RAS阻害薬、TAVR予後を改善するか/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2018/12/17

 

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)を受けた患者では、退院時のRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の処方により、死亡および心不全による再入院のリスクが低減することが、米国・デューク大学医療センターのTaku Inohara氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月4日号に掲載された。TAVR施行後のRAS阻害薬処方の有効性に関するデータはないが、RAS阻害薬は左室の逆リモデリングをもたらし、心機能を改善する可能性が示唆されている。

RAS阻害薬処方の有無別のアウトカムを後ろ向きに検討
 本研究は、RAS阻害薬の処方とTAVR施行後のアウトカムの関連を検討する後ろ向きコホート研究である(ACC財団の全国心血管データレジストリーなどの助成による)。

 米国胸部外科学会(STS)/米国心臓病学会(ACC)の経カテーテル大動脈弁治療レジストリー(STS/ACC TVT Registry)のデータを用い、2014年7月~2016年1月の期間にTAVRを施行された65歳以上のメディケア受給者を解析に含めた。最終フォローアップ日は2017年3月31日だった。

 退院時のRAS阻害薬の処方の有無による治療バイアスの可能性を調整するために、人口統計学データ、心電図所見、入院中の合併症の差を考慮し、1対1の割合で傾向スコアマッチングを行った。

 主要アウトカムは、退院後1年以内の全死因死亡および心不全による再入院とした。副次アウトカムは、1年時のカンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)で評価した健康状態であった。KCCQ(0~100点)は、点数が高いほど症状による負担が少なく、QOLが良好であることを示し、点数の増分が5点以上で小さな改善、10点以上で中等度改善、20点以上で大きな改善と判定した。

KCCQスコアは有意に改善したが、臨床的な意義はない
 米国の417施設でTAVRを施行された患者2万1,312例のうち、退院時に8,468例(39.7%)がRAS阻害薬の処方を受けていた。傾向スコアマッチングにより、1万5,896例(平均年齢82.4歳[SD 6.8]、女性48.1%、平均左室駆出率[LVEF]51.9%[SD 11.5])を解析に含めた(両群7,948例ずつ)。

 RAS阻害薬処方群は、非処方群に比べ1年時の死亡率が有意に低く(12.5% vs.14.9%、絶対リスク差[ARD]:-2.4%[95%信頼区間[CI]:-3.5~-1.4]、ハザード比[HR]:0.82[95%CI:0.76~0.90])、心不全による再入院率も有意に良好であった(12.0% vs.13.8%、ARD:-1.8%[-2.8~-0.7]、HR:0.86[0.79~0.95])。

 LVEFで層別化すると、LVEF保持例(LVEF>40%)では、RAS阻害薬処方群が非処方群に比し、1年死亡率が有意に低かった(11.1% vs.13.9%、ARD:-2.81%[95%CI:-3.95~-1.67]、HR:0.78[95%CI:0.71~0.86])のに対し、LVEF低下例(LVEF≦40%)では有意差を認めなかった(18.8% vs.19.5%、ARD:-0.68%[-3.52~2.20]、HR:0.95[0.81~1.12])(交互作用:p=0.04)。

 KCCQスコア解析には4,837例(30.4%)が含まれ、1年時の改善効果はRAS阻害薬処方群(2,416例)が非処方群(2,421例)よりも有意に優れた(KCCQスコアの補正後の変化の中央値:33.3点[IQR:14.2~51.0]vs.31.3点[IQR:13.5~51.1]、改善の差:2.10点、95%CI:0.10~4.06、p<0.001)が、効果量は臨床的に意義のある最小変化である5点に及ばなかった。

 著者は、「選択バイアスの可能性があるため、これらの知見に関しては、無作為化試験でさらなる検討を要する」としている。

(医学ライター 菅野 守)