長時間労働は、冠動脈心疾患よりも脳卒中のリスクを高める/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2015/08/31

 

 長時間労働を行う労働者は、標準時間労働の場合よりも脳卒中のリスクが高く、冠動脈心疾患のリスクは脳卒中に比べると低いことが、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMika Kivimaki氏らIPD-Work Consortiumの検討で示された。長時間労働は心血管疾患や冠動脈心疾患のリスクを増大させることが、日本の調査を含むいくつかの研究で示され、標準時間労働と比較した相対リスク(RR)は約1.4倍に上昇することが知られている。一方、これらの研究の問題点として以下の点が挙げられるという。(1)出版バイアス(結果が肯定的な研究は、否定的な研究に比べ公表される可能性が高い)、(2)逆因果関係(進行性の器質的心血管疾患があるために、イベント発生前の期間の労働時間が短くなった)、(3)交絡関係(長時間労働は社会経済的地位が高い職種で多いが、心血管疾患は地位が低い職種のほうが高頻度)、(4)重要な心血管エンドポイントである脳卒中のリスクを検討した試験がほとんどない。Lancet誌オンライン版2015年8月19日号掲載の報告より。

25件の前向きコホート試験のメタ解析
 研究グループは、冠動脈心疾患および脳卒中のリスク因子としての長時間労働の影響を評価するために、前向きコホート試験の文献を系統的にレビューし、メタ解析を行った(英国Medical Research Councilなどの助成による)。

 2014年8月20日までにPubMedおよびEmbaseに登録された文献を検索した。また、Individual-Participant-Data Meta-analysis in Working Populations(IPD-Work)Consortiumと、オープンアクセスのデータアーカイブから20件のコホート研究に関する未発表のデータを収集した。

 長時間労働の定義は、試験によって45時間以上から55時間以上/週とさまざまであった。本研究では標準時間労働を35~40時間/週とした。逆因果関係によるバイアスを回避するためにフォローアップ期間の最初の3年間に発生したイベントは除外した。また、社会経済的地位に関する層別解析を行った。ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行い、既報と未発表データを統合した。

 欧州、米国、オーストラリアの24コホートに関する25件の試験が解析の対象となった。冠動脈心疾患のメタ解析はベースライン時に冠動脈心疾患のない60万3,838例で、脳卒中のメタ解析はベースライン時に脳卒中のない52万8,908例で行われた。

 フォローアップ期間は、冠動脈心疾患が510万人年(平均8.5年、イベント発生数4,768件)、脳卒中は380万人年(平均7.2年、イベント発生数1,722件)であった。

冠動脈心疾患リスクが13%、脳卒中リスクは33%上昇
 年齢、性別、社会経済的地位で補正後の冠動脈心疾患のリスクは、標準時間労働に比べ長時間労働(55時間以上/週)で有意に増大し(RR:1.13、95%信頼区間[CI]:1.02~1.26、p=0.02)、脳卒中のリスクはさらに上昇していた(RR:1.33、95%CI:1.11~1.61、p=0.002)。

 この脳卒中の過度のリスクは、逆因果関係、他のリスク因子の多変量補正、脳卒中の確定法(診療記録、患者の自己申告)の違いを考慮した解析を行っても変化しなかった(RRの範囲:1.30~1.42)。

 また、長時間労働と冠動脈心疾患のリスクには線形の傾向は認めなかったが、脳卒中のリスクとの間には用量反応関係が認められ、労働時間が長くなるほどリスクが大きくなった。すなわち、脳卒中のRRは、標準時間の労働に比べ、41~48時間/週の労働では1.10(95%CI:0.94~1.28、p=0.24)と10%上昇したものの有意な差はなかったが、49~54時間/週では1.27(1.03~1.56、p=0.03)と27%有意に上昇し、55時間以上/週では1.33(95%CI:1.11~1.61、p=0.002)と33%有意に増大した(傾向検定:p<0.0001)。労働時間カテゴリーの1つの上昇ごと(労働時間が長くなる)の相対リスクは1.11(95%CI:1.05~1.17)であった。

 質の高い試験に限定した解析では、社会経済的地位が高い職種ほど長時間労働による冠動脈心疾患のリスクが有意に低かった(地位が低い職種:RR 2.18、p=0.006、中等度の職種:RR 1.22、p=0.40、高い職種:RR 0.87、p=0.56、群間差検定:p=0.001)。

 本解析では、試験間の異質性、逆因果関係バイアス、交絡関係は認めず、性別や地域別のばらつきはみられず、脳卒中の確定法の違いの影響もなかったことから、これらの知見は頑健性が高いと考えられる。

 著者は、「長時間労働によるリスク上昇は、脳卒中のほうが冠動脈心疾患よりも大きかった」とし、「これらの知見は、長時間労働を行う者では、血管のリスク因子の管理にいっそう注意を払うべきであることを示すもの」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 桑島 巖( くわじま いわお ) 氏

J-CLEAR理事長

東都クリニック 高血圧専門外来