院外心停止へのエピネフリン、神経学的予後は改善せず?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2018/07/30

 

 成人の院外心停止患者へのエピネフリン(アドレナリン)投与は、プラセボに比し30日生存率を改善するが、重度の神経障害を有する生存例が多いため、良好な神経学的アウトカムを有する生存例の割合には差がないことが、英国・ウォーリック大学のGavin D. Perkins氏らが行った「PARAMEDIC2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年7月18日号に掲載された。エピネフリンは、α-アドレナリン受容体を介して細動脈を収縮させることで、心停止に対し有益な作用を及ぼす可能性があり、この細動脈の収縮は、心肺蘇生法(CPR)施行中の大動脈の拡張期血圧を上昇させるため、冠動脈の血流が増加し、自己心拍再開の可能性が高まるという。一方、α-アドレナリン刺激は、血小板を活性化して血栓症を促進し、大脳皮質の微小血管の血流を損ない、CPR中および自己心拍再開後の脳虚血の重症度を高めるとされる。

5施設、約8,000例のプラセボ対照無作為化比較試験
 PARAMEDIC2試験は、エピネフリンの安全性と有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験であり、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)の求めに応じて行われた(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。

 英国内NHSの5つの救急搬送部門が参加した。対象は、訓練を受けた救急医療隊員による2次救急処置が施行され、院外心停止が持続する成人患者であった。妊婦、16歳未満、アナフィラキシーや喘息による心停止、外傷性の心停止、救急医療隊員の到着前にエピネフリンの投与を受けた患者は除外された。

 初回蘇生法(CPRと除細動)が不成功であった患者が、通常治療に加えて、エピネフリン(1mg)または生食(プラセボ)を投与する群にランダムに割り付けられた。試験薬は、3~5分ごとに静脈内または骨内投与された。

 主要アウトカムは30日生存率であった。副次アウトカムは、退院時に良好な神経学的アウトカム(修正Rankinスケール[0~6点:0点は無症状、6点は死亡]のスコアが3点以下)を示す生存例の割合などであった。

 2014年12月~2017年10月の期間に8,014例が登録され、エピネフリン群に4,015例、プラセボ群には3,999例が割り付けられた。

30日生存率:3.2 vs.2.4%、重度神経障害の退院時生存率:31.0 vs.17.8%
 ベースラインの平均年齢(SD)は、エピネフリン群が69.7(16.6)歳、プラセボ群は69.8(16.4)歳で、男性がそれぞれ65.0%、64.6%を占めた。

 緊急通報から救急車の現場到着までの期間中央値(IQR)は、エピネフリン群が6.7分(4.3~9.7)、プラセボ群は6.6分(4.2~9.6)であり、緊急通報から試験薬投与までの期間中央値(IQR)は、それぞれ21.5分(16.0~27.3)、21.1分(16.1~27.4)であった。また、入院前蘇生法施行中の自己心拍再開の割合は、エピネフリン群がプラセボ群に比べて高く(36.3 vs.11.7%)、病院搬送患者の割合も高かった(50.8 vs.30.7%)。

 30日時の生存率は、エピネフリン群が3.2%(130例)であり、プラセボ群の2.4%(94例)に比べ有意に優れた(未補正オッズ比[OR]:1.39、95%信頼区間[CI]:1.06~1.82、p=0.02)。

 入院までの生存率は、エピネフリン群が23.8%(947/3,973例)と、プラセボ群の8.0%(319/3,982例)に比し有意に高かった(未補正OR:3.59、95%CI:3.14~4.12)。

 退院時に、良好な神経学的アウトカムを有する生存例の割合は、エピネフリン群が2.2%(87/4,007例)、プラセボ群は1.9%(74/3,994例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(未補正OR:1.18、95%CI:0.86~1.61)。また、退院時に、重度神経障害(修正Rankinスケール:4、5点)を有する生存例の割合は、エピネフリン群が31.0%(39/126例)と、プラセボ群の17.8%(16/90例)よりも多かった。

 著者は、「神経学的アウトカムが改善されなかった原因は不明である」としたうえで、「この結果の説明として、(1)エピネフリンは、肉眼的な脳血流を増加させるが、逆説的に脳の微小血管の血流を障害し、自己心拍再開後の脳障害を増悪させる可能性があること、(2)脳は、心臓など他の臓器に比べ虚血や灌流障害への感受性が高く、心拍再開後の回復能が機能的に低いとされることが挙げられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 香坂 俊( こうさか しゅん ) 氏

慶應義塾大学 循環器内科 専任講師

J-CLEAR評議員