経済的インセンティブで、医療の質は改善しない/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2018/01/23

 

 OECD加盟国では医療の質改善に経済的インセンティブを用いており、低・中所得国でその傾向が増大している。ただ、先頭を走っているのは米国と英国であり、他国は両国の施策をモニタリングし導入を決定している状況にある。米国ではここ10年で、病院医療の質改善にインセンティブを与えることは一般的になっているが、先行研究で「P4P(Pay for Performance)プログラムは、臨床的プロセスへの影響は限定的で、患者アウトカム改善や医療費削減に影響を及ぼさない」ことが示されている。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のIgna Bonfrer氏らは、これまで行われていなかった、米国における時期の異なる2つのプログラム(HQID[2003~09年]、HVBP[2011年~])参加病院の、インセンティブの影響について比較する検討を行った。その結果、HQIDから参加し10年以上インセンティブを受けている病院が、HVBPからの参加病院と比べて、医療の質が優れているというエビデンスは認められなかったという。BMJ誌2018年1月3日号掲載の報告。

P4P初期採択病院と後期採択病院の臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較
  HQID(Premier Hospital Quality Incentive Demonstration)は、2003~09年にメディケア・メディケイドサービスセンターによって実行された任意参加のプログラムで、それをモデルに開発され、Affordable Care Act(ACA、通称オバマケア)でナショナルプログラムとして採択されたのがHVBP(Hospital Value- Based Purchasing)である。

 研究グループは、HQIDに任意参加した病院(初期採択病院)と、HVBPの施策導入によってインセンティブを受けるようになった病院(後期採択病院、規模・地域などで適合)について、臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較する観察研究を行った。30日死亡率については、3つの疾患(急性心筋梗塞・うっ血性心不全・肺炎:標的疾患)とそれ以外の疾患(非標的疾患)について評価した。

 対象は、1,189病院(初期採択病院214、適合後期採択病院975)で、2003~13年のHospital Compare(米国政府下で消費者のために開設されている病院比較サイト)のデータを用いた。解析に含まれた患者は65歳以上の137万1,364例。全例がメディケア被保険者であった。

インセンティブがあってもなくても10年経ったら同レベルに
 ベースライン(2004年)時の臨床的プロセススコア(平均値)は、初期採択病院91.5点、後期採択病院89.9点で、初期採択病院のほうがわずかだが高かった(スコア差:-1.59、95%信頼区間[CI]:-1.98~-1.20)。しかし、初期採択病院のHQID期間中の改善は小さく(年間変化:2.44点 vs.2.65点、スコア差:-0.21、95%信頼区間[CI]:-0.31~-0.11)、それでもHVBP導入前は後期採択病院よりもわずかだが高いスコアを維持していたが(スコア差:-0.55、95%CI:-1.01~-0.10)、ベースラインから10年後(2014年)のHVBP導入後では、両群とも同レベルの上限値(98.5点 vs.98.2点)に達しており、差は認められなくなっていた。

 30日死亡率についても、ベースライン時の標的疾患の同値は12.2% vs.12.5%で、HQID期間中は両群ともに同様に低下し、HVBP期間中の同値は9.4% vs.9.7%で差はみられなかった(HVBP導入前 vs.導入後の傾向の%差:0.05%、95%CI:-0.03~0.13、p=0.25)。非標的疾患の30日死亡率についても同様に差は認められなかった(同%差:-0.02%、95%CI:-0.07~0.03)、p=0.48)。

 結果を踏まえて著者は、「P4Pプログラムと、米国の不明瞭な医療政策アジェンダに世界中の関心が高まっている中で、政策立案者は意味のある効果を得ようと時間を費やすのならば、プログラムはインセンティブを増大するが、医業を変える手段としては不十分なこと、患者にとって最も重要な測定値(死亡率、患者の経験、機能状態)を絞り込むことを、考えるべきである」と提言している。

(ケアネット)