クロピドグレル治療にCYP2C19遺伝子多型は影響するのか?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/11/10

 

 アスピリンにクロピドグレル(商品名:プラビックス)追加投与は、急性冠症候群や心房細動患者における主要な血管性イベントの発生率を減少させるが、最近の報告で、CYP2C19遺伝子多型で機能喪失型を有する患者では、クロピドグレルの抗血小板作用が減弱する可能性が示唆され、FDAから低代謝群について黒枠警告するよう指示がされ、これら患者では高用量投与または他の抗血小板薬を使用することが提案されている。一方で、機能獲得型(*17)を有する患者では血小板反応が増し出血リスクが増大することが明らかになっている。そこでカナダMcMaster大学のGuillaume Pare氏らは、クロピドグレル治療へのCYP2C19遺伝子多型の影響をプラセボ対照試験の結果から検証した。NEJM誌2010年10月28日号(オンライン版2010年8月29日号)掲載より。

3タイプのCYP2C19遺伝子多型の影響を検証
Pare氏らは、急性冠症候群または心房細動患者が参加し、プラセボとの比較でクロピドグレルが、有効性の主要転帰とした心血管イベント発生率を減少させた二つの大規模無作為化試験から、被験者の遺伝子多型を規定し検証を行った。

規定されたのは、主要なCYP2C19遺伝子多型である三つの一塩基多型(*2、*3、*17)だった。

急性冠症候群ではCYP2C19遺伝子多型によらずクロピドグレルの効果は一貫
結果、急性冠症候群患者でCYP2C19遺伝子多型が規定された5,059例において、一塩基多型のタイプにかかわらず、心血管イベント発生率は、プラセボ群と比較しクロピドグレル群での有意な減少が認められた(不均一性のP=0.12)。

心血管イベント発生率を減少させたクロピドグレルの効果は、機能喪失型(ヘテロ接合体あるいはホモ接合体)を有する患者と、有さない患者とで同等だった。保有患者の心血管イベント発生率は、クロピドグレル群8.0%、プラセボ群11.6%で、クロピドグレル群のハザード比は0.69(95%信頼区間:0.49~0.98)。非保有患者も、同9.5%、13.0%、ハザード比0.72(0.59~0.87)であった。

対照的に、機能獲得型を有する患者と有さない患者とでは、保有患者の方がプラセボと比較した場合のクロピドグレルの有益性はより大きいことが示された。保有患者における心血管イベント発生率は、クロピドグレル群7.7%、プラセボ群13.0%、ハザード比0.55(0.42~0.73)であり、非保有患者では、同10.0%、12.2%、ハザード比0.85(0.68~1.05)であった(交互作用のP=0.02)。

出血リスクへのクロピドグレルの影響は、遺伝子型のサブグループ間で差異はなかった。

一方、心房細動患者でCYP2C19遺伝子多型が規定された1,156例については、急性冠症候群と同様のクロピドグレルの一貫した効果がみられたが、エビデンスを得るには至らなかった。

Pare氏は「急性冠症候群または心房細動患者において、CYP2C19遺伝子多型の機能喪失型を保有する患者で有効性、安全性が限定されることはない」と結論。急性冠症候群患者において、機能喪失型を保有していてもクロピドグレルの使用を排除すべきではないと述べた。なお、心房細動患者においてはルールアウトを決定するためにはより大規模な試験が必要だとも提言している。

(武藤まき:医療ライター)