ネットワークメタ解析は最良治療決定の根拠となるのか?/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2013/07/15

 

 これまでに発表されたネットワークメタ解析論文の多くでは、系統的レビューに必須とされる方法論関連事項の記述に不足があり、最良の治療法の決定の論拠とするには疑問があることが、フランス・国立保健医学研究所(INSERM)のAida Bafeta氏らの検討で示された。この数年で医療介入の比較研究へのネットワークメタ解析(multiple treatmentsメタ解析、mixed treatment comparisonメタ解析とも呼ばれる)の導入が進んでいる。このメタ解析法では、系統的レビューを行う際の方法論に関する規定を遵守すべきとされるが、解析の方法が複雑なことから、同等の方法論関連リスクを負う標準的なpairwise法による系統的レビューに比べ、これらのリスクの影響をより受けやすい可能性があるという。BMJ誌オンライン版2013年7月1日号掲載の報告。

ネットワークメタ解析における系統的レビューの方法論を系統的にレビュー
 研究グループは、ネットワークメタ解析における系統的レビューの実施および報告の方法に関する推奨事項の遵守状況を評価するために系統的なレビューを行った。

 Cochrane Database of Systematic Reviewsを含む主要な医学文献データベースを検索し、2012年7月12日までに発表された、3つ以上の介入の臨床効果を無作為化対照試験で比較したネットワークメタ解析の論文を選出した。間接比較を含む調整済みのメタ解析は除外した。

 系統的レビューにおける一般的特性および主たる方法論関連事項の記載状況を評価し、報告の方法が適切と判定された場合にはその実施方法の質についても検討を行った。

 一般的特性には掲載誌名、発表年、著者の国籍、専門領域、資金源、介入のタイプなどが含まれ、方法論関連事項としては「はじめに(introduction)」「方法(methods)」に関する8項目、「結果(results)」に関する4項目、「考察(discussion)」に関する3項目の記述の有無を調査した。

高IFの学術誌掲載のネットワークメタ解析論文も例外でない
 広範な専門領域を網羅した121編のネットワークメタ解析論文が解析の対象となった。

 掲載誌は75誌で、55編(45%)が非専門誌に、66編(55%)は専門誌に掲載された。インパクト・ファクターの高い学術誌に掲載されたのは56編(46%)で、薬物療法による介入を評価した論文は100編(83%)であった。1論文当たりの介入数の中央値は7、対象とされた無作為化対照試験数の中央値は22だった。

 88編(73%)のネットワークメタ解析論文が、個々のデータベースの検索方法を記載しておらず、36編(30%)では主要評価項目が明確でなかった。全体として、61編(50%)が個々の試験のバイアスのリスク評価にまったく触れておらず、103編(85%)には出版バイアスの評価法に関する記述がなかった。

 87編(72%)が、報告または実施の方法が不適切と判定され(文献検索の報告がない、単一のデータベースを検索しただけで他の情報源に当たっていない、個々の試験のバイアスのリスク評価の記述がない、のいずれかに該当)、この評価には掲載誌のタイプ(非専門誌、専門誌)や資金源(公的、民間)の違いで差はなかった。

 Cochrane intervention reviews(version 5.1.0)の方法論に関する評価項目に基づく検討では、実に120編(99%)のネットワークメタ解析論文が報告または実施の方法が不適切とされ、掲載誌タイプ、資金源による差は認めなかった。

 著者は、「ネットワークメタ解析の多くは、系統的レビューに必須の方法論関連事項の記述に不足があり、インパクト・ファクターが高い学術誌に掲載された論文も例外ではない」と結論し、「文献の検索が網羅的でなく、バイアスの評価が行われていないネットワークメタ解析論文の結論の信頼性には疑問がある。解析の実施や報告の方法の質の改善を目的とするガイドラインの策定が必要」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

専門家はこう見る

コメンテーター : 折笠 秀樹( おりがさ ひでき ) 氏

統計数理研究所 大学統計教員育成センター 特任教授

滋賀大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授

J-CLEAR評議員