がん患者の損傷リスクは診断の全過程で予防対策を/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2016/09/20

 

 がん患者では、医原性損傷(iatrogenic injuries)および非医原性損傷(non-iatrogenic injuries)のリスクが、診断後だけでなく、診断前から上昇しており、診断の全過程を通じて予防対策を講じる必要があることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のQing Shen氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌オンライン版2016年8月31日号に掲載された。大腸がん、前立腺がん、乳がんの患者では、医原性損傷による死亡の増加を認め、がん患者における非医原性損傷のリスク上昇も知られている。これまでに、がんの診断後や治療後の損傷のリスクは検討されているが、診断前のリスクの評価は行われておらず、本試験はがんの診断的検査による医学的合併症の疾病負担を総合的に検討した初めての研究だという。

診断期と前診断期の医原性・非医原性損傷の発生率を比較
 研究グループは、がん診断の前後の期間における医原性・非医原性損傷の相対リスクの検討を行った(スウェーデンがん学会などの助成による)。

 1991~2009年に、スウェーデンで新規にがんの診断を受けた72万901例のデータを解析した。剖検でがんと診断された症例は除外した。診断時の年齢中央値は69歳で、男性が51.7%であった。

 医原性損傷は、医学的処置や薬物療法による合併症とし、非医原性損傷は、医学的介入や患者の健康追求行動に起因しない損傷とした。これらの分類は、退院時診断および損傷の外因に基づいて行った。

 スウェーデンの患者登録から、1990~2010年に主要な退院時診断が医原性または非医原性の損傷であったがんの入院患者を同定した。

 条件付きポアソン回帰モデルを用いて、診断期(診断の16週前~16週後)の損傷の発生率を、同じ患者の前診断期(診断の1年前の同様の32週)の損傷の発生率と比較した。

非医原性損傷のリスクのピークは、診断の2週前に
 診断期には、医原性損傷が7,306件(0.60/1,000人月)、非医原性損傷は8,331件(0.69/1,000人月)発生した。

 すべてのがんの、診断期の前診断期に対する医原性損傷の発生率比(IRR)は7.0(95%信頼区間[CI]:6.6~7.4)であった。医原性損傷のリスク上昇は、がん診断の2週前に始まり、診断後2週目にピークに達していた(IRR:48.6、95%CI:37.3~63.5)。

 すべてのがんの、診断期の前診断期に対する非医原性損傷のIRRは1.9(95%CI:1.8~2.0)であった。非医原性損傷のリスク上昇は、がん診断の4週前に始まり、診断の2週前にピークに達した(IRR:5.3、95%CI:4.6~6.1)。

 診断期の医原性および非医原性損傷の双方のリスク上昇は、一般的ながん(前立腺、乳房、大腸、肺、リンパ節/造血器、中枢神経系など)のすべてで認められ、リスク上昇が最も小さかったのは、非メラノーマ性皮膚がんであった。

 非医原性損傷のうち、非意図的損傷(unintentional injuries)のリスクの上昇は診断の前と後で同じであったのに対し、意図的損傷(intentional injuries)のリスク上昇は診断後のほうが顕著であり、それぞれ異なるメカニズムを基盤とする可能性が示唆された。

 著者は、「がん患者は、診断前後の短い期間に、入院治療を要する医原性または非医原性損傷のリスクが高度に増大していた」とまとめ、「意図的および非意図的損傷の予防対策は、がんの診断後だけでなく、診断過程と初回治療の過程を通じて求められることが示唆される」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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