禁煙後の体重増加、死亡リスクへの影響は?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2018/08/29

 

 禁煙後の体重増加が、禁煙によるベネフィットを減弱させるかは不明とされる。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のYang Hu氏らは、3つのコホート研究のデータを解析し、体重増加は短期的な2型糖尿病のリスクを増大させるものの、禁煙による心血管イベントや死亡の抑制効果には影響しないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2018年8月16日号に掲載された。禁煙により主要な慢性疾患のリスクが軽減し、余命の延長がもたらされるが、顕著な体重増加を来す場合があり、食欲の増進やエネルギー消費の低下に起因する可能性が指摘されている。体重増加は、禁煙の意欲を失わせ、心血管代謝疾患や早期死亡のリスクが増加することで、禁煙の健康ベネフィットが減弱する可能性が示唆されている。

禁煙後6年の体重増加の、糖尿病、死亡リスクへの影響を評価
 研究グループは、禁煙後の体重の変化に伴う疾患や死亡のリスクの推移を検討した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。

 米国の男女を含む3つのコホート研究(Nurses' Health Study[NHS]、NHS II、Health Professionals Follow-up Study[HPFS])から、禁煙の報告のある参加者を同定し、喫煙状況と体重の変化を前向きに調査した。

 被験者は、喫煙、禁煙(禁煙期間が2~6年)、長期禁煙(禁煙期間が6年超)、一過性禁煙、生涯非喫煙に分けられた。今回は、禁煙後6年間の体重の変化に焦点を当て、禁煙群を体重増加なし(不変および減少)、0.1~5.0kgの増加、5.1~10.0kgの増加、>10.0kgの増加に分類した。禁煙後の体重の変化の程度別に、2型糖尿病、心血管死、全死因死亡のリスクを評価した。

体重増加がない禁煙者は、長期に死亡リスクが低下
 ベースラインの喫煙群および4つの禁煙群の平均年齢は52.2~56.1歳、平均BMIは23.4~26.4であった。平均フォローアップ期間は19.6年で、この間に1万2,384例が2型糖尿病を発症し、2万3,867例が死亡(心血管死5,492例を含む)した。

 全体の2型糖尿病のリスクは、禁煙群が喫煙群に比べ高かった(ハザード比[HR]:1.22、95%信頼区間[CI]:1.12~1.32)。2型糖尿病のリスクは禁煙後5~7年時にピークに達し、その後は徐々に低下した。この一時的なリスクの増加は、体重増加の程度と比例し、体重増加のない禁煙者ではリスクは増加しなかった(交互作用:p<0.001)。禁煙後6年間で2型糖尿病リスクは68.4%増加した。

 これに対し、禁煙群では、禁煙後の体重の変化の程度にかかわらず、一時的な死亡リスクの増加は認めなかった。喫煙群と比較した心血管死のHRは、体重増加のない禁煙者が0.69(95%CI:0.54~0.88)、体重増加が0.1~5.0kgの禁煙者が0.47(0.35~0.63)、5.1~10.0kgの禁煙者が0.25(0.15~0.42)、>10.0kgの禁煙者が0.33(0.18~0.60)であり、長期禁煙者は0.50(0.46~0.55)だった。

 喫煙群と比較した全死因死亡のHRには、心血管死とほぼ同様の関連が認められ、それぞれ0.81(95%CI:0.73~0.90)、0.52(0.46~0.59)、0.46(0.38~0.55)、0.50(0.40~0.63)、0.57(0.54~0.59)であった。

 心血管死のリスクは、禁煙後持続的に低下し、10~15年後に最低値に達した後、緩徐に増加したが、喫煙者のレベルに到達することはなかった。このような関連のパターンが、体重が増加したすべての禁煙者にみられたが、体重が増加しなかった禁煙者は10~15年以降もリスクが低下し続け、その後、上昇傾向をみせずにプラトーに達した。

 全死因死亡のリスクは、禁煙後5~7年まで単調に減少し、その後プラトーに達した。このパターンは、体重が増加したすべての禁煙者にみられたが、体重が増加しなかった禁煙者は、禁煙以降、直線的にリスクが低下した。

 著者は、「以前の複数の研究で、禁煙後の2型糖尿病リスクの短期的な上昇を示唆する結果が示されており、今回の研究結果はこれらの知見と一致する」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 島田 俊夫( しまだ としお ) 氏

地方独立行政法人静岡県立病院機構 静岡県立総合病院 リサーチサポートセンター センター長

J-CLEAR評議員