テストステロン療法によるVTE、6ヵ月以内が高リスク/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2016/12/16

 

 テストステロン療法は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク増加と関連しており、投与開始6ヵ月以内が高く(ピークは3ヵ月)、その後は漸減することが、ドイツ・Statistics and Informatics GmbHのCarlos Martinez氏らによる症例対照研究の結果、明らかとなった。この関連は、既知のVTEリスク因子を有していない症例で最も高かった。男性へのテストステロン療法は、主に性機能障害や活力減退に対する治療として2010年以降に増えている。テストステロン療法とVTEリスクとの関連性は、これまで一貫した結果が得られていなかったが、VTEリスクへのテストステロン療法の時間的影響は調査されていなかった。著者は、「先行研究では、テストステロン療法のタイミングと継続期間を見落としていたため、テストステロン療法と心血管イベントとの関連が見いだされなかった」とまとめている。BMJ誌2016年11月30日号掲載の報告。

VTE患者約2万例、対照約91万例のデータを解析
 研究グループは、英国プライマリケアのデータベースである臨床診療研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink:CPRD)を用い、2001年1月~2013年5月の間に、VTE(深部静脈血栓症と肺塞栓症)と確定診断された患者1万9,215例、ならびにVTE患者と年齢・VTEリスク・既往歴等をマッチさせた対照90万9,530例を特定した。

 それぞれテストステロン療法に関して、VTE発症日前2年間投与されていない未治療群、発症日が投与中であった治療群(投与開始後6ヵ月以内、6ヵ月超)、発症日前2年以内に投与歴のある既治療群の3群に層別し、テストステロン療法とVTE発症との関連について条件付きロジスティック回帰分析にて、併存疾患とマッチング因子を補正したVTE罹患率比を算出した。

VTEリスクはテストステロン開始後6ヵ月以内で1.6倍
 1,210万人年の追跡において、VTE罹患率は15.8/万人年(95%信頼区間[CI]:15.6~16.0)であった。

 未治療群に対する治療群の補正後VTE罹患率比は、治療群全体では1.25(95%CI:0.94~1.66)であったが、テストステロン投与開始後6ヵ月以内の症例群では1.63(1.12~2.37)であり、テストステロン療法によるVTEリスクの増加が認められた。これは、VTE罹患率にするとベース罹患率より10.0/万人年(95%CI:1.9~21.6)増加に相当する。一方、投与開始後6ヵ月超の症例群の補正後VTE罹患率比は1.00(95%CI:0.68~1.47)、既治療群は0.68(95%CI:0.43~1.07)であった。

 補正後VTE罹患率比の時間的推移(時間関数)を検討したところ、テストステロン投与開始後急速に増加し、約3ヵ月でピークに達した後、漸減して約2年でベースラインに復した。

 テストステロン投与開始後6ヵ月以内の補正後VTE罹患率比の増加は、コホート全体のみならず、病理学的に診断された原発性または続発性性腺機能低下症の有無、あるいはVTEリスク因子の有無にかかわらず認められた。具体的な同比は、性腺機能低下症あり群1.52(95%CI:0.94~2.46)、性腺機能低下症なし群1.88(95%CI:1.02~3.45)、VTEリスク因子あり群1.41(95%CI:0.82~2.41)、VTEリスク因子なし群1.91(95%CI:1.13~3.23)であった。

(医学ライター 吉尾 幸恵)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事