年までさかのぼり、以来今日までごく当たり前のように行われてきた。血液酸素飽和度を上昇させることにより、より効率的に虚血心筋に酸素を供給することができるだろうという発想から生まれた治療法で、この理屈には大変説得力があったことから、疑われることなく長く行われ続けた。80年代になってパルスオキシメータによるモニターが容易に行えるようになっても、この考え方の根本が見直されることはなかった(パルスオキシメータの発明は1974年で、わが国で行われた)。

昔の日本人は偉かった!(解説:後藤信哉氏)-766

第2次世界大戦後の荒廃の中でも、研究意欲を持ち続けた日本人研究者は多かった。岡本 彰祐・歌子ご夫妻は特筆されるべき存在である。線溶系に着目して彼らが開発した薬剤にトラネキサム酸がある。開発の経緯は『世界を動かす日本の薬』(岡本 彰祐 編著. 築地書館. 2001年)に詳しい。線溶を担うプラスミンの酵素機能を阻害する画期的薬剤である。筆者の世代の臨床医は、止血にアドナ・トランサミンを使うことが多かった。論理的には止血効果を期待できる薬剤であるためだ。日本は巨大企業が利益を独占するEvidence Based Medicineの論理に乗り遅れた。せっかくの薬剤もエビデンスがないとして広く使用されない現状にある。

本邦初のIFNフリー・リバビリンフリー・パンジェノタイプのDAA療法の登場(解説:中村 郁夫 氏)-765

本論文は、重度の腎機能低下HCV症例に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル併用療法の治療効果および安全性に関する多施設・オープンラベルで行われた研究結果の報告である。ステージ4および5の腎機能障害例(遺伝子型 1、2、3、4、5、6型)に対し12週間の治療を行った結果、SVR率98%と高い効果を示した。

すべての1型糖尿病妊婦にはReal-Time CGMを実施すべきか?(解説:住谷哲氏)-763

妊娠糖尿病および糖尿病合併妊娠では厳格な血糖管理が要求される。とくに1型糖尿病合併妊娠では血糖コントロールに難渋することが多い。現在は各食前、食後、眠前、1日計7回の自己血糖測定(SMBG)と、頻回インスリン投与(Multiple daily injection:MDI)またはインスリンポンプによる強化インスリン療法が主流である。これまで持続血糖モニタリング(CGM)の有用性は示唆されてきたが、糖尿病合併妊婦におけるCGMのSMBGに対する優越性を検討した最新のメタ解析ではCGMの優越性は証明されていない。

卵円孔開存を閉じるまでの長い道のり(解説:香坂俊氏)-762

筆者が研修を行っていた時分(10年以上前)は、まさに心エコーで「卵円孔開存(PFO)を見つけよう!」という機運が盛り上がっていたところで、下図のように細かい空気泡を静脈に打ち込んでは、右房から左房に漏れないかどうか目を凝らして見ていた(細かい空気泡はよく超音波を反射するので、静脈系の血液が流れている様子がエコーでよく見えるようになる)。

腸チフスにおける蛋白結合型ワクチンの有効性-細菌摂取による感染モデルでの検討(解説:板倉泰朋氏)-761

腸チフスは南アジアやサハラ以南アフリカなど、上下水道の設備が不十分な途上国を中心に流行を認めている疾患である。世界では小児を中心に年間2,000万人以上が罹患し、死亡者は20万人に及んでいる。日本においてここ数年は年間40~60例ほどの届け出がなされ、輸入例が多くを占めている。

米国メディケア受給者でのCEA・CASの実施率と転帰の推移/JAMA(中川原譲二氏)-759

頸動脈内膜剥離術(CEA)と頸動脈ステント留置術(CAS)は、頸動脈狭窄症に対する血行再建術の主導的アプローチであるが、その実施頻度や転帰の動向に関する最新のデータは限られている。そこで、米国・イェール大学のJudith H. Lichtman氏らの研究グループが、1999~2014年のメディケア受給者を対象として、CEAとCASの米国における実施率と転帰の動向を調査した(Lichtman JH, et al. JAMA. 2017;318:1035-1046.)。

SGLT2阻害薬と1型糖尿病治療(解説:住谷哲氏)-760

1型糖尿病の病因はインスリン分泌不全であり、治療は生理的インスリン補充(physiological insulin replacement)である。これを達成するためにこれまでインスリンアナログの開発、頻回インスリン投与法(multiple daily injection:MDI)、インスリンポンプ、SAP(sensor-augmented pump)が臨床応用されてきた。さらにclosed-loop systemによる自動インスリン投与の臨床応用も目前に近づいてきている。しかし依然として1型糖尿病治療におけるunmet needsとして、低血糖、体重増加、血糖変動(glycemic instability)の問題を避けることはできない。さらに1型糖尿病治療においては厳格な血糖管理による細小血管障害の予防に注目しがちであるが、2型糖尿病と同様に動脈硬化性心血管病(ASCVD)の予防が予後を改善するために重要であることを忘れてはならない。