アスピリンは、糖尿病患者にとって有益か有害か/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2018/09/18

 

 アスピリンは、糖尿病患者において重篤な血管イベントを予防するが、大出血イベントの原因にもなることが、英国・オックスフォード大学のLouise Bowman氏らが行ったASCEND試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年8月26日号に掲載された。糖尿病により、心血管イベントのリスクが増加する。アスピリンは、閉塞性血管イベントのリスクを抑制するが、糖尿病患者の初回心血管イベントの予防におけるその有益性と有害性のバランスは不明とされる。

心血管疾患がない糖尿病患者で有効性と安全性を評価
 本研究は、糖尿病患者におけるアスピリンの有効性と安全性を評価する進行中の無作為化試験であり、ファクトリアルデザインを用いて、同時にω-3脂肪酸の検討も行われた(英国心臓財団などの助成による)。

 対象は、年齢40歳以上、型を問わず糖尿病と診断され、心血管疾患がみられず、抗血小板療法の有益性が実質的に不確実な患者であった。被験者は、アスピリン100mgを1日1回服用する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。

 有効性の主要アウトカムは、初回の重篤な血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中[頭蓋内出血を除く]、一過性脳虚血発作、血管死[頭蓋内出血を除く])とした。安全性の主要アウトカムは、初回の大出血イベント(頭蓋内出血、失明のおそれのある眼内出血、消化管出血、その他の重篤な出血)であった。副次アウトカムには、消化器がんなどが含まれた。

重篤な血管イベント12%低下、大出血イベント29%増加
 2005年6月~2011年7月の期間に1万5,480例が登録され、アスピリン群に7,740例、プラセボ群にも7,740例が割り付けられた。ベースラインの平均年齢は、アスピリン群が63.2±9.2歳、プラセボ群は63.3±9.2歳、男性がそれぞれ62.6%、62.5%であった。両群とも、2型糖尿病が94.1%を占め、罹患期間中央値も同じ7年(IQR:3~13)だった。

 全体の平均フォローアップ期間は7.4年、平均アドヒアランス率は70%であった。

 重篤な血管イベントの発生率は、アスピリン群が8.5%(658/7,740例)と、プラセボ群の9.6%(743/7,740例)に比べ有意に低かった(率比[RR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.97、p=0.01)。探索的解析として、フォローアップ期間別の評価を行ったところ、このアスピリンの効果は5年までで、それ以降は、実質的にイベントは抑制されなかった。

 これに対し、大出血イベントの発生率は、アスピリン群が4.1%(314/7,740例)と、プラセボ群の3.2%(245/7,740例)に比し有意に高く、アスピリンの有害な作用が示された(RR:1.29、95%CI:1.09~1.52、p=0.003)。出血への影響には、経時的な減衰は示唆されなかった。また、頭蓋内出血(1.22、0.82~1.81)と失明のおそれのある眼内出血(0.89、0.62~1.27)には両群間に有意な差はなく、消化管出血(1.36、1.05~1.75)とその他の重篤な出血(1.70、1.18~2.44)がアスピリン群で有意に高頻度であった。

 ベースライン時の重篤な血管イベントの推定5年リスクが高い患者ほど、重篤な血管イベント/血行再建術、および大出血の頻度が高かった。

 消化器がん(アスピリン群:2.0% vs.プラセボ群:2.0%)および全がん(11.6 vs.11.5%)の発生率には、両群間に有意な差はみられなかった。

 著者は、「アスピリンの絶対的な有益性は、そのほとんどが出血の有害性によって相殺された」とまとめ、「がんについては、今後、長期のフォローアップを行う予定である」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事