大動脈弁置換術、午後のほうが成績よい?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2017/11/09

 

 大動脈弁置換術を受ける患者について調べたところ、手術を午後に行った患者のほうが午前に行った患者に比べ、心血管死や心筋梗塞などの主要有害心血管イベントの発生リスクが低かった。この現象には時計遺伝子発現の日内変動が関与しており、核内受容体Rev-Erbαアンタゴニストが、心保護の薬理学的戦略となりえることが示唆されたという。フランス・リール大学のDavid Montaigne氏らが、観察試験と無作為化比較試験、および生体外心筋モデルなどを用いた前臨床試験の結果、明らかにした。on-pump心臓手術が、周術期心筋虚血-再灌流傷害を引き起こすことはあらかじめわかっているが、臨床的アウトカムとの関連性についてはほとんどわかっていない。研究グループは、大動脈弁置換術を受ける患者の周術期心筋障害の発生について日内変動があるのか、またその分子機構を明らかにする検討を行った。Lancet誌オンライン版2017年10月26日号掲載の報告。

観察試験と無作為化試験、心筋モデル試験で評価
 研究グループは2009年1月1日~2015年12月31日にかけて、重度大動脈弁狭窄があり左室駆出率(LVEF)が50%超に保持され、リール大学に紹介されて大動脈弁置換術を受けた連続患者を対象に、前向き観察試験を行った。被験者は、傾向スコアでマッチングを行った596例(午前に手術298例、午後に手術298例)だった。

 また、2016年1月1日~2017年2月28日にかけて、大動脈弁狭窄で大動脈弁置換術を実施予定の患者88例を対象に無作為化試験を行った。手術を午前に行う群(44例)と午後に行う群(44例)に無作為に割り付け、周術期心筋障害の検査と心筋サンプル採取を行い評価した。

 さらに、生体外(ex vivo)低酸素・再酸素化モデルでヒトおよびマウス心筋を評価し、無作為化試験被験者の心筋サンプルについてトランスクリプトーム解析を行い、関連するシグナル経路の特定を試みた。

 試験の主要目的は、大動脈弁置換術を受けた時間(午前または午後)による、虚血-再灌流の心筋耐性が異なるのか、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、急性心不全による入院)の発生により評価することだった。

周術期心筋トロポニンT放出幾何平均値、午後群は午前群の8割
 前向き観察試験において、術後500日の追跡期間中、主要有害心血管イベントの発生率は、午後群が午前群に比べ有意に低かった(ハザード比:0.50、95%信頼区間[CI]:0.32~0.77、p=0.0021)。

 無作為化試験では、周術期心筋トロポニンT放出幾何平均値は、午後群が午前群に比べ有意に低かった(午後群の午前群に対する推定幾何平均値比:0.79、95%CI:0.68~0.93、p=0.0045)。

 ヒト心筋ex vivo解析では、低酸素・再酸素化耐性が午前と午後で変動すること、および核内受容体Rev-Erbαの時計遺伝子発現の転写が午前中に最大になることが示された。

 また、低酸素・再酸素化により心筋障害を起こしたランゲンドルフ・マウスモデルの検討で、Rev-Erbα遺伝子欠失またはアンタゴニストによる治療により、虚血・再灌流修復因子CDKN1a/p21の発現が増加し、睡眠・覚醒移行期の損傷が減ることが示された。

(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)

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コメンテーター : 今中 和人( いまなか かずひと ) 氏

医療法人朗源会 大隈病院

J-CLEAR推薦コメンテーター