CLEAR!ジャーナル四天王|page:34

外来診療中のサージカルマスク着用とN95マスク着用の呼吸器感染症予防効果の比較(解説:吉田敦氏)-1139

インフルエンザウイルスをはじめとする呼吸器ウイルス感染の予防に、外来診療で日常的に着用されるサージカルマスクが、N95マスクとどの程度予防効果が異なるのか、今回ランダム化比較試験が行われた。小児を含む米国7医療機関において、外来診療に当たる医療従事者を小集団(クラスター)に分割、小集団ごとにサージカルマスク、N95マスクのいずれかにランダムに割り付けし、H1N1 pandemicを含む4シーズン以上を観察期間とした。医療従事者には毎日呼吸器症状を含む体調の変化について日記をつけさせ、発症した際には遺伝子検査を行い、さらに無症状であっても遺伝子検査と血清抗体検査を行うことで、不顕性感染の有無まで把握を試みたものである。

コマーシャルペーパーといわれても致し方がないのではないか(解説:野間重孝氏)-1136

チカグレロルとプラスグレルは、世界の薬剤市場でクロピドグレルの後継を巡って、いわばライバル薬品として扱われているといってよい。両剤ともに作用の発現が早く、また投与中止後、薬効の消失が速やかであることが期待できるという点で共通している。しかしプラスグレルはいわゆるチエノピリジン系に属し、そのものは活性を有しないのに対し、チカグレロルはそのものが活性を持つという点が大きく異なる。ただし、プラスグレルはクロピドグレルと異なり、複数のCYPにより代謝されるため、チカグレロルに劣らない速度で活性を発揮することが可能になっている。

潰瘍性大腸炎に対するベドリズマブとアダリムマブの臨床的寛解効果は?(解説:上村直実氏)-1135

潰瘍性大腸炎(UC)は国の特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在、国内に16万人以上の患者が存在している。UCの治療に関しては、最近、腸内フローラの調整を目的とした抗生物質や糞便移植の有用性が報告されつつあるが、通常の診療現場で多く使用されているのは薬物療法である。寛解導入および寛解維持を目的とした基本的な薬剤である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、初発や再燃時など活動期に寛解導入を目的として用いるステロイド製剤、ステロイド抵抗性および依存性など難治性UCに使用する免疫調節薬(アザチオプリン、シクロスポリンAなど)と生物学的製剤が使用されているのが現状である。

ピロリ除菌と栄養サプリメントの胃がん抑制効果:世界最長の経過観察(解説:上村直実氏)-1137

H. pyloriは幼児期に感染し半永久的に胃粘膜に棲息する細菌であるが、胃粘膜における持続的な感染により慢性活動性胃炎を惹起し、胃がん発症の最大要因であることが明らかとなっている。さらに除菌により胃粘膜の炎症が改善するとともに、胃がんの抑制効果を示すことも世界的にコンセンサスが得られている。しかしながら、実際の臨床現場では除菌後に胃がんが発見されることも多く、除菌による詳細な胃がん抑制効果を検証する試みが継続している。今回、除菌治療のみでなくビタミン補給やニンニク摂取により、胃がん発症および胃がん死の抑制効果を示す介入試験の結果がBMJ誌に発表された。

ウステキヌマブ(ステラーラ)は潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法にも有効(解説:上村直実氏)-1134

潰瘍性大腸炎(UC)は国の特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、最近の全国調査によると16万人以上の患者が存在している。本疾患に対する薬物治療については、寛解導入および寛解維持を目的として5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されている。なかでも抗TNF-α抗体製剤と異なる作用機序を有する分子標的薬が次々と開発され、さまざまな検証試験が行われている。

低LDLや低収縮期血圧と関連するgenetic variantsは生涯にわたる冠動脈疾患の低リスクと関連(解説:石川讓治氏)-1133

高LDL血症および高血圧は冠動脈疾患の確立された危険因子である。本研究では、英国のバイオバンクに登録された43万8,952人の対象者のデータを用いて、低LDLコレステロール血症と関連するgenetic variantsが多い対象者と低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが多い対象者を評価し、これらのgenetic variantsが、独立して、相加的に冠動脈疾患発症リスク低値と関連していたことを報告していた。これらのgenetic variantsの数が増えるにつれて連続的に冠動脈疾患発症リスクは低くなっていた。同様の関連は虚血性脳梗塞においても認められていた。

積極的降圧治療は通常の降圧治療よりも深部白質病変の増加を抑制するが、総脳容積の減少は大きい(解説:石川讓治氏)-1132

SPRINT研究において、積極的降圧治療(目標収縮期血圧120mmHg)が通常の降圧治療(目標収縮期血圧140mmHg)と比較して、心血管イベントを減少させることが報告され、この積極的降圧治療の優位性は75歳以上の後期高齢者でも認められた。Montreal Cognitive Assessment(MoCA)で評価した認知機能に関しては、1次エンドポイントであるProbable dementiaの発症に関しては、有意な抑制が認められなかったが、mild cognitive impairment (MCI)への進行は有意に抑制された。これらの結果より、積極的降圧治療が通常の降圧治療よりも軽度の認知機能低下であれば抑制する可能性が示唆された。

診察室血圧および24時間自由行動下血圧モニタリングにおける夜間血圧と予後-なぜ夜間血圧の予後予測能がいいのか?-(解説:石川讓治氏)-1131

自由行動下血圧モニタリング(ABPM)は、15~30分間隔で連続して血圧測定を行い、診察室以外での自由行動下および睡眠中の血圧測定が可能である。疫学的研究において、24時間平均自由行動下血圧、とくに夜間血圧が、診察室血圧よりも優れた高血圧性臓器障害や予後予測指標であることが報告されてきた。International Database on Ambulatory Blood Pressure in Relation to Cardiovascular Outcomes(IDACO)研究は、ABPMを用いた世界中の多数の疫学研究データを統合し、これらの研究結果をグローバル化させることを行ってきた。本研究の結果、24時間平均自由行動下血圧、とくに夜間血圧が、診察室血圧よりも優れた予後予測指標であったことが再確認された。

アルドステロン拮抗薬の死角を制する!(解説:石上友章氏)-1130

腎ネフロンは、高度に分化した組織であり、ヒトの水・電解質の恒常性の維持に重要な働きをしている。ナトリウムの出納についての恒常性の維持機構が発達しており、尿細管の各セグメントごとに、特徴的なナトリウムトランスポーターが発現している。ナトリウムイオンは、原尿中にろ過されたのち、各セグメントのナトリウムトランスポーターにより再吸収される。NHE1(Sodiumu-Hydrogen-Exchanger)は、近位尿細管のapical membrane(頂端側)に発現し、Naイオンと、Hイオンの交換に関与している。ヘンレのループ(loop of Henle)には、NKCC:Na+-Cl--K+共輸送体が発現しており、ループ利尿薬であるフロセミドが特異的な阻害薬である。遠位尿細管の近位部(proximal DCT)には、サイアザイド感受性NCCT:Na+-Cl-共輸送体が、そして遠位部では、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が、ナトリウムイオンの再吸収を行っている。

露骨に不利な条件でもワルファリンが負けなかった訳は?(解説:後藤信哉氏)-1129

NEJMのEditorであったマーシャ・エンジェル博士は、製薬企業による情報操作の実態を著書『ビッグ・ファーマ 製薬企業の真実』に描いた。個別医師の経験よりもランダム化比較試験の結果を重視するEBMの世界は、ランダム化比較試験が「作為なく」施行されていることが前提になっている。エンジェル博士の著書にも紹介されているが、純粋に科学的な仮説検証研究とは言えないランダム化比較試験が、製薬会社主導にて多数施行されている実態がある。本論文も製薬企業が主導したことを明記したランダム化比較試験であるが、試験プロトコールはfairに設計されたとは言えない。

モノ作りに優れて戦略に劣る日本?(解説:後藤信哉氏)-1127

新薬開発企業は認可承認のために第III相試験を行う。第III相試験の結果が「エビデンス」として広く広報される。認可承認後に施行された第IV相試験の多くも製薬会社が製品の宣伝を目的として施行している。本研究は直接製薬企業によるfundを受けていない。実臨床にて使用可能なプラスグレルとチカグレロルの有効性と安全性を直接比較したオープンラベルのランダム化比較試験として臨床におけるインパクトの大きな研究である。

至適INRは?(解説:後藤信哉氏)-1128

手術時に抗凝固療法を継続するのは勇気がいる。手術による出血を最小限としつつ、静脈血栓を予防するためにはどうすればよいか?一般に血栓イベントリスクの低い日本人の感覚と欧米人の感覚の大きく異なる領域である。欧米のデータは心房細動の脳卒中予防であっても、本論文の静脈血栓症の予防でもINRの標的を下げることの危険性を示している。私の日常診療ではINR 1.8は、標的としては高いほうである。30年も経験を蓄積しても、日本人を診ているわれわれが血栓イベントを経験することは少ない。しかし、欧米人では標的を2.6とした場合と比較して、静脈血栓症・死亡率が標的INR 1.6では著しく高くなることを本論文は示している。本論文に示された所見はおそらく事実であろう。しかし、本論文の記載が日本人に当てはまるか否かは不明である。地域差の大きな血栓性疾患では、欧米の情報を日本に直接取り込むことは難しい。日本の実態も継続的に英文論文として発表するようなシステムの構築が重要である。

sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。

SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表され、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。

またも敗北した急性心不全治療薬―血管拡張薬に未来はないのか(解説:絹川弘一郎氏)-1124

急性心不全に対する血管拡張薬は、クリニカルシナリオ1に対しては利尿薬も不要とまで一時いわれたくらい固い支持があるクラス1の治療である。シナリオ2でもほどほど血圧があればafterloadを下げることは古くから収縮不全に悪かろうはずがないと考えられてきて、そもそもV-HeFT IやV-HeFT IIはvasodilatorがHFrEFの長期予後を改善するのではないかという(今では顧みられない)コンセプトで始まり、レニンアンジオテンシン系にたどり着いた歴史的経緯がある。

悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。

1ヵ月のDAPTとその後のP2Y12阻害薬によるSAPTが標準治療となるか?(解説:上田恭敬氏)-1122

合併症なく成功したPCI症例3,045症例を対象として、アスピリンとクロピドグレルによるDAPTを12ヵ月行う群(12ヵ月DAPT群:1,522症例)とDAPTを1ヵ月施行後にクロピドグレルによるSAPTに変更する群(1ヵ月DAPT群:1,523症例)に無作為に割り付けて、1年間の心臓死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、出血イベントの複合エンドポイントを主要エンドポイントとする、多施設オープンラベル無作為化比較試験であるSTOPDAPT-2試験の結果が報告された。

重症域の妊娠高血圧症候群に対する経口降圧薬の効果比較(解説:三戸麻子氏)-1121

重症域の妊娠高血圧症候群に対する降圧加療として、ニフェジピン、ラベタロール、メチルドパという日常診療で頻用されている経口薬の降圧効果・副作用を直接比較している点が画期的である。また、緊急の降圧が必要な症例に対しては経静脈的な降圧加療が行われることも多いが、それがかなわない状況も考慮してすべて経口薬で行っている部分も斬新と思われる。Primary outcomeはニフェジピン群がメチルドパ群より有意に達成していたものの、ニフェジピンとラベタロールは同等であった。しかし、本研究では初回使用量がニフェジピン10mg、ラベタロール200mgのうえ、必要に応じて各々30mg、600mgまで増量しているということから、ラベタロールは本邦での使用よりも高用量で使用されていることに留意する必要がある。

甲状腺機能低下症患者に対する補充療法(解説:吉岡成人氏)-1120

甲状腺機能低下症は、日常の診療の中できわめて高頻度に遭遇する内分泌疾患である。日本においては臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症の頻度は0.50~0.69%、TSHのみが上昇する潜在性甲状腺機能低下症の頻度は3.3~6.1%であり、女性に多い疾患である(志村浩巳. 日本臨床. 2012;70:1851-1856.)。TSHは加齢に伴い上昇することが知られており、潜在性甲状腺機能低下症の頻度は加齢とともに増加する。甲状腺機能低下症の原因としては、慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症が大部分を占める。しかし、最近ではアミオダロン、炭酸リチウムなどの薬剤に加えて、免疫チェックポイント阻害薬によって発症することも、まれならず経験される。

多剤抵抗性骨髄腫に対する新規治療薬selinexor(解説:藤原弘氏)-1119

骨髄腫に対する新規治療薬の開発が進み、今では、プロテアソーム阻害剤(PIs)、免疫調節薬(iMIDs)、そして抗体薬をそれぞれ複数手にしている。そのうえで、より深い寛解を目指して自家移植を中心に、これら薬剤を組み合わせて、あるいは使い分けて、患者QOLを保ちながらOSを延ばすことに苦心している。その“How to”自体が1つの重要なclinical questionとなっている。さらには、シクロホスファミドをはじめ、CHOP療法のようなリンパ腫に準じた抗がん剤治療なども日常診療では選択する場合もあり、骨髄腫治療は本当に多岐にわたり、10年単位で骨髄腫患者さんとお付き合いできるようになった。一方でこの現実は、これら複数の薬剤に抵抗性となった骨髄腫に対する治療法の開発を必要とする状況を生んだ。