腹部大動脈瘤、手術の閾値の差が死亡率の差に関連するのか/NEJM

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2016/12/05

 

 イングランドでは、未破裂腹部大動脈瘤の手術施行率が米国の約半分で、大動脈瘤径が米国より5mm以上大きくなってから手術が行われ、瘤破裂率は2倍以上、瘤関連死亡率は3倍以上であることが、英国・ロンドン大学セントジョージ校のAlan Karthikesalingam氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2016年11月24日号に掲載された。欧州血管外科学会議(ESVS)のガイドラインは、動脈瘤径が男性で55mm、女性では50mmを超えたら介入を考慮すべきとしているが、介入の至適な閾値が不確実であるため、実臨床ではかなりのばらつきがみられ、55mm未満での手術施行率は国によって6.4~29.0%の幅があるという。

手術閾値の差が、死亡率の乖離をもたらすかを検証
 研究グループは、イングランドと米国で、未破裂腹部動脈瘤への手術の施行状況や手術時の大動脈瘤径を比較し、両国の手術の閾値の差が大動脈瘤関連死亡率の乖離と関連するかを検討した(英国Circulation Foundationなどの助成による)。

 イングランドの病院エピソード統計(Hospital Episode Statistics)のデータベースおよび米国の全国入院患者情報(Nationwide Inpatient Sample)から、2005~12年の未破裂腹部大動脈瘤への手術の頻度、手術を受けた患者の院内死亡率、動脈瘤破裂率のデータを抽出した。

 また、英国の全国血管登録(National Vascular Registry)(2014年のデータ)および米国の全国外科手術質改善プログラム(National Surgical Quality Improvement Program)(2013年のデータ)から、手術時の動脈瘤径のデータを抽出した。

 米国の疾病管理予防センター(CDC)および英国の国家統計局(Office of National Statistics)から得たデータを用いて、2005~12年の動脈瘤関連死亡率を決定した。データは、直接標準化法または条件付きロジスティック回帰を用いて、両国間の年齢および性別の差を補正した。

 2005~12年に、イングランドで2万9,300例が、米国では27万8,921例が、未破裂腹部大動脈瘤の手術を受けた。

米国の手術閾値を適用すればイングランドのアウトカムが改善する?
 10万人当たりの年間動脈瘤手術施行率は、イングランドでは2005年の27.11件から2012年には31.85件に、米国では57.85件から64.17件に増加した。補正後の動脈瘤手術施行率は、イングランドが米国よりも低かった(オッズ比[OR]:0.49、95%信頼区間[CI]0.48~0.49、p<0.001)。

 全体のステントグラフト内挿術の施行率は、イングランドのほうが低かった(45.5 vs.67.0%、p<0.001)。イングランドのステントグラフト内挿術の施行率は経時的に上昇したが、2012年時の施行率は米国に比べ低かった(67.2 vs.75.4%、p<0.001)。

 手術施行例の全体の補正後院内死亡率は、両国間に差はなかった(OR:1.04、95%CI:0.96~1.12、p=0.40)。動脈瘤関連死亡率は、イングランドが米国よりも高かった(OR:3.60、95%CI:3.55~3.64、p<0.001)。

 3年生存率はイングランドが78.5%、米国は79.5%で、このうちステントグラフト内挿術はそれぞれ76.6%、79.8%、外科的人工血管置換術は78.1%、79.1%だった。補正後の3年生存率は、両群間に差はなかった(死亡のハザード比[HR]:0.97、95%CI:0.92~1.02、p=0.17)。

 10万人当たりの動脈瘤破裂による入院率は、イングランドでは2005年の21.34件から2012年には16.30件に、米国では10.10件から7.29件に減少した。補正後の動脈瘤破裂による入院率は、イングランドが米国よりも高かった(OR:2.23、95%CI:2.19~2.27、p<0.001)。

 年齢と性別で重み付けした手術時の加重平均動脈瘤径は、イングランドのほうが大きかった(63.7 vs.58.3mm、p<0.001)。年齢、性別、手術法(ステントグラフト内挿術、外科的人工血管置換術)で補正しても、この有意な乖離は保持されており、手術時の瘤径はイングランドのほうが5.3±0.3mm大きかった(p<0.001)。

 著者は、「手術施行率と動脈瘤関連死亡率は、両国とも別個のデータセットに基づいており、これらの因果関係は示せないが、時期は同じであるためその可能性が示唆され、米国の手術閾値をイングランドに適用すればイングランドのアウトカムが改善するかという疑問が浮上する」としている。

(医学ライター 菅野 守)