CLEAR!ジャーナル四天王|page:51

大気汚染による高齢者への深刻な健康被害に警鐘を鳴らす!(解説:島田俊夫氏)-798

大気汚染が大きな社会問題としてこれまでも論議されてきたことは周知の事実である。大気中の汚染微粒子状物質への暴露による冠動脈疾患への影響に関してもすでに多くの報告がみられる。わが国も大気汚染による健康被害の先進国としてこの問題に取り組んできた経緯がある。今日、急激に工業発展を遂げている地球の工場と化している中国の大気汚染は地球環境の崩壊につながりかねない深刻な問題である。Lancet誌のオンライン版2017年12月5日号に掲載された英国国立心臓・肺研究所のRudy Sinharay氏らにより報告された無作為化クロスオーバー試験は大気汚染による健康被害に警鐘を鳴らす、高齢者に的を絞った時宜を反映した興味深い論文であり私見をコメントする。

カナキヌマブ投与によるCRP低下と心血管イベントの関連:CANTOS無作為化比較試験の2次解析(解説:今井 靖 氏)-796

カナキヌマブは、インターロイキン-1β(IL1β)に対するモノクローナル抗体であるが、CANTOS試験はこのカナキヌマブ(3用量)およびプラセボを割り付け3ヵ月に1回皮下注射を行う無作為化比較対照試験で、心筋梗塞の既往がある炎症性アテローム性動脈硬化症患者に、標準治療(脂質低下治療を含む)に加えて追加投与がなされた。その結果として、主要心血管イベント(MACE[Major Adverse Cardiovascular Event]:心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる複合エンドポイント)の発現リスクがプラセボ群に比べ有意に15%低下することが示され(150mg、300mg投与群で有効性が証明された)、昨年秋に大いに話題となった。またそのような心血管イベント抑制のみならず、事前に規定された盲検化での悪性腫瘍に関する安全性評価において、カナキヌマブ投与患者ではプラセボ群に比較し肺がんによる死亡率を77%、発症率を67%低下させたと報告されており、炎症低下抑制薬が動脈硬化性疾患、がん治療に導入される可能性・将来性を示した画期的な研究といえる。

日本の心疾患スクリーニングは適切か? それとも過剰か?(解説:香坂俊氏)-795

この研究が我が国の医療政策にもたらす影響は大きい(と少なくとも自分には思われる)。カナダのオンタリオ州のデータベースを用い、若年者(12~45歳)の突然死がどの程度スポーツに直接由来するかが推計された。医学的に興味深い点も多く、競技中の突然死がサッカーや陸上競技に多く、その原因のほとんどが肥大型閉塞性心筋症であったことなどは首肯できる。

経口避妊薬の長期使用により、乳がん発症リスクがごくわずかに上昇(解説:矢形寛氏)-794

経口避妊薬と乳がんとの関連について研究したものはこれまでに複数存在するが、本研究はこれまでの中で一般市民を対象とした、最も規模が大きく質の高い前向き研究である。デンマークの登録データを用い、経口避妊薬の種類や使用期間、最近の使用の有無を詳細に検討している。

出血と血栓:原病が重ければバランスも難しい(解説:後藤信哉氏)-793

自分の身の周りにもがん死が多いので、がんは特筆に重要な疾患である。日本人は幸いにして静脈血栓塞栓症が少ない。静脈血栓塞栓症を契機にがんが見つかることも多い。本論文の対象であるCancer Associated Thrombosis (CAT)は日本ではとくに重要である。がん細胞が血栓性の組織因子を産生する場合、がん組織が血管を圧迫して血流うっ滞が起こった場合など、血栓にはがんと直結する理由がある。CATでは、血栓の原因となるがんの因子の除去が第一に重要である。

letermovirは造血幹細胞移植での有力なサイトメガロウイルス感染症発症予防薬となるか(解説:吉田 敦 氏)-792

造血幹細胞移植患者において、サイトメガロウイルス(CMV)は高率に活性化し、肺炎やGVHDを引き起こす。このためガンシクロビルやバルガンシクロビルが予防薬として用いられてきたが、効果が限定的であるうえ、骨髄抑制・回復抑制が問題であった。しかしながらこの2剤に頼らざるをえない状況は10年以上変わっていない。

PTSD心臓外科医のこだわりと肩すかし(解説:今中和人氏)-791

医療に必要不可欠な輸血療法の歴史は、肝炎やGVHDに代表される輸血後合併症との戦いの歴史でもある。多くの先人・関係者の研究とご尽力により、昨今、上記合併症は激減し、日本赤十字社の公式発表によれば、たとえば肝炎は2012年B型6例・C型ゼロ、2013年B型7例・C型1例、2014年B型2例・C型ゼロである。何よりも私たちは、このことに感謝しなければならない(もちろん、表面化していない症例はあるであろうが)。ただ、まれながら経験あるいは見聞した劇症肝炎やGVHDのすさまじさで、医療者、とくに輸血を頻用してきた心臓外科医はPTSDになっている。上記2つ以外の合併症も、遅発性溶血は1/2,500、急性肺障害1/5,000~10,000、アナフィラキシー8/100,000(いずれも対1単位)と学んでもなお恐れ、無輸血にこだわっている。

