イマチニブが重症喘息の気道過敏性を抑制?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2017/05/30

 

 KIT阻害薬イマチニブは、重症喘息患者の気道過敏性を抑制し、マスト細胞数とトリプターゼ放出を減少させることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のKatherine N. Cahill氏らの検討で明らかとなった。これらの知見は、重症喘息の病態生物学的な基盤には、KIT依存性の過程とマスト細胞の寄与があることを示唆するという。研究の成果は、NEJM誌2017年5月18日号に掲載された。マスト細胞は、ステロイド治療を行っても重症喘息患者の気道に残存し、不良なQOLや不十分な喘息コントロールなどの疾患特性に関連する。幹細胞因子とその受容体KITは、組織での正常なマスト細胞の発育や生存に不可欠であり、イマチニブはKITのチロシンキナーゼ活性を阻害することで、慢性骨髄性白血病患者の骨髄中のマスト細胞数を著明に減少させ、血清トリプターゼ値を低下させることが知られている。

原理を検証するプラセボ対照無作為化試験
 研究グループは、イマチニブが重症喘息の生理学的マーカーである気道過敏性や、気道のマスト細胞数とその活性化に及ぼす影響の評価を目的とする原理検証(proof-of-principle)試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。

 対象は、年齢18~65歳、最大限の薬物療法を行っても、気道過敏性が認められるコントロール不良の重症・難治性喘息患者であった。これらの患者が、二重盲検下に、イマチニブを投与する群(200mg/日を2週間投与し、その後は400mg/日に増量)またはプラセボ群にランダムに割り付けられ、24週の治療が行われた。割り付け前と24週時に気管支鏡検査を実施した。

 主要評価項目は、気道過敏性のベースラインから3ヵ月および6ヵ月までの変化(1秒量の20%低下に要するメサコリン濃度[PC20]で評価)とした。

 試験期間は2010年11月~2015年7月であった。米国の7施設で62例が登録され、イマチニブ群に32例(平均年齢42.0歳、女性59%)、プラセボ群には30例(37.7歳、60%)が割り付けられ、それぞれ24例、26例が治療を完遂した。

マスト細胞標的治療の臨床試験の土台となるデータ
 イマチニブ群は、プラセボ群に比べ気道過敏性が著明に低下した。3ヵ月時のメサコリンPC20は、イマチニブ倍量群がベースラインよりも平均値(±SD)で1.20±0.52(p=0.03)増加し、6ヵ月時には1.73±0.60(p=0.008)増加しており、いずれも有意な変化が認められたのに対し、プラセボ倍量群では3ヵ月時に0.03±0.42(p=0.94)、6ヵ月時には1.07±0.60(p=0.08)の増加にとどまり、試験期間を通じて両群間に有意な差が認められた(p=0.048)。

 マスト細胞活性化のマーカーである血清トリプターゼ値も、イマチニブ群はプラセボに比し顕著に低下した。ベースラインの平均血清トリプターゼ値は、イマチニブ群が4.75±2.59ng/mL、プラセボ群は4.86±2.13ng/mLであり、6ヵ月時にはイマチニブ群が2.02±2.32ng/mL(42.7±31.6%)低下し、プラセボ群は0.56±1.39ng/mL(11.5±31.0%)の低下であった(p=0.02)。

 気道のマスト細胞数は両群とも減少しており、有意な差はみられなかった(気道全体:-54.2±96.5 vs.-32.3±79.8/mm2、p=0.11、気道平滑筋:-102.7±167.9 vs.-79.2±157.3/mm2、p=0.07)。

 全有害事象および重度有害事象の頻度は、両群に差はなかった。筋痙攣と低リン酸血症が、プラセボ群よりもイマチニブ群で多くみられた。イマチニブ群では2例が有害事象により試験を中止した(好中球減少と足の筋攣縮が1例ずつ)。

 著者は、「これらのデータは、臨床的方向性を示すものではないが、重症喘息患者におけるマスト細胞を標的とするフォローアップ試験の土台となるものである」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)