ストレスによる心血管疾患発症のメカニズムとは/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2017/01/23

 

 扁桃体の活性化が心血管疾患の発症と関連し、活性化の増大は心血管疾患イベントの予測因子となる可能性があることが、米国・マサチューセッツ総合病院のAhmed Tawakol氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2017年1月11日号に掲載された。慢性的なストレスは心血管疾患の増加と関連し、その寄与リスクは他の主要な心血管リスク因子に匹敵するとされるが、ストレスが心血管イベントに転換するメカニズムはよくわかっていない。認知や情緒のような複雑な機能に関与する脳のネットワークが活性化すると、恐怖やストレスと典型的に関連するホルモン、自律神経系、行動の変容が引き起こされるが、扁桃体はこのネットワークの主要な構成要素と考えられている。

2つの相補的な研究で関連を評価
 研究グループは、扁桃体の活性化と心血管疾患イベントの関連を評価するために、2つの相補的な検討(縦断的研究と横断的研究)を行った。

 2005年1月1日~2008年12月31日に、マサチューセッツ総合病院で18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)-PET/CT検査を受けた、心血管疾患や活動性のがん病変のない30歳以上の集団を対象に、縦断的な検討を行った。この研究では、安静時の扁桃体代謝活性、骨髄活性、動脈硬化性の炎症、心血管疾患イベントの関連を評価した。

 また、別の横断的な研究では、知覚されたストレス、扁桃体活性、動脈の炎症、C反応性蛋白の関連を解析した。

 画像解析および心血管イベントの判定は、相互に盲検化された研究者が行った。Coxモデル、log-rank検定、媒介分析(扁桃体の活性化が、メディエータ[骨髄活性、動脈炎]を介して心血管疾患の発症に影響を及ぼすかを解析)を使用して、扁桃体の活性化と心血管疾患イベントの関連を評価した。

ストレスが心血管疾患の予防治療の対象となる可能性も
 縦断的研究には293例(年齢中央値55歳[IQR:45.0~65.5]、男性42%)が含まれ、このうちフォローアップ期間中央値3.7年の間に22例(39件のイベント)が心血管疾患を発症した。

 扁桃体の活性化は、骨髄活性の増大(r=0.47、p<0.0001)、動脈の炎症(r=0.49、p<0.0001)、心血管疾患イベントのリスク(標準化ハザード比[HR]:1.59、95%信頼区[CI]:1.27~1.98、p<0.0001)と関連し、多変量で補正した後も有意な関連が維持されていた。

 また、扁桃体の活性化は、ベースラインの前臨床的なアテローム性動脈硬化のエビデンスや冠動脈硬化リスク因子の高負荷の有無、がんの既往歴の有無にかかわらず、心血管疾患との関連が認められた。さらに、安静時扁桃体活性が高い集団は、活性が低い集団よりも心血管イベントが早期に発症する可能性が示唆された。

 扁桃体の活性化と心血管疾患イベントの関連には、骨髄活性の増大や動脈の炎症が介在する可能性も示唆された。すなわち、扁桃体の活性化が増大すると骨髄活性が増大し、これが動脈の炎症を促進して心血管イベントを導く経路の存在が考えられた。

 一方、心理測定分析を受けた13例の横断的研究では、扁桃体の活性化は動脈の炎症と有意な関連を示した(r=0.70、p=0.0083)。また、知覚されたストレスは、扁桃体の活性化(r=0.56、p=0.0485)、動脈の炎症(r=0.59、p=0.0345)、C反応性蛋白(r=0.83、p=0.0210)との関連が認められた。さらに、知覚されたストレスと動脈炎の関連の大部分に、扁桃体の活性化が介在することが示された(p<0.05)。

 著者は、「これらの知見は、情緒的ストレッサーが心血管疾患を誘導するメカニズムの考察に、新たな見識をもたらすもの」とし、「今後、慢性的なストレスは、心血管疾患の重要なリスク因子としてルーチンに検査され、治療の対象となる可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 有馬 久富( ありま ひさとみ ) 氏

福岡大学医学部 衛生・公衆衛生学 教授

J-CLEAR会員