1型糖尿病発症予防は見果てぬ夢か?(解説:住谷哲氏)-790

1922年に初めてインスリンが臨床応用されるまで、1型糖尿病は不治の病であった。その後、1型糖尿病のnatural historyが明らかとなり、現在では1型糖尿病発症に至る3つのstageが提唱されている1)。1型糖尿病発症の高リスクグループの同定が可能となったことで、1型糖尿病発症予防の試験がこれまでにいくつか実施されてきた。大規模試験としては、インスリン投与による1型糖尿病発症予防を検討したDiabetes Prevention Trial-Type 1 Diabetes(DPT-1)2,3)と、ニコチンアミドの有効性を検討したEuropean Nicotinamide Diabetes Intervention Trial(ENDIT)4)があるが、残念ながら両試験において結果はnegativeであった。

REVEALはHDLコレステロールの効果を明らかにできたのか?(解説:平山 篤志 氏)-786

高LDLコレステロール血症と同様に低コレステロール血症が冠動脈疾患のリスク因子であることは広く知られていた。LDLコレステロールを低下させることによって、冠動脈イベントが低下することは、スタチンの試験だけでなく、コレステロール吸収阻害薬やPCSK9阻害薬を用いた試験で示されている。では、HDLコレステロールを上昇させることによってイベントを低下させることが可能ではないか?

再発性ディフィシル感染症に対する糞便移植-経口カプセル投与は有効か-(解説:小金丸博氏)-788

クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬関連下痢症の原因となる主要な細菌である。クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、治療によりいったん改善しても約20%で再発し、再入院や医療費増加の原因となることが知られている。また1度再発した患者のうち、40~65%がさらなる再発を経験する。再発を繰り返すCDIの治療アルゴリズムはまだ確立していないが、近年、糞便移植の有効性が数多く報告され注目を集めている。

シェイクスピア答えてくれ!「IIb or not IIb, that is a question!」(中川義久 氏)-784

シェイクスピアの名文句と言えば「To be or not to be, that is a question !」です。この解釈をめぐっては議論があるようですが、一般的には「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ!」と訳されています。循環器領域でシェイクスピアの言葉通りの危機に直面しているのが、心原性ショックを伴う多枝病変AMI患者です。この最重症カテゴリーの患者706名に対して、責任病変のみにPCIを施行する責任病変単独PCI群(段階的に非責任病変の血行再建術も許容)と、責任病変と同時に非責任病変に対してもPCIを施行する多枝PCI群にランダマイズしたCULPLIT-SHOCK試験の結果が、米国のデンバーで開催されたTCT2017で報告され、同時にNEJM誌に掲載されました。

EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん治療にオシメルチニブをどう用いるのか?(解説:小林 英夫 氏)-781

切除不能な非小細胞肺がんの治療は近年大きく進歩し、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異を示す肺がんの治療にEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有効性が確立された。本邦では、4薬のEGFR-TKIが肺がんに使用可能である。その中でオシメルチニブ(商品名:タグリッソ)は第3世代に位置付けられ、以前のEGFR-TKIに耐性であるEGFR T790変異を呈す肺がんにも効果があることを特徴とする。日本での保険適用はこのEGFR T790変異を確認した症例だけであり、2017年12月時点では1次(初回)治療の適応は取得していない。

破裂性腹部大動脈瘤の血管内治療は死亡率・コストでも有利/「IMPROVE試験」3年評価(解説:中澤達氏)-782

英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究グループが破裂性腹部大動脈瘤患者の治療戦略について、血管内治療と開腹手術の臨床的効果および費用対効果の無作為化試験「IMPROVE試験」の3年評価を発表した。結果は、血管内治療群が開腹手術群よりも生存期間を延長し、質調整生存年(QALY)の獲得が大きく、再手術率は同程度であり、コストは低く、費用対効果に優れることが示された。

経口semaglutideがもたらした血糖降下薬のパラダイムシフト(解説:住谷哲氏)-780

GLP-1は数十個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであり、インスリンをはじめとする他のペプチドホルモンと同様に経口投与では消化管で分解されてほとんど吸収されない。これまで経口インスリンの開発が進められてきたが残念ながら現時点では実用化に至っていない。本論文は経口GLP-1受容体作動薬である経口semaglutideが注射薬とほぼ同等の血糖降下作用および体重減少作用を有することを明らかにした点で、糖尿病治療におけるbreakthroughと考えてよい。

高感度トロポニンIが陰性だったら、胸痛患者を安心して帰宅させることができるのか?(解説:佐田 政隆 氏)-779

1人で当直をしていて、胸痛を主訴に来院した患者に対して、帰宅させて大丈夫かどうかと悩んだことがある医師も多いと思う。何も異常ありませんので、明日、昼間に再来院して精密検査をしましょうと言って帰したところ、急性冠症候群で、家で心肺停止になることなどは絶対に避けなければならない。通常、心電図、胸部レントゲン、心エコーなどが施行されると思うが、非常に些細な変化で、非循環器専門医では、判断に迷うことがたびたびあるのではないだろうか。また、心電図、通常の心エコーではまったく異常を来さない、左回旋枝の急性心筋梗塞や不安定狭心症があるのも事実である。