限局性前立腺がん長期転帰、手術 vs. 経過観察/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2017/07/25

 

 限局性前立腺がん患者に対する手術は経過観察と比べて、全死因死亡や前立腺がん死亡率を有意に低下しない。米国・ミネアポリス退役軍人(VA)ヘルスケアシステムのTimothy J. Wilt氏らが、患者731例を約20年間追跡した無作為化試験の結果、明らかにした。手術群は経過観察群と比べて有害事象の発現頻度が高かったが、病勢進行や追加治療のリスクが有意に低く、それらの大半が限局性または無症候性の生化学的進行であった。先行研究で、限局性前立腺がんで手術を受けた患者と経過観察のみを行った患者の死亡率について有意差がないことが明らかになっていたが、非致死的健康アウトカムや長期死亡に関しては不明なままであった。NEJM誌2017年7月13日号掲載の報告。

限局性前立腺がんの男性患者731例を対象に
 研究グループは1994年11月~2002年1月に、限局性前立腺がんの男性患者731例(平均年齢67歳、PSA中央値7.8ng/mL)を、根治的前立腺全摘除術(364例)または経過観察群(367例)に無作為に割り付け、フォローアップを行った。2010年1月にフォローアップを完了後、プロトコルを修正し、主要アウトカムの全死因死亡と主な副次アウトカムの前立腺がん死亡のフォローアップは、2014年8月まで延長された。

 本論では同フォローアップの評価と、合わせて2010年1月までのオリジナルフォローアップの、病勢進行、追加治療、被験者自己申告のアウトカムの評価が報告されている。

約20年間の全死亡は、手術群61.3%、経過観察群66.8%で有意差なし
 追跡期間19.5年(中央値12.7)に報告された死亡は、手術群223/364例(61.3%)、経過観察群245/367例(66.8%)で、全死因死亡について手術群の有意な低下は示されなかった(絶対リスク差:5.5ポイント[95%信頼区間[CI]:-1.5~12.4]、ハザード比[HR]:0.84[95%CI:0.70~1.01、p=0.06])。

 前立腺がんまたは治療によるものと考えられる死亡は、手術群27例(7.4%)、経過観察群42例(11.4%)で、手術群の有意な低下は示されなかった(絶対リスク差:4.0ポイント[95%CI:-0.2~8.3]、HR:0.63[95%CI:0.39~1.02]、p=0.06)。

 被験者をD'Amicoリスク分類で層別化して分析した結果、いずれも手術群が経過観察群よりも全死因死亡の低下と関連していたが、絶対リスク差が中間リスク群は14.5ポイント(95%CI:2.8~25.6)であったのに対し、低リスク群は0.7ポイント(-10.5~11.8)、高リスク群は2.3ポイント(-11.5~16.1)で、ベースラインのリスクの程度による手術の全死因死亡への影響の違いが示唆された。また同様の所見が、ベースラインのPSA値別の分析でも示唆された(10ng/mL以下群の絶対リスク差:3.8ポイント、10ng/mL超群の絶対リスク差:8.5ポイント)。

 病勢進行に対する治療の頻度は、手術群が経過観察群よりも低かった(絶対差:26.2ポイント、95%CI:19.0~32.9)。治療は主に無症候性、限局性もしくは生化学的(前立腺特異抗原)進行に対するものであった。

 尿失禁、勃起障害、性機能障害の頻度は、10年間は手術群が経過観察群よりも高かった。前立腺がんまたは治療に関連した日常生活動作の制限の頻度は、2年間は手術群が経過観察群よりも高かった。

(ケアネット)

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コメンテーター : 榎本 裕( えのもと ゆたか ) 氏

三井記念病院 泌尿器科 部長 がん診療センター 副部長

J-CLEAR推薦コメンテーター