重症精神疾患患者に対する個別就労支援(IPS)のヨーロッパにおける有用性を確認

提供元:ケアネット

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公開日:2007/10/11

 

個別就労支援(individual placement and support; IPS)プログラムは、アメリカで開発された重症精神疾患患者を対象とした援助付きの雇用のモデルである。従来の“train-and-place(訓練を受けてから就労する)”ではなく“place-and-train(就労後に訓練を受ける)”との考え方に基づき、患者の希望に応じて迅速に仕事を探し、精神健康サービス部門の就労専門職員が患者および雇用者を継続的にサポートする。
 イギリス・オックスフォード市Warneford病院のTom Burns氏らは、ヨーロッパにおけるIPSの有用性を検証し、個々の国の労働市場および福祉制度におけるIPSの効果を評価する目的で無作為化試験を行った。9月29日付Lancet誌掲載の報告。

ヨーロッパの6施設が参加、競合的職業への就労率を評価




対象は、18歳以上、2年以上の病歴を有する地域居住の重症精神疾患患者で、競合的職業への就労歴がなく、それを望む者とした。

2003年4月~2004年5月にヨーロッパの6施設(イギリス、ドイツ、イタリア、スイス、オランダ、ブルガリア)に312例が登録され、IPS群に156例が、対照群に156例が無作為に割り付けられた。フォローアップ期間は18ヵ月であった。

主要評価項目は競合的職業への就労率とし、地域福祉制度や労働市場におけるIPSの効果を検討するためにプロスペクティブなメタ解析を行った。

IPS群は就労率が高く、ドロップアウト率および入院率が低い




就労率(少なくとも1日以上就労できた患者の割合)は、対照群が28%であったのに対しIPS群は55%と約2倍に達していた。ドロップアウト率は対照群45%に対しIPS群13%、入院率は対照群31%に対しIPS群20%と、いずれもIPS群で良好であった。

また、地域の失業率の差がIPSの効果の不均一性と有意な相関を示したことから、社会経済状況の影響も明らかとなった。

Burns氏は、「少なくともアメリカと同等の有用性がヨーロッパにおいて確認された」と結論しており、「アメリカで蓄積されてきたエビデンスに今回のヨーロッパの知見を加えれば、IPSが精神健康医療において有効なアプローチであることが確証されるだろう。IPSは出資に値し、さらなる調査が必要である」としている。

(菅野 守:医学ライター